企業会計基準委員会は、会計上の見積もりを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方を2021年2月10日に更新し、該当する議事概要を公表しました。
Ⅰ 公表の経緯
2020年4月に第429回企業会計基準委員会の議事概要を公表してから約10か月経過していますが、現状においても、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を予測することが困難である状況に変化はありません。
会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況であることに変わりはありません。
これまでに公表した議事概要の考え方の周知を引き続き行っています。
また、現状における論点を審議し、これまでに公表した議事概要を更新する形で第451回企業会計基準委員会(2021年2月9日開催)の議事概要が公表されました。
Ⅱ 第429回企業会計基準委員会議事概要
企業会計基準委員会(以下、当委員会)は、2020年4月10日に第429回企業会計基準委員会の議事概要として、「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表しています。
1.状況
(1)会計上の見積りの定義
財務諸表を作成する上では、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な会計上の見積りを行うことが必要となります。
会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義しています。
(2)コロナ禍の影響
新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況となっているものと考えられます。
2.留意点
このような状況において、会計上の見積りを行う上では、以下の点に留意する必要があります。
(1) 一定の仮定
「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられます。
(2) 外部情報源の入手が困難な場合
一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望まれます。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる前例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられます。
この場合、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになります。
(3) 「誤謬」との関係
企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられます。
(4) 追加情報としての開示
最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられます。
このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられます。
Ⅲ 第432回企業会計基準委員会議事概要
当委員会は、2020年5月11日に第432回企業会計基準委員会の議事概要として、第429回企業会計基準委員会の議事概要に以下を追加しています。
上記の(4)の「重要性がある場合」については、当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれます。
Ⅳ 第436回企業会計基準委員会議事概要
第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した上記の考え方について四半期決算における考え方を明らかにして欲しいとの意見が聞かれたため、2020年6月26日に第436回企業会計基準委員会の議事概要において、以下を確認しています。
(1) 前年度の財務諸表で追加情報の開示を行っていて、四半期決算で重要な家庭の変更を行った場合
前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載する必要があるものと考えられます。
(2) 前年度の財務諸表で追加情報を開示していないが、四半期決算で仮定を開示している場合
前年度の財務諸表において仮定を開示していないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載する必要があるものと考えられます。
(3) 前年度の財務諸表で追加情報を開示し、四半期決算で仮定に重要な変更を行っていない場合
前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行っていないときも、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望まれます。
Ⅴ 第451回企業会計基準委員会議事概要(2021年2月10日更新)
1.企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を適用する前の取扱い
企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「企業会計基準第31号」という。)を適用する前の年度決算に関する取扱い及び四半期決算の取扱いについては、審議の上、第429回企業会計基準委員会の議事概要、第432回企業会計基準委員会の議事概要及び第436回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方が変わらないことを確認しています。
2.企業会計基準第31号を適用した後の取扱い
第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方について、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用が開始される企業会計基準第31号との関係を明らかにして欲しい等の意見が聞かれており、審議の上、以下を確認しています。
(1) 考え方の継続
第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、(1)(2)及び(3)については、企業会計基準第31号の適用後も、会計上の見積りを行う上で新型コロナウイルス感染症の影響を考えるにあたり変わりません。
(1):一定の仮定
(2):外部情報源の入手が困難な場合
(3):「誤謬」との関係
(2) 企業会計基準第31号における開示
企業会計基準第31号は、重要な会計上の見積りとして識別した項目について、当年度の財務諸表に計上した金額、及び会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を開示することとしています。
その他の情報には、例えば、当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法、当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定、及び翌年度の財務諸表に与える影響が含まれます。
(3) 企業会計基準第31号に基づく開示と重要性がある場合の追加情報としての開示の関係
したがって、第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、(4)において重要性がある場合に追加情報としての開示が求められる新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定については、企業会計基準第31号で求められる開示に含まれることが多いと想定されます。
前段に記載した他の開示と合わせ、新型コロナウイルス感染症の影響について、より充実した開示になることが想定されます。
なお、企業会計基準第31号に基づく開示において、第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した開示がなされる場合、改めて追加情報として開示する必要はないものと考えられます。
(4) 企業会計基準第31号に基づく開示以外の追加情報としての開示
新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断について開示することが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断し、追加情報として開示しているケースが見られます。
企業会計基準第31号に基づく開示は、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について求められるものであるため、このような開示は、企業会計基準第31号により求められる開示には含まれませんが、引き続き、追加情報を開示する趣旨に沿ったものになると考えられます。