株主が取締役を訴えた時に監査役がすべきこと | 社外財務部長 原 一浩
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株主が取締役を訴えた時に監査役がすべきこと~株主代表訴訟

株主が取締役を訴えた時に監査役がすべきこと~株主代表訴訟

株主代表訴訟における監査役の役割

株主代表訴訟とは、ある株主が全株主を代表する形で、会社に代わって取締役の責任追及を行う制度です。株主が、会社が被った(あるいは被ったであろう)損害に対して、不祥事に関係する取締役に対して損害賠償の支払いを求めて訴訟を提起する制度です。株主を代表するといっても、手続的に他の一般株主の同意を必要としているわけではありません。

監査役は株主代表訴訟制度においては、主体的に対応する必要があります。株主代表訴訟制度の規定と株主代表訴訟制度における監査役の役割を考えてみます。

 

株主代表訴訟制度の概要

  1. 取締役の会社に対する責任

取締役は会社と委任関係にある(会社法330条)ことから、会社に対して善管注意義務を負うことになります(民法644条)。

会社に対して善管注意義務を果たすべき取締役が法令・定款違反を犯したり、独断的に業務執行を進めたことにより会社に損害を及ぼした場合には、会社は、当該取締役に任務懈怠があったとして、会社が被った損害額の支払いを直接請求したり、降格・配置転換、報酬・退職慰労金のカットや不支給等により一定の責任を果たさせることが原則となります。
しかし、会社として当該取締役の責任追及を適切に行わない場合には、株主が会社に代わって取締役の責任追及を行う必要が生じます。会社の損害が放置されたままであると、最終的に株主が損害を被ることになるからです。

 

  1. 株主代表訴訟制度について

(1) 株主代表訴訟制度とは

株主が株主代表訴訟制度を利用して訴訟を提起する権利は、株主による会社経営を監督・是正する目的である共益権に分類されます。株主代表訴訟は、一株又は一単元株式を所有していれば訴訟提起が可能な単独株主権です。公開会社の場合は、株式を6カ月継続保有していれば、訴訟提起が可能です。

訴訟提起のための手数料は、一律13,000円と低額であり、株主の経済的負担が低くなっています。

さらに、勝訴した株主は、弁護士報酬のみならず、調査費用等として支出した費用相当額を会社に請求することが可能です。

 

(2) 株主代表訴訟の手続き

株主代表訴訟は、株主が裁判所に取締役の責任追及のための訴訟提起をする前に、会社に対して提訴請求が必要です。「会社に対して」とは監査役に対してです。会社法上、会社と取締役との間の訴えの提起の際には監査役が会社を代表し、株主からの提訴請求の受領も監査役と規定されています。

 

監査役は、株主からの提訴請求書面の受領日から60日以内に取締役の責任追及の訴えの提起をするか否かを調査します。

 

監査役が調査した結果、提訴請求対象取締役に法的責任があり、会社の損害と違法行為との間に相当の因果関係が存在すると判断すれば、監査役が会社を代表して、当該取締役の責任追及の訴えの提起を裁判所に対して行います。

 

監査役が取締役の責任追及をしないと判断したときに初めて、当該株主は裁判所に対して、取締役の責任追及の訴えを提起することができます。

 

株主代表訴訟における監査役の業務

監査役は、株主からの提訴請求に対して、60日間で調査し、結論を出さなければなりません。

法務部門や内部監査部門に調査を依頼することや、結論を求めることはできません。

監査役としての業務は以下の通りです。

 

  1. 提訴請求の段階

(1) 提訴請求受領から調査の開始まで

取締役への提訴請求書面は、①監査役に対する書面又は電磁的方法であること②被告となるべき者が明示されていること③請求の趣旨及び請求を特定するのに必要な事実が記載されていることが必要であり、これらを確認する必要があります。

 

提訴請求書を受領した監査役は、監査役間で情報を共有し、以下の項目を検討して調査体制や調査方針を決定します。

 

  1. 請求株主の属性(一般株主か特殊株主か)
  2. 提訴請求書に記載された事実(新たに判明した事実か既成事実か)
  3. 調査体制(監査役による社内調査か第三者委員会の設置か)
  4. 調査の方針(既存の資料等で充足可能か、詳細な調査が必要か)

 

(2) 調査の実施

調査に当たっては、株主が提訴請求書面で記載している内容について、事実関係の確認を行います。

  1. 会社の損害の発生事実の有無
  2. 取締役の法令・定款違反行為の有無
  3. 当該行為と損害との相当の因果関係の有無

 

取締役の法令・定款違反行為とされる場合には、具体的な違法行為の確認も重要となります。

また、個別・具体的な法令違反ではなく、投融資案件の失敗に対する善管注意義務違反であると株主が主張している場合には、経営判断原則の適用の有無も調査対象となってきます。

 

  1. 調査結果のまとめ及び訴訟提起の是非の判断

一連の調査を終えた段階で、調査の方法や結果を書面で作成します。

第三者委員会が調査した場合には、委員会としての意見書を受領します。

最終的には、提訴請求対象取締役を提訴するかどうかは、監査役(会)が決定しなければなりません。意見書はあくまで最終決定のための参考という位置付けです。
取締役に法的責任があるとの結論になれば、監査役が会社を代表して、訴訟代理人弁護士を起用して当該取締役を提訴する準備に取り掛かることになります。

他方、提訴をしないと判断したならば、不提訴理由通知書の作成を行います。

 

不提訴理由通知書の記載内容は、以下の通りです。

  1. 調査の内容(判断の基礎資料を含む)
  2. 取締役の責任・義務の有無の判断及びその理由
  3. 責任等があると判断したにもかかわらず、提訴しないときの理由

また、事件・事故に対して、当該取締役の責任があるとして社内で懲戒処分を行っている場合には、その内容の概要を記載することになります。

例えば、報酬のカットや不支給により、会社の損害額相当分につき補てんする処罰を行っていれば、すでに会社の損害は回復されていることになりますから、株主にとっては提訴する法的根拠が無くなっていることになります。

 

不提訴理由通知書は、監査役の調査期間終了後、遅滞なく当事者に通知することになっています。

不提訴理由通知書を受領した株主がその内容に納得すれば訴訟提起になりませんが、不提訴理由通知書の内容にかかわらず提訴に及ぶ事例が圧倒的に多いことから、不提訴理由通知書の記載は、その後の会社としての訴訟戦略上、大きな影響を及ぼすことになります。

 

詳細な不提訴理由通知書の記載は、原告株主に新たな情報を提供することを意味し、その後の裁判の審理において、取締役ひいては会社にとって不利となる可能性もあります。

従って、監査役は、不提訴に係る法的判断はもとより、記載の程度についても注意を払う必要があります。案件によっては、法律の専門家に見てもらうことも必要になります。

 

  1. 株主による提訴

監査役が不提訴理由通知書を通知した後、取締役の責任追及を行う株主は、会社に対してその旨の通知をしてきますので、会社からその他の株主に公告します。

裁判所の審理開始後は、会社が当該取締役の訴訟に補助参加をするのが一般的です。補助参加の際には、各監査役の同意が必要です。

 

まとめ

監査役は、取締役の職務執行の監査が職責ですので、株主代表訴訟の提起に至らないように、日常の監査業務を通じて、違法行為やそのおそれがあるときは、適宜・適切に指摘し、取締役(会)に報告することが大切です。

不祥事が公表される前に、執行部門が社内調査や第三者委員会設置による調査を行うときには、監査役もメンバーとして参画するなど、積極的な関わりを持つことが重要となります。

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