日本監査役協会が制定する監査役監査基準とコーポレート・ガバナンス・コードは、どのように関連しているのかを解説します。
1.日本監査役協会とは
公益社団法人日本監査役協会は、 昭和49年5月17日に法務大臣より許可を得て設立されました。
日本監査役協会は、「わが国の監査役制度の信頼性と有用性を広く内外に掲げ、監査役の使命を高揚し、良質なコーポレート・ガバナンスの確立をもって、豊かなグローバル社会の実現を目指す」を理念としています。
(1)目的
日本監査役協会は、監査役監査制度(監査委員会監査制度及び監査等委員会監査制度を含む。)の調査、研究、普及・啓発活動等を通じて、監査品質の向上を図り、企業の健全性の確保に努めるとともに、公正かつ自由な経済活動の機会の確保及び促進並びにその活性化による国民生活の安定向上に寄与し、日本経済の健全な発展に貢献することを目的としています。
(2)事業内容
日本監査役協会は、以下の事業を行っています。
①監査制度に関する政府及び関係機関等への提言、実務指針・報告書の編纂
②監査制度に関する調査・情報収集・分析、情報提供
③監査役等に求められる機能と権限が発揮されるよう専門知識の習得を図る機会等の提供
④監査制度・実務等に関する各種相談・助言
(3)日本監査役協会の取組み
日本監査役委協会は、以下の取組を行っています。
①監査役が自らの職責を十分に果たせるよう、その役割と機能を究明し、時代の要請に応えた活動指針の提示
②企業の社会的責任の遂行とコーポレート・ガバナンスの強化に寄与するため、監査役の啓発と研鑽の機会を提供
③監査役制度の有用性を高めるため、広く社会との対話を促進し、わが国のコーポレート・ガバナンスのあるべき姿を提言
2.監査役について
(1)監査役の理念
日本監査役協会は、監査役の理念として、「監査役はコーポレート・ガバナンスを担うものとして、公正不偏の姿勢を貫き、広く社会と企業の健全かつ持続的な発展に貢献する。」としています。
(2)監査役の行動指針
日本監査役協会は、監査役の行動指針として、以下を定めています。
①すべてのステークホルダーからの役割期待に応えるべく、継続的に研鑽に努め、独立自尊の精神を涵養し、信頼足り得る監査役を目指します。
②誠実さを旨とし、判断の根拠を広く社会に求めるとともに、現場に立脚した正しい情報に基づき、公正と信義を重んじた日々の監査役活動を遂行します。
③いかなる状況下にあっても、毅然とした態度で監査役の職務を全うし、説明責任を果たし、コーポレート・ガバナンスの強化に努めます。
3.監査役監査基準
日本監査役協会は、「監査役監査基準」を制定しています。構成は、以下のようになっています。
第1章 本基準の目的
第2章 監査役の職責と心構え
第3章 監査役及び監査役会
第4章 コーポレート・ガバナンス・コードを踏まえた対応
第5章 監査役監査の環境整備
第6章 業務監査
第7章 会計監査
第8章 監査の方法等
第9章 会社の支配に関する基本方針等及び第三者割当等
第10章 株主代表訴訟等への対応
第11章 監査の報告
4. コーポレート・ガバナンス・コードを踏まえた対応
(1)コーポレート・ガバナンス・コードの規定
コーポレート・ガバナンス・コードにおける、監査役に関する規定は以下のようになっています。
①【基本原則4】
上場会社の取締役会は、 株主に対する受託者責任 ・説明責任を踏まえ、 会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、 収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、 等しく適切に果たされるべきである。
②【原則4-4 監査役及び監査役会の役割・責務】
監査役及び監査役会は、 取締役の職務の執行の監査、 外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、 独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。
また、監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、 取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきである。
③補充原則4-4①
監査役会は、会社法により、その半数以上を社外監査役とすること及び常勤の監査役を置くことの双方が求められていることを踏まえ、その役割・責務を十分に果たすとの観点から、前者に由来する強固な独立性と、後者が保有する高度な情報収集力とを有機的に組み合わせて実効性を高めるべきである。
また、監査役または監査役会は、社外取締役が、その独立性に影響を受けることなく情報収集力の強化を図ることができるよう、社外取締役との連携を確保すべきである。
(2)監査役監査基準における「コーポレート・ガバナンス・コードを踏まえた対応」
監査役監査基準第13条において、以下の記載があります。
1.コーポレート・ガバナンス・コードの適用を受ける会社の監査役は、コーポレート・」ガバナンス・コードの趣旨を十分に理解したうえで、自らの職務の遂行に当たるものとする。
2.監査役及び監査役会は、 取締役会が担う以下の監督機能が会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、かつ、収益力 ・資本効率等の改善を図るべく適切に発揮されているのかを監視するとともに、 自らの職責の範囲内でこれらの監督機能の一部を担うものとする。
- 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
- 代表取締役その他の業務執行取締役による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
- 独立した客観的な立場から、 代表取締役その他の取締役等に対する実効性の高い監督を行うこと
3.監査役が指名・報酬などに係る任意の諮問委員会等に参加する場合には、会社に対して負っている善管注意義務を前提に、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために適正に判断を行う。
また、補足説明では、以下のように述べられています。
【第2項補足】
監査役及び監査役会は、取締役会と協働して会社の広義の監督機能の一翼を担う機関であるが、当該監督機能の例として、GC基本原則4に3つの役割・責務が提示されており、 当該役割・責務の一部は監査役・監査役会も担うことになる。
これら広義の監督機能に対する監査役の関与のあり方としては、取締役会がこれらの監督職務を適切に果たしているのかを監査することのほか、例えば、適切なリスクテイクの礎となる内部統制システムのあり方について構築の段階から積極的に意見を表明することが挙げられる。
また、各社の置かれている環境によっては、 リスク管理の観点や経営判断の合理性の観点等から、 個別案件だけではなく、中期経営計画策定に係る議論においても積極的に発言することも考えられる。
なお、 監査役が行うべき対応は、 監査役の職責を踏まえて行われることになる。