「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」の公表 | 社外財務部長 原 一浩
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「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」の公表

「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」の公表

2021年4月6日に、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」より「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」が公表されました。

 

1.改訂の趣旨

 

企業がより高度なガバナンスを発揮する後押しをするために、 2020年12月に「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」(「スチュワードシップ・コード及びコーポレー卜ガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5))(以下、「意見書(5)」といいます。)が公表されました。

 

その後も、フォローアップ会議において、サステナビリティやグループガバナンス、監査に対する信頼性の確保をはじめとする項目についても議論・検討を重ねてきました。

今回、これらの項目について、意見書(5)の内容に加えて、コンプライ・オア・エクスプレインの枠組みの下で、コーポレートガバナンス・コード(以下、「本コード」という。)の改訂が提言されました。

 

また、企業と機関投資家の建設的な対話を一層実効的なものとするため、本コードの改訂に併せ、「投資家と企業の対話ガイドライン」(以下、「対話ガイドライン」 という。)の改訂も提言されました(以下、本コードの具体的な改訂案と併せて「本改訂案」といいます)。

 

2.改訂の考え方

 

本改訂案は、取締役会の機能発揮・企業の中核人材における多様性の確保・サステナビリティを巡る課題への取組みに加え、グループガバナンスの在り方や監査に対する信頼性の確保、株主総会等に関する事項も含んでいます。

本改訂案についての基本的な考え方は、以下のようになっています。

 

(1)取締役会の機能発揮

 

取締役会は経営者による迅速・果断なリスクテイクを支え重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督を行うことが求められています。

 

①独立社外取締役の人数

「我が国を代表する投資対象として優良な企業が集まる市場」であるプライム市場の上場会社においては、独立社外取締役が3分の1以上になるように選任します。

 

それぞれの経営環境や事業特性等を勘案し、必要と考える場合には、独立社外取締役の過半数の選任の検討が行われることが重要となります。

 

②「スキル・マトリックス」の開示

取締役会において中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保されることが重要です。

 

そのためには、上場会社は、経営戦略上の課題に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせを開示することが重要です。いわゆる「スキル・マトリックス」です。

 

③独立社外取締役のスキル

独立社外取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、より重要な役割を果たすことが求められています。この観点から、他社での経営経験を有する者を含めることが重要となります。

 

④CEOの選解任

経営陣において特に中心的な役割を果たすのはCEOであり、その選解任は、企業にとって最も重要な戦略的意思決定です。

 

こうした点も踏まえ、前回の本コードの改訂においては、指名委員会・報酬委員会など独立した諮問委員会の設置に向けた記載が盛り込まれました。

 

取締役会の機能発揮をより実効的なものとする観点から、プライム市場上場会社においては構成員の過半数を独立社外取締役が占めることを基本とする指名委員会・報酬委員会を設置することが重要となります。

 

⑤指名委員会・報酬委員会の権限・役割等

指名委員会や報酬委員会は、CEOのみならず取締役の指名や後継者計画、そして企業戦略と整合的な報酬体系の構築にも関与することが望まれます。

指名委員会・報酬委員会の権限・役割等を明確化することが、指名・報酬などに係る取締役会の透明性の向上のために重要となります。

 

⑥社外取締役と機関投資家の対話

独立社外取締役を含む取締役が対話を通じて機関投資家の視点を把握・認識することは、資本提供者の目線から経営分析や意見を吸収し、持続的な成長に向けた健全な起業家精神を喚起する上で重要です。

依然、独立社外取締役との建設的な対話が進まないとの指摘もされているところです。

株主との面談の対応者について、株主の希望と面談の主な関心事項に的確に対応できるよう、例えば、筆頭独立社外取締役の設置など、適切に取組みを行うことも重要です。

 

⑦取締役会議長

各社ごとのガバナンス体制の実情を踏まえ、必要に応じて独立社外取締役を取締役会議長に選任すること等を通じて、取締役会による経営に対する監督の実効性を確保することも重要です。

 

(2)企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保

 

企業がコロナ後の不連続な変化を先導し、新たな成長を実現する上では、取締役会のみならず、経営陣にも多様な視点や価値観を備えることが求められます。

我が国企業を取り巻く状況等を十分に認識し、取締役会や経営陣を支える管理職層においてジェンダー・国際性・職歴・年齢等の多様性が確保され、それらの中核人材が経験を重ねながら、取締役や経営陣に登用される仕組みを構築することが極めて重要です。

 

こうした多様性の確保に向けては、取締役会が、主導的にその取組みを促進し監督することが期待されます。

 

①多様性の状況の開示

多様性の確保を促すためにも、上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況の開示を行うことが重要となります。

 

②多様性確保の方針・実施状況の開示

多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示することも重要です。

 

(3)サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み

 

中長期的な企業価値の向上に向けては、リスクとしてのみならず収益機会としてもサステナビリティを巡る課題へ積極的・能動的に対応することの重要性は高まっています。

 

また、サステナビリティに関しては、従来からE (環境)の要素への注目が高まっているところですが、それに加え、近年、人的資本への投資等のS (社会)の要素の重要性も指摘されています。

 

人的資本への投資に加え、知的財産に関しても、国際競争力の強化という観点からは、より効果的な取組みが進むことが望ましいとの指摘もされています。

 

①サステナビリティの取組

取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定することが求められます。

加えて、上場会社は、例えば、サステナビリティに関する委員会を設置するなどの枠組みの整備や、ステークホルダーとの対話等も含め、サステナビリティへの取組みを全社的に検討・推進することが重要となります。

 

②経営資源の配分

企業の持続的な成長に向けた経営資源の配分に当たっては、人的資本への投資や知的財産の創出が企業価値に与える影響が大きいとの指摘もあります。人的資本や知的財産への投資等をはじめとする経営資源の配分等が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うことが必要となります。

 

③サステナビリティに関する開示

投資家と企業の間のサステナビリティに関する建設的な対話を促進する観点からは、サステナビリティに関する開示が行われることが重要です。

 

特に、気候変動に関する開示については、現時点において、TCFD提言が国際的に確立された開示の枠組みとなっています。

また、国際会計基準の設定主体であるIFRS財団において、TCFDの枠組みにも拠りつつ、気候変動を含むサステナビリティに関する統一的な開示の枠組みを策定する動きが進められています。

 

④気候変動に関する開示

比較可能で整合性の取れた気候変動に関する開示の枠組みの策定に向け、我が国もこうした動きに積極的に参画することが求められます。

今後、IFRS財団におけるサステナビリティ開示の統一的な枠組みがTCFDの枠組みにも拠りつつ策定された場合には、これがTCFD提言と同等の枠組みに該当するものとなることが期待されます。

 

(4)その他個別の項目

 

①グループガバナンスの在り方

支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはなりません。支配株主を有する上場会社においては、より高い水準の独立性を備えた取締役会構成の実現や、支配株主と少数株主との利益相反が生じ得る取引・行為のうち、重要なものについては独立した特別委員会における審議・検討を通じて、少数株主保護を図ることが求められます。

 

特に、支配株主を有する上場会社においては、独立社外取締役の比率及びその指名の仕組みについて、取締役会として支配株主からの独立性と株主共同の利益の保護を確保するための手立てを講ずることが肝要です。

 

②監査に対する信頼性の確保及び内部統制リスク管理

中長期的な企業価値の向上を実現する上では、その基礎として、監査に対する信頼性の確保が重要です。

 

A)内部監査と取締役会等との連携

 

内部監査部門が、CEO等のみの指揮命令下となっているケースが大半を占め、経営陣幹部による不正事案等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されていないのではないかとの指摘がされています。

こうした指摘も踏まえれば、上場会社においては、取締役会・監査等委員会・監査委員会や監査役会に対しても直接報告が行われる仕組みが構築されること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携が図られることが重要となります。

 

B)内部通報制度

 

内部通報制度の運用の実効性の確保のため、内部通報に係る体制・運用実績について開示・説明する際には、それが分かりやすいものとなっていることも重要です。

 

C)内部統制・リスク管理体制の整備

 

内部統制やリスク管理については、取締役会による内部統制やリスク管理体制の適切な整備が求められています。

その際には、企業価値の向上の観点から企業として引き受けるリスクを取締役会が適切に決定・評価する視点の重要性や、内部統制やリスク管理をガバナンス上の問題としてより意識して取締役会で取り扱うことの重要性を念頭に置いた指摘がされています。

 

③株主総会関係

上場会社は、株主総会での意思決定のためのプロセス全体を建設的かつ実質的なものとするよう、株主がその権利を行使することができる適切な環境の整備と、情報提供の充実に取り組むことが求められます。

 

A)英文開示・議決権電子行使

 

プライム市場上場会社は、必要とされる情報についての英文開示や議決権電子行使プラットフォームの整備を行うことが重要です。

 

B)株主総会資料・日程

 

株主の利便性に配慮した媒体で株主総会資料の電子的公表を早期に行うことや、決算・監査のための時間的余裕の確保等の観点も鑑みて株主総会関連の日程の設定を行うことについても検討が進められることが望まれます。

 

C)反対票への対応等

 

株主総会において相当数の反対票が投じられた会社提案議案について、機関投資家との対話の際に原因分析の結果や対応の検討結果について分かりやすく説明することが投資家との建設的な対話に資すると考えられます。

 

④上記以外の主要課題

 

A)事業ポートフォリオ

 

事業セグメントごとの資本コストも踏まえた事業ポートフォリオの検討を含む経営資源の配分が一層必要となっています。

取締役会は、事業ポートフォリオに関する基本的な方針の決定・適時適切な見直しを行うべきであり、これらの方針や見直しの状況を株主の理解が深まるような形で具体的に分かりやすく説明することが求められます。

また、グループ経営をする上場会社は、グループ経営に関する考え方・方針について説明する場合も、具体的に分かりやすく行うことが重要です。

 

B)政策保有株式

 

政策保有株式の更なる縮減についても課題となりますが、政策保有株式の保有効果の検証方法について開示の充実を図ることも機関投資家との対話に資すると考えられます。

 

C)監査役と機関投資家の面談

 

監査役も取締役と同じく株主への受託者責任を有するので、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、機関投資家との面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、面談に臨むことを基本とすべきです。

 

3.本コードの改訂の適用について

 

(1)新市場区分への対応

 

2022年4月より、東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となります。

本コードの改訂案の原則・補充原則においても、新市場区分に沿って、プライム市場上場会社に求める項目、その他の市場の上場会社に求める項目、そして両者に共通して求める項目が存在します。

 

(2)コーポレートガバナンス報告書

 

上場会社は、遅くとも本年12月までに、本コードの改訂に沿ってコーポレートガバナンス報告書の提出を行うことが望まれます。

 

また、プライム市場上場会社のみに適用される原則等に関しては、準備期間等も考慮し、2022年4月以降に開催される各社の株主総会の終了後速やかにこれらの原則等に関する事項について記載した同報告書を提出するよう求めることが考えられます。

これらの提出時期については、東京証券取引所において、具体的に検討がされることが求められます。

 

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