「倫理規程における非保証業務に関連する規定の改訂」~国際国際会計士倫理基準審議会による公表 | 社外財務部長 原 一浩
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「倫理規程における非保証業務に関連する規定の改訂」~国際国際会計士倫理基準審議会による公表

「倫理規程における非保証業務に関連する規定の改訂」~国際国際会計士倫理基準審議会による公表

2021年4月28日に、国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants: IESBA)から、「倫理規程における非保証業務に関連する規定の改訂」が公表されました。

本規定の改訂は、非保証業務の提供に関する規定をグローバルで適用することを通じて強固で高品質なものとすることにより、監査事務所の独立性に対する信頼を向上させることを目的とするものです。

 

1.改訂の背景

 

本規定の改訂は、規制当局や公益監視委員会(PIOB)からの要請により、2018 年9月から具体的な検討が開始されました。

規制当局等からは、監査業務の依頼人に対して非保証業務を提供する際の監査人の独立性に関して、幅広い懸念が提起されました。

こうした懸念を受け、IESBAは、各国における独立性に関する規制の状況も踏まえ、規定の改訂について検討を進めてきました。

本規定は、このような経緯を経て改訂されたものです。

 

2.改訂規定の概要

 

監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供により、独立性を阻害する自己レビュー等の阻害要因が生じ得ることから、改訂前の規定においても、禁止事項を含む様々なガイダンスが定められていました。

 

改訂規定では、自己レビューの阻害要因を生じさせる可能性のある非保証業務を大会社等である監査業務の依頼人に提供することの全面禁止や、非保証業務の提供に際しての統治責任者からの了承等、規定の強化が図られています。

 

具体的な改訂の内容は、以下のようになっています。

 

(1)自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供禁止

 

①新要求事項

 

監査業務の依頼人が大会社等である場合、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務を提供してはならないとする要求事項が新設されています。

これによって、これまでは、重要性の判断や非保証業務に従事した者を監査業務に関与させないなどのセーフガードの適用により提供が認められていた業務が禁止されることとなります。

 

②提供の可否の判断

 

監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供に先立って、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、非保証業務を提供する際、自己レビューの阻害要因が生じる可能性があるかどうかについて、次の(a)及び(b)のリスクがあるかどうかを評価することにより判断しなければなりません。

 

(a)非保証業務の結果が、会計記録、財務報告に係る内部統制又は監査意見の対象となる財務諸表の一部を構成する、又はそれらに影響を及ぼす。

 

(b)監査意見の対象となる財務諸表を監査する過程において、 会計事務所等又はネットワーク・ファームが非保証業務を実施する過程で行った判断や作業を、監査業務チームが評価する、又はそれらに依拠する。

 

(2)重要性

 

独立性に関する利害関係者の懸念が高まっていることを踏まえ、非保証業務の提供が規定上明確に禁止されている場合には、重要性の程度にかかわらず、非保証業務の提供が禁止されることになります。

 

(3)統治責任者とのコミュニケーション(監査業務の依顆人が大会社等の場合)

 

①統治責任者への情報提供

 

会計事務所等又はネットワーク・ファームが監査業務の依頼人である大会社等、その親会社又はその子会社に提供する非保証業務を受嘱する前に、以下の情報を提供しなければならないとする要求事頂が新設されています。

 

(a)提供する業務が禁止されておらず、かつ、独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準である、又は、そうでない場合、阻害要因が除去又は許容可能な水準にまで軽減されると会計事務所等が判断していること

 

(b)提供される業務が会計事務所等の独立性に与える影響について、統治責任者が十分な情報を得た上で評価するために必要な情報

 

②コミュニケーション項目の例示

 

・提供する非保証業務の内容及び範囲

 

・提案した報酬の根拠と金額

 

・提案した業務の提供によって生じる可能性がある独立性に対する阻害要因を識別した場合に、阻害要因が許容可能な水準であるかとする会計事務所等の評価の根拠、又は、許容可能な水準にない場合には、阻害要因を除去又は許容可能な水準にまで軽減させるために会計事務所等又はネットワーク・ファームが講じる対応策

 

・複数の業務を提供することにより生じる複合的な影響が独立性の阻害要因を生じさせるか、又は、既に織別している阻害要因の水準を変更させるかどうか

 

③統治責任者による了承

 

阻害要因の評価の結果、会計事務所等が同時提供可能と判断した業務について、統治責任者が以下の事項に了承 (Concur)しない限り、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、当該非保証業務を提供することができないとする要求事項が新設されています。

 

(a)提供する業務が独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準である、又は、そうでない場合は、阻害要因が除去又は許容可能な水準にまで軽減されるとする会針事務所等の結論

 

(b)当該業務を提供すること

 

④了承の方法

 

統治責任者による了承は、例えば、個別の契約ごとに行う方法や全般的な方針の下で行う方法等、会計事務所等が統治責任者との問で合意したプロセスによる場合があるとされており、樣々なガバナンス体制に対応できるよう、柔軟性が認められています。

 

⑤統治責任者による了承の例外

 

法令等により統治責任者への情報提供が禁止されている埸合、又は、機密情報の漏洩につながる場合には、以下の条件をもとに、会計事務所等は非保証業務を提供することが認められます。

 

(a)法令等に違反しない範囲で情報を提供すること

 

(b)業務の提供が独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準であること、又は、そうでない場合は、阻害要因を除去又は許容可能な水準にまで軽滅させることを統治責任者に伝えること

 

(c) (b)で下した会計事務所等の結論に、統治責任者が不同意を示さないこと

 

⑥非保証業務の辞退又は監査業務の終了

 

以下の(a)又は(b)のいずれかに該当する場合、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、非保証業務の提供を辞退するか、監査業務を終了しなければなりません。

 

(a)会計事務所等又はネットワーク・ファームが、統治責任者へ悄報提供することを一切認められない場合

 

(b)業務の提供が独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準である、又は、そうでない埸合は、阻害要因が除去又は許容可能な水準にまで経減されると会計事務所等が下した結論に統治責任者が不同意を示した場合

 

(4)会計及び記帳業務

 

①提供禁止業務

 

以下に掲げる会計及び記帳業務は、その業務の結果が、会計記録又は監査意見の対象となる財務諸表に影響を及ぼす場合に、自己レビューの阻害要因が生じるとして、監査業務の依頼 人には提供が禁止されています。

 

(a)会計記録又は財務諸表の作成

 

(b)取引の紀録

 

(c)給与計算業務

 

(d)勘定の調整に関する問題の解決

 

(e)既存の財務諸表を1つの会計基準から他の会計基準へ移行する業務

 

ただし、監査業務の依頼人が大会社等ではない場合は、その業務が定型的又は機械的な内容であり、かつ、会計事務所等が阻害要因に対処している場合は提供可能です。

 

②例外

 

例外的に、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、 経営者の責任を担わず、かつ、自己レビュー以外の阻害要因に対して概念的枠組みを適用することで、大会社等である監査業務の依頼人に対して、監査の過程で生じる事項に閲連して以下の助言や提言の提供を行うことが認められます。

 

(a)会計及び財務報告の基準又は方針及び財務諸表の開示に関する規則等の助言

 

(b)財務諸表及び関連する開示の計上額を決定するための財務又は会計統制及び方法の適切性に関する助言

 

(c)監査での発見事項に基づく修正仕訳の提案

 

(d)財務報告に係る内部統制及びプロセスに関する発見事項の協議及び改善事項の提案

 

(e)勘定の調整方法に関する協議

 

(f)グループの会計方針の遵守に関する助言

 

3.適用日

 

2022年12月15日以降に開始する事業年度の監査から適用されます。また、早期適用も認められます。

 

なお、移行措置として、2022年12月15日より前に締結し、既に着手した非保証業務については、当初の契約期間が完了するまでは、改訂前の規定に基づいて業務を継続することができるとされています。

 

4.日本への影響

 

(1)監査事務所への影響

 

①同時提供が可能となる非保証業務の縮小

 

監査業務の依頼人が大会社等である場合、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供が包括的に禁止されます。

 

また、監査業務の依頼人が大会社等以外である場合も、税務に関する助言及びタックス・プランニング業務やコーポレート・ファイナンスに関する助言業務が制限されています。

 

これまでは、重要性の判断やセーフガードの適用により同時提供していた非保証業務を提供できなくなる可能性があることから、会計事務所等及びネットワーク・ファームは影響を受けるものと考えられます。

特に、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供禁止については、影響があるものと考えられます。

 

②統治責任者(監査役等)による了承

 

監査業務の依頼人が大会社等の場合、非保証業務の提供が独立性に及ぼす影響について、統治責任者が十分な情報を得た上で意思決定を行うことができるように、会計事務所等が、非 保証業務の受嘱前に、非保証業務の内容や阻害要因の評価等に関する情報を提供し、統治責任者による了承を得るよう改訂されています。

 

会計事務所等においては、ネットワーク・ファームによって提供される非保証業務を含め、網羅的に情報を収集し、統治責任者に対し情報を提供するとともに、了承を得ることが求められます。

 

(2)企業への影響

 

①同時提供が可能となる非保証業務の縮小

 

同時提供が可能となる非保証業務が縮小すると、企業が監査人やそのネットワーク・ファームに依頼している非保証業務が、今後は依頼できなくなる可能性があります。

その場合には、監査人やそのネットワーク・ファーム以外に非保証業務を依頼しなければならなくなります。

 

② 統治責任者(監査役等)による了承

 

統治責任者は、会計事務所等から十分な情報を得た上で非保証業務の提供について了承することとなります。

そのため、大会社等である企業において、監査人やそのネットワーク・ファームから非保証業務の提供を受ける埸合には、統治責任者が了承するためのプロセスを構築する必要が生じるものと考えられます。

 

統治責任者においては、会計事務所等から得た情報をもとに、非保証業務に関する情報を検討し、了承することが求められるものと考えられます。

 

(3)今後の予定

 

既に、IESBAより改訂内容に関するウェビナーが開催され、 今秋には、適用ガイダンスが公表される予定です。

今後、日本公認会計士協会においても、これらの規定に関して、日本の倫理規則への導入の検討が行われる予定です。

 

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