「株式報酬等取扱い」~適用範囲、会計処理の考え方、具体的会計処理、開示 | 社外財務部長 原 一浩
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「株式報酬等取扱い」~適用範囲、会計処理の考え方、具体的会計処理、開示

「株式報酬等取扱い」~適用範囲、会計処理の考え方、具体的会計処理、開示

改正会社法において、取締役又は執行役(以下「取締役等」という。)の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととされました。

これを受けて、ASBJでは、これらの会計処理及び開示を明らかにすることを目的として、2021年1月28日に「株式報酬等取扱い」を公表しました。

 

1.適用範囲

 

(1)株式の無償交付

 

「会社法202条の2」に基づいて、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引を対象としています。

 

(2)現物出資構成の取り扱い

 

① 現行実務において行われている(いわゆる)現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引には適用されません。

 

② 株式報酬等取扱いが対象とする取引は、会社法上、株式の無償発行ですが、(いわゆる)現物出資構成による取引は株式の有償発行であるなど、法的な性質が異なる点があるため、(いわゆる)現物出資構成による取引の会計処理のうち払込資本の認識時点など、法的な性質に起因する会計処理については異なる会計処理になるものと考えられるとされています。

 

2.会計処理の基本的な考え方

 

(1)基本的考え方

 

株式報酬は、インセンティブ効果を期待して自社の株式が付与されるものであり、ストック・オプションとその目的が同一であると考えられますので、費用の認識や測定については、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」という。)の定めに準じることとされています。

 

(2)適用対象取引

 

株式報酬等取扱いの適用対象となる取引には、いわゆる事前交付型と事後交付型が想定されています。

株式が交付される時点が異なる点や、事前交付型においては株式の交付の後に株式を無償で取得することがあるなど、取引の形態ごとに異なる取扱いが定められています。

 

3.事前交付型

 

(1) 定義

 

・取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引のうち

・対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い

・権利確定条件を達成した場合に譲渡制限が解除され

・権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する(以下、当該無償取得を「没収」という。)取引。

 

(2) 会計処理

 

新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合が想定されるため、それぞれ下記のとおりの会計処理が定められています。

 

割当日における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

当初の割当日において新株を発行し発行済株式総数が増加しますが、その時点では資本を増加させる財産等の増加は生じていないことから、割当日には払込資本を増加させません。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

当初の割当日において自己株式を処分するため、その時点で自己株式の帳簿価額を減額するとともに、同額のその他資本剰余金を減額します。

 

対象勤務期間における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

ア) ストック・オプション会計基準と同様に、企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上します。

各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額とします。

なお、権利確定条件の不達成による失効等の見積数に重要な変動が生じた場合、また、権利が確定した場合に株式数を見直します。

 

イ) ア)の処理により年度通算で費用が計上される場合は、対応する金額を資本金又は資本準備金に計上し、年度通算で過年度に計上した費用を戻し入れる場合はその他資本剰余金から減額します。

なお、四半期会計期間においては、計上する損益に対応する金額はその他資本剰余金の計上又は減額として処理し、年度の財務諸表においては、イ)の処理に置き換えます。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

新株発行の場合と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額をその他資本剰余金として計上します。

 

没収時における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

没収により、企業が無償で株式を取得したときは、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)14項の定めによる自己株式の無償取得として、自己株式の数のみの増加として処理します。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

没収により、企業が無償で株式を取得したときは、自己株式等会計適用指針14項の定めによらず、当初の割当日において減額した自己株式の帳簿価額のうち、没収により取得した自己株式に相当する額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額します。

 

4.事後交付型

 

(1) 定義

 

・取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち

・契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており

・権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引。

 

(2)会計処理

 

新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合について、それぞれ下記のとおり定めています。

また、「株式報酬等取扱い」における以下の定めにより、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目として、新たに「株式引受権」を計上するとしたことから、改正純資産会計基準及び改正純資産適用指針において、「株式引受権」という科目が追加されています。

 

対象勤務期間における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、新株の発行が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上します。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、自己株式の処分が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上します。

 

②割当日における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

権利確定条件を達成した後の割当日に、株式引受権として計上した額を資本金又は資本準備金に振り替えます。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

権利確定条件を達成した後の割当日に、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額として、その他資本剰余金を増減させます。

 

5.その他の会計処理

 

取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、株式報酬等取扱いの開発段階においては改正会社法の施行前であり、取引の詳細は定かではないことから、基本となる会計処理のみを定めることとしています。

 

株式報酬等取扱いに定めのないその他の会計処理については、類似する取引又は事象に関する会計処理が、ストック・オプション会計基準や企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下、「ストック・オプション適用指針」といい、ストック・オプション会計基準とあわせて「ストック・オプション会計基準等」という。)に定められている場合には、これに準じて会計処理を行うとすることとされています。

 

6.開示

 

(1)注記

 

「株式報酬等取扱い」では、費用の認識や測定はストック・オプション会計基準の定めに準じることとしていることから、ストック・オプション会計基準等における注記事項を基礎としています。

 

ストック・オプションと事前交付型および事後交付型とのプロセスの違いを考慮して、以下の注記項目が定められています。

以下の注記事項の具体的な内容や記載方法については、ストック・オプション適用指針の定めに準じて行うこととされています。

 

① 事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る)

 

② 事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る、ただし、権利確定後の未発行株式数を除く)

 

③ 付与日における公正な評価単価の見積方法

 

④ 権利確定数の見積方法

 

⑤ 条件変更の状況

 

(2) 1株当たり情報

 

1株当たり情報については、以下のとおり定められています。

 

① 事後交付型におけるすべての権利確定条件を達成した場合に交付されることとなる株式

 

企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」9項の「潜在株式」として取り扱い、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において、ストック・オプションと同様に取り扱います。

 

② 株式引受権

 

1株当たり純資産額の算定上、企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」35項の期末の純資産額の算定にあたっては、貸借対照表の純資産の部の合計額から控除します。

 

7.適用時期等

 

改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用することとし、その適用については、会計方針の変更には該当しないとされています。

 

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