「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(KAM)について | 社外財務部長 原 一浩
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「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(KAM)について

「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(KAM)について

日本公認会計士協会(監査基準委員会)は、企業会計審議会から2018年7月5日付けで公表された「監査基準の改訂に関する意見書」に対応するため、関連する監査基準委員会報告書等の新設及び改正について検討を行い、2019年2月27日に、監査基準委員会報告書 701 「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(以下、「本報告書」)を公表しました。

 

本報告書の範囲及び目的

1.本報告書の範囲

本報告書は、監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告に関する実務上の指針を提供するもので、監査報告書において監査上の主要な検討事項の報告を行う監査人の責任並びに監査上の主要な検討事項の決定についての監査人の判断及びその報告の様式と内容について取り扱っています。

 

2.監査上の重要な検討事項の報告の目的

監査上の主要な検討事項の報告の目的は、「実施された監査に関する透明性を高めることにより、監査報告書の情報伝達手段としての価値を向上させることにある。」としています。

 

(1)監査上の主要な検討事項の報告により、想定される財務諸表の利用者に対して、当年度の財務諸表監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項を理解するのに役立つ追加的な情報が提供され、監査の透明性を高めることができます。

 

(2)監査上の主要な検討事項の報告は、想定される財務諸表の利用者が企業や監査済財務諸表における経営者の重要な判断が含まれる領域を理解するのに役立つ場合があります。

 

(3)監査報告書において、監査上の主要な検討事項を報告することによって、想定される財務諸表の利用者と、経営者や監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下「監査役等」という。)との間で行われる、企業、監査済財務諸表又は実施された監査に関連する特定の事項についての対話が促進されることが期待されます。

 

3.留意事項

監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告は、監査人が全体としての財務諸表に対する監査意見を形成した上で行われるものですので、監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告は、以下のいずれを意図するものではありません。

 

(1) 財務諸表の追加的な注記事項の代替

 

(2) 除外事項付意見の表明の代替

 

(3) 継続企業の前提に関する重要な不確実性に関する報告の代替

 

(4) 個別の事項に対する意見表明

 

4.適用範囲

本報告書は、以下の監査に適用されます。

 

(1)法令により監査報告書において監査上の主要な検討事項の記載が求められる監査

 

(2)監査報告書において監査上の主要な検討事項を任意で報告することを契約条件により合意した場合

 

ただし、監査人が財務諸表に対する監査意見を表明しない場合には、監査上の主要な検討事項の報告を行ってはならないとされています。

 

5.本報告書における監査人の目的

本報告書における監査人の目的は、以下のとおりです。

 

(1)監査上の主要な検討事項を決定すること

 

(2)財務諸表に対する意見を形成した上で監査上の主要な検討事項を監査報告書において報告すること

 

6.定義

「監査上の主要な検討事項」とは、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいいます。

 

監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択されます。

 

要求事項

 

1.監査上の主要な検討事項の決定

監査人は、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、監査を実施する上で監査人が特に注意を払った事項を決定します。

その際、監査人は以下の項目等を考慮しなければなりません。

 

(1) 監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」に基づき決定された特別な検討を必要とするリスク又は重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域

 

(2) 見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断

 

(3) 当年度に発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響

 

監査人は、上記に従い決定した事項の中から更に、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定します。

 

まとめると以下のように、徐々に絞り込まれていくことになります。

 

監 査 役 等 と の コ ミ ュ ニ ケー ショ ン

監 査 人 が 特 に 注 意 を 払 った 事 項

監査上の主要な検討事項

 

 

2.監査上の主要な検討事項の報告

監査人は、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」区分を設け、法令等により公表が禁じられている場合若しくは公表により公共の不利益となる場合 又は除外事項付き意見に該当する場合を除き、個々の監査上の主要な検討事項に適切な小見出しを付して記述します。

 

また、「監査上の主要な検討事項」区分の冒頭に以下を記載しなければなりません。

 

(1) 監査上の主要な検討事項は、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項である。

 

(2) 監査上の主要な検討事項は、財務諸表全体に対する監査の実施過程及び監査意見の形成において監査人が対応した事項であり、当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。

 

3.除外事項付意見表明を代替することの禁止

監査人は、監査基準委員会報告書705 に基づき除外事項付意見を表明しなければならない状況において、除外事項付意見を表明せず、除外事項に該当する事項を監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分において報告してはなりません。

 

 4.個別の監査上の主要な検討事項の記載内容

監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分において、以下を記載しなければなりません。

 

(1) 関連する財務諸表における注記事項がある場合は、当該注記事項への参照

(2) 個々の監査上の主要な検討事項の内容

(3) 財務諸表監査において特に重要であるため、当該事項を監査上の主要な検討事項に決定した理由

(4) 当該事項に対する監査上の対応

 

ただし、連結財務諸表及び個別財務諸表の監査を実施しており、連結財務諸表の監査報告書 において同一内容の監査上の主要な検討事項が記載されている場合には、個別財務諸表の監査報告書においてその旨を記載し、当該内容の記載を省略することができます。

 

 5.監査上の主要な検討事項として決定した事項を監査報告書において報告しない場合

監査人は、以下のいずれかに該当する場合を除き、監査報告書に監査上の主要な検討事項を記載しなければなりません。

 

(1) 法令等により、当該事項の公表が禁止されている場合

 

(2) 極めて限定的ではあるが、監査報告書において報告することにより生じる不利益が公共の 利益を上回ると合理的に見込まれるため、監査人が当該事項について報告すべきでないと判断した場合。

 

ただし、企業が当該事項に関する情報を財務諸表以外の何らかの方法により公表している場合は、報告すべきでないと判断する状況には該当しません。

 

 

6.監査上の主要な検討事項の記載内容と監査報告書に記載すべきその他の項目の相互関係

監査報告書に対して除外事項付意見を表明する原因となる事項、又は継続企業の前提に関する重要な不確実性は、その性質上、監査上の主要な検討事項に該当します。

しかし、監査人はこれらの事項を監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分に記載してはなりません。

この場合、監査人は、「監査上の主要な検討事項」区分 への記載に代えて、以下を行わなければなりません。

 

(1) 該当する監査基準委員会報告書に準拠してこれらの事項を監査報告書において報告する。

 

(2) 「監査上の主要な検討事項」区分に、「『[除外事項付意見]の根拠』に記載されている事項を除き」又は「『継続企業の前提に関する重要な不確実性』に記載されている事項を除き」と記載する。

 

 7.その他の状況における「監査上の主要な検討事項」区分の様式及び内容

監査人は、企業及び監査に関する事実及び状況を踏まえて、報告すべき監査上の主要な検討事項がない場合や個別財務諸表の監査報告書において監査上の主要な検討事項の内容等の記載を省略している場合などについては、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」の見出しを付した区分を設けて、その旨を記載しなければなりません。

 

8.監査役等とのコミュニケーション

監査人は、以下に関して監査役等とコミュニケーションを行います。

 

(1) 監査人が、監査上の主要な検討事項と決定した事項

 

(2) 企業及び監査に関する事実及び状況により、監査報告書において報告すべき監査上の主要 な検討事項がないと監査人が判断した場合はその旨

 

9.文書化

監査人は、監査調書に以下の事項を含めなければなりません。

 

(1) 監査人が特に注意を払った事項及び各事項が監査上の主要な検討事項となるかどうかの監査人の決定の根拠

 

(2) 監査報告書において報告する監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断した場合、又は報告すべき監査上の主要な検討事項が除外事項若しくは継続企業の前提に関する重要な不確実性以外にない場合はその根拠

 

(3) 監査上の主要な検討事項であると決定された事項について監査報告書において報告しないと監査人が判断した場合はその根拠

 

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