「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告~非財務情報に焦点を当てた検討~」より | 社外財務部長 原 一浩
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「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告~非財務情報に焦点を当てた検討~」より

「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告~非財務情報に焦点を当てた検討~」より

日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、平成 29 年5月 15 日付で経営研究調査会研究報告第 59 号「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告~非財務情報に焦点を当てた検討~」(以下、「本研究報告」)を公表しました。

 

本研究報告は、長期志向の機関投資家を念頭に、投資意思決定及び対話のための情報ニーズや、投資家による企業価値評価と投資家対話に有効な情報開示(非財務情報を含む。)の在り方について検討し、取りまとめたものです。

 

 

1.企業報告をめぐる近年の動向と課題

 

資本市場全体において、長期的に最適な資源配分を通じて持続可能な価値創造が実現されるためには、投資家が企業の開示情報を基に長期的視点から企業価値を評価し、投資家行動につなげることができることを前提として、さらに、投資家と企業は対話を通じて相互理解を深めることも求められています。対話の基礎となる情報を提供するという意味でも、企業報告は重要な役割を担っています。

 

我が国では、統合報告書を発行する企業が年々増加しており、中長期的な企業価値の説明を通じて、長期志向の投資家に対する魅力を高めていくことを目指している企業が増えています。

しかしながら、非財務情報を効果的に用いて中長期的な企業価値を伝達する企業報告の実務について、企業側も投資家側も課題があると認識しており、本研究報告では、投資家による長期的視点に立った投資意思決定行動に影響を及ぼすことのできる企業報告実務のポイントを検討しています。

 

 2.投資家行動と情報ニーズ

 

本研究報告では、長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告の在り方を検討対象として、ファンダメンタルズ(財務状況や企業業績等の株式の本源的価値を決定付ける基礎的要因)を重視して投資行動を行う機関投資家を企業報告の想定利用者として位置付けて、その情報ニーズを分析しています。

 

企業分析や評価の手法は様々ですが、その最終的な目的は、投資によって得られる財務リターンとリスクの評価に役立てることにあると考えられます。

長期志向の機関投資家の情報ニーズと、当該ニーズを満たす開示の特徴は、以下のとおり整理されるとしています。

 

長期志向の機関投資家の情報ニーズ

・企業価値の財務的価値につながる情報

・統治の質を表す情報

 

長期志向の機関投資家のニーズを満たす開示の特徴

・ 企業固有の状況を的確に表す開示

・ 経営者によるコミットメントを示すとともに、その進捗や成果についての評価ができる開示

・ 投資家の信頼を高める包括的かつ論理的な開示

・ 長期的視点に立った評価を可能とする開示 ・ 効率的な情報利用を可能とする開示

 

3.長期的視点に立った投資家行動における有用性を高める企業報告

 

(1)長期志向の機関投資家が重視すると考えられる情報

1-1 企業価値の財務的評価につながる開示

企業報告においては、投資家による企業価値評価のプロセスを理解することが重要で、その財務的評価を可能にする非財務情報のポイントを押さえる必要があります。そのポイントは下記のとおり整理されます。

 

① 生産性、成長性及びリスク評価に資する開示

② 企業の将来像(ビジョン、ビジネスモデル)と背景要因の提示

③ 現在と将来をつなぐ「戦略」(資源配分の方針及び計画)の開示

④ 資本政策の説明

 

1-2 統治の質を表す情報

長期志向の機関投資家は、企業との対話や株主行動の前提として、投資先企業の経営及び統治の質に関する情報を重視します。投資家は「企業の統治の質が担保されていることについての確信を得たい。」と考えていて、そのような観点から、以下のポイントを改善に向けた方向性として挙げています。

 

① 長期価値創造を実現する観点からの体系的な説明

② ビジネスモデルや戦略との整合性確保

③ 運用状況の報告

 

(2)情報の有用性を高める開示の特徴

2-1 企業固有の状況を的確に表す開示

企業の財務的価値は企業のビジネスモデルや戦略に依存します。

 

本研究報告では、企業固有の状況を的確に表す開示を実現するためのポイントとして、以下の各点を挙げています。

 

① 企業のコンテクストとの結合性

② 重要性の判断と開示

③ 比較可能性との関係

 

2-2 経営者のコミットメントが示され、その進捗と成果が評価できる開示

中長期的な企業価値を判断するための情報として、戦略に関する情報が必要です。戦略との関係における KPI の意義、効果的な KPI の開示の在り方及び課題について、以下の各点が改善に向けたポイントとなります。

 

① 企業の業績及び戦略の主要な要素を反映したKPIの開示

② 財務的指標と非財務的指標との効果的な組合せ

③ 客観的かつ継続的に測定可能であること

④ 経営者からの背景の説明や分析及び評価結果の開示

 

2-3 投資家の信頼を高める包括的かつ論理的な開示

投資家は、論理的に構成された報告書、企業の全体像を表す開示を求めており、現状の企業報告について論理性や包括性について課題があるとの認識を持っています。

開示の論理性、包括性を高めることによって投資家の信頼を高めることが重要となりますが、その上で、以下の各ポイントが鍵となるとしています。

 

① 企業活動の全体像を映し出す包括的な開示

② 数字による裏付け

 

 

2-4 長期的視点に立った評価を可能とする開示

長期的視点に立って企業価値を評価する上で、企業から開示される情報の時間軸も 大事な要素であり、投資家の投資判断に長期的な課題を織り込めるようにする必要があります。 投資家が中長期的な評価をする上で有用な開示情報は、以下に示すような、目標や行動計画策定に当たっての前提や策定プロセスなど、経営の基本方針や意思決定に関わる情報です。

 

① 企業ビジョン及び戦略方針の開示

② 時間軸の明確化

 

2-5 効率的な情報利用を可能とする開示

幅広い投資家に共通的なニーズを考えれば、企業は主たる報告書を決定し、その中に重要情報を網羅し、特定の利用者が求める詳細情報や特定課題に関する情報については、ウェブサイト等の媒体を活用して伝達する方法が望ましいとしています。

 

① 報告媒体の体系化

② 主たる報告書の要素と構成

③ 論理性と簡潔性

 

4.効果的な企業報告を実現できる環境整備

 

指摘された課題と効果的な企業報告を実現するための環境整備に向けた取組を提起しています。

 

(1)企業報告制度:統合的な開示システムの必要性

我が国において開示媒体(開示書類)が多すぎ、情報が分散していて、限られた時間の中で、多種多様の開示媒体から必要な情報を探し出し、拾い出していくことについての実務的な限界を指摘する声が多く、一元化された年次報告書及びこれに付随する詳細な報告書に集約・体系化すべきという指摘もあるとしています。

また、経営方針や戦略の報告を企業報告の中核として捉える考え方は、コーポレートガバナンス・コードの原則主義の企業報告の枠組みと整合的であり、制度開示書類において企業が 重要な非財務情報を開示しやすい環境を整備していくことが重要で、現行制度について、より柔軟な開示が可能な仕組みを検討していく必要があるとしています。

 

(2)投資家行動の変化

今後、企業報告が投資家にとっての有用性を高めていくには、企業が投資家の情報ニーズを理解して報告書を作成できるようにしていく必要があり、あわせて、投資家側からも、自ら必要とする情報や開示の在り方を提示し、問題となる開示行動について改善を促す等の積極的な行動が期待されるとしています。

 

(3)企業報告のフレームワーク・基準整備

投資家ニーズを反映した企業報告のフレームワーク、基準が整備される必要があるとしています。

また、多くのフレームワークや基準があるので、企業が、これらの各基準やガイドラインを全て完全な形で準拠することは難しい状況にあり、包括的な連携・調整に向けた取組が期待されるとしています。

 

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