コングロマリット・ディスカウント~コングロマリット型企業の特徴、メリット・デメリット | 社外財務部長 原 一浩
コングロマリット・ディスカウント~コングロマリット型企業の特徴、メリット・デメリット | 社外財務部長 原 一浩

社外財務部長 原一浩の公式サイト

コングロマリット・ディスカウント~コングロマリット型企業の特徴、メリット・デメリット

コングロマリット・ディスカウント~コングロマリット型企業の特徴、メリット・デメリット

コングロマリットとは「巨大な複合企業」のことです。

コングロマリット型企業の特長とメリット・デメリットについて考えてみましょう。

また、株式市場では、コングロマリット・ディスカウントが取りざたされることがあります。コングロマリット・ディスカウントについても考察します。

 

1.コングロマリット型企業とは

 

(1)コングロマリット企業の経緯

 

コングロマリットは、日本語で「複合企業」とも呼ばれ、相互に関連性の薄い異業種を多数兼営する企業形態をいいます。

 

元々は、歴史の浅い無名の小企業が、大規模であるのに経営内容が悪いため、株価が低くて含み資産の大きい企業の株式を市場で買い占め、経営権を取得するといった行動を次々に行い、異業種の複合企業を形成したことが「コングロマリット」の始まりとされています。

 

その後、1970年代にGEのような巨大企業の一部もこの戦略を採用し、コングロマリット型M&Aに資本を投入するようになりました。GMやAT&T、エクソン、IBMなども多業種への展開を追随し、「多角化企業」というカテゴリーができました。

 

そして、時代が進み、規制緩和や独占禁止法適用除外などが認められるようになると、「通信メディアコングロマリット」や「金融コングロマリット」などの新業態ができる一方で、多角化から選択・集中へと業態を変える企業も増え、今日では、コングロマリットの業態も変化しています。

 

(2)経営のスピード

 

コングロマリット型経営は、M&Aや資本提携などを行うことにより事業をゼロの状態で立ち上げるよりもスピーディーで効率良く事業を進めることができます。

このような拡大戦略を実行するためには、ヒト・モノ・カネ・情報などの豊富な経営資源が必要となります。

 

2.コングロマリット型企業経営のメリット

 

コングロマリット型企業経営は、以下の点がメリットとして挙げられます。

 

・相乗効果(シナジー効果)

・事業再編やM&A

・リスクの分散

 

(1)相乗効果(シナジー効果)

 

コングロマリット型企業経営は迅速に多業種の事業を獲得できるため、早期の企業価値の向上や事業間の相乗効果(シナジー効果)を目指す企業に有効な手段とされています。

 

常に激しい動きを見せるグローバル経済下では、新市場開拓や新規参入において、事業同士の相乗効果が生まれ企業価値の向上につなげることができるコングロマリット型M&Aは、非常に有効な手段となりえます。

 

コングロマリット型企業では、異なる商品・サービス事業の取得により、新しい技術やノウハウを得ることが期待でき、その新技術の知識やノウハウなどを、グループ企業内で共有することができます。

顧客の各事業間の回遊がある場合は、事業間で相乗効果が生まれて企業価値も向上することになります。

 

(2)事業再編やM&A

 

コングロマリット型企業経営では多業種に事業展開しているため、持株会社(経営管理会社)を設立してグループ経営を行う手法が一般的です。

これにより経営環境が変化した場合でも、迅速な事業再編やM&Aが実施しやすくなります。

 

ほかにも、コングロマリット型企業経営により、間接部門の統合などがしやすくなるというメリットもあります。

 

(3)リスクの分散

 

経営のリスクを分散できることも、コングロマリット型企業経営のメリットです。

 

企業経営においては、途中で外部環境が変化することがあります。

外部環境が変化していっても、社内での経営リソースが多いコングロマリット型企業は迅速にM&Aや事業再編を実施して、経営成績や財政の悪化を防ぐことが可能です。

特定の事業に頼るよりも、複数の事業を展開していった方がリスクは分散できます。

 

3.コングロマリット型企業経営のデメリット

 

コングロマリット型企業経営にはメリットがある一方、デメリットも存在します。

 

・企業価値の低下の

・コーポレートガバナンスの低下

・企業内でのコミュニケーションの不具合

 

(1)企業価値の低下(コングロマリット・ディスカウント)

 

コングロマリット型企業経営では多業種事業が主となりますが、それにより投資家からの評価を受けづらいといったデメリットが生じます。

 

投資家からの低い企業価値評価は株価にマイナスの影響をおよぼします。

株式時価総額が低下することにより、企業の信頼性が低下し、資金調達に悪影響をおよぼす場合もあります。

 

コングロマリット・ディスカウントについては、後述します。

 

(2)コーポレートガバナンスの低下

 

コングロマリット型企業経営では複数の事業が存在することになります。

コングロマリット型企業経営におけるM&Aは、専門性の高い技術や経験を軸とした事業の取得が目的となっている場合が多く、それぞれの事業は独立性が高いといえます。

事業それぞれの独立性が高い場合、当該事業について専門知識を持たない企業が異業種の企業を買収してしまうと、適切に経営を監視できないケースが出てきます。

 

その結果として懸念される点がコーポレートガバナンスの低下です。

コーポレートガバナンスが低下しますと、子会社や関連会社に対してグループとしての経営戦略を徹底することができずグループ経営戦略に齟齬をきたす恐れや、不正会計・不祥事といった事態を招きやすくなる恐れがあります。

 

(3)企業内でのコミュニケーションの課題

 

事業それぞれの独立性が高い場合、専門外である他事業会社との連携や接触の機会をなかなか持てず、「相乗効果に必要な事業内部の情報が伝わらない」「コミュニケーションが取れない」という環境になってしまう危険性もはらんでいます。

 

特にM&A直後は、それぞれの企業風土の違いや評価制度の統合などによって従業員の不満、不安が高まりやすくなっています。

M&Aを行う場合には、適切なPMI( Post Merger Integration:新しい組織体制の構築を目指したプロセス)の実行が求められます。

 

4.コングロマリット・ディスカウント~サム・オブ・ザ・パーツ分析

 

(1)コングロマリット・ディスカウントとは

 

コングロマリット・ディスカウントとは、M&A などを通じて事業を多角化している企業において、単体でそれぞれの事業を営む場合と比較したとき、市場からの評価が低下し、株価が下落している状況をいいます。

 

一般にコングロマリット・ディスカウントが起こる要因として、投資家側の視点からみますと以下の点が挙げられます。

 

①企業側では、事業の多角化が業績の安定化などの利点があると説明しますが、事業の全体像や相乗効果が見えにくいこと

 

②経営資源が分散して経営効率が落ちると想定されること

 

③複合企業の価値を精緻に評価することが難しいこと

 

④投資家は、リスク分散に際して、コングロマリット型企業に投資するよりも複数の有望企業に分散して投資することを好むこと

 

(2)サム・オブ・ザ・パーツ(Sum-of-the-Parts:SOTP)分析とは

 

サム・オブ・ザ・パーツ(Sum-of-the-Parts:SOTP)分析とは、複数の事業や資産を有する企業体の企業価値評価を行う手法です。

各事業や資産毎に事業価値評価額を算出し、それらを積み上げて全体の企業価値評価を行います。

 

①評価例

 

以下のようなAからDまでの4つの事業や資産がある企業があるとします。このとき、各事業を次のように個別評価し、積み上げて企業価値を算出します。

 

A事業:同事業の業界マルチプルベースでの評価

B事業:同事業の業界マルチプルベースでの評価

C上場子会社:所有株式の時価又はマルチプルベースでの評価

D不動産:不動産鑑定評価額、売却可能金額など

 

②株式価値は、企業価値からネットデットを控除することで算出できます。

 

(3)上記で算定された株式価値と市場における株式時価総額との差額が、コングロマリット・ディスカウントとなります。

 

 

 

(4)コングロマリット・ディスカウントの解消策

 

経営者と投資家では、それぞれの立場が異なるため、コングロマリット・ディスカウントを解消することは容易ではありません。

 

事業の多角化によって経営が中長期的に安定するという説明は、投資家には響きません。

経営に対するスパンの考え方が異なることもその一因です。

長期投資を行う投資家もいますが、一般的には3年以内の短期投資を行う投資家が多いと思います。この場合、事業の選択と集中により、より短い期間での株価上昇を期待します。

一方、会社は、場合によっては、10年から30年先の長期にわたるコアコンピタンスを設定して活動します。企業経営の長期的な安定と持続的成長を目指す場合が多いと思います。

 

投資家との対話を行い、コングロマリット経営を行うことが長期にわたるコアコンピタンスを実現するための最善の方策であることを理解してもらう努力が必要になります。

関連記事

無料相談

おススメの記事