ストック・オプション等のインセンティブ報酬の会計基準 | 社外財務部長 原 一浩
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ストック・オプション等のインセンティブ報酬に関する会計基準

ストック・オプション等のインセンティブ報酬に関する会計基準

インセンティブ報酬に関して該当する会計基準があるものインセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

 

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

インセンティブ報酬に関する現行の会計基準について解説します。

 

ストック・オプション等に係る会計処理

 

ストック・オプション等の会計処理に係る定めに関しては、2005 年(平成 17 年)12 月 27 日(終修正 2013 年(平成 25 年)9月 13 日)に、ASBJ よりストック・オプション会計基準及び企業会計基準適用指針第 11 号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下「ストック・オプション適用指針」という。)が公表されています。ストック・オプションとは、自社株式オプションのうち、特に企業がその従業員等(企業の使用人の他、企業の役員が含まれるものとされます。なお、以下「役員等」といいます。)に労働等の対価としての報酬として付与するものをいいます。

 

ストック・オプション会計基準は、上述のストック・オプションの他、以下の取引を対象として適用されます。

 

1.企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社株式オプションを付与する取引であって、ストック・オプション以外のもの

2.企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社の株式を交付する取引

 

ストック・オプション会計基準の主眼であるストック・オプションは、オプション本来の権利を行使することが可能となる「権利の確定」について条件が付されていることが多く、 当該条件(「権利確定条件」)には、「勤務条件」や「業績条件」があります。

 

ストック・オプションに係る会計処理の概要は以下のとおりです。

1.権利確定日以前の会計処理

ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が役員等から取得する労働や業務 執行等のサービス(以下「労働等サービス」 といいます。)は、その取得に応じて「株式報酬費用」として計上されます。

また、対応する金額については、ストック・オプションの権利が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上します。

 

2.費用計上額の算定

ストック・オプションの公正な評価単価にストック・オプション数(失効すると見積もられる数を除く。)を乗じて「ストック・オプションの公正な評価額」を算出し、当該公正な評価額(すなわち、 費用計上総額)を、対象勤務期間を基礎とする方法など、合理的な方法で各期において認識します。

費用計上額の基礎となる公正な評価単価は、ストック・オプションの付与時点で確定し、原則として、事後的な見直しは行われません。

 

3.権利確定日後の会計処理

ストック・オプションが権利行使された場合、対応する部分を払込資本へと振り替えます。

一方、権利不行使により失効した新株予約権は、「新株予約権戻入益」等の科目で利 益に計上されます。

 

従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引(株式交付信託)に係る会計処理

 

従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引(株式交付信託)に関しては、2013 年(平成 25 年)12 月 25 日(終改正 2015 年(平成 27 年)3月 26 日)に、ASBJ より実務対応報告第 30 号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の 取扱い」(以下「実務対応報告第 30 号」という。)が公表されています。 実務対応報告第 30 号は、従業員等(従業員又は従業員持株会。なお、「従業員等」の定義がストック・オプション会計基準と異なっているため、留意する必要があります。)に対する以下の取引に適用することとされています。

 

1.従業員への福利厚生を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された従業員に対し、信託を通じて自社の株式を交付する取引(いわゆる 株式給付型。)

 

2.従業員への福利厚生を目的として、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付 する取引(いわゆる従業員持株会型。)

 

このうち、報酬としての株式交付信託は、前者の株式給付型であり、具体的におおむね以下の取引から構成されるとしています。

 

1.企業を委託者、信託銀行を受託者、一定の要件を満たす従業員を受益者として信託契約を締結し、企業は金銭の信託を行います。

 

2.受託者(信託銀行)は信託された金銭で自社(委託者)の株式を取得する。自社の株式の取得は、企業からの金庫株の譲渡や市場からの購入等といった方法で行われます。

 

3.企業は、あらかじめ制定した株式給付規程に基づき、対象となる従業員にポイントを付与します。ポイントから換算される株式数は、信託が購入した株式数に限定されます。

 

4.付与されたポイントは、一定の要件を満たすことで受給権として確定します。受託者(信託銀行)は、信託契約に基づいて、従業員に対して自社の株式を交付します。

 

5.信託終了時に資金に余剰が生じた場合、当該余剰金は従業員に分配され、企業には帰属しません。

 

従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引(株式交付信託)のうち、株式給付型と呼ばれるスキームに係る会計処理は、以下のようになります。

1.総額法の適用

一定の要件を満たす場合、信託の決算は総額法と呼ばれる方法によって企業の決算 に取り込まれます。

 

2.自己株式処分差額の認識時点

企業の金庫株を信託に対して譲渡する場合、自己株式処分差額は、信託から従業員への交付時ではなく、自社から信託への処分時に認識されます。

 

3.従業員へのポイントの割当て等に関する会計処理

従業員にポイントが割り当てられたときには、ポイントに対応する株式数に、信託が自社の株式を取得したときの株価を乗じた金額を基礎として、費用及び対応する引当金を計上します。 また、事後的に株価が変動したとしても、引当金の見直しは行われません。

 

この実務対応報告第 30 号の適用範囲には、ストック・オプション会計基準と異なり、役員向けの株式給付型株式交付信託は含まれません。

ただし、役員向けの制度であったとしても、そのスキームの内容に応じて、実務対応報告第 30 号の定めを参考にすることが考えられるとされています。

 

権利確定条件付き有償新株予約権に係る会計処理

従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関しては、2018 年 (平成 30 年)1月 12 日に、ASBJ より実務対応報告第 36 号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(以下「実務対応報告第 36 号」という。)が公表されています。

実務対応報告第 36 号の公表によって、おおむね以下のような内容で発行される有償新株予約権につき、ストック・オプション会計基準が適用となることが明確化されました。

1.企業は、役員等を引受先として、新株予約権(市場価格がないもの)の募集要項を決議します。

2.募集新株予約権には、勤務条件及び業績条件が付されるか、又は業績条件のみが付 されています。

3.募集新株予約権を引き受ける役員等は、申込期日までに申し込みます。

4.企業は、申込者の中から募集新株予約権を割り当てる者及び数を決定します。割当てにより新株予約権者となった役員等は、払込期日までに一定の額の金銭を企業に払い込みます。

5.権利確定条件が充足された場合には、新株予約権は行使可能となり、一方、充足されなかった場合には、当該新株予約権は失効します。

6.権利確定した新株予約権の行使により、役員等は行使価格に基づく額を企業に払い 込み、この払込みを受けた企業は新株を発行するか、自己株式を処分します。

7.新株予約権が行使されずに権利行使期間が満了した場合、当該新株予約権は失効します。

 

当該有償新株予約権については、原則として、ストック・オプション会計基準の適用を受けることとなるため、業績条件を考慮しないストック・オプションの公正な評価単価に、業績条件の達成可能性を反映したストック・オプション数を乗じて、ストック・オプショ ンの付与時点のストック・オプションの公正な評価額が算定されます。

事後的に業績条件の達成可能性が高まった場合、見積ストック・オプション数が増加するため、総費用計上額は増加することになります。

この実務対応報告第 36 号の適用範囲には、従業員(使用人)のみならず、役員が含まれます。

 

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