BEPSとはどのようなものでしょうか | 社外財務部長 原 一浩
BEPSとはどのようなものでしょうか | 社外財務部長 原 一浩

社外財務部長 原一浩の公式サイト

BEPS(税源浸食と利益移転)とは何でしょうか~OECDのレポートから

BEPS(税源浸食と利益移転)とは何でしょうか~OECDのレポートから

BEPSとはどのようなものでしょうか。

Base Erosion and Profit Shiftingの略で、「税源浸食と利益移転」を意味します。

多国籍企業が各国税制の隙間を突いて、経済活動が行われている国とは異なる低税率国に利益を移す行為や実際の経済活動国で課税できない状況下で、いずれの国からも課税されない状況(二重非課税)を生み出す様な行為から、課税逃れとの批判がなされています。

各国で財政状況が厳しくなる中、このような動きに歯止めをかけるため、G20(主要20カ国・地域)とOECD(経済協力開発機構)が共同でBEPSプロジェクトを始動しました。

2015年10月、OECDは15項目の行動指針で構成されるBEPSの最終レポートを公表しました。法的拘束力はないものの、新たな国際租税ルールに従うよう、各国に条約や国内法の改正・見直しを勧告しています。

BEPSの導入により、グローバル企業は海外子会社等グループ全体の税務状況をこれまで以上に把握しなければならなくなりますが、対応が遅れている企業も少なくありません。

 

経済協力開発機構(OECD)は、2015年10月5日、税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)に対する行動計画における15の重点分野について、最終レポートを公表しました。

OECDは、プレスリリースで以下のように述べています。

BEPSによる税収の損失は、控えめに見積もっても年間1,000~2,400億米ドル、世界全体の法人税収の4~10%に達すると推計されています。開発途上国では税収のより多くの部分を法人税収に依存していることを考えると、BEPSが開発途上国に与える影響は特に大きいといえます。

「税源浸食と利益移転は、経済的な側面だけでなく、信頼の問題としても、全ての国に影響を及ぼします」とOECDのアンヘル・グリア事務総長は述べました。さらに、「BEPSは、成長の活性化や、世界的経済危機の影響への対処、全ての人々のためのより多くの質の高い機会創出などのための貴重な資源を各国から奪っています。しかし、それ以上に、BEPSは世界的に租税制度の公平性に対する市民の信頼を損なっています。OECDが本日提示する措置は、ここ1世紀ほどの間において、国際租税ルールに対する最も抜本的な変革です。これらの措置は、二重非課税に終止符を打ち、課税と経済活動及び価値創出との一致を促すものであり、それらが十分に実施されれば、BEPSを引き起こしているタックスプランニングの仕組みを無効化することになります」と述べました。

 

BEPSで示された行動指針は、大きく分けて3つの原則に分類されます。

(1)「一貫性」―国際税制を有害に又は不適切に利用することにより、本来得られない税制上のメリットを享受させないため、企業税務に一貫性を求める。

(2)「実質性」―利益が課税される場所と利益発生に貢献した者の所在地とのミスマッチを防ぐため、租税の実質性を重視する。

(3)「透明性」―税務当局による調査がより良く実施されるよう、また、税金の公正な負担が判断されるように、企業の情報提供に透明性を求める。

例えば、BEPSの行動8は知的財産など無形資産の移転価格の扱いを規定していますが、これは「実質性」に該当します。

 

BEPSの具体的な内容については、国税庁のホームページで公表されています。

税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)への取り組みについて -BEPSプロジェクト-

OECDでは、近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により生じた多国籍企業の活動実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題(BEPS)に対処するため、2012年よりBEPSプロジェクトを立ち上げました。このBEPSプロジェクトでは、 G20(財務大臣・中央銀行総裁会議)の要請により策定された15項目の「BEPS行動計画」に沿って、国際的に協調してBEPSに有効に対処していくための対応策について議論が行われ、2015年9月に「最終報告書」がとりまとめられました。

行動計画1:電子経済の課税上の課題への対処

(原題:Action 1: Addressing the Tax Challenges of the Digital Economy)

電子商取引等の電子経済に対する直接税・間接税の課税上の課題への対応を検討

行動計画2:ハイブリッド・ミスマッチ取極めの効果の無効化

(原題:Action 2: Neutralising the Effects of Hybrid Mismatch Arrangements)

金融商品や事業体に関する複数国間における税務上の取扱いの差異(ハイブリッド・ミスマッチ)の効果を無効化するため、国内法上・租税条約上の措置を検討

行動計画3:外国子会社合算税制の強化

(原題:Action 3: Designing Effective Controlled Foreign Company Rules)

軽課税国等に設立された外国子会社を使ったBEPSを有効に防止するため、適切な外国子会社合算税制を設計

行動計画4:利子控除制限ルール

(原題:Action 4: Limiting Base Erosion Involving Interest Deductions and Other Financial Payments)

相対的に税負担の軽い国外関連会社に過大に支払われた利子について損金算入を制限するルールを検討

行動計画5:有害税制への対抗

(原題:Action 5: Countering Harmful Tax Practices More Effectively, Taking into Account Transparency and Substance)

各国優遇税制の有害性を経済活動の実質性から判定するための新基準及び制度の透明性を高めるための新基準を検討

行動計画6:租税条約の濫用防止

(原題:Action 6: Preventing the Granting of Treaty Benefits in Inappropriate Circumstances)

条約漁り(第三国の居住者が不当に条約の特典を得ようとする行為)をはじめとした租税条約の濫用を防止するため、OECDモデル租税条約の改定及び国内法の設計を検討

行動計画7:恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止

(原題:Action 7: Preventing the Artificial Avoidance of Permanent Establishment Status)

PE認定の人為的な回避に対処するためOECDモデル租税条約のPEの定義について修正を検討

行動計画8‐10:移転価格税制と価値創造の一致

(原題:Actions 8-10: Aligning Transfer Pricing Outcomes with Value Creation)

○ 以下の対応策を講じるため、OECD移転価格ガイドラインの改訂等を検討

行動8:適正な移転価格の算定が困難である無形資産を用いたBEPSへの対応策
行動9:グループ内企業に対するリスクの移転、過度な資本の配分等によって生じるBEPSの防止策
行動10:その他移転価格算定手法の明確化やBEPSへの対応策

行動計画11:BEPSの規模・経済的効果の分析方法の策定

(原題:Action 11: Measuring and Monitoring BEPS)

BEPSによる法人税収の逸失規模について、データの評価・指標の抽出・分析方法の策定を実施

行動計画12:義務的開示制度

(原題:Action 12: Mandatory Disclosure Rules)

プロモーター及び利用者が租税回避スキームを税務当局に報告する制度(義務的開示制度)を検討

行動計画13:多国籍企業の企業情報の文書化

(原題:Action 13: Guidance on Transfer Pricing Documentation and Country-by-Country Reporting)

共通様式に基づいた多国籍企業情報の報告制度を検討

行動計画14:相互協議の効果的実施

(原題:Action 14: Making Dispute Resolution Mechanisms More Effective)

租税条約に関連する紛争を解決するためのより実効的な相互協議手続を検討

行動計画15:多数国間協定の策定

(原題:Action 15: Developing a Multilateral Instrument to Modify Bilateral Tax Treaties)

世界で約3,000本以上ある二国間租税条約にBEPS対抗措置を効率的に反映させるための多数国間協定を検討

 

2018年9月26日に、日本は「税源浸食および利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約(BEPS防止措置実施条約、以下「MLI」)を寄託しました。

これにより、日本においてMLIは2019年1月1日に発行することとなります。

 

 

関連記事

無料相談

おススメの記事