企業のリストラクチャリングに関連して、引当金の計上を検討する必要がある場合があります。
たとえば、事業構造改革引当金、店舗閉鎖損失引当金、事務所移転費用引当金などです。
1.概 要
リストラクチャリングの手段として、事業の整理(譲渡、統合、撤退等)や子会社等の整理(売却、清算等)、人員整理等が行われることがあります。
そのような事業構造の改善に関連して発生する費用又は損失のうち、引当金の要件を満たすものについては、リストラクチャリングに関連する引当金を計上する必要があります。
このような引当金は、総称して事業構造改革引当金という名称を用いて計上するケースが多く見受けられます。
また、リストラクチャリングの一環として、本社・事業所・工場・店舗等の移転又は閉鎖等を行うことがあります。この場合に発生する建物等の賃貸借契約の解約違約金等についても、引当金の要件を満たす場合には、引当金を計上する必要があります。
このような引当金は、具体的な内容を明らかにするため、店舗閉鎖損失引当金や事務所移転費用引当金等の名称を用いて計上するケースが多く見受けられます。
2.会計基準等
リストラクチャリングに伴い発生する費用又は損失には、固定資産の減損損失、子会社株式の評価損、人員整理に伴い発生する割増退職金等が含まれることがあります。
このような費用又は損失については、固定資産の減損損失については減損会計基準、子会社株式の減損については金融商品会計基準、割増退職金については退職給付会計基準といった関連する会計基準が適用されます。
上記以外の費用又は損失は、各々の会計基準では直接規定されていないものです。このうち金額を合理的に見積ることができるものについて、引当金の要件を満たすか否か検討する必要があります。
3.引当金の計上
企業会計原則注解18における引当金の計上要件に事業構造改革引当金等を当てはめると以下のようになります。
注解18の要件 |
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事業構造改革引当金 |
将来の特定の費用又は損失である | 将来において事業・子会社等の整理等が実行されることにより費用または損失が生じるものか | |
その発生が当期以前の事象に起因する | 当期以前に生じた経営状況の悪化を改善するために行われるものか | |
発生の可能性が高い | リストラクチャリング計画が取締役会等の意思決定機関で決議されたか | |
金額を合理的に見積ることが可能 | リストラクチャリング計画の中で具体的な金額が明示されているか |
引当金の計上要件を満たす時期としては、取締役会等の決議など会社としての意思決定がなされた時点となることが多いと考えられますが、実務上は個々の費用(損失)の性質を考慮して判断することになります。
4.引当金額の測定
金額の測定に当たっては、リストラクチャリングの対象となる拠点及び発生が見込まれる費用または損失が網羅的に把握されているかどうかを慎重に検討する必要があります。
ここでは代表的なリストラクチャリングに関連する費用または損失である事務所移転費用等や割増退職金の見積り方法について紹介します。
- 解約違約金等
賃貸借契約を中途解約した場合に発生する解約違約金や解約不能期間の賃借料等は、個別の契約書に基づいて金額を見積ることになると考えられます。
- 割増退職金
事業又は子会社等の整理に伴い従業員の早期退職の募集が行われる場合、その割増退職金は、従業員が早期退職制度に応募し、当該金額を合理的に見積ることができる時点で費用処理するとされています。
割増退職金の金額は、設定された希望退職制度の規程に従って要支出額を見積ることになると考えられます。
期末日現在では、希望退職制度の募集期間中である場合など、対象者が特定できない場合もあり、その見積りが困難なことも考えられます。その場合であっても期末日時点で入手可能な情報を関連部署等から網羅的に入手すること等により、金額を合理的に見積ることが可能か検討することが必要です。
なお、早期退職の募集期間が終了し退職者が確定した場合には、割増退職金は債務として確定していますので、引当金の取崩しが行われ、未払退職金等に振り替えられることになります。
5.他の会計基準との関係
①固定資産の耐用年数等の見積変更
リストラクチャリング計画に、固定資産の除売却が含まれている場合があります。
当該リストラクチャリング計画が取締役会によって承認決議がされた場合には、固定資産の減損の兆候に該当することになりますが、承認決議後も当該固定資産を一定期間継続して使用する場合には、耐用年数や残存価額の見積の変更を検討する必要もあります。
減損損失の認識・測定に至らなくても、耐用年数等の短縮等を実施しなくてはならないケースも出てくると考えられます。
②後発事象
決算日前にリストラクチャリング計画が決定されたが、実際のリストラクチャリング計画の実行が決算日後になった場合、後発事象に該当するか否かの検討が必要となります。
例えば、従業員に対する早期退職制度を募集する場合では、労働組合との関係等から計画通りに進まないこともあり、また、決算日をまたいで早期退職制度の募集が行われることも想定されます。
この決算日前に始まった募集期間が会計監査人の監査報告書日前までに終了する場合、財務諸表を修正する必要があるような修正後発事象に該当するか慎重に検討する必要があります。