会社法における機関設計の類型は、多数ありますが、そのうち代表的と思われる3つの形態と取締役の職務について解説します。
3つの形態は、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社です。
1.機関設計に関する会社法の規程
会社法では、次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならないとしています。
- 公開会社
- 監査役会設置会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
また、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く取締役会設置会社は、監査役を置かなければなりません。
2.取締役会の権限
会社法は、取締役会の権限についての基本的な定めを第362条で行い、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社に関しては別途規程を設けています。
(1)取締役会の構成
取締役会は、すべての取締役で組織します。
(2)取締役会の権限
取締役会には、以下の権限があります。
- 取締役会設置会社の業務執行の決定
- 取締役の職務の執行の監督
- 代表取締役の選定及び解職
取締役会は、次に掲げる事項を含む重要な業務執行の決定を取締役に委任することはできません。
- 重要な財産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
- 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
- 社債に関する事項
- 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制と株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
- 取締役等の責任の免除
なお、大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、ヘ)に掲げる事項を決定しなければなりません。
3.指名委員会等設置会社
(1)委員の選定等
① 構 成
指名委員会等設置会社とは、指名委員会、監査委員会、報酬委員会を持つ会社です。
指名委員会、監査委員会、報酬委員会の各委員会(以下、「各委員会」)は、委員三人以上で組織します。各委員会の委員の過半数は、社外取締役でなければなりません。
② 選 定
各委員会の委員は、取締役の中から、取締役会の決議によって選定します。
監査委員会の委員(以下、「監査委員」)は、指名委員会等設置会社若しくはその子会社の執行役若しくは業務執行取締役又は指名委員会等設置会社の子会社の会計参与若しくは支配人その他の使用人を兼ねることはできません。
(2)執行役の選任等
指名委員会等設置会社には、一人又は二人以上の執行役を置かなければなりません。
執行役は、取締役会の決議によって選任します。
執行役は、取締役を兼ねることができます。
(3)指名委員会の職務
指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選任及び解任に関する議案の内容を決定します。
(4)監査委員会の職務
① 執行役等の職務の執行の監査及び監査報告の作成
② 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定
(5)報酬委員会の職務
① 執行役等の個人別の報酬等の内容を決定します。
執行役が指名委員会等設置会社の支配人その他の使用人を兼ねているときは、当該支配人その他の使用人の報酬等の内容についても、同様に決定します。
② 報酬委員会は、執行役等の個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めなければなりません。
③ 報酬委員会は、次の各号に掲げるものを執行役等の個人別の報酬等とする場合には、その内容として、以下の事項を決定しなければなりません。
額が確定しているもの:個人別の額
額が確定していないもの:個人別の具体的な算定方法
金銭でないもの:個人別の具体的な内容
(6)指名委員会等設置会社の取締役の権限
指名委員会等設置会社の取締役は、会社法又は会社法に基づく命令に別段の定めがある場合を除き、指名委員会等設置会社の業務を執行することができません。
(7)指名委員会等設置会社の取締役会の権限
① 指名委員会等設置会社の取締役会は、次に掲げる職務を行います。
a)次に掲げる事項並びに指名委員会等設置会社の業務執行の決定
イ経営の基本方針
ロ監査委員会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定める事項
ハ執行役が二人以上ある場合における執行役の職務の分掌及び指揮命令の関係その他の執行役相互の関係に関する事項
ニ取締役会の招集の請求を受ける取締役
ホ執行役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
b)執行役等の職務の執行の監督
②指名委員会等設置会社の取締役会は、①に掲げた職務の執行を取締役に委任することができません。
③指名委員会等設置会社の取締役会は、その決議によって、以下に掲げる事項を除いて、指名委員会等設置会社の業務執行の決定を執行役に委任することができます。
- 譲渡制限株式の指定
- 株主からの有償取得に関する事項の決定
- 新株予約権の決定
- 株主総会招集に関する事項の決定
- 株主総会に提出する議案の内容の決定
- 競業・利益相反取引の承認
- 取締役会を招集する取締役の決定
- 委員の選定及び解職
- 執行役の選任及び解任
- 指名委員会等設置会社を代表する者の決定
- 代表執行役の選定及び解職
- 取締役等の責任の免除
- 計算書類の承認
- 剰余金の配当に関する事項の決定
- 事業譲渡の内容の決定
- 合併契約の内容の決定
- 吸収分割契約の内容の決定
- 新設分割計画の内容の決定
- 株式交換契約の内容の決定
- 株式移転計画の内容の決定
4.監査等委員会設置会社
(1)監査等委員会設置会社の取締役会の権限
① 監査等委員会設置会社の取締役会は、次に掲げる職務を行います。
a)次に掲げる事項並びに監査等委員会設置会社の業務執行の決定
イ経営の基本方針
ロ監査等委員会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定める事項
ハ取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
b)取締役の職務の執行の監督
c)代表取締役の選定及び解職
②監査等委員会設置会社の取締役会は、次に掲げる事項を含む重要な業務執行の決定を取締役に委任することはできません。
- 重要な財産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
- 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
- 社債に関する事項
- 取締役等の責任の免除
③前述の②にかかわらず、監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、監査等委員会設置会社の取締役会は、その決議によって、定められた事項以外の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができます。
④また、監査等委員会設置会社は、取締役会の決議によって②の事項を除く重要な業務執行の決定の全部又は一部を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができます。