固定資産の減損会計基準と「会計上の見積りの開示に関する会計基準」との関係 | 社外財務部長 原 一浩
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固定資産の減損会計基準と「会計上の見積りの開示に関する会計基準」との関係

固定資産の減損会計基準と「会計上の見積りの開示に関する会計基準」との関係

2021年3月期から「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下、見積開示会計基準)が原則適用となりました。

 

見積開示会計基準においては、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について、当該見積りの内容の理解に資する情報が開示されることになりました。

 

見積り項目の代表的なものの一つである固定資産の減損について、見積開示基準との関係を見ていきます。

 

1 会計上の見積りと注記内容

 

(1)会計上の見積りの定義

 

会計上の見積りとは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいうとされています。

 

(2)開示対象

 

見積開示会計基準に基づく開示対象として、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別することとされています。

識別された項目については、下記(3)の事項を注記することとされています。

 

(3)注記内容

 

・識別した項目について、会計上の見積もりの内容を表す項目名

・当年度の財務委諸表に計上した金額

・会計上の見積もりの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

 

その他の情報の例示:

・当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法

・当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定

・翌年度の財務諸表に与える影響

 

2 固定資産の減損会計における見積要素

 

(1)固定資産の減損の定義

 

固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態をいいます。

 

(2)減損処理とは

 

減損処理とは、減損の状態になった場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理です。

 

具体的な会計処理の流れは以下のようになります。

 

①資産のグルーピングを行った上で

 

②減損の兆候の有無を判定します

 

兆候がある場合には

 

③減損損失の認識要否の判定を行います

 

認識する必要がある場合には

 

④減損損失の測定を行います

 

これらの過程では、さまざまな見積りの要素や判断を要する事項が含まれています。

 

(3)資産のグルーピング

 

① 定義

 

資産のグルーピングとは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位であるとされています。

 

② グルーピングの判断

 

どのような資産グループを一つのグループとするかを判断する必要があります。

この点、実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられます。

 

グルーピングの方法によっては、減損損失の要否の判断又は減損額の結果が異なる場合が考えられます。

従って、資産のグルーピングも減損に係る見積りを行う前提として、重要な判断要素であると考えられます。

 

(4)減損の兆候の判定

 

減損の兆候の有無によって、減損会計の次のステップである減損損失の認識要否の判定に進むかどうか決まるため、兆候の有無の判定についても重要な判断要素であると考えられます。

 

減損の兆候については、減損適用指針12項から15項に例示されており、個々の企業の状況に応じて判断する必要があります。

 

例えば、「経営環境の著しい悪化」については、材料価格の高騰や製品販売量の著しい減少が続いているような市場環境の著しい悪化が示されていますが、多数の事業を営んでいたり、複数の地域で営業したりしている場合には、それらの判断はより複雑なものになると考えられます。

 

(5)主要な資産の決定

 

主要な資産とは、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産をいいます。

 

主要な資産を決定するにあたって、

 

①当該資産を必要とせずに資産グループの他の構成資産を取得するかどうか

 

②企業は、当該資産を物理的及び経済的に容易に取り替えないかどうか

 

といった要素も含めて総合的に判断する必要があります。

 

例えば、土地を主要な資産とした場合には、機械装置等を主要な資産とした場合に比べて、その将来キャッシュ・フローを見積る期間はより長くなり、割引前将来キャッシュ・フローに基づき減損の認識要否を判定する際に、認識不要とされる可能性が高くなり、減損損失が計上されない、又は減損損失の金額が小さくなるという可能性も考えられます。

 

従って、主要な資産の決定も重要な判断要素になります。

 

(6) 割引前将来キャッシュ・フローの算定

 

減損の兆候がある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識することになります。

 

そのため、割引前将来キャッシュ・フローは減損会計の見積り要素の中でも重要な要素になります。

 

割引前将来キャッシュ・フローは、将来のキャッシュ・フローのことであり、将来の予測であるため、見積りの要素が多分に入ります。

 

将来キャッシュ・フローは、取締役会等の承認を得た中長期計画の前提となった数値を、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報と整合的に修正し、各資産又は資産グループの現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して見積ることになります。

 

収益面では、会社の属する業界の市場成長率及び当該市場における会社の市場シェア率、受注予測などが見積りの前提になることも考えられます。

 

コスト面では、製造業などでは、原材料価格の変動予測を織り込んでいたり、製造プロセス見直しによる歩留り率の改善を見込んでいたりするなど、変動費率の見積りにもさまざまな仮定が織り込まれていると考えられます。

 

また、固定費、運転資本増減額、設備投資額についても何らかの仮定を置いて見積られているものと考えられます。

 

さらに、中長期計画等は一定の期間までしか策定されていないため、それ以降の期間のキャッシュ・フローについても、成長率等の一定の仮定を置いて見積る必要があります。

 

このように将来キャッシュ・フローはさまざまな見積要素が含まれています。

 

(7)正味売却価額の算定

 

減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額、すなわち、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上することになります。

 

正味売却価額とは資産又は資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算定される金額のことです。

 

土地や建物の時価については、実務では不動産鑑定評価をとることがあると思われますが、不動産鑑定評価額の算定に用いられた評価手法及び比準価格等の主要な査定項目における仮定の適切性について確認しておく必要があると考えられます。

 

(8) 使用価値の算定

 

使用価値とは、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値とされています。

 

将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引く際、その割引率が高いほど現在価値を小さくするという影響があります。そのため、割引率も減損会計の見積要素の中でも重要な要素になります。

 

将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクについては、実務上、割引率に反映させる場合が多く、この場合に使用価値の算定に際して用いられる割引率は、貨幣の時間価値と将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映することになります。

 

その際に、企業における資産グループ固有のリスクを反映した収益率や、加重平均資本コストなどを総合的に勘案して見積られているかどうかがポイントになります。

 

3 KAMとの関係

 

監査上の主要な検討事項(KAM)とは、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項であり、KAMでは、「関連する財務諸表における注記事項がある場合は、当該注記事項への参照」や「当該事項をKAMに決定した理由」などの記載が求められます。

 

このように、関連する財務諸表における注記事項がある場合には、その注記事項への参照も記載することとされており、監基報701A41項において、企業が会計上の見積りに関してより具体的な注記を行っている場合には、KAMに該当すると判断した理由及び監査上の対応を説明するために、監査人は主要な仮定、見込まれる結果の範囲、見積りの不確実性の主な原因等の注記事項に言及することがあるとされています。

 

また、監基報701第8項において、KAM決定の際の考慮要因の一つに、「見積りの不確実性の程度が高い会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断」が挙げられていることなどから、見積開示会計基準に基づいて識別された固定資産の減損に関する項目がKAMとなるケースがみられます。

 

固定資産の減損会計はKAMにおいてもさまざまな記載がなされており、監査人がどのような点を監査上の重要なポイントであると考えているかについても念頭に置いた上で、固定資産の減損会計における見積りや判断について検討することが有用であると考えられます。

 

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