東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定が発効します | 社外財務部長 原 一浩
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東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定が発効します

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定が発効します

地域的な包括的経済連携(RCEP)協定は、2012年11月に交渉が開始され、2020年11月15日にASEAN10か国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの計15か国で署名されました。RCEPは「Regional Comprehensive Economic Partnership」の略です。

 

2021年11月2日に協定の発効要件が満たされ、寄託を終えた日本、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、ラオス、ニュージーランド、シンガポール、タイ、ベトナムの10か国について、2022年1月1日に発効します。

現時点で批准が完了していない署名国は、ASEAN4カ国のインドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、及び非ASEAN国の韓国となりますが、これらの署名国は批准書、受諾書又は承認書を寄託者に寄託した日の後60日で効力を生ずることとなります。

 

JETRO日本貿易振興機構(ジェトロ)では、「RCEP協定解説書」を発行して、RCEP協定の発効に先立って、協定の概要や特恵税率の利用方法について紹介しています。

 

1.RCEP協定の意義

 

(1)RCEP参加15か国のGDPの合計は、2019年ベースで25.8兆ドルであり世界全体の29%、参加国の貿易総額(輸出額ベース)は5.5兆ドルで世界全体の29%にそれぞれ相当します。また、人口の合計は約22.7億人で、世界全体の30%を占めています。

 

(2)日本の貿易額でみますと、輸出の43.1%、輸入の49.2%をRCEP参加国が占めています。

特に、RCEP協定が日本との初のEPAとなる中国、韓国は日本の主要な貿易相手国であり、輸出額の25.6% (中国19.1%、 韓国6.6%)、輸入額の27.6% (中国23.5%、韓国4.1%)と、日本の貿易額の4分の1以上はこの2か国との貿易です。

本協定は我が国の経済成長に寄与することが期待されています。

 

(3)RCEP協定の発効により締約国内での市場アクセスの大幅な向上が期待されています。今まではASEANプラス1というかたちで、ASEANと日本や中国などの各国が、個別にEPAを締結していました。

15か国で1つの協定を締結することにより、域内すべての輸出先に対して、共通の原産地規則や税関手続の下、協定上の特恵税率が利用できることになります。

 

RCEP参加国間でのASEANプラス1の自由貿易に係る協定としては、日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP協定、2008年12月発効)の他、中国-ASEAN自由貿易協定(ACFTA、2005年7月)、韓国-ASEAN自由貿易協定(AKFTA、2007年6月)、ASEAN•オーストラリア•ニュージーランド自由貿易協定(AANZFTA、2010年1月)があります。

 

(4)本協定は、日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定を始め、ASEANと日本、中国、韓国、豪州及びニュージーランド各国との間でそれぞれ締結されている経済連携協定を踏まえた上で、地域の貿易・投資の促進及びサプライチェーンの効率化に向けて、市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる多様な国々の間で知的財産、電子商取引等の幅広い分野のルールを整備するものです。

 

2.RCEP協定の概要

 

RCEP協定のルールは以下の全20章および17の付属書で規定されています。

発展段階や制度の異なる多様な国家間での知的財産、電子商取引など幅広い分野について義務規律を規定し、域内での自由で公正な経済秩序の構築に向けた重要な一歩となるルールを整備しました。

 

 

3.RCEP協定における関税撤廃•削減の概要

 

RCEP協定における関税撤廃・削減の効果についてみてみます。

 

物品貿易の関税撤廃率はRCEP参加国全体で91% (品目数ベース)です。

特に、日本が中国、韓国と結ぶ初のEPAであることから、これら2か国との貿易で関税撤廃・削減の効果が期待されます。

日本からの輸入品に対する関税は品目数ベースで中国は86%、韓国は83%が撤廃されます。

また、すでにEPAを締結・発効している国でも、RCEP協定において、発効済のEPAを上回る関税撤廃・削減が実現される場合もあります。

 

(1)物品の貿易について(関税削減について)

 

RCEP協定は日本にとって初めて中国・韓国との結ぶFTAとなるため、日本企業にとって大きなプラスの効果が期待されています。

一方、直近発効したCPTPPや日EU EPAと比較すると、RCEP協定の関税撤廃率はやや低いと言えます。

一部の品目では、関税率引き下げ対象外、または11~21年をかけて段階的に関税率削減が行われるため、関税削減の大きな効果を得るまで時間がかかる可能性があります。

そのため、ASEAN/豪州/ニュージーランドとの取引の場合は、既存FTAの関税率と比較し、どの協定を適用するべきか検討することが推奨されます。

 

(2)関税率について(譲許表、税率差ルール)

 

関税引き下げスケジュール(譲許表)については、全締約国に一律の関税引き下げ・撤廃を約束している「共通譲許方式」をとる国(8カ国)と、相手国ごとに異なる関税引き下げ・撤廃を約束する「個別譲許方式」をとる国があります。

日本、中国、韓国は後者を採用しており、輸出国別に設けられた譲許表の確認が必要となります。

 

また、域内迂回輸入の防止措置として、各輸入国譲許表の付録に記載される特定の品目については、輸出締約国が追加的な要件を満たした場合にのみ、輸出国がRCEP協定の原産国となる「税率差ルール」が定められているため、注意が必要です。

 

4.原産地規則

 

RCEP協定における原産地規則には、原産品の定義、累積、軽微な工程及び加工、僅少の非原産材料、積送基準等が定められており、基本的に既存FTAと同様の構成内容となっています。

 

品目別規則については、ASEANのFTAで多くの品目にみられる緩やかな内容を採用しており、直近発効されたCPTPPや日EU・EPAと比較すると、要件が緩和されている傾向にあります。

 

5.原産地証明

 

RCEP協定の原産地証明手続に関しては、複数の証明制度が併存しています。具体的には以下のいずれかの文書が原産地証明として認められています。

 

(a)原産地証明書発給機関により発給された原産地証明書(第三者証明)

(b)認定された輸出者による原産地申告(認定輸出者自己証明)

(c)輸出者又は生産者による原産地申告(輸出者または生産者による完全自己証明)

(d)輸入者による自己申告制度(現時点では日本への輸入のみ)

 

輸出者又は生産者による原産地申告制度は、輸入締約国において当該制度を採用している場合に限られる見込みであることが発表されました。

複数のRCEP締約国へ輸出を行っている企業にとっては、国ごとに証明制度を確認し、自己証明制度と第三者証明制度の使い分け、管理を行う必要が生じることも想定されます。

認定輸出者自己証明制度は輸入締約国が採用している証明制度に関わらず利用することができ、第三者証明書発給のコストとリードタイムが削減できる可能性があります。

 

6.各国が任意で採用できる規定

 

規定の中には任意で採用できるルールがあり、各締約国で運用が異なるため注意が必要です。

 

(1)輸入後の通関上の特恵待遇の要求

 

第3.23条1に定められており、輸入通関後に事後的にFTA税率の適用を申請し、超過で支払った関税の還付を認めています。しかし、日本の場合は、事後的なFTA税率の適用を認めず、許可前引取り制度(BP)にて対応する必要があることが発表されています。

 

(2)連続する原産地証明(Back-to-Back CO)

 

第3.19条に定められており、これは輸出締約国の最初の原産地証明に基づいて、経由国である締約国(中間締約国)の発給機関、認定輸出者又は輸出者が発給することができる原産地証明のことをいいます。

Back-to-Back COのメリットとしては、最初の原産地証明に記載された貨物を、中間締約国で分割して各締約国に輸出する際に、その分割された貨物ごとに原産地証明を発給できる点で、ASEANのFTAで多く採用されている制度となります。

 

今後、日本を含め中間締約国でBack-to-Back COの発給が可能か、また、各証明制度のもとで(第三者証明制度、認定輸出者、輸出者自己申告制度)どのような要件が必要か各締約国の運用を確認する必要があります。

 

7.企業に求められる対応

 

(1)企業が適切にRCEP協定を運用するためには、まず、関税率と原産地規則の基礎となるHSコードを適切に付番することが求められます。

 

(2)原産地の確認は製造に係る情報を持っている輸出者/生産者の協力が不可欠です。

特に原産地申告を輸出者/生産者に依頼する場合には、輸入前に必要となる手続きを正確に把握したうえでの協力要請が必要となります。グローバル企業のグループ全体でRCEP協定を運用していく場合にも、戦略的に活用するための体制構築を行っていくことが必要です。

 

(3)多くの企業にとって利用できるFTAはRCEP協定だけでなく既存のFTAも存在するため、今後も現行FTAとRCEP協定を使い分けていくことが企業に求められます。

そのため、企業の担当者はこれまで以上に複数の原産地規則や手続きに精通し、法令を順守しながらコスト削減を実現するという困難な課題に対応していくことが必要とされます。

 

(4)一方、他のFTA同様、RCEP協定においても、輸入国の税関当局による、①輸入者、輸出者、生産者や輸出当局に対する書面による情報提供要請、②輸出者または生産者の施設への訪問、といった検認手続が定められており、事後的にRCEP協定によるFTA税率が否認される恐れがあるため、関税率、原産地規則、証明書発給方法、特例等を正確に把握し、適切に適用することが大切です。

 

(5)RCEP協定のメリットを享受できるよう、テクニカルで複雑な協定内容、手続き、検討事項等について、専門家によるサポートやシステムの導入により、リスクを最小限に抑えつつ適正に運用していくことも有益であり、実務のアウトソーシングやシステムの導入を含むFTA利用体制の強化に着手していくことが重要です。

 

8.RCEPのメリット、デメリット

 

RCEPのメリット、デメリットを見てみましょう。

 

(1)日本へのメリット

 

①関税が撤廃され、ビジネスチャンスが広がる

 

工業製品の輸出において91.5%の品目に対し関税が撤廃されます。

鉄鋼製品、電子レンジ、冷蔵庫などの家電製品や、今後成長が期待される電気自動車用のリチウムイオン電池の素材やモーターなどで大きなメリットがあるとされています。

 

②中国の巨大な市場にアクセスしやすくなる

 

RCEPにより、中国との輸出入において関税が削減されるため、貿易が活発化することが見込まれます。しかし、これまで以上に中国製品が日本に流通する可能性もあります。

 

③別の協定と比較・検討ができる

 

輸出入をする際、同じ商品であったとしても適用する協定により関税差があります。

2020年12月の段階で、日本はRCEPの他に、TPP、日EU EPAを含めて17のEPAを締結しているため、複数の協定から最適な物を選んで貿易することが可能になります。

 

(2)日本へのデメリット

 

安い製品が日本に多く入ってくると、国内の生産者や企業は価格競争に巻き込まれたりビジネスチャンスを失ったりする懸念があります。

なお、「重要5項目」である米、牛肉・豚肉、乳製品などは今回の関税の削減や撤廃の対象から外れています。

 

8.インドのRCEP協定交渉の離脱と今後の加入に向けた特別待遇

 

RCEP協定はインドを含む16か国で交渉が開始されました(2012年11月)が、インドは2020 年11月の第4回首脳会議でのRCEP協定の署名には参加しませんでした。

しかし、将来的なインドのRCEP參加のため、その他の參加国は2020年11月のRCEP首脳会議にて、RCEPがインドに対して開かれていることを共同首脳声明で確認するとともに、「インドのRCEPへの参加に係る閣僚宣言」を発出しました。

宣言には、インドが望む場合、①各国はいつでも加入交渉に応じる、②RCE協定の発効日からインドの加入のために開放される(注:インド以外は 発効日の18か月後から加入可:RCEP協定20.9条で規定した内容)、③RCEPの会合にオブザーバー参加できる、④署名国間により実施される経済協力活動に參加できる、など、インドに対する特別な扱いが明記されています。

 

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