気候関連事項のIFRS基準財務諸表の開示に関する教育目的文書の概要について | 社外財務部長 原 一浩
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気候関連事項のIFRS基準財務諸表の開示に関する教育目的文書の概要について

気候関連事項のIFRS基準財務諸表の開示に関する教育目的文書の概要について

国際会計基準審議会(以下、IASB)は 2020 年 11月 20 日に、IFRS 基準のうち気候関連事項の財務諸表開示に関連する規定をまとめた教育目的で作成された文書(以下、「本文書」)を公表しました。

 

Ⅰ 本文書の意義

 

本文書により IFRS 基準の規定が変更、削除又は追加されることはありません。

作成意図は確実な気候関連の開示を下支えすることにあります。

 

IFRS 基準は気候関連事項に関する明確な言及をしていませんが、企業はIFRS 基準を適用する際にその影響が重要となる場合には気候変動事項を考慮しなければなりません。

 

本文書に例として取り上げられているIFRS 基準はすべてを網羅するものではなく、例示以外でも気候関連事項が企業の財務諸表に影響を与える場合もあることに留意が必要です。

 

Ⅱ 本文書の要点

 

本文書では重要な要点を、IFRSの基準ごとにとりまとめています。

「財務諸表の開示」、「資産の減損」、「公正価値測定」についての記載をみてみましょう。

 

1.IAS 第1号「財務諸表の表示」

 

本文書では、気候関連事項のように IFRS 基準書に特に規定されておらず、他に表示されることがなくても、企業の財務諸表を適切に理解するための情報の開示が IAS 第1号で求められていることを強調しています。

 

(1)重要な情報

 

気候関連事項に関する情報は、企業に重要な影響を与え、投資決定に影響を及ぼすと投資家が合理的に見込む場合には目的適合となります。

 

さらに、IAS 第 1号は、重要な情報が財務諸表から欠落していないかどうかも検討しなければならないと定めています。

 

(2)将来に関する仮定

 

IAS 第 1号では、翌事業年度に帳簿価額の重要な修正が生じる著しいリスクが存在する場合、企業が将来について行う仮定に関する情報の開示が求められています。

 

また、IAS 第1号では、認識する金額に最も著しい影響を与える判断についても開示しなければならないと定められています。

 

気候関連事項は、企業が行う多くの判断に影響を与えますので、企業はそれらの判断を開示することを検討しなければなりません。

 

(3)継続企業

 

IAS 第 1号では、企業の継続企業として存続する能力に著しい疑義を生じさせる重要な不確実性の開示が求められています。

 

気候関連事項によって、企業の継続企業として存続する能力に著しい疑義を生じさせる事象又は状況に関する重要な不確実性が生じることがあります。

 

継続企業の前提で財務諸表を作成することが適切かどうかを評価するにあたり、気候関連事項に関する情報は他の不確実性と併せて検討しなければなりません。

 

2.IAS 第36号「資産の減損」

 

(1)減損テスト

 

資産又は資金生成単位(CGU)(のれんを含む)の帳簿価額は、減損テストに気候関連事項の影響を考慮に入れないとしたら過大に表示される可能性があります。

 

企業は各報告期間に減損の兆候が存在するかどうかを評価しなければなりません。

気候関連事項に対するエクスポージャーは、資産(又は資産のグループ)が減損している兆候になり得ます。

 

たとえば、温室効果ガスを排出する製品の需要が低下する場合、それは製造工場が減損していることを示唆する可能性があります。

 

気候関連事項に関する規制の変更も考慮しなければなりません。

 

のれんの年次減損テストを行う場合にも同じように、これらの要因について考慮する必要があります。

 

(2)将来の仮定

 

IAS 第 36 号では、回収可能価額が使用価値を用いて見積もられる場合、将来の経済状況の予測に基づく一定のレンジを定め、経営者の最良の見積りを表す合理的かつ裏付け可能な仮定を基に決定しなければならないと定められています。

 

したがって、企業は、気候関連事項がこれらの仮定に影響を与えるかどうかを検討しなければなりません。

 

(3)将来キャッシュ・フローの見積もり

 

IAS 第 36 号ではまた、使用価値の計算にあたり、将来キャッシュ・フローを資産の現在の状態に基づいて見積もらなければならないと定められており、企業は資産の性能を向上させることで生じると見込まれるキャッシュ・フローの見積りを除外する必要があります。

 

気候関連事項に関する要求事項に準拠するように資産をメンテナンスするための関連費用を除外すべきかどうかについては判断が必要となります。

 

(4)公正価値

 

回収可能価額が処分費用控除後の公正価値を基に見積られる場合、企業は、それぞれの資産及びCGUの公正価値測定に影響を及ぼす可能性がある潜在的な気候関連の法律に関する市場参加者の見通しを考慮する必要があります。

 

製造コストの増加につながる排出削減法案の導入など、気候リスクが企業に重要な影響を与える場合、そうしたリスクが回収可能価額の計算にどのように織り込まれているかについての情報も財務諸表の利用者にとって目的適合性があると言えます。

 

(5)回収可能価額

 

回収可能価額を測定するのに用いた重要な仮定及びこれらの仮定の合理的に考え得る変更に関する情報の開示も状況によっては求められます。

 

気候関連事項は、合理的に変更され得るものに影響を与える可能性があります。

 

3.IFRS 第13号「公正価値測定」

 

法律をはじめとする潜在的な気候関連事項に関する市場参加者の期待は、財務諸表上の資産及び負債の公正価値測定に影響を及ぼす可能性があります。

 

また、気候関連事項は、公正価値測定、特に公正価値ヒエラルキーの「レベル3」に区分される公正価値測定の開示にも影響を及ぼす可能性があります。

 

IFRS 第13号では公正価値測定に使用される観察不能なインプットの開示が求められています。

 

それらのインプットは、気候関連リスクに関する仮定をはじめ、市場参加者が用いる仮定を反映するものでなければなりません。

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