気候関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Climate-related Financial Disclosure :TCFD )による提言 | 社外財務部長 原 一浩
気候関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Climate-related Financial Disclosure :TCFD )による提言 | 社外財務部長 原 一浩

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TCFD による提言~策定の経緯、提言の特徴、リスクマネジメント、開示すべき情報

TCFD による提言~策定の経緯、提言の特徴、リスクマネジメント、開示すべき情報

1.経緯

(1)気候変動

昨今、豪雨や台風といった自然災害が地球規模で増加しており、その影響は企業にとっても無視できないレベルにまで拡大しています。

このように激甚化する自然災害の一因と推測されているのが、地球温暖化です。地球温暖化とは、温室効果ガスに起因する地球の平均気温上昇という現象であり、国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)によると、今世紀末にはさらに0.3℃~4.8℃の範囲で上昇するとされています。

この気候変動に伴うさまざまなリスクが懸念されており、世界経済フォーラムがダボス会議の開催に合わせて毎年公表している「The Global Risks Report」の2018年版でも、発生可能性が高い負のリスクとして上位五つの中の一つに挙げられています。

 

(2)投資への影響

 

このように、気候変動に関連するリスクの重要性は世界的に高まっており、投資の世界においても気候変動リスクに関する情報開示を企業に求める機運が高まっています。

急速に高まる気候変動リスクは投資行動にも影響を及ぼしています。

具体例として、座礁資産を懸念した投資引き揚げ(ダイベストメント)の動きが挙げられます。座礁資産とは、市場環境や社会動向の劇的な変化によって価値が大きく毀損(きそん)し、投資資金が回収できなくなる資産を指します。

気候変動対応としてゼロ・カーボンの実現が求められる社会では、温室効果ガスを排出する化石燃料に関わる資産は価値が無くなってしまうため、座礁資産に該当します。

このため、世界各国で次々と年金基金や金融機関が投資を引き揚げ始めています。日本でも、生命保険業界を中心に同様の動きが起きています。

 

(3)TCFD提言

 

このように、企業の気候変動への対応が投資意思決定を左右し得る状況を踏まえ、TCFDは、整合性のある「金融市場が気候変動リスクを理解する一助となる開示」の提示を目指し、G20の財務大臣・中央銀行総裁会合コミュニケの要請を受けた金融安定理事会(Financial Stability Board:FSB)によって15年に設置されました。
1年半あまりの検討の後、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Climate-related Financial Disclosure:TCFD)による提言が2017年6月に公表されました。TCFDが公表した提言は、FSBを通じて同年のG20サミットに報告されました。

 

2.TCFDコンソーシアム

2015 年12 月に採択されたパリ協定を受け、金融業界を中心に、気候変動が投融資先の事業活動に与える影響を評価する動きが世界的に広まっています。
このような中で、G20財務大臣及び中央銀行総裁の意向を受け、金融安定理事会(FSB)が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD; Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」は2017年6月に最終報告書(以下「TCFD提言」)を公表しており、我が国においてもTCFD 提言への対応に向けた機運が高まっています。

 

このような背景の下、わが国では、2019年5月27日にTCFDコンソーシアム(以下「コンソーシアム」)の設立総会が開催されました。コンソーシアムでは、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについて議論が行われる予定です。

 

3.TCFD提言

 

(1)提言の特徴


提言の特徴として、以下が挙げられます。

①対象は債券、株式の発行主体全てとなり、企業のほか、公的/民間年金基金、財団も含んでいる。

 

②金融セクターおよび一部の高リスク非金融セクター(エネルギー、運輸、材料・建築、農業・食品・木材製品)に対してはセクター向け補助ガイダンスが提供されており、より具体的な実践が求められる。

 

③気候変動に関するリスクと機会の開示を求めている。気候変動リスクは、移行リスクと物理リスクに分類される。

 

④財務書類における開示を求めている。このため、開示情報には適切な内部統制・品質管理が求められる。

 

⑤先見性のある情報をステークホルダーに提供するため、気候変動によって自社がどのような影響を受けるのか想定し得るシナリオを、長期的に分析することが推奨されている。

 

(2)気候変動のリスクマネジメント

 

TCFDは、気候変動に関するリスクと機会の特定および管理を既存のリスクマネジメントシステムに組み込むことの重要性を強調しています。

 

 

(3)開示すべき情報

 

TCFDの提言は「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」から構成されており、それぞれのテーマにおいて開示すべき情報が示されています。

 

①ガバナンス:気候関連リスク・機会に係るガバナンス体制について開示する

 

②戦略:気候関連リスク・機会がビジネス・戦略・資金計画に与える影響について開示する

 

③リスク管理:気候関連リスクをどのように特定・評価及び管理しているかについて開示する

 

④指標と目標:気候関連のリスク・機会を評価・管理する指標と目標について開示する

 

 

このように、気候関連リスク・機会を経営の中核要素に組み込んで報告していくことで、株主・投資家は気候変動が企業にもたらす財務的インパクトの内容とボリューム、そして企業がどのようにそれを把握し、経営の中で管理しているのかを知ることができます。

 

(4)今後の対応

 

TCFDの提言が示すフレームワークに即した情報開示を実現するためには、既存のガバナンスやリスクマネジメントプロセスの変更を伴うため、時間や人材を含むさまざまなコストが必要となります。

気候関連リスク・機会は、社会・環境要因を配慮したESG投資や社会的責任投資SRIにとどまらず、メインストリームの投資家においても重視されるファクターとなっています。

この流れは、低炭素社会への移行が進むにつれ、ますます強まることが予想されますので、気候変動リスクの開示に向けて迅速な対応が望まれます。

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