監査人と監査役等とのコミュニケーション | 社外財務部長 原 一浩
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監査上の主要な検討事項(KAM)の記載と関連する監査人と監査役等とのコミュニケーション~

監査上の主要な検討事項(KAM)の記載と関連する監査人と監査役等とのコミュニケーション~

監査基準の改定により「監査上の主要な検討事項」の記載が導入されました。

これを受けて、日本公認会計士協会は、関連する監査基準委員会報告書を改訂しました。

一連の改定の中で、監査人と監査役とのコミュニケーションについても改訂されています。

 

1.「監査基準委員会報告書701 監査上の主要な検討事項」における取り扱い

 

(1)「監査計画」について

監査人は、計画した監査の範囲とその実施時期の概要について、監査役等とコミュニケー ションを行わなければなりません。これには監査人により識別された特別な検討を必要とするリスクが含まれます。

 

(2)「監査上の重要な発見事項」について

監査人は、以下の監査上の重要な発見事項について、監査役等とコミュニケーションを行わなければなりません。

 

① 会計方針、会計上の見積り及び財務諸表の表示及び注記事項を含む、企業の会計実務の質的側面のうち重要なものについての監査人の見解

 

②監査期間中に困難な状況に直面した場合は、その状況

 

③監査の過程で発見され、経営者と協議したか又は経営者に伝達した重要な事項

 

④監査人が要請した経営者確認書の草案

 

⑤監査報告書の様式及び内容に影響を及ぼす状況

 

⑥監査の過程で発見され、監査人が、職業的専門家としての判断において財務報告プロセスに対する監査役等による監視にとって重要と判断したその他の事項

 

 

(3)「監査上の主要な検討事項」について

監査人は、以下に関して監査役等とコミュニケーションを行わなければなりません。

 

① 監査人が、監査上の主要な検討事項と決定した事項

 

②企業及び監査に関する事実及び状況により、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断した場合はその旨

 

 

(4)「経営者との協議事項又は伝達した重要な事項」について

経営者との協議事項又は伝達した重要な事項には、例えば、以下の事項が含まれます。

 

・ 会計年度中に発生した重要な事象又は取引

 

・ 企業に影響を与える産業の状況、及び重要な虚偽表示リスクに影響を与える可能性がある事業計画や予算等

 

・ 会計上、監査上の事項に関して経営者が他の会計の専門家に照会している事項に対する 懸念

 

・ 監査契約の新規の締結又は更新時に行った、会計実務、監査基準の適用、又は監査若しくはその他の業務報酬に関する協議又はやりとり

 

・ 経営者の見解と相違がある重要な事項。ただし、不完全な事実又は不確定な情報に基づいていたために当初は見解の相違があったが、追加的な関連する事実又は情報入手により事後的には解決したものは除く。

 

 

(5)監査役等とのコミュニケーション

 

①監査役等とのコミュニケーション

監査基準委員会報告書260第20項は、監査人が監査役等とのコミュニケーションを適時に行うことを求めています。

 

監査上の主要な検討事項に関するコミュニケーションの適切な時期は、業務の状況により様々ですが、監査人は、計画した監査の範囲と実施時期についてコミュニケーションを行う際に、通常、監査上の主要な検討事項となる可能性がある事項についてもコミュニケーションを行います。

 

また、これらの監査上の主要な検討事項となる可能性がある事項については、監査の過程で新たに追加したものを含め、監査上の発見事項を報告する際に更にコミュニケーションを行うこととなります。

 

これらにより、財務諸表の発行に向けた最終段階における、監査上の主要な検討事項についての議論がより円滑になります。

 

②監査上の主要な検討事項に関するコミュニケーション

 

監査人とのコミュニケーションを通じて、監査役等は、監査人が監査報告書において報告することを想定している監査上の主要な検討事項を認識し、必要に応じて理解を深める機会を得ることができます。

 

監査役等との協議を促進するために、監査報告書の草案を監査役等に提示することは有用です。

 

そのような監査人とのコミュニケーションにより、監査役等は、監査上の主要な検討事項に関する監査人の判断の根拠及び当該事項が監査報告書において、どのように記述されているかを理解することができ、それが、監査役等が財務報告プロセスを監視する重要な役割を果たすことにつながります。

 

また、監査人とのコミュニケーションによって、監査役等は、監査上の主要な検討事項が監査報告書において報告されることを踏まえて、当該事項に関連する追加的な情報を開示することが有用かどうかの検討に役立てることができます。

 

 

2.「監査基準委員会報告書260 監査役等とのコミュニケーション」における取り扱い

(1) 財務諸表監査に関連する監査人の責任の説明

監査人は、以下の事項について監査役等と適切なコミュニケーションを行います。

 

・ 一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した監査の実施に関する監査人の責任は、財務諸表に対する意見の表明であること

 

また、監査基準委員会報告書等がコミュニケーションの実施を要求する事項は、財務諸表監査から生じた、財務報告プロセスを監視する監査役等に関連する重要な事項であること

 

・ 一般に公正妥当と認められる監査の基準は、監査人に、監査役等とコミュニケーション を行うために、特段の追加的な手続を立案することを要求していないこと

 

・ 監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」に基づき、法令又は任意で監査上の主要な検討事項を監査報告書に記載する場合、 監査上の主要な検討事項を決定し、報告する監査人の責任

 

・ 該当する場合、法令、企業との合意、又は日本公認会計士協会の報告書等の業務に適用 される追加的な要求事項によって求められる、コミュニケーションに対する監査人の責任

 

 

(2)監査役等とのコミュニケーションを行う事項

コミュニケーションを行う事項には、例えば、以下が含まれます。

 

・ 不正又は誤謬による、重要な虚偽表示に係る特別な検討を必要とするリスクへの監査人 の対応

 

・ 特別な検討を必要とするリスク以外に識別している重要な虚偽表示リスクが高い領域へ の監査人の対応

 

・ 監査に関連する内部統制についての監査人の監査アプローチ

 

・ 監査に適用される重要性の概念(監査基準委員会報告書320「監査の計画及び実施における重要性」参照)

 

・ 監査人の利用する専門家の業務の利用を含む、計画した監査手続の実施又はその結果の 評価において必要となる、特定分野での技能又は知識の内容及び範囲(監査基準委員会報告書620「専門家の業務の利用」参照)

 

・ 監査基準委員会報告書701が適用となる場合、監査において監査人が特に注意を払う領域であり、監査上の主要な検討事項となる可能性がある事項に関する監査人の見解

 

・ 適用される財務報告の枠組みの改正、並びに企業環境、事業活動及び財務状況における 重要な変更が個々の財務諸表や注記事項に与える影響に対する、監査人が計画した監査アプローチ

 

 

(3) 監査上の重要な発見事項 に関するコミュニケーション

監査上の発見事項について行うコミュニケーションにおいて、監査人は、入手した監査証拠を補強するため、監査役等に追加の情報を求めることがあります。

 

例えば、監査人は、特定の取引又は事象に関連する事実と状況について監査役等に質問し、監査役等の理解が監査人と同じであることを確かめることがあります。

 

監査基準委員会報告書701が適用される場合、監査上の主要な検討事項は監査人が特に注意を払った事項から決定するため、以下の事項に関する監査役等とのコミュニケーションは、監査上の主要な検討事項を決定する際、特に有用です。

 

・ 識別した特別な検討を必要とするリスク

 

・ 監査上の重要な発見事項

 

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