2020年11月6日に、企業会計審議会より「監査基準の改訂について」が公表されました。
1.「その他の記載内容」について
(1)監査報告書における「その他の記載内容」に係る記載の位置付け
①監査人は、「その他の記載内容」に対して意見を表明するものではありません
②「その他の記載内容」に係る記載は、監査意見と明確に区別された情報提供です
③監査人の「その他の記載内容」に係る役割を一層明確にしました
(2)「その他の記載内容」に対する手続き
① 手続き
・監査人は、「その他の記載内容」を通読することとなります
・「その他の記載内容」と財務諸表または監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかについて検討することを明確にしました
・監査人は、新たな監査証拠の入手を求められるものではありません
② 監査人が、重要な相違や重要な誤りに気づいた場合
・経営者との協議など追加の手続きを実施します
・重要な誤りが解消しない場合には、その旨及びその内容を監査報告書に記載する等の適切な対応を行います
(3)「その他の記載内容」の記載
監査報告書に「その他の記載内容」の区分を設け、下記を記載することになりました。
・「その他の記載内容」の範囲
・「その他の記載内容」に対する経営者及び監査役等の責任
・「その他の記載内容」に対して監査人は意見を表明するものではない旨
・「その他の記載内容」に対する監査人の責任
・「その他の記載内容」に対して監査人が報告すべき事項の有無、報告すべき事項がある場合はその内容
(4)経営者・監査役等の対応
経営者は、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、適切に修正することが求められます。
監査役等においても、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、経営者に対して修正するよう積極的に促していくことが求められます。
2.リスク・アプローチの強化について
(1)リスク・アプローチに基づく監査
①財務諸表全体レベル
固有リスク及び統制リスクを結合した重要な虚偽表示のリスクを評価する考え方を維持しています
②財務諸表項目レベル
固有リスクと統制リスクを分けて評価します
③特別な検討を要するリスク
固有リスクを踏まえた定義となります
④会計上の見積もり
・重要な虚偽表示のリスクの評価に当たり固有リスクと統制リスクを分けて評価することを前提としています
・原則として、経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを評価する手続きが必要となります
・また、経営者が行った見積もりと監査人の行った見積もりや実績と比較する手続きも引き続き重要です
・今回の改訂に係る部分を除いて、従来のリスク・アプローチの概念や考え方は踏襲されています
(2)財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクの評価
・財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを構成する固有リスクについて
・重要な虚偽の表示がもたらされる要因を勘案して
・固有の虚偽表示が生じる可能性と当該虚偽表示が生じた場合の影響を組み合わせて評価することとしました
・この影響は、金額的影響だけでなく質的影響も含まれます
(3)特別な検討を必要とするリスクの定義
①現行の監査基準
・会計上の見積もりや収益認識等の重要な会計上の判断に関して
・下記の事項・取引等は、監査の実施過程において特別な検討を行う必要があります
・財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項
・不正の疑いのある取引
・特異な取引等
・そのため、特別な検討を要するリスクとして
・それが財務諸表における重要な虚偽表示をもたらしていないかを確かめる実証手続きの実施を求めています
②リスク・アプローチに基づく監査の実施
・財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを適切に評価することがより一層重要となっています
・監査人は、固有リスクに着目して特別な検討を行う必要があるか検討する必要があります
③特別な検討を必要とするリスクの定義
・財務諸表項目レベルにおける評価において
・虚偽の表示が生じる可能性と
・当該虚偽の表示が生じた場合の影響の
・双方を考慮して
・固有リスクが最も高い領域に存在すると評価したリスク
3.実施時期等
(1)「その他の記載内容」
2022年3月決算に係る財務諸表の監査から実施となります。
2021年3月決算に係る財務諸表の監査から実施することができます。
(2)リスク・アプローチの強化
2023年3月決算に係る財務諸表の監査から実施となります。
それ以前の決算に係る財務諸表の監査から実施することは妨げられません。