Ⅰ.はじめに
「監査基準の改定について」が、2018年7月5日に企業会計審議会から公表されました。
経緯の中で、改訂事項について以下のように述べられています。
2 報告基準に関わるその他の改訂事項について
国際的な監査基準では、 「監査上の主要な検討事項」 の記載以外にも、 監査報告書の記載内容の明瞭化や充実を図ることを目的とした改訂が行われている。
当審議会は、 我が国においても、 財務諸表利用者の監査及び財務諸表への理解を深めるとともに、 国際的な監査基準との整合性を確保する観点から、 これらの点についても監査基準の改訂を行うこととした。
(1) 監査報告書の記載区分等
現行の我が国の監査基準では、監査報告書には、監査の対象、経営者の責任、監査人の責任、 監査人の意見を区分した上で記載することが求められている。
この点に関して、以下の通り改訂を行うこととする。
監査人の意見を監査報告書の冒頭に記載することとし、記載順序を変更するとともに、新たに意見の根拠の区分を設ける
経営者の責任を経営者及び監査役等の責任に変更し、 監査役等の財務報告に関する責任を記載する
また、改訂後の監査基準の報告基準では、以下のように規定されています。
第四 報告基準
監査報告書の記載区分
1 監査人は、監査報告書において、監査人の意見、意見の根拠、経営者及び監査役等の責任、 監査人の責任を明瞭かつ簡潔にそれぞれを区分した上で、 記載しなければならない。 ただし、 意見を表明しない場合には、 その旨を監査報告書に記載しなければならない。
2 監査人は、次に掲げる事項を監査報告書に記載するに当たっては、別に区分を設けて、 意見の表明とは明確に区別しなければならない。
(1)継続企業の前提に関する事項
(2) 当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、 職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項(以下「監査上の主要な検討事項」 という。)
(3) 財務諸表の記載について強調する必要がある事項及び説明を付す必要がある事項
Ⅱ.監査報告遺書の文例
日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」(以下、監基報700)も、監査基準の改定にあわせて改訂されました。監基報700の内容を見てみましょう。
1.監査報告書の記載事項
監査報告書の記載事項は、以下のようになりました。
・監査意見
・監査意見の根拠
・継続企業の前提に関する重要な不確実性(該当する場合)
・監査上の主要根検討事項
・追記情報(強調事項、その他の事項)(該当事項がある場合)
・財務諸表に対する経営者及び監査役等の責任
・財務諸表監査に対する監査人の責任
2.監査基準委員会報告700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」の文例の前提
《文例1》では、以下の状況を前提として、監査報告書の文例を示しています。
・上場企業の適正表示の枠組みに準拠して作成された完全な一組の一般目的の財務諸表の監査である。
・当該監査は、グループ監査ではない。
・監査契約書において、監査基準委員会報告書210の財務諸表に対する経営者の責任が記載されている。
・監査人は、入手した監査証拠に基づいて、無限定適正意見が適切と判断している。
・監査人は、入手した監査証拠に基づいて、監査基準委員会報告書570に従って、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関連する重要な不確実性は存在 しないと判断している。
・監査基準委員会報告書701に従って、監査上の主要な検討事項を報告することが求められている。
・会社は監査役会設置会社である。
・監査人は、財務諸表の監査に加えて、法令等に基づくその他の報告責任を有する。
3.改訂後の文例
文例のうち、赤字の箇所が追加記載項目となります。
独立監査人の監査報告書
[宛先]
[監査報告書の日付]
[○○監査法人]
[事業所名]
[監査人の署名]
監査意見
(省略)
監査意見の根拠
(省略)
監査上の主要な検討事項
監査上の主要な検討事項とは、当事業年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専 門家として特に重要であると判断した事項である。
監査上の主要な検討事項は、財務諸表全体に対する監査の実施過程及び監査意見の形成において対応した事項であり、当監査法人は、当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。
[監査基準委員会報告書 701 に従った監査上の主要な検討事項の記載]
財務諸表に対する経営者並びに監査役及び監査役会の責任
経営者の責任は、[適用される財務報告の枠組み]に準拠して財務諸表を作成し適正に表示することにある。
これには、不正又は誤謬による重要な虚偽表示のない財務諸表を作成し適正に表示するために経営者が必要と判断した内部統制を整備及び運用することが含まれる。
財務諸表を作成するに当たり、経営者は、継続企業の前提に基づき財務諸表を作成することが適切であるかどうかを評価し、[適用される財務報告の枠組み]に基づいて継続企業に関する事項を開示する必要がある場合には当該事項を開示する責任がある。
監査役及び監査役会の責任は、財務報告プロセスの整備及び運用における取締役の職務の 執行を監視することにある。
財務諸表監査における監査人の責任
監査人の責任は、監査人が実施した監査に基づいて、全体としての財務諸表に不正又は誤 謬による重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得て、監査報告書において 独立の立場から財務諸表に対する意見を表明することにある。
虚偽表示は、不正又は誤謬により発生する可能性があり、個別に又は集計すると、財務諸表の利用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に、重要性があると判断される。
監査人は、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って、監査の過程 を通じて、職業的専門家としての判断を行い、職業的懐疑心を保持して以下を実施する。
・ 不正又は誤謬による重要な虚偽表示リスクを識別し、評価する。また、重要な虚偽表示リスクに対応した監査手続を立案し、実施する。監査手続の選択及び適用は監査人の判断による。さらに、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手する。
・ 財務諸表監査の目的は、内部統制の有効性について意見表明するためのものではないが、 監査人は、リスク評価の実施に際して、状況に応じた適切な監査手続を立案するために、 監査に関連する内部統制を検討する。
・ 経営者が採用した会計方針及びその適用方法の適切性、並びに経営者によって行われた会計上の見積りの合理性及び関連する注記事項の妥当性を評価する。
・ 経営者が継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切であるかどうか、また、入手した監査証拠に基づき、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関して重要な不確実性が認められるかどうか結論付ける。
継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合は、監査報告書において財務諸表の注記事項に注意を喚起すること、又は重要な不確実性に関する財務諸表の注記事項が適切でない場合は、財務諸表に対して除外事項付意見を表明することが求められている。
監査人の結論は、監査報告書日までに入手した監査証拠に基づいているが、将来の事象や状況により、企業は継続企業として存続できなくなる可能性がある。
・ 財務諸表の表示及び注記事項が、[適用される財務報告の枠組み]に準拠しているかどうかとともに、関連する注記事項を含めた財務諸表の表示、構成及び内容、並びに財務諸表が基礎となる取引や会計事象を適正に表示しているかどうかを評価する。
監査人は、監査役及び監査役会に対して、計画した監査の範囲とその実施時期、監査の実施過程で識別した内部統制の重要な不備を含む監査上の重要な発見事項、及び監査の基準で 求められているその他の事項について報告を行う。
監査人は、監査役及び監査役会に対して、独立性についての我が国における職業倫理に関 する規定を遵守したこと、並びに監査人の独立性に影響を与えると合理的に考えられる事項、及び阻害要因を除去又は軽減するためにセーフガードを講じている場合はその内容について報告を行う。
監査人は、監査役及び監査役会と協議した事項のうち、当事業年度の財務諸表の監査で特 に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項と決定し、監査報告書において記載する。
(以下、省略)
利害関係
(省略)