経営研究調査会研究報告第66号 「機械設備の評価実務」について0 | 社外財務部長 原 一浩
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経営研究調査会研究報告第66号 「機械設備の評価実務」について

経営研究調査会研究報告第66号 「機械設備の評価実務」について

経営研究調査会研究報告第66号 「機械設備の評価実務」が、2019年7月12日に、日本公認会計士協会より公表されました。

 

1.本研究報告の背景及び目的

 

機械設備の評価は多くの局面で利用されますが、現時点で我が国では、機械設備の評価が、法令等により強制されることはなく、準拠しなければならない「基準」や「マニュアル」もありません。

 

公認会計士は、機械設備の評価に際して様々な形で関与することになります。

 

例えば、監査人の立場で機械設備の評価書を検討する場合、機械設備の評価を依頼される場合又は機械設備の評価について助言を求められる場合等です。

 

このような様々な場合において、公認会計士が参考にすることができるよう、機械設備の評価実施について取りまとめたのが「機械設備の評価実務」(以下「本研究報告」という。)です。

 

2.本研究報告の概要と特徴

 

本研究報告は、機械設備の評価が利用される局面のうち、公認会計士が会計目的、その中でもPPA目的(Purchase Price Allocation:M&A における取得原価の配分目的)で機械設備の評価を依頼された場合を想定して構成されています。

 

また、減損会計における留意点についても、個別論点として言及しています。

 

業務を受嘱した公認会計士は、機械設備評価に当たって、まず情報の収集と調査を開始します。

その結果を基に要因分析を実施し、評価アプローチや評価法を選定します。

本研究報告は、こういった評価の基本的な概要と実務について記述されています。

 

なお、これまでの研究報告と比べて下記の特徴があります。

 

① 国際評価基準審議会(International Valuation Standards Council:以下「IVSC」 という。)から「国際評価基準2017年版」(2017 International Valuation Standards)が公表されました。本研究報告では、これを引用・参考にしています。

IVSC は、国際評価基準の策定や維持等に寄与するために設立された国際団体です。日本公認会計士協会も、2016年10月にこの団体のInstitutional Memberとして加入しています。

 

② 工場にある資産を評価する場合、国内だけではなく海外にも業務範囲が及ぶ場合があります。

国内で工場の資産を評価する場合でも、公認会計士以外に、不動産鑑定士、無形資産評価専門家、機械設備の評価専門家が関与することになります。

機械設備の評価業務でも、評価チームを編成して、各地にある工場の機械設備の評価を実施する場合もあります。

本研究報告では、複数の評価専門家による評価を「共同評価」と称して、実務上の留意点について検討しています。

 

③ 評価アプローチには、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ及びコスト・アプローチの三つがあります。

車両、工作機械、パソコンのように中古市場が形成されている機械設備もありますが、多くの場合、コスト・アプローチの採用が多いと想定されます。

本研究報告では、このコスト・アプローチの評価例を検討しています。

 

3.本研究報告が対象とする評価業務

 

本研究報告が対象としているのは、製品の製造に関連する下記の資産です。本研究報告ではこれらを「機械設備」と呼称しています。

 

① 機械装置

② 工具器具備品

③ 車両運搬具

 

工場には土地及び建物もありますが、これらは我が国においては不動産鑑定士の業務範囲であることから、本件評価での検討対象とはしていません。

ただし、本研究報告で不動産や無形資産を含む工場全体の評価について言及している場合には、「機械設備」と区別して「工場資産」と呼称しています。

 

4.国際評価基準の概要

 

資産及び負債の評価に関して、国際評価基準( International Valuation Standards:以下「IVS」という。)がIVSCにより作成されています。本研究報告でも引用・参考にしている文献として挙げています。

 

本研究報告では、文献名としてこれを「国際評価基準2017年版」と称しています。

「国際評価基準2017年版」は、事業及び事業持分、無形資産、不動産の諸権利、開発に伴う資産及び金融商品といった幅広い資産等の評価を対象としていますが、機械設備に関する基準もその中に含まれています。

 

また、「国際評価基準2017年版」は一般基準として業務の適用範囲、調査と遵守、報告、価値の基礎及び評価アプローチを定めています。その上で、上記のように資産別基準を設けています。

 

機械設備の評価は、当該資産別基準の一つのセクション (IVS300)です。

IVSは評価基準ですが、客観性等について、IVSCは専門評価人の倫理原則(Code of Ethical Principles for Professional Valuers)によって専門家行動のための適切な枠組みの例も提供しています。

 

5.本研究報告の利用上の留意点

 

前述のとおり、我が国において公認会計士が機械設備の価値を評価する際に準拠しなければならない「基準」や「マニュアル」がない状況で、本研究報告は、機械設備の評価実務をまとめたものです。

 

本研究報告には規範性はありません。

 

しかしながら、機械設備の評価を行うに当たっては、本研究報告が利用可能であり、参考になるものと期待されます。

 

また、本研究報告は、会計目的の場合の評価実務を中心に取りまとめられていますが、取引目的(機械設備の売買や企業価値評価の一環として実施される評価)や裁判目的(機械設備評価をめぐる紛争や鑑定人としての機械設備の鑑定)、さらには、 会社更生や民事再生といった処分目的においても参考になるものと期待できます。

 

さらに、公認会計士が機械設備の評価を依頼される場合のほかに、機械設備の評価について助言を求められる場合や、監査人の立場で機械設備の評価書を検討する場合にも、本研究報告が参考になるものと期待できます。

 

我が国における機械設備の評価実務は、企業価値評価と比べてもまだ日が浅く、今後この分野の評価実務が積み重ねられることが想定されます。

 

そのため、本研究報告の公表以降に、信頼性が高いものとして定着した評価実務については、本研究報告に記述のないものであっても、その採用が妨げられるべきではありません。

 

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