財務デュー・デリジェンスにおける貸借対照表分析について | 社外財務部長 原 一浩
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財務デュー・デリジェンスにおける貸借対照表分析について

財務デュー・デリジェンスにおける貸借対照表分析について

1.目的

貸借対照表分析の目的は、調査基準日における貸借対照表を分析し、適正な簿価純資産と時価純資産を把握し、他の分析や価値算定のために必要な情報を収集することです。

 

(1)適正な簿価純資産と時価純資産の把握

 

簿価純資産が企業価値評価に直接結びつくことは、ネットアセット・アプローチを採用している場合を除いてはありません。

しかし、企業価値評価の検証手段として、簿価純資産の把握は重要です。

 

まず、評価対象会社の貸借対照表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成されているかどうかを検証する必要があります。

 

(2)適正な簿価純資産への修正

 

簿価純資産の把握では、以下の点に留意が必要です。

 

①経営難の会社では粉飾決算が行われている可能性があります。

②小規模な会社では、税法基準で会計処理が行われている場合があります。

 

修正項目の代表例としては、下記の項目があげられます。

 

①回収可能性が乏しい売掛金

②滞留在庫

③含み損のある有価証券、投資等

④各種引当金の未計上

 

 

(3)時価純資産への置き換え

 

適正に作成された簿価純資産を基にして、時価純資産に置き換えるための修正を行うことになります。

実務では、無形資産、のれんなどの時価評価が難しい資産を除いて、土地や保険積立金など時価情報を収集しやすい資産のみ評価替えを行うことが多くなっています。

 

2.貸借対照表分析における留意点

 

(1)増減比較

 

貸借対照表分析では、調査基準日時点の貸借対照表と過去の貸借対照表を比較し、増減内容の分析を行いますが、この増減分析では、2期比較だけではなく過去5年から10年程度の貸借対照表を入手し、趨勢を分析することが必要です。

 

また、調査基準日以降直近日までの変動も押さえておく必要があります。

 

(2)調査期間と調査手法

 

効率的かつ効果的に調査を行うために、事前に依頼主との間で重点調査項目のすり合わせを行い、調査範囲と調査手法の大枠について合意しておくことが重要となります。

 

(3)他の分析との関係

 

貸借対照表分析の結果は他の分析や価値評価と密接に関連するので、貸借対照表分析以外の分析や価値評価手法についても理解しておくことが重要です。

 

3.貸借対照表分析における時価概念

 

時価とは、公正な評価額であり、独立した第三者間で取引を行うと想定した場合の取引価額であるとされています。

 

公正な評価額には、市場で取引され、そこで成立している価格がある「市場価格に基づく価額」と市場価格がない場合の「合理的に算定された価額」があります。

 

「合理的に算定された価額」を算定する手法には、ネットアセット・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチの三種類があります。

 

(1)ネットアセット・アプローチ

 

同等の効用または機能を有する代替資産の取得に要するコストをもとに評価する方法です。

コストには、再調達原価または複製原価が用いられます。

 

(2)マーケット・アプローチ

 

算定対象資産に関する市場の評価に着目する算定方法です。

同一または類似の資産の市場価格をもとに評価します。

 

(3)インカム・アプローチ

 

算定対象資産が生み出すキャッシュ・フローに着目する算定手法です。

将来キャッシュ・フロー、キャッシュ・フロー予想期間、割引率の3要素があれば評価額を算定できるので、多くの算定対象資産に適用することができます。

 

ただし、3要素は見積もりへの依存度が高いため、信頼ある見積もり情報を入手することができるかどうかが重要な留意点になります。

 

 

 

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