重要な会計方針の注記及び収益認識に関する会計基準で要求される注記の内容と両者の関係及び留意点 | 社外財務部長 原 一浩
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重要な会計方針の注記及び収益認識に関する会計基準で要求される注記の内容と両者の関係及び留意点

重要な会計方針の注記及び収益認識に関する会計基準で要求される注記の内容と両者の関係及び留意点

2022年1月31日に日本公認会計士協会は、「収益認識に関する会計基準」の開示(表示及び注記事項)に関する理解を深めることを目的として、基礎的な論点について図表等を用いて解説する資料を取りまとめた「Q&A 収益認識の開示に関する基本論点」を作成し、公表しました。

 

この中から、「4.重要な会計方針」及び「5.収益認識に関する注記」について、見てみましょう。

 

1.重要な会計方針における注記

 

(1)注記項目

 

収益認識に関する会計基準では、以下の事項を重要な会計方針として注記することになっています。

 

①企業の主要な事業における主な履行義務の内容

 

②企業が当該履行義務を充足する通常の時点

 

③上記以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記します。

 

(2)重要な会計方針の注記と収益認識に関する注記の関係

 

① 企業会計原則注解

 

重要な会計方針の注記について、企業会計原則注解(注1-2)においては、「財務諸表には、重要な会計方針を注記しなければならない。会計方針とは、企業が損益計算書及び貸借対照表の作成に当たって、その財政状態及び経営成績を正しく示すために採用した会計処理の原則及び手続並びに表示の方法をいう。」とされています。

 

② 会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

 

会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第4-2項では「重要な会計方針に関する注記の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにある。」とされています。

この開示目的に照らして、重要な会計方針を記載することになります。

 

 

③収益認識に関する会計基準

 

収益基準においては、「企業の主要な事業における主な履行義務の内容」及び「企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)」について、会計方針に含めて記載することにより、財務諸表利用者の収益に対する理解可能性を高めるために最も有用となると考えられるため、それらについて重要な会計方針として注記することとされています。

 

ただし、重要な会計方針として注記する内容は、上記の二つの項目に限定することを意図して定めているものではなく、これら二つの項目以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記することとされています。

 

また、収益認識に関する注記においても、収益を理解するための基礎となる情報として、契約及び履行義務に関する情報や履行義務の充足時点に関する情報を注記することが求められています。

 

ただし、重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことができるとされています。

 

2.収益認識に関する注記

 

(1)収益認識に関する注記の開示目的

 

収益認識に関する注記における開示目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することです。

収益認識に関する注記の記載に当たっては、個々の開示要求に対する形式的な対応にとどまらず、関連する開示が全体として開示目的を達成するための十分な情報となっているかを検討することが必要です

 

(2)注記内容

 

この開示目的を達成するため、収益認識に関する注記として、次の項目を注記します。 詳しくは、後述しています。

 

・収益の分解情報

・収益を理解するための基礎となる情報

・当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

(会計基準第80-4項、第80-5項)

 

(3)全般的な留意事項

 

金融庁から令和2年度有価証券報告書レビューの審査結果を踏まえた留意事項の一つとしてのIFRS第15号に関する事項では以下のような内容が公表されており、我が国の「収益認識に関する会計基準」の適用準備中の会社にも参考になると考えられるとされています。

 

出典:「令和2年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」(金融庁)

 

① 一貫性のある開示

 

個々の開示内容は基準に従った開示と考えられる一方、項目間の関係性を読み取れない事例が見られた。個々の開示要求に対する形式的な対応にとどまらず、関連する開示が全体として開示目的を達成するための十分な情報となっているかを検討することが求められます。

 

(改善の余地があると考えられる例)

 

・履行義務に関する情報の説明と収益の分解に関する情報の区分が異なるもの。

・履行義務に関する情報とそれが契約残高に与える影響の関係性が明確ではないもの。また、どの履行義務と関連する契約残高であるかが明確ではないもの。

 

② 開示の要否の判断

 

以下のような理由により、基準で求められている開示を省略する事例が見られました。

しかし、これらは開示を省略する理由として適切ではないと考えられます。

 

・特殊な履行義務ではないため

・業界慣行に従い処理しているため

 

③ 重要性の判断

 

重要性の判断は開示目的とともに考慮するべきであり、重要性がないとして要求されている開示を省略する際には、その省略によって開示目的に必要な情報の理解も困難になっていないかどうか検討することが求められます。

 

また、重要性が乏しい事項について、開示されている定量的情報等からその旨を読み取ることができない場合は、重要性が乏しいことがわかるように簡潔な説明を加えることも有用と考えられます。

 

(2)収益認識に関する注記の開示項目

 

開示目的を達成するため、収益認識に関する注記として、次の項目を注記します。

 

① 収益認識に関する注記の開示項目

 

(a)収益の分解情報

 

(b)収益を理解するための基礎となる情報

 

ア.契約及び履行義務に関する情報

イ.取引価格の算定に関する情報

ウ.履行義務への配分額の算定に関する情報

エ.履行義務の充足時点に関する情報

オ.本会計基準の適用における重要な判断

 

(c)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

 

ア.契約資産及び契約負債の残高等

イ.残存履行義務に配分した取引価格

 

ただし、上記の項目のうち、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことができるとされています。

 

また、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められるか否かの判断は、定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮する必要があり、その際、定量的な要因のみで判断した場合に重要性がないとは言えない場合であっても、開示目的に照らして重要性に乏しいと判断される場合もあると考えられるとされています。

 

また、収益認識に関する注記を記載するにあたり、どの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、また、どの程度詳細に記載するのかを開示目的に照らして判断することとされており、重要性に乏しい詳細な情報を大量に記載したり、特徴が大きく異なる項目を合算したりすることにより有用な情報が不明瞭とならないように、注記は集約又は分解することが求められています。

 

このほか、収益基準では、以下のような定めがあり、収益認識に関する注記の記載に当たって留意することが必要です。

 

② 収益認識に関する注記の記載に当たっての留意事項

 

・収益認識に関する注記を記載するにあたり、本会計基準において示す注記事項の区分に従って注記事項を記載する必要はありません。

 

・重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことができます。

 

・収益認識に関する注記として記載する内容について、財務諸表における他の注記事項に含めて記載している場合には、当該他の注記事項を参照することができます。

 

3. 注記の要否、重要性の判断などに関する留意点

 

(1) 重要な会計方針の注記

 

「履行義務を充足する通常の時点」と「収益を認識する通常の時点」は通常同じですが、出荷基準等に関する代替的な取扱い(収益認識適用指針第98項)を適用した場合などにはそれらが異なることになり、この場合には「収益を認識する通常の時点」を記載する点に留意が必要です。

 

(2) 収益認識に関する注記

 

① 開示目的に照らした開示の要否や詳細さの検討

 

重要性がないとして要求される項目を省略する場合には、省略することにより開示目的の達成に必要な情報の理解が困難になっていないかどうか、財務諸表利用者の視点で判断する必要があります。

 

特殊な履行義務ではない、業界慣行に従った処理であるということは、基準で求められる注記を省略する理由としては適切ではないとされています。

 

なお、重要性の判断により注記を省略する場合には、重要性が乏しいことが分かるような説明をすることが有用と考えられます。

 

② 有報レビューの結果を踏まえた留意点

 

有報レビューの結果、重要な会計方針として記載した事項を含め以下の指摘がされており、注記の検討にあたり留意すべきと考えられます。

 

・主要な履行義務の内容、充足時期は、企業特有の内容を反映して具体的に説明する。

 

・特にサービスの提供や一定の期間にわたり充足する履行義務はさまざまな類型の契約が存在すると考えられるため、詳細に説明する。

 

・どの履行義務が代理人として行動しているのかを明確に説明する。

 

・重要な金融要素や変動対価について重要性がない、該当がないとして記載しない場合にもその旨を簡潔に説明する。

 

・残存履行義務に配分した取引価格に関して、いつ収益として認識すると見込んでいるかについて、定性的情報を使用した方法で説明する場合でも、財務諸表利用者の将来予測に資する詳細さで情報を提供する。

 

4. 開示間の整合性に関する留意点

 

収益認識に関する注記が開示目的を達成するためには、個々の項目が会計基準に従っているのみならず、関連する項目全体として十分かつ一貫性のある開示が必要です。

 

具体的な留意点は以下のとおりです。

 

(1) 収益の分解情報とその他の開示との整合性

 

収益の分解情報は、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解することが求められます。

 

例えば、事業別かつ履行義務の充足時期別に分解情報を記載した場合には、重要な会計方針においてそれぞれの事業に対応する履行義務の内容及び充足時期の説明を行うなどの整合が図られる必要があります。

 

また、セグメント情報で開示される売上高との関係を理解するための説明の十分性や非財務情報との整合性にも留意が必要です。

 

(2) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報とその他の開示との整合性

 

契約資産及び契約負債に重要性があるとして残高を注記する場合には、「重要な会計方針」や「収益を理解するための基礎となる情報」において契約資産や契約負債が生じる取引内容を記述するなどの整合を図る必要があります。

 

また、「重要な会計方針」や「収益を理解するための基礎となる情報」で主要な履行義務の未充足部分に言及した場合には、残存履行義務に配分した取引価格の注記を行うなどの整合を図ることにも留意が必要です。

 

(3) 重要な会計方針の注記、収益認識に関する注記と会計上の見積りの開示との整合性

 

重要な会計方針や収益認識に関する注記において、変動対価や履行義務の充足に係る進捗度の見積りなど会計上の見積りに関連する記載を行う場合には、重要な会計上の見積りに関する注記への記載の要否や記載する場合の内容の整合性に留意が必要です。

 

 

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