2018年11月に、公益財団法人財務会計基準機構(以下「FASF」という。)内に設けられている基準諮問会議より、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実について検討することが提言されました。
これを受けて企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)で検討が行われ、2020年3月31日に見積開示会計基準が公表されました。
1.適用時期及び経過措置
(1)適用時期
適用時期は、下記のとおりとなっています。
①原則適用
2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から適用
②早期適用
2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から適用
(2)経過措置
見積開示会計基準の適用初年度においては、表示方法の変更として取り扱われますが、改正遡及会計基準14項の定めにかかわらず、見積開示会計基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される比較情報に記載しないことができるものとされています。
2.開示の基本的な方針
会計上の見積りの開示について原則(開示目的)を示した上で、具体的な開示内容は企業が当該原則(開示目的)に照らして判断することとされています。
見積開示会計基準の開発において、国際会計基準(IAS)第1号「財務諸表の表示」125項の定めを参考にしたとされています。
3.会計上の見積りの開示目的
・当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち
・翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(有利となる場合及び不利となる場合の双方を含む(以下同じ)。)における会計上の見積りの内容について
・財務諸表利用者の理解に資する情報を開示すること
4.開示項目の識別
(1)識別される項目
通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債が識別される項目になります。
開示する項目の識別の判断については、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りにより行われている項目のうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別することとされています。
(2)識別される項目の留意事項
①減損損失
固定資産の減損損失の認識は行わないとした場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討した上で、当該固定資産が開示項目として識別される可能性があります。
②市場価格の変動
直近の市場価額により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動は、会計上の見積りに起因しないことから、項目の識別において考慮しないこととされています。
(3)開示項目の例外
以下の項目については、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、開示を妨げないとされています。
・当年度の財務諸表に計上した収益及び費用
・会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債
・注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったもの
5.注記事項
(1)記載方法
見積開示会計基準では、会計上の見積りの開示は独立の注記項目とされ、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載することとされています。
(2)注記内容
開示する項目として識別した項目については、会計上の見積りの内容を表す項目名を注記し、併せて以下の注記が求められています。
・当年度の財務諸表に計上した金額
・会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
(3)理解に資するその他の情報
①項目の例示
「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」については、以下の項目が例示されています。
チェックリストとして用いられるものではなく、企業の置かれている状況を勘案し、開示目的に照らして判断することが求められています。
A)当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
B)当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
C)翌年度の財務諸表に与える影響
②項目の記載方法等
例示項目(B)の主要な仮定については、(A)の算出方法に対するインプットとして想定される定量的情報若しくは定性的な情報又はこれらの組み合わせである場合も考えられます。
また、(C)について、定量的に示す場合には、単一の金額の方法のほか、合理的に想定される金額の範囲を示すことも考えられます。
(4)留意事項
「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」については、単に会計基準等における取扱いを算出方法として記載したり、会計基準等における取扱いに基づく結果としての影響を記載したりするのではなく、企業の置かれている状況が理解できるような開示が求められていると考えられる点には留意が必要です。
6.個別財務諸表上の取扱い
見積開示会計基準に基づく会計上の見積りの開示は、連結財務諸表と個別財務諸表で同様の取扱いとすることを原則としています。
ただし、連結財務諸表と個別財務諸表の注記の重複を避けるという趣旨で、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法の記載をもって「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」に代えることができるとされています。
この場合、連結財務諸表における記載を参照することができるとされています。
7.適用初年度の取扱い
(1)見積開示会計基準の適用初年度の取扱いは、以下のとおりです。
①本会計基準の適用は、表示方法の変更として取り扱う
②改正遡及会計基準 14 項の定めにかかわらず、見積開示会計基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表および個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度における連結財務諸表に関する注記及び前事業年度における個別財務諸表に関する注記(比較情報)に記載しないことができる
(2)改正遡及会計基準と見積開示会計基準との関係
①改正遡及会計基準の取り扱い
財務諸表の表示方法を変更した場合には、原則として表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行うこととされています。
②見積開示会計基準の取り扱い
適用初年度においては、見積開示会計基準に定める注記事項について比較情報に記載しないことができるとされています。
この取り扱いとした理由を以下に挙げています。
A) 適用初年度の比較情報を開示するために過去の時点における判断に見積開示会計基準を遡及的に適用した場合、当該時点に入手可能であった情報と事後的に入手した情報を客観的に区別することが困難であると考えられること。
B) また、多数の子会社を有している企業において、見積開示会計基準の適用初年度の比較情報として、すべての子会社から、見積開示会計基準に基づく開示に必要な過去の情報を入手し集計することは、実務上煩雑であること。
C) 特に、会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資するその他の情報に関して、翌年度の財務諸表に与える影響を定量的に記載する場合には、これを過去に遡って示すことが煩雑であると考えられること。