収益認識会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用が原則となります。早期適用も認められています。
1.2021年3月期における収益認識会計基準の早期適用
(1)原則適用
収益認識会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用が原則となります。
(2)早期適用
① 2018年収益認識会計基準等
2019年4月1日以後開始事業年度からの早期適用が認められています。
② 2020年収益認識会計基準等
2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することが認められています。
(3)早期適用の類型
このため、2021年3月期における早期適用の類型には、以下の3つがあることになります。
① 2021年3月期の期首から2020年収益認識会計基準等を早期適用
② 2021年3月期の期首から2018年収益認識会計基準等のみを早期適用
③ 2018年収益認識会計基準等のみを過年度に早期適用済で、2021年3月期の期首から2020年収益認識会計基準等を早期適用
2. 2021年3月期から2020年収益認識会計基準を早期適用する場合の留意事項
(1)会計処理に関する経過措置
① 適用初年度の取扱い
A) 原則的な取扱い
収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされています。
B) 経過措置
ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています。
C) 取り扱いのまとめ
適用初年度の取扱いをまとめたものが、以下の図です。
② 原則的な取扱いに従って遡及適用する場合
原則的な取扱いに従って遡及適用する場合であっても、以下A)、B)、C)の方法の1つ又は複数を適用することができるとされています。
遡及適用する企業においては、以下のいずれの方法で遡及適用するのか、早めの検討と対応が必要になると考えられます。
A) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の比較情報を遡及的に修正しないこと
B) 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
C) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
・履行義務の充足分及び未充足分の区分
・取引価格の算定
・履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分
③ 適用初年度に経過措置を選択する場合
A) 適用初年度に2020年収益認識会計基準84項ただし書きの経過措置を選択する場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しないことができるとされています。
B) 経過措置を選択する場合、契約変更について、次のいずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することができることとされています。
ア)適用初年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、上記②Cの3つの項目の処理を行うこと
イ)適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、上記②Cの3つの項目の処理を行うこと
(2)表示及び注記
① 科目については、2020年収益認識会計基準の適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。
② また、2020年収益認識会計基準等の適用初年度においては、2020年収益認識会計基準等において定める以下の注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。
A) 顧客との契約から生じる収益とそれ以外の収益とを区分して損益計算書に表示しない場合における顧客との契約から生じる収益の額の注記
B) 契約資産と顧客との契約から生じた債権とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、それぞれの残高の注記(また、契約負債と他の負債とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、契約負債の残高の注記)
C) 重要な会計方針の注記と収益認識に関する注記
3.2018年収益認識会計基準等を早期適用済の会社が、2021年3月期から2020年収益認識会計基準を早期適用する場合の留意事項
(1)会計処理
① 2018年収益認識会計基準等を早期適用済の会社が、2021年3月期から2020年収益認識会計基準を早期適用する場合には、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することになります。
② ただし、2020年収益認識会計基準等では、主に表示及び開示に関する定めが追加されていることから、2018年収益認識会計基準を早期適用している場合には、2020年収益認識会計基準の適用による会計処理への影響は、契約資産の性質の見直しや適用範囲の見直しに限られており、限定的であるものと考えられます。
③ さらに、経過措置として、将来にわたり新たな会計方針を適用することができるとされています。
(2)表示及び注記
① 2020年収益認識会計基準の適用初年度においては、2020年収益認識会計基準の適用により表示方法(注記による開示も含む。)の変更が生じる場合には、遡及会計基準14項の定めにかかわらず、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。
② また、以下に記載した内容を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。
A) 顧客との契約から生じる収益とそれ以外の収益とを区分して損益計算書に表示しない場合における顧客との契約から生じる収益の額の注記
B) 契約資産と顧客との契約から生じた債権とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、それぞれの残高の注記(また、契約負債と他の負債とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、契約負債の残高の注記)
C) 重要な会計方針の注記と収益認識に関する注記
4.2020年収益認識会計基準の概要
2018年3月30日に2018年収益認識会計基準等が公表され、2020年3月31日に、主に、表示及び注記事項を改正する2020年収益認識会計基準等が公表されています。
(1)適用時期及び経過措置
① 原則適用
2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用(2018年収益認識会計基準等と同じ)されます。
② 早期適用
A) 2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが認められています。
B) 2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することが認められています。
③ 経過措置
A) 適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表(注記事項を含む。)及び前事業年度の個別財務諸表(注記事項を含む。)について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができます。
B) 2020年収益認識会計基準等の適用初年度においては、2020年収益認識会計基準等において定める注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができます。
(2)基本的な方針
2020年収益認識会計基準では、開示目的を定めた上で企業の実態に応じて、企業自身が当該開示目的に照らして注記事項の内容を決定することとした方が、より有用な情報を提供できるとして、注記事項の開発にあたっての基本的な方針として、次の対応が行われています。
① 包括的な定めとして、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを含めています
また、原則として、IFRS第15号の注記事項のすべての項目を含めています
② 企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することを明確にし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にしています
(3)2020年収益認識会計基準の改正の概要
① 表示に関する定めの追加
以下の項目が追加されています。
A) 損益計算書の表示科目
B) 重要な金融要素が含まれる場合の取扱い
C) 貸借対照表の表示科目
D) 契約資産の性質に関する取扱いの見直し等
E) 適用初年度の取扱い
② 注記に関する定めの追加
以下の項目が追加されています。
A) 重要な会計方針の注記
B) 収益認識に関する注記
ア)収益の分解情報
イ)収益を理解するための基礎となる情報
ウ)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
C) 工事契約等から損失が見込まれる場合
③ その他
以下の取り扱いが定められています。
A) 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表の取扱い
B) 四半期財務諸表における取扱い
C) 追加された設例