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東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定が発効します

地域的な包括的経済連携(RCEP)協定は、2012年11月に交渉が開始され、2020年11月15日にASEAN10か国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの計15か国で署名されました。RCEPは「Regional Comprehensive Economic Partnership」の略です。

 

2021年11月2日に協定の発効要件が満たされ、寄託を終えた日本、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、ラオス、ニュージーランド、シンガポール、タイ、ベトナムの10か国について、2022年1月1日に発効します。

現時点で批准が完了していない署名国は、ASEAN4カ国のインドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、及び非ASEAN国の韓国となりますが、これらの署名国は批准書、受諾書又は承認書を寄託者に寄託した日の後60日で効力を生ずることとなります。

 

JETRO日本貿易振興機構(ジェトロ)では、「RCEP協定解説書」を発行して、RCEP協定の発効に先立って、協定の概要や特恵税率の利用方法について紹介しています。

 

1.RCEP協定の意義

 

(1)RCEP参加15か国のGDPの合計は、2019年ベースで25.8兆ドルであり世界全体の29%、参加国の貿易総額(輸出額ベース)は5.5兆ドルで世界全体の29%にそれぞれ相当します。また、人口の合計は約22.7億人で、世界全体の30%を占めています。

 

(2)日本の貿易額でみますと、輸出の43.1%、輸入の49.2%をRCEP参加国が占めています。

特に、RCEP協定が日本との初のEPAとなる中国、韓国は日本の主要な貿易相手国であり、輸出額の25.6% (中国19.1%、 韓国6.6%)、輸入額の27.6% (中国23.5%、韓国4.1%)と、日本の貿易額の4分の1以上はこの2か国との貿易です。

本協定は我が国の経済成長に寄与することが期待されています。

 

(3)RCEP協定の発効により締約国内での市場アクセスの大幅な向上が期待されています。今まではASEANプラス1というかたちで、ASEANと日本や中国などの各国が、個別にEPAを締結していました。

15か国で1つの協定を締結することにより、域内すべての輸出先に対して、共通の原産地規則や税関手続の下、協定上の特恵税率が利用できることになります。

 

RCEP参加国間でのASEANプラス1の自由貿易に係る協定としては、日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP協定、2008年12月発効)の他、中国-ASEAN自由貿易協定(ACFTA、2005年7月)、韓国-ASEAN自由貿易協定(AKFTA、2007年6月)、ASEAN•オーストラリア•ニュージーランド自由貿易協定(AANZFTA、2010年1月)があります。

 

(4)本協定は、日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定を始め、ASEANと日本、中国、韓国、豪州及びニュージーランド各国との間でそれぞれ締結されている経済連携協定を踏まえた上で、地域の貿易・投資の促進及びサプライチェーンの効率化に向けて、市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる多様な国々の間で知的財産、電子商取引等の幅広い分野のルールを整備するものです。

 

2.RCEP協定の概要

 

RCEP協定のルールは以下の全20章および17の付属書で規定されています。

発展段階や制度の異なる多様な国家間での知的財産、電子商取引など幅広い分野について義務規律を規定し、域内での自由で公正な経済秩序の構築に向けた重要な一歩となるルールを整備しました。

 

 

3.RCEP協定における関税撤廃•削減の概要

 

RCEP協定における関税撤廃・削減の効果についてみてみます。

 

物品貿易の関税撤廃率はRCEP参加国全体で91% (品目数ベース)です。

特に、日本が中国、韓国と結ぶ初のEPAであることから、これら2か国との貿易で関税撤廃・削減の効果が期待されます。

日本からの輸入品に対する関税は品目数ベースで中国は86%、韓国は83%が撤廃されます。

また、すでにEPAを締結・発効している国でも、RCEP協定において、発効済のEPAを上回る関税撤廃・削減が実現される場合もあります。

 

(1)物品の貿易について(関税削減について)

 

RCEP協定は日本にとって初めて中国・韓国との結ぶFTAとなるため、日本企業にとって大きなプラスの効果が期待されています。

一方、直近発効したCPTPPや日EU EPAと比較すると、RCEP協定の関税撤廃率はやや低いと言えます。

一部の品目では、関税率引き下げ対象外、または11~21年をかけて段階的に関税率削減が行われるため、関税削減の大きな効果を得るまで時間がかかる可能性があります。

そのため、ASEAN/豪州/ニュージーランドとの取引の場合は、既存FTAの関税率と比較し、どの協定を適用するべきか検討することが推奨されます。

 

(2)関税率について(譲許表、税率差ルール)

 

関税引き下げスケジュール(譲許表)については、全締約国に一律の関税引き下げ・撤廃を約束している「共通譲許方式」をとる国(8カ国)と、相手国ごとに異なる関税引き下げ・撤廃を約束する「個別譲許方式」をとる国があります。

日本、中国、韓国は後者を採用しており、輸出国別に設けられた譲許表の確認が必要となります。

 

また、域内迂回輸入の防止措置として、各輸入国譲許表の付録に記載される特定の品目については、輸出締約国が追加的な要件を満たした場合にのみ、輸出国がRCEP協定の原産国となる「税率差ルール」が定められているため、注意が必要です。

 

4.原産地規則

 

RCEP協定における原産地規則には、原産品の定義、累積、軽微な工程及び加工、僅少の非原産材料、積送基準等が定められており、基本的に既存FTAと同様の構成内容となっています。

 

品目別規則については、ASEANのFTAで多くの品目にみられる緩やかな内容を採用しており、直近発効されたCPTPPや日EU・EPAと比較すると、要件が緩和されている傾向にあります。

 

5.原産地証明

 

RCEP協定の原産地証明手続に関しては、複数の証明制度が併存しています。具体的には以下のいずれかの文書が原産地証明として認められています。

 

(a)原産地証明書発給機関により発給された原産地証明書(第三者証明)

(b)認定された輸出者による原産地申告(認定輸出者自己証明)

(c)輸出者又は生産者による原産地申告(輸出者または生産者による完全自己証明)

(d)輸入者による自己申告制度(現時点では日本への輸入のみ)

 

輸出者又は生産者による原産地申告制度は、輸入締約国において当該制度を採用している場合に限られる見込みであることが発表されました。

複数のRCEP締約国へ輸出を行っている企業にとっては、国ごとに証明制度を確認し、自己証明制度と第三者証明制度の使い分け、管理を行う必要が生じることも想定されます。

認定輸出者自己証明制度は輸入締約国が採用している証明制度に関わらず利用することができ、第三者証明書発給のコストとリードタイムが削減できる可能性があります。

 

6.各国が任意で採用できる規定

 

規定の中には任意で採用できるルールがあり、各締約国で運用が異なるため注意が必要です。

 

(1)輸入後の通関上の特恵待遇の要求

 

第3.23条1に定められており、輸入通関後に事後的にFTA税率の適用を申請し、超過で支払った関税の還付を認めています。しかし、日本の場合は、事後的なFTA税率の適用を認めず、許可前引取り制度(BP)にて対応する必要があることが発表されています。

 

(2)連続する原産地証明(Back-to-Back CO)

 

第3.19条に定められており、これは輸出締約国の最初の原産地証明に基づいて、経由国である締約国(中間締約国)の発給機関、認定輸出者又は輸出者が発給することができる原産地証明のことをいいます。

Back-to-Back COのメリットとしては、最初の原産地証明に記載された貨物を、中間締約国で分割して各締約国に輸出する際に、その分割された貨物ごとに原産地証明を発給できる点で、ASEANのFTAで多く採用されている制度となります。

 

今後、日本を含め中間締約国でBack-to-Back COの発給が可能か、また、各証明制度のもとで(第三者証明制度、認定輸出者、輸出者自己申告制度)どのような要件が必要か各締約国の運用を確認する必要があります。

 

7.企業に求められる対応

 

(1)企業が適切にRCEP協定を運用するためには、まず、関税率と原産地規則の基礎となるHSコードを適切に付番することが求められます。

 

(2)原産地の確認は製造に係る情報を持っている輸出者/生産者の協力が不可欠です。

特に原産地申告を輸出者/生産者に依頼する場合には、輸入前に必要となる手続きを正確に把握したうえでの協力要請が必要となります。グローバル企業のグループ全体でRCEP協定を運用していく場合にも、戦略的に活用するための体制構築を行っていくことが必要です。

 

(3)多くの企業にとって利用できるFTAはRCEP協定だけでなく既存のFTAも存在するため、今後も現行FTAとRCEP協定を使い分けていくことが企業に求められます。

そのため、企業の担当者はこれまで以上に複数の原産地規則や手続きに精通し、法令を順守しながらコスト削減を実現するという困難な課題に対応していくことが必要とされます。

 

(4)一方、他のFTA同様、RCEP協定においても、輸入国の税関当局による、①輸入者、輸出者、生産者や輸出当局に対する書面による情報提供要請、②輸出者または生産者の施設への訪問、といった検認手続が定められており、事後的にRCEP協定によるFTA税率が否認される恐れがあるため、関税率、原産地規則、証明書発給方法、特例等を正確に把握し、適切に適用することが大切です。

 

(5)RCEP協定のメリットを享受できるよう、テクニカルで複雑な協定内容、手続き、検討事項等について、専門家によるサポートやシステムの導入により、リスクを最小限に抑えつつ適正に運用していくことも有益であり、実務のアウトソーシングやシステムの導入を含むFTA利用体制の強化に着手していくことが重要です。

 

8.RCEPのメリット、デメリット

 

RCEPのメリット、デメリットを見てみましょう。

 

(1)日本へのメリット

 

①関税が撤廃され、ビジネスチャンスが広がる

 

工業製品の輸出において91.5%の品目に対し関税が撤廃されます。

鉄鋼製品、電子レンジ、冷蔵庫などの家電製品や、今後成長が期待される電気自動車用のリチウムイオン電池の素材やモーターなどで大きなメリットがあるとされています。

 

②中国の巨大な市場にアクセスしやすくなる

 

RCEPにより、中国との輸出入において関税が削減されるため、貿易が活発化することが見込まれます。しかし、これまで以上に中国製品が日本に流通する可能性もあります。

 

③別の協定と比較・検討ができる

 

輸出入をする際、同じ商品であったとしても適用する協定により関税差があります。

2020年12月の段階で、日本はRCEPの他に、TPP、日EU EPAを含めて17のEPAを締結しているため、複数の協定から最適な物を選んで貿易することが可能になります。

 

(2)日本へのデメリット

 

安い製品が日本に多く入ってくると、国内の生産者や企業は価格競争に巻き込まれたりビジネスチャンスを失ったりする懸念があります。

なお、「重要5項目」である米、牛肉・豚肉、乳製品などは今回の関税の削減や撤廃の対象から外れています。

 

8.インドのRCEP協定交渉の離脱と今後の加入に向けた特別待遇

 

RCEP協定はインドを含む16か国で交渉が開始されました(2012年11月)が、インドは2020 年11月の第4回首脳会議でのRCEP協定の署名には参加しませんでした。

しかし、将来的なインドのRCEP參加のため、その他の參加国は2020年11月のRCEP首脳会議にて、RCEPがインドに対して開かれていることを共同首脳声明で確認するとともに、「インドのRCEPへの参加に係る閣僚宣言」を発出しました。

宣言には、インドが望む場合、①各国はいつでも加入交渉に応じる、②RCE協定の発効日からインドの加入のために開放される(注:インド以外は 発効日の18か月後から加入可:RCEP協定20.9条で規定した内容)、③RCEPの会合にオブザーバー参加できる、④署名国間により実施される経済協力活動に參加できる、など、インドに対する特別な扱いが明記されています。

 

経済社会のデジタル化を踏まえ、生産性の向上等を目的として電子帳簿保存法が改正されました

1.改正の目的

 

経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため、令和3年度の税制改正において、「電子帳簿保存法」の改正等が行われ、帳簿書類を電子的に保存する際の手続等について、抜本的な見直しがなされました。

 

具体的な改正内容 は、3.4.5.に記載しています。

令和4年1月1日施行となります。

 

2.電子帳簿保存法とは

 

(1)法律の概要

 

各税法で原則紙での保存が義務づけられている帳簿書類について一定の要件を満たした上で電磁的記録(電子データ)による保存を可能とすること及び電子的に授受した取引情報の保存義務等を定めた法律です。

 

(2)電磁的記録による保存

 

電子帳簿保存法上、電磁的記録による保存は、大きく3種類に区分されています。

 

①電子帳簿等保存

電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存

 

②スキャナ保存

紙で受領・作成した書類を画像データで保存

 

③電子取引

電子的に授受した取引情報をデータで保存

 

 

3.「電子帳簿等保存」に関する改正事項

 

(1)税務署長の事前承認制度の廃止

 

①これまで、電子的に作成した国税関係帳簿を電磁的記録により保存する場合には、事前に税務署長の承認が必要でしたが、事業者の事務負担を軽減するため、事前承認は不要とされました。

電子的に作成した国税関係書類を電磁的記録により保存する場合についても同様です。

 

②令和4年1月1日以後に備え付けを開始する国税関係帳簿又は保存を行う国税関係書類について適用されます。

 

③令和4年1月1日以後も改正前の要件を満たして保存等を行おうとする方が承認を受けようとする場合には、承認申請書を令和3年9月30日までに所轄税務署長宛提出することになります。スキャナ保存も同様です。

 

(2)優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の整備

 

①制度の概要

 

一定の国税関係帳簿について優良な電子帳簿の要件を満たして電磁的記録による備付け及び保存を行い、本措置の適用を受ける旨等を記載した届出書をあらかじめ所轄税務署長に提出している保存義務者について、その国税関係帳簿(優良な電子帳簿)に記録された事項に関し申告漏れがあった場合には、その申告漏れに課される過少申告加算税が5%軽減される措置が整備されました。申告漏れについて、隠蔽し、又は仮装された事実がある場合には、本措置の適用はありません。

 

②一定の国税関係帳簿

 

一定の国税関係帳簿とは、所得税法・法人税法に基づき青色申告者(青色申告法人)が保存しなければならないこととされる総勘定元帳、仕訳帳その他必要な帳簿(売掛帳や固定資産台帳等)又は消費税法に基づき事業者が保存しなければならないこととされている帳簿をいいます。

 

③「電子帳簿の保存要件の概要」の「優良」の要件を満たすものになります。

 

④令和4年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用されます。

 

(3)最低限の要件を満たす電子帳簿についても、電磁的記録による保存等が可能となりました。

 

正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って記録されるものに限られます。

「電子帳簿の保存要件の概要」の「その他」の要件を満たすものになります。

 

(4)電子帳簿の保存要件

 

国税庁作成パンフレットより転載

 

4.「スキャナ保存」に関する改正事項

 

(1)税務署長の事前承認制度の廃止

 

令和4年1月1日以後に行うスキャナ保存について適用されます。

 

(2)タイムスタンプ要件、検索要件等について、要件の緩和

 

①タイムスタンプの付与期間が、記録事項の入力期間と同様、最長約2か月と概ね7営業日以内とされました。

 

②受領者等がスキャナで読み取る際の国税関係書類への自署が不要とされました。

 

③電磁的記録について訂正又は削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認することができるクラウド等において、入力期間内にその電磁的記録の保存を行ったことを確認することができるときは、タイムスタンプの付与に代えることができることとされました。

 

④検索要件の記録項目について、取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先に限定されるとともに、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じる場合には、範囲指定及び項目を組み合わせて条件を設定できる機能の確保が不要となりました。

令和4年1月1日以後に行うスキャナ保存について適用されます。

 

(3)適正事務処理要件の廃止

 

相互けん制、定期的な検査及び再発防止策の社内規程整備等が適正事務処理要件でした。

令和4年1月1日以後に行うスキャナ保存について適用されます。

 

(4)スキャナ保存された電磁的記録に関連した不正があった場合の重加算税の加重措置の整備

 

適正な保存を担保するための措置として、スキャナ保存が行われた国税関係書類に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が 10%加重される措置が整備されました。

令和4年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用されます。

 

5.「電子取引」に関する改正事項

 

(1)タイムスタンプ要件及び検索要件についての要件の緩和

 

タイムスタンプ要件に係るタイムスタンプの付与期間及び検索要件に係る検索項目について「スキャナ保存に関する改正事項」と同趣旨の改正が行われたほか、基準期間の売上高が 1,000 万円以下である小規模な事業者について、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索要件の全てが不要とされました。

 

「基準期間」とは、個人事業者については電子取引が行われた日の属する年の前々年の 1 月 1 日から 12 月 31 日までの期間をいい、法人については電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度をいいます。

 

(2)適正な保存を担保する措置の見直し

 

①申告所得税及び法人税における電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、その電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置は、廃止されました。

 

消費税における電子取引の取引情報等に係る電磁的記録については、引き続き出力書面による保存が可能です。

 

②電子取引の取引情報に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が 10%加重される措置が整備されました。

 

(3)電子取引の保存要件

 

①真実性の要件

 

以下の措置のいずれかを行うこと

 

(ⅰ)タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う

 

(ⅱ)取引情報の授受後、速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに) タイ厶スタンプを付すとともに、保辩行う者又は監督者に関する倩報を確認できるようにしておく

 

(ⅲ)記録事項の訂正•削除を行った場台に、これらの事実及び内容を確認できるシステム又は記録事項の訂正•削除を行うことができないシステムで取引情報の授受及び保存を行う

 

(ⅳ)正当な理由がない訂正•削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う

 

②可視性の要件

 

(ⅰ)保存場所に、電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、画面•書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと

 

(ⅱ)電子計算機処理システ厶の概要書を備え付けること

 

(ⅲ)検索機能を確保すること

保存義務者が小規模な事業者でダウン□ードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索機能は不要です。

企業の損益・ビジネス・システムにも影響を与える「適格請求書等保存方式」インボイス制度

1. 概要

 

2023年10月1日から、複数税率に対応した消費税の仕入れ税額控除の方式として「適格請求書等保存方式」(いわゆるインボイス制度)が導入されます。

 

税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」(いわゆるインボイス)等の保存が、仕入れ税額控除の要件となります。

 

2.適格請求書とは

 

(1)「売り手が、買い手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」です。

 

(2)一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類をいいます。

 

3.適格請求書発行事業者登録制度

 

(1)適格請求書を交付できるのは、「適格請求書発行事業者」に限られます。

 

(2)「適格請求書発行事業者」になるには、税務署長に登録申請書を提出し、登録を受ける必要があります。

 

(3)適格請求書発行事業者の登録

 

①登録申請をすることができる者

適格請求書発行事業者の登録を受けることができるのは、課税事業者に限られます。

 

②登録手続き

適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者は、納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出する必要があります。

 

登録申請書の提出を受けた税務署長は、登録拒否要件に該当しない場合には、適格請求書発行事業者登録簿に法定事項を登載して登録を行い、登録を受けた事業者に対して、その旨を書面で通知することとされています。

 

登録の効力は、通知の日にかかわらず、適格請求書発行事業者登録簿に登録された日に発生します(2023年10月1日より前に登録の通知を受けた場合であっても、登録日は2023年10月1日となります)。

 

③登録番号

登録番号の構成は、法人であれば『「T」+法人番号(数字13桁)』、個人事業者であれば『「T」+数字13桁(マイナンバーではない番号)』となります。

 

④適格請求書発行事業者登録簿

適格請求書発行事業者登録簿の登載事項(事業者名および登録番号等)については、インターネットを通じて、国税庁のウェブサイトにおいて公表されます。

公表事項の閲覧を通じて、交付を受けた請求書等の作成者が適格請求書発行事業者に該当するかを確認することができます。

 

4. 適格請求書発行事業者の義務等(売り手側)

 

(1)適格請求書の交付義務及び交付した適格請求書の写しの保存義務

 

適格請求書発行事業者には、一定の場合を除き取引の相手方(課税事業者に限ります)からの求めに応じて適格請求書を交付する義務及び交付した適格請求書の写しを保存する義務が課されています。

 

なお、適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付に代えて、適格請求書に係る電磁的記録により提供することができます。

 

(2)適格請求書の記載事項

 

適格請求書発行事業者は、以下の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類を交付しなければなりません。

 

 

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

② 取引年月日

③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)

④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込)及び適用税率

⑤消費税額等(端数処理は一請求書あたり、税率ごとに1回ずつ)

⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 

 

なお、切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理の方法については、任意の方法とすることができます。一つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額等を計算し1円未満の端数処理を行い、その合計額を消費税額等として記載することは認められません。

 

(3)適格簡易請求書

 

不特定多数の者に対して販売等を行う小売業、飲食店業、タクシー業等については、記載事項を簡易なものとした「適格簡易請求書」を交付することができます。

 

適格簡易請求書の記載事項は、上記①から⑤となります。ただし、「消費税額等」、「適用税率」はいずれか一方の記載で足ります。⑥の「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載は不要です。

 

(4)適格請求書の交付免除

 

適格請求書を交付することが困難な取引は、適格請求書の交付義務が免除されます。

 

公共交通機関であるバスや鉄道による旅客の運送で3万円未満のもの、自動販売機により行われる課税資産の譲渡等で3万円未満のもの、郵便切手を対価とする郵便サービス(郵便ポストに差し出されたもの)などが該当します。

 

5.適格請求書等保存方式における仕入税額控除の要件(買い手側)

 

適格請求書等保存方式の下では、一定の場合を除いて、一定の事項を記載した帳簿及び請求書等の保存が仕入れ税額控除の要件となります。

 

(1)帳簿の記載事項

 

保存が必要となる帳簿の記載事項は以下の通りです。

 

① 課税仕入れの相手方の氏名又は名称

② 取引年月日

③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)

④ 対価の額

 

(2)請求書等の範囲

 

保存が必要となる請求書等には、以下のものが含まれます。

 

① 適格請求書又は適格簡易請求書

② 仕入明細書等(適格請求書の記載事項が記載されており、相手方の承認を受けたもの)

③ 卸売市場において委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食料品等の譲渡及び農業協同組合等が委託を受けて行う農林水産物の譲渡について、委託者から交付を受ける一定の書類

④ ①から③の書類に係る電磁的記録

 

(3)帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合

 

請求書等の交付を受けることが困難な取引は、帳簿のみの保存で仕入れ税額控除が認められます。

 

適格請求書の交付義務が免除される取引、適格簡易請求書の記載事項を満たす入場券等が、使用の際に回収される取引、従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当等に係る課税仕入れなどの取引が該当します。

 

6.税額計算の方法

 

2023年10月1日以降の売上税額及び仕入税額の計算は、次の①又は②を選択することができます。

 

①適格請求書に記載のある消費税額等を積み上げて計算する「積上げ計算」

 

②適用税率ごとの取引総額を割り戻して計算する「割戻し計算」

 

但し、売上税額を「積上げ計算」により計算する場合には、仕入れ税額も「積上げ計算」により計算しなければなりません。

なお、売上税額について「積上げ計算」を選択できるのは、適格請求書発行事業者に限られます。

 

 

(1)売上税額の計算方法

 

①割戻し計算

原則として、課税期間中の課税資産の譲渡等の税込金額の合計額に110分の100(軽減税率の対象となる場合は108分の100)を掛けて計算した課税標準額に7.8%(軽減税率の対象となる場合は6.24%)を掛けて算出します。

 

②積上げ計算

交付した適格請求書及び適格簡易請求書の写し(電磁的記録により提供したものも含む)を保存している場合に、そこに記載された税率ごとの消費税額等の合計額に100分の78を乗じて計算した金額とすることもできます。

 

③留意事項

なお、売上税額の計算は、取引先ごとに割戻し計算と積上げ計算を分けて適用するなど、併用することも認められます。

併用した場合であっても売上税額の計算につき積上げ計算を適用した場合に当たるため、仕入税額の計算方法に割戻し計算を適用することはできません。

 

(2)仕入税額の計算方法

 

適格請求書等保存方式における仕入税額の計算方法は、上記(1)の売上税額と同様に積上げ計算と割戻し計算が認められています。

 

①積上げ計算

ⅰ)請求書等積上げ計算

原則として、交付された適格請求書などの請求書等に記載された消費税額等のうち課税仕入れに係る部分の金額の合計額に100分の78を掛けて算出します。

 

ⅱ)帳簿積上げ計算

これ以外の方法として、課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となる場合は108分の8)を乗じて算出した金額(1円未満の端数が生じたときは、端数の切捨て又は四捨五入)を仮払消費税として、帳簿に記載している場合は、その金額の合計額に100分の78を掛けて算出する方法も認められます。

 

なお、仕入税額の計算に当たり、請求書等積上げ計算と帳簿積上げ計算を併用することも認められますが、これらの方法と割戻し計算を併用することは認められません。

 

②割戻し計算

課税期間中の課税仕入れに係る支払対価の額を税率ごとに合計した金額に110分の7.8(軽減税率の対象となる部分については108分の6.24)を掛けて算出することができます。

ただし、仕入税額を割戻し計算することができるのは、売上税額を割戻し計算する場合に限ります。

 

7. 免税事業者からの仕入れに係る経過措置

 

適格請求書等保存方式の導入後は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れは、原則として、仕入税額控除を行うことができません。

ただし、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等及びこの経過措置の規定の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存している場合には、一定の期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置が設けられています。

 

経過措置を適用できる期間等は、23年10月1日から29年9月30日までの6年間となっており、最初の3年間について仕入税額相当額の80%の金額を、次の3年間についての仕入税額相当額の50%の金額を仕入税額として控除することができます。

 

「経過措置の規定の適用を受ける旨」の記載については、個々の取引ごとに「80%控除対象」、「免税事業者からの仕入れ」などと記載する方法のほか、例えば、本経過措置の適用対象となる取引に、特定の記号・番号等を表示し、かつ、これらの記号・番号等が「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を別途表示する方法が認められています。

経営の重要課題であり企業の長期的価値を高める、ダイバーシティ&インクルーシブネス

2021年3月に経済産業省は、【改訂版】ダイバーシティ経営診断シートの手引き「多様な個を生かす経営へ~ダイバーシティ経営への第一歩~」を公表しました。

 

Ⅰ 「多様な個を活かす経営=ダイバーシティ経営」の有効性

 

1.ダイバーシティ経営とは

 

「ダイバーシティ経営」は、

 

①経営戦略を実現するうえで不可欠である多様な人材を確保し、

②そうした多様な人材が意欲的に仕事に取り組める組織風土や働き方の仕組みを整備することを通じて、

③適材適所を実現し、

④その能力を最大限発揮させることにより

⑤「経営上の成果」につなげること

 

を目的としています。

 

(1)ダイバーシティ経営の定義

 

ダイバーシティ経営とは、

 

①多様な人材(注1)を活かし、

②その能力(注2)が最大限発揮できる機会を提供することで、

③イノベーションを生み出し、 価値創造につなげている経営(注3)

 

としています。

 

(注1) 「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様注だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。

 

(注2)「能力」には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。

 

(注3) 「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、組織内の個々の人材がその特性をいかし、いきいきと働くことの出来る環境を整えることによって、「自由な発想」が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる、といった一連の流れを生み出しうる経営をいいます。

 

(2)ダイバーシティ経営の4つの効果

 

①プロダクト・イノベーション

 

対価を得る製品・サービス自体を新たに開発したり、改良を加えたりするもの

※多様な人材が異なる分野の知識、経験、価値観を持ち寄ることで、「新しい発想」が生まれます。

 

②プロセス・イノベーション

 

製品・サービスを開発、製造、販売するための手段を新たに開発したり、改良を加えたりするもの(管理部門の効率化を含む)

※多様な人材が能力を発揮できる働き方を追求することで、効率性や創造性が高まります。

 

③外的評価の向上

 

優秀な人材の獲得、顧客満足度の向上、社会的認知度の向上など

※多様な人材を活用していること、およびそこから生まれる成果によって、顧客や市場などからの評価が高まります。

 

④職場内の効果

 

社員のモチベーション向上や職場環境の改善など

※自身の能力を発揮できる環境が整備されることでモチベーションが高まり、また、働きがいのある職場に変化していきます。

 

(3)ダイバーシティ経営に取り組む意義

 

①ダイバーシティとは

 

「女性」「外国人」「高齢者」「障がいのある人」といった表層的な多様性だけが「ダイバーシティ」ではなく、「働き方」や「キヤリア」、「経験」といった一見外からわからない内面/深層的な多様性も含まれます。

 

②ダイバーシティ経営とは

 

多様な人材が能力を発揮し価値創造を創出する「ダイバーシティ経営」は、「経営者の取組」、「人事管理制度の整備」、「現場管理職の取組」の3拍子がそろうことにより、彼らが活躍できる「組織風土」が醸成され、成果につながっていくことが分かってきました。

 

「ダイバーシティ経営」を推進している企業では、新入社員や中途社員の採用、正社員の定着、人材の能力開発の状態、 正社員の仕事に対する意欲、会社や仕事に対する満足度において「良い/うまくいっている」と回答する割合が高くなっています。

 

加えて、売上高や営業利益も高いことは、定着した人材が持てる能力を発揮できる職場環境があるため、と考えられます。

 

どのような人材、組織で自社を発展させていくかを考え、社員一人ひとりが活躍できる組織風土を醸成することが「ダイバーシティ経営」の実現には不可欠だとしています。

 

2.ダイバーシティ経営の実現に必要なインクルージョン

 

(1)インクルージョンの重要性

 

多様な人材が職場にいることは重要ですが、人が多様化しただけでは新たな価値は生まれません。

その多様な人材が能力を発揮できる「組織風土」、すなわち『インクルージョン風土』をつくっていくことが重要です。

 

(2)インクルージョンの意義

 

『インクルージョン』とは、一人ひとりが「職場で尊重されたメンバーとして扱われている」と認識している状態を指します。

そのためには、職場メンバーの一員として認められることと、その人の持つ独自の価値が組織に認められていることが必要です。

 

多様な人材が、それぞれ自分の「居場所」を実感できている状態が「インクルージョン」であると言えます。

 

 

3.ダイバーシティ経営が成果に結びつくまでのプロセス

 

多様な人材が活躍して能力を発揮し、組織にとっての成果(価値創造)を生み出すまでには①→②→③→④のステップが必要です。

しかし、これは短期でできるものではありません。

特に②の「経営者の取組」が「人事管理制度の整備」や「現場管理職の取組」に反映され浸透するまでには②→③→②を繰り返していく過程で3拍子がそろうようになり、多様な人材が尊重され、その独自性を発揮できる「組織風土=インクルージョン」が醸成され成果につながっていくと言えます。

 

 

4.企業が成果を出すまでに必要な要素とプロセス

 

(1)経営姿勢・理念

 

「ダイバーシティ経営」に限らず、企業が成果を出すまでには、企業としての考え方である「経営姿勢・経営理念」の明示が必要です。

「ダイバーシティ経営」は人材が多様であるからこそ、組織として1つの方針に基づき活動するための「経営姿勢・理念」が重要になります。

 

(2)経営戦略、人事管理制度、職場マネジメント

 

「経営姿勢・理念」に基づく「経営戦略」を設定したうえで、それらの実現に向けた各部門、各部門に所属する職場メンバーの役割を明確にし、一人ひとりの仕事を付与することで、各人が果たすべき役割を理解して持てる能力を発揮し、成果を生むと考えられています。

また、経営戦略の実現に必要な人材の要件の明確化と、各人が的確に能力を発揮していくための施策である「人事管理制度」の活用、それらを運用する現場管理職の「職場マネジメント」により、一人ひとりが確実に能力を発揮することが可能になります。

 

 

Ⅱ 改訂版ダイバーシティ経営診断ツールと診断シート

 

1.改訂版ダイバーシティ経営診断ツールとは

 

(1)改訂版ダイバーシティ経営診断ツールの概要

 

「改訂版ダイバ—シティ経営診断ツール」は、「改訂版ダイバーシティ経営診断シー卜」と「改訂版手引き(本資料)」によって構成される、中堅・中小企業の「ダイバーシティ経営」の実現に必要な現状分析・課題の明確化・対応策の検討・実行に寄与するツールです。

 

(2)「改訂版ダイバーシティ経営診断ツール」の主な使い手

 

主な使い手は、企業経営、人事管理の構築、職場マネジメントに係る専門家としています。

各分野の専門家が各企業の現状を把握し「どの分野から取り組んでいくか」「何から取り組んでいくか」などを各社とコミュニケーシヨンをとりながら決め、各取組分野に精通した専門家と連携しながら「ダイバーシティ経営」の実現に取り組んでいくことを念頭に置いています。

 

2.「改訂版ダイバーシティ経営診断シート」について

 

(1)目的

 

①「改訂版ダイバーシティ経営診断シート」では、各社の「ダイバーシティ経営」の実現に向けた現状を見える化することを目的としています。

 

②シー卜は多様な人材の活躍に必要な要素別に設問が設けられ、各カテゴリーの平均点を比較することで各社の「強み」「弱み」を把握することができます。

なお、この平均点は各社のカテゴリー別の強みと弱みを把握することを目的としており、他社と比較するものではありません。

 

(2)成果

 

①「強み」、「弱み」の把握により、ダイバーシティ経営の実現に向け、取り組んでいくべき優先順位を把握することができます。

 

②各設問の取組を推進しながら、経年でカテゴリーとの点数を見ていくことで達成度やさらなる課題への深堀が可能になります。

 

③経年で実施する「改訂版ダイバーシティ経営診断シー卜」を蓄積しておくことにより、一定年数が経過した後に「(経営者の取組・人事管理制度の整備・現場管理職の取組のうち)どのような取組がダイバーシティ経営に寄与したのか」、「(経営者の取組・人事管理制度の整備・現場管理職の取組 の)3拍子と成果の関連性」などが分析可能になり、より実態に即した政策立案(Evidence Based Policy Making : EBPM) が可能となります。

 

(3)活用方法

 

①各カテゴリーの強み弱みの把握

カテゴリーごとの達成状況を基に、ダイバーシティ経営の実現に向けた自社の「強み」と「弱み」を理解し、取組の優先順位を判断することができます。

 

②経年変化の把握

定点観測期間を各社で設け、過去の結果と比較することにより、設定した目標の進埗を確認したうえで、さらに対応策を検討することができます。

 

③診断シートを経営者と作成した場合と、社員と作成した場合との記入結果の比較

経営者と社員とでそれぞれ診断シー卜を作成し、各取組に対する両者の認識ギャップをみることで、より経営者と社員のコンセンサスが取れた取組を実施することができます。

 

3.改訂版手引きについて

 

(1)改訂版手引きの概要

 

本手引きは、外部のアドバイザーが中小企業の経営者などと対話しながら、経営者が自社の人材の活躍状況を把握しこれからの組織としての取組を検討できるよう取りまとめられたものです。

 

(2)具体的内容

 

具体的には、各社が「ダイバーシティ経営」に取り組むにあたり、「なぜ『ダイバーシティ経営』に取り組むのが良いのか」といった企業からの疑問に的確に回答できる知識や、いざ「ダイバーシティ経営」に取り組むときに「どこから取り組むのか」を明らかにし説明できるよう、解説が入れられています。

 

(3)基本的活用方法

 

個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係~エンゲージメントとは

  1. エンゲージメントとは

 

「エンゲージメント」とは、「個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係」のことをいいます。

 

その根底には「個人の成長や働きがいを高めることは、組織価値を高める」「組織の成長が個人の成長や働きがいを高める」という考え方があります。

企業と従業員の結びつきが強い状態を指して「エンゲージメントが高い」と言われます。

 

エンゲージメントが高い組織には、従業員一人ひとりが企業や組織を信頼し、自身と事業の成長に向けて意欲的に取り組むという特長があります。組織力が強まり、業績の向上が期待できることになります。

 

(1)エンゲージメントとロイヤルティ、従業員満足度との違い

 

組織と個人の関係を表す言葉には、エンゲージメント以外に「ロイヤルティ(Loyalty)」と「従業員満足度」があります。

 

①ロイヤルティ(Loyalty):従業員の企業に対する忠実度を指す

 

②従業員満足度:従業員が待遇や環境、報酬に対してどれだけ満足しているかを示す

 

エンゲージメントとの違いは、結びつきの方向性です。

ロイヤルティは、従業員が企業や組織に対して忠誠心を持って行動するという上下の関係性にあります。

従業員満足度は、処遇や環境に対する評価であり、企業側の取り組みに応じて満足度が変わります。

 

これらに対して、エンゲージメントは、企業と従業員が双方向の関与によって結びつきを強めていく点が大きく異なっています。

 

 

 

 

(2)エンゲージメントが注目される背景

 

近年、エンゲージメントが人事領域で注目される背景には、日本の人事制度の変化があります。

 

①人材の流動化

 

終身雇用や年功序列といった従来の人事制度から成果主義型の報酬制度へと移行する企業の増加、副業解禁や情報技術の発展によるリモートワークの進化などの働き方の多様化の進展により、労働者側によりよい待遇や環境を求める動きが活発化し、人材の流動化が進んでいます。

 

若年層の早期離職率が上昇するなど人材不足も深刻化しており、人材の確保と育成を経営の最重要課題として挙げる企業が増えています。

 

こうした背景から、組織が個人の成長を後押しし、長期的な業績向上を目指す人事施策の重要性が認識されるようになりました。そのキーワードとなるのがエンゲージメントです。

 

②「エンゲージメント」が高い組織は、生産性が高い

 

「エンゲージメント」が広く知られるようになったのは、エンゲージメントに関する調査が進んだことも背景にあります。

人材コンサルティングを行う株式会社リンクアンドモチベーションと慶應義塾大学の共同研究によると、エンゲージメントが高い組織は営業利益率および労働生産性にプラスの影響をもたらすことがわかりました。

 

エンゲージメントの高い組織を実現できれば、人材は組織に定着し、企業の業績や生産性の向上が期待できます。

個人と企業、双方の成長に貢献するエンゲージメントは、人手不足・人材流出が課題となる現状において、重要な経営戦略の一つになっています。

 

2.エンゲージメントがもたらすメリット

 

『日本の人事部 人事白書2019』によりますと、「エンゲージメントが高まったことで得られた効果」下の図表のようになっています。

 

日本の人事部「人事白書2019」p.277より引用

 

(1)組織の活性化

 

エンゲージメントの高い組織では、従業員の仕事に対する自発的な関与や熱意が見られます。

職場の問題を自ら解決したり、積極的に意見を出したり、事業と自身の成長に向かって活発に動きがある組織風土を生み出します。

 

(2)従業員のモチベーション向上

 

エンゲージメントは、従業員自身が何を期待されているかを認識し、かつ成長機会に接するなかで、組織に貢献できている実感がある状態で生まれます。

エンゲージメントが高まると、従業員は自分の仕事と業績、顧客満足度のつながりを感じ、モチベーションが向上します。

 

(3)生産性の向上

 

エンゲージメントが高い状態とは、企業の方向性やビジョンに共感していることを示します。

職務においてやるべきことを自発的に模索し、行動に移す意欲が十分にある状態といえます。

組織への愛着も強まるため、事業課題に対して積極的に取り組む姿勢が生まれます。

こうした一つひとつの行動が、生産性の向上をもたらします。

 

(4)従業員の定着率の向上

 

エンゲージメントは、ビジョンへの共感や職場環境へのコミットメント、やりがいのある仕事など、さまざまな要素から醸成されます。

エンゲージメントが高い従業員は、労働条件だけのつながりではなく、そこで働くことの価値を見出しています。人材流出を防ぎ、定着率の向上が期待できます。

 

3.職場のエンゲージメントを高めるためのポイント

 

エンゲージメントを高めるには、給与アップや労働環境の改善だけではなく、従業員が企業のビジョンを理解したり、企業が従業員の成長を支援したりすることによって、双方が理想とする成長の方向をすり合わせる必要があります。

 

(1)エンゲージメントが高い職場とは

 

『日本の人事部 人事白書2019』のアンケートによりますと、「エンゲージメントが高い」状態として、以下の項目が挙げられています。

 

「仕事そのものへの情熱・熱意」62.9%

「会社全般への満足感」61%

「会社への愛着」60.5%

「職務への満足感」58.4%

「仕事の成果が会社に大きく貢献している状態」42.1%

 

この結果から見えるのは、エンゲージメントが高い職場では、環境や労働条件に満足しているだけでなく、従業員が仕事に意欲を持ってやりがいを感じていることです。

 

①エンゲージメントの三つの観点

 

法政大学大学院 政策創造研究科の教授・研究科長の石山恒貴氏は、エンゲージメントには次の三つの観点があると解説しています。

 

・ワーク・エンゲージメント:仕事に対する熱意がありモチベーションが高い状態

・組織コミットメント:企業への満足度が高く愛着を持っている状態

・職務への満足感:仕事内容そのものに満足している状態

 

ただし、どういった状態を「エンゲージメントが高い」と評価するかは、企業によって異なります。

エンゲージメントの高い組織づくりに取り組む際は「どの状態を目標とするか」を具体的に決め、最適な施策を検討することが重要です。

 

②エンゲージメントを高めるためのポイント

 

エンゲージメントを高めるには、個人の仕事の志向性に沿った環境や機会の提供を行う必要があります。

価値観を共有・評価し、自分たちが何をしたいのか、どうなりたいのかを対話することが、エンゲージメントの高い組織を実現する上で非常に重要です。

具体的には、以下の観点が必要になります。

 

・ビジョンへの共感

・やりがいの創出

・働きやすい職場づくり

・成長支援

 

ⅰ ビジョンへの共感

 

ビジョンへの共感は、エンゲージメントを高める上で欠かせない要素です。

ビジョンとは、企業が進むべき方向性を示すものです。

 

ビジョンへの共感をうながすには、定期的に従業員に対して情報を発信し続ける取り組みが必要です。

 

ⅱ やりがいの創出

 

エンゲージメントを高めるには、仕事のやりがいを創出する仕組み作りも重要なポイントになります。

長期的な視点で従業員にやりがいを感じてもらうには、それぞれの得意領域や意向を見極め、それぞれの「持ち味」を職場で活用する取り組みが重要です。

 

例えば、能力や経験値に応じた「適材適所」の推進や、挑戦する機会を与える社内フリーエージェント制などが挙げられます。

このほか、企業への貢献を適切に評価する人事制度の導入、権限委譲による若手のやりがいの創出といった施策も有効な方法です。

 

ⅲ 働きやすい環境づくり

 

組織へのコミットメントに大きく影響するのが、働きやすい環境です。仕事への意欲を継続するには、心身ともに健やかな状態を保つ必要があります。

心の面では、社内のコミュニケーションが活発化するほど、組織への愛着心が生まれやすくなります。

「健康経営」「ワーク・ライフ・バランスの向上」は、エンゲージメントにおいても重要です。

 

ⅳ 成長支援

 

職務への満足度を高め、「ワーク・エンゲージメント(仕事に対する熱意)」を生み出すには、それぞれの従業員が成長を実感できる仕組み作りに取り組む必要があります。

スキルアップやキャリア形成に役立つ研修を実施するなど、それぞれの成長を支援します。

 

また、エンゲージメントの高い組織作りでは、上司のコミュニケーション力も重要です。

マネジメント力やリーダーシップの強化は、組織のコミュニケーションを円滑にし、エンゲージメントの高い組織作りに役立ちます。

 

4.エンゲージメントサーベイの活用方法

 

従業員のエンゲージメントを高めるには、現状を可視化し、注力すべき課題を具体的にすることが重要です。

その手段の一つである社内調査「エンゲージメントサーベイ」について、概要と活用方法について見ていきます。

 

(1)エンゲージメントサーベイとは

 

エンゲージメントサーベイとは、従業員と企業間のエンゲージメントの状態を数値化し、現状を把握する社内調査です。

アンケート形式で、質問に答えてもらいます。

従業員の不満解消を目的とする従業員満足度調査とは、質問内容が異なる点に注意が必要です。

 

①エンゲージメントサーベイの質問項目例

 

・仕事上で、自分に何が期待されているかを理解している

・自分の仕事を正確に遂行するために必要な設備や資源を持っている

・仕事をする上で、もっとも得意とすることを行う機会を毎日持っている

・最近1週間で、良い仕事をしていると認められたり、褒められたりした

・上司または職場の誰かが自分を一人の人間として気遣ってくれる

・仕事上で、個人の成長を応援してくれる人がいる

・仕事上で、自分の意見が頼りにされていると感じる

 

②エンゲージメントサーベイの効果

 

エンゲージメントを阻害する要因は、企業によって異なります。

ビジョンの共有がネックになっているケースもあれば、上司のマネジメントのやり方が原因で部下が成長を実感できていないケースもあります。

このように、目に見えにくい課題を明らかにすることがエンゲージメントサーベイです。

 

③エンゲージメントサーベイの実施頻度

 

サーベイを実施する頻度は、一般的には年に1回のペースが多くなっています。

ただし、『日本の人事部 人事白書2019』を見ると、「業績が市況より良い」とする企業の28.6%が「半年に一回」のペースで実施しています。

 

より良い組織を作るには、現状把握と改善のスピードを上げる対応力が求められていると見ることもできます。

組織の状態は常に変化していることを前提に、職場内のギャップやズレに迅速に気づき、対策をとることが重要といえます。

 

(2)エンゲージメントサーベイの活用例

 

エンゲージメントサーベイで得た調査結果は、制度改定の参考にしたり、各階層に必要なアクションに落とし込んだりすることができます。

 

①フィードバックに生かす

 

個人、部門、管理職ごとにフィードバックし、意識づけや改善策の実施に役立てることができます。

 

②人事施策に活用する

 

人事施策や評価制度の見直しや改善、組織開発に役立ちます。

 

③従業員フォローに活用する

 

数値が低下している従業員のフォローに生かすことができます。

 

5.まとめ

 

働き方が多様化し、人材の流動化が進む現在では、良い労働条件を提示するだけでは従業員のエンゲージメントを高めることは難しくなっています。

まず、経営層がエンゲージメントについての理解を深め、経営陣としてメッセージをしっかり届けていくことが出発点です。

 

エンゲージメントの本質は、双方向に関与することによる互いの成長にあります。企業側からの一方向的な接し方ではなく、従業員それぞれの「個を理解し、意思疎通する」ことが成功の鍵を握っています。

 

達成すべき目的と目的達成のための主要な成果指標の管理方法~OKRとは?

1.OKRの基本的な考え方と特長

 

(1)基本的な考え方

 

OKRは「Objectives and Key Results」の略で、「達成すべき目標と目標達成のための主要な成果」とされています。

 

OKRという考え方は、「MBO(目標管理:Management by Objectives and Self Control)」という管理方法をより効果的にするために、「目標(Objective)」と、その目標の達成度を測る「求められる主要な成果(Key Result)」を取り入れようという考えからはじまったとされています。

 

目標と測定可能な結果をリンクさせ、達成度を測ろうとするOKRは、「目標の数値」を達成するためにはどのようなプランが必要か、達成できなかった場合の問題は何かなど、より論理的な思考に基づくことでビジネスを行いやすくすることができるとされています。

 

(2)3つの特長

 

OKRには、従来の目標管理方法と異なる、3つの大きな特長があります。

 

① 目標設定の方法

 

OKRでは、まず組織全体やチームの大きな目標を掲げ、その目標に紐づいた複数の中規模・小規模な成果を「個人(またはチームなどの下位組織)の指標」として設定します。

こうすることで、企業・チーム・個人の方向性を統一し、具体的に取り組むべきタスクの優先順位を明確にすることができます。

 

② 評価のスパンとレビュー頻度

 

従来の方法に比べて評価のスパンが短くレビュー頻度が多くなっています。

 

③ 求める達成度と評価

 

求める達成度が100%ではなく、また、個人の評価(報酬)と切り離して考えます。

 

(3)階層イメージ

 

下記の図はOKRの目標設定方法を表した図です。

まず会社組織全体として達成すべきゴールが掲げられ、その下に部署・チーム単位、個人単位の目標と成果がぶら下がります。

このようにOKRは、ひとつのO(目標)に対し、複数のKR(主要な成果)が紐づく形で成り立っています。

 

2.OKRの目標設定・評価方法

 

(1)目標設定の方法

 

OKRのObjective (目標)とKey Results(目標達成ための主要な成果)は、下記のように設定します。

 

① Objective (目標)

 

・定性的な目標であること

・組織全体の意識を高め、社員全員が高揚するような高い目標であること

・簡単すぎる目標は避け、達成度が60~70%程度となること

・1カ月~四半期で達成できる目標であること

 

② Key Results(目標達成ための主要な成果)

 

・定量的な指標であること

・1つのObjectiveに対し、2~5個程度のKey Resultsを設定すること

・「ベストをつくせば達成できる」くらいの負荷がかかる、達成可能性50%程度の難易度である目標であること

 

(2)評価の方法と頻度

 

①OKRは、1カ月~四半期ほどの短期間でレビューを繰り返し、目標の見直しや評価を行うことが推奨されています。

 

②評価の方法は、会社・組織によって異なりますが、達成度をスコアリングする方法が一般的です。

 

ひとつひとつのKR(Key Results)に対して、達成度を0~1.0の点数や、%で採点し、その平均点をO(Objective)のスコアとします。

 

③運用のなかで、決定した目標や評価を社内で共有し、各々の役割や進捗状況を明確化することもOKRの特長です。

これらの特長から、OKRは組織内のコミュニケーションを活発化させ、同じ目標を皆で達成することによる一体感を高める効果もあるとされています。

 

(3)達成度の期待水準

 

OKRが他の目標管理方法ともっとも大きく異なる点が、目標に対し、60~70%の達成度を成功とみなすことです。

OKRは、OKRの達成度と個人評価(報酬)と切り離して考えることが基本のため、社員一人ひとりの目を組織全体の「高い目標」に向けさせることができます。

 

3.OKRの運用方法

 

OKRを活用すると、組織の目標や達成すべきゴールが明確になり、個人のモチベーションアップにも役立つとされています。

 

(1)OKRの目標設定方法

 

OKRを作成する際は、まず「目標(Objective)」を決め、それに付随するいくつかの「求められる主な成果(Key Results)」を考えていくと、比較的スムーズに作成できます。

OKRは、1ヵ月や3ヵ月などと期限を決めて、目標とその達成度を測る指標を決めるという形で導入されることが多いようです。

 

「目標」を決める際には、定性的な「業績をアップさせる」といった目標でも構いませんが、OKRとして運用する場合は、数値で測れる定量的な指標=Key Resultsを設けなくてはなりません。

 

まず、会社全体としてのOKR、そして部署ごとのOKRを決めていくといったように、トップダウン式に決めていくと効率よく決めることができます。

各部署のOKRを決めるときには、会社全体の「Key Results」とリンクするよう、決めていく必要があります。

 

重要な点は、各部署のOKR達成が、会社のOKR達成に直結しているかどうかです。

会社全体が一つの目標に向かって進めるような体制を整えることで、一体感が生まれてゆきます。

 

(2)OKR作成の5原則

 

OKRを決定する際に重要なのは、目標の具体性や達成可能性などです。

その目標設定に必要な要素を簡単に説明したものが、「SMART」です。

「SMART」は、1980年代にジョージ・T・ドラン氏が発表したもので、以下の要素の頭文字をとって命名されています。

 

・明瞭であること(Specific)

・測定可能であること(Measurable)

・達成可能であること(Attainable)

・関連性があること(Relevant)

・期限があること(Time-bound)

 

(3)OKRの導入・運用方法

 

OKRの導入・運用の手順の例になります。

 

①企業(組織全体)OKRの設定

②チーム(部署)OKRの設定

③個人OKRの設定

④週に1度、短いミーティングを行い、進捗を確認

今週の優先事項、達成の自信度、阻害要因などを確認し、1週間のKRをコミットします。

「チェックイン・ミーティング」といわれる場合もあります。

⑤週に1度、チームで成果を報告

小さな進捗でもよいので、1週間の成果を発表しあいます。

「ウィン(Win)・セッション」といわれる場合もあります。

⑥全体レビューを行う

わかりやすい成果を設定していることが特長のため、評価に時間をかけすぎないこともポイントです。

⑦次の四半期に向けて①にもどります

 

4.OKRのメリット・デメリット

 

下記のようなメリット・デメリットがあるとされています。

 

(1)メリット

 

①企業全体の目標と、個人の行動がリンクする

 

②従業員の組織に対するエンゲージメントが向上できる

 

③やるべきことの優先順位が明らかになる

 

④人事評価と切り離すことで、大きな目標に挑戦しやすくなる

 

(2)デメリット

 

①従業員数が少なく、1人がマルチタスクを求められる環境では機能しにくい

 

②短期間でのレビュー・見直しなどの運用が重要な手法のため、その時間がとれない企業では機能しない

 

③高い目標を設定するぶん、未達成のストレスがかかる可能性も高まる

 

短いサイクルで目標を更新・管理していくことを考えると、マネジメント部門の体制に余力があることが重要と考えられます。

 

5.OKRの課題

 

OKRのよくある課題です。

 

①週ごとのフィードバック、四半期ごとの設定が運用しきれない。

 

②最初からフレームワークの整合性を気にしすぎ、現実ばなれした設定をしてしまったり、設定に時間をかけすぎたりしてしまう。

 

③マネージャーや管理部門の理解が追い付かない。

 

④部署や職種によっては、定量的なKRが設定しにくい。

 

OKRは、はじめて導入する企業は「たいてい失敗する」というほど、最初から完璧な運用はむずかしいといわれています。

理想のフレームワークにとらわれすぎず、自社の事情に合わせてカスタマイズやブラッシュアップを繰り返しながら、柔軟に取り組むことが導入成功につながります。。

 

6.OKRが失敗する理由・原因

 

OKRが失敗する主な理由・原因を3つ紹介します。

 

(1)大もとの会社の目標がずれている

 

チーム目標や個人目標の大もととなるのは、会社の目標です。

 

目標を立てた時点では時流やビジネス環境にマッチしたものであっても、業界によっては変化のスピードが速く、すぐに陳腐化してしまう場合があります。

 

ずれてしまった目標を達成するために、紐づく目標を立てても意味がありませんし、モチベーション低下にもつながりかねません。

 

会社の目標を、最低1年から数年間以上の期間、変えない企業もあるかと思いますが、現実との間でズレが生じた場合は、すみやかに修正する必要があります。

 

(2)KR(定量的な目標)を感覚値で設定してしまう

 

定性的なO(Objective)に対し、KR(Key Results)では、具体的な数値で目標を定めます。

KRを設定するとき、仮説検証を行わずに、なんとなくの感覚値で決めてしまうと、目標が高過ぎる・低過ぎるといったことが起こってきます。

 

高過ぎる・低過ぎる目標設定も、やはりモチベーション低下につながってしまいます。

KR設定に当たっては、現状の分析や仮説検証を行い、合理的な根拠のある数値に設定する必要があります。

 

(3)OKRを人事評価・報酬と連動させてしまう

 

OKRの達成率を、直接的に人事評価や報酬と連動させてしまうと、個人目標を立てる際に評価の低下を恐れて保守的な目標設定しかできなくなる従業員が増えてしまいます。

 

OKRでは、KRは達成可能性50%程度の難易度で立てることが一つのポイントとなります。

 

高い目標を立てて、達成のために意欲高く行動するためにも、人事評価や報酬との連動は一部分のみにとどめる必要があります。

 

 

注目されているパーパス経営~効果的なパーパス・ブランディングとパーパスの策定方法

1.パーパス(企業の存在意義)が注目されている理由

 

「パーパス(Purpose)」は、「目的、意図」と訳される言葉です。

近年では、経営戦略やブランディングのキーワードとして用いられることが多く、その場合は企業や組織、個人が何のために存在するのか、すなわち「存在意義」のことを意味します。

 

パーパスが注目されてきた理由としては、以下の点が考えられます。

 

(1)ビジネス・ラウンドテーブルの声明

 

米主要企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルは、2019年8月19日、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言しました。

公表した声明には同団体の会長を務めるJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)のほか、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOやゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラCEOなど181人の経営トップが名を連ねました。

賛同企業は顧客や従業員、取引先、地域社会、株主といった全ての利害関係者の利益に配慮し、長期的な企業価値向上に取り組むとしています。

投資家の影響によって短期的視点にたった利益を追求する企業が増える中、社会やコミュニティー、そこで働く人々にとっての価値提供を企業経営の目的にすべきであるという宣言によって企業にとってのパーパスが世界で注目されることになりました。

企業のパーパスと利益は決して矛盾するものではなく、企業としてしっかりとしたパーパスを持っていることが、中長期の成長にとって不可欠となります。

 

(2)SDGsやESGなどの社会課題解決への関心

 

気候温暖化対応、SDGsが掲げた課題解決、ESG投資の高まりなど、株主の利益を中心に考えてきた株主中心主義から、これらの社会課題の解決に注力する企業が高い評価を得るようになってきました。

社会課題を解決することが、株主をはじめとする企業を取り巻くステークホルダーの利益にもなり、企業の中長期の成長に資するという考え方が広まっています。

 

(3)ミレニアル世代の存在

 

1980年代から2000年前後に生まれたミレニアル世代の存在も、行動原則の見直しにつながりました。ビジネス・ラウンドテーブルの声明に加わった米運用大手ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、投資先企業に送った年初の手紙の中で、ミレニアル世代の6割が「会社の主な目的を利益追求より社会貢献と考えている」と指摘し、経営者に対して社会問題の解決に取り組むよう求めました。

優秀な人材の獲得や投資マネーの取り込みで、同世代の影響力を無視できなくなっています。

 

2.「パーパス・ブランディング」と「パーパス」

 

(1)「パーパス・ブランディング」と「パーパス」との違い

 

①パーパス・ブランディング

 

企業経営をパーパス(存在意義)に基づいて行うべきであるというブランディング手法です。

「パーパス・ブランディング」は、企業経営の手段としてのワードです。

 

②パーパス

 

ミッション、ビジョン、バリュー、スピリット(クレド)等、企業理念ワードの新しいカテゴリーとしてのパーパスです。「パーパス」は、企業理念におけるワードです。

 

(2)ビジネスシーンでのパーパス

 

ビジネスシーンにおけるパーパスとは、社会とのつながりを強く意識し、社会における企業の存在意義を明確にするものです。

「社会において、企業が何のために存在し、何のために事業を展開するのか」を示すことです。

 

3.「パーパス・ブランディング」とは

 

 

(1)パーパス・ブランディングの定義

 

パーパスとは存在意義であり、人や企業が経済活動をする上で、自らが大事にする価値観と社会的課題の解決をリンクさせることで、経済活動に社会的意義の実現を果たしていくことです。

 

出典:BCG次の10年で勝つ経営 企業のパーパス(存在意義)に立ち還る。ボストンコンサルティンググループ編著 日本経済新聞出版

 

人と企業、両方の存在意義の接点をうまく重ね、働く人々の価値観に添いながら、事業を通じて社会課題の解決を図っていくことになります。

働く人々は自分の価値観にかなった仕事をしながら、組織として、より大きな成果や社会への影響力を及ぼすことができるため、いつまでもやりがいと誇りを維持できるというのがパーパス・ブランディングの考え方です。

 

 

パーパス・ブランディングにおいては、企業が「自分たちは何のために存在するのか」「社会のために何ができるか」という社会との関係性において、改めて自分たちの存在意義と向き合い、事業を通じて社会が抱える課題の解決に取り組むことが目的となります。

株主だけでなく、社会、従業員、顧客といった企業に関わる全てのステークホルダーの幸せを意識し、企業としてどのような持続可能な価値を提供すべきなのかを見つめ直し、自らの存在価値を再定義し、実際の企業経営に落とし込むところが求められています。

 

(2)パーパス・ブランディングの効果

 

「株主資本主義から、ステークホルダー主義への転換という社会的変化」に加え、「環境変化やグローバル化による人材の多様化、マーケットの流動化に伴う環境変化」の2つの変化の影響があります。

この2つの変化に対応するため、企業はパーパスを明確にすることと同時に、どんな環境下でもパーパスを実現する組織としての柔軟性が求められています。

 

出典:BCG次の10年で勝つ経営 企業のパーパス(存在意義)に立ち還る。ボストンコンサルティンググループ編著 日本経済新聞出版

 

複雑性が増す企業経営において、パーパス・ブランディングが果たす役割をビジネス領域、人事領域、組織領域の3つに分けて紹介していきます。

 

①ビジネス領域

 

ビジネス戦略においては、パーパスを起点にSDGsやESGなどの観点を取り入れ、本業のビジネスと社会課題解決をうまく融合させていくことが求められています。
自分たちが積み上げてきた経験や知見を活かせる分野と社会への影響力の大きさを見比べ、最も大きな社会インパクトを出せるビジネス領域がどこかを見極めていきます。

パーパスを実現するため独自の付加価値を磨き、社会への価値提供を続けていくストーリーは、企業の顧客にとっても大きなブランド価値になっていきます。
パーパスに合わせて、これまでのブランド体験にはない、新しい顧客体験なども創出させることができます。

 

②人事領域

 

人事領域においては、パーパスを起点にした採用・育成・ローテーションに関わる人材マネジメントポリシーの統合が必要とされています。
時代にふさわしいパーパスは、使命感に共鳴する人材を採用し、ビジョン実現に向けて組織を活性化させます。
現在では優秀な人材ほど金銭面のインセンティブではなく、志に従って行動すると言われています。
ルールで縛るのではなく、組織が掲げるパーパスに共感してもらうことで、初めてエンゲージメントを得ることができるのです。

 

③組織領域

 

従来の日本型である縦割り組織は、早く正確に情報を現場に伝えることで、同じものを大量に生産するには適していますが、部署間・会社間を横断することで人材やアイデアを交換するといった新しい発想を生み出すことは不得意と言われています。。
しかし、パーパスを起点にすることで、社会や顧客への提供価値に向き合うことができれば、組織の壁を超えたプロジェクト単位の有機的な組織体制に変化することができます。
パーパスによって、従来の生産効率性を追求した縦型の機能別組織から、社会や顧客への価値提供に対して最も効果的かつ、イノベーションが起こりやすい有機的組織への移行が実現します。

 

(3)パーパス・ブランディングと日本型経営

 

パーパスの考え方は欧米では珍しく、企業経営をする上での新しいコンセプトの一つのように取り上げられていますが、実は、昔から日本では程度の強弱の差こそあれ、この思想に基づいて企業経営がされていました。
現在は、日本型の思想を再評価し、企業としての良識や道徳といった慎ましい価値観として持っておくだけではなく、より経営に直結させ、企業を前に進めていく旗印にしていこうという流れが世界で起きています。
日本で働く人や組織自体が、そもそもの起業の精神や大事にしていたはずの価値観をいつの間にか忘れてしまっているため、パーパス・ブランディングを新しいコンセプトだと思ってしまっていると考えられます。

 

4.企業の理念体系における「パーパス」とは

 

 

このパーパスは、企業理念を構成するミッション、ビジョン、バリュー、クレドといった理念言語体系に関わるものです。つまり企業理念ワードとしての「パーパス」です。

前述したパーパス・ブランディングを行うために、企業理念体系にパーパスを加えるというイメージです。

 

(1)理念体系の定義

 

理念体系と各理念ワードの定義を最初に紹介します。

 

 

①ミッション

 

ミッション(Mission)は「使命」や「任務」と訳されることが多く、企業が果たすべき使命として定義されます。

パーパスと意味が共通する部分もあり、ミッションの中にパーパスを含有している企業も珍しくありません。

パーパスとミッションの違いとして、社会とのつながりを強く意識しているかどうかが挙げられます。パーパスは、ミッションよりも社会との関連性を意識し、将来なりたい姿ではなく現在あるべき姿を指す傾向があります。

 

②ビジョン

 

ビジョンとは、その企業がどこへむかっていくのか「あるべき」「ありたい」姿、目標や方向性を言葉にしたものです。

ビジョンを策定することで、企業やチー厶、個人が成し遂げたい目標・ゴールを具体的にします。

ビジョンを社員全員が把握しておくことで、何かを決定する際に企業の方向性から外れないようにすることができます。

ミッションと同じくビジョンについても、企業によっては、パーパスとしてのテーマを含有しています。

 

③バリュー

 

バリューとは、日々ミッションを遂行し、ビジョンを実現する過程で顧客やマーケットに提供する価値をいいます。ミッションやビジョンを受けての行動指針です。

ミッションやビジョンを実現するために必要な、企業や従業員のあるべき姿を具現化しています。企業が求める人材像や、ハイパフォーマーの条件として、バリューの合致が提示されることも少なくありません。

 

④クレド

 

クレドとは、「企業活動が拠り所とする価値観・行動規範を簡潔に表した言葉」のことで、ラテン語で「我は信じる」「信条」という意味を持ちます。

クレドは、社員一人ひとりが行動する際の「信条」や「行動指針」を指します。似たような言葉に「バリュー」がありますが、これは組織としての「共通の価値観」を意味し、クレドと同じように「行動指針」として利用されている会社も多くあります。

 

「クレド」は「ミッション・ビジョン」を支える価値観であるため、ミッション・ビジョンを達成するための指針になります。ミッション・ビジョン・クレドはそれぞれ連動しています。

 

(2)理念体系におけるパーパスの定

 

理念体系において、パーパス以外のワードの定義を明確にしました。

従来の理念体系の中でパーパスがどのような役割を担うべきかについては、複数のパターンがあります。

 

①ミッションにパーパスの要素を入れる (ミッション→パーパス型)

 

企業理念体系にパーパスを取り入れるべきという主張の多くは、ミッションをパーパスに置き換える、もしくはミッションにパーパスの要素を取り入れるというものです。

現状では多くの企業が、自社のミッションに社会との接点がない自分たちの使命しか記載していないというのがその理由です。

すでにミッション=存在意義と定義しているため、パーパスに関する思想がすでにミッションに内包されている場合も多々あります。

そのような場合には、無理にミッションを変える必要はなく、パーパスとしてよりわかりやすい社会意義をミッションに加える程度でいいかと思います。

 

一方で、現状のミッションに全く社会との接点がなく、ある種独りよがりになってしまっている場合は、パーパスの要素を加えるべきです。

 

自社がミッションを遂行し、ビジョンを実現した際に、世の中の社会課題を解決し、より良い社会づくりに貢献するという自社の存在意義(パーパス)を加えていくことを考えながら追加するといいでしよう。

 

②ミッション・ビジョンをまとめてパーパスに置き換える(ミッション&ビジョン→パーパス型)

 

ミッションとビジョンの組み合わせで、使命•存在意義&ありたい姿を表現している場合は、ミッションとビジョンをあわせてパーパスにするケースも出てきます。

ミッション、ビジョンにどのような意味と役割を持たせているのかは、企業によって違いますので、一つひとつの理念ワードの役割をよく考えながら、理念体系の整理をしていきます。

 

③ミッション内にパーパスを組み込む考え方 「パーパス型ミッション」と「アイデンティティ型ミッション」

 

ミッション内にパーパスを組み込む考え方の参考として、株式会社BIOTOPE代表の佐宗氏が提案している2つのミッションの型「パーパス型ミッション」と「アイデンティティ型ミッション」という分類の仕方が、非常に参考になるのでご紹介させていただきます。

 

佐宗氏の理念体系はミッション・ビジョン・クレドで構成されていますが、ミッションとは理想と現状のギャップを埋めるものであり、そこには「自分たちは社会に何を働きかけたいのか」という社会に重点が置かれたものと、「自分たちは社会の中でどうありたいのか」と内面に重心を置かれたもの2つがあるとしています。

 

ⅰ)パーパス型ミッション

 

「我々は〇〇を欲す」と社会変革を志すミッションです。

組織が取る行動に主眼がおかれているので「Do」のミッションと言えます。ベンチヤー企業など新しい価値提供を通じて、社会変革を目指す21世紀型企業に多くなっています。

 

ⅱ)アイデンティティ型ミッション

 

「我々は〇〇であり続けるべき」と社会の中での文化創造や保全を目指すミッションです。

組織の状態そのものに主眼が置かれているので、「Be」のミッションといえます。伝統的大企業や老舗企業に多く、価値観や文化を大切にする20世紀型企業に多くなっています。

 

さらに、佐宗氏によると今後の企業は、創業者が描いた世界観に沿って忠実に活動する組織から、理念を起点にしながらも、一人ひとりが企業のパーパスを自分ごと化し、社会への価値提供アクションに変換していく、いわば“生きた存在意義”を世の中に伝播していく運動体であるべきだとしています。

 

出典:組織の「存在意義」をデザインする佐宗邦威著 DIAMOND 7\-バード•ビジネス•レビュー論文

 

5.パーパスの策定及び運用方法

 

どのようにパーパスを策定し、運用していくべきかを解説します。

 

(1)パーパスの条件

 

パーパスに必要な条件は、以下の5つです。

 

①現在の社会課題を解決するものか

 

パーパスに必要な条件は「現在の社会課題を解決するもの」であることです。

パーパスは 「将来どうあるべきか」という理想論よりも、現代社会において顕在化している課題にフォーカスします。

今まさに自分たちの身の回りに起きている課題に向き合うからこそ、ステークホルダーが自分ごととして捉えられ、共感と推進力を得られるのです。

 

②自社の利益につながるものか

 

企業は営利団体です。そのため、パーパスは単なる無償奉仕ではなく、企業の利益につながるものでなければなりません。

利益が出ない活動を続けると、企業の存続が困難になる上、投資家や従業員などのステークホルダーの離反を招くことになります。

短期的には利益につながらないとしても、長期的に見てブランドが浸透し、利益に寄与するパーパスを策定することが理想となります。

 

③自社が行うことに合理性があるか

 

パーパスでフォーカスする課題は、自社のビジネスに密接に結び付いている課題であるべきです。自社のビジネスとは全く関連性のない領域にフォーカスしたとしても、市場の理解が得られなかったり、長期的な利益に結び付かなかったりする可能性があるからです。

パーパス策定時には、「自社が行うことに対して合理性があるのか」という視点が必要です。

 

④自社が実現可能なことか

 

パーパスは、自社が実際に取り組めて、実現可能なことでなければ、掲げる意味がありません。あまりにも壮大過ぎるパーパスを掲げると、実現不可能であることが目に見えてしまい、ステークホルダーの共感を得ることはできません。

パーパスが夢物語にならないよう、「そのパーパスを策定することにより、実現できる未来を具体的に想像できるか」と考えることが重要です。

 

⑤従業員をモチベートさせ得るものか

 

パーパスは、従業員のモチベートにつながるものである必要があります。

魅力的な誇れるパーパスであることで、従業員一人ひとりが自分ごととして捉え、その企業で働く意義を見いだせるのです。

働く意義が明確になり、モチベーションが上がることで、ロイヤリティ(loyalty)やワークエンゲージメント、そして生産性の向上にもつながります。

「自分たちはどこに進むのか」を明確にするパーパスを掲げることが重要です。

 

(2)パーパス・ブランディングの実施

 

パーパス・ブランディングは、「パーパスを決めて終わり」ではありません。

企業全体に浸透させ、実際の活動に落とし込むために、事業活動としてプロジェクトを立ち上げて取り組むべきものです。

実態が伴わないパーパス・ブランディングは「パーパス・ウォッシュ」となる可能性があります。

パーパス・ウォッシュに陥ると、ステークホルダーからの信頼を失いかねず、一度失った信頼はなかなか取り戻せません。

 

パーパス・ブランディングで注意すべき「パーパス・ウォッシュ」

 

パーパス・ブランディングを行う際は、「パーパス・ウォッシュ」に陥らないよう注意する必要があります。

パーパス・ウォッシュとは、パーパスを掲げているけれど、実際には行動が伴っていないなど、見せかけだけの状態を意味します。

看板に偽りありの状態では、ステークホルダーからの信頼を失う可能性があります。

パーパス・ブランディングを推進する際には、「掲げるパーパスが正しい情報か」「パーパスが実際の取り組みとして落とし込まれているか」「メッセージだけではなく実態が伴っているか」などを確認することが必要です。

 

(3)パーパス・ブランディングの評価

 

パーパス・ブランディングの取り組みを実施した際は、内容を評価し、情報共有するべきです。

成果が出た場合は、社内外にレポートを共有することで、ステークホルダーのエンゲージメントを高められます。

評価を行うことは容易ではありませんが、行動の結果を共有することで、ステークホルダーに「パーパスの実現のため、取り組みをしっかり行っている」と理解してもらうことができます。

 

6.パーパス見直しの効果

 

パーパスを見直すことの効果は、企業のサステナビリティ向上に帰着します。

企業は、利益を追求するだけでなく、現代の社会課題にフォーカスして活動することで、従業員や社会、投資家といったステークホルダーから「信頼」と「共感」を得ることができます。

その結果、ブランドの認知向上やロイヤリティ(loyalty)の向上、ひいては利益の増加にもつながっていきます。

支援してくれるステークホルダーの数が多ければ多いほど、企業の持続的成長の可能性が高まります。

企業は、信頼と共感でつながる応援団員を増やすためにも、パーパスを明確にし、パーパスに基づいて社会課題に向き合い続けることが求められます。

実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の公表

2021年8月12日に企業会計基準委員会は、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、「本実務対応報告」という。)を公表しました。

 

Ⅰ 公表の経緯

 

2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号) において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされました。

 

連結納税制度を適用する場合の会計処理及び開示については、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その:1)」(以下「実務対応報告第5号」という。)及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下「実務対応報告第7号」といい、実務対応報告第 5号と合わせて「実務対応報告第5号等」という。)を定めていますが、グループ通算制度への移行に伴い、グループ通算制度を適用する場合における法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを定める必要が生じたことから、企業会計基準委員会において審議を行い、公表に至ったものです。

 

また、本実務対応報告の理解のために、別紙として次の内容が用意されています。

(1)別紙1「グループ通算制度を適用する場合の税額計算の概要」

(2)別紙2「実務対応報告第5号及び第7号の取扱いと本実務対応報告における取扱いの関係」

 

1.グループ通算制度導入の理由

 

現行の連結納税制度は、企業グループ全体を1つの納税主体とする制度です。

各法人の所得金額と欠損金額を合算(損益通算)して計算した連結所得金額に、親法人の適用税率を乗じ、各種税額控除等を行って連結法人税が計算されます。

 

損益通算のほか、グループ全体の特定繰越欠損金以外の繰越欠損金の合計額を連結納税会社の損金算入限度額の比で配分した金額を、連結納税会社において損金に算入される欠損金の通算等をグループ全体で行うことで、単体納税に比べてグループ全体の法人税額が減少する効果が期待されます。

 

しかし、連結納税制度については、税額計算の煩雑さや、誤りが生じた場合にグループ全体の再計算が必要であり、税務調査後の修更正に期間を要するというデメリットがありました。

 

損益通算等のメリットを残しつつ、制度の簡素化を図るため、グループ通算制度へ移行することとなりました。

 

2.グループ通算制度の概要

 

グループ通算制度の概要は、以下のようになっています。

国税庁パンフレット「グループ通算制度の概要(令和2年4月)」より抜粋

 

Ⅱ 本実務対応報告の概要

 

以下は、本実務対応報告の内容を要約したものになります。

 

1.範囲(本実務対応報告第3項並びに第37項及び第38項)

 

(1)適用範囲

 

本実務対応報告は、グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとしています。

 

(2)通算会社間での金銭等の授受

 

通算会社が申告納付を行う税額は、通算前所得に対して通算グループ内の他の通算会社との損益通算や欠損金の通算を行った後の課税所得を基に算定されたものであり、当該通算等による税額の減少額を通算税効果額として、通算会社間で金銭等の授受が行われることが想定されています。ただし、授受を行うか否かは任意となっています。

 

また、通算税効果額の授受を行わない場合の取扱いの検討には一定の困難性があるものと考えられますので、本実務対応報告においては通算税効果額の授受を行うことを前提として会計処理及び開示を定めて、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含め取り扱わないこととしています。

 

2.実務対応報告第5号等との関係(本実務対応報告第39項から第41項)

 

(1)基本的な方針

 

基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号等の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲することとしています。

 

(2)踏襲する取扱い

 

踏襲する取扱いは次のとおりです。

 

①法人税及び地方法人税に関する会計処理

・通算税効果額の取扱い(本実務対応報告第7項並びに第43項及び第44項)

 

②税効果会計に関する会計処理

・住民税及び事業税の取扱い(本実務対応報告第8項なお書き及び第45項)

・繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率(本実務対応報告第9項並びに第48項及び第49項)

・個別財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性(本実務対応報告第10項から第13項及び第50項から第52項)

・連結財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性(本実務対応報告第14項から第17項及び第53項)

・未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い(本実務対応報告第18項及び第54項)

・投資簿価修正に関する取扱い(本実務対応報告第19項及び第20項並びに第55 項)

・適用時、加入時及び離脱時の取扱い(本実務対応報告第21項から第23項及び第 56項)

 

③開示(表示)

・法人税及び地方法人税に関する表示(本実務対応報告第24項及び第25項並びに第57項及び第58項)

・個別財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負債の表示(本実務対応報告第26項及び第59項)

・連結財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負債の表示(本実務対応報告第27項及び第60項)

 

(3)グループ通算制度に特有の会計処理及び開示

 

本実務対応報告においては、本実務対応報告に定めのあるものを除き法人税等会計基準又は税効果会計基準等の定めに従うこととし、グループ通算制度に特有の会計処理及び開示のみを示すこととしています。

 

申告手続以外にも税法の取扱いが連結納税制度から改正されている点がありますが、これらのうち本実務対応報告に定めのないものについては法人税等会計基準又は税効果会計基準等の定めに従うこととしています。

 

3.会計処理

 

(1)法人税及び地方法人税に関する会計処理(本実務対応報告第6項及び第7項並びに第 42項から第44項)

 

①通算税効果額の取扱い(本実務対応報告第7項並びに第43項及び第44項)

 

グループ通算制度における通算税効果額は、グループ通算制度を適用したことによる税額の減少額であり、法人税に相当する金額であるとされています。

 

そのため、本実務対応報告では、通算税効果額についても、連結納税制度における個別帰属額の取扱いを踏襲し、個別財務諸表における損益計算書において、当事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととしています。

 

(2)税効果会計に関する会計処理(本実務対応報告第8項から第23項及び第45項から第 56項)

 

①税効果会計を適用する上での会計処理の単位(本実務対応報告第46項及び第47項)

 

グループ通算制度においては、各通算会社が納税申告を行うことから、「納税申告書の作成主体」は各通算会社となりますが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは連結納税制度と同様であるとされており、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられます。

 

そのため、本実務対応報告では、連結財務諸表においては、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位」に対して、税効果会計を適用することとしています。

 

4.開示

 

(1)表示(本実務対応報告第24項から第27項及び第57項から第60項)

 

①個別財務諸表における通算税効果額に係る表示(本実務対応報告第24項及び第25項並びに第57項及び第58項)

 

本実務対応報告では、グループ通算制度における通算税効果額について法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととしていることから、連結納税制度における個別帰属額の取扱いを踏襲し、通算税効果額は、法人税及び地方法人税を示す科目に含めて、個別財務諸表における損益計算書に表示することとしています。

 

また、グループ通算制度における通算税効果額に係る債権及び債務の表示についても、連結納税制度における個別帰属額に係る債権及び債務の取扱いを踏襲し、未収入金や未払金などに含めて個別財務諸表における貸借対照表に表示することとしています。

 

②繰延税金資産及び繰延税金負債に関する表示(本実務対応報告第26項及び第27項並びに第59項及び第60項)

 

a)個別財務諸表における表示(本実務対応報告第26項及び第59項)

 

本実務対応報告では、個別財務諸表においては、通算会社で計上した繰延税金資産及び繰延税金負債について、税効果会計基準等の定めに従って、同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺して表示し、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺せずに表示することとしています。

 

b)連結財務諸表における表示(本実務対応報告第27項及び第60項)

 

グループ通算制度においては、通算会社は異なる納税主体となりますが、連結財務諸表においては通算グループ全体に対して税効果会計を適用することとしていることから、連結納税制度における取扱いを踏襲し、法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債について、通算グループ全体の繰延税金資産の合計と繰延税金負債の合計を相殺して、連結貸借対照表の投資その他の資産の区分又は固定負債の区分に表示することとしています。

 

(2)注記事項(本実務対応報告第28項から第30項及び第61項から第64項)

 

①本実務対応報告の適用に関する注記(本実務対応報告第28項及び第61項)

 

実務対応報告第5号では、連結納税制度を適用した場合又は取りやめた場合における最初の連結財務諸表及び個別財務諸表においてその旨を注記することが適当であると考えられるとしていましたが、実務においては、多くの企業が適用初年度のみならず、その後の年度においても、重要な会計方針に連結納税制度を適用している旨の注記を行っていました。

 

グループ通算制度においても、適用開始から取りやめまでの期間において適用していることを示すことが、財務諸表利用者にとって有用となると考えられるため、グループ通算制度を適用した場合又は取りやめた場合に加えて、本実務対応報告により法人税及び地方法人税の会計処理又はこれらに関する税効果会計の会計処理を行っている場合には、その旨を税効果会計に関する注記の内容とあわせて注記することとしています。

 

②税効果会計に関する注記(本実務対応報告第29項及び第62項)

 

本実務対応報告では、連結財務諸表及び個別財務諸表における税効果会計基準第四及び企業会計基準第28号第3項に定める繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳等の注記について、その内訳を税金の種類ごとに注記する必要はないとする連結納税制度における取扱いを踏襲し、法人税及び地方法人税と住民税及び事業税を区分せずに、これらの税金全体で注記することとしています。

 

③個別財務諸表における繰延税金資産に関する注記(本実務対応報告第63項)

 

連結納税制度では、連結納税親会社の個別財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の計上額が、連結財務諸表における回収可能見込額を大幅に上回り、その上回る部分の金額に重要性がある場合には、連結納税親会社の個別財務諸表に追加情報として注記することが必要になるとしていました。

この点については、連結納税制度が導入されてから十数年が経過し仕組みが周知されていると考えられることから、グループ通算制度においては、当該注記は不要であると考えられ、連結納税制度における取扱いを踏襲せず、特段の定めを置かないこととしています。

 

④連帯納付義務に関する注記(本実務対応報告第30項及び第64項)

 

連結納税制度では子会社が親会社の債務に対する連帯納付義務を負っているのに対して、グループ通算制度では通算子会社だけではなく通算親会社も連帯納付義務を負っている点などの相違があるものの、連帯納付義務は制度に内在する義務でありグループ通算制度を適用している旨を注記することとしていることから、別途偶発債務としての注記を行う有用性は高くないと考えられ、連帯納付義務について偶発債務としての注記を要しないこととしています。

 

5. 適用時期等(本実務対応報告第31項から第34項及び第65項から第69項)

 

(1)適用時期(本実務対応報告第31項並びに第65項及び第66項)

 

①原則適用(本実務対応報告第31項及び第65項)

 

税法においては2022年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度が適用されることを考慮し、原則適用の時期として、2022年4月 1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとしています。

 

②早期適用(本実務対応報告第31項ただし書き及び第66項)

 

税効果会計に関する会計処理及び開示については、より早期に企業の実態を適切に反映させる観点から、2022年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の期末の連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができることとしています。

 

なお、十分な周知期間を確保することや、年度内における首尾一貫性を確保することから、四半期会計期間からの早期適用は認めないこととしています。

 

(2)経過措置(本実務対応報告第32項並びに第67項及び第68項)

 

①連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合(本実務対応報告第32項(1)及び第67項)

 

連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合においては、税制の変更による影響と会計方針の変更による影響があると考えられますが、会計方針の変更による影響については、本実務対応報告は実務対応報告第5号等の会計上の取扱いを踏襲しており、会計方針の変更によって重要な影響は生じないと考えられることから、会計方針の変更による影響はないものとみなすこととし、当該定めを一律に適用することとしています。

 

また、会計方針の変更に関する注記は要しないこととしています。

 

なお、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下「実務対応報告第39号」という。)の特例的な取扱いを採用している企業について、本実務対応報告の適用前においては税制の変更による影響が考慮されておらず、本実務対応報告の適用によって考慮することになることから、適用時において、税制の変更による影響を損益等として計上することとなります。

 

②単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合(本実務対応報告第32項(2)及び第68項)

 

単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合について、通常の適用時の取扱いでは、グループ通算制度の適用の承認があった日を含む年度から、翌事業年度よりグループ通算制度を適用するものとして、税効果会計を適用することとしていますが、税法におけるグループ通算制度への移行が行われる年度においては一定の準備期間を要すると考えられることから、当該定めによらず、原則適用及び早期適用の定めに従うこととしています。

 

(3)連結納税制度から単体納税制度に移行する場合(本実務対応報告第33項及び第69項)

 

連結納税制度から単体納税制度に移行する場合は、税効果会計基準等の原則的な取扱いに従って会計処理を行うことなどから特段の準備期間は不要と考えられ、グループ通算制度を適用しない旨の届出書を提出した日の属する会計期間(四半期会計期間を含む。)から、2022年4月1日以後最初に開始する事業年度より単体納税制度を適用するものとして税効果会計を適用することとしています。

 

(4)実務対応報告第5号等及び実務対応報告第39号の廃止(本実務対応報告第34項)

 

実務対応報告第5号等及び実務対応報告第39号については、本実務対応報告の適用により、当該実務対応報告を適用する企業が存在しなくなった段階で廃止することとしています。

 

EUにおけるサステナビリティ情報開示に関する法規制導入の概要

EUでは、サステナブル・ファイナンスの促進に向けた取組が幅広く進められている中で、サステナビリティ情報開示の拡大についても様々な進展があり、現在、以下の3つの柱となる法規制が提案され、順次法制化が進められています。

 

1.タクソノミー規則(Regulation on the establishment of a framework to facilitate sustainable investment)

 

2.金融機関に対するサステナビリティ情報開示規則(Sustainable Finance Disclosure Regulation、以下「SFDR」という。)

 

3.企業に対するサステナビリティ情報開示指令(Corporate Sustainability Reporting Directive、以下「CSRDJ」という。) 提案

 

EUのサステナビリティ情報開示の関する法規制の概要は以下のようになっています。

 

日本公認会計士協会ホームページより抜粋

 

1.タクソノミー規制

 

(1)タクソノミー規則の目的

 

①タクソノミーとは

 

タクソノミーとは、環境面でサステナブルな経済活動、すなわち、環境に良い経済活動とは何かを示す分類のことをいいます。

 

②タクソノミー規則とは

 

これまで、「グリーン」や「サステナビリティ」という言葉の指す意味の解釈が人によって様々であったために、投資家と企業のコミュニケーションがスムーズに行われない等の課題が生じていました。

 

こうした問題に対処するために、グリーンの定義を確立し、サステナブル・ファイナンス促進の基盤を整えることを目的としたのが、このタクソノミー規則です。欧州委員会は、2020年6月、タクソノミー規則を公布しました。

 

タクソノミー規則では、経済活動ごとにグリーンな活動を定義付けた上で、タクソノミーに関する開示要件を定めています。

 

(2)サステナブルの定義

 

以下の4項目をすべて満たした経済活動を環境面でサステナブルと定義します。

 

①6つの環境目的の1つ以上に実質的に貢献する。

②6つの環境目的のいずれにも重大な害とならない。

③最低限の社会的セーフガードに準拠している。

④技術的スクリーニング基準(上記①•②の最低基準)を満たす。

 

(3)6つの環境目的

 

6つの環境目的とは、以下の事項を指します。

 

①気候変動の緩和

②気候変動の適応

③水資源と海洋資源の持続可能な利用と保全

④循環経済への移行

⑤汚染の防止と管理

⑥生物多様性とエコシステムの保全と再生

 

(4)タクソノミー規則の適用対象

 

タクソノミー規則の適用対象は以下の3つとしています。

 

①NFRD (非財務情報開示指令)の対象となる従業員500人超の大企業

②金融商品を提供する金融市場参加者

③EU及びEU各国により採択された金融市場参加者に対する法規則で、環境的にサステナブルな金融商品や社債に関するもの

 

(5)タクソノミー規則で求める開示内容

 

上記のうち、大企業(上記①)と金融市場参加者(上記②)については、下表のように開示要件を定めています。

日本公認会計士協会ホームページより抜粋

 

①まず、NFRDにおいて非財務情報を開示することが義務付けられている従業員500人超の大企業に対して、タクソノミーの基準を満たす売上及び資本的支出(以下、CapEx)・運営費用(以下、OpEx)の開示が要請されます。

 

具体的な開示項目及び表示方法は、2021年7月6日に採択された委任法により、企業の業種ごと(非金融機関、与信機関(銀行)、投資会社、アセットマネジャー、保険・再保険会社)に定められています。

 

②次に、金融商品を提供する金融市場参加者に対しては、各金融商品が貢献する環境目的及びその貢献の程度等について、開示することが定められています。

 

③金融機関のうち、「従業員500人超の大企業」に該当し、かつ、「金融商品を提供している場合」には、事業のタクソノミーの割合を開示し、かつ、金融商品のタクソノミーに関する情報を開示することが必要となります。

 

④金融機関がタクソノミー関連の開示を行うために、投資•融資先である企業によるタクソノミーに関する開示が不可欠となります。

金融機関は、各企業が、売上、CapExの何割がタクソノミーの基準を満たすかを開示し、その情報を基に、金融機関自身の投資•融資活動や金融商品のポートフォリオの何割がタクソノミーの基準を満たすかを算定することが可能となります。

 

⑤なお、サステナビリティを考慮しない金融商品については、「当該金融商品による投資は、EUタクソノミーの基準を考慮していない。」ということを明記するのみでよいとされています。

 

(6)企業と金融機関のタクソノミー開示の関係

 

企業と金融機関のタクソノミー開示の関係は、以下のようになっています。

 

 

日本公認会計士協会ホームページより抜粋

 

(7)タクソノミー規則の適用開始日

 

タクソノミー規則の適用開始日は、環境目的ごとに時期が定められています。

 

環境目的のうち、気候変動の緩和及び気候変動への適応については、その他の環境目的に先駆けて詳細な基準が既に定められており、適用開始日は2022年1月1日となっています。

 

その他の4つの環境目的については、現在、詳細な基準が検討されており、適用開始日は2023年1月1日とされています。

 

2. SFDR

 

(1)SFDRの目的と対象者

 

欧州委員会は、2019年12月、金融商品に関する情報の非対称性を減らすことを目的として、SFDRを公布しました。

この規則は、金融商品を提供する金融市場参加者と金融アドバイザーを対象とします。

 

(2)SFDRで求められる開示項目

 

日本公認会計士協会ホームページより抜粋

 

開示項目のうち、「重要な負のサステナビリティインパクト」については、投資により生じる環境・社会に対する負の影響の開示が求められるため、投資先からのサステナビリティ情報が不可欠となります。

 

この「重要な負のサステナビリティインパクト」の具体的な内容として、RTS案では、GHG排出、生物多様性、水、廃棄物、男女間賃全格差等の指標の開示が必須となっています。

 

金融機関がこうした指標に関する開示を実施するためには、投資先の各企業においてGHG排出等のサステナビリティ指標の開示がなされる必要があります。

これらの開示を各企業に要請するのが、CSRD 提案です。

 

(3)開始時期

 

適用開始は、一部の条項を除き 2021年3月10日であり、既に適用が始まっています。

ただし、パンデミックの影響等により、本規則の詳細を定めるRTS (Regulatory Technical Standard) の公表が 2021年7月以降に延期されることとなったため、現在は、詳細な定めがないなか、SFDRで定められている内容のみに準拠した開示を行い、2022年1月よりRTSに基づく開示が開始される予定です。

 

3.CSRD提案の概要

 

(1)CSRD提案のポイント

 

今回のCSRD提案のポイントとしては、下記の4点が挙げられます。

 

①すべての大企業、上場企業が対象

②サステナビリティ情報をマネジメントレポートの中で開示することを義務化

③EUサステナビリティ開示基準(今後策定)に準拠した開示を義務化

④サステナビリティ情報および開示プロセスの保証を義務化

 

(2)対象企業

 

NFRDの下では、従業員500人超の企業が適用対象となっていましたが、CSRD提案では、対象範囲を拡大し、すべての大企業およびEU規制市場に上場するすべての企業(ただし、上場零細企業を除く)が対象となります。

 

EUにおける大企業とは、以下の3つの基準のうち、2つの要件を満たす事業体です。

 

①貸借対照表合計:20百万ユーロ

②純売上高:40百万ユーロ

③会計年度中の平均従業員数:250人

 

これにより、対象企業数は、NFRDでは11,600社であったものが、約49,000社になるとされています。

 

EU圏外の企業であっても、適用対象の基準に該当する場合には、当規則に従わなければなりません。

したがって、日系企業も、EU規制市場に株式等を上場している場合やEUに拠点を置く子会社が大企業に該当する場合には、適用対象になると考えられます。

 

(3)開示媒体

 

①マネジメントレポートにおける開示と変更の背景

 

今回のCSRD提案においては、サステナビリティ情報は、マネジメントレポートの中で開示することを義務化し、その他の媒体での開示を認めないこととしました。

EUにおけるマネジメントレポートは、財務報告書と共に財務年次報告書による法定開示の構成要素ですので、今回の提案は、年次報告書におけるサステナビリティ情報開示を義務付けるものになります。

 

従来、サステナビリティ情報の開示箇所については、NFRDでは、マネジメントレポートの中での開示を原則としつつ、開示箇所をマネジメントレポートの中で示す場合には、マネジメントレポート以外で開示することも認められていました。

 

変更の背景には、マネジメントレポート以外で開示する場合、財務情報とサステナビリティ情報の結合性が不明確となること、サステナビリティ情報が財務情報に比べて重要性が低いような印象を与える可能性が指摘されたことが挙げられます。

 

②情報開示

 

マネジメントレポートで開示されるサステナビリティ情報は、デジタル形式で開示し、情報をマークアップ(タグ付け)することが求められます。

マークアップされた情報は、EUが創設を検討している企業の財務•サステナビリティ情報のプラットフォーム「European Single Access Point (ESAP)」に集約される予定です。

 

(3)開示情報の内容

 

①ダブルマテリアリティ適用の明確化

 

開示すべき要素の検討の際に重要となるマテリアリティの視点については、CSRDではダブルマテリアリティの考え方を採り、以下の両面から開示を行うことを求めています。

 

a)企業に影響を与えるサステナビリティ要素

 

b)企業が人々や環境に与えるインパクト

 

NFRDにおいてもこの考え方を採っていたものの、曖昧な表現であったため、適切に対応していない企業も散見されました。

そこで、CSRD提案では、ダブルマテリアリティの考えを明確化し、各マテリアリティの視点でそれぞれ検討し、どちらか一方の視点で重要とされた項目は開示対象となるということを示しています。

 

②詳細な開示項目に関する規定

 

CSRD提案では、NFRDと比べて、開示項目をより詳細に規定することが提案されています。

 

例えば、ビジネスモデルと戦略についての記述には以下の情報を含むべきとしています。

 

a)サステナビリティ関連リスクに対するビジネスモデルと戦略のレジリエンス

b)サステナビリティに関する機会

c)サステナブル経済への移行等を前提としたビジネスモデルと戦略を実行するための事業計画

d)サステナビリティに関するステークホルダーの利益と企業へのインパクトについて、ビジネスモデルと戦略での考慮方法

e)サステナビリティに関する戦略の実施状況

 

その他にも、サステナビリティに関する目標とその進捗状況、バリューチェーンにおける負のインパクトとそれを防止するための対応とその結果など、進捗や実績に関する要件が拡充されています。

 

(4)EUサステナビリティ開示基準

 

①EU独自のサステナビリティ開示基準

 

上述の開示要件に関する報告事項を明確に定めるために、CSRD提案では、EU独自のサステナビリティ開示基準を策定することを求めています。

 

この背景には、NFRD の下では、拘束力のない非財務情報ガイドライン(2017年)や、気候関連情報ガイドライン(2019年)を公表したものの、開示の質を十分に改善できなかったため、必要な情報が比較可能な状態で開示されるためには、強制力のある報告基準が必要であると考えられたという経緯があります。

 

基準の策定は、欧州財務報告諮問グループ (EFRAG)が行い、委任法として採択される予定です。

なお、EFRAGでは、先行してガバナンス体制を強化し、EFRAGの中に財務報告と非財務報告の委員会を並列に設置する予定です。

 

②サステナビリティ開示基準で開示すべき情報

 

サステナビリティ開示基準では、環境、社会、ガバナンスに関して開示すべき情報として、以下の項目を含むことを提案しています。

 

 

③サステナビリティ開示基準の策定方法

 

サステナビリティ開示基準の策定は2段階で行われます。

 

欧州委員会では、まず、2022年10月31日までに最初の基準を採択します。この最初の基準では、企業が上述のビジネスモデルや戦略等の開示項目について報告すべき情報を定めます。また、この基準で、SFDRに遵守するために金融市場参加者が必要とする情報を、企業が開示することを要請します。

 

そして、第2弾の基準は、2023年10月31日までに採択します。第2弾の基準においては、最初の基準での開示を補完する情報やセクター特有の情報を定める予定です。

 

④サステナビリティ開示基準の見直し頻度

 

サステナビリティ開示基準は、既にサステナビリティ情報開示を行う企業に不必要な負担を負わせないように、GRIやSASB、IIRC、TCFD、CDSB、CDP等の国際的なサステナビリティ開示フレームワークの内容も考慮に入れるものとします。

また、IFRS財団による国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立の動きも考慮しつつ、グローバルなサステナビリティ開示基準のコンバージェンスに貢献する意思も示しています。

こうした国際的な開示フレームワークの進展等を考慮するために、少なくとも3年毎に基準を見直すこととされています。

 

(5)サステナビリティ情報の保証

 

①サステナビリティ情報の保証者

 

CSRD提案では、サステナビリティ情報に対して、法定監査人または監査法人(以下「監査人等」という。)による保証の提供を義務付けています。

 

CSRD提案文書では、NFRDでの、監査人等に非財務情報の開示を確認することを求める程度で、保証までは求めていないような状況は、サステナビリティ情報の信頼性が脅かされ、利用者のニーズを満たさない可能性があるとしています。

 

②保証レベル

 

サステナビリティ開示の保証に関しては、特に将来の見通しや定性的な開示に関する合理的な保証の実施方法について、現時点では合意された基準がなく、期待ギャップが生じるおそれがあり、サステナビリティ情報に求める保証レベルは段階的に高めることが望ましいと考えられることから、今回の提案では、限定的保証を求めることとされました。

 

具体的には、以下の項目に適合しているかどうかを評価します。

 

a)EUサステナビリティ開示基準への適合性

b)企業の開示情報の特定プロセス

c)マークアップの要件への適合性

d)タクソノミー規則第8条の報告要件への適合性

 

そして、適用開始から3年以内に、より厳格な保証要件である合理的保証に引き上げることも検討することとされています。

 

③保証提供者

 

なお、監査市場における需要過多により、監査人の独立性を脅かすおそれや、監査費用の高騰を招く可能性があるため、EU加盟国において、保証提供者を監査人等だけでなく、保証サービスプロバイダーに拡大することも許容されています。

 

(6)CSRD及びサステナビリティ開示基準の今後のスケジュール

 

CSRD提案は、今後、欧州議会及び欧州理事会において検討が行われます。

並行して、EFRAG ではサステナビリティ開示基準の検討を進め、2022年半ばに基準案を公表することを目指しています。

CSRD及びサステナビリティ開示基準が、いずれも2022年中に採択された場合、企業は2023年1月以降に開始される会計年度から適用を開始することになるため、最初の開示は2024年中に始まることになります。

 

4.今後のスケジュール

 

タクソノミー規則、SFDR及びCSRD提案について、スケジュールを以下の表にまとめています。

サステナブル•ファイナンスの主体となる金融機関における開示が先行し、その後、企業向けの開示が導入される予定となっています。

金融機関による開示は、企業の開示情報をベースに行われるため、金融機関の開示が先行している現在のスケジュールについては批判もあり、今後の検討によってはスケジュールが変更される可能性も考えられます。

 

日本公認会計士協会ホームページより抜粋

外国子会社合算課税制度とは~タックスヘイブン対策税制の仕組みと考え方

1.外国子会社合算課税制度とは

 

わが国の内国法人等が、実質的活動を伴わない外国子会社等を利用する等により、わが国の税負担を軽減・回避する行為に対処するため、外国子会社等がペーパー・カンパニー等である場合又は経済活動基準のいずれかを満たさない場合には、その外国子会社等の所得に相当する金額について、内国法人等の所得とみなし、それを合算して課税(会社単位での合算課税)する制度です。

 

2.平成29年度改正後の外国子会社合算税制の概要

 

(1)平成29年度改正前との比較

 

(2)外国子会社合算税制の仕組み

 

国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」より

 

3.ペーパー・カンパニー等の特定外国関係会社について

 

(1)特定外国関係会社の定義

 

平成29年度改正後の本制度では、次に掲げる外国関係会社は受動的所得しか得ていないような租税回避リスクの高い外国関係会社であるため特定外国関係会社と定義し、会社単位で合算課税の対象とすることとされています。

 

①活動の実体がない外国関係会社(ペーパー・カンパニー)

 

②総資産に比して「受動的所得」の占める割合が高い外国関係会社(事実上のキャッシュ・ボックス)

 

③情報交換に関する国際的な取組への協力が著しく不十分な国等(ブラック・リスト国)に所在する外国関係会社

 

ただし、この類型に該当する場合であっても、租税負担割合が30%以上であるときには、適用除外とされています。

 

国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」より

 

(2)ペーパー・カンパニー

 

ペーパー・カンパニーとは、実体基準及び管理支配基準等のいずれにも該当しない外国関係会社をいいます。

ペーパー・カンパニーについては、特定外国関係会社に該当するものとして 会社単位で合算課税の対象とすることとされています。

 

①ペーパー・カンパニーの判定における実体基準について

 

判定基準の一つである実体基準は、対象外国関係会社を判定する際の経済活動基準おける実体基準と同様に、独立した企業としての活動の実体を有するのかを判定する基準となっています。

 

この実体基準の内容は、外国関係会社が主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設の存在という物的な側面から独立した企業としての活動の実体を有するのかを判定するものです。

 

ここでいう固定施設とは、単なる物的設備ではなく、そこで人が活動することを前提とした概念であるため、外国関係会社の事業活動を伴った物的設備である必要があります。

 

外国関係会社が有する固定施設が主たる事業を行うに必要と認められるかは、主たる事業の業種や業態に応じてその態様は異なるものであるため、その主たる事業の内容、その事業に係る活動の内容などから個別に判断することとなります。

 

なお、実体基準は、主たる事業を行うために必要と認められる固定施設が「有る」か「無い」かによって判定しますので、外国関係会社が固定施設について所有権を有する必要は無く、賃借により使用している場合であっても固定施設を有していることになります。

 

さらに、主たる事業が人の活動を要しない事業である場合には、主たる事業を行うに必要と認められる固定施設は有していないこととなります。

 

この実体基準と下記の管理支配基準のいずれも満たさず、ペーパー・カンパニーから除かれる一定の持株会社等にも該当しない場合には、特定外国関係会社に該当し、租税負担割合が20%以上であっても、会社単位での合算課税の対象となります。

 

②ペーパー・カンパニーの判定における管理支配基準について

 

管理支配基準は、実体基準とともにペーパー・カンパニーを判定するための基準の一つであり、対象外国関係会社を判定する際の経済活動基準における管理支配基準と同様に、会社の機能面から独立した企業としての実体があるかを判定する基準です。

 

この管理支配基準は、外国関係会社が本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていることが要件となっています。

 

管理支配基準における「自ら」行うということは、外国関係会社が事業の管理•支配•運営を自ら行うことを意味するものであることから、その行為の結果と責任等が外国関係会社自らに帰属することであると考えられます。

 

役員が責任を負い、裁量をもって事業を執行しているのであれば、外国関係会社はその活動に対する報酬を負担するのが通常であると考えられます。

そのため、外国関係会社からの報酬の支払いが認められない場合には、役員が責任を負い、裁量をもって事業を執行していることの証明には乏しく、ひいては外国関係会社自らが事業の管理、支配及び運営を行っていないと判断される重要な要素となりえます。

 

この管理支配基準と実体基準のいずれも満たさず、ペーパー・カンパニーから除かれる一定の持株会社等にも該当しない場合には、特定外国関係会社に該当し、租税負担割合が20%以上であっても、会社単位での合算課税の対象となります。

 

③ペーパー・カンパニー等の整理に伴う一定の株式譲渡益の免除特例について

 

平成30年度改正において、外国企業を買収した場合に、その傘下に存在するペーパー・カンパニー等の整理に当たって生ずる一定の株式譲渡益について、適用対象金額の計算上控除する措置が講じられました。

 

具体的には、特定外国関係会社又は対象外国関係会社(その発行済株式等の全部又は一部が親法人である内国法人に直接保有されている子法人を除きます。以下「ペーパー•カンパニー等」といいます。) の各事業年度における特定部分対象外国関係会社株式等の特定譲渡に係る譲渡利益額はそのペーパー•カンパニー等の適用対象金額の計算上、控除することとされています。

 

ここで、特定部分対象外国関係会社株式等とは、そのペーパー•カンパニー等に係る居住者等株主等の持株割合が50%を超えることとなった場合(そのペーパー•カンパニー等が設立された場合を除きます。) のその超えることとなった日(以下「特定関係発生日」といいます。) にそのペーパー•カンパニー等が有する部分対象外国関係会社に該当する外国法人の株式等をいうこととされています。

 

また、特定譲渡とは、次に掲げる要件の全てに該当する特定部分対象外国関係会社株式等の譲渡をいうこととされています。

 

a)譲渡先要件

 

親会社である内国法人等又は他の部分対象外国関係会社への譲渡

 

b)期間要件

 

ア)特定関係発生日から原則として2年を経過する日までの期間内の日を含む事業年度に行う譲渡

イ)現地の法令等により上記期間内の譲渡が困難である場合には、特定関係発生日から5年を経過する日までの期間内の日を含む事業年度に行う譲渡

 

c)解散等要件

 

次のいずれかに該当すること

 

ア)清算中のペーパー・カンパニー等が行う譲渡

イ)譲渡日から2年以内にそのペーパー・カンパニー等の解散が見込まれること

ウ)譲渡日から2年以内に非関連者がそのペーパー・カンパニー等の発行済株式等の全部を有すると見込まれること

 

d)統合計画書要件

 

次に掲げる事項を記載した計画書に基づいて行われる譲渡であること

 

ア)居住者等株主等の持株割合等が50%超とする目的

イ)上記の目的を達成するための基本方針

ウ)上記の目的を達成するために行う組織再編成に係る基本方針

エ)上記の目的を達成するために行う組織再編成の内容及び実施時期

オ)その他参考となるべき事項

 

e)特定事由非該当要件

 

特定部分対象外国関係会社株式等を発行した外国法人の合併、分割、解散その他の事由に伴って、当該ペーパー・カンパニー等において生ずる譲渡でないこと

 

④ペーパー・カンパニーに該当しないこととされる一定の持株会社等について

 

いくつかの国では、商慣行等の理由により、国内で事業を行う場合に、事業の遂行上欠くことのできない機能ごとに事業体を細分化し、固定施設や人員を有しない子会社にこれらの機能を担わせて事業を実施することが一般的とのことです。

このような事業実態を踏まえ、令和元年度税制改正において、現地の経済実体のある会社と一体となって活動し、事業の遂行上欠くことのできない機能を果たし、保有する資産や生ずる所得の状況から租税回避リスクが限定的であると考えられる等の一定の外国関係会社については、ペーパー•カンパニーに該当しないこととする措置が講じられました。

 

特定子会社の株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社で、次の要件の全てに該当する外国関係会社は、ペーパー・カンパニーに該当しないこととされています。

 

a)被管理支配要件

 

その事業の管理、支配及び運営が管理支配会社によって行われていること。

また、その事業を的確に遂行するために通常必要と認められる業務の全てが、その本店所在地国において、管理支配会社の役員又は使用人によって行われていること

 

b)不可欠機能要件

 

管理支配会社の行う事業(当該管理支配会社の本店所在地国において行うものに限る。) の遂行上欠くことのできない機能を果たしていること

 

c)所在地国要件

 

その本店所在地国を管理支配会社の本店所在地国と同じくすること

 

d)課税要件

 

その所得がその本店所在地国で課税対象とされていること

 

e)収入割合要件

 

各事業年度の収入金額の合計額のうちに占める特定子会社から受ける剰余金の配当等の額、特定子会社の株式等の譲渡に係る対価の額及び主たる事業に係る業務の通常の過程において生ずる預金又は貯金の利子の額の合計額の割合が95%を超えていること

 

f)資産割合要件

 

各事業年度終了の時における貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額のうちに占める特定子会社の株式等の帳簿価額、未収金の帳簿価額及び現預金の帳簿価額の合計額の割合が95%を超えていること

 

(3)事実上のキャッシュ・ボックス

 

総資産の額に対する一定の受動的所得の割合が、30%を超える外国関係会社をいいます。

ただし、総資産の額に対する一定の資産の割合が50%を超えるものに限ります。

 

受動的所得とは、配当等、利子等、有価証券の貸付対価、有価証券の譲渡損益、デリバティブ取引損益、外国為替差損益、その他の金融所得、保険所得、固定資産の貸付対価、無形資産等の使用料、無形資産等の譲渡損益等をいいます。

 

(4)ブラック・リスト国所在外国関係会社

 

情報交換に関する国際的な取り組みへの協力が著しく不十分な国・地域に本店を有する外国関係会社を言います。著しく不十分な国・地域は財務大臣が指定します。

 

 

3.経済活動基準

 

下記の基準のいずれかを満たさない場合、会社単位での合算課税となります。

 

(1)事業基準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)

 

(2)実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること)

 

(3)管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)

 

(4)次のいずれかの基準

 

① 所在地国基準 (主として本店所在地国で主たる事業を行っていること)

※ 下記以外の業種に適用

 

② 非関連者基準 (主として関連者以外の者と取引を行っていること)

※ 卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業、航空機貸付業の場合に適用

 

4.受動的所得

 

外国子会社等が経済活動基準を全て満たす場合であっても、実質的活動のない事業から得られる所得(いわゆる受動的所得)については、内国法人等の所得とみなし、それを合算して課税(受動的所得の合算課税)されます。

 

5.適用免除

 

事務負担に配慮し、外国子会社等の租税負担割合が一定(ペーパー・カンパニー等は30%、それ以外の外国子会社等は20%)以上の場合には本税制の適用が免除されます。