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平時における経営モニタリング~「公認会計士社外監査役等の手引き」より

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

平時の経営モニタリングに有益と思われる視点について順を追って記載しています。

 

1.信頼の原則

 

監査役は独任制ですが、全ての情報を自ら収集して分析・検討しなくてはならないかというと、決してそのようなことはなく、他者による情報収集・分析を信頼して業務を遂行すれば原則として足りますし、その方が効率的です。

監査(等)委員においても同様です。公認会計士に求められる職業的懐疑心を発揮しつつ、業務を遂行します。

 

2.正当な注意

 

社外監査役等の実務において「知り過ぎてしまうリスク」を指摘されることがありますが、監査役等が、コンプライアンスや内部統制上の問題について、知らなければ対応しようがないので免責されるというものではなく、監査論でいうところの「正当な注意」を払って監査活動を行わなければなりません。

 

3.コミュニケーションの大切さ

 

社外監査役等は平時から適切なコミュニケーションを行い、悪い情報の報告も受けられて、相談してもらえるような信頼関係を作るように心がけることが肝要です

 

4.取締役会への視点

 

「コーポレートガバナンス・コード」(東京証券取引所)第4章において、取締役会の役割・責任が示されています。

取締役会の議題や審議の在り方、実効性確保について、社外役員会計士協議会におけるアンケート結果に触れながら記載しています。

 

(1)議論の活性化のために必要なこと

 

アンケートの回答ほぼ全てにおいて、議長の采配が重要であると指摘されていました。

議長の采配の違いは、会社によって取締役会の在り方や社外役員への期待が少しずつ異なることにも起因します。

このため、社外監査役等においては、自らの職責を果たすことを前提としながらも、状況を的確に判断して関わることが望まれます。

 

(2)社外監査役等による発言の内容について

 

取締役会における社外役員の発言には、幾つかの型があると考えられます。

 

・ 実態又は不明点(議論の前提への疑問を含む。)を確認するための質問

・ 問題点の指摘

・ 改善提案

・ 他社の取組の紹介

 

より適切な発言を行うためには、

①会社の経営方針や戦略への理解、業界に関する基本的な知識

②議題の内容を事前に十分に理解

の必要があるということが改めて強調されるとともに、社外役員が現場(国内・海外)往査に行くことの意義も指摘されました。

 

さらには、社外役員が行い得る重要な貢献として、社内役員が発言しづらいことを発言し、問題提起することが挙げられます。

 

5.資本効率への視点

 

社外監査役等に有益と思われる、資本効率の指標及びそれと対比すべき資本コストへの視点を記載します。

 

(1)ROE の活用と性質

 

ROE(株主資本利益率)を使った経営上の議論をモニタリングするためには、ROE への理解を深めておく必要があります。

日本企業の ROE が相対的に低いのは、売上高利益率が低いことが主たる要因であることが知られています。

 

(2)ROE に対応させる資本コスト

 

ROE に対応させるべき資本コストは、株主資本コストです。

株主資本コストというのは、企業側のコスト意識を表すための概念であり、金利や配当のように誰が見ても明らかな数値とは違って、何らかの方法で推計することになります。

 

株主資本コストを推計する方法としては、実務では資本資産評価モデル(CAPM:キャップエム) が広く使われています。

 

(3)資本効率にかかる ROE 以外の指標について

 

企業と投資家との対話において ROE は極めて重要な指標であるとしても、他の指標が有益な場面もあります。

 

①ROA

 

ROA(総資産利益率)を用いる目的は、企業の資産全体に対する資本効率を表すことにあります。

ROA に対応させる資本コストには、便宜的に WACC(加重平均資本コスト)が用いられることがあります。

 

②ROIC

 

ROIC(投下資本利益率)を用いるメリットは、ROIC が有利子負債と株主資本による調達から得られたリターンを表す指標であるため、資本コスト(代表的な指標は WACC)との正確な比較が可能になることです。

その結果、投資効率に問題のある低収益事業が明確になりやすくなります。

 

(4)資本効率の指標を使う経営上の利点

 

投資効率を意識することによって、バランスシートも併せてモニタリングすることができます。

不採算事業や遊休資産、政策保有株式などが検討の対象になりやすくなります。

 

(5)資本効率の指標を使う上での留意点

 

資本効率の数字は中長期の視点で捉える必要があります。

資本効率は万能の指標ではなく、他の要素も併せて考慮すべき場合があります。

 

①新規の成長事業は資本効率が低いことがあります。

 

資本効率は、単年度の数値だけ見ていると、成熟した事業ばかりが評価されやすくなるなど、判断を誤ることがあります。

 

②企業の強みとなるものは手放すべきではないことがあります

 

資産をスリム化していけば、資本効率は上がりますが、その資産を本当に手放してよいのかも考慮する必要があります。

 

6.経営指標

 

CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)や EBITDAなどの財務数値から導かれる様々な経営指標を経営モニタリングに活用する余地は、非常に大きいと考えられます。

 

内部統制とリスク管理の評価~「公認会計士社外監査役等の手引き」より

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

その中から「内部統制とリスク管理の評価の視点」を見てみましょう。

 

1.会社のガバナンス体制の全体像の把握

 

(1)コーポレートガバナンスと内部統制及びリスクマネジメントとの関係の整理

 

社外監査役等が会社の内部統制やリスクマネジメントを評価する際に、まず、「コーポレートガバナンス」とガバナンスを支える重要な機能である「内部統制及びリスクマネジメント」との関係をどのように考えるかを整理する必要があります。

 

(2)内部統制の総合的フレームワーク(2013)で示された COSO の考え方

 

COSO は、ガバナンス、リスクマネジメント、内部統制を一つのつながりとして捉え、最上部にガバナンス、次にリスクマネジメント、そしてその基盤として内部統制を位置付けています。

 

(3)3つのディフェンスライン

 

COSO の考え方と整合するフレームワークである「3つのディフェンスライン」も社外監査役等の実務指針として有用です。

 

「3つのディフェンスライン」は、

第1 現業部門の管理

第2 間接部門による管理

第3 内部監査

の3つのディフェンスラインの組合せによって経営者とガバナンス機関を支える内部統制とリスクマネジメントを構築するフレームワークです。

 

社外監査役等は、「3つのディフェンスライン」の各機能をモニターすることによって内部統制とリスクマネジメントを評価することができます。

 

2.会社法における内部統制システム

 

(1)会社法の規定

 

①会社法は、業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)について次のように規定しています。

 

「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(会社法第 362 条4項6号)

 

②さらに、会社法は、内部統制システムについての決議及び運用の概況について事業報告に記載することを規定しています。事業報告は監査役等の監査対象です。

 

③したがって、監査役等は、取締役・執行役の職務執行の監査の一環として、取締役執行役よる内部統制システムの整備・運用状況の監査を行い、事業報告の監査を行うことになります。

 

(2)金融商品取引法の内部統制との関係

 

①監査役等は、並行して、監査人の監査報告書に記載される「財務報告プロセスの監視責任」を果たす役割を負うことになります。

 

②内部統制基準の内部統制の基本的要素の「リスクの評価と対応」と会社法内部統制システムの「損失危険の管理」はリスクマネジメントに通じるものと捉えることができます。

 

③社外監査役等は、金融商品取引法と会社法の両方を充足する内部統制・及びリスクマネジメントが整備・運用されているかどうかを評価することが実務的と考えられます。

 

3. 非常勤である社外監査役等の監査手続

 

(1)常勤監査役と非常勤監査役

 

監査役会設置会社には常勤監査役選任が法定されています。

指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社においても、常勤委員選任は任意ですが、多くの会社で常勤監査委員や常勤監査等委員が選任されています。

これらの常勤役員に社内役員が就任するケースが多くなっています。

 

監査役等の日常的な監査業務を担うのは常勤の監査役等であり、非常勤の社外監査役等は、常勤の監査役等に相当程度依存して自身の監査業務を行うことになります。

 

(2)監査手続き

 

内部統制・リスクマネジメントについて非常勤である社外監査役等が行う監査手続には次のような項目があります。

 

①常勤監査役等の活動報告の聴取

②内部監査部門、リスク管理部門等の報告の聴取

③社内会議への参加・傍聴

④社外取締役、会計監査人等との意見交換会への参加

⑤内部通報についての報告の聴取

⑥内部統制・リスクマネジメント関連の報告書の閲覧

⑦事業所視察

⑧内部監査部門・会計監査人の往査への同行

⑨監査役等往査への参加(分担)

 

監査役等は、会社の実情に応じて上記の手続を適宜選択することとなります。

 

4.専門的な事項への対応

 

公認会計士である社外役員には、コーポレートガバナンスコードが求める財務・会計の専門家としての知識・経験が期待されます。

期待に応えるために、公認会計士である監査役等は、財務・会計に関わる制度改正などの最新動向を常にフォローしていなければなりません。

その上で監査役等の役割である会計監査人の評価、会計監査の相当性判断などの専門的な事項に率先して対応することが望まれます。

会計不正を含めた不祥事の未然防止への貢献~「公認会計士社外監査役等の手引き」より

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

その中から「会計不正を含めた不祥事の未然防止への貢献」を見てみましょう。

 

1.不祥事の未然防止への視点

 

企業における不正を完全に撲滅することは困難と言えます。

しかしながら、不正を防止しようとする側が、優れた知見を導入し、組織的に行動することで、不正を減らしていくことは十分に可能と考えられます。

 

2.社外監査役等の活動について

 

不祥事の未然防止への貢献については、

・不正リスクを想定しながら日常の監査活動を実施していくこと

・リスクを感知したら適切に対処すること

を地道に続けることが大切と言えます。

そのために、有益と思われる視点をいくつか記載しています。

 

  • 不正事例を知っておく。

 

毎年「監査提言集」が公表されていますし、不正事例の研修会もあります。不正事例を分析した書籍も多数出版されています。

就任先のモニタリングに参考になりそうな部分には目を通しておくことが有益です。

 

  • 会計監査人にはない職務上の強みを活かす。

 

監査役等は取締役会などの重要会議に出席するため、内部者としての色彩が会計監査人よりも強いという強みがあります。

この職務上の強みを生かして、上位の立場の方たちの言動を感じ取ることができ、情報を豊富に持つことにもなります。

 

  • リスク防止と改善の申入れについて

 

不正を防止するためには、リスクが顕在化する前に感知し、問題が小さいうちに対処してしまうことが望ましいと言えます。

対処の方法には、経営陣に調査や改善を申し入れることも含まれます。

 

3.不正についての理論や知見

 

(1) 不正のトライアングル

 

米国の犯罪学者であるドナルド・クレッシーは、横領行為が行われる要因を分析し、動機、機会、正当化の三つの要素が全て揃ったときに不正行為が発生し得るとしました。

これは「不正のトライアングル」として知られており、不正の原因分析においてよく用いられる理論です。

「監査における不正リスク対応基準」(企業会計審議会監査部会)付録1においても、三つの要素別に不正リスクが例示されています。

 

  • 必要悪になっていないか。

 

「下請法違反」や「品質偽装」「優越的地位の濫用」等について、それをしなければ部門の業務が遂行できなくなるなど、現場の従業員のとり得る選択肢が狭まっている可能性も考えられます。

コンプライアンス違反が「必要悪」になってしまう可能性に留意し、そのような状況を感知したら、まず監査役会等で十分に議論することが必要です。

 

  • 予見し得る不正への不作為

 

コミュニケーションのとりづらい海外子会社があったり、人事異動が長期間なかったり、内部監査室が調査しづらい特定部署があったりと、かねてより気になっていた領域で不正行為が発生することがあり、ある程度は予見できた可能性があります。

気になっていながらもそのままになっているリスクを低減するよう、経営陣に進言するときには、経営陣への提案の仕方、内容、タイミングを監査役会等でしっかり検討する必要があります。

 

  • 健全な議論を促進させる企業文化・風土

 

多様性(ダイバーシティ)を確保するメリットは、多面的な視点が得られるだけではなく、コンセンサスに対して疑問を投げかけるなど、集団全体として懐疑的になり、集団浅慮を防いでくれることにもあると考えられます。

健全な議論を促進させる企業文化があるかどうかは、リスクを想定する上で重要なチェックポイントになると考えられます。

 

  • 内部通報制度

 

内部通報制度は、不正の早期発見と未然防止に資することが期待されており、多くの企業に導入されています。

重要な内部通報は必ず監査役等まで伝わる仕組みが必要です。

 

(2) 会計や内部統制の視点

 

①循環取引について

 

循環取引については「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」(日本公認会計士協会 会長通牒)がでているとおり、会計不正の中でも、関心が持たれることの多い類型です。

社外監査役等としても、特定の事業において、短期間に売上が急増するなどの事象がないかについて、留意しておく必要があります。

 

②バランスシートへの着目

 

会計不正の兆候を把握するために、バランスシート、特に資産科目を重視する考え方があります。

会計不正の影響は、バランスシートに累積していきますし、負債の網羅性よりも、資産の実在性の方が検証しやすいという実務上の観点も背景にあります。

社外監査役等としても、これらの資産の実在性や、損失処理された内容に違和感があるならば、監査役会等で話し合い、会計監査人との意見交換を含め、適切に対処すべきものと考えられます。

 

③損益とキャッシュフローの関係

 

利益が増えているのにキャッシュが不足しているなどの事象に留意します。

これらのアンバランスを適時適切に把握できる体制も必要です。

 

④基本的な内部統制や内部牽制への着目

 

営業と管理の業務分掌が曖昧である、事実上の事後承認になっている、データの変更履歴が残らない、現物管理が適切に行われていない、機密情報の持ち出しが容易である、といった基本的な内部統制の問題から、不正が起こることは少なくありません。

これらの問題への取組もモニタリングします。

 

4.公表されたガイド、プリンシプル、提言など

 

(1)不正リスク管理ガイド

 

COSO からは「不正リスク管理ガイド」(日本公認会計士協会出版局)が公表されています。

企業が不正リスク管理の体制を構築していく上で、長く参照できる文献です。

 

(2)不祥事予防のプリンシプル

 

上場会社において多くの不祥事が、業種を越え、規模の大小にかかわらず表面化している現状に対処するために、2018 年3月に「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」(日本取引所自主規制法人)が公表されました。

同プリンシプルでは6つの原則が示されています。

 

・ 実を伴った実態把握

・ 使命感に裏付けられた職責の全う

・ 双方向のコミュニケーション

・ 不正の芽の察知と機敏な対処

・ グループ全体を貫く経営管理

・ サプライチェーンを展望した責任感

 

これらは会計専門家にも共有することが期待されているものであり、上場会社の社外監査役等に就任された会員におかれても重要な指針です。

 

(3)日本監査役協会

 

日本監査役協会からは、監査実務を支援するために、様々な提言やアンケート調査結果などが公表されています。

日本監査役協会のこれらの提言等により、必要な知見を取り入れることは、監査業務を効果的に実施していく上でとても有益です。

 

会社に不祥事が発生した場合の対応について~「公認会計士社外監査役等の手引き」より

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

その中から「不祥事対応」を見てみましょう。

 

1.不祥事の発覚と対応

 

(1)不祥事について

 

企業不祥事には、法令違反だけではなく、社会から期待されている倫理に反するような不適切行為も含まれます。

 

(2)不祥事の発覚

 

不祥事が発覚する端緒については、通常の業務プロセスに組み込まれたチェック機能や内部通報のほか、内部監査、監査役等及び会計監査人による監査での発覚、マスコミによる情報感知や税務調査、捜査機関による調査などがあります。

会社で発生している不正ですから、内部者の誰かは知っていたはずの事実であり(ただし、不正であることを自覚していない場合もあります)これが様々な仕組みを通じて表面化したものと考えられます。

 

(3)不祥事対応について

 

不祥事の調査や差止請求等は、会社法で定められた監査役等の権限でもあります。

また近年では、経営陣の依頼により第三者委員会(外部調査委員会)を設置したり、内部調査委員会を組成して事実解明や再発防止策の提言を行ったりする実務が定着しています。

 

2.監査役等自らが不正の兆候を認識した場合

 

「社外役員等に就任している会員に対する倫理規則の遵守徹底について (日本公認会計士協会 会長声明)」に記載されているとおり、会員にはその権限に応じて、違法行為又はその疑いの阻止・是正を行うなど、深度ある対応が求められています。

 

(1) 適切なコミュニケーションと調査

 

監査役等がその業務の過程で、不正の兆候を認識した場合には、リスクの程度に応じて適切に対処する必要があります。

「重大な企業不祥事の疑いを感知した際の監査役等の対応に関する提言 (日本監査役協会)」に記載されているとおり、監査役等は、関係者らと効果的にコミュニケーションを行い、会計監査人とも十分に連携して、適切な調査方法の選択につなげることが重要です。

 

(2) 会計監査人からの情報共有

 

監査役等は、会計監査人から不正の兆候について通知又は報告を受けることがあります。

この場合については「法令違反等事実又は不正の行為等が発覚した場合の監査役等の対応について―監査人から通知等を受けた場合の留意点― (日本監査役協会)」が公表されており、監査役等における対応がまとめられています。

 

3.不祥事対応への理解とモニタリングの視点

 

 (1)全社的な不祥事対応

 

監査役等は、取締役の職務執行を監査する役割を担っており、調査権など独自の権限を有しています。

取締役も他の取締役の職務執行を監視する義務を負っています。

不祥事の内容と規模によっては全社的な対応をとることになります。

 

(2) 行政機関による調査

 

証券取引等監視委員会(SESC)や公正取引委員会、消費者庁など行政機関による調査がこれに該当します。

ここでは、証券取引等監視委員会による調査について記載します。

 

① 行政調査(開示検査)

 

開示書類の不提出や開示書類の「重要な事項」についての虚偽記載といった開示規制違反を対象とする調査です。

開示規制違反の事案のうち重大で悪質なものは、②に記載する犯則調査の対象になります。

 

② 犯則調査

 

開示規制違反の事案のうち重大で悪質なものについては犯則調査の対象になります。

犯則調査とは、刑事告発を目標に行われる調査であり、強制的な捜査を行うことが許されています。

証拠固めに時間はかかりますが、検察による捜査や起訴につながることもあります。

 

(3) 自主的な調査

 

通常起こり得る不祥事であれば、内部監査部門やコンプライアンス部門など既存の組織による社内調査で十分に対応できることも多いと考えられます。

しかし、不祥事の内容が複雑だったり、社会的影響が大きかったりする事案については、特別な調査チームを設置することがあります。

特別な調査チームには、大別して内部調査委員会と外部調査委員会(第三者委員会を含む。)があります。

 

  • 内部調査委員会

 

不祥事の内容が複雑であるなど、既存の部署単独による対応が困難である場合には、社内の役職員により横断的なチーム(内部調査委員会)を組成して事実解明や再発防止策の策定、責任の特定などを行います。

 

  • 外部調査委員会(第三者委員会を含む)

 

不祥事が組織全般にかかるものであったり、経営者の関与が疑われる事案であったり、社会的影響が大きな事案については、調査に中立性と客観性、場合によっては専門性を高めるために、主として会社外のメンバーにより構成される調査チーム(外部調査委員会)を組成することがあります。

 

  • 監査役等の参加について

 

「監査役監査実施要領(日本監査役協会)」では、監査役は、当該企業不祥事に関して明白な利害関係があると認められる者を除き、第三者委員会の委員に就任することが望ましいとされています。

 

4.倫理規則、違法行為への対応に関する指針

 

2019 年7月に倫理規則が改正され、企業等所属の会員が、違法行為又はその疑いに気付いた場合の対応が新設されています。

社外役員である会員は、「企業等所属の会員」に該当することになりますので、この規則の適用を受けます。

したがって、違法行為又はその疑いに気付いた場合には、「違法行為への対応に関する指針」に従って対応すべきこととなりますが、「違法行為」を発見することまで要求されているわけではありません。

 

違法行為又はその疑いに関する情報に気付いたら、まず、行為の内容・状況等に加え、適用される法令、所属する組織、投資家、債権者、従業員又は社会一般に対する潜在的な影響等を理解しなければなりません。

上記理解を前提として対応を行うことになりますが、指針には以下の「具体的な対応」が記載されています。

 

 (1)所属する組織の方針及び手続(倫理規程や内部通報制度など)に従って当該事項に対処する。

 

 (2)以下の適切な対応を行う。

 

  • 適用される法令を遵守
  • 違法行為又はその疑いを阻止・是正又は影響を軽減
  • 再発リスクを軽減
  • まだ発生していない場合には違法行為を未然に防ぐように努める
  • 監査役等とコミュニケーション

 

(3)外部監査人への報告の必要性を判断する。

 

 (4)所属する組織としての対応等の適切性を評価する。

 

 (5)組織としての対応等を踏まえ、追加的対応を行うことが必要かどうかを判断する。追加的対応のひとつとして「辞職」も例示されています。

 

5.決算の修正について

 

監査役等は下記の決算修正プロセスについてもモニタリングします。

 

(1) 決算への反映が間に合わない場合

 

会計不正の実態解明に時間がかかり、決算スケジュールが大幅に遅れることがあります。

特に期末監査の過程や期末間際に発覚した場合には、決算短信の開示、株主総会での報告、有価証券報告書の提出が期日に間に合わないことがあります。

 

① 決算短信

 

決算短信は期末日後 45 日以内に開示するのが原則ですが、その開示時期が期末日後 50 日を超えることになった場合には、決算内容の開示後遅滞なく、その理由(遅れた事情)及び翌事業年度又は翌連結会計年度以降における決算の内容の開示時期に係る見込み又は計画について開示することとされています。

 

② 計算書類

 

会社法において定時株主総会の開催日について特に規定があるわけではありませんが、定時株主総会の開催を遅らせることには困難が伴います。

このため、定時株主総会について延会・継続会を行うか、定時株主総会とは別に臨時株主総会を開催することになります。

 

ア.延会・継続会

 

株主総会は、延期又は続行することができます。

決算業務や監査終了後に、計算書類や監査報告等を株主に提供して検討の機会を確保し、延会または継続会において十分な説明を尽くします。

 

イ.臨時株主総会

 

計算書類の作成が大幅に遅延しそうな場合には、臨時株主総会の開催を検討します。

 

③ 有価証券報告書

 

有価証券報告書の法定提出期限に間に合いそうにない場合は、財務局に提出期限の延長に係る承認申請を行います。

 

(2)過去の計算書類の訂正

 

過去に確定した計算書類を遡及して修正すべきかどうかについて、法務省の考え方として、「誤謬の訂正」をした場合であっても、有効に確定した計算書類は修正する必要はないとされています。

ただし、大きく報道された会計不正について過去の計算書類を訂正した事例はありますので、何をもって「有効に確定した」と考えるかの法的判断のほか、誤謬の重要性も勘案しつつ、事案に応じて検討すべきものと考えられます。

 

(3)過去の有価証券報告書の訂正

 

過去に提出した有価証券報告書を訂正する必要があれば、訂正報告書を提出します。

過去何年分を訂正すべきかについて定めはありませんが、公衆縦覧期間(5年)も考慮して決定します。

なお、訂正の原因によっては、訂正内部統制報告書も必要です。

有価証券報告書の訂正が内部統制の不備に起因している場合には、内部統制に「開示すべき重要な不備」があったのか、又は内部統制の評価対象範囲外(例えば金額的重要性の乏しい子会社)に問題があったのかを明確にすると同時に、会社の是正措置が妥当なものかを確認する必要があります。

 

重要意思決定における経営モニタリング~「公認会計士社外監査役等の手引き」より

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

その中から「重要意思決定における経営モニタリング」を見てみましょう。

 

重要意思決定をモニタリングする視点として、財務・会計の知見に関連する重要意思決定項目を中心に記載されています。

経営方針や戦略に沿ったものであるかどうかを念頭におく必要があり、その前提として経営方針や戦略自体の合理性にも留意が必要です。

 

1.経営計画の策定

 

(1)経営計画

 

計画が合理的かつ現実的な根拠により策定されており、資本コストも意識されていることを確認します。

 

(2)事業の方向性

 

方向性が企業のミッション、ビジョン及びコアバリューに整合したものであるのかどうかも、チェックポイントとしています。

 

2.新規事業への参入、既存事業からの撤退

 

(1)新規事業への参入

 

黒字化する見込みや投下資金の回収年数に加えて、NPV や IRR といった指標により投資の成果を全体で評価していく観点が重要です。

 

(2)既存事業からの撤退

 

撤退については、参入のケースよりも社外役員が果たせる役割は大きいと考えられます。

社内のメンバーでは特定の不採算事業についての撤退の判断がなかなか言い出せない場合に、社外役員(特に社外取締役)が撤退を話題にすることは企業価値向上につながる可能性があります。

 

3.デット・ファイナンス

 

借入資金の使途、金利、借入先、返済計画、保証や担保について合理的な説明がされているかについてモニタリングするほか、借入後の資本構成についても留意します。

 

4.エクイティ・ファイナンス

 

調達資金の使途、割当先、ファイナンスの必要性等について合理的な説明がなされているかをモニタリングするのは、デット・ファイナンスの場合と同様です。

新株式発行の場合には、有利発行や希薄化、持株比率の変動といった形で既存株主に影響を与えることがありますので、留意が必要です。

 

5.M&A

 

M&Aをモニタリングする視点について例示しています。

 

(1)M&Aの目的

 

「そのM&Aが本当に必要であるのかどうか」について下記事項を検討します。

 

①コア事業や戦略との関連性はどう考えられているのか

 

②M&Aの目的(例えば技術、ブランド、顧客データ、販路の獲得など)は明確になっているか

 

目的によっては、M&A以外の方法が適合することもあります。

 

(2)M&A後の統合過程や経営体制

 

①PMI

 

M&A後の PMI(Post Merger Integration)や経営について、あらかじめ議論されている必要があります。

100%の買収でない場合には、株主間契約の要否を含め他の株主との関係も重要です。

 

②人材

 

人材面では、キーとなる経営幹部や従業員を引き留めるためのリテンションプランの一環として、リテンション契約を締結して金銭的インセンティブを付与することなどが検討されます。

また、被買収会社や被買収事業を適切にグリップできる人材を内外からどれだけ得られ、どのように配置するかも、M&Aの成否を大きく左右します。

 

(3)M&Aを進める環境

 

担当取締役と経営トップのみでなく、早い段階からCFO が深く関与することや、取締役会で議題にされることが重要と考えられます。

また、信頼のおけるアドバイザーや専門家を起用することも検討すべきです。

 

(4)M&Aの手法

 

M&Aには、現金による株式買収や事業譲受けのほかに、合併や株式移転による統合など様々な手法があります。

M&Aのための資金調達の方法と合わせて、採用しようとしている手法が合理的なものであるかに留意します。

会計上・税務上のインパクトについても、十分に検討されていることが必要です。

 

(5)デューディリジェンスを含めた専門家の活用

 

デューディリジェンスの主眼をあらかじめ設定することが重要です。

外部専門家を起用する前に、公開情報や有料企業情報などを活用して持ち込まれた案件をスクリーニングすることができます。

M&A案件を先に進めることになった場合には、適切な専門家(ビジネス、会計・財務、法務など)からサポートを受けつつデューディリジェンスを行い、そこで認識された問題点に対応されていることが必要です。

 

(6)価格の妥当性

 

DCF 法(Discounted Cash Flow Method)は、理論的に説明しやすいという長所があり、価格に算定において広く普及しています。

しかし、前提となるキャッシュフロー予測や割引率の設定次第で大きく数字が変わってしまう、という問題もあります。

 

買収するかどうかを検討する際には、EBITDA の何倍で EV(企業価値)を見るか、という指標(EV/EBITDA 倍率、EBITDA マルチプルなどという)が重視されることも多いようです。

 

(7)シナジーの見込み

 

株式や事業を買収する場合には、支配権の対価として買収プレミアムが上乗せされるので、その買収プレミアムを上回るシナジーを得る見込みがなければ、M&Aを成功させることは困難です。

M&Aの目的やメリットが示されていて、現実的かつ合理的な数字で裏付けられているかに留意します。

 

(8)内部統制への視点

 

被買収会社のガバナンスや内部統制にも注意を払います。

会計監査人を統一するかどうかの検討も大変重要です。

 

 

事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革における取締役会、社外取締役の課題と対応

経済産業省は、2020年7月31日に、「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」を策定しました。

その中の「3 取締役会・社外取締役における課題と対応の方向性」を見てみましょう。

 

Ⅰ.取締役会の役割

 

1.会社法上の位置付け

 

(1)機関設計にかかわらず、事業ポートフォリオに関する基本方針の決定及びその基本方針に基づき経営陣が行う職務の執行に対する監督

 

(2)取締役は、善管注意義務に基づき、上記決定及び監督に最善を尽くす

 

2.現状と課題

 

(1)事業ポートフォリオを年に1回以上定期的に検討している企業は、6割

 

(2)事業ポートフォリオを検討する機関を「取締役会」とした企業は、6割

 

(3)社外取締役の認識として、事業ポートフォリオに関する議論が「具体的な取り組みや成果につながっている」との回答は、半数以下

 

 

3.取締役会における事業ポートフォリオに関する基本方針の見直し

 

(1)少なくとも年に1回は定期的に事業ポートフォリオに関する基本方針の見直しを行う

 

(2)経営陣に対して、事業ポートフォリオマネジメントの実施状況等に関する監督を行う

 

(3)中長期的な企業価値の向上に向けて、全社レベルの視点から検討

 

(4)事業ポートフォリオマネジメントに関する実施体制・事業評価の仕組み・情報開示及び事業ポートフォリオの内容について具体的に確認

 

Ⅱ.社外取締役の役割

 

1.事業ポートフォリオに関する検討への積極的な関与

 

(1)経営陣には、「現状維持バイアス」がかかりやすい

 

(2)独立した立場から事業ポートフォリオに関する検討を働きかけ

 

(3)必要に応じて、事業の切出しに関する経営陣の判断を後押し

 

(4)事業評価の仕組みの構築や取締役会での議論を促す

 

 

2.社外取締役による投資家との対話

 

(1)自ら投資家との対話を積極的に行い、事業ポートフォリオに関する投資家の見方を学び、対話の内容を取締役会へのフィードバックも有意義

 

(2)投資家との対話の中で取締役会において事業ポートフォリオを十分議論していることの説明は投資家の理解と納得につながる

 

 

Ⅲ.取締役会の構成

 

(1)事業ポートフォリオに関する基本方針の見直し等を適切に行い、それを推進する経営陣を支えるためには、その構成の多様性と高度人材の確保が重要

 

(2)いずれの取締役も「部分最適」でなく「全体最適」の視点から議論することが重要

 

(3)そのため、事業部門横断的な機能を担う取締役(CEOやCFO等)と社外取締役から構成されることが望ましい

 

 

Ⅳ.CEOの指名や経営陣の報酬設計を通じた監督機能の発揮

 

(1)事業ポートフォリオの組替えや事業の切出しの決断・実行ができるCEOを選任

 

(2)業績評価や報酬設計を通じて適切なインセンティブを付与

 

Ⅴ.取締役会の実効性評価

 

(1)事業ポートフォリオに関して、取締役会・指名委員会・報酬委員会がその役割を適切に果たしているかを自構成表化の中で評価

 

(2)それにより必要な改善措置を講じることが重要

 

事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~

経済産業省は、2020年7月31日に、「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」を策定しました。

その中の「2 経営陣における課題と対応の方向性」を見てみましょう。

 

Ⅰ.経営者の役割

 

1.経営者の使命

 

(1)企業の持続的な成長のために経営資源の最適配分を行うこと

 

(2)そのために、事業ポートフォリオの最適化とシナジーの創出を図ること

 

2.現状と課題

 

(1)事業の売却等の基準や検討プロセスが明確でない

 

(2)事業の切出しを含めた事業再編に対する経営者の意識は必ずしも積極的ではない

 

3.経営資源の最適配分

 

(1)事業ポートフォリオの不断の見直しと最適化が不可欠

 

(2)そのための体制整備や仕組みの構築が必要

 

(3)シナジー創出のための事業部横断等の「横串」を通す方向での取り組みが必要

 

4.従業員利益の確保

 

(1)自社が「ベストオーナー」でない事業は成長戦略の実現は難しい

 

(2)事業ポートフォリオを見直すことの意義について従業員の理解を深める

 

Ⅱ.事業ポートフォリオマネジメントの在り方

 

1.現状と課題(事業ポートフォリオの見直しが十分に行われていない要因)

 

(1)事業部門の権限が強い

 

(2)権限と責任が一元化されていない

 

(3)検討基準、検討プロセスが不十分

 

2.事業ポートフォリオマネジメントの基本的考え方

 

(1)経営者は事業ポートフォリオマネジメントの一義的な責任者となる

 

(2)経営者が事業ポートフォリオに関する基本方針の立案、執行、見直しの立案を行う

 

(3)事業ポートフォリオマネジメントの基本

①企業理念・価値基準に基づく

②ビジネスモデルを明確化し、経営戦略の策定

③事業ポートフォリオを定期的に見直す仕組みの構築

④適切な運用

 

3.事業ポートフォリオマネジメントを実施するための体制整備

 

(1)責任部署の明確化と推進体制の整備

 

(2)各事業部門の幹部等がその事業の成長戦略を主体的に検討

 

4.CFOの機能強化

 

(1)全社的視点からの財務的な規律付けが重要

 

(2)経営企画ラインとCFOラインの連携

 

(3)CTOやCIOの役割や連携強化

 

5.事業評価の仕組みの構築と運用

 

(1)重要な視点は、その事業にとって「ベストオーナー」かどうか

 

(2)可能な限り、具体的なデータに基づき定量評価を踏まえて検討

 

(3)「4現象フレームワーク」の活用が有効

 

 

①評価指標設定の在り方

・ROIC(投下資本利益率)の導入

・資本コストとの比較

・競合他社との比較

・事業セグメントごとのBSの整備

 

②「4現象フレームワーク」に基づく資金の流れ

 

・緊急を要するのが「D」

・「C」についても、中長期的な視点で評価

・「両利きの経営」(探索と深化)から、新規事業は中長期的時間軸で評価

 

Ⅲ.経営目標や業績評価指標の設定等の在り方

 

1.現状と課題

 

(1)経営目標や業績評価指標として、売上高、利益等の企業規模に連動するものを重視

 

(2)規模縮小には、負のインセンティブ

 

(3)経営陣の報酬の水準が低く、固定報酬の割合が高い

 

(4)企業価値向上への長期インセンティブが働きにくい

 

2.経営目標や業績評価指標の設定に関する基本的な考え方

 

(1)経営戦略等も踏まえて体系的で一貫したものとなるように設定

 

(2)「規模」から「率」へ移行

 

(3)株価に連動する指標や株式報酬の活用

 

3.経営目標等の設定の在り方

 

(1)各社の経営戦略等に応じて設定

 

(2)資本収益性の指標:ROIC(主に事業部門)、ROE(グループ本社)

 

(3)成長性の指標:売上高成長率等(オーガニックグロースベース)、TSR(株主総利回り)等の組み合わせ

 

4.経営陣の報酬設計

 

(1)中長期的な企業価値向上に資する事業再編に対して経営陣に適切なインセンティブを与える

 

(2)長期インセンティブ報酬、特に株式報酬の比率を高めていくことが課題

 

(3)中長期のインセンティブとしての制度設計の考え方を投資家等に説明できるよう明確化

 

財務報告に係る内部統制の評価及び報告~目的・要素・意義・報告の流れ

.内部統制の目的と基本的要素

内部統制とは、以下の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、企業内の全ての者によって遂行されるプロセスをいいます。

そして、以下の6つの基本的要素から構成されます。

 

1.内部統制の目的

 

内部統制の4つの目的は相互に関連性を有しており、企業等は、内部統制を構築・運用することによって4つの目的を達成していくことになります。

 

(1)業務の有効性及び効率性

(2)財務報告の信頼性

(3)事業活動に関わる法令等の遵守

(4)資産の保全

 

2.内部統制の基本的要素

 

内部統制は以下の6つの基本的要素から構成されています。経営者は、内部統制の基本的要素が組み込まれたプロセスを構築し、それを適切に機能させていくことが求められます。

 

(1)統制環境

(2)リスクの評価と対応

(3)統制活動

(4)情報と伝達

(5)モニタリング(監視活動)

(6)ITへの対応

 

Ⅱ.財務報告に係る内部統制の評価及び報告

 

1.財務報告に係る内部統制の評価の意義

 

経営者は、内部統制を整備・運用する役割と責任があります。特に、財務報告に係る内部統制については、一般に公正認められる内部統制の評価の基準に準拠して、その有効性を自ら評価しその結果を外部に向けて報告することが求められています。

 

「財務報告」とは、財務諸表及び財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等に係る外部報告をいいます。

 

2.財務報告に係る内部統制の評価とその範囲

 

(1)財務報告に係る内部統制の有効性の評価

経営者は、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性の観点から必要な範囲について、財務報告に係る内部統制の有効性の評価を行わなければなりません。

 

(2)評価の範囲の決定

内部統制の有効性の評価にあたっては、財務報告に対する金額的及び質的影響の重要性を考慮し、以下の事項に関して合理的に評価の範囲を決定します。

 

①財務諸表の表示および開示

②企業活動を構成する事業及び業務

③財務報告の基礎となる取引又は事象

④主要な業務プロセス

 

Ⅲ.財務報告に係る内部統制の評価・報告の流れ

 

「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(参考図2)「財務報告に係る内部統制の評価・報告の流れ」では、以下のように記載しています。

 

1.全社的な内部統制の評価
(原則、全ての事業拠点について全社的な観点で評価)

2.決算・財務報告に係る業務プロセスの評価
(全社的な観点での評価が適切なものについては、全社的な内部統制に準じて評価)

3.決算・財務報告プロセス以外の業務プロセスの評価

(1)重要な事業拠点の選定:連結売上高等の概ね3分の2程度に達するまでの拠点を重要な事業拠点として選定


(2)評価対象とする業務プロセスの識別

①重要な事業拠点における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目(一般的な事業会社の場合、原則として、売上、売掛金及び棚卸資産)に至る業務プロセスは、原則として、全て評価対象とする

 

②重要な事業拠点及びそれ以外の事業拠点において、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加する

 

③全社的な内部統制の評価結果を踏まえて、業務プロセスに係る評価の範囲、方法等を調整する

 

(3)評価対象とした業務プロセスの評価

 

(4)内部統制の報告

 

Ⅳ.評価の範囲の決定

 

1.全社的な内部統制

 

原則としてすべての事業拠点について全社的な観点で評価しますが、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点(例えば売上高で全体の95%に入らないような連結子会社)に係るものについて、その重要性を勘案して評価対象としないことを妨げてはいません。

 

2.業務プロセスに係る評価範囲の決定

 

(1)決算・財務報告に係る業務プロセス

主として経理部門が担当する決算・財務報告に係る業務プロセスのうち、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについては、全社的な内部統制に準じて、すべての事業拠点において全社的な観点で評価します。

 

全社的な観点で評価することが適切と考えられる決算・財務報告プロセスには、例えば、以下のような手続きが含まれるとしています。

 

①総勘定元帳から財務諸表を作成する手続き

②連結修正、報告書の結合及び組替など連結財務諸表作成のための仕訳とその内容を記録する手続き

③財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続き

 

(2)上記以外の業務プロセス

重要な事業拠点を選定し、評価対象とする業務プロセスを識別します。

 

①全社的な内部統制が良好であることを条件として、連結ベースの売上高等の一定割合を概ね2/3程度とし、重要性の大きい個別の業務プロセスの評価対象への追加を適切に行うことが考えられます。

 

②重要な事業拠点における企業の事業目的に大きくかかわる勘定科目(例えば、売上、売掛金及び棚卸資産)に至る業務プロセスは、原則としてすべて評価の対象となります。

 

TCFDを活用した経営戦略立案~シナリオ分析 実践のポイント

「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドver.2~」(以下、本実践ガイド)が、2020年3月に環境省より公表されました。

本実践ガイドの中から「シナリオ分析 実践のポイント」の項目についてまとめています。

 

1.シナリオ分析を始めるにあたって

 

(1)本実践ガイドの対象範囲

 

TCFDでは、シナリオ分析の手順として以下の6ステップを提示しています。本実践ガイドでは、ステップ2からステップ5を対象としています。

 

ステップ1:ガバナンス整備

ステップ2:リスク重要度の評価

ステップ3:シナリオ群の定義

ステップ4:事業インパクト評価

ステップ5:対応策の定義

ステップ6:文書化と情報開示

 

 

(2)シナリオ分析の準備

 

シナリオ分析を始めるにあたり、経営陣にTCFDの意義を理解してもらうことが重要です。また、分析実施体制の構築、分析対象の設定、分析時間軸の設定が必要になります。

 

① 準備1:経営陣の理解の獲得

リスクを幅広に認識し、実際起こったと仮定した場合への対応を考えておくこと(シナリオ分析)を投資家が求めていることを経営陣に理解してもらうことが重要となります。

気候変動対応が企業価値へ影響を与えうることを、有識者勉強家等を通じてインプットすることが有効です。

 

② 準備2:シナリオ分析実施の体制を構築する

シナリオ分析実施には社内の巻き込みが必要で、初期段階より事業部を巻き込んだ体制で、事業部に気候変動を「自分事」に考えてもらうことが重要です。

 

③ 準備3:シナリオ分析の対象範囲を設定する

シナリオ分析の対象範囲を、「売上構成」「気候変動との関連性」「データ収集の難易度」等を軸に選定することにより、ビジネス・モデルにあった分析が可能になります。

 

④ 準備4:将来の「何年」を見据えたシナリオ分析を実施するかを選択する

事業計画の期間、社内の巻き込みの状況、物理的リスクの自社への影響度等の観点からメリットとデメリットを比較し、自社のメリットが大きい時間軸を決めることが重要です。

 

2.リスク重要度の評価

 

現在および将来に想定される、組織が直面する気候変動リスクと機会は何か、それらは将来に重要となる可能性はあるか、組織のステークホルダーは関心を抱いているか、などを考慮します。

 

(1)第一段階:リスク項目の列挙

 

対象となる事業に関するリスク・機会項目を列挙します。

 

(2)第二段階:起こりうる事業インパクトの定性化

 

列挙されたリスク・機会について、起こりうる事業インパクトを定性的に表現していきます。

リスクだけでなく、機会について検討することが重要となります。

 

(3)第三段階:リスク重要度の評価の実施

 

リスク・機会が起こった場合の事業インパクトの大きさを軸に、重要度を決定します。

それぞれのリスク・機会項目について自社にとっての「事業インパクトの大きさ」の観点から比較します。

 

3.シナリオ群の定義

 

いかなるシナリオ(と物語)が組織にとって適切かを考慮します。

 

(1)第一段階:シナリオの選択

 

2℃未満シナリオを含む、複数の温度帯のシナリオを選択していきます。

 

 

(2)第二段階:関連パラメータの将来情報の入手

 

リスク・機会項目に関するパラメータの客観的な将来情報を入手し、自社に対する影響をより具体化します。

 

(3)第三段階:ステークホルダーを意識した世界観の整理

 

将来情報をもとに、将来のステークホルダーの行動など自社を取り巻く世界観を鮮明化し、社外の視点も取り入れ、社内で合意形成を図ります。

 

4.事業インパクト評価

 

それぞれのシナリオが組織の戦略的・財務的ポジションに対して与えうる影響を評価し、P/LやB/Sへのインパクトの整理、試算、成行きの財務指標とのギャップの把握を実施します。

 

(1)第一段階:リスク・機会が影響を及ぼす財務指標を把握

 

気候変動がもたらす事業インパクトインパクトが自社のP/LやB/Sのうち、どの財務指標に影響を及ぼすかを整理します。

「事業別/製品別売上情報」「操業コスト」「原価構成」「GHG排出量情報」等、事業部等が通常使用しているデータを用いることで、より実態と近い試算が可能となります。

 

(2)第二段階:算定式の検討と財務的影響の試算

 

試算可能な財務指標に関して算定式を検討し、内部情報を踏まえて財務的影響を試算します。

定性的もしくは科学的根拠が乏しい情報に関しては、継続的なモニタリングや外部有識者へのヒアリング等を実施します。

 

(3)第三段階:成行きの財務指標とギャップを把握

 

試算結果をもとに、将来の事業展望にどの程度のインパクトをもたらすかを把握します。

 

5.対応策の定義

 

特定されたリスクと機会を扱うために、適用可能で現実的な選択肢を特定します。

 

対応策がビジネス・モデルの変革等に至るには、「経営との統合(中期経営計画への気候変動の組み込み)」が重要であり、本実践ガイドでは、統合への流れを記載しています。

 

本実践ガイドより抜粋

 

(1)第一段階:自社のリスク・機会に関する対応状況の把握

 

事業インパクトの大きいリスク・機会について、自社の対応状況を把握し、必要であれば、競合他社の対応状況も認識します。

 

(2)第二段階:リスク対応・機会獲得のための今後の対応策の検討

 

事業インパクトの大きいリスク・機会について、具体的な対応策を検討します。

どの様な状況下でも、レジリエント(強靭)な対応策を検討しておくことが重要となります。

 

(3)第三段階:社内体制の構築と具体的アクション、シナリオ分析の進め方の検討

 

対応策を推進するために必要となる社内体制を構築し、関係部署とともに具体的アクションに着手します。

また、シナリオ分析の今後の進め方を検討します。

気候変動を経営戦略検討のプロセスに入れ込むことが重要です。

シナリオ分析結果の実効性を持たせるために、経営企画の直下に気候変動に関する横断的な組織を作ることも考えられます。

 

 

本実践ガイドより抜粋

TCFDを活用した経営戦略立案~実践ガイドの目的及びシナリオ分析の位置付け

「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドver.2~」(以下、本実践ガイド)が、2020年3月に環境省より公表されました。

本実践ガイドの中から「本実践ガイドの目的」と「TCFD提言におけるシナリオ分析の位置付け」の項目についてまとめています。

 

1.本実践ガイドの目的

 

「実践ポイント」と「セクター別実践事例」により、シナリオ分析の課題に答えることを目的としています。

 

(1) シナリオ分析の実践で企業が困る点

 

シナリオ分析の実践で企業が困る点は、おおまかに4点です。

 

① 具体的な自社でのプロセスがわからない

② シナリオ分析実施のレベル感は画一的に決められない

③ 社内の経営陣に理解してもらうには労力が必要

④ 活用可能な外部データの不足

 

(2) 本実践ガイドで上記の問題を解決

 

本実践ガイドで上記の問題の解決を図ることが可能となります。

 

① 本実践ガイドの「実践のポイント」「セクター別実践事例」の内容を理解する

② わかる範囲でのパラメータからシナリオ分析を実施。経営陣とその結果をもって対話をスタート

③ Appendixで外部データ、パラメータを掲載

 

(3) シナリオ分析の進め方

 

シナリオ分析はできるところからスタートし、段階的に充実させていきます。

 

(4) シナリオ分析のゴール

 

シナリオ分析のゴールは、「気候変動課題の対応」と「企業価値の向上」の同時実現です。

 

2.TCFD提言におけるシナリオ分析の位置付け

 

(1) TCFD設立の背景

 

気候変動リスクは金融システムの安定を損なう恐れがあり金融機関の脅威になりうることが、設立の背景にあります。

 

① 物理的リスク:財物損壊等、資源枯渇等

② 賠償責任リスク:賠償責任の追及

③ 移行リスク:低炭素経済、金融資産再評価

 

(2) 気候変動と企業経営

 

気候変動は企業経営にとって明確なリスクと機会になりえます。

 

本実践ガイドより抜粋

 

(3) TCFDの目指す姿

 

TCFDは5年のタイムフレームワークを採用し、企業へ段階的な対応を期待しています。

 

(4) TCFD提言の求めているもの

 

TCFDでは気候変動による財務への影響の開示を求めています。

 

(5) 財務への影響

 

TCFDでは、気候関連リスク・機会と財務上の影響の開示対象を例示しています。

 

(6) 気候関連リスク

 

TCFDでは気候関連リスクを、低炭素経済への「移行」に関連するリスクと、気候変動による「物理的」変化に関連するリスクに大別しています。

 

① 移行リスク:低炭素経済への「移行」に関するリスク

政策・法規制リスク、技術リスク、市場リスク、評判リスク

 

② 物理的リスク:気候変動による「物理的」変化に関するリスク

急性リスク(異常気象など)、慢性リスク(平均気温上昇など)

 

(7) 気候関連機会

 

TCFDでは気候変動緩和策・適応策による経営改革の機会を5つに分類し例示しています。

 

① 資源の効率性

② エネルギー源

③ 製品・サービス

④ 市場

⑤ 強靭性(レジリエンス)

 

(8) 業種別ガイダンス

 

TCFDは、非金融セクターのうち、気候変動の影響を強く受ける4セクター(エネルギー、運輸、素材・建築物、農業・食料・林業製品)に対し、推奨する開示項目を補助ガイダンスにおいて明らかにしています。

 

(9) TCFDの要求項目

 

TCFDの要素は、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4つです。

 

① ガバナンス=経営陣の関与

気候関連リスクと機会を経営戦略に反映するためには、経営陣を巻き込んだ体制が必要であり、TCFDでは監督体制や経営者の役割の開示を求めています。

 

 

② 戦 略

短期・中期・長期のリスクと機会、事業・戦略・財務に及ばす影響、2℃目標等の気候シナリオを考慮した組織戦略の強靭性の開示を求めています。

 

③ リスク管理

リスク識別・評価のプロセス、リスク管理のプロセス、組織全体のリスク管理への統合状況について、開示を求めています。

 

 

④ 指標と目標

組織が戦略・リスク管理に則して用いる指標、GHG排出量、リスクと機会の管理上の目標と実績について開示を求めています。

 

 

(10) シナリオ分析の意義

 

① 気候関連リスクと機会が与える影響を評価するため、シナリオ分析による情報開示を推奨しています。シナリオ分析に係る技術的補足書も策定しています。

 

シナリオ分析は、長期的で不確実性の高い課題に対し、組織が戦略的に取り組むための手法として有益です。

 

② シナリオ分析は、将来の不確実性に対応した戦略立案と内部対話を可能にするものです。