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財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂

「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について」が2023年4月7日 に企業会計審議会より公表されました。

 

1.改訂の経緯

 

「内部統制報告制度」は、2008年4月1日開始する事業年度から適用され、一定の効果がありましたが、以下の点が指摘されています。

 

(1)内部統制の評価範囲外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例などにより経営者が財務報告の信頼性に及ぼす影響に重要性を適切に考慮していないのではないか等の内部統制報告制度の実効性に関する懸念があること

 

(2)国際的な内部統制の枠組みについて2013年5月にCOSOの内部統制の基本的枠組みに関する報告書が改訂されましたが、我が国の内部統制報告制度ではこれらの改訂が行われていないこと

 

このような状況を踏まえ、高品質な会計監査を実施するための環境整備の視点から、内部統制報告制度の在り方に関して、内部統制の実効性向上を図る観点から審議・検討が行われ、今回の改訂となりました。

 

2.主な改訂点とその考え方

 

(1)内部統制の基本的枠組み

 

内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT (情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成されます。

 

① 「報告の信頼性」への変更

 

サステナビリティ等の非財務情報に係る開示の進展やCOSO報告書の改訂を踏まえ、内部統制の目的の一つである「財務報告の信頼性」を「報告の信頼性」とすることとしています。

 

報告の信頼性とは、「組織内及び組織の外部への報告(非財務情報を含む。)の信頼性を確保することをいう。」と定義しています。

 

「報告の信頼性には、財務報告の信頼性が含まれる。財務報告の信頼性は、財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保することをいう。」としています。

 

➁ 内部統制の基本的要素に関する追記・明記

 

a)「リスクの評価と対応」

 

「リスクの評価と対応」においては、COSO報告書の改訂を踏まえ、リスクを評価するに際し不正に関するリスクについて考慮することの重要性や考慮すべき事項を明示しています。

 

b)「情報と伝達」

 

「情報と伝達」については、大量の情報を扱う状況等において、情報の信頼性の確保におけるシステムが有効に機能することの重要性を記載しています。

 

c)「ITへの対応」

 

「ITへの対応」では、I Tの委託業務に係る統制の重要性が増していること、サイバーリスクの高まり等を踏まえた情報システムに係るセキュリティの確保が重要であることを記載しています。

 

③ 「経営者による内部統制の無効化」に対する内部統制の例示

 

内部統制を無視又は無効ならしめる行為に対する、組織内の全社的又は業務プロセスにおける適切な内部統制の例を示しています。

 

④ 「内部統制に関係を有する者の役割と責任」の記載

 

a)監査役等

 

監査役等については、内部監査人や監査人等との連携、能動的な情報入手の重要性等を記載しています。

 

b)内部監査人

 

内部監査人については、熟達した専門的能力と専門職としての正当な注意をもって職責を全うすること、取締役会及び監査役等への報告経路も確保すること等の重要性を記載しています。

 

⑤ 「内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理」の例示

内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理は一体的に整備及び運用されることの重要性を明らかにし、これらの体制整備の考え方として、3線モデル等を例示しています。

 

(2)財務報告に係る内部統制の評価及び報告

 

① 経営者による内部統制の評価範囲の決定

 

a)評価範囲

 

経営者が内部統制の評価範囲を決定するに当たって、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮すべきことを改めて強調するため、評価範囲の検討における留意点を明確化しています。

 

具体的には、評価対象とする重要な事業拠点や業務プロセスを選定する指標について、例示されている「売上高等のおおむね3分の2」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」を機械的に適用すべきでないことを記載しています。

 

評価範囲に含まれない期間の長さを適切に考慮するとともに、開示すべき重要な不備が識別された場合には、当該開示すべき重要な不備が識別された時点を含む計期間の評価範囲に含めることが適切であることを明確化しています。

 

評価対象に追加すべき業務プロセスについては、検討に当たって留意すべき業務プロセスの例示等を追加しています。

 

b)監査人との協議

 

評価範囲に関する監査人との協議について、評価範囲の決定は経営者が行うものですが、監査人による指導的機能の発揮の一環として、当該協議を、内部統制の評価の計画段階及び状況の変化等があった場合において、必要に応じ、実施することが適切であることを明確化しています。

 

➁ ITを利用した内部統制の評価

 

ITを利用した内部統制の評価について留意すべき事項を記載しています。

 

この評価 に関して、一定の頻度で実施することについては、経営者は、IT環境の変化を踏まえて慎重に判断し、必要に応じて監査人と協議して行うべきであり、特定の年数を機械的に適用すべきものではないことを明確化しています。

 

③ 財務報告に係る内部統制の報告

 

内部統制報告書において、記載すべき事項を明示しています。

 

経営者による内部統制の評価の範囲について、重要な事業拠点の選定において利用した指標とその一定割合等の決定の判断事由等について記載することが適切であるとしています。

 

また、前年度に開示すべき重要な不備を報告した場合における当該開示すべき重要な不備に対する是正状況を付記事項に記載すべき項目として追加しています。

 

(3)財務報告に係る内部統制の監査

 

① 監査人

 

監査人は、実効的な内部統制監査を実施するために、財務諸表監査の実施過程において入手している監査証拠の活用や経営者との適切な協議を行うことが重要であるとしています。

 

監査人は、経営者による内部統制の評価範囲の妥当性を検討するに当たっては、財務諸表監査の実施過程において入手している監査証拠も必要に応じて、活用することを明確化しています。

 

➁ 経営者との協議

 

評価範囲に関する経営者との協議については、内部統制の評価の計画段階、状況の変化等があった場合において、必要に応じて、実施することが適切であるとしつつ、監査人は独立監査人としての独立性の確保を図ることが求められることを明確化しています。

 

③ 内部統制の不備

 

監査人が財務諸表監査の過程で、経営者による内部統制評価の範囲外から内部統制の不備を識別した場合には、内部統制報告制度における内部統制の評価範囲及び評価に及ぼす影響を十分に考慮するとともに、必要に応じて、経営者と協議することが適切であるとしています。

 

3 内部統制報告書の訂正時の対応

 

近年、開示すべき重要な不備が当初の内部統制報告書においてではなく、後日、内部統制報告書の訂正によって報告される事例や、経営者による内部統制の評価範囲外から当該不備が識別される事例が一定程度見受けられます。

 

また、訂正内部統制報告書においては、現在、当該不備が当初の内部統制報告書において報告されなかった理由、及び当該不備の是正状況等についての記載は求められていません。

 

こうしたことから、事後的に内部統制の有効性の評価が訂正される際には、訂正の理由が十分開示されることが重要であり、訂正内部統制報告書において、具体的な訂正の経緯や理由等の開示を求めるために、関係法令について所要の整備を行うことが適当であるとしています。

 

4 適用時期等

 

(1)改訂基準及び改訂実施基準は、2024年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用します。

 

なお、改訂基準及び改訂実施基準を適用するに当たり、関係法令等において、基準・実施基準の改訂に伴う所要の整備を行うことが適当であるとしています。

 

(2)改訂基準及び改訂実施基準を実務に適用するに当たって必要となる内部統制監査の実務の指針については、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、 適切な手続の下で、早急に作成されることを要請しています。

 

日本公認会計士協会は「倫理規則」の改正に関する公開草案を公表しました

2021年11月22日に日本公認会計士協会(倫理委員会)は、改正倫理規則を公開草案として公表し、広く意見を求めることとしています。

 

倫理規則の理解のしやすさを向上させ、その遵守を促進するため、倫理規則の体系及び構成等の見直しを行うとともに、国際会計士倫理基準審議会(The International Ethics Standards Board for Accountants: IESBA)の倫理規程の改訂を踏まえた、実質的な内容の変更を伴う個別規定の見直しを行っています。

 

今回の主な改正点等は、次のとおりです。

 

1.体系及び構成の見直し

 

現行の職業倫理の規範体系を見直し、「独立性に関する指針」、「利益相反に関する指針」及び「違法行為への対応に関する指針」を廃止して「倫理規則」に統合します。

その他、2018年のIESBA倫理規程の再構成を含む大幅な改訂に対応した「倫理規則」全体の構成の見直しを行います。

 

2.勧誘

 

勧誘の範囲について包括的なフレー厶ワークを規定しています。

 

① 「勧誘」の範囲に関するガイダンスの明瞭化

 

② 行動に不適切な影響を与えることを意図する勧誘を禁止しています。

 

③ 行動に不適切な影響を与えることを意図しない勧誘については、概念的枠組みが適用されます。

 

3.会員に期待される役割及びマインドセット

 

公共の利益のために行動する責任を含め、社会における会員の役割と行動について規定するとともに、概念的枠組みの適用に当たり「探求心」を持つことを新たに要求します。

 

① 社会における会員の役割と行動について

 

ⅰ)会計専門職に対する信頼は、専門業務にもたらされる技能及び価値に基づくことを強調しています。

 

ⅱ)基本原則を遵守し、本規則の具体的な要求事項を遵守することで、公共の利益のために行動するという責任を果たすことができることを強調しています。

 

ⅲ)倫理規則の遵守には、具体的な要求事項の目的及び意図を適切に考慮することが含まれることを明確にしています。

 

② 基本原則に以下の規定を追加しています。

 

ⅰ)テクノロジーからの過度の影響又はこれらへの過度の依存(客観性)

 

ⅱ)全ての専門業務及びビジネス上の関係において、公共の利益のために行動するという職業的専門家の責任に矛盾しない行動

 

ⅲ)誠実性は、プレッシャーに直面した場合又は個人若しくは組織にとって不利な結果をもたらす可能性がある場合においても、適切に行動する強い意志を伴う

 

ⅳ)職業的専門家としての能力を維持する上で、テクノロジー関連の動向を継続的に把握し、理解することが求められる

 

③ 組織所属の会員を含む全ての会員に対して、概念的枠組みを適用する際に「探求心(inquiring mind)」を持つことを新たに要求しています。

 

ⅰ)「探求心を持つ」とは、次のことを意味します。

 

ア) 実施する専門業務の性質、範囲、結果を考慮し、入手した情報の情報源、関連性及び十分性を検討すること。

 

イ) 更なる調査又はその他の行動の必要性に目を向け、注意すること。

 

ⅱ)「探求心」は、監査等の保証業務を実施する場合に求められる「職業的専門家としての懐疑心」とは別の概念として整理しています。

 

4.審査担当者等の客観性

 

業務にかつて従事した者が当該業務の審査担当者に選任される際にクーリングオフ期間を設けるなど、審査担当者及びその他の適切なレビューアーの選任によって生じる可能性のある客観性の原則の遵守に対する阻害要因に対処するための規定が新設されています。

 

① 審査担当者として、審査対象となる作業に関与している者又は当該作業の実施責任者と親密な関係を有する者を選任する場合、客観性の原則の遵守に対する阻害要因が生じる可能性があります。

 

② 自己レビューという阻害要因に対するセーフガードとなり得る対応策の例には、その業務にかつて従事した者が審査担当者として選任される前に十分な期間(クーリングオフ期間)を設けることがあります。

 

③ 今後公表が予定されている「監査に関する品質管理基準」に対応する審査に係る実務指針では、審査担当者の適格性要件として、業務執行責任者が審査担当者の役割を担う前の2年間のクーリングオフ期間を明確に定めた方針又は手続を策定することを要求しています。これにより、客観性の原則を遵守し、高品質な業務を一貫して実施することができます。

 

5.報酬

 

報酬依存度等に関する新たな規定を追加します。

また、透明性向上のために、監査役等とのコミュニケーションに関する規定や開示に関する規定を新設します。

 

① 報酬依存度

 

特定の監査業務の依頼人に対する報酬依存度が高い割合を占める場合、依頼人からの報酬を失うこと等への懸念は、自己利益や不当なプレッシャーという阻害要因を生じさせます。

 

ⅰ)監査業務の依頼人がPIEである場合

 

ア) 2年連続15%を超えるか、超える可能性が高い場合のセーフガード(監査意見表明前のレビュー)【改正前は監査意見表明前のレビュー又は監査意見表明後のレビュー】

 

イ) 2年連続15%を超えるか、超える可能性が高い場合の開示【新設】

 

ウ) 5年連続15%を超えるか、超える可能性が高い場合の辞任規定と、やむを得ない理由がある場合の例外規定【新設】

 

ⅱ)監査業務の依頼人がnon-PIEである場合

 

5年連続30%を超えるか、超える可能性が高い場合のセーフガード(監査意見表明前のレビュー又は監査意見表明後のレビュー)【新設】

 

② 報酬関連情報の透明性向上(PIEの場合)

 

ⅰ)監査役等とのコミュニケーションにおける対象項目及び内容

 

ア) 監査報酬

 

・会計事務所等又はネットワーク•ファー厶に支払われた、又は支払われるべき監査報酬

 

・報酬の水準によって生じる阻害要因が許容可能な水準にあるかどうか、及び許容可能な水準ではない場合、会計事務所等が講じたか又は提案する対応策

 

イ) 非監査報酬

 

・会計事務所等又はネットワーク•ファー厶が監査業務の依頼人及びその連結子会社に提供する非監査業務に係る報酬

 

・監査報酬に対する非監査報酬の割合によって、自己利益又は不当なプレッシャーという阻害要因が生じると判断している場合、当該阻害要因が許容可能な水準にあるかどうか、及び会計事務所等が講じたか又は提案する対応策

 

ウ) 報酬依存度

 

・報酬依存度が15%を超えているか、超える可能性が高い場合、その事実の内容、当該状況が継続する可能性及び適用されるセーフガード(監査意見表明前のレビューを含む。)

 

・5年連続して報酬依存度が15%を超えるか、超える可能性が高い場合、5年経過後も監査業務を継続することの提案(R410.21に基づく例外規定を適用する場合)

 

ⅱ)報酬関連情報(監査報酬、非監査報酬、報酬依存度)は、監査業務の依頼人又は依頼人が開示しない場合は会計事務所等が開示します。

 

ア) 監査報酬

 

重要性にかかわらず、会計事務所等及びネットワーク•ファー厶に支払われたか、又は支払われるべき監査報酬

 

イ) 非監査報酬

 

重要性にかかわらず、会計事務所等又はネットワーク•ファー厶が監査業務の依頼人及びその連結子会社に提供する非監査業務に係る報酬

 

ウ) 報酬依存度

 

2年連続して報酬依存度が15%を超えているか、超える可能性が高い場合、その事実及び当該状況が最初に生じた年

 

③ 監査報酬の水準

 

ⅰ)監査報酬の水準によって生じる自己利益及び不当なプレッシャーという阻害要因の水準を評価する上で関連する事項及び対応策の例示を追加しています。

 

ⅱ)監査業務の依頼人に対する監査以外の業務の提供によって、監査報酬が影響を受けることがないようにすることを求めています。

 

ⅲ)R410.6(監査報酬の決定)の例外として、監査報酬を決定する際、監査以外の業務の提供によって得た経験の結果として達成される費用の削減効果を考慮に入れることができます。

 

④ 監査報酬に対する監査以外の業務の報酬の割合

 

ⅰ)監査業務の依頼人に対する監査以外の業務の提供による報酬が高い割合を占める場合、 監査業務又は監査以外の業務のいずれかを失うことへの懸念により、自己利益及び不当なプレッシャーという阻害要因の水準に影響が生じる可能性があるとともに、監査業務以外の関係を重視している場合には、独立性に対する阻害要因が生じる可能性がある旨の規定を追加しています。

 

ⅱ)阻害要因の水準を評価する上で関連する事項及び対応策の例示を追加しています。

 

6.非保証業務

 

主として社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人に対する非保証業務の同時提供に関する規定を強化します。

非保証業務を提供する場合には、監査役等とのコミュニケーション及び事前の了解が必要になります。

 

① 非保証業務の提供における独立性に関する規則の強化

 

ⅰ)監査業務の依頼人がPIEである場合、会計事務所等又はネットワーク・ファー 厶は、自己レビューという阻害要因が生じる可能性のある非保証業務を提供してはなりません。

 

ⅱ)現行において、重要性の判断やセーフガードの適用(非保証業務に従事した者を監査業務に関与させない等)により提供が認められていた業務が禁止されます。

 

ⅲ)上記の例外として、次のいずれも満たす場合に限り、PIEである監査業務の依頼人に対し、監査業務の過程で生じる情報又は事項に関連する助言及び提言を提供できます。

 

ア) 会計事務所等が、経営者の責任を担わない。

 

イ) 自己レビュー以外の独立性に対する阻害要因に対して、概念的枠組みを適用し、阻害要因の識別、評価及び対処を実施する。

 

② 自己レビューという阻害要因が生じる可能性の判断

 

会計事務所等又はネットワーク•ファー厶は、監査業務の依頼人に対して非保証業務を提供する際、事前に次のリスクの有無を評価し、自己レビューという阻害要因が生じる可能性があるかどうかを判断します。

 

ⅰ)業務の結果が、会計記録、財務報告に関する内部統制又は会計事務所等が意見を表明する財務諸表の一部を形成するか、又はそれらに影響を及ぼすことになるリスク

 

ⅱ)会計事務所等が意見を表明する財務諸表の監査の過程において、会計事務所等又はネットワーク•ファー厶が業務の提供の際に行った判断又は実施した活動を、監査業務チー厶が評価し、又はそれらに依拠することになるリスク

 

③ 監査役等とのコミュニケーション

 

ⅰ)会計事務所等又はネットワーク•ファー厶が、PIEである監査業務の依頼人、その子会社又は親会社等に非保証業務を提供する契約を締結する前に、会計事務所等は、以下を実施しなければなりません。

 

ア) 非保証業務が禁止されておらず、また独立性に対する阻害要因を生じない業務であるか、又は、識別された阻害要因が許容可能な水準にある、若しくは許容可能な水準にないが除去されるか、許容可能な水準にまで軽減される業務であることを監査役等に通知する。

 

イ) 非保証業務の提供が独立性に対して及ぼす影響に関する適切な評価を可能にする情報として、非保証業務の内容及び範囲や報酬等の情報を監査役等に提供する。

 

ⅱ)監査業務の依頼人がPIEである場合に、依頼人、その子会社又は親会社等に非保証業務を提供する場合には、監査役等から事前に了解を得なければなりません。

 

7.「客観性の原則」

 

基本原則のうち、会員がバイアス、利益相反及び個人や組織等による過度の影響又は依存に影響されることなく、職業的専門家としての判断を行使することを、現行倫理規則では「公正性」と称していますが、「客観性」に名称を改めます。

 

8.守秘義務に関連する規定の見直し

 

会員が違法行為又はその疑いに気づいた場合に、適切な規制当局に任意の報告を行うかどうかの検討に関する規定を追加します。また、監査人予定者が不正な財務報告に関する法令違反等事実を認識した場合の取扱いに関する適用指針を新設します。

 

① 「会計監査に関する情報提供の充実に関する懇談会」の報告書(2019年1月)において示された守秘義務の考え方を考慮し、違法行為又はその疑いに気付いた場合の、適切な規制当局に対する任意の報告の検討について、現在IESBA倫理規程から導入していない規定のうち、財務諸表監査業務に従事する会員に関する規定について、改正倫理規則に反映します。

 

② 監査人の交代に関する規定のうち、現在IESBA倫理規程から導入していない規定及び監査基準委員会報告書900「監査人の交代」を参照している規定を見直し、改正倫理規則に反映します。

 

③ 監査人予定者が、不正な財務報告に関する法令違反等事実を認識した場合の取扱いに関する適用指針を定めます。

 

9.適用日

 

① 改正倫理規則は、2023年4月1日から施行します。

 

ただし、次に掲げる規定については、それぞれに定める業務又は適用日から適用します。

なお、会員の判断において早期適用することを妨げるものではありません。

 

ⅰ) パート4A(監査及びレビュー業務における独立性 (540.14 A1(審査担当者に関する事項)を除く。) については、2023年4月1日以後開始する事業年度の監査業務

 

ⅱ) パート4B(監査及びレビュー4業務以外の保証業務における独立性 (期間を対象にする主題に関する保証業務に限る。)) については、2023年4月1 日以後開始する期間の保証業務

 

ⅲ) 300.6 A1(4)④(阻害要因の識別・馴れ合い、セクション325(審査担当者及びその他適切なレビューアーの客観性)及び540.14 A1(審査担当者に関する事項)については、「監査に関する品質管理基準」に対応する審査に係る実務指針の適用日

 

② 会計事務所等又はネットワーク•ファー厶は、2023年4月1日より前に契約を締結し、既に業務が開始されている非保証業務については、従前の契約条件に基づき、当該業務が完了するまで、改正前の規定に基づき非保証業務を継続することができます。

 

③ 倫理規則の改正スケジュール

 

日本公認会計士協会(倫理委員会)改正倫理規則公開草案の解説より抜粋

 

「その他の記載内容」に対する監査人の作業内容及び範囲に関する論点について

2121年10月12日に、日本公認会計士協会監査基準委員会は、「その他の記載内容に関する監査人の作業内容に関する留意事項」を公表しました。

 

本留意事項は、改訂された監査基準及び監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(以下 「監基報720」という。) に基づく監査業務を実施するに当たって理解が必要と思われる事項、特に「その他の記載内容」に対する監査人の作業内容及び「その他の記載内容」の範囲に関する論点について、公認会計士協会会員の実務の参考に資するために、監査上留意すべき事項を提供するものです。

 

I 「その他の記載内容」に関する監査人の作業について

 

1.基本的な考え方

 

(1)監基報720

 

監基報720では、監査人はその他の記載内容を通読し、また、その通読の過程において、以下を行わなければならないとしています。

 

①その他の記載内容の通読の過程における監査人の作業

 

・その他の記載内容と財務諸表の間に重要な相違があるかどうか検討すること

・その他の記載内容と監査人が監査の過程で得た知識の間に重要な相違があるかどうか検討すること

 

② ①に加えて

 

・財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容について、重要な誤りがあると思われる兆候に注意を払うこと

 

(2)実施者

 

監査人が監査の過程で得た知識との相違を識別する等の必要性から、通読は、経験豊富で監査の主要な部分に精通している監査チームの上位者が実施することが重要と考えられます。

 

(3)作業の種類・範囲の決定

 

①監基報720における監査人の責任は、その他の記載内容に関する保証業務を構成するものではなく、また、監査人にその他の記載内容について保証を得て意見又は結論を表明する義務を課すものでもありません。

 

②監査人に財務諸表に対する意見を形成するために要求される以上の監査証拠の入手を要求するものでもありません。

 

③したがって、その他の記載内容を通読し、財務諸表や監査人が監査の過程で得た知識とそれぞれ相違があるかどうかの検討等を実施する際には、監査人は、保証業務や監査ではないということを認識した上で、作業の種類や範囲を決定するものと考えられます。

 

2.「その他の記載内容」と「財務諸表」の間に相違があるかどうかの検討

 

(1)監基報の要求事項

 

①その他の記載内容には、財務諸表の数値又は数値以外の項目と同一の情報、要約した情報又はより詳細な情報を提供することを意図した情報が含まれる場合があり、これらについて財務諸表との間に重要な相違があるかどうかを検討することになります。

 

②監査人は、これらの情報の全てについて財務諸表において対応する情報との整合性の検討が求められているわけではありません。

 

③検討の対象は、利用者にとっての重要度や金額の大きさ、慎重な取扱いを要する項目かどうか等を考慮した上で、選択することとされています。

 

日本公認会計士協会監査基準委員会「その他の記載内容に関する監査人の作業内容に関する留意事項」より抜粋

 

 

(2)手続きの種類及び範囲

 

その他の記載内容と財務諸表との間に重要な相違があるかどうかを検討するための手続の種類及び範囲についても、監基報720における監査人の責任はその他の記載内容に対する保証業務を構成するものではなく、また、その他の記載内容について保証を得て意見又は結論を表明する義務を課すものでもないことを認識した上で、職業的専門家として判断して決定するものとされています。

 

3.「その他の記載内容」と「監査人が監査の過程で得た知識」の間に重要な相違があるかどうかの検討

 

検討の際に、監査人は、その他の記載内容の誤りが重要な誤りとなり得る項目に焦点を当てることがあるとされています。

 

日本公認会計士協会監査基準委員会「その他の記載内容に関する監査人の作業内容に関する留意事項」より抜粋

 

(1)対象、実施する手続きの種類及び範囲

 

監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかを検討する対象や実施する手続の種類及び範囲については、その他の記載内容に対する監査人の責任も考慮の上、職業的専門家として判断して決定するものと考えられます。

 

(2)実施者

 

その他の記載内容における多くの事項は、監査において入手した監査証拠及び結論に対する認識と照らし合わせて検討することで十分なこともあるとされており、特にその他の記載内容を通読する監査人が経験豊富で監査の主要な部分に精通しているほど、その可能性は高まります。

 

このため、監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかの検討は、経験豊富で監査の主要な部分に精通している監査チームの上位者が実施することが重要と考えられます。

 

(3)追加手続き

 

重要な相違があるかどうかの検討の基礎として、関連する監査調書を参照する、又は関連する監査チームのメンバー若しくは構成単位の監査人に質問を行うことが適切と判断する場合もあります。

このような手続を実施するかどうか及びその範囲は、職業的専門家としての判断に係る事項であるとされています。

 

したがって、監査の過程で得た知識に関連すると思われる全ての記載内容について、一律に監査調書を参照すること等は要求されていません。

 

4.「財務諸表」又は「監査人が監査の過程で得た知識」に関連しない「その他の記載内容」について、重要な誤りがあると思われる兆候への注意

 

(1)実施する手続き

 

その他の記載内容には、財務諸表に関連しておらず、また、監査人が監査の過程で得た知識の範囲を超える事項に関する記述が含まれることがあります。

 

これらの財務諸表又は監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容については、監査人は 一般的な知識との相違やその他の記載内容における不整合などに注意しながら、重要な誤りの兆候に注意を払うことになると考えられます。

 

(2)追加手続き

 

①重要な誤りがあると思われる兆候がないと考えられる場合

 

監基報720における監査人の責任は、その他の記載内容に関する保証業務を構成するものではなく、また、監査人にその他の記載内容について保証を得て意見又は結論を表明する義務を課すものでもないとされています。

 

監査人に財務諸表に対する意見を形成するために要求される以上の監査証拠の入手を要求するものでもないとされているため、重要な誤りの兆候に注意を払って通読した結果、重要な誤りがあると思われる兆候がないと考えられる場合には、追加の監査証拠を入手するなどの手続を実施することは求められていません。

 

②重要な誤りがあると思われる場合

 

重要な誤りがあると思われる場合には、経営者と協議し、必要に応じて追加の手続を実施することが求められます。

 

 

日本公認会計士協会監査基準委員会「その他の記載内容に関する監査人の作業内容に関する留意事項」より抜粋

 

Ⅱ「その他の記載内容」の範囲について

 

1.統合報告書等

 

統合報告書は一般的には企業がその財務資本の提供者に対して、組織がどのように長期にわたり価値を創造するかを説明することを目的として公表される文書を指します。

統合報告書は各企業においてさまざまな名称、形式及び時期により公表されています(以下「統合報告書等」といいます)。

 

2.英文アニュアルレポート等

 

企業は、我が国の法令等に基づく年次報告書のほかに、主として外国人投資家向けに、例えば英語又はその他の言語による年次報告書を任意で作成し、監査を受け、公表することがあります。

英文アニュアルレポートは、任意の形式で作成される場合と、有価証券報告書等を直訳して作成される場合があります。

我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を実施し、監査報告書を作成する場合は、作成する言語にかかわらず、監査の基準に従う必要があります。

 

3.留意事項

 

統合報告書等や英文アニュアルレポート等におけるその他の記載内容の取扱いについては、それらに財務諸表やその監査報告書が含まれる又は添付される予定があるか否か、法定監査とは別に任意監査を要請されるか等により様々であることが考えられるため、それらを構成する文書の内容、発行方法及び発行時期について、事前に経営者と協議して確認しておくことに留意が必要と考えられます。

 

 

「倫理規程における非保証業務に関連する規定の改訂」~国際国際会計士倫理基準審議会による公表

2021年4月28日に、国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants: IESBA)から、「倫理規程における非保証業務に関連する規定の改訂」が公表されました。

本規定の改訂は、非保証業務の提供に関する規定をグローバルで適用することを通じて強固で高品質なものとすることにより、監査事務所の独立性に対する信頼を向上させることを目的とするものです。

 

1.改訂の背景

 

本規定の改訂は、規制当局や公益監視委員会(PIOB)からの要請により、2018 年9月から具体的な検討が開始されました。

規制当局等からは、監査業務の依頼人に対して非保証業務を提供する際の監査人の独立性に関して、幅広い懸念が提起されました。

こうした懸念を受け、IESBAは、各国における独立性に関する規制の状況も踏まえ、規定の改訂について検討を進めてきました。

本規定は、このような経緯を経て改訂されたものです。

 

2.改訂規定の概要

 

監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供により、独立性を阻害する自己レビュー等の阻害要因が生じ得ることから、改訂前の規定においても、禁止事項を含む様々なガイダンスが定められていました。

 

改訂規定では、自己レビューの阻害要因を生じさせる可能性のある非保証業務を大会社等である監査業務の依頼人に提供することの全面禁止や、非保証業務の提供に際しての統治責任者からの了承等、規定の強化が図られています。

 

具体的な改訂の内容は、以下のようになっています。

 

(1)自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供禁止

 

①新要求事項

 

監査業務の依頼人が大会社等である場合、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務を提供してはならないとする要求事項が新設されています。

これによって、これまでは、重要性の判断や非保証業務に従事した者を監査業務に関与させないなどのセーフガードの適用により提供が認められていた業務が禁止されることとなります。

 

②提供の可否の判断

 

監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供に先立って、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、非保証業務を提供する際、自己レビューの阻害要因が生じる可能性があるかどうかについて、次の(a)及び(b)のリスクがあるかどうかを評価することにより判断しなければなりません。

 

(a)非保証業務の結果が、会計記録、財務報告に係る内部統制又は監査意見の対象となる財務諸表の一部を構成する、又はそれらに影響を及ぼす。

 

(b)監査意見の対象となる財務諸表を監査する過程において、 会計事務所等又はネットワーク・ファームが非保証業務を実施する過程で行った判断や作業を、監査業務チームが評価する、又はそれらに依拠する。

 

(2)重要性

 

独立性に関する利害関係者の懸念が高まっていることを踏まえ、非保証業務の提供が規定上明確に禁止されている場合には、重要性の程度にかかわらず、非保証業務の提供が禁止されることになります。

 

(3)統治責任者とのコミュニケーション(監査業務の依顆人が大会社等の場合)

 

①統治責任者への情報提供

 

会計事務所等又はネットワーク・ファームが監査業務の依頼人である大会社等、その親会社又はその子会社に提供する非保証業務を受嘱する前に、以下の情報を提供しなければならないとする要求事頂が新設されています。

 

(a)提供する業務が禁止されておらず、かつ、独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準である、又は、そうでない場合、阻害要因が除去又は許容可能な水準にまで軽減されると会計事務所等が判断していること

 

(b)提供される業務が会計事務所等の独立性に与える影響について、統治責任者が十分な情報を得た上で評価するために必要な情報

 

②コミュニケーション項目の例示

 

・提供する非保証業務の内容及び範囲

 

・提案した報酬の根拠と金額

 

・提案した業務の提供によって生じる可能性がある独立性に対する阻害要因を識別した場合に、阻害要因が許容可能な水準であるかとする会計事務所等の評価の根拠、又は、許容可能な水準にない場合には、阻害要因を除去又は許容可能な水準にまで軽減させるために会計事務所等又はネットワーク・ファームが講じる対応策

 

・複数の業務を提供することにより生じる複合的な影響が独立性の阻害要因を生じさせるか、又は、既に織別している阻害要因の水準を変更させるかどうか

 

③統治責任者による了承

 

阻害要因の評価の結果、会計事務所等が同時提供可能と判断した業務について、統治責任者が以下の事項に了承 (Concur)しない限り、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、当該非保証業務を提供することができないとする要求事項が新設されています。

 

(a)提供する業務が独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準である、又は、そうでない場合は、阻害要因が除去又は許容可能な水準にまで軽減されるとする会針事務所等の結論

 

(b)当該業務を提供すること

 

④了承の方法

 

統治責任者による了承は、例えば、個別の契約ごとに行う方法や全般的な方針の下で行う方法等、会計事務所等が統治責任者との問で合意したプロセスによる場合があるとされており、樣々なガバナンス体制に対応できるよう、柔軟性が認められています。

 

⑤統治責任者による了承の例外

 

法令等により統治責任者への情報提供が禁止されている埸合、又は、機密情報の漏洩につながる場合には、以下の条件をもとに、会計事務所等は非保証業務を提供することが認められます。

 

(a)法令等に違反しない範囲で情報を提供すること

 

(b)業務の提供が独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準であること、又は、そうでない場合は、阻害要因を除去又は許容可能な水準にまで軽滅させることを統治責任者に伝えること

 

(c) (b)で下した会計事務所等の結論に、統治責任者が不同意を示さないこと

 

⑥非保証業務の辞退又は監査業務の終了

 

以下の(a)又は(b)のいずれかに該当する場合、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、非保証業務の提供を辞退するか、監査業務を終了しなければなりません。

 

(a)会計事務所等又はネットワーク・ファームが、統治責任者へ悄報提供することを一切認められない場合

 

(b)業務の提供が独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準である、又は、そうでない埸合は、阻害要因が除去又は許容可能な水準にまで経減されると会計事務所等が下した結論に統治責任者が不同意を示した場合

 

(4)会計及び記帳業務

 

①提供禁止業務

 

以下に掲げる会計及び記帳業務は、その業務の結果が、会計記録又は監査意見の対象となる財務諸表に影響を及ぼす場合に、自己レビューの阻害要因が生じるとして、監査業務の依頼 人には提供が禁止されています。

 

(a)会計記録又は財務諸表の作成

 

(b)取引の紀録

 

(c)給与計算業務

 

(d)勘定の調整に関する問題の解決

 

(e)既存の財務諸表を1つの会計基準から他の会計基準へ移行する業務

 

ただし、監査業務の依頼人が大会社等ではない場合は、その業務が定型的又は機械的な内容であり、かつ、会計事務所等が阻害要因に対処している場合は提供可能です。

 

②例外

 

例外的に、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、 経営者の責任を担わず、かつ、自己レビュー以外の阻害要因に対して概念的枠組みを適用することで、大会社等である監査業務の依頼人に対して、監査の過程で生じる事項に閲連して以下の助言や提言の提供を行うことが認められます。

 

(a)会計及び財務報告の基準又は方針及び財務諸表の開示に関する規則等の助言

 

(b)財務諸表及び関連する開示の計上額を決定するための財務又は会計統制及び方法の適切性に関する助言

 

(c)監査での発見事項に基づく修正仕訳の提案

 

(d)財務報告に係る内部統制及びプロセスに関する発見事項の協議及び改善事項の提案

 

(e)勘定の調整方法に関する協議

 

(f)グループの会計方針の遵守に関する助言

 

3.適用日

 

2022年12月15日以降に開始する事業年度の監査から適用されます。また、早期適用も認められます。

 

なお、移行措置として、2022年12月15日より前に締結し、既に着手した非保証業務については、当初の契約期間が完了するまでは、改訂前の規定に基づいて業務を継続することができるとされています。

 

4.日本への影響

 

(1)監査事務所への影響

 

①同時提供が可能となる非保証業務の縮小

 

監査業務の依頼人が大会社等である場合、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供が包括的に禁止されます。

 

また、監査業務の依頼人が大会社等以外である場合も、税務に関する助言及びタックス・プランニング業務やコーポレート・ファイナンスに関する助言業務が制限されています。

 

これまでは、重要性の判断やセーフガードの適用により同時提供していた非保証業務を提供できなくなる可能性があることから、会計事務所等及びネットワーク・ファームは影響を受けるものと考えられます。

特に、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供禁止については、影響があるものと考えられます。

 

②統治責任者(監査役等)による了承

 

監査業務の依頼人が大会社等の場合、非保証業務の提供が独立性に及ぼす影響について、統治責任者が十分な情報を得た上で意思決定を行うことができるように、会計事務所等が、非 保証業務の受嘱前に、非保証業務の内容や阻害要因の評価等に関する情報を提供し、統治責任者による了承を得るよう改訂されています。

 

会計事務所等においては、ネットワーク・ファームによって提供される非保証業務を含め、網羅的に情報を収集し、統治責任者に対し情報を提供するとともに、了承を得ることが求められます。

 

(2)企業への影響

 

①同時提供が可能となる非保証業務の縮小

 

同時提供が可能となる非保証業務が縮小すると、企業が監査人やそのネットワーク・ファームに依頼している非保証業務が、今後は依頼できなくなる可能性があります。

その場合には、監査人やそのネットワーク・ファーム以外に非保証業務を依頼しなければならなくなります。

 

② 統治責任者(監査役等)による了承

 

統治責任者は、会計事務所等から十分な情報を得た上で非保証業務の提供について了承することとなります。

そのため、大会社等である企業において、監査人やそのネットワーク・ファームから非保証業務の提供を受ける埸合には、統治責任者が了承するためのプロセスを構築する必要が生じるものと考えられます。

 

統治責任者においては、会計事務所等から得た情報をもとに、非保証業務に関する情報を検討し、了承することが求められるものと考えられます。

 

(3)今後の予定

 

既に、IESBAより改訂内容に関するウェビナーが開催され、 今秋には、適用ガイダンスが公表される予定です。

今後、日本公認会計士協会においても、これらの規定に関して、日本の倫理規則への導入の検討が行われる予定です。

 

社外監査役の社内におけるコミュニケーション~その対象者、コミュニケーションの場、三様監査について

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

その中から「社外監査役等の社内におけるコミュニケーション」を見てみましょう。

 

1.コミュニケーションの対象者

 

社外監査役等は次のように多様な関係者とのコミュニケーションを図ることが重要です。

 

・経営陣(社長・CEO、CFO 等)

・部門責任者、子会社経営者

・社内取締役、社外取締役

・常勤監査役等他の社内監査役等、社外監査役等

・親会社や子会社の監査役等

・内部監査部門

・従業員

・その他関係者

 

2.コミュニケーションの場

 

(1)コミュニケーションの形態

 

コミュニケーションの場として、取締役会等の会議、個別面談、懇談会等、様々な形態があります。

 

(2)連絡会等

 

社外役員連絡会、グループ監査役等連絡会等を設けている会社もあります。

会社の状況に応じて、これらの機会を適宜利用するとともに、これらの場を設けるように自ら働きかけることも考えられます。

 

3.三様監査

 

(1)三様監査の担い手

 

監査役等に内部監査部門、外部監査人を加えた三様監査(監査役等の監査、内部監査、外部監査)の連携がコーポレートガバナンスのモニタリング機能の核になります。

 

三様監査の担い手は次のように立場が異なります。このような立場の違いをふまえた連携がお互いの監査に有益となります。

 

①監査役等

非業務執行役員として経営者の職務執行を監督・監査

 

②内部監査人

通常、経営者直属

 

③外部監査人

経営者から独立した会社外部の第三者

 

(2)企業グループの場合

 

企業グループの場合には、グループ本社及び各グループ会社において三様監査が重層的に存在します。

 

グループの組織構造に応じて企業グループ全体及び各グループ会社のレベルで三様監査の連携体制を構築する必要があります。

 

4.監査役等と内部監査部門との連携

 

監査役等の監査で実務上極めて重要な課題が内部監査部門との連携です。

 

(1)監査委員会、監査等委員会

 

監査委員会と監査等委員会の場合には常勤委員の選任は求められておらず、内部統制システムを通じた監査、すなわち内部監査部門との連携による監査が想定されています。

 

(2)監査役

 

監査役の場合には、独任制による自ら実施する監査を基本とし、監査役会設置会社の場合には常勤監査役設置が法定されていることから、内部監査部門との連携が制度上担保されているわけではありません。

監査役の場合には、個社ごとに内部監査部門と連携について合意しておく必要があります。

 

5.監査役等と会計監査人の連携

 

(1)監査役等の会計監査人に対する責任と権限

 

①会計監査人の評価、独立性と専門性の確認(コーポレートガバナンスコード 補充原則 3-2①)

 

②会計監査人の品質管理・監査実施状況の監視・検証

 

③会計監査人の監査の方法・結果の相当性判断

 

④会計監査人の監査報酬についての同意権

 

⑤会計監査人の選解任・不再任議案の内容決定権

 

(2)会計監査人の対応

 

会計監査人は上記のような監査役等の権限行使に適切に対応しなければなりません。

同時に、不正リスクについて、会計監査人は監査役等に対して次の義務を持つことに留意して、主体的に対応する必要があります。

 

①会計監査人は、監査の各段階において適切に監査役等と協議する等、監査役等と連携を図らなければなりません。

 

②会計監査人は、不正や違法行為の疑義がある場合、速やかに監査役等に報告し、必要となる監査手続等について協議しなければなりません。

 

③会計監査人は、経営者の関与が疑われる不正を発見した場合、監査役等に報告し、協議の上、経営者に適切な措置を求めなければなりません。

 

(3)金融商品取引法上の内部統制監査

 

監査役等は、その多くが会社法上の会計監査人でもある金融商品取引法上の監査人による内部統制監査における統制環境及びモニタリングの評価の一環として、その監査の状況の評価を受けることになります。

 

(4)監査役等と会計監査人の相互評価

 

上記のように、監査役等と会計監査人は相互評価する立場にあります。

この立場関係を理解の上連携を図ることがお互いの監査にとって有益でありコーポレートガバナンスの強化にも貢献することになると考えられます。

 

(5)監査役等と会計監査人との連携

 

監査役等と会計監査人は、以下のような場面を利用して連携を取ります。

 

①会計監査人の監査報告(計画・期中・期末)

 

②定例会議(月次ミーティング又は四半期毎等)

 

③お互いの監査に影響する事項( KAM その他)についての情報交換・意見交換

 

④不正リスクについての協議

 

⑤その他、随時、情報交換・意見交換

 

6.監査役等と内部監査部門の連携

 

(1)監査役等と内部監査部門の連携の必要性

 

内部監査には、経営への貢献と同時にガバナンスへの貢献も求める動きが世界的に強まっています。

 

社内の監査実行部隊である内部監査部門を監査役等の監査で活用することは、監査役等の監査の実効性を高める上で重要です。

 

内部統制を通じた組織的監査を想定した監査委員会及び監査等委員会の監査はもとより、監査役の監査においても内部監査部門との連携は必須となっています。

 

(2)監査役等と内部監査部門との連携のポイント

 

①定期的な情報交換

 

・定例会議や個別案件ごとの情報交換会を実施する。

 

②計画段階での連携

 

・監査役等の要望事項を内部監査部門に伝える。

 

・必要に応じて往査先や往査日程について調整する。

 

③内部監査実施段階における連携

 

・事前の意見交換会、監査終了時の講評会に監査役等も参加する。

 

④監査報告段階における連携

 

・監査結果についてお互いに伝達し、意見交換を行う。

 

(3)監査役等と内部監査部門の信頼関係

 

監査役等と内部監査部門の連携には信頼関係に基づく緊密なコミュニケーションが重要です。

 

内部監査人の信頼を得るためには、監査役等の監査についての知見と監査役等の経営者に対する姿勢が重要であると言われています。

 

改訂された監査基準~監査報告書「その他の記載内容」及びリスク・アプローチの強化

2020年11月6日に、企業会計審議会より「監査基準の改訂について」が公表されました。

 

1.「その他の記載内容」について

 

(1)監査報告書における「その他の記載内容」に係る記載の位置付け

 

①監査人は、「その他の記載内容」に対して意見を表明するものではありません

 

②「その他の記載内容」に係る記載は、監査意見と明確に区別された情報提供です

 

③監査人の「その他の記載内容」に係る役割を一層明確にしました

 

(2)「その他の記載内容」に対する手続き

 

① 手続き

 

・監査人は、「その他の記載内容」を通読することとなります

 

・「その他の記載内容」と財務諸表または監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかについて検討することを明確にしました

 

・監査人は、新たな監査証拠の入手を求められるものではありません

 

② 監査人が、重要な相違や重要な誤りに気づいた場合

 

・経営者との協議など追加の手続きを実施します

 

・重要な誤りが解消しない場合には、その旨及びその内容を監査報告書に記載する等の適切な対応を行います

 

(3)「その他の記載内容」の記載

 

監査報告書に「その他の記載内容」の区分を設け、下記を記載することになりました。

 

・「その他の記載内容」の範囲

 

・「その他の記載内容」に対する経営者及び監査役等の責任

 

・「その他の記載内容」に対して監査人は意見を表明するものではない旨

 

・「その他の記載内容」に対する監査人の責任

 

・「その他の記載内容」に対して監査人が報告すべき事項の有無、報告すべき事項がある場合はその内容

 

(4)経営者・監査役等の対応

 

経営者は、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、適切に修正することが求められます。

 

監査役等においても、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、経営者に対して修正するよう積極的に促していくことが求められます。

 

2.リスク・アプローチの強化について

 

(1)リスク・アプローチに基づく監査

 

①財務諸表全体レベル

 

固有リスク及び統制リスクを結合した重要な虚偽表示のリスクを評価する考え方を維持しています

 

②財務諸表項目レベル

 

固有リスクと統制リスクを分けて評価します

 

③特別な検討を要するリスク

 

固有リスクを踏まえた定義となります

 

④会計上の見積もり

 

・重要な虚偽表示のリスクの評価に当たり固有リスクと統制リスクを分けて評価することを前提としています

 

・原則として、経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを評価する手続きが必要となります

 

・また、経営者が行った見積もりと監査人の行った見積もりや実績と比較する手続きも引き続き重要です

 

・今回の改訂に係る部分を除いて、従来のリスク・アプローチの概念や考え方は踏襲されています

 

(2)財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクの評価

 

・財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを構成する固有リスクについて

 

・重要な虚偽の表示がもたらされる要因を勘案して

 

・固有の虚偽表示が生じる可能性と当該虚偽表示が生じた場合の影響を組み合わせて評価することとしました

 

・この影響は、金額的影響だけでなく質的影響も含まれます

 

(3)特別な検討を必要とするリスクの定義

 

①現行の監査基準

 

・会計上の見積もりや収益認識等の重要な会計上の判断に関して

 

・下記の事項・取引等は、監査の実施過程において特別な検討を行う必要があります

 

・財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項

 

・不正の疑いのある取引

 

・特異な取引等

 

・そのため、特別な検討を要するリスクとして

 

・それが財務諸表における重要な虚偽表示をもたらしていないかを確かめる実証手続きの実施を求めています

 

②リスク・アプローチに基づく監査の実施

 

・財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを適切に評価することがより一層重要となっています

 

・監査人は、固有リスクに着目して特別な検討を行う必要があるか検討する必要があります

 

③特別な検討を必要とするリスクの定義

 

・財務諸表項目レベルにおける評価において

 

・虚偽の表示が生じる可能性と

 

・当該虚偽の表示が生じた場合の影響の

 

・双方を考慮して

 

・固有リスクが最も高い領域に存在すると評価したリスク

 

3.実施時期等

 

(1)「その他の記載内容」

 

2022年3月決算に係る財務諸表の監査から実施となります。

 

2021年3月決算に係る財務諸表の監査から実施することができます。

 

 

(2)リスク・アプローチの強化

 

2023年3月決算に係る財務諸表の監査から実施となります。

 

それ以前の決算に係る財務諸表の監査から実施することは妨げられません。

 

会社補償契約及び役員等賠償責任保険契約~制度の概要と監査役監査

令和元年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」(以下、改正法)が成立し、同月11日に公布されています。

令和元年会社法改正により、会社補償契約制度と役員等賠償責任保険(Directors and Officers Liability Insurance、以下、D&O保険)制度が新設されました。

 

1.会社補償及び役員等のために締結される保険契約

 

(1)会社補償

 

①会社補償とは

 

役員等の責任を追及する訴えが提起された場合等に、株式会社が費用や賠償金を補償することです。

 

・役員等が

・その職の執行に関し

・法令の規定に違反したことが疑われ又は責任の追及に係る請求を受けたこと

・それに対処するために支出する費用や

・第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失の全部または一部を

・株式会社が当該役員等に対して

・補償すること

 

②改正点

 

株式会社が会社補償を締結するために必要な手続規定や会社補償をすることができる費用等の範囲に関する規定が新たに設けられました。

 

(2)役員等のために締結される保険契約

 

①D&O保険とは

 

株式会社が役員等を被保険者とする会社役員賠償責任保険です。

 

②改正点

 

株式会社がD&O保険に加入するために必要な手続規定等が新たに設けられました。

 

2.監査役としての対応

 

(1)制度の理解

 

監査役・監査(等)委員(以下、監査役等)は、役員の一員ですので、自らが契約の当事者の立場から制度趣旨や内容を理解する必要があります。

 

(2)利益相反

 

両制度とも、役員の損害賠償責任との関連で、損害額や関連費用を会社が支払うものです。そのため、会社と役員との間において、利益相反的な一面を持っています。

 

監査役は、取締役の職務執行を監査することから、取締役の損害賠償の支払義務との関係で、両制度の手続きや具体的な事案で、その適用の是非を判断する場面がでてきます。

 

3.監査役監査における留意点

 

(1)契約当事者としての留意点

 

①内容の検討

 

監査役は役員であることから、補償契約及びD&O保険の直接の当事者となりますので、会社が導入しようとしている制度設計について、事前に関連部署から説明を受け、会社法で認められることになった防御費用や第三者への損害賠償の支払いによる損失関連の補償の対象となる具体的項目を検討しておくことが重要となります。

なお、補償契約制度やD&O保険契約制度は、令和元年改正会社法の施行日以降の契約締結でなければ有効ではありません。

 

②補償契約

 

補償契約はD&O保険と異なり、保険料として会社の外部への支出がある訳ではありませんので、職務を遂行する上で防御費用や損失への塡補として支出し得る項目を洗い出すことが重要です。この場合、D&O保険内容でカバーできる項目は補償の範囲から除外しても差し支えありません。

なお、補償契約の防御費用については、会社から支払いを受けるタイミングも契約内容に織り込んでおくべきです。

弁護士費用のように、それ相当の額の着手金を必要とする場合、自らが立て替えなくても、合理的な費用であれば会社が前払いできるようにしておくと利便性は高まることになります。

 

③D&O保険

 

D&O保険の場合は、会社法での規定を踏まえて保険が支払われる対象や要件、保険金が支払われる上限額、保険料等の詳細が会社と保険会社との間の交渉で決められます。

D&O保険の内容も取締役会の決議事項ですので、監査役としても、保険内容について内容を理解し、必要があれば取締役会において意見表明をすることになります。

 

(2)監査役監査における留意点

 

①取締役会等における手続き

 

監査役としては、補償契約とD&O保険が、株主総会または取締役会においてその内容が承認・決議されることなっていることを確認します。

取締役会設置会社の場合は、補償契約については、補償を受けた取締役は、補償についての重要な事実を取締役会に遅滞なく報告する必要があります。

補償契約に基づいた具体的な適用があった場合には、報告という手続上の瑕疵がないか監査役として監視し、取締役が失念している場合はその旨を指摘しなければなりません。

 

なお、この事後報告は、補償契約にのみ適用があり、D&O保険の場合には報告義務はありません。

 

②契約内容の確認

 

ア) D&O保険

 

D&O保険の場合は、保険金による塡補の範囲や金額は、あらかじめ締結された契約に基づいて支払われることになりますので、塡補される金額の多寡が恣意的に決定されることは基本的には考えられません。

 

利益相反の観点からも、会社が支払う保険料と保険金の支払いとの点において、保険料の金額の方が実際に支払われる保険金の額に比べて、相対的に低額であるため、利益相反の程度は大きくないといえます。

 

イ) 補償契約

 

補償契約の場合は、会社が取締役に補償として支出する金額は、そのまま取締役の経済的利益となりますので、利益相反の程度が強いといえます。

 

会社補償契約に基づき、実際に支払うことになったときには、防御費用であれば支払い金額が妥当であるか、第三者への支払いであれば、善意かつ無重過失の要件に合致しているかなどを、十分に監視・検証する必要があります。

 

また、監査役としては、補償契約を実際に適用する際の補償金額が大きい場合には、重要な業務執行の決定に該当するとして、取締役会付議事項とされているかを確認することが考えられます。

 

③開示

公開会社の場合、補償契約及びD&O保険は、ともに一定事項が事業報告の記載となりますので、監査役は事業報告の監査の観点からも、適正な記載となっているかを監査することになります。

 

任意の委員会への関与~「公認会計士社外監査役等の手引き」より

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

その中から「任意の委員会への関与」を見てみましょう。

 

1.任意の委員会の運営の検討

 

会社が設置する任意の委員会のうち、取締役候補を決定する指名委員会と取締役報酬額案を決定する報酬委員会は、取締役会運営の妥当性を検討する上で重要な役割を果たすことが期待されています。

監査役、監査等委員は取締役会の監督機能が発揮されているかという観点から当該委員会の運営が適切に行われているか否かについて検討する必要があります。

 

2.コーポレートガバナンス・コードにおける取扱い

 

コーポレートガバナンス・コードでは、以下の原則及び補充原則により任意の指名委員会・報酬委員会などの独立した諮問委員会の設置が求められています。

 

(1)原則4-10 任意の仕組みの活用

 

上場会社は、会社法が定める会社の機関設計のうち会社の特性に応じて最も適切な形態を採用するに当たり、必要に応じて任意の仕組みを活用することにより、統治機能の更なる充実を図るべきである。

 

(2)補充原則4-10①

 

上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

 

3.指名委員会・報酬委員会が設置されている場合の検討項目

 

任意の諮問委員会として指名委員会・報酬委員会が設置されている場合、監査役、監査等委員はその運営が適切かどうか以下のような項目について検討することが考えられます。

 

(1)委員会の構成について、独立社外取締役の数は十分か

 

(2)委員長が社内取締役(社長等)となっている場合、社内取締役主導により審議が不十分なまま結論が出されていないか

 

議事録、配付資料等に基づき検討し、必要に応じて出席者に状況を確認します。

 

(3)監査役、監査等委員が委員会のメンバー(オブザーバーを含む)となる必要はないか

 

非常勤の社外監査役、社外監査等委員の場合、監査役会等において常勤の監査役、監査等委員等から調査結果の報告を受け、委員会の運営がコーポレートガバナンス・コードの趣旨に合致しているか否かについて検討することが考えられます。

 

4.指名委員会・報酬委員会が設置されていない場合の対応例

 

任意の諮問委員会として指名委員会・報酬委員会が設置されていない場合の監査役、監査等委員の対応例として以下のような項目が考えられます。

 

(1)設置されていない理由を確認し、理由に合理性があるか否かを検討

 

(2)設置することが望ましいと考えられる場合、設置を提言

 

5.その他の任意の委員会との関与

 

その他の任意の委員会のうち監査役等にとって内部統制システムに関係する委員会との関わりは、監査機能の発揮の観点から重要です。

該当する委員会の名称として、コンプライアンス委員会、内部統制委員会、リスク管理委員会(リスクマネジメント委員会)、情報セキュリティ委員会などが考えられます。

 

監査役等は業務監査の一環として委員会に出席(陪席)することでコンプライアンスの実態報告、内部統制上の問題点把握、想定されるリスクへの対策などが委員会において適切に報告、審議されているかについて、把握することが必要です。

 

非常勤の社外監査役等の場合、常勤監査役等からコンプライアンス委員会などの内部統制部門における審議状況等の報告を受けることで経営の実態把握に努めることが求められます。

 

取締役会評価への対応~「公認会計士社外監査役等の手引き」より

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

その中から「取締役会評価への対応」を見てみましょう。

 

上場会社は コーポレートガバナンス・コードにおいて取締役会の実効性評価の実施が求められており、コーポレートガバナンス報告書等において実施した結果を開示する事例が増えてきています。

 

1.監査役等の対応

 

(1)取締役会の実効性評価が行われている場合

 

監査役等は評価に関する分析、検討結果が取締役会において適切に報告されていること、及びコーポレートガバナンス報告書等の記載内容が適切であるか否かについて、検討を行い、必要に応じて執行側に改善を提言することが業務監査の一環として考えられます。

 

(2)取締役会の実効性評価を実施していない場合

 

その旨がコーポレートガバナンス報告書において記載されているか、実施しない理由が合理的か、実施予定が立てられているか等について執行側と協議し、提言を行い取締役会の機能向上を求めるべきと考えられます。

 

2.コーポレートガバナンス・コードにおける取扱い

 

(1)原則4-11「取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件」

 

取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有するものが選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する知見を有している者が1名以上選任されるべきである。

取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

 

(2)補充原則4-11③

 

取締役会は、毎年、各取締役の自己評価などを参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

 

3.実効性評価の実施方法に関する留意点

実施方法に関して以下の観点から確認することが考えられます。

 

(1)取締役等による自己評価の方法は、アンケート方式若しくはインタビュー方式又は併用方式か。

 

アンケート方式の場合、質問項目が同じであれば年度比較することで趨勢、傾向把握することが可能となります。

 

取締役会の役割が業務執行の意思決定機関か業務執行に対する監督機関かのいずれを重視しているかによって、アンケート項目、質問項目が異なってきます。

 

監督機関重視であれば社外取締役の割合が多くなり、決議項目数、開催頻度も相対的に少なくなることが想定され、回答に対する姿勢も異なることが考えられます。

 

(2)監査役も評定者になっているか。

 

評定者になっていない場合には、その理由に合理性があるかを検討することになりますが、一般的に監査役を評定者から外す理由は考えにくいと思われます。

 

(3)質問項目の修正見直しは必要ないか。重要項目は含められているか。

 

(4)評価結果は適切に分析され、取締役会で報告され、検討が行われているか。

 

(5)評価結果はどのように開示されているか。

 

コーポレートガバナンス報告書において、「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」の項目で取締役会全体の実効性評価を実施した旨、実施内容を記載しているか。

 

4.実効性評価のアンケート項目例

 

実効性評価に関して、標準的な質問項目は特にありませんが、「コーポレートガバナンス・コード」や「価値協創ガイダンス」における記載内容を参考にして設定している例が見受けられます。

 

(1)取締役会の構成

 

・ 取締役の多様性確保(ジェンダー、国際性など)

・ 諮問委員会が設置されている場合の構成

 

(2)取締役会の運用

 

・ 取締役会開催の頻度、日程、時間、配布資料の分量、配布のタイミング

・ 議題設定の見直しの要否

・ 取締役会における提供資料、説明内容・方法、時間配分

 

(3)取締役会の監督

 

・ 執行側との適時、適切な経営情報の共有

・ 社外役員に対する情報提供の充実、支援強化

 

(事前説明、経営会議等の審議内容報告など)

・重要案件の取締役会への報告のスピード

・代表取締役等への重要な業務執行の決定に関する委任範囲

・内部統制システムの実効性強化・モニタリング

 

(内部監査、コンプライアンス、リスク管理に関する報告を含む)

・中長期経営計画、年度計画に対する業務執行状況のモニタリング

 

(情報の信頼性含む。)

・事業戦略の検討に当たって情報の提供、事業目標の設定

・事業リスク等を反映した資本コストを把握し、収益力、資本効率の目標設定

・ 監視・監督機能強化のために任意の諮問委員会を設置、体制の構築

・ 報酬スキームと事業戦略との整合性、短期目標と長期目標とのバランス

・ 企業倫理を重視する姿勢、企業風土

 

(4)経営戦略に関する議論

 

・ 長期的なビジョン、事業戦略

・ 人材育成方針

・ 技術戦略に対する取組

・ 全社的な事業リスクに関する正確な情報報告、適切な対処

・ CEO サクセッションプラン

 

(5)投資家・株主との対話

 

・ 株主総会、IRなどにおけるステークホルダーとの対話の促進、十分なコミュニケーション

・ 非財務情報を含むステークホルダーにとって有用な情報の開示、提供への関与

 

平時における経営モニタリング~「公認会計士社外監査役等の手引き」より

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

平時の経営モニタリングに有益と思われる視点について順を追って記載しています。

 

1.信頼の原則

 

監査役は独任制ですが、全ての情報を自ら収集して分析・検討しなくてはならないかというと、決してそのようなことはなく、他者による情報収集・分析を信頼して業務を遂行すれば原則として足りますし、その方が効率的です。

監査(等)委員においても同様です。公認会計士に求められる職業的懐疑心を発揮しつつ、業務を遂行します。

 

2.正当な注意

 

社外監査役等の実務において「知り過ぎてしまうリスク」を指摘されることがありますが、監査役等が、コンプライアンスや内部統制上の問題について、知らなければ対応しようがないので免責されるというものではなく、監査論でいうところの「正当な注意」を払って監査活動を行わなければなりません。

 

3.コミュニケーションの大切さ

 

社外監査役等は平時から適切なコミュニケーションを行い、悪い情報の報告も受けられて、相談してもらえるような信頼関係を作るように心がけることが肝要です

 

4.取締役会への視点

 

「コーポレートガバナンス・コード」(東京証券取引所)第4章において、取締役会の役割・責任が示されています。

取締役会の議題や審議の在り方、実効性確保について、社外役員会計士協議会におけるアンケート結果に触れながら記載しています。

 

(1)議論の活性化のために必要なこと

 

アンケートの回答ほぼ全てにおいて、議長の采配が重要であると指摘されていました。

議長の采配の違いは、会社によって取締役会の在り方や社外役員への期待が少しずつ異なることにも起因します。

このため、社外監査役等においては、自らの職責を果たすことを前提としながらも、状況を的確に判断して関わることが望まれます。

 

(2)社外監査役等による発言の内容について

 

取締役会における社外役員の発言には、幾つかの型があると考えられます。

 

・ 実態又は不明点(議論の前提への疑問を含む。)を確認するための質問

・ 問題点の指摘

・ 改善提案

・ 他社の取組の紹介

 

より適切な発言を行うためには、

①会社の経営方針や戦略への理解、業界に関する基本的な知識

②議題の内容を事前に十分に理解

の必要があるということが改めて強調されるとともに、社外役員が現場(国内・海外)往査に行くことの意義も指摘されました。

 

さらには、社外役員が行い得る重要な貢献として、社内役員が発言しづらいことを発言し、問題提起することが挙げられます。

 

5.資本効率への視点

 

社外監査役等に有益と思われる、資本効率の指標及びそれと対比すべき資本コストへの視点を記載します。

 

(1)ROE の活用と性質

 

ROE(株主資本利益率)を使った経営上の議論をモニタリングするためには、ROE への理解を深めておく必要があります。

日本企業の ROE が相対的に低いのは、売上高利益率が低いことが主たる要因であることが知られています。

 

(2)ROE に対応させる資本コスト

 

ROE に対応させるべき資本コストは、株主資本コストです。

株主資本コストというのは、企業側のコスト意識を表すための概念であり、金利や配当のように誰が見ても明らかな数値とは違って、何らかの方法で推計することになります。

 

株主資本コストを推計する方法としては、実務では資本資産評価モデル(CAPM:キャップエム) が広く使われています。

 

(3)資本効率にかかる ROE 以外の指標について

 

企業と投資家との対話において ROE は極めて重要な指標であるとしても、他の指標が有益な場面もあります。

 

①ROA

 

ROA(総資産利益率)を用いる目的は、企業の資産全体に対する資本効率を表すことにあります。

ROA に対応させる資本コストには、便宜的に WACC(加重平均資本コスト)が用いられることがあります。

 

②ROIC

 

ROIC(投下資本利益率)を用いるメリットは、ROIC が有利子負債と株主資本による調達から得られたリターンを表す指標であるため、資本コスト(代表的な指標は WACC)との正確な比較が可能になることです。

その結果、投資効率に問題のある低収益事業が明確になりやすくなります。

 

(4)資本効率の指標を使う経営上の利点

 

投資効率を意識することによって、バランスシートも併せてモニタリングすることができます。

不採算事業や遊休資産、政策保有株式などが検討の対象になりやすくなります。

 

(5)資本効率の指標を使う上での留意点

 

資本効率の数字は中長期の視点で捉える必要があります。

資本効率は万能の指標ではなく、他の要素も併せて考慮すべき場合があります。

 

①新規の成長事業は資本効率が低いことがあります。

 

資本効率は、単年度の数値だけ見ていると、成熟した事業ばかりが評価されやすくなるなど、判断を誤ることがあります。

 

②企業の強みとなるものは手放すべきではないことがあります

 

資産をスリム化していけば、資本効率は上がりますが、その資産を本当に手放してよいのかも考慮する必要があります。

 

6.経営指標

 

CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)や EBITDAなどの財務数値から導かれる様々な経営指標を経営モニタリングに活用する余地は、非常に大きいと考えられます。