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サステナビリティ情報等を中心とした企業のディスクロージャーへの対応

1.はじめに

 

2022年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下「WG報告」)において、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「コーポレートガバナンスに関する開示」などに関して、制度整備を行うべきとの提言がなされました。
当該提言等を踏まえ、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」)の記載事項について、2023年1月31日付で「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、公布・実施されました。
なお、同日付けで「記述情報の開示の好事例集2022」が公表されています。好事例集では、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「人的資本、多様性に関する開示」等の参考となる開示例が掲載されています。

 

・金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告の概要(2022年6月公表)

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループは、サステナビリティとコーポレートガバナンスについて非財務情報開示の充実を図ることにしています。

 

 

・サステナビリティ開示に対する対応

 

 

・サステナビリティ開示の概観

 

 

・金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告を踏まえた内閣府令改正の概要

 

 

2.サステナビリティ情報の「記載欄」の新設に係る改正の内容

 

 

 

(1)サステナビリティに関する企業の取組みの開示

 

①サステナビリティ全般に関する開示

 

ア)サステナビリティ情報の「記載欄」の新設

(企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」)第二号様式「第二部 第2【事業の状況】」及び同様式記載上の注意「(30-2)サステナビリティに関する考え方及び取組」等)

 

有価証券報告書等に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、「ガバナンス」及び「リスク管理」については、必須記載事項とし、「戦略」及び「指標及び目標」については、重要性に応じて記載を求めることとされました。

また、サステナビリティ情報を有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、サステナビリティ情報の「記載欄」において当該他の箇所の記載を参照できることとされています。

 

イ)将来情報の記述と虚偽記載の責任及び他の公表書類の参照

(企業内容等の開示に関する留意事項について(以下「開示ガイドライン」))

 

将来情報について、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、有価証券届出書に記載した将来情報と実際に生じた結果が異なる場合であっても、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないと考えられることが明確化されました。

また、当該説明を記載するに当たっては、例えば、当該将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経たものである場合には、その旨と検討された内容(例えば、当該将来情報を記載するに当たり前提とされた事実、仮定及び推論過程)の概要をともに記載することが考えられるとしています。

サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載については、有価証券届出書に記載すべき重要な事項を記載した上で、その詳細な情報について、他の公表書類を参照することとし、また、他の公表書類に明らかに重要な虚偽があることを知りながら参照する等、当該他の公表書類の参照自体が有価証券届出書の重要な虚偽記載等になり得る場合を除けば、単に参照先の書類の虚偽表示等をもって直ちに虚偽記載等の責任を問われるものではないことを明確化しています。

 

➁人的資本、多様性に関する開示

(開示府令第二号様式 記載上の注意「(29) 従業員の状況」、「(30-2)サステナビリティに関する考え方及び取組」及び開示ガイドライン)

 

人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等について、必須記載事項とされ、サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」において記載を求めることとされています。

また、提出会社やその連結子会社が女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表する場合には、公表するこれらの指標について、有価証券報告書等においても記載を求めています。

なお、これらの指標を記載するに当たって任意で追加的な情報を記載することが可能であること、サステナビリティ記載欄の「指標及び目標」における実績値にこれらの指標の記載は省略可能であること、男女間賃金格差及び男性育児休業取得率を記載するに当たって注記すべき内容について、開示ガイドラインにおいて明確化することとします。

 

③サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み

(「記述情報の開示に関する原則」)

 

WG報告で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて、サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組みを取りまとめています。

 

主な内容は、以下のとおりです。

・「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待されること

・気候変動対応が重要である場合、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであり、GHG排出量について、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1・Scope2のGHG排出量については、積極的な開示が期待されること

・「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきであること

サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であるため、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂を行うことを予定しています。

 

(2)コーポレートガバナンスに関する開示

(第二号様式 記載上の注意「(54)コーポレート・ガバナンスの概要」、「(56)監査の状況」及び「(58)株式の保有状況」 等)

 

取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況)、内部監査の実効性(デュアルレポーティングの有無等)及び政策保有株式の発行会社との業務提携等の概要について、記載を求めることとしています。

なお、WG報告の提言のうち、「重要な契約」の開示については、引き続き具体的な検討が必要なため、別途改正を行うこととしています。

 

3.公布・施行日等

 

本改正に係る内閣府令は、2023年1月31日付で公布・施行されます。
改正後の規定は、以下のとおり適用されます。

 

・令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます
※ただし、施行日以後に提出される有価証券報告書等から早期適用は可能です

 

IFRS財団によるIFRSサステナビリティ開示基準公開草案の公表

1. 国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board:ISSB)の設立

 

投資家のサステナビリティ情報を含む非財務情報へのニーズの高まりを受け、、IFRS財団(以下、財団)は2020年9月及び2021年4月にそれぞれ「サステナビリティ報告に関する協議ペーパー」と「IFRS財団定款の的を絞った修正案」を公表し、利害関係者からコメントを募集しました。

 

コメントでは、以下の項目についての対応が求められました。

 

① 国際的に一貫し、比較可能なサステナビリティ報告が緊急に必要であること

 

② IFRS財団が関連基準の設定において主導的な役割を果たすべきという幅広い要望があり迅速な行動が求められていること

 

これを受けて、IFRS財団評議員会(以下、評議員会)は2021年11月3日、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)において、資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するために国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board:ISSB)の設立を公表しました。

 

同時に、2つの基準原案(プロトタイプ)や他の基準設定機関との統合も公表しています。

 

ISSBは、評議員会の下部組織として、国際会計基準審議会(以下、IASB)と並列した位置付けになります。

 

2.IFRSサステナビリティ開示基準の開発

 

ISSBが設定する基準は、IFRSサステナビリティ開示基準(IFRS Sustainability Disclosure Standards)とされ、IASBが設定する基準は、IFRS会計基準(IFRS Accounting Standards)と呼ばれることになります。

 

財団は、ISSBの基盤作りのため、技術的準備ワーキング・グループ(以下、TRWG)を設立しています。

 

TRWGは、金融安定理事会による気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、バリュー・レポーティング財団(VRF)、気候変動開示基準委員会(CDSB)、世界経済フォーラム(WEF)、国際会計基準審議会(IASB)のメンバーによって構成されています。

 

3.グローバル機関との連携

 

ISSBは、基準の開発や適用を迅速に進めるため、さまざまなグローバル機関と連携することとしています。

 

(1) VRF及びCDSBとの統合

 

TRWGメンバーの構成組織であるバリュー・レポーティング財団(VRF)と気候変動開示基準委員会(CDSB)が2022年6月までにISSBに統合される予定です。

VRFは、国際統合報告評議会(IIRC)とサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が統合された組織です。

 

(2) IASBとの連携

 

ISSBは、IASBと緊密に連携し、IFRS会計基準とIFRSサステナビリティ開示基準との結び付き及び比較可能性を確実なものにすることとしています。

 

(3) その他のグローバル機関との連携

 

証券監督者国際機構(IOSCO)は、財団のモニタリング・ボードにおける議長として基準設定活動を独立して監視していくほか、IFRSサステナビリティ開示基準の基準草案を詳細に評価し、各国の規制当局が基準の批准をスムーズに実施するための基盤作りを担うと考えられています。

 

4.国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の公開草案公表

 

(1)基準書案の公開協議

 

2022年3月31日、ISSBは、2つの基準書案に関する公開協議を開始しました。

 

1つは、全般的なサステナビリティ関連開示の要求事項を定めるもので、もう1つは、気候関連開示の要求事項を定めるものです。

 

① 全般的なサステナビリティ関連開示の要求事項の公開草案は、投資家が企業の企業価値を評価するために必要な、企業の重大なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する重要性がある情報の開示に係る要求事項を定めています。

本公開草案は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する企業からの情報の改善を求めるG20首脳や証券監督者国際機構(IOSCO)などからの要請を受けて開発されたものです。

 

② 気候関連開示の要求事項の公開草案は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づき、SASBスタンダードから派生した産業別開示の要求事項を取り入れたものです。

 

③ ISSBが最終的な要求事項を公表した時点で、これらの要求事項は、投資家が企業価値を評価する際の情報ニーズを満たすように設計されたサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを形成することになります。

ISSBは、グローバル・ベースラインを各法域の要求事項に取り込むことを支援するため、他の国際機関や各法域と緊密に連携しています。

 

(2)今後のスケジュール

 

① 公開草案

 

ISSBは、2022年7月29日を期限とする120日間の公開協議期間を通じて、本公開草案に関するフィードバックを求めています。

2022年後半に本提案に関するフィードバックを検討し、フィードバックに応じて、2022年末までに新しい基準を公表することを目指しています。

 

2022年終盤に、ISSB は基準設定の優先順位について公開協議を行う予定です。

この公開協議では、企業価値を評価する際の投資家のサステナビリティ関連情報のニーズや、幅広いサステナビリティ事項を扱うSASBスタンダードに基づく産業別要求事項の追加的な開発に関するフィードバックを求めることが予定されています。

 

② その他の動き

 

また、ISSBは2022年3月31日、SASBスタンダードと産業別の基準設定プロセスをどのように基礎としていくかに関する計画に着手しました。

 

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提言しているフレームワークに基づいた4つのコアとなる要素(ガバナンス、戦略、リスク管理及び指標と目標)について開示することが求められます。

 

なお、TRWGは基準を「全般的要求事項」「テーマ別要求事項」「産業別要求事項」の3つで構成することを提案しています。

 

気候関連開示の要求事項はこの「テーマ別要求事項」に該当します。

 

TRWGによると、テーマが資本市場に認知され、産業横断的な指標が実行可能であり利用可能等の要件を満たすことで、今後新たなテーマが設定されることが提案されています。

 

5.全般的要求事項

 

(1) 目 的

 

「全般的要求事項」の目的は、一般目的財務報告の利用者が企業に経済的資源を提供すべきか否かに関する意思決定を行う際に有用となるサステナビリティ関連リスク及び機会に対する企業のエクスポージャーに関する全ての重要性のある(Material)情報の提供を企業に求めることです。

 

ここでの情報提供は、あくまで経済的意思決定に資する情報提供であり、企業価値評価のための情報開示にフォーカスしています。

 

(2)  重要性

 

「重要性のある」情報とは、情報が省略されたり誤表示されたり脱漏されたりした場合に、利用者の経済的意思決定に影響を及ぼすと合理的に予想される情報であるとされています。

 

また、重要性は情報が関連する項目の性質や規模に基づき企業固有のものであるという側面があり、基準案では重要性の閾値について明示されていません。

 

(3) 4つのコアとなる要素

 

IFRSサステナビリティ開示基準が他の開示を認める又は要求する場合を除き、ガバナンス、戦略、リスク管理及び指標と目標について開示することが求められます。

 

このアプローチは、IFRS財団が昨年公表した協議文書において求めた利害関係者からの意見を反映し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提言しているフレームワークに基づいたものです。

Exposure Draft-Snapshot より抜粋

 

(4) 参照する基準

 

指標を含む重要なサステナビリティ関連リスク又は機会に関する開示を特定するためには、関連するIFRSサステナビリティ開示基準を参照します。

 

特定のサステナビリティ関連事項に具体的に適用されるIFRSサステナビリティ開示基準が存在しない場合、経営者には目的適合性を有する開示を識別するための判断が求められます。

 

この判断を行うに当たり、IFRSサステナビリティ開示基準の要求事項と矛盾しない範囲で、産業に基づく米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の基準、ISSBの強制力は持たないガイダンス及びその他の基準設定主体の直近の基準等の文書に含まれる開示トピックに関連する指標を考慮することになります。

 

6.気候関連開示の要求事項

 

(1) 目 的

 

「気候関連開示の要求事項」の目的は、利用者が次のことを可能にするために、気候関連リスク及び機会についてのエクスポージャーに関する情報を企業に提供するよう求めることです。

 

・重要な気候関連リスク及び機会が企業価値に及ぼす影響を評価すること

 

・企業の資源利用並びにそれに対応するインプット、活動、アウトプット及び成果が、重要な気候関連のリスク及び機会を管理するための企業の対応及び戦略をどのようにサポートするかを理解すること

 

・計画、ビジネス・モデル及び事業を重大な気候関連リスク及び機会に適応させる能力を評価すること

 

(2) 4つのコアとなる要素

 

「気候関連開示の要求事項」では、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言に由来する以下で示す4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)に沿った目的適合性を有する情報の開示を求めています。

 

① ガバナンス

 

ガバナンスとは、「気候関連リスク及び機会をモニタリングして管理するために企業が用いるガバナンス・プロセス、統制及び手続」をいいます。

 

公開草案では幾つかの開示義務事項が明示されています。

例えば、気候関連リスク及び機会を監督する組織が、企業戦略、主要な取引の意思決定及びリスク管理方針を監督する際に気候関連リスク及び機会をどのように考慮しているかについて開示することが求められています。

 

② 戦 略

 

戦略とは、「短期、中期及び長期にわたって企業のビジネス・モデル及び戦略を改善する、阻害する又は変更する気候関連リスク及び機会」をいいます。

 

・気候関連リスク及び機会に関する情報の経営者の戦略及び意思決定に及ぼす影響

 

・気候関連リスク及び機会がビジネス・モデルに現時点で及ぼしている影響及び今後及ぼすと見込まれる影響

 

・短期、中期及び長期にわたって、企業のビジネス・モデル、戦略及びキャッシュ・フロー、資金へのアクセス及び資本コストに影響を及ぼすと合理的に見込まれる気候関連リスク及び機会の影響

 

・気候関連リスクに対する企業戦略(ビジネス・モデルを含む)のレジリエンス

 

③ リスク管理

 

リスク管理とは、「気候関連リスクが企業によりどのように識別、評価、管理及び軽減されているか」をいいます。

 

公開草案では幾つかの開示義務事項が明示されています。

例えば、リスク管理目的のために気候関連リスクを識別するためのプロセス(例えば、他の種類のリスクと比較して気候関連リスクをどのように優先順位付けしているか)について開示が求められています。

 

④ 指標及び目標値

 

指標及び目標値とは、「気候関連リスク及び機会の業績及び成果に関する企業の取り組みを管理・モニタリングするために使用される指標及び目標値」をいいます。

 

これには、業績目標の達成度合いを測定するために企業が用いる、定性的開示及び目標を裏付ける測定値が含まれます。

 

企業は、産業横断的な及び産業固有の指標を開示することが求められます。

さらに、企業は指標を選択及び開示するに当たり、それらの金額と付随する財務諸表で認識・開示される金額との関係を検討しなければなりません。

経営者の報酬としてのストック・オプション~その考え方、発行手続き、税務の取扱~

 

コーポレート・ガバナンスコードでは、経営者の報酬について、以下のように定めています。

 

【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】

取締役会は、経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、経営陣からの健全な企業家精神に基づく提案を歓迎しつつ、説明責任の確保に向けて、そうした提案について独立した客観的な立場において多角的かつ十分な検討を行うとともに、承認した提案が実行される際には、経営陣幹部の迅速・果断な意思決定を支援すべきである。

また、経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである

 

補充原則

4-2① 取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。

これを受けて、経営陣に対する中長期的なインセンティブとしてのストック・オプション制度を導入する会社が増加しています。

 

1.新株予約権とストック・オプションの定義

 

(1)新株予約権

 

・新株予約権を発行した会社から

・あらかじめ定められた条件で

・株式を取得できる権利(行使するかどうかの選択可)

 

(2)ストック・オプション(狭義)

 

・会社が、

・使用人や役員等(以下従業員等)に

・労働の対価(報酬)として付与する

・新株予約権

 

(3)ストック・オプション(広義)

 

・会社が、

・財貨またはサービスの対価として付与する

・新株予約権

 

2.役員報酬としてのストック・オプション

 

(1)ストック・オプションの類型

 

ストック・オプションには、取得の際に、払い込みを要するか否かで無償型と有償型があります。

 

① 無償型の類型

 

無償型とは取得に際し従業員等が金銭の払い込みを要しないものをいいます。

 

ア) 株価連動型(通常型)

 

業績を意識した追加報酬制度をとる場合などで、行使価格は、付与時の株価以上に設定される場合が多くなっています。

中長期的に企業価値を向上させ、株価が上昇することにより、報酬を得ることになります。

株価が行使価格を下回る場合には、報酬を得ることはできません。

 

イ) 金銭報酬代替型(株式報酬型)

 

役員退職慰労金の代わりに発行する場合などで、行使価格は通常1円に設定されます。

行使すれば、通常は、報酬を得ることができます。

 

② 有償型

 

対価を支払い、ストック・オプションを取得します。通常、ストック・オプションの時価相当額を支払います。

行使価格は、通常、発行時の株価と同程度に設定されます。

株価が、行使価格と取得対価の合計額を上回れば、報酬を得ることになります。

 

3.新株予約権に関する会計基準

 

新株予約権に関する会計処理は、新株予約権の内容により、適用される会計基準が異なります。

 

(1)無償ストック・オプション

 

ストック・オプション等に関する会計基準

 

(2)有償ストック・オプション

 

従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

 

(3)ストック・オプション以外の新株予約権

 

払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理

 

4.リストリクテッド・ストック

 

(1)定義

 

従業員等に対して、自社株式が無償で付与されますが、一定期間その株式の処分、売却が制限される株式をいいます。

 

譲渡制限中は、株式の譲渡ができないことから優秀な役員等を確保できる効果があることや、株価上昇のインセンティブがあることが、メリットとなります。

 

(2)法整備の内容

 

① 会社法

 

金銭の報酬債権を現物出資することによる株式の発行が可能です。

 

② 税法

 

「特定譲渡制限付き株式」と定義し、付与された個人は、譲渡制限解除の日の株価で課税されます。

 

③ 金融商品取引法

 

総額1億円以上の付与を行う場合には、原則として、有価証券届出書の提出が必要です。

 

5.各種株式報酬の比較

 

株価向上のインセンティブを与える手段としてストック・オプションとリストリクテッド・ストックを見てきましたが、株価と報酬の観点から、相違点として以下の点が挙げられます。

 

リストリクテッド・ストック株価水準により報酬額は増減しますが、報酬がゼロになることはありません。

しかし、ストック・オプションは、株価が権利行使価格を下回ると、行使できずに報酬はゼロになります。

 

 

6.ストック・オプション発行の手続き

 

ストック・オプションの発行は、既存株主に不利益が発生する可能性があります。

会社法では、ストック・オプションを発行する手続きを定めています。

 

(1)有利発行

 

有利発行とは、新株予約権という権利を公正価値より低い対価で取得させることをいいます。

 

(2)公開会社

 

会社法上の公開会社とは、株式の譲渡を行うときに会社の承認を要する旨を定款で定めていない会社です。

 

(3)発行手続き

 

① 公開会社かつ有利発行の場合

 

有利発行は、既存株主に希薄化の不利益を生じさせることから、株主総会の特別決議によって、募集条件等が承認される必要があります。

 

 

② 公開会社かつ有利発行でない場合

 

取締役会決議で発行できます。

 

③ 非公開会社

 

有利発行か否かにかかわらず、株主総会の特別決議が必要になります。

 

7.個人に関するストック・オプションの税務

 

(1)税制適格ストック・オプションとは

 

ストック・オプションの権利行使時には、権利行使の払込資金に加え、納税資金の負担が必要になるため、税制の優遇措置があります。

 

優遇措置を受けるには、一定の適格要件を満たす必要があり、適格要件を満たしたものを、税制適格ストック・オプションといい、適格要件を満たしていないものを税制非適格ストック・オプションといいます。

 

(2)税制適格ストック・オプションの優遇措置

 

① 課税が株式売却時まで繰り延べられる。

 

② 課税は、給与所得ではなく、株式の譲渡所得として行われる。

給与所得は総合課税、株式の譲渡所得は分離課税なので、所得が高い場合には、分離課税の方が有利になります。

 

(3)税制適格の要件

 

① 発行形態

 

・無償で発行されている

・他者への譲渡を禁止している

 

② 行使価額の制限

 

・年間権利行使価額の総額が1,200万円以下

・権利行使価額は、契約締結時の株式時価以上

 

③ 行使期間の制限

 

・ストック・オプションの権利付与決議の日から2年を経過した日か10年を経過する日まで間のみ行使可能

 

④ 権利付与対象者の制限

 

・発行会社・その子会社等の取締役・使用人等であること

大口株主及び監査役は、対象者から除かれています。

 

⑤ 税務の手続き

 

・「新株予約権の付与に関する調書」を当該ストック・オプションを付与した日の属する年の翌年1月31日までに税務署に提出

 

(4)個人が新株予約権を取得した場合の課税関係のまとめ

 

 

 

固定資産の減損会計基準と「会計上の見積りの開示に関する会計基準」との関係

2021年3月期から「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下、見積開示会計基準)が原則適用となりました。

 

見積開示会計基準においては、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について、当該見積りの内容の理解に資する情報が開示されることになりました。

 

見積り項目の代表的なものの一つである固定資産の減損について、見積開示基準との関係を見ていきます。

 

1 会計上の見積りと注記内容

 

(1)会計上の見積りの定義

 

会計上の見積りとは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいうとされています。

 

(2)開示対象

 

見積開示会計基準に基づく開示対象として、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別することとされています。

識別された項目については、下記(3)の事項を注記することとされています。

 

(3)注記内容

 

・識別した項目について、会計上の見積もりの内容を表す項目名

・当年度の財務委諸表に計上した金額

・会計上の見積もりの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

 

その他の情報の例示:

・当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法

・当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定

・翌年度の財務諸表に与える影響

 

2 固定資産の減損会計における見積要素

 

(1)固定資産の減損の定義

 

固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態をいいます。

 

(2)減損処理とは

 

減損処理とは、減損の状態になった場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理です。

 

具体的な会計処理の流れは以下のようになります。

 

①資産のグルーピングを行った上で

 

②減損の兆候の有無を判定します

 

兆候がある場合には

 

③減損損失の認識要否の判定を行います

 

認識する必要がある場合には

 

④減損損失の測定を行います

 

これらの過程では、さまざまな見積りの要素や判断を要する事項が含まれています。

 

(3)資産のグルーピング

 

① 定義

 

資産のグルーピングとは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位であるとされています。

 

② グルーピングの判断

 

どのような資産グループを一つのグループとするかを判断する必要があります。

この点、実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられます。

 

グルーピングの方法によっては、減損損失の要否の判断又は減損額の結果が異なる場合が考えられます。

従って、資産のグルーピングも減損に係る見積りを行う前提として、重要な判断要素であると考えられます。

 

(4)減損の兆候の判定

 

減損の兆候の有無によって、減損会計の次のステップである減損損失の認識要否の判定に進むかどうか決まるため、兆候の有無の判定についても重要な判断要素であると考えられます。

 

減損の兆候については、減損適用指針12項から15項に例示されており、個々の企業の状況に応じて判断する必要があります。

 

例えば、「経営環境の著しい悪化」については、材料価格の高騰や製品販売量の著しい減少が続いているような市場環境の著しい悪化が示されていますが、多数の事業を営んでいたり、複数の地域で営業したりしている場合には、それらの判断はより複雑なものになると考えられます。

 

(5)主要な資産の決定

 

主要な資産とは、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産をいいます。

 

主要な資産を決定するにあたって、

 

①当該資産を必要とせずに資産グループの他の構成資産を取得するかどうか

 

②企業は、当該資産を物理的及び経済的に容易に取り替えないかどうか

 

といった要素も含めて総合的に判断する必要があります。

 

例えば、土地を主要な資産とした場合には、機械装置等を主要な資産とした場合に比べて、その将来キャッシュ・フローを見積る期間はより長くなり、割引前将来キャッシュ・フローに基づき減損の認識要否を判定する際に、認識不要とされる可能性が高くなり、減損損失が計上されない、又は減損損失の金額が小さくなるという可能性も考えられます。

 

従って、主要な資産の決定も重要な判断要素になります。

 

(6) 割引前将来キャッシュ・フローの算定

 

減損の兆候がある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識することになります。

 

そのため、割引前将来キャッシュ・フローは減損会計の見積り要素の中でも重要な要素になります。

 

割引前将来キャッシュ・フローは、将来のキャッシュ・フローのことであり、将来の予測であるため、見積りの要素が多分に入ります。

 

将来キャッシュ・フローは、取締役会等の承認を得た中長期計画の前提となった数値を、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報と整合的に修正し、各資産又は資産グループの現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して見積ることになります。

 

収益面では、会社の属する業界の市場成長率及び当該市場における会社の市場シェア率、受注予測などが見積りの前提になることも考えられます。

 

コスト面では、製造業などでは、原材料価格の変動予測を織り込んでいたり、製造プロセス見直しによる歩留り率の改善を見込んでいたりするなど、変動費率の見積りにもさまざまな仮定が織り込まれていると考えられます。

 

また、固定費、運転資本増減額、設備投資額についても何らかの仮定を置いて見積られているものと考えられます。

 

さらに、中長期計画等は一定の期間までしか策定されていないため、それ以降の期間のキャッシュ・フローについても、成長率等の一定の仮定を置いて見積る必要があります。

 

このように将来キャッシュ・フローはさまざまな見積要素が含まれています。

 

(7)正味売却価額の算定

 

減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額、すなわち、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上することになります。

 

正味売却価額とは資産又は資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算定される金額のことです。

 

土地や建物の時価については、実務では不動産鑑定評価をとることがあると思われますが、不動産鑑定評価額の算定に用いられた評価手法及び比準価格等の主要な査定項目における仮定の適切性について確認しておく必要があると考えられます。

 

(8) 使用価値の算定

 

使用価値とは、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値とされています。

 

将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引く際、その割引率が高いほど現在価値を小さくするという影響があります。そのため、割引率も減損会計の見積要素の中でも重要な要素になります。

 

将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクについては、実務上、割引率に反映させる場合が多く、この場合に使用価値の算定に際して用いられる割引率は、貨幣の時間価値と将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映することになります。

 

その際に、企業における資産グループ固有のリスクを反映した収益率や、加重平均資本コストなどを総合的に勘案して見積られているかどうかがポイントになります。

 

3 KAMとの関係

 

監査上の主要な検討事項(KAM)とは、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項であり、KAMでは、「関連する財務諸表における注記事項がある場合は、当該注記事項への参照」や「当該事項をKAMに決定した理由」などの記載が求められます。

 

このように、関連する財務諸表における注記事項がある場合には、その注記事項への参照も記載することとされており、監基報701A41項において、企業が会計上の見積りに関してより具体的な注記を行っている場合には、KAMに該当すると判断した理由及び監査上の対応を説明するために、監査人は主要な仮定、見込まれる結果の範囲、見積りの不確実性の主な原因等の注記事項に言及することがあるとされています。

 

また、監基報701第8項において、KAM決定の際の考慮要因の一つに、「見積りの不確実性の程度が高い会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断」が挙げられていることなどから、見積開示会計基準に基づいて識別された固定資産の減損に関する項目がKAMとなるケースがみられます。

 

固定資産の減損会計はKAMにおいてもさまざまな記載がなされており、監査人がどのような点を監査上の重要なポイントであると考えているかについても念頭に置いた上で、固定資産の減損会計における見積りや判断について検討することが有用であると考えられます。

 

重要な会計方針の注記及び収益認識に関する会計基準で要求される注記の内容と両者の関係及び留意点

2022年1月31日に日本公認会計士協会は、「収益認識に関する会計基準」の開示(表示及び注記事項)に関する理解を深めることを目的として、基礎的な論点について図表等を用いて解説する資料を取りまとめた「Q&A 収益認識の開示に関する基本論点」を作成し、公表しました。

 

この中から、「4.重要な会計方針」及び「5.収益認識に関する注記」について、見てみましょう。

 

1.重要な会計方針における注記

 

(1)注記項目

 

収益認識に関する会計基準では、以下の事項を重要な会計方針として注記することになっています。

 

①企業の主要な事業における主な履行義務の内容

 

②企業が当該履行義務を充足する通常の時点

 

③上記以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記します。

 

(2)重要な会計方針の注記と収益認識に関する注記の関係

 

① 企業会計原則注解

 

重要な会計方針の注記について、企業会計原則注解(注1-2)においては、「財務諸表には、重要な会計方針を注記しなければならない。会計方針とは、企業が損益計算書及び貸借対照表の作成に当たって、その財政状態及び経営成績を正しく示すために採用した会計処理の原則及び手続並びに表示の方法をいう。」とされています。

 

② 会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

 

会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第4-2項では「重要な会計方針に関する注記の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにある。」とされています。

この開示目的に照らして、重要な会計方針を記載することになります。

 

 

③収益認識に関する会計基準

 

収益基準においては、「企業の主要な事業における主な履行義務の内容」及び「企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)」について、会計方針に含めて記載することにより、財務諸表利用者の収益に対する理解可能性を高めるために最も有用となると考えられるため、それらについて重要な会計方針として注記することとされています。

 

ただし、重要な会計方針として注記する内容は、上記の二つの項目に限定することを意図して定めているものではなく、これら二つの項目以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記することとされています。

 

また、収益認識に関する注記においても、収益を理解するための基礎となる情報として、契約及び履行義務に関する情報や履行義務の充足時点に関する情報を注記することが求められています。

 

ただし、重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことができるとされています。

 

2.収益認識に関する注記

 

(1)収益認識に関する注記の開示目的

 

収益認識に関する注記における開示目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することです。

収益認識に関する注記の記載に当たっては、個々の開示要求に対する形式的な対応にとどまらず、関連する開示が全体として開示目的を達成するための十分な情報となっているかを検討することが必要です

 

(2)注記内容

 

この開示目的を達成するため、収益認識に関する注記として、次の項目を注記します。 詳しくは、後述しています。

 

・収益の分解情報

・収益を理解するための基礎となる情報

・当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

(会計基準第80-4項、第80-5項)

 

(3)全般的な留意事項

 

金融庁から令和2年度有価証券報告書レビューの審査結果を踏まえた留意事項の一つとしてのIFRS第15号に関する事項では以下のような内容が公表されており、我が国の「収益認識に関する会計基準」の適用準備中の会社にも参考になると考えられるとされています。

 

出典:「令和2年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」(金融庁)

 

① 一貫性のある開示

 

個々の開示内容は基準に従った開示と考えられる一方、項目間の関係性を読み取れない事例が見られた。個々の開示要求に対する形式的な対応にとどまらず、関連する開示が全体として開示目的を達成するための十分な情報となっているかを検討することが求められます。

 

(改善の余地があると考えられる例)

 

・履行義務に関する情報の説明と収益の分解に関する情報の区分が異なるもの。

・履行義務に関する情報とそれが契約残高に与える影響の関係性が明確ではないもの。また、どの履行義務と関連する契約残高であるかが明確ではないもの。

 

② 開示の要否の判断

 

以下のような理由により、基準で求められている開示を省略する事例が見られました。

しかし、これらは開示を省略する理由として適切ではないと考えられます。

 

・特殊な履行義務ではないため

・業界慣行に従い処理しているため

 

③ 重要性の判断

 

重要性の判断は開示目的とともに考慮するべきであり、重要性がないとして要求されている開示を省略する際には、その省略によって開示目的に必要な情報の理解も困難になっていないかどうか検討することが求められます。

 

また、重要性が乏しい事項について、開示されている定量的情報等からその旨を読み取ることができない場合は、重要性が乏しいことがわかるように簡潔な説明を加えることも有用と考えられます。

 

(2)収益認識に関する注記の開示項目

 

開示目的を達成するため、収益認識に関する注記として、次の項目を注記します。

 

① 収益認識に関する注記の開示項目

 

(a)収益の分解情報

 

(b)収益を理解するための基礎となる情報

 

ア.契約及び履行義務に関する情報

イ.取引価格の算定に関する情報

ウ.履行義務への配分額の算定に関する情報

エ.履行義務の充足時点に関する情報

オ.本会計基準の適用における重要な判断

 

(c)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

 

ア.契約資産及び契約負債の残高等

イ.残存履行義務に配分した取引価格

 

ただし、上記の項目のうち、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことができるとされています。

 

また、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められるか否かの判断は、定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮する必要があり、その際、定量的な要因のみで判断した場合に重要性がないとは言えない場合であっても、開示目的に照らして重要性に乏しいと判断される場合もあると考えられるとされています。

 

また、収益認識に関する注記を記載するにあたり、どの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、また、どの程度詳細に記載するのかを開示目的に照らして判断することとされており、重要性に乏しい詳細な情報を大量に記載したり、特徴が大きく異なる項目を合算したりすることにより有用な情報が不明瞭とならないように、注記は集約又は分解することが求められています。

 

このほか、収益基準では、以下のような定めがあり、収益認識に関する注記の記載に当たって留意することが必要です。

 

② 収益認識に関する注記の記載に当たっての留意事項

 

・収益認識に関する注記を記載するにあたり、本会計基準において示す注記事項の区分に従って注記事項を記載する必要はありません。

 

・重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことができます。

 

・収益認識に関する注記として記載する内容について、財務諸表における他の注記事項に含めて記載している場合には、当該他の注記事項を参照することができます。

 

3. 注記の要否、重要性の判断などに関する留意点

 

(1) 重要な会計方針の注記

 

「履行義務を充足する通常の時点」と「収益を認識する通常の時点」は通常同じですが、出荷基準等に関する代替的な取扱い(収益認識適用指針第98項)を適用した場合などにはそれらが異なることになり、この場合には「収益を認識する通常の時点」を記載する点に留意が必要です。

 

(2) 収益認識に関する注記

 

① 開示目的に照らした開示の要否や詳細さの検討

 

重要性がないとして要求される項目を省略する場合には、省略することにより開示目的の達成に必要な情報の理解が困難になっていないかどうか、財務諸表利用者の視点で判断する必要があります。

 

特殊な履行義務ではない、業界慣行に従った処理であるということは、基準で求められる注記を省略する理由としては適切ではないとされています。

 

なお、重要性の判断により注記を省略する場合には、重要性が乏しいことが分かるような説明をすることが有用と考えられます。

 

② 有報レビューの結果を踏まえた留意点

 

有報レビューの結果、重要な会計方針として記載した事項を含め以下の指摘がされており、注記の検討にあたり留意すべきと考えられます。

 

・主要な履行義務の内容、充足時期は、企業特有の内容を反映して具体的に説明する。

 

・特にサービスの提供や一定の期間にわたり充足する履行義務はさまざまな類型の契約が存在すると考えられるため、詳細に説明する。

 

・どの履行義務が代理人として行動しているのかを明確に説明する。

 

・重要な金融要素や変動対価について重要性がない、該当がないとして記載しない場合にもその旨を簡潔に説明する。

 

・残存履行義務に配分した取引価格に関して、いつ収益として認識すると見込んでいるかについて、定性的情報を使用した方法で説明する場合でも、財務諸表利用者の将来予測に資する詳細さで情報を提供する。

 

4. 開示間の整合性に関する留意点

 

収益認識に関する注記が開示目的を達成するためには、個々の項目が会計基準に従っているのみならず、関連する項目全体として十分かつ一貫性のある開示が必要です。

 

具体的な留意点は以下のとおりです。

 

(1) 収益の分解情報とその他の開示との整合性

 

収益の分解情報は、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解することが求められます。

 

例えば、事業別かつ履行義務の充足時期別に分解情報を記載した場合には、重要な会計方針においてそれぞれの事業に対応する履行義務の内容及び充足時期の説明を行うなどの整合が図られる必要があります。

 

また、セグメント情報で開示される売上高との関係を理解するための説明の十分性や非財務情報との整合性にも留意が必要です。

 

(2) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報とその他の開示との整合性

 

契約資産及び契約負債に重要性があるとして残高を注記する場合には、「重要な会計方針」や「収益を理解するための基礎となる情報」において契約資産や契約負債が生じる取引内容を記述するなどの整合を図る必要があります。

 

また、「重要な会計方針」や「収益を理解するための基礎となる情報」で主要な履行義務の未充足部分に言及した場合には、残存履行義務に配分した取引価格の注記を行うなどの整合を図ることにも留意が必要です。

 

(3) 重要な会計方針の注記、収益認識に関する注記と会計上の見積りの開示との整合性

 

重要な会計方針や収益認識に関する注記において、変動対価や履行義務の充足に係る進捗度の見積りなど会計上の見積りに関連する記載を行う場合には、重要な会計上の見積りに関する注記への記載の要否や記載する場合の内容の整合性に留意が必要です。

 

 

経済社会のデジタル化を踏まえ、生産性の向上等を目的として電子帳簿保存法が改正されました

1.改正の目的

 

経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため、令和3年度の税制改正において、「電子帳簿保存法」の改正等が行われ、帳簿書類を電子的に保存する際の手続等について、抜本的な見直しがなされました。

 

具体的な改正内容 は、3.4.5.に記載しています。

令和4年1月1日施行となります。

 

2.電子帳簿保存法とは

 

(1)法律の概要

 

各税法で原則紙での保存が義務づけられている帳簿書類について一定の要件を満たした上で電磁的記録(電子データ)による保存を可能とすること及び電子的に授受した取引情報の保存義務等を定めた法律です。

 

(2)電磁的記録による保存

 

電子帳簿保存法上、電磁的記録による保存は、大きく3種類に区分されています。

 

①電子帳簿等保存

電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存

 

②スキャナ保存

紙で受領・作成した書類を画像データで保存

 

③電子取引

電子的に授受した取引情報をデータで保存

 

 

3.「電子帳簿等保存」に関する改正事項

 

(1)税務署長の事前承認制度の廃止

 

①これまで、電子的に作成した国税関係帳簿を電磁的記録により保存する場合には、事前に税務署長の承認が必要でしたが、事業者の事務負担を軽減するため、事前承認は不要とされました。

電子的に作成した国税関係書類を電磁的記録により保存する場合についても同様です。

 

②令和4年1月1日以後に備え付けを開始する国税関係帳簿又は保存を行う国税関係書類について適用されます。

 

③令和4年1月1日以後も改正前の要件を満たして保存等を行おうとする方が承認を受けようとする場合には、承認申請書を令和3年9月30日までに所轄税務署長宛提出することになります。スキャナ保存も同様です。

 

(2)優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の整備

 

①制度の概要

 

一定の国税関係帳簿について優良な電子帳簿の要件を満たして電磁的記録による備付け及び保存を行い、本措置の適用を受ける旨等を記載した届出書をあらかじめ所轄税務署長に提出している保存義務者について、その国税関係帳簿(優良な電子帳簿)に記録された事項に関し申告漏れがあった場合には、その申告漏れに課される過少申告加算税が5%軽減される措置が整備されました。申告漏れについて、隠蔽し、又は仮装された事実がある場合には、本措置の適用はありません。

 

②一定の国税関係帳簿

 

一定の国税関係帳簿とは、所得税法・法人税法に基づき青色申告者(青色申告法人)が保存しなければならないこととされる総勘定元帳、仕訳帳その他必要な帳簿(売掛帳や固定資産台帳等)又は消費税法に基づき事業者が保存しなければならないこととされている帳簿をいいます。

 

③「電子帳簿の保存要件の概要」の「優良」の要件を満たすものになります。

 

④令和4年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用されます。

 

(3)最低限の要件を満たす電子帳簿についても、電磁的記録による保存等が可能となりました。

 

正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って記録されるものに限られます。

「電子帳簿の保存要件の概要」の「その他」の要件を満たすものになります。

 

(4)電子帳簿の保存要件

 

国税庁作成パンフレットより転載

 

4.「スキャナ保存」に関する改正事項

 

(1)税務署長の事前承認制度の廃止

 

令和4年1月1日以後に行うスキャナ保存について適用されます。

 

(2)タイムスタンプ要件、検索要件等について、要件の緩和

 

①タイムスタンプの付与期間が、記録事項の入力期間と同様、最長約2か月と概ね7営業日以内とされました。

 

②受領者等がスキャナで読み取る際の国税関係書類への自署が不要とされました。

 

③電磁的記録について訂正又は削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認することができるクラウド等において、入力期間内にその電磁的記録の保存を行ったことを確認することができるときは、タイムスタンプの付与に代えることができることとされました。

 

④検索要件の記録項目について、取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先に限定されるとともに、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じる場合には、範囲指定及び項目を組み合わせて条件を設定できる機能の確保が不要となりました。

令和4年1月1日以後に行うスキャナ保存について適用されます。

 

(3)適正事務処理要件の廃止

 

相互けん制、定期的な検査及び再発防止策の社内規程整備等が適正事務処理要件でした。

令和4年1月1日以後に行うスキャナ保存について適用されます。

 

(4)スキャナ保存された電磁的記録に関連した不正があった場合の重加算税の加重措置の整備

 

適正な保存を担保するための措置として、スキャナ保存が行われた国税関係書類に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が 10%加重される措置が整備されました。

令和4年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用されます。

 

5.「電子取引」に関する改正事項

 

(1)タイムスタンプ要件及び検索要件についての要件の緩和

 

タイムスタンプ要件に係るタイムスタンプの付与期間及び検索要件に係る検索項目について「スキャナ保存に関する改正事項」と同趣旨の改正が行われたほか、基準期間の売上高が 1,000 万円以下である小規模な事業者について、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索要件の全てが不要とされました。

 

「基準期間」とは、個人事業者については電子取引が行われた日の属する年の前々年の 1 月 1 日から 12 月 31 日までの期間をいい、法人については電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度をいいます。

 

(2)適正な保存を担保する措置の見直し

 

①申告所得税及び法人税における電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、その電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置は、廃止されました。

 

消費税における電子取引の取引情報等に係る電磁的記録については、引き続き出力書面による保存が可能です。

 

②電子取引の取引情報に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が 10%加重される措置が整備されました。

 

(3)電子取引の保存要件

 

①真実性の要件

 

以下の措置のいずれかを行うこと

 

(ⅰ)タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う

 

(ⅱ)取引情報の授受後、速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに) タイ厶スタンプを付すとともに、保辩行う者又は監督者に関する倩報を確認できるようにしておく

 

(ⅲ)記録事項の訂正•削除を行った場台に、これらの事実及び内容を確認できるシステム又は記録事項の訂正•削除を行うことができないシステムで取引情報の授受及び保存を行う

 

(ⅳ)正当な理由がない訂正•削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う

 

②可視性の要件

 

(ⅰ)保存場所に、電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、画面•書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと

 

(ⅱ)電子計算機処理システ厶の概要書を備え付けること

 

(ⅲ)検索機能を確保すること

保存義務者が小規模な事業者でダウン□ードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索機能は不要です。

企業の損益・ビジネス・システムにも影響を与える「適格請求書等保存方式」インボイス制度

1. 概要

 

2023年10月1日から、複数税率に対応した消費税の仕入れ税額控除の方式として「適格請求書等保存方式」(いわゆるインボイス制度)が導入されます。

 

税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」(いわゆるインボイス)等の保存が、仕入れ税額控除の要件となります。

 

2.適格請求書とは

 

(1)「売り手が、買い手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」です。

 

(2)一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類をいいます。

 

3.適格請求書発行事業者登録制度

 

(1)適格請求書を交付できるのは、「適格請求書発行事業者」に限られます。

 

(2)「適格請求書発行事業者」になるには、税務署長に登録申請書を提出し、登録を受ける必要があります。

 

(3)適格請求書発行事業者の登録

 

①登録申請をすることができる者

適格請求書発行事業者の登録を受けることができるのは、課税事業者に限られます。

 

②登録手続き

適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者は、納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出する必要があります。

 

登録申請書の提出を受けた税務署長は、登録拒否要件に該当しない場合には、適格請求書発行事業者登録簿に法定事項を登載して登録を行い、登録を受けた事業者に対して、その旨を書面で通知することとされています。

 

登録の効力は、通知の日にかかわらず、適格請求書発行事業者登録簿に登録された日に発生します(2023年10月1日より前に登録の通知を受けた場合であっても、登録日は2023年10月1日となります)。

 

③登録番号

登録番号の構成は、法人であれば『「T」+法人番号(数字13桁)』、個人事業者であれば『「T」+数字13桁(マイナンバーではない番号)』となります。

 

④適格請求書発行事業者登録簿

適格請求書発行事業者登録簿の登載事項(事業者名および登録番号等)については、インターネットを通じて、国税庁のウェブサイトにおいて公表されます。

公表事項の閲覧を通じて、交付を受けた請求書等の作成者が適格請求書発行事業者に該当するかを確認することができます。

 

4. 適格請求書発行事業者の義務等(売り手側)

 

(1)適格請求書の交付義務及び交付した適格請求書の写しの保存義務

 

適格請求書発行事業者には、一定の場合を除き取引の相手方(課税事業者に限ります)からの求めに応じて適格請求書を交付する義務及び交付した適格請求書の写しを保存する義務が課されています。

 

なお、適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付に代えて、適格請求書に係る電磁的記録により提供することができます。

 

(2)適格請求書の記載事項

 

適格請求書発行事業者は、以下の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類を交付しなければなりません。

 

 

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

② 取引年月日

③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)

④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込)及び適用税率

⑤消費税額等(端数処理は一請求書あたり、税率ごとに1回ずつ)

⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 

 

なお、切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理の方法については、任意の方法とすることができます。一つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額等を計算し1円未満の端数処理を行い、その合計額を消費税額等として記載することは認められません。

 

(3)適格簡易請求書

 

不特定多数の者に対して販売等を行う小売業、飲食店業、タクシー業等については、記載事項を簡易なものとした「適格簡易請求書」を交付することができます。

 

適格簡易請求書の記載事項は、上記①から⑤となります。ただし、「消費税額等」、「適用税率」はいずれか一方の記載で足ります。⑥の「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載は不要です。

 

(4)適格請求書の交付免除

 

適格請求書を交付することが困難な取引は、適格請求書の交付義務が免除されます。

 

公共交通機関であるバスや鉄道による旅客の運送で3万円未満のもの、自動販売機により行われる課税資産の譲渡等で3万円未満のもの、郵便切手を対価とする郵便サービス(郵便ポストに差し出されたもの)などが該当します。

 

5.適格請求書等保存方式における仕入税額控除の要件(買い手側)

 

適格請求書等保存方式の下では、一定の場合を除いて、一定の事項を記載した帳簿及び請求書等の保存が仕入れ税額控除の要件となります。

 

(1)帳簿の記載事項

 

保存が必要となる帳簿の記載事項は以下の通りです。

 

① 課税仕入れの相手方の氏名又は名称

② 取引年月日

③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)

④ 対価の額

 

(2)請求書等の範囲

 

保存が必要となる請求書等には、以下のものが含まれます。

 

① 適格請求書又は適格簡易請求書

② 仕入明細書等(適格請求書の記載事項が記載されており、相手方の承認を受けたもの)

③ 卸売市場において委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食料品等の譲渡及び農業協同組合等が委託を受けて行う農林水産物の譲渡について、委託者から交付を受ける一定の書類

④ ①から③の書類に係る電磁的記録

 

(3)帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合

 

請求書等の交付を受けることが困難な取引は、帳簿のみの保存で仕入れ税額控除が認められます。

 

適格請求書の交付義務が免除される取引、適格簡易請求書の記載事項を満たす入場券等が、使用の際に回収される取引、従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当等に係る課税仕入れなどの取引が該当します。

 

6.税額計算の方法

 

2023年10月1日以降の売上税額及び仕入税額の計算は、次の①又は②を選択することができます。

 

①適格請求書に記載のある消費税額等を積み上げて計算する「積上げ計算」

 

②適用税率ごとの取引総額を割り戻して計算する「割戻し計算」

 

但し、売上税額を「積上げ計算」により計算する場合には、仕入れ税額も「積上げ計算」により計算しなければなりません。

なお、売上税額について「積上げ計算」を選択できるのは、適格請求書発行事業者に限られます。

 

 

(1)売上税額の計算方法

 

①割戻し計算

原則として、課税期間中の課税資産の譲渡等の税込金額の合計額に110分の100(軽減税率の対象となる場合は108分の100)を掛けて計算した課税標準額に7.8%(軽減税率の対象となる場合は6.24%)を掛けて算出します。

 

②積上げ計算

交付した適格請求書及び適格簡易請求書の写し(電磁的記録により提供したものも含む)を保存している場合に、そこに記載された税率ごとの消費税額等の合計額に100分の78を乗じて計算した金額とすることもできます。

 

③留意事項

なお、売上税額の計算は、取引先ごとに割戻し計算と積上げ計算を分けて適用するなど、併用することも認められます。

併用した場合であっても売上税額の計算につき積上げ計算を適用した場合に当たるため、仕入税額の計算方法に割戻し計算を適用することはできません。

 

(2)仕入税額の計算方法

 

適格請求書等保存方式における仕入税額の計算方法は、上記(1)の売上税額と同様に積上げ計算と割戻し計算が認められています。

 

①積上げ計算

ⅰ)請求書等積上げ計算

原則として、交付された適格請求書などの請求書等に記載された消費税額等のうち課税仕入れに係る部分の金額の合計額に100分の78を掛けて算出します。

 

ⅱ)帳簿積上げ計算

これ以外の方法として、課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となる場合は108分の8)を乗じて算出した金額(1円未満の端数が生じたときは、端数の切捨て又は四捨五入)を仮払消費税として、帳簿に記載している場合は、その金額の合計額に100分の78を掛けて算出する方法も認められます。

 

なお、仕入税額の計算に当たり、請求書等積上げ計算と帳簿積上げ計算を併用することも認められますが、これらの方法と割戻し計算を併用することは認められません。

 

②割戻し計算

課税期間中の課税仕入れに係る支払対価の額を税率ごとに合計した金額に110分の7.8(軽減税率の対象となる部分については108分の6.24)を掛けて算出することができます。

ただし、仕入税額を割戻し計算することができるのは、売上税額を割戻し計算する場合に限ります。

 

7. 免税事業者からの仕入れに係る経過措置

 

適格請求書等保存方式の導入後は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れは、原則として、仕入税額控除を行うことができません。

ただし、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等及びこの経過措置の規定の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存している場合には、一定の期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置が設けられています。

 

経過措置を適用できる期間等は、23年10月1日から29年9月30日までの6年間となっており、最初の3年間について仕入税額相当額の80%の金額を、次の3年間についての仕入税額相当額の50%の金額を仕入税額として控除することができます。

 

「経過措置の規定の適用を受ける旨」の記載については、個々の取引ごとに「80%控除対象」、「免税事業者からの仕入れ」などと記載する方法のほか、例えば、本経過措置の適用対象となる取引に、特定の記号・番号等を表示し、かつ、これらの記号・番号等が「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を別途表示する方法が認められています。

実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の公表

2021年8月12日に企業会計基準委員会は、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、「本実務対応報告」という。)を公表しました。

 

Ⅰ 公表の経緯

 

2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号) において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされました。

 

連結納税制度を適用する場合の会計処理及び開示については、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その:1)」(以下「実務対応報告第5号」という。)及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下「実務対応報告第7号」といい、実務対応報告第 5号と合わせて「実務対応報告第5号等」という。)を定めていますが、グループ通算制度への移行に伴い、グループ通算制度を適用する場合における法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを定める必要が生じたことから、企業会計基準委員会において審議を行い、公表に至ったものです。

 

また、本実務対応報告の理解のために、別紙として次の内容が用意されています。

(1)別紙1「グループ通算制度を適用する場合の税額計算の概要」

(2)別紙2「実務対応報告第5号及び第7号の取扱いと本実務対応報告における取扱いの関係」

 

1.グループ通算制度導入の理由

 

現行の連結納税制度は、企業グループ全体を1つの納税主体とする制度です。

各法人の所得金額と欠損金額を合算(損益通算)して計算した連結所得金額に、親法人の適用税率を乗じ、各種税額控除等を行って連結法人税が計算されます。

 

損益通算のほか、グループ全体の特定繰越欠損金以外の繰越欠損金の合計額を連結納税会社の損金算入限度額の比で配分した金額を、連結納税会社において損金に算入される欠損金の通算等をグループ全体で行うことで、単体納税に比べてグループ全体の法人税額が減少する効果が期待されます。

 

しかし、連結納税制度については、税額計算の煩雑さや、誤りが生じた場合にグループ全体の再計算が必要であり、税務調査後の修更正に期間を要するというデメリットがありました。

 

損益通算等のメリットを残しつつ、制度の簡素化を図るため、グループ通算制度へ移行することとなりました。

 

2.グループ通算制度の概要

 

グループ通算制度の概要は、以下のようになっています。

国税庁パンフレット「グループ通算制度の概要(令和2年4月)」より抜粋

 

Ⅱ 本実務対応報告の概要

 

以下は、本実務対応報告の内容を要約したものになります。

 

1.範囲(本実務対応報告第3項並びに第37項及び第38項)

 

(1)適用範囲

 

本実務対応報告は、グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとしています。

 

(2)通算会社間での金銭等の授受

 

通算会社が申告納付を行う税額は、通算前所得に対して通算グループ内の他の通算会社との損益通算や欠損金の通算を行った後の課税所得を基に算定されたものであり、当該通算等による税額の減少額を通算税効果額として、通算会社間で金銭等の授受が行われることが想定されています。ただし、授受を行うか否かは任意となっています。

 

また、通算税効果額の授受を行わない場合の取扱いの検討には一定の困難性があるものと考えられますので、本実務対応報告においては通算税効果額の授受を行うことを前提として会計処理及び開示を定めて、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含め取り扱わないこととしています。

 

2.実務対応報告第5号等との関係(本実務対応報告第39項から第41項)

 

(1)基本的な方針

 

基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号等の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲することとしています。

 

(2)踏襲する取扱い

 

踏襲する取扱いは次のとおりです。

 

①法人税及び地方法人税に関する会計処理

・通算税効果額の取扱い(本実務対応報告第7項並びに第43項及び第44項)

 

②税効果会計に関する会計処理

・住民税及び事業税の取扱い(本実務対応報告第8項なお書き及び第45項)

・繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率(本実務対応報告第9項並びに第48項及び第49項)

・個別財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性(本実務対応報告第10項から第13項及び第50項から第52項)

・連結財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性(本実務対応報告第14項から第17項及び第53項)

・未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い(本実務対応報告第18項及び第54項)

・投資簿価修正に関する取扱い(本実務対応報告第19項及び第20項並びに第55 項)

・適用時、加入時及び離脱時の取扱い(本実務対応報告第21項から第23項及び第 56項)

 

③開示(表示)

・法人税及び地方法人税に関する表示(本実務対応報告第24項及び第25項並びに第57項及び第58項)

・個別財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負債の表示(本実務対応報告第26項及び第59項)

・連結財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負債の表示(本実務対応報告第27項及び第60項)

 

(3)グループ通算制度に特有の会計処理及び開示

 

本実務対応報告においては、本実務対応報告に定めのあるものを除き法人税等会計基準又は税効果会計基準等の定めに従うこととし、グループ通算制度に特有の会計処理及び開示のみを示すこととしています。

 

申告手続以外にも税法の取扱いが連結納税制度から改正されている点がありますが、これらのうち本実務対応報告に定めのないものについては法人税等会計基準又は税効果会計基準等の定めに従うこととしています。

 

3.会計処理

 

(1)法人税及び地方法人税に関する会計処理(本実務対応報告第6項及び第7項並びに第 42項から第44項)

 

①通算税効果額の取扱い(本実務対応報告第7項並びに第43項及び第44項)

 

グループ通算制度における通算税効果額は、グループ通算制度を適用したことによる税額の減少額であり、法人税に相当する金額であるとされています。

 

そのため、本実務対応報告では、通算税効果額についても、連結納税制度における個別帰属額の取扱いを踏襲し、個別財務諸表における損益計算書において、当事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととしています。

 

(2)税効果会計に関する会計処理(本実務対応報告第8項から第23項及び第45項から第 56項)

 

①税効果会計を適用する上での会計処理の単位(本実務対応報告第46項及び第47項)

 

グループ通算制度においては、各通算会社が納税申告を行うことから、「納税申告書の作成主体」は各通算会社となりますが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは連結納税制度と同様であるとされており、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられます。

 

そのため、本実務対応報告では、連結財務諸表においては、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位」に対して、税効果会計を適用することとしています。

 

4.開示

 

(1)表示(本実務対応報告第24項から第27項及び第57項から第60項)

 

①個別財務諸表における通算税効果額に係る表示(本実務対応報告第24項及び第25項並びに第57項及び第58項)

 

本実務対応報告では、グループ通算制度における通算税効果額について法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととしていることから、連結納税制度における個別帰属額の取扱いを踏襲し、通算税効果額は、法人税及び地方法人税を示す科目に含めて、個別財務諸表における損益計算書に表示することとしています。

 

また、グループ通算制度における通算税効果額に係る債権及び債務の表示についても、連結納税制度における個別帰属額に係る債権及び債務の取扱いを踏襲し、未収入金や未払金などに含めて個別財務諸表における貸借対照表に表示することとしています。

 

②繰延税金資産及び繰延税金負債に関する表示(本実務対応報告第26項及び第27項並びに第59項及び第60項)

 

a)個別財務諸表における表示(本実務対応報告第26項及び第59項)

 

本実務対応報告では、個別財務諸表においては、通算会社で計上した繰延税金資産及び繰延税金負債について、税効果会計基準等の定めに従って、同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺して表示し、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺せずに表示することとしています。

 

b)連結財務諸表における表示(本実務対応報告第27項及び第60項)

 

グループ通算制度においては、通算会社は異なる納税主体となりますが、連結財務諸表においては通算グループ全体に対して税効果会計を適用することとしていることから、連結納税制度における取扱いを踏襲し、法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債について、通算グループ全体の繰延税金資産の合計と繰延税金負債の合計を相殺して、連結貸借対照表の投資その他の資産の区分又は固定負債の区分に表示することとしています。

 

(2)注記事項(本実務対応報告第28項から第30項及び第61項から第64項)

 

①本実務対応報告の適用に関する注記(本実務対応報告第28項及び第61項)

 

実務対応報告第5号では、連結納税制度を適用した場合又は取りやめた場合における最初の連結財務諸表及び個別財務諸表においてその旨を注記することが適当であると考えられるとしていましたが、実務においては、多くの企業が適用初年度のみならず、その後の年度においても、重要な会計方針に連結納税制度を適用している旨の注記を行っていました。

 

グループ通算制度においても、適用開始から取りやめまでの期間において適用していることを示すことが、財務諸表利用者にとって有用となると考えられるため、グループ通算制度を適用した場合又は取りやめた場合に加えて、本実務対応報告により法人税及び地方法人税の会計処理又はこれらに関する税効果会計の会計処理を行っている場合には、その旨を税効果会計に関する注記の内容とあわせて注記することとしています。

 

②税効果会計に関する注記(本実務対応報告第29項及び第62項)

 

本実務対応報告では、連結財務諸表及び個別財務諸表における税効果会計基準第四及び企業会計基準第28号第3項に定める繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳等の注記について、その内訳を税金の種類ごとに注記する必要はないとする連結納税制度における取扱いを踏襲し、法人税及び地方法人税と住民税及び事業税を区分せずに、これらの税金全体で注記することとしています。

 

③個別財務諸表における繰延税金資産に関する注記(本実務対応報告第63項)

 

連結納税制度では、連結納税親会社の個別財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の計上額が、連結財務諸表における回収可能見込額を大幅に上回り、その上回る部分の金額に重要性がある場合には、連結納税親会社の個別財務諸表に追加情報として注記することが必要になるとしていました。

この点については、連結納税制度が導入されてから十数年が経過し仕組みが周知されていると考えられることから、グループ通算制度においては、当該注記は不要であると考えられ、連結納税制度における取扱いを踏襲せず、特段の定めを置かないこととしています。

 

④連帯納付義務に関する注記(本実務対応報告第30項及び第64項)

 

連結納税制度では子会社が親会社の債務に対する連帯納付義務を負っているのに対して、グループ通算制度では通算子会社だけではなく通算親会社も連帯納付義務を負っている点などの相違があるものの、連帯納付義務は制度に内在する義務でありグループ通算制度を適用している旨を注記することとしていることから、別途偶発債務としての注記を行う有用性は高くないと考えられ、連帯納付義務について偶発債務としての注記を要しないこととしています。

 

5. 適用時期等(本実務対応報告第31項から第34項及び第65項から第69項)

 

(1)適用時期(本実務対応報告第31項並びに第65項及び第66項)

 

①原則適用(本実務対応報告第31項及び第65項)

 

税法においては2022年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度が適用されることを考慮し、原則適用の時期として、2022年4月 1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとしています。

 

②早期適用(本実務対応報告第31項ただし書き及び第66項)

 

税効果会計に関する会計処理及び開示については、より早期に企業の実態を適切に反映させる観点から、2022年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の期末の連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができることとしています。

 

なお、十分な周知期間を確保することや、年度内における首尾一貫性を確保することから、四半期会計期間からの早期適用は認めないこととしています。

 

(2)経過措置(本実務対応報告第32項並びに第67項及び第68項)

 

①連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合(本実務対応報告第32項(1)及び第67項)

 

連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合においては、税制の変更による影響と会計方針の変更による影響があると考えられますが、会計方針の変更による影響については、本実務対応報告は実務対応報告第5号等の会計上の取扱いを踏襲しており、会計方針の変更によって重要な影響は生じないと考えられることから、会計方針の変更による影響はないものとみなすこととし、当該定めを一律に適用することとしています。

 

また、会計方針の変更に関する注記は要しないこととしています。

 

なお、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下「実務対応報告第39号」という。)の特例的な取扱いを採用している企業について、本実務対応報告の適用前においては税制の変更による影響が考慮されておらず、本実務対応報告の適用によって考慮することになることから、適用時において、税制の変更による影響を損益等として計上することとなります。

 

②単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合(本実務対応報告第32項(2)及び第68項)

 

単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合について、通常の適用時の取扱いでは、グループ通算制度の適用の承認があった日を含む年度から、翌事業年度よりグループ通算制度を適用するものとして、税効果会計を適用することとしていますが、税法におけるグループ通算制度への移行が行われる年度においては一定の準備期間を要すると考えられることから、当該定めによらず、原則適用及び早期適用の定めに従うこととしています。

 

(3)連結納税制度から単体納税制度に移行する場合(本実務対応報告第33項及び第69項)

 

連結納税制度から単体納税制度に移行する場合は、税効果会計基準等の原則的な取扱いに従って会計処理を行うことなどから特段の準備期間は不要と考えられ、グループ通算制度を適用しない旨の届出書を提出した日の属する会計期間(四半期会計期間を含む。)から、2022年4月1日以後最初に開始する事業年度より単体納税制度を適用するものとして税効果会計を適用することとしています。

 

(4)実務対応報告第5号等及び実務対応報告第39号の廃止(本実務対応報告第34項)

 

実務対応報告第5号等及び実務対応報告第39号については、本実務対応報告の適用により、当該実務対応報告を適用する企業が存在しなくなった段階で廃止することとしています。

 

外国子会社合算課税制度とは~タックスヘイブン対策税制の仕組みと考え方

1.外国子会社合算課税制度とは

 

わが国の内国法人等が、実質的活動を伴わない外国子会社等を利用する等により、わが国の税負担を軽減・回避する行為に対処するため、外国子会社等がペーパー・カンパニー等である場合又は経済活動基準のいずれかを満たさない場合には、その外国子会社等の所得に相当する金額について、内国法人等の所得とみなし、それを合算して課税(会社単位での合算課税)する制度です。

 

2.平成29年度改正後の外国子会社合算税制の概要

 

(1)平成29年度改正前との比較

 

(2)外国子会社合算税制の仕組み

 

国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」より

 

3.ペーパー・カンパニー等の特定外国関係会社について

 

(1)特定外国関係会社の定義

 

平成29年度改正後の本制度では、次に掲げる外国関係会社は受動的所得しか得ていないような租税回避リスクの高い外国関係会社であるため特定外国関係会社と定義し、会社単位で合算課税の対象とすることとされています。

 

①活動の実体がない外国関係会社(ペーパー・カンパニー)

 

②総資産に比して「受動的所得」の占める割合が高い外国関係会社(事実上のキャッシュ・ボックス)

 

③情報交換に関する国際的な取組への協力が著しく不十分な国等(ブラック・リスト国)に所在する外国関係会社

 

ただし、この類型に該当する場合であっても、租税負担割合が30%以上であるときには、適用除外とされています。

 

国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」より

 

(2)ペーパー・カンパニー

 

ペーパー・カンパニーとは、実体基準及び管理支配基準等のいずれにも該当しない外国関係会社をいいます。

ペーパー・カンパニーについては、特定外国関係会社に該当するものとして 会社単位で合算課税の対象とすることとされています。

 

①ペーパー・カンパニーの判定における実体基準について

 

判定基準の一つである実体基準は、対象外国関係会社を判定する際の経済活動基準おける実体基準と同様に、独立した企業としての活動の実体を有するのかを判定する基準となっています。

 

この実体基準の内容は、外国関係会社が主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設の存在という物的な側面から独立した企業としての活動の実体を有するのかを判定するものです。

 

ここでいう固定施設とは、単なる物的設備ではなく、そこで人が活動することを前提とした概念であるため、外国関係会社の事業活動を伴った物的設備である必要があります。

 

外国関係会社が有する固定施設が主たる事業を行うに必要と認められるかは、主たる事業の業種や業態に応じてその態様は異なるものであるため、その主たる事業の内容、その事業に係る活動の内容などから個別に判断することとなります。

 

なお、実体基準は、主たる事業を行うために必要と認められる固定施設が「有る」か「無い」かによって判定しますので、外国関係会社が固定施設について所有権を有する必要は無く、賃借により使用している場合であっても固定施設を有していることになります。

 

さらに、主たる事業が人の活動を要しない事業である場合には、主たる事業を行うに必要と認められる固定施設は有していないこととなります。

 

この実体基準と下記の管理支配基準のいずれも満たさず、ペーパー・カンパニーから除かれる一定の持株会社等にも該当しない場合には、特定外国関係会社に該当し、租税負担割合が20%以上であっても、会社単位での合算課税の対象となります。

 

②ペーパー・カンパニーの判定における管理支配基準について

 

管理支配基準は、実体基準とともにペーパー・カンパニーを判定するための基準の一つであり、対象外国関係会社を判定する際の経済活動基準における管理支配基準と同様に、会社の機能面から独立した企業としての実体があるかを判定する基準です。

 

この管理支配基準は、外国関係会社が本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていることが要件となっています。

 

管理支配基準における「自ら」行うということは、外国関係会社が事業の管理•支配•運営を自ら行うことを意味するものであることから、その行為の結果と責任等が外国関係会社自らに帰属することであると考えられます。

 

役員が責任を負い、裁量をもって事業を執行しているのであれば、外国関係会社はその活動に対する報酬を負担するのが通常であると考えられます。

そのため、外国関係会社からの報酬の支払いが認められない場合には、役員が責任を負い、裁量をもって事業を執行していることの証明には乏しく、ひいては外国関係会社自らが事業の管理、支配及び運営を行っていないと判断される重要な要素となりえます。

 

この管理支配基準と実体基準のいずれも満たさず、ペーパー・カンパニーから除かれる一定の持株会社等にも該当しない場合には、特定外国関係会社に該当し、租税負担割合が20%以上であっても、会社単位での合算課税の対象となります。

 

③ペーパー・カンパニー等の整理に伴う一定の株式譲渡益の免除特例について

 

平成30年度改正において、外国企業を買収した場合に、その傘下に存在するペーパー・カンパニー等の整理に当たって生ずる一定の株式譲渡益について、適用対象金額の計算上控除する措置が講じられました。

 

具体的には、特定外国関係会社又は対象外国関係会社(その発行済株式等の全部又は一部が親法人である内国法人に直接保有されている子法人を除きます。以下「ペーパー•カンパニー等」といいます。) の各事業年度における特定部分対象外国関係会社株式等の特定譲渡に係る譲渡利益額はそのペーパー•カンパニー等の適用対象金額の計算上、控除することとされています。

 

ここで、特定部分対象外国関係会社株式等とは、そのペーパー•カンパニー等に係る居住者等株主等の持株割合が50%を超えることとなった場合(そのペーパー•カンパニー等が設立された場合を除きます。) のその超えることとなった日(以下「特定関係発生日」といいます。) にそのペーパー•カンパニー等が有する部分対象外国関係会社に該当する外国法人の株式等をいうこととされています。

 

また、特定譲渡とは、次に掲げる要件の全てに該当する特定部分対象外国関係会社株式等の譲渡をいうこととされています。

 

a)譲渡先要件

 

親会社である内国法人等又は他の部分対象外国関係会社への譲渡

 

b)期間要件

 

ア)特定関係発生日から原則として2年を経過する日までの期間内の日を含む事業年度に行う譲渡

イ)現地の法令等により上記期間内の譲渡が困難である場合には、特定関係発生日から5年を経過する日までの期間内の日を含む事業年度に行う譲渡

 

c)解散等要件

 

次のいずれかに該当すること

 

ア)清算中のペーパー・カンパニー等が行う譲渡

イ)譲渡日から2年以内にそのペーパー・カンパニー等の解散が見込まれること

ウ)譲渡日から2年以内に非関連者がそのペーパー・カンパニー等の発行済株式等の全部を有すると見込まれること

 

d)統合計画書要件

 

次に掲げる事項を記載した計画書に基づいて行われる譲渡であること

 

ア)居住者等株主等の持株割合等が50%超とする目的

イ)上記の目的を達成するための基本方針

ウ)上記の目的を達成するために行う組織再編成に係る基本方針

エ)上記の目的を達成するために行う組織再編成の内容及び実施時期

オ)その他参考となるべき事項

 

e)特定事由非該当要件

 

特定部分対象外国関係会社株式等を発行した外国法人の合併、分割、解散その他の事由に伴って、当該ペーパー・カンパニー等において生ずる譲渡でないこと

 

④ペーパー・カンパニーに該当しないこととされる一定の持株会社等について

 

いくつかの国では、商慣行等の理由により、国内で事業を行う場合に、事業の遂行上欠くことのできない機能ごとに事業体を細分化し、固定施設や人員を有しない子会社にこれらの機能を担わせて事業を実施することが一般的とのことです。

このような事業実態を踏まえ、令和元年度税制改正において、現地の経済実体のある会社と一体となって活動し、事業の遂行上欠くことのできない機能を果たし、保有する資産や生ずる所得の状況から租税回避リスクが限定的であると考えられる等の一定の外国関係会社については、ペーパー•カンパニーに該当しないこととする措置が講じられました。

 

特定子会社の株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社で、次の要件の全てに該当する外国関係会社は、ペーパー・カンパニーに該当しないこととされています。

 

a)被管理支配要件

 

その事業の管理、支配及び運営が管理支配会社によって行われていること。

また、その事業を的確に遂行するために通常必要と認められる業務の全てが、その本店所在地国において、管理支配会社の役員又は使用人によって行われていること

 

b)不可欠機能要件

 

管理支配会社の行う事業(当該管理支配会社の本店所在地国において行うものに限る。) の遂行上欠くことのできない機能を果たしていること

 

c)所在地国要件

 

その本店所在地国を管理支配会社の本店所在地国と同じくすること

 

d)課税要件

 

その所得がその本店所在地国で課税対象とされていること

 

e)収入割合要件

 

各事業年度の収入金額の合計額のうちに占める特定子会社から受ける剰余金の配当等の額、特定子会社の株式等の譲渡に係る対価の額及び主たる事業に係る業務の通常の過程において生ずる預金又は貯金の利子の額の合計額の割合が95%を超えていること

 

f)資産割合要件

 

各事業年度終了の時における貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額のうちに占める特定子会社の株式等の帳簿価額、未収金の帳簿価額及び現預金の帳簿価額の合計額の割合が95%を超えていること

 

(3)事実上のキャッシュ・ボックス

 

総資産の額に対する一定の受動的所得の割合が、30%を超える外国関係会社をいいます。

ただし、総資産の額に対する一定の資産の割合が50%を超えるものに限ります。

 

受動的所得とは、配当等、利子等、有価証券の貸付対価、有価証券の譲渡損益、デリバティブ取引損益、外国為替差損益、その他の金融所得、保険所得、固定資産の貸付対価、無形資産等の使用料、無形資産等の譲渡損益等をいいます。

 

(4)ブラック・リスト国所在外国関係会社

 

情報交換に関する国際的な取り組みへの協力が著しく不十分な国・地域に本店を有する外国関係会社を言います。著しく不十分な国・地域は財務大臣が指定します。

 

 

3.経済活動基準

 

下記の基準のいずれかを満たさない場合、会社単位での合算課税となります。

 

(1)事業基準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)

 

(2)実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること)

 

(3)管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)

 

(4)次のいずれかの基準

 

① 所在地国基準 (主として本店所在地国で主たる事業を行っていること)

※ 下記以外の業種に適用

 

② 非関連者基準 (主として関連者以外の者と取引を行っていること)

※ 卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業、航空機貸付業の場合に適用

 

4.受動的所得

 

外国子会社等が経済活動基準を全て満たす場合であっても、実質的活動のない事業から得られる所得(いわゆる受動的所得)については、内国法人等の所得とみなし、それを合算して課税(受動的所得の合算課税)されます。

 

5.適用免除

 

事務負担に配慮し、外国子会社等の租税負担割合が一定(ペーパー・カンパニー等は30%、それ以外の外国子会社等は20%)以上の場合には本税制の適用が免除されます。

 

「倫理規程における非保証業務に関連する規定の改訂」~国際国際会計士倫理基準審議会による公表

2021年4月28日に、国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants: IESBA)から、「倫理規程における非保証業務に関連する規定の改訂」が公表されました。

本規定の改訂は、非保証業務の提供に関する規定をグローバルで適用することを通じて強固で高品質なものとすることにより、監査事務所の独立性に対する信頼を向上させることを目的とするものです。

 

1.改訂の背景

 

本規定の改訂は、規制当局や公益監視委員会(PIOB)からの要請により、2018 年9月から具体的な検討が開始されました。

規制当局等からは、監査業務の依頼人に対して非保証業務を提供する際の監査人の独立性に関して、幅広い懸念が提起されました。

こうした懸念を受け、IESBAは、各国における独立性に関する規制の状況も踏まえ、規定の改訂について検討を進めてきました。

本規定は、このような経緯を経て改訂されたものです。

 

2.改訂規定の概要

 

監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供により、独立性を阻害する自己レビュー等の阻害要因が生じ得ることから、改訂前の規定においても、禁止事項を含む様々なガイダンスが定められていました。

 

改訂規定では、自己レビューの阻害要因を生じさせる可能性のある非保証業務を大会社等である監査業務の依頼人に提供することの全面禁止や、非保証業務の提供に際しての統治責任者からの了承等、規定の強化が図られています。

 

具体的な改訂の内容は、以下のようになっています。

 

(1)自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供禁止

 

①新要求事項

 

監査業務の依頼人が大会社等である場合、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務を提供してはならないとする要求事項が新設されています。

これによって、これまでは、重要性の判断や非保証業務に従事した者を監査業務に関与させないなどのセーフガードの適用により提供が認められていた業務が禁止されることとなります。

 

②提供の可否の判断

 

監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供に先立って、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、非保証業務を提供する際、自己レビューの阻害要因が生じる可能性があるかどうかについて、次の(a)及び(b)のリスクがあるかどうかを評価することにより判断しなければなりません。

 

(a)非保証業務の結果が、会計記録、財務報告に係る内部統制又は監査意見の対象となる財務諸表の一部を構成する、又はそれらに影響を及ぼす。

 

(b)監査意見の対象となる財務諸表を監査する過程において、 会計事務所等又はネットワーク・ファームが非保証業務を実施する過程で行った判断や作業を、監査業務チームが評価する、又はそれらに依拠する。

 

(2)重要性

 

独立性に関する利害関係者の懸念が高まっていることを踏まえ、非保証業務の提供が規定上明確に禁止されている場合には、重要性の程度にかかわらず、非保証業務の提供が禁止されることになります。

 

(3)統治責任者とのコミュニケーション(監査業務の依顆人が大会社等の場合)

 

①統治責任者への情報提供

 

会計事務所等又はネットワーク・ファームが監査業務の依頼人である大会社等、その親会社又はその子会社に提供する非保証業務を受嘱する前に、以下の情報を提供しなければならないとする要求事頂が新設されています。

 

(a)提供する業務が禁止されておらず、かつ、独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準である、又は、そうでない場合、阻害要因が除去又は許容可能な水準にまで軽減されると会計事務所等が判断していること

 

(b)提供される業務が会計事務所等の独立性に与える影響について、統治責任者が十分な情報を得た上で評価するために必要な情報

 

②コミュニケーション項目の例示

 

・提供する非保証業務の内容及び範囲

 

・提案した報酬の根拠と金額

 

・提案した業務の提供によって生じる可能性がある独立性に対する阻害要因を識別した場合に、阻害要因が許容可能な水準であるかとする会計事務所等の評価の根拠、又は、許容可能な水準にない場合には、阻害要因を除去又は許容可能な水準にまで軽減させるために会計事務所等又はネットワーク・ファームが講じる対応策

 

・複数の業務を提供することにより生じる複合的な影響が独立性の阻害要因を生じさせるか、又は、既に織別している阻害要因の水準を変更させるかどうか

 

③統治責任者による了承

 

阻害要因の評価の結果、会計事務所等が同時提供可能と判断した業務について、統治責任者が以下の事項に了承 (Concur)しない限り、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、当該非保証業務を提供することができないとする要求事項が新設されています。

 

(a)提供する業務が独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準である、又は、そうでない場合は、阻害要因が除去又は許容可能な水準にまで軽減されるとする会針事務所等の結論

 

(b)当該業務を提供すること

 

④了承の方法

 

統治責任者による了承は、例えば、個別の契約ごとに行う方法や全般的な方針の下で行う方法等、会計事務所等が統治責任者との問で合意したプロセスによる場合があるとされており、樣々なガバナンス体制に対応できるよう、柔軟性が認められています。

 

⑤統治責任者による了承の例外

 

法令等により統治責任者への情報提供が禁止されている埸合、又は、機密情報の漏洩につながる場合には、以下の条件をもとに、会計事務所等は非保証業務を提供することが認められます。

 

(a)法令等に違反しない範囲で情報を提供すること

 

(b)業務の提供が独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準であること、又は、そうでない場合は、阻害要因を除去又は許容可能な水準にまで軽滅させることを統治責任者に伝えること

 

(c) (b)で下した会計事務所等の結論に、統治責任者が不同意を示さないこと

 

⑥非保証業務の辞退又は監査業務の終了

 

以下の(a)又は(b)のいずれかに該当する場合、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、非保証業務の提供を辞退するか、監査業務を終了しなければなりません。

 

(a)会計事務所等又はネットワーク・ファームが、統治責任者へ悄報提供することを一切認められない場合

 

(b)業務の提供が独立性に対する阻害要因を生じさせない、若しくは、識別された阻害要因が許容可能な水準である、又は、そうでない埸合は、阻害要因が除去又は許容可能な水準にまで経減されると会計事務所等が下した結論に統治責任者が不同意を示した場合

 

(4)会計及び記帳業務

 

①提供禁止業務

 

以下に掲げる会計及び記帳業務は、その業務の結果が、会計記録又は監査意見の対象となる財務諸表に影響を及ぼす場合に、自己レビューの阻害要因が生じるとして、監査業務の依頼 人には提供が禁止されています。

 

(a)会計記録又は財務諸表の作成

 

(b)取引の紀録

 

(c)給与計算業務

 

(d)勘定の調整に関する問題の解決

 

(e)既存の財務諸表を1つの会計基準から他の会計基準へ移行する業務

 

ただし、監査業務の依頼人が大会社等ではない場合は、その業務が定型的又は機械的な内容であり、かつ、会計事務所等が阻害要因に対処している場合は提供可能です。

 

②例外

 

例外的に、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、 経営者の責任を担わず、かつ、自己レビュー以外の阻害要因に対して概念的枠組みを適用することで、大会社等である監査業務の依頼人に対して、監査の過程で生じる事項に閲連して以下の助言や提言の提供を行うことが認められます。

 

(a)会計及び財務報告の基準又は方針及び財務諸表の開示に関する規則等の助言

 

(b)財務諸表及び関連する開示の計上額を決定するための財務又は会計統制及び方法の適切性に関する助言

 

(c)監査での発見事項に基づく修正仕訳の提案

 

(d)財務報告に係る内部統制及びプロセスに関する発見事項の協議及び改善事項の提案

 

(e)勘定の調整方法に関する協議

 

(f)グループの会計方針の遵守に関する助言

 

3.適用日

 

2022年12月15日以降に開始する事業年度の監査から適用されます。また、早期適用も認められます。

 

なお、移行措置として、2022年12月15日より前に締結し、既に着手した非保証業務については、当初の契約期間が完了するまでは、改訂前の規定に基づいて業務を継続することができるとされています。

 

4.日本への影響

 

(1)監査事務所への影響

 

①同時提供が可能となる非保証業務の縮小

 

監査業務の依頼人が大会社等である場合、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供が包括的に禁止されます。

 

また、監査業務の依頼人が大会社等以外である場合も、税務に関する助言及びタックス・プランニング業務やコーポレート・ファイナンスに関する助言業務が制限されています。

 

これまでは、重要性の判断やセーフガードの適用により同時提供していた非保証業務を提供できなくなる可能性があることから、会計事務所等及びネットワーク・ファームは影響を受けるものと考えられます。

特に、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供禁止については、影響があるものと考えられます。

 

②統治責任者(監査役等)による了承

 

監査業務の依頼人が大会社等の場合、非保証業務の提供が独立性に及ぼす影響について、統治責任者が十分な情報を得た上で意思決定を行うことができるように、会計事務所等が、非 保証業務の受嘱前に、非保証業務の内容や阻害要因の評価等に関する情報を提供し、統治責任者による了承を得るよう改訂されています。

 

会計事務所等においては、ネットワーク・ファームによって提供される非保証業務を含め、網羅的に情報を収集し、統治責任者に対し情報を提供するとともに、了承を得ることが求められます。

 

(2)企業への影響

 

①同時提供が可能となる非保証業務の縮小

 

同時提供が可能となる非保証業務が縮小すると、企業が監査人やそのネットワーク・ファームに依頼している非保証業務が、今後は依頼できなくなる可能性があります。

その場合には、監査人やそのネットワーク・ファーム以外に非保証業務を依頼しなければならなくなります。

 

② 統治責任者(監査役等)による了承

 

統治責任者は、会計事務所等から十分な情報を得た上で非保証業務の提供について了承することとなります。

そのため、大会社等である企業において、監査人やそのネットワーク・ファームから非保証業務の提供を受ける埸合には、統治責任者が了承するためのプロセスを構築する必要が生じるものと考えられます。

 

統治責任者においては、会計事務所等から得た情報をもとに、非保証業務に関する情報を検討し、了承することが求められるものと考えられます。

 

(3)今後の予定

 

既に、IESBAより改訂内容に関するウェビナーが開催され、 今秋には、適用ガイダンスが公表される予定です。

今後、日本公認会計士協会においても、これらの規定に関して、日本の倫理規則への導入の検討が行われる予定です。