実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の公表 | 社外財務部長 原 一浩
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実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の公表

実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の公表

2021年8月12日に企業会計基準委員会は、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、「本実務対応報告」という。)を公表しました。

 

Ⅰ 公表の経緯

 

2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号) において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされました。

 

連結納税制度を適用する場合の会計処理及び開示については、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その:1)」(以下「実務対応報告第5号」という。)及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下「実務対応報告第7号」といい、実務対応報告第 5号と合わせて「実務対応報告第5号等」という。)を定めていますが、グループ通算制度への移行に伴い、グループ通算制度を適用する場合における法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを定める必要が生じたことから、企業会計基準委員会において審議を行い、公表に至ったものです。

 

また、本実務対応報告の理解のために、別紙として次の内容が用意されています。

(1)別紙1「グループ通算制度を適用する場合の税額計算の概要」

(2)別紙2「実務対応報告第5号及び第7号の取扱いと本実務対応報告における取扱いの関係」

 

1.グループ通算制度導入の理由

 

現行の連結納税制度は、企業グループ全体を1つの納税主体とする制度です。

各法人の所得金額と欠損金額を合算(損益通算)して計算した連結所得金額に、親法人の適用税率を乗じ、各種税額控除等を行って連結法人税が計算されます。

 

損益通算のほか、グループ全体の特定繰越欠損金以外の繰越欠損金の合計額を連結納税会社の損金算入限度額の比で配分した金額を、連結納税会社において損金に算入される欠損金の通算等をグループ全体で行うことで、単体納税に比べてグループ全体の法人税額が減少する効果が期待されます。

 

しかし、連結納税制度については、税額計算の煩雑さや、誤りが生じた場合にグループ全体の再計算が必要であり、税務調査後の修更正に期間を要するというデメリットがありました。

 

損益通算等のメリットを残しつつ、制度の簡素化を図るため、グループ通算制度へ移行することとなりました。

 

2.グループ通算制度の概要

 

グループ通算制度の概要は、以下のようになっています。

国税庁パンフレット「グループ通算制度の概要(令和2年4月)」より抜粋

 

Ⅱ 本実務対応報告の概要

 

以下は、本実務対応報告の内容を要約したものになります。

 

1.範囲(本実務対応報告第3項並びに第37項及び第38項)

 

(1)適用範囲

 

本実務対応報告は、グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとしています。

 

(2)通算会社間での金銭等の授受

 

通算会社が申告納付を行う税額は、通算前所得に対して通算グループ内の他の通算会社との損益通算や欠損金の通算を行った後の課税所得を基に算定されたものであり、当該通算等による税額の減少額を通算税効果額として、通算会社間で金銭等の授受が行われることが想定されています。ただし、授受を行うか否かは任意となっています。

 

また、通算税効果額の授受を行わない場合の取扱いの検討には一定の困難性があるものと考えられますので、本実務対応報告においては通算税効果額の授受を行うことを前提として会計処理及び開示を定めて、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含め取り扱わないこととしています。

 

2.実務対応報告第5号等との関係(本実務対応報告第39項から第41項)

 

(1)基本的な方針

 

基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号等の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲することとしています。

 

(2)踏襲する取扱い

 

踏襲する取扱いは次のとおりです。

 

①法人税及び地方法人税に関する会計処理

・通算税効果額の取扱い(本実務対応報告第7項並びに第43項及び第44項)

 

②税効果会計に関する会計処理

・住民税及び事業税の取扱い(本実務対応報告第8項なお書き及び第45項)

・繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率(本実務対応報告第9項並びに第48項及び第49項)

・個別財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性(本実務対応報告第10項から第13項及び第50項から第52項)

・連結財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性(本実務対応報告第14項から第17項及び第53項)

・未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い(本実務対応報告第18項及び第54項)

・投資簿価修正に関する取扱い(本実務対応報告第19項及び第20項並びに第55 項)

・適用時、加入時及び離脱時の取扱い(本実務対応報告第21項から第23項及び第 56項)

 

③開示(表示)

・法人税及び地方法人税に関する表示(本実務対応報告第24項及び第25項並びに第57項及び第58項)

・個別財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負債の表示(本実務対応報告第26項及び第59項)

・連結財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負債の表示(本実務対応報告第27項及び第60項)

 

(3)グループ通算制度に特有の会計処理及び開示

 

本実務対応報告においては、本実務対応報告に定めのあるものを除き法人税等会計基準又は税効果会計基準等の定めに従うこととし、グループ通算制度に特有の会計処理及び開示のみを示すこととしています。

 

申告手続以外にも税法の取扱いが連結納税制度から改正されている点がありますが、これらのうち本実務対応報告に定めのないものについては法人税等会計基準又は税効果会計基準等の定めに従うこととしています。

 

3.会計処理

 

(1)法人税及び地方法人税に関する会計処理(本実務対応報告第6項及び第7項並びに第 42項から第44項)

 

①通算税効果額の取扱い(本実務対応報告第7項並びに第43項及び第44項)

 

グループ通算制度における通算税効果額は、グループ通算制度を適用したことによる税額の減少額であり、法人税に相当する金額であるとされています。

 

そのため、本実務対応報告では、通算税効果額についても、連結納税制度における個別帰属額の取扱いを踏襲し、個別財務諸表における損益計算書において、当事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととしています。

 

(2)税効果会計に関する会計処理(本実務対応報告第8項から第23項及び第45項から第 56項)

 

①税効果会計を適用する上での会計処理の単位(本実務対応報告第46項及び第47項)

 

グループ通算制度においては、各通算会社が納税申告を行うことから、「納税申告書の作成主体」は各通算会社となりますが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは連結納税制度と同様であるとされており、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられます。

 

そのため、本実務対応報告では、連結財務諸表においては、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位」に対して、税効果会計を適用することとしています。

 

4.開示

 

(1)表示(本実務対応報告第24項から第27項及び第57項から第60項)

 

①個別財務諸表における通算税効果額に係る表示(本実務対応報告第24項及び第25項並びに第57項及び第58項)

 

本実務対応報告では、グループ通算制度における通算税効果額について法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととしていることから、連結納税制度における個別帰属額の取扱いを踏襲し、通算税効果額は、法人税及び地方法人税を示す科目に含めて、個別財務諸表における損益計算書に表示することとしています。

 

また、グループ通算制度における通算税効果額に係る債権及び債務の表示についても、連結納税制度における個別帰属額に係る債権及び債務の取扱いを踏襲し、未収入金や未払金などに含めて個別財務諸表における貸借対照表に表示することとしています。

 

②繰延税金資産及び繰延税金負債に関する表示(本実務対応報告第26項及び第27項並びに第59項及び第60項)

 

a)個別財務諸表における表示(本実務対応報告第26項及び第59項)

 

本実務対応報告では、個別財務諸表においては、通算会社で計上した繰延税金資産及び繰延税金負債について、税効果会計基準等の定めに従って、同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺して表示し、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺せずに表示することとしています。

 

b)連結財務諸表における表示(本実務対応報告第27項及び第60項)

 

グループ通算制度においては、通算会社は異なる納税主体となりますが、連結財務諸表においては通算グループ全体に対して税効果会計を適用することとしていることから、連結納税制度における取扱いを踏襲し、法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債について、通算グループ全体の繰延税金資産の合計と繰延税金負債の合計を相殺して、連結貸借対照表の投資その他の資産の区分又は固定負債の区分に表示することとしています。

 

(2)注記事項(本実務対応報告第28項から第30項及び第61項から第64項)

 

①本実務対応報告の適用に関する注記(本実務対応報告第28項及び第61項)

 

実務対応報告第5号では、連結納税制度を適用した場合又は取りやめた場合における最初の連結財務諸表及び個別財務諸表においてその旨を注記することが適当であると考えられるとしていましたが、実務においては、多くの企業が適用初年度のみならず、その後の年度においても、重要な会計方針に連結納税制度を適用している旨の注記を行っていました。

 

グループ通算制度においても、適用開始から取りやめまでの期間において適用していることを示すことが、財務諸表利用者にとって有用となると考えられるため、グループ通算制度を適用した場合又は取りやめた場合に加えて、本実務対応報告により法人税及び地方法人税の会計処理又はこれらに関する税効果会計の会計処理を行っている場合には、その旨を税効果会計に関する注記の内容とあわせて注記することとしています。

 

②税効果会計に関する注記(本実務対応報告第29項及び第62項)

 

本実務対応報告では、連結財務諸表及び個別財務諸表における税効果会計基準第四及び企業会計基準第28号第3項に定める繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳等の注記について、その内訳を税金の種類ごとに注記する必要はないとする連結納税制度における取扱いを踏襲し、法人税及び地方法人税と住民税及び事業税を区分せずに、これらの税金全体で注記することとしています。

 

③個別財務諸表における繰延税金資産に関する注記(本実務対応報告第63項)

 

連結納税制度では、連結納税親会社の個別財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の計上額が、連結財務諸表における回収可能見込額を大幅に上回り、その上回る部分の金額に重要性がある場合には、連結納税親会社の個別財務諸表に追加情報として注記することが必要になるとしていました。

この点については、連結納税制度が導入されてから十数年が経過し仕組みが周知されていると考えられることから、グループ通算制度においては、当該注記は不要であると考えられ、連結納税制度における取扱いを踏襲せず、特段の定めを置かないこととしています。

 

④連帯納付義務に関する注記(本実務対応報告第30項及び第64項)

 

連結納税制度では子会社が親会社の債務に対する連帯納付義務を負っているのに対して、グループ通算制度では通算子会社だけではなく通算親会社も連帯納付義務を負っている点などの相違があるものの、連帯納付義務は制度に内在する義務でありグループ通算制度を適用している旨を注記することとしていることから、別途偶発債務としての注記を行う有用性は高くないと考えられ、連帯納付義務について偶発債務としての注記を要しないこととしています。

 

5. 適用時期等(本実務対応報告第31項から第34項及び第65項から第69項)

 

(1)適用時期(本実務対応報告第31項並びに第65項及び第66項)

 

①原則適用(本実務対応報告第31項及び第65項)

 

税法においては2022年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度が適用されることを考慮し、原則適用の時期として、2022年4月 1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとしています。

 

②早期適用(本実務対応報告第31項ただし書き及び第66項)

 

税効果会計に関する会計処理及び開示については、より早期に企業の実態を適切に反映させる観点から、2022年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の期末の連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができることとしています。

 

なお、十分な周知期間を確保することや、年度内における首尾一貫性を確保することから、四半期会計期間からの早期適用は認めないこととしています。

 

(2)経過措置(本実務対応報告第32項並びに第67項及び第68項)

 

①連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合(本実務対応報告第32項(1)及び第67項)

 

連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合においては、税制の変更による影響と会計方針の変更による影響があると考えられますが、会計方針の変更による影響については、本実務対応報告は実務対応報告第5号等の会計上の取扱いを踏襲しており、会計方針の変更によって重要な影響は生じないと考えられることから、会計方針の変更による影響はないものとみなすこととし、当該定めを一律に適用することとしています。

 

また、会計方針の変更に関する注記は要しないこととしています。

 

なお、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下「実務対応報告第39号」という。)の特例的な取扱いを採用している企業について、本実務対応報告の適用前においては税制の変更による影響が考慮されておらず、本実務対応報告の適用によって考慮することになることから、適用時において、税制の変更による影響を損益等として計上することとなります。

 

②単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合(本実務対応報告第32項(2)及び第68項)

 

単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合について、通常の適用時の取扱いでは、グループ通算制度の適用の承認があった日を含む年度から、翌事業年度よりグループ通算制度を適用するものとして、税効果会計を適用することとしていますが、税法におけるグループ通算制度への移行が行われる年度においては一定の準備期間を要すると考えられることから、当該定めによらず、原則適用及び早期適用の定めに従うこととしています。

 

(3)連結納税制度から単体納税制度に移行する場合(本実務対応報告第33項及び第69項)

 

連結納税制度から単体納税制度に移行する場合は、税効果会計基準等の原則的な取扱いに従って会計処理を行うことなどから特段の準備期間は不要と考えられ、グループ通算制度を適用しない旨の届出書を提出した日の属する会計期間(四半期会計期間を含む。)から、2022年4月1日以後最初に開始する事業年度より単体納税制度を適用するものとして税効果会計を適用することとしています。

 

(4)実務対応報告第5号等及び実務対応報告第39号の廃止(本実務対応報告第34項)

 

実務対応報告第5号等及び実務対応報告第39号については、本実務対応報告の適用により、当該実務対応報告を適用する企業が存在しなくなった段階で廃止することとしています。

 

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