「その他の記載内容」に対する監査人の作業内容及び範囲に関する論点について | 社外財務部長 原 一浩
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「その他の記載内容」に対する監査人の作業内容及び範囲に関する論点について

「その他の記載内容」に対する監査人の作業内容及び範囲に関する論点について

2121年10月12日に、日本公認会計士協会監査基準委員会は、「その他の記載内容に関する監査人の作業内容に関する留意事項」を公表しました。

 

本留意事項は、改訂された監査基準及び監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(以下 「監基報720」という。) に基づく監査業務を実施するに当たって理解が必要と思われる事項、特に「その他の記載内容」に対する監査人の作業内容及び「その他の記載内容」の範囲に関する論点について、公認会計士協会会員の実務の参考に資するために、監査上留意すべき事項を提供するものです。

 

I 「その他の記載内容」に関する監査人の作業について

 

1.基本的な考え方

 

(1)監基報720

 

監基報720では、監査人はその他の記載内容を通読し、また、その通読の過程において、以下を行わなければならないとしています。

 

①その他の記載内容の通読の過程における監査人の作業

 

・その他の記載内容と財務諸表の間に重要な相違があるかどうか検討すること

・その他の記載内容と監査人が監査の過程で得た知識の間に重要な相違があるかどうか検討すること

 

② ①に加えて

 

・財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容について、重要な誤りがあると思われる兆候に注意を払うこと

 

(2)実施者

 

監査人が監査の過程で得た知識との相違を識別する等の必要性から、通読は、経験豊富で監査の主要な部分に精通している監査チームの上位者が実施することが重要と考えられます。

 

(3)作業の種類・範囲の決定

 

①監基報720における監査人の責任は、その他の記載内容に関する保証業務を構成するものではなく、また、監査人にその他の記載内容について保証を得て意見又は結論を表明する義務を課すものでもありません。

 

②監査人に財務諸表に対する意見を形成するために要求される以上の監査証拠の入手を要求するものでもありません。

 

③したがって、その他の記載内容を通読し、財務諸表や監査人が監査の過程で得た知識とそれぞれ相違があるかどうかの検討等を実施する際には、監査人は、保証業務や監査ではないということを認識した上で、作業の種類や範囲を決定するものと考えられます。

 

2.「その他の記載内容」と「財務諸表」の間に相違があるかどうかの検討

 

(1)監基報の要求事項

 

①その他の記載内容には、財務諸表の数値又は数値以外の項目と同一の情報、要約した情報又はより詳細な情報を提供することを意図した情報が含まれる場合があり、これらについて財務諸表との間に重要な相違があるかどうかを検討することになります。

 

②監査人は、これらの情報の全てについて財務諸表において対応する情報との整合性の検討が求められているわけではありません。

 

③検討の対象は、利用者にとっての重要度や金額の大きさ、慎重な取扱いを要する項目かどうか等を考慮した上で、選択することとされています。

 

日本公認会計士協会監査基準委員会「その他の記載内容に関する監査人の作業内容に関する留意事項」より抜粋

 

 

(2)手続きの種類及び範囲

 

その他の記載内容と財務諸表との間に重要な相違があるかどうかを検討するための手続の種類及び範囲についても、監基報720における監査人の責任はその他の記載内容に対する保証業務を構成するものではなく、また、その他の記載内容について保証を得て意見又は結論を表明する義務を課すものでもないことを認識した上で、職業的専門家として判断して決定するものとされています。

 

3.「その他の記載内容」と「監査人が監査の過程で得た知識」の間に重要な相違があるかどうかの検討

 

検討の際に、監査人は、その他の記載内容の誤りが重要な誤りとなり得る項目に焦点を当てることがあるとされています。

 

日本公認会計士協会監査基準委員会「その他の記載内容に関する監査人の作業内容に関する留意事項」より抜粋

 

(1)対象、実施する手続きの種類及び範囲

 

監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかを検討する対象や実施する手続の種類及び範囲については、その他の記載内容に対する監査人の責任も考慮の上、職業的専門家として判断して決定するものと考えられます。

 

(2)実施者

 

その他の記載内容における多くの事項は、監査において入手した監査証拠及び結論に対する認識と照らし合わせて検討することで十分なこともあるとされており、特にその他の記載内容を通読する監査人が経験豊富で監査の主要な部分に精通しているほど、その可能性は高まります。

 

このため、監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかの検討は、経験豊富で監査の主要な部分に精通している監査チームの上位者が実施することが重要と考えられます。

 

(3)追加手続き

 

重要な相違があるかどうかの検討の基礎として、関連する監査調書を参照する、又は関連する監査チームのメンバー若しくは構成単位の監査人に質問を行うことが適切と判断する場合もあります。

このような手続を実施するかどうか及びその範囲は、職業的専門家としての判断に係る事項であるとされています。

 

したがって、監査の過程で得た知識に関連すると思われる全ての記載内容について、一律に監査調書を参照すること等は要求されていません。

 

4.「財務諸表」又は「監査人が監査の過程で得た知識」に関連しない「その他の記載内容」について、重要な誤りがあると思われる兆候への注意

 

(1)実施する手続き

 

その他の記載内容には、財務諸表に関連しておらず、また、監査人が監査の過程で得た知識の範囲を超える事項に関する記述が含まれることがあります。

 

これらの財務諸表又は監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容については、監査人は 一般的な知識との相違やその他の記載内容における不整合などに注意しながら、重要な誤りの兆候に注意を払うことになると考えられます。

 

(2)追加手続き

 

①重要な誤りがあると思われる兆候がないと考えられる場合

 

監基報720における監査人の責任は、その他の記載内容に関する保証業務を構成するものではなく、また、監査人にその他の記載内容について保証を得て意見又は結論を表明する義務を課すものでもないとされています。

 

監査人に財務諸表に対する意見を形成するために要求される以上の監査証拠の入手を要求するものでもないとされているため、重要な誤りの兆候に注意を払って通読した結果、重要な誤りがあると思われる兆候がないと考えられる場合には、追加の監査証拠を入手するなどの手続を実施することは求められていません。

 

②重要な誤りがあると思われる場合

 

重要な誤りがあると思われる場合には、経営者と協議し、必要に応じて追加の手続を実施することが求められます。

 

 

日本公認会計士協会監査基準委員会「その他の記載内容に関する監査人の作業内容に関する留意事項」より抜粋

 

Ⅱ「その他の記載内容」の範囲について

 

1.統合報告書等

 

統合報告書は一般的には企業がその財務資本の提供者に対して、組織がどのように長期にわたり価値を創造するかを説明することを目的として公表される文書を指します。

統合報告書は各企業においてさまざまな名称、形式及び時期により公表されています(以下「統合報告書等」といいます)。

 

2.英文アニュアルレポート等

 

企業は、我が国の法令等に基づく年次報告書のほかに、主として外国人投資家向けに、例えば英語又はその他の言語による年次報告書を任意で作成し、監査を受け、公表することがあります。

英文アニュアルレポートは、任意の形式で作成される場合と、有価証券報告書等を直訳して作成される場合があります。

我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を実施し、監査報告書を作成する場合は、作成する言語にかかわらず、監査の基準に従う必要があります。

 

3.留意事項

 

統合報告書等や英文アニュアルレポート等におけるその他の記載内容の取扱いについては、それらに財務諸表やその監査報告書が含まれる又は添付される予定があるか否か、法定監査とは別に任意監査を要請されるか等により様々であることが考えられるため、それらを構成する文書の内容、発行方法及び発行時期について、事前に経営者と協議して確認しておくことに留意が必要と考えられます。

 

 

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