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「記述情報の開示に関する原則」の内容と有用性~改正開示府令を受けて

2020年3月期以降の有価証券報告書において開示される記述情報及び「コーポレートガバナンス等の状況」に記載される「監査の状況」のうちの一部の項目については、2019年1月に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、改正開示府令)が原則適用となり、改正後の規定に基づく開示が行われています。

改正開示府令の適用に合わせて、金融庁は2019年3月19日に、「記述情報の開示に関する原則」を公表しました。

また、「記述情報の開示に関する原則」に加えて「記述情報の開示の好事例集」が金融庁より公表されています。

「記述情報の開示の好事例集」も確認することで、有価証券報告書における記述情報やガバナンス情報の記載内容についての理解がさらに促進されると考えられます。

Ⅰ.「記述情報の開示に関する原則」について

 

1.内容

 

この原則は、企業情報の開示に関する金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」の提言を踏まえ、財務情報以外の開示情報である、いわゆる「記述情報」について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方をまとめています。

 

2.目的

 

この原則は、記述情報の中でも、投資家による適切な投資判断を可能とし、投資家と企業との深度ある建設的な対話につながる項目である、経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報を中心に、有価証券報告書における開示の考え方等を整理することを目的としています。

 

3.性格

 

この原則は、企業情報の開示について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方を示すものであり、新たな開示事項を加えるものではありません。

 

4.有用な点

 

・開示書類の作成・公表に関与する者の自主的な点検

・投資家が企業との対話を行う際の利用

・開示に関するルールやプリンシプルベースのガイダンスの整備

・適切な開示の実務の積み上げ

・企業開示の好事例(ベストプラクティス)を全体に拡大

・ベストプラクティスを、必要に応じ、この原則にも反映

・開示内容の全体のレベルの向上

 

Ⅱ.「総論」についての説明

 

  1. 企業情報の開示における記述情報の役割

 

(1)財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断に資する

 

(2)投資家と企業との建設的な対話を促進する

 

(3)企業の持続的な企業価値の向上を図る

 

  1. 記述情報の開示に共通する事項

 

(1)取締役会や経営会議の議論の適切な反映

 

記述情報は、投資家が経営者の目線で企業を理解することが可能となるように、取締役会や経営会議における議論を反映することが求められます。

 

① 考え方

 

①-1 経営に係る決定が行われる取締役会や経営会議における議論の適切な反映

 

ア) 経営方針・経営戦略等

 

イ) 経営成績等の分析(Management Discussion and Analysis)

 

ウ) リスク情報

 

①-2 投資家は、企業の現況の認識や、企業の経営方針・経営戦略等の内容の理解に必要な情報を得る

 

①-3 投資家は、財務情報だけでは判別できない、経営の方向性を理解し、将来の経営成績等の予想の確度をより高めることが可能となる

 

①-4 取締役会や経営会議における議論の適切な開示

 

ア) 企業の経営資源の最大限の活用に向け、成長投資・手許資金・株主還元や資本コストに関した議論

 

イ) 今後の経営の方向性

 

①-5 投資家による適切な投資判断が可能となり、投資家と企業との建設的な対話経て、よりよい経営方針・経営戦略等を確立しうる

 

② 望ましい開示に向けた取組み

 

②-1 経営者は、開示書類作成の早期から、開示内容の検討に積極的に関与し、開示についての方針を社内に示す

 

②-2 担当役員が各部署を統括するなどして、関係部署が適切に連携し得る体制を構築する

 

(2)重要な情報の開示

 

記述情報の開示については、各企業において、重要性(マテリアリティ)という評価軸を持つことが求められます。

 

① 考え方

 

①-1 投資家の投資判断にとって重要か否か、経営者の視点による経営上の重要性も考慮する

 

①-2 企業価値や業績等に与える重要性(マテリアリティ)に応じた説明の順序、濃淡等を考慮する

 

② 望ましい開示に向けた取組み

 

②-1 企業価値や業績等に与える影響度を考慮した記述情報の重要性

 

②-2  読み手が当該情報の重要性を理解できる記述情報の記載

 

②-3 提出日時点における記述情報の重要性の評価

 

(3)セグメントごとの情報の開示

 

記述情報は、投資家に対して企業全体を経営者の目線で理解し得る情報を提供するために、適切な区分で開示することが求められます。

 

① 考え方

 

①-1 それぞれのセグメントにおける事業の状況の適切な把握

 

①-2 多角化によるシナジー効果の創出

 

①-3 経営資源の適切で効率的な配分

 

①-4 企業の事業選択の適切性の理解

 

② 望ましい開示に向けた取組み

 

②-1 財務情報におけるセグメント(報告セグメント)ごとの開示

 

②-2 必要に応じて、経営方針・経営戦略等の説明に適した区分(例えば、事業セグメントや地域セグメント)ごとの情報を開示

 

(4)分かりやすい開示ましい~開示に向けた取組み

 

記述情報の開示に当たっては、その意味内容を容易に、より深く理解することができるよう、分かりやすく記載することが期待されます。

 

① 投資家の分かりやすさを意識した記載

 

内容の理解を促進するために、図表・グラフ・写真等の補足的なツールの利用、前年からの変化の明確な表示等

 

② 適切な見出しや表題、関連する情報を整理

 

③ 継続性が重要な事項について変更が生じた場合

 

変更内容を記載した上で、変更の影響についての説明を記載

 

④ 関連性のある記述情報

 

「経営方針・経営戦略等」と「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」などについては、記載を相互に関連付け

 

⑤ 他の箇所の参照

 

記載内容が同様である又は重複する項目の参照

 

有価証券報告書において開示される「事業等のリスク」~改正開示府令

1.「事業等のリスク」に関する改正開示府令の内容

 

(1)金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」での指摘

 

① リスク情報の開示について、全体としてみると、一般的なリスクの羅列になっている記載が多い

 

② 外部環境の変化にかかわらず数年間記載に変化がない開示例が多い

 

③ 経営戦略やMD&Aとリスクの関係が明確でなく、投資判断に影響を与えるリスクが読み取りにくいなど

 

(2)「事業等のリスク」に関する開示府令の改正

 

① 経営者が経営成績等の状況に重要な影響を与えると認識している主要なリスク

 

・当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期

・当該リスクが顕在化した場合に経営成績等の状況に与える影響の内容

・当該リスクへの対応策

・上記について具体的に記載することが求められました。

 

② 分かりやすい記載

 

記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮することが求められています。

 

2. 「事業等のリスク」に関する「記述情報の開示に関する原則」の内容

 

(1)考え方

 

事業等のリスクは、翌期以降の事業運営に影響を及ぼし得るリスクのうち、経営者の視点から重要と考えるものをその重要度に応じて説明するものです。

 

(2)望ましい開示に向けた取組み

 

① 事業等のリスクの開示においては、一般的なリスクの羅列ではなく、具体的に記載することが求められます。

 

・財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動

・特定の取引先・製品・技術等への依存

・特有の法的規制・取引慣行・経営方針

・重要な訴訟事件等の発生

・役員・大株主・関係会社等に関する重要事項

・その他、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項

 

② リスクの重要性(マテリアリティ)

 

取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性(マテリアリティ)をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが期待されます。

③ リスクの記載の順序

 

時々の経営環境に応じ、経営方針・経営戦略等との関連性の程度等を踏まえ、取締役会や経営会議における重要度の判断を反映することが望まれます。

④ リスクの区分

 

リスク管理上用いている区分に応じた記載をすることも考えられます。

例えば、市場リスク、品質リスク、コンプライアンスリスクなどになります。

 

有価証券報告書において開示される「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」~改正開示府令

  1. 「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に関する改正開示府令の内容

 

(1)金融庁ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告(以下、DWG報告)の指摘

 

① 経営方針及び経営戦略に関する開示は、全体としてみると、企業の中長期的なビジョンに関する具体的な記載が乏しい

 

② MD&Aやリスク情報との関連付けがない等の企業が相当程度みられる

 

(2)改正開示府令での対応

 

有価証券報告書の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」で記載が求められる経営方針・経営戦略等の記載に当たっては、経営環境についての経営者の認識の説明を含めた上で、事業の内容と関連付けた記載を求めることとされました。

 

(経営環境)

企業構造

事業を行う市場の状況

競合他社との競争優位性

主要製品・サービスの内容

顧客基盤

販売網等

 

2. 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等に関する「記述情報の開示に関する原則」の内容

 

(1)経営方針・経営戦略等

 

① 法令上記載が求められている事項

 

経営方針・経営戦略等の記載においては、経営環境(例えば、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等)についての経営者の認識の説明を含め、企業の事業の内容と関連付けて記載することが求められています。

 

② 考え方

ア) 経営方針・経営戦略等は、企業がその事業目的をどのように実現していくか、どのように中長期的に企業価値を向上するかを説明するものです。

 

イ) 経営方針・経営戦略等については、投資家がその妥当性や実現可能性を判断できるようにするため、企業活動の中長期的な方向性のほか、その遂行のために行う具体的な方策についても説明することが求められます。

 

ウ) また、経営方針・経営戦略等については、背景となる経営環境についての経営者の認識が併せて説明される必要があります。

これにより、投資家は、以下の点を評価することが可能となります。

 

・当該認識の妥当性

・経営方針・経営戦略等の実現可能性

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) 経営方針・経営戦略等

記述情報の中でも特に経営判断の根幹となるものであり、開示に当たっては、以下の点が期待されます。

 

・経営者が作成の早期の段階から適切に関与すること

・取締役会や経営会議における議論を適切に反映すること

 

イ) 経営方針・経営戦略等におけるセグメントごとの記載

事業全体の経営方針・経営戦略等と併せて、それらを踏まえた各セグメントの経営方針・経営戦略等を開示することが期待されます。

セグメントの記載に当たっては、各セグメントにおける具体的な方策の遂行に向け、資金を含めた経営資源がどのように配分・投入されるかを明らかにすることが望まれます。

 

ウ) 経営環境についての経営者の認識の説明

投資家がセグメントごとの経営方針・経営戦略等を適切に理解できるようにするため、各セグメントに固有の経営環境についての経営者の認識も併せて説明されることが望まれます。

例えば、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等。

 

(2)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 

① 法令上記載が求められている事項

 

優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題の開示においては、その内容・対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載することが求められています。

 

② 考え方

 

ア) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は、事業を行う市場の構造的変化や、事業に与える影響が大きい法令・制度の改変など、経営成績等に重要な影響を与える可能性があると経営者が認識している事柄を説明するものです。

 

イ) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題の開示により、投資家は、経営者による課題認識の適切性や十分性、経営方針・経営戦略等の実現可能性を評価することが可能となります。

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題の説明は、その課題の重要性を明らかにするため、経営方針・経営戦略等との関連性の程度や、重要性の判断等を踏まえて記載することが考えられます。

 

イ) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題については、当該課題決定の背景となる経営環境についての経営者の認識を説明することも考えられます。

 

(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 

① 法令上記載が求められている事項

 

経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等(いわゆるKPI)がある場合には、その内容を開示することが求められています。

 

② 考え方

 

ア) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等(KPI)

ROE、ROICなどの財務上の指標(いわゆる財務KPI)のほか、契約率等の非財務指標(いわゆる非財務KPI)も含まれます。

 

イ) 開示に当たっては、企業は経営方針・経営戦略等に応じて設定しているKPIを開示に適切に反映することが求められます。

 

ウ) KPIの開示は、投資家が企業の経営方針・経営戦略等を理解する上で重要であり、これが開示されることにより、経営方針・経営戦略等の進捗状況や、実現可能性の評価等を行うことが可能となります。

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) KPIを設定している場合には、その内容として、目標の達成度合いを測定する指標、算出方法、なぜその指標を利用するのかについて説明することが考えられます。

 

イ) また、合理的な検討を踏まえて設定された経営計画等の具体的な目標数値を記載することも考えられます。

 

ウ) セグメント別のKPIがある場合には、その内容も開示することが望まれます。

 

有価証券報告書における「MD&A」の開示~改正開示府令、記述情報の開示

1.「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に関する改正開示府令の内容

 

(1)金融庁ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告における指摘

 

① 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(以下、MD&A)に関する開示は、経営者の視点による分析が不十分である。

 

② 事業セグメントの分析・開示については、コーポレートガバナンス改革の観点から求められている事業ポートフォリオの効率化、ひいては資本効率の向上の観点から重要である。

 

(2)改正開示府令における対応

 

① 有価証券報告書のMD&A

 

経営方針・経営戦略の記載内容等と関連付けた経営成績等の分析内容を記載する。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 

資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向の経営者の認識を含めた記載をする。

 

③ 上記は、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること

 

④ 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 

重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「第5 経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載すること。

 

2. 「MD&A」に関する「記述情報の開示に関する原則」の内容

 

(1) MD&Aに共通する事項

 

① 法令上記載が求められている事項

 

ア) 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(経営成績等)の状況の分析の開示においては、経営者の視点による当該経営成績等の状況に関する分析・検討内容を具体的に、かつ、分かりやすく記載することが求められています。

 

イ) その際、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者の視点による認識及び分析・検討内容(例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析) を、経営方針・経営戦略等の内容のほか、有価証券報告書に記載した他の項目の内容と関連付けて記載することが求められています。

 

② 考え方

 

ア)  MD&A

経営方針・経営戦略等に従って事業を営んだ結果である当期の経営成績等の状況について、経営者の視点による振り返りを行い、経営成績等の増減要因等についての分析・検討内容を説明するものです。

 

イ) MD&Aの開示

投資家は、企業が策定した経営方針・経営戦略等の適切性を確認することや、経営者が認識している足許の傾向を踏まえ、将来の経営成績等の予想の確度をより高めることが可能となります。

 

ウ) 重要な事業再編や減損の影響や、工場等の収益性の低下が財務諸表に表れている場合

MD&Aにおいて、例えば、想定していた規模の経済が実現できなかったこと、主要な顧客との契約を維持できなかったこと、設備の老朽化により稼働率が落ちたことなど、背景にある理由を分析すべきです。

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) MD&Aにおいては、単に財務情報の数値の増減を説明するにとどまらず、事業全体とセグメント情報のそれぞれについて、認識している足許の傾向も含めて、経営者の評価を提供することが期待されます。

 

・ 当期における主な取組み

・ 当期の実績

・ 増減の背景や原因についての深度ある分析

・ その他、当期の業績に特に影響を与えた事象

 

イ) MD&Aにおいて、当期における主な取組みやそれを踏まえた実績の評価を開示するに当たっては、企業が設定したKPIと関連付けた開示を行うことが望まれます。

 

(2)キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 

① 法令上記載が求められている事項

 

キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容、資本の財源及び資金の流動性に係る情報の開示においては、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載することが求められています。

 

② 考え方

 

ア) 企業経営においては、経営方針・経営戦略等を遂行するため、その資産の最大限の活用が期待されています。

 

イ) 「キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容、資本の財源及び資金の流動性に係る情報」については、経営方針・経営戦略等を遂行するに当たって必要な資金需要や、それを賄う資金調達方法、さらには株主還元を含め、経営者としての認識を適切に説明することが重要です。

 

ウ) このような説明により、投資家は、以下の点を判断することが可能となります。

 

・ 企業が経営方針・経営戦略等を遂行するに当たっての財源の十分性

・ 企業の経営方針・経営戦略等の実現可能性

 

エ) また、上記の情報の開示により、投資家は、以下の点を理解することも可能となると考えられます。

 

・ 成長投資、手許資金、株主還元のバランスに関する経営者の考え方

・ 企業の資本コストに関する経営者の考え方

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) 資金需要の動向に関する経営者の認識の説明

企業が得資金をどのように成長投資、手許資金、株主還元に振り分けるかについて、経営者の考え方を記載することが有用です。

 

イ) 成長投資への支出

経営方針・経営戦略等と関連付けて、設備投資や研究開発費を含めて、説明することが望まれます。

 

ウ) 株主還元への支出

目標とする水準が設定されている場合にはそれも含め、考え方を説明することが望まれます。

その際、配当政策など、他の関連する開示項目と関連付けて説明することが望まれます。

 

エ) 緊急の資金需要のために保有する金額

金額の水準とその考え方を明示するなど、現金及び現金同等物の保有の必要性について投資家が理解できる適切な説明をすることが望まれます。

 

オ) 資金調達の方法

資金需要を充たすための資金が営業活動によって得られるのか、銀行借入、社債発行や株式発行等による調達が必要なのかを具体的に記載することが考えられます。

また、資金調達についての方針を定めている場合には、併せて記載することが有用です。

 

カ) 資本コストに関する企業の定義や考え方

上記の内容とともに説明することも有用です。

 

(3)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 

① 法令上記載が求められている事項

 

財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、会計方針を補足する情報を記載することが求められています。

 

② 考え方

 

ア) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

仮定と実績との差異などにより、企業の業績に予期せぬ影響を与えるリスクがあります。

会計基準における見積り要素の増大が指摘される中、企業の業績に予期せぬ影響が発生することを減らすため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定について、充実した開示が行われることが求められます。

 

イ) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定に関する経営者の前提

どの様な前提を置いているかということは、経営判断に直結する事柄と考えられるため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、経営者が関与して開示することが重要と考えられます。

収益認識基準における「ポイント制度」の取扱~会計処理と事例

日本公認会計士協会は、収益認識の基本論点(Q&A)を公表しています。

その中から、「追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(ポイント制度)」についてみてみましょう。

 

1.会計基準等の定め

 

(1)はじめに

 

顧客の囲い込みや販売促進策として、商品の販売やサービスの提供の際に、将来新たな商品やサービスの購入時に値引きを受けられるポイントを付与することがあります。

このようなポイント付与がある場合、ポイントに関して企業が負う義務の性質に応じて会計処理を行うことになります。

 

(2)収益基準

 

収益基準では、顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得できるオプションが付与された場合の取扱いを図表1(適用指針第48項から第51項を基に作成)のように定めています。

「Q&A収益認識の基本論点」日本公認会計士協会より抜粋

 

(3)自社ポイントの会計処理

 

自社ポイントの付与が、契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利に該当する場合、当該ポイントを別個の履行義務として会計処理します。

「追加の財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションとしての履行義務」となります。

この場合、取引価格の一部がポイントに配分され、このようなポイントに配分された取引価格は、ポイント利用時において将来の財又はサービスが移転する時、又は当該ポイントが失効する時に、収益を認識します。

 

(4)他社ポイント

 

他社が運営するポイント制度に参加し、商品の販売時に顧客に他社ポイントを付与するとともに、他社に所定の金額を支払う場合があります。

 

他社ポイントの付与に伴う企業の義務が当該支払義務のみである場合、別個の履行義務とはならず、他社への支払額を第三者のために回収した金額として取引価格から除外します。

 

2.事例:ポイント制度 (自社ポイント)

 

(1)前提条件

 

①ポイント制度

 

  • A社は、A社の商品を顧客が100円購入するごとに1ポイントを顧客に付与するポイント制度を採用しています。

 

  • 顧客は、ポイントを使用して、A社の商品を購入する際に1ポイント当たり1円の値引きを受けることができます。

 

②商品販売時

 

  • X1年度中に、顧客はA社の商品10,000円を購入し、将来のA社の商品購入に利用できる100ポイント(=10,000円÷100円×1ポイント)を獲得しました。

 

  • 対価は固定であり、顧客が購入したA社の商品の独立販売価格は10,000 円でした。

 

 

③ポイント使用見込みと独立販売価格

 

  • A社は商品の販売時点で、将来95ポイントが使用されると見込みました。

 

  • A社は、顧客により使用される可能性を考慮して、1ポイント当たりの独立販売価格を95円(合計額は95円 (=0.95円×100ポイント))と見積りました。

 

④履行義務

 

  • 当該ポイントは、契約を締結しなければ顧客が受け取ることのできない重要な権利を顧客に提供するものであるため、A社は、顧客へのポイントの付与により履行義務が生じると結論付けました。

 

⑤X2年度末

 

  • A社はX2年度末において、使用されると見込むポイント総数の見積りを97ポイントに更新しました。
  • 各年度に使用されたポイント、決算日までに使用されたポイント累計及び使用されると見込むポイント総数は次のとおりです。

 

X1年度 X2年度
各年度に使用されたポイント 45 40
各決算日までに使用されたポイント累計 45 85
使用されると見込むポイント総数 95 97

 

 

 

(2)会計処理

 

①商品販売時

 

現金預金 10,000円 / 売上高 9,906円

契約負債  94円

 

商品販売:10,000×独立販売価格10,000÷10,095=9,906円

ポイント:10,000×独立販売価格95÷1,095=94円

 

②X1年度末

 

契約負債 45円 / 売上高 45円

 

X1年度末までに使用されたポイント45ポイント÷使用されると見込むポイント総数95ポイント×94円=45円

 

③X2年度末

 

契約負債 37円 / 売上高 37円

 

(X2年度末までに使用されたポイント累計85ポイント÷使用されると見込むポイント総数97ポイント×94円)-X1年度末に収益を認識した45円=37円

 

収益認識基準における「知的財産のライセンス(フランチャイズ料)」の取り扱い

日本公認会計士協会は、収益認識の基本論点(Q&A)を公表しています。

その中から、知的財産のライセンス・フランチャイズ料の取扱を見てみましょう。

 

1.会計基準等の定め

 

(1)ライセンスの対象となる知的財産

 

以下の知的財産が例示されています。

 

①ソフトウェアや技術

 

②動画、音楽等

 

③フランチャイズ

 

④特許権、 商標権、著作権

 

(2)会計処理

 

収益基準では、上記の知的財産のライセンスに関する会計処理を図表1(適用指針第61項から第64項を基に作成)のように定めています。

 

「Q&A収益認識の基本論点」日本公認会計士協会より抜粋

 

(3)「知的財産にアクセスする権利」に該当するための要件

 

①知的財産に著しく影響を与える活動であること

 

「知的財産に著しく影響を与える活動」とは、次のいずれかに該当する活動を言います。

 

(ⅰ)知的財産の形態又は機能性を著しく変化させる活動

 

例:デザイン、コンテンツ、機能を実行する能力を著しく変化させる活動

 

(ⅱ)顧客が知的財産からの便益を享受する能力に影響を与える活動

 

例:ブランドからの便益は、知的財産の価値を補強する、

又は維持する企業の継続的活動から得られるかあるいは当該活動に依存していることが多い。

 

②顧客により合理的に期待されていること

 

「顧客により合理的に期待されていること」を示す可能性のある要因としては、次が挙げられます。

 

(ⅰ)企業の取引慣行や公表した方針等

 

(ⅱ)顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での経済的利益の共有の存在

 

例えば、売上高に基づくロイヤルティ

 

2.事例:フランチャイズ料

 

【一般的なフランチャイズ契約】

 

フランチャイズ運営者は、フランチャイズ契約に基づき、フランチャイズ加盟者(以下「加盟者」)から毎月の売上高の一定割合等のロイヤルティを受領します。

フランチャイズ運営者は、取引慣行として、フランチャイズの評判を高めるため、一般顧客の嗜好の分析や、製品の改善、価格戦略、販促キャンペーン及び運営面の効率化の実施などの活動を行います。

 

(1)会計処理

 

フランチャイズ運営会社は、フランチャイズのライセンス供与により加盟者が有する権利が、「企業の知的財産にアクセスする権利」に該当するために満たす必要のある要件の全てを満たすかどうかを検討し、「企業の知的財産にアクセスする権利」なのか「企業の知的財産を使用する権利」なのかを判断することになります。

 

「企業の知的財産にアクセスする権利」を提供する場合は、「一定の期間にわたって収益を認識する」ことになります。

 

(2)「企業の知的財産にアクセスする権利」の要件に該当するかどうかの検討

 

①要件1:著しく影響を与える活動が顧客に期待されているか。

 

次の点を考慮し、加盟者が権利を有している知的財産であるフランチャイズに著しく影響を与える活動をフランチャイズ運営会社が行うことを、加盟者は合理的に期待しています。

 

ア)フランチャイズの評判を高めるために、一般顧客の嗜好の分析などの活動をフランチャイズ運営会社が行う取引慣行があるため、加盟者が権利を有している知的財産であるフランチャイズから便益を享受する能力は、実質的に運営者の活動により得られるか、又は当該活動に依存します。

 

イ)フランチャイズ運営会社が得られる報酬が加盟者の売上高に基づくロイヤルティである場合、当該報酬は加盟者の売上高等に左右されるため、自らの利益を最大化するように活動することを加盟者は期待し、加盟者と共通の経済的な利害があります。

 

②要件2:願客は直接的に影響を受けるか。

 

フランチャイズ加盟者は、製品の改善、価格戦略、販促キャンペーン及び運営面の効率化などフランチャイズ運営会社が行う活動から生じる変化に対応することとなるため、当該活動の影響を受けます。

 

③要件3:財又はサービスが顧客に移転しないか。

 

フランチャイズ加盟者は、一般顧客の嗜好の分析などのフランチャイズ運営会社の活動からの便益を享受する可能性はあるが、当該活動が生じたとしても、財又はサービスはフランチャイズ加盟者に移転しません。

 

(3)検討結果

 

要件1、2、3ともに該当するので、「企業の知的財産にアクセスする権利」の提供として、 一定の期間にわたって収益を認識することになります。

 

収益認識基準における「商品券等(顧客により行使されない権利)」の取り扱い

日本公認会計士協会は、収益認識の基本論点(Q&A)を公表しています。

その中から、顧客により行使されない権利 (非行使部分)(商品券等)の取り扱いを見てみましょう。

 

1.会計基準等の定め

 

(1)顧客から支払いを受けた時の処理

 

①対象となる履行義務

 

企業は、将来において財又はサービスを移転する(又は移転するための準備を行う)という履行義務を負います。

 

②顧客から支払を受けた時

 

支払を受けた金額で契約負債を認識します。

 

③当該履行義務を充足した時

 

契約負債の消滅を認識し、収益を認識します。

 

(2)非行使部分

 

顧客から企業に返金が不要な前払いがなされた場合、将来において財又はサービスを受け取る権利が顧客に付与されます。

 

顧客は、当該権利のすべては行使しない場合があり、顧客により行使されない権利を「非行使部分」といいます。

 

(3)非行使部分に係る会計処理

 

収益基準では非行使部分に係る会計処理を図表1のとおり定めています。

 

「Q&A収益認識の基本論点」日本公認会計士協会より抜粋

 

①商品券等を販売した時点では、将来、商品やサービスを提供する義務が残るため、契約負債を認識します。

 

②のうち、将来にわたって利用されない部分(非行使部分)について、将来、企業が権利を得ると見込む場合(すなわち、あらかじめ顧客が権利を行使しないと見込まれる場合)は、顧客が権利を行使するパターンに比例して収益を認識します。

 

③権利を得ると見込まない場合は、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益を認識します。

 

2.事例:非行使部分の権利を得ると見込む場合

 

(1)前提条件

 

①販売時

 

  • X1年度において小売業者A社は自社でのみ使用可能な商品券(額面100,000円)を顧客に販売し、代金100,000円を受領しました。

 

②非行使部分

 

  • A社は類似の商品券に関する過去の経験に基づき、販売金額の10%が非行使になると見込んでいますが、非行使部分に相当する金額を顧客に返金する必要はありません。

 

・10%を非行使部分と扱って権利行使と比例的に収益認識したとしても、その後に収益の著しい減額が生じない可能性が高いとしています。

 

③利用時

 

  • X1年度において、顧客はこの商品券のうち、54,000円を利用しました。

 

(2)会計処理

 

①X1年度 (商品券販売時)

 

現金預金 100,000円 /契約負債 100,000円

 

②X1年度 (商品券利用時)

 

契約負債 54,000円 /売上高 54,000円

契約負債 6,000円 /売上高  6,000円 (*1)

 

(*1)(100,000円×10%)×54,000円/(100,000円×90%)= 6,000円

 

3.事例:非行使部分の権利を得ると見込まない場合

 

(1)前提条件

 

①販売時

 

  • X1年度において小売業者A社は自社でのみ使用可能な商品券(額面100,000円)を顧客に販売し、代金100,000円を受領しました。

 

  • A社は行使されなかった商品券について、顧客に返金する必要はありません。

 

・商品券は発行日から2年後に失効しますが、A社は過去に類似の商品券の販売を行っておらず、過去の情報を有していないため、その後に収益の著しい減額が生じない可能性が高い非行使部分の金額を見積る能力を有していません。

 

②利用時

 

・X1年度において、顧客はこの商品券のうち、54,000円を利用しました。

 

(2)会計処理

 

①X1年度 (商品券販売時)

 

現金預金 100,000円 /契約負債 100,000円

 

②X1年度 (商品券利用時)

 

契約負債 54,000円  /売上高 54,000円

 

※なお、非行使部分の金額については、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時点で収益を認識するため、商品券利用時には認識しません。

 

収益認識基準における「返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払い」の取扱

日本公認会計士協会は、収益認識の基本論点(Q&A)を公表しています。

その中から、「返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払い」の取扱を見てみましょう。

 

1.会計基準の定め

 

(1)対象となる取引

 

取引:契約における取引開始日又はその前後に、顧客から返金が不要な支払を受ける場合。

 

例えば、スポーツクラブ会員契約の入会手数料、電気通信契約の加入手数料、サービス契約のセットアップ手数料、供給契約の当初手数料等があります。

 

(2)会計基準

 

収益基準では、返金が不要な顧客からの支払を図表1(適用指針第57項から第59項を基に作成)のように定めています。

 

「Q&A収益認識の基本論点」日本公認会計士協会より抜粋

 

①顧客から返金が不要な支払を受ける場合、当該支払が、将来の財又はサービスの移転に対するものであるときは、当該将来の財又はサービスを提供する時に収益を認識することになります。

 

②一方、当該支払が、約束した財又はサービスの移転を生じさせるものであるときは、当該約束した財又はサービスを提供する時に収益を認識することになります。

 

2.事例:スポーツクラブの入会金

 

(1)事例

 

スポーツクラブに顧客が入会する場合、スポーツクラブの運営会社は返金することのない入会金を顧客から受領します。

 

(2)会計基準等

 

収益基準では、顧客から返金が不要な支払を受ける場合、当該支払が、「将来の財又はサービスの移転に対するもの」であるか、それとも、「約束した財又は サービスの移転を生じさせるもの」であるかにより、収益の認識時点を判断することになります。

 

①会員資格に加え、入会金が会員にその期間に提供される財又はサービスを受ける権利を与えたり、非会員に課されるより低い価格で財又はサービスを購入する権利を与えたりする場合

 

返金が不要な入会金が、「将来の財又はサービスの移転に対するもの」である場合に該当し、当該将来の財又はサービスを提供する時に収益を認識することになります。

 

②返金が不要な入会金が、「約束した財又はサービスの移転を生じさせるもの」である場合

 

当該約束した財又はサービスを提供する時に収益を認識することになります。

 

ただし、収益基準では、返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払は、通常、企業が契約における取引開始日又はその前後において契約を履行するために行う活動に関連し、当該活動は約束した財又はサービスを顧客に移転させるものではないとしています。

 

そのため、返金が不要な入会金が、「約束した財又はサービスの移転を生じさせるもの」であると判断されるケースは、限定的であると考えられます。

株式交付制度の創設(令和元年改正会社法)~その概要・主な手続き・実務上の留意点・会計処理について

2019年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」(以下、改正法)が成立し、同月11日に公布されています。
従来、株式交換制度がありましたが、今回の改正ではM&Aに関する株式交付制度が創設されました。

 

1. 株式交付制度の概要

 

(1)株式交付制度の新設

 

改正法では、完全子会社とすることまでを企図していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とする(議決権の50%超を取得する)ため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる株式交付制度を新たに設けました。

 

(2)株式交付制度の概要

 

株式交付制度とは、他の(国内)株式会社を子会社化するために、対象会社(株式交付子会社)の株式を譲り受け、その譲渡人に対してその株式の対価として自社(株式交付親会社)の株式を交付する手続です。

 

既存の株式交換制度とは異なり、対象会社の株主のうち希望者のみからその株式を取得する点に特徴があります。

 

(3)株式交換制度の概要

 

① 株式会社(買収会社)が、その株式を対価として当該他の株式会社(被買収会社)を買収しようとする場合に、株式交換制度があります。

 

② 株式交換制度を用いる場合には、買収会社は被買収会社の発行済株式のすべてを取得することになります。

 

(4)株式交換制度の制約

 

① 買収会社が被買収会社を完全子会社とすることまでは企図していない場合には、株式交換制度を用いることができません。

 

② 自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資という構成をとる場合には、原則として検査役の調査が必要となります。

 

③ 手続が複雑でコストが掛かることから、実務上、株式を対価とするM&Aの手法を用いることが困難になっていると指摘されていました。

 

2.株式交付制度の主な手続き

 

(1)株式交付計画

 

株式交付親会社は、譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限、交付する株式交付親会社の株式の数又はその算定方法、効力発生日などを定めた株式交付計画を作成します。

 

(2)株主総会特別決議

 

株式交付親会社は、株式交付計画について株主総会の特別決議による承認が必要です。

ただし、一定の要件を満たす場合は、株式交換制度と同様に簡易手続があります。

 

(3)株式交付計画の内容の通知

 

株式交付親会社は、株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者(株式交付子会社の株主)に対して、株式交付計画の内容などの通知が必要です。

 

(4)株主・債権者保護手続き

 

株式交付親会社の株主及び債権者保護のため、株式交付計画の内容の備置き・閲覧等、反対株主の株式買取請求、債権者異議手続などが設けられます。

 

(5)株式の給付

 

効力発生日に、申込みをした株式交付子会社株主は、割り当てられた株式交付親会社株式の株主となり、株式交付親会社は、株式交付子会社株式の給付を受け、これを取得します。

 

3.株式交付制度のイメージは下記のとおりです。

 

法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」より抜粋

 

4. 実務上の留意点

 

(1)対象会社

 

株式交付子会社は、日本の会社法上の株式会社に限られ、外国会社は対象外とされています。

 

(2)有償譲渡

 

株式交換制度の場合は、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の全ての株式を当然に取得しますが、株式交付制度は、株式交換制度とは異なり、株式の有償の譲渡とされています。

 

(3)公開買付規制

 

株式交付子会社が上場会社である場合には、株式交付親会社は、株式交付を行なうに当たり、別途、公開買付規制に該当する場合があるとされる点に留意する必要があります。

 

(4)利用されることが予想される会社

 

(3)の点から、株式交付制度は、主として国内の非上場会社を対象会社とするM&Aにおいて利用される余地が大きいことが想定されています。

 

5. 企業結合における会計処理

 

(1)企業結合の分類

 

株式交付制度は、対象会社の議決権の50%超を取得することにより、当該対象会社が子会社となる場合を前提とするため、企業結合の分類としては、グループ外の企業結合である「取得」に該当すると思われます。

 

(2)会計処理

 

取得に該当するため、株式交付親会社の連結財務諸表上の会計処理としては、以下が考えられます。

 

①株式交付子会社の資産及び負債を時価評価します。

 

②時価純資産(受け入れた資産と引き受けた負債の差額)のうち株式交付親会社に帰属する部分と交付した株式の時価(支払った対価)との差を「のれん」(又は「負ののれん」)とします。

 

6. 適用日

 

令和3年(2021年)3月1日からの施行になります。

 

 

 

社外監査役の社内におけるコミュニケーション~その対象者、コミュニケーションの場、三様監査について

2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。

その中から「社外監査役等の社内におけるコミュニケーション」を見てみましょう。

 

1.コミュニケーションの対象者

 

社外監査役等は次のように多様な関係者とのコミュニケーションを図ることが重要です。

 

・経営陣(社長・CEO、CFO 等)

・部門責任者、子会社経営者

・社内取締役、社外取締役

・常勤監査役等他の社内監査役等、社外監査役等

・親会社や子会社の監査役等

・内部監査部門

・従業員

・その他関係者

 

2.コミュニケーションの場

 

(1)コミュニケーションの形態

 

コミュニケーションの場として、取締役会等の会議、個別面談、懇談会等、様々な形態があります。

 

(2)連絡会等

 

社外役員連絡会、グループ監査役等連絡会等を設けている会社もあります。

会社の状況に応じて、これらの機会を適宜利用するとともに、これらの場を設けるように自ら働きかけることも考えられます。

 

3.三様監査

 

(1)三様監査の担い手

 

監査役等に内部監査部門、外部監査人を加えた三様監査(監査役等の監査、内部監査、外部監査)の連携がコーポレートガバナンスのモニタリング機能の核になります。

 

三様監査の担い手は次のように立場が異なります。このような立場の違いをふまえた連携がお互いの監査に有益となります。

 

①監査役等

非業務執行役員として経営者の職務執行を監督・監査

 

②内部監査人

通常、経営者直属

 

③外部監査人

経営者から独立した会社外部の第三者

 

(2)企業グループの場合

 

企業グループの場合には、グループ本社及び各グループ会社において三様監査が重層的に存在します。

 

グループの組織構造に応じて企業グループ全体及び各グループ会社のレベルで三様監査の連携体制を構築する必要があります。

 

4.監査役等と内部監査部門との連携

 

監査役等の監査で実務上極めて重要な課題が内部監査部門との連携です。

 

(1)監査委員会、監査等委員会

 

監査委員会と監査等委員会の場合には常勤委員の選任は求められておらず、内部統制システムを通じた監査、すなわち内部監査部門との連携による監査が想定されています。

 

(2)監査役

 

監査役の場合には、独任制による自ら実施する監査を基本とし、監査役会設置会社の場合には常勤監査役設置が法定されていることから、内部監査部門との連携が制度上担保されているわけではありません。

監査役の場合には、個社ごとに内部監査部門と連携について合意しておく必要があります。

 

5.監査役等と会計監査人の連携

 

(1)監査役等の会計監査人に対する責任と権限

 

①会計監査人の評価、独立性と専門性の確認(コーポレートガバナンスコード 補充原則 3-2①)

 

②会計監査人の品質管理・監査実施状況の監視・検証

 

③会計監査人の監査の方法・結果の相当性判断

 

④会計監査人の監査報酬についての同意権

 

⑤会計監査人の選解任・不再任議案の内容決定権

 

(2)会計監査人の対応

 

会計監査人は上記のような監査役等の権限行使に適切に対応しなければなりません。

同時に、不正リスクについて、会計監査人は監査役等に対して次の義務を持つことに留意して、主体的に対応する必要があります。

 

①会計監査人は、監査の各段階において適切に監査役等と協議する等、監査役等と連携を図らなければなりません。

 

②会計監査人は、不正や違法行為の疑義がある場合、速やかに監査役等に報告し、必要となる監査手続等について協議しなければなりません。

 

③会計監査人は、経営者の関与が疑われる不正を発見した場合、監査役等に報告し、協議の上、経営者に適切な措置を求めなければなりません。

 

(3)金融商品取引法上の内部統制監査

 

監査役等は、その多くが会社法上の会計監査人でもある金融商品取引法上の監査人による内部統制監査における統制環境及びモニタリングの評価の一環として、その監査の状況の評価を受けることになります。

 

(4)監査役等と会計監査人の相互評価

 

上記のように、監査役等と会計監査人は相互評価する立場にあります。

この立場関係を理解の上連携を図ることがお互いの監査にとって有益でありコーポレートガバナンスの強化にも貢献することになると考えられます。

 

(5)監査役等と会計監査人との連携

 

監査役等と会計監査人は、以下のような場面を利用して連携を取ります。

 

①会計監査人の監査報告(計画・期中・期末)

 

②定例会議(月次ミーティング又は四半期毎等)

 

③お互いの監査に影響する事項( KAM その他)についての情報交換・意見交換

 

④不正リスクについての協議

 

⑤その他、随時、情報交換・意見交換

 

6.監査役等と内部監査部門の連携

 

(1)監査役等と内部監査部門の連携の必要性

 

内部監査には、経営への貢献と同時にガバナンスへの貢献も求める動きが世界的に強まっています。

 

社内の監査実行部隊である内部監査部門を監査役等の監査で活用することは、監査役等の監査の実効性を高める上で重要です。

 

内部統制を通じた組織的監査を想定した監査委員会及び監査等委員会の監査はもとより、監査役の監査においても内部監査部門との連携は必須となっています。

 

(2)監査役等と内部監査部門との連携のポイント

 

①定期的な情報交換

 

・定例会議や個別案件ごとの情報交換会を実施する。

 

②計画段階での連携

 

・監査役等の要望事項を内部監査部門に伝える。

 

・必要に応じて往査先や往査日程について調整する。

 

③内部監査実施段階における連携

 

・事前の意見交換会、監査終了時の講評会に監査役等も参加する。

 

④監査報告段階における連携

 

・監査結果についてお互いに伝達し、意見交換を行う。

 

(3)監査役等と内部監査部門の信頼関係

 

監査役等と内部監査部門の連携には信頼関係に基づく緊密なコミュニケーションが重要です。

 

内部監査人の信頼を得るためには、監査役等の監査についての知見と監査役等の経営者に対する姿勢が重要であると言われています。