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産業競争力強化法における事業適応と政策税制~DX投資促進税制に係る令和3年度税制改正の概要

Ⅰ.DX投資促進税制の創設

 

1.令和3年度(2021年度)税制改正及び産業競争力強化法等の改正

 

令和3年度(2021年度)税制改正法は令和3年3月26日に参議院で可決され成立しました。特段の定めのあるものを除いて令和3年4月1日から施行されています。

産業競争力強化法等の改正は、令和3年6月9日に参議院で可決され成立しました。

 

(1) 産業競争力強化法等の改正

 

産業競争力強化法等の改正は、「新たな日常」に向けた取組を先取りし、長期視点に立った企業の変革を後押しするため、ポストコロナにおける成長の源泉となる以下の措置を講じる必要がある、との認識の下で内容の見直しが行われたものです。

 

①「グリーン社会」への転換

②「デジタル化」への対応

③「新たな日常」に向けた事業再構築

④中小企業の足腰強化

⑤「新たな日常」に向けた事業環境の整備等

 

(2) 産業競争力強化法等の改正に係る税制措置

 

産業競争力強化法等の改正に係る税制措置として、以下の項目が令和3年度税制改正に盛り込まれました。

 

①DX (デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制の創設

②カーボンニュートラル投資促進税制の創設

③繰越欠損金の控除上限の特例の創設

④中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設

⑤事前認定不要の株式対価M&Aの株式譲渡益の課税繰延制度の創設(現行の産業競争力強化法に規定する「事業再編計画」による特例の廃止)等

 

2.産業競争力強化法改正における「事業適応」と税制措置

 

(1) 産業競争力強化法の目的と「事業適応」の定義

 

産業競争力強化法の目的は、産業競争力の強化の基本理念を定め、規制改革の推進と産業活動における新陳代謝の活性化の促進等をその目的としています。

今般の改正にあたり、新たに「事業適応の円滑化」が「産業活動における新陳代謝」に追加され、「事業適応」の定義が設けられました。

 

【定義】

事業者が、産業構造又は国際的な競争条件の変化その他の経済社会情勢の変化に対応して、その事業の生産性を相当程度向上させること又はその生産し、若しくは販売する商品若しくは提供する役務に係る新たな需要を相当程度開拓することを目指して行うその事業の全部又は一部の変更。

 

(2) 事業適応計画認定制度の創設

 

「事業適応」の内容により、以下の3つに区別され、それぞれについて事業適応の実施に関する指針と事業適応計画の認定が規定されています。

 

①成長発展事業適応

②情報技術事業適応

③エネルギー利用環境負荷事業適応

 

(3)「事業適応」による「産業活動における新陳代謝」

 

「事業適応」による「産業活動における新陳代謝」は、産業競争力強化法等の改正の理由の一つである、「新型コロナウイルス感染症の影響、急激な人口の減少等の短期及び中長期の経済社会情勢の変化に適切に対応して、我が国産業の持続的な発展を図るため、情報技術の進展、エネルギーの利用による環境への負荷の低減等に対応する事業変更を行おうとする者についての計画認定制度の創設」に対応するものです。

 

(4)事業適応の課税の特例

 

それぞれの事業適応の課税の特例として、①DX投資促進税制、②カーボンニュートラル投資促進税制、③繰越欠損金の控除上限の特例が、改正租税特別措置法において措置されました。

事業適応計画と課税の特例の関係は、以下のようになっています。

 

 

3. 「事業適応計画」の作成と認定

 

事業適応の課税の特例を受けるには、「事業適応計画」を経済産業大臣に提出してその認定を受ける必要があります。

 

(1)記載内容

 

事業適応計画には、①事業適応の目標、②事業適応の内容及び実施時期、③事業適応に係る経営の方針の決議又は決定の過程、を記載します。

より具体的な記載内容は、政省令にて明らかにされる予定です。

 

(2)認定事業適応事業者

 

申請された「事業適応計画」が、以下の要件をすべて満たす場合には認定が行われ、認定事業適応事業者 (経済産業大臣により「事業適応計画」の認定を受けた事業者)の認定に係る事業適応計画の内容が公表されます。

 

①実施指針に照らし適切なものであること。

②当該事業適応計画に係る事業適応が円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること。

③当該事業適応計画に係る事業適応による生産性の向上又は需要の開拓が、当該事業分野における市場構造に照らして、持続的なものと見込まれるものであること。

 

Ⅱ.各税制の解説

 

1.デジタルトランスフォーメーシヨン(DX)投資促進税制の創設:令和5年(2023年)3月31日までの時限措置

 

デジタル技術を活用した企業変革を進める観点から、クラウド型システム導入等による「つながる」デジタル環境の構築に向けた投資について、税額控除(5%・3%)又は特別償却(30%)ができる措置が創設されます。

 

(1) 事業適応計画

 

事業適応計画の認定要件を満たした上、次の要件について 主務大臣から確認を受ける必要があります。

 

①デジタル(D)要件(データ連携・共有、レガシー回避、サイバーセキュリティ)

 

・他の法人等が有するデータ又は事業者がセンサー等を利用して新たに取得するデータと既存内部データとを合わせて連携すること

・クラウド技術を活用すること

・情報処理推進機構が審査を行う認定(DX認定)を取得すること

 

②企業変革(X)要件(ビジネスモデルの変革、アウトプット、全社戦略)

 

・商品の製造原価が8.8%以上削減されること等

・生産性向上や売上高の上昇の目標を定めること

・計画期間内で、ROAが2014年〜2018年平均を基準値として1.5%ポイント向上すること

・計画期間内で、売上高伸び率≧過去5年度の業種売上高伸び率+5%ポイントであること

・投資総額が売上高比0.1%以上であること

 

(2) 課税の特例の内容

 

認定された事業適応計画に基づいて行う設備投資について、設備投資総額の上限を300億円として、以下の措置を講じています。

 

対象設備:

ソフトウェア

繰延資産

機械装置

器具備品

 

税額控除:3%、他社とのデータ連携に係るもの5% 又は 特別償却30%

 

(注1)繰延資産:クラウド技術を活用したシステムへの移行に係る初期費用になります。

(注2)機械装置及び器具備品:ソフトウェア又は繰延資産と連携して使用するものに限ります。

(注3)税額控除の控除上限は、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制と合わせて当期の法人税額の20%を上限としています。

 

2.カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設:令和6年(2024年)3月31日までの時限措置

 

2050年カーボンニュートラルに向け、化合物パワー半導体等の生産設備への投資、生産プロセスの脱炭素化を進める投資など脱炭素化効果の高い先進的な投資について、税額控除(10%・5%)又は特別償却(50%)ができる措置が創設されます。

 

1) 事業適応計画の経済産業大臣の認定

 

①脱炭素化を加速する製品を生産する設備(需要開拓商品生産設備)

(ⅰ)需要開拓商品(*)の生産を行うために不可欠な機械装置であること

(ⅱ)専ら需要開拓商品の生産に使用されること

(*)燃料電池・化合物パワー半導体等のうち、特に優れた性能を有するもの

 

②生産プロセスを大幅に省エネ化・脱炭素化するための最新の設備(生産工程効率化等設備)

事業所等の単位で炭素排出量1単位当たりの付加価値額(炭素生産性)の目標が、「3年以内に7 %又は10%以上向上」を満たす計画であること

 

(2) 課税の特例の内容

 

認定された事業適応計画に基づく脱炭素化効果の大きい設備投資について、設備投資総額の上限を500億円として、以下の措置が講じられます。

税額控除の控除上限は、デジタルトランスフォーメーシヨン投資促進税制と合わせて当期の法人税額の20%を上限としています。

 

①需要開拓商品生産設備

 

対象設備:機械装置

 

税額控除:10% 又は 特別償却:50%

 

②生産工程効率化等設備

 

対象設備:導入される設備が事業所の炭素生産性を1%向上させることを満たす必要があります。

機械装置

器具備品

建物附属設備

構築物

 

税額控除:5% 目標が10%以上向上の場合10% 又は 特別償却:50%

 

3.繰越欠損金の控除上限の特例の創設

 

コロナ禍の厳しい経営環境の中、赤字であってもカーボンニュートラル、DX、事業再構築・再編等へ果敢に前向きな投資を行う企業に対し、コロナ禍の影響を受けた2年間に生じた欠損金額について、その投資額の範囲内で、最大5年間、繰越欠損金の控除限度額を最大100%とする特例が創設されます。

 

(1) 事業適応計画

 

事業適応計画の認定要件を満たした上で、次の要件を満たす必要があります。

主務大臣が計画を認定するとともに投資実績を毎年確認します。

 

①将来の成長に向けた投資内容を記載した計画を提出すること

②計画期間内に達成を見込む業績目標(ROAが計画認定時の直近事業年度比5%ポイント向上など)を定めること

③投資計画が企業の成長に資する内容であること(単純な維持・更新投資は対象外)

 

(2) 課税の特例の概要

 

認定された事業適応計画に基づく果敢な投資を行う企業の繰越欠損金について以下の措置を講じます。

この特例における欠損金の控除限度額の引上げは、対象欠損事業年度において生じた欠損金額のうち事業適応計画に従って行った投資の額に達するまでの金額を上限とします。

 

対象欠損事業年度:令和2年2月1日から令和3年4月1日までの期間内の日を含む事業年度の2年間

 

欠損金の控除限度額:最大5年間 100%控除可能

 

 

4.中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設

 

(1) 中小企業事業再編投資損失準備金

 

M&A実施後に発生する中小企業の特有のリスク(簿外債務、偶発債務等)に備える観点から、M&Aに関する経営力向上計画の認定を受けた中小企業者が、株式譲渡によってM&Aを実施する場合(取得価額が10億円以下の場合に限る。) において、株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積立金額を損金算入できることとなります。

 

経営力向上計画の認定期限は、令和6年(2024年)3月31日となっています。

 

この準備金は、据置期間終了後、原則として、5年間で均等額を取り崩して益金算入することとなります。

 

(2) 経営力向上計画

 

また、当該認定計画の中で、中小企業経営強化税制の新たな類型の適用ができることとするとともに、所得拡大促進税制の上乗せ要件に必要な計画の認定が不要とされます。

 

 

5.株式対価M & Aを促進するための措置の創設

 

企業の機動的な事業再構築を促し、競争力の維持・強化を図る観点から、自社株式を対価として、対象会社株主から対象会社株式を取得するM&Aについて、対象会社株主の譲渡損益に対する課税を繰り延べる措置が講じられます。

 

自社株式にあわせて金銭等を交付するいわゆる混合対価については、金銭等が20%以下であるものに限ります。

 

 

 

事業セグメントごとの貸借対照表の作成方法と資本コストの算定方法

2020年7月31日に事業再編研究会は、公表した「事業再編ガイドライン」の「2.2.4事業評価の仕組みの構築と運用」を踏まえ、事業セグメントごとの貸借対照表(以下、「BS」)の作成方法及び資本コストの算定方法について、本ガイドラインの趣旨との整合性や実務的な利便性を考慮して、一般に採用しやすいと思われる方法を、別紙としてその概要を説明しています。

 

なお、企業の状況や抱える課題に応じて最適な方法は異なりうるため、各社において最適な方法を検討する必要があるとしています。

 

1.事業セグメントごとの貸借対照表(BSの作成方法

 

(1)事業セグメントごとのBSの作成方法

 

事業セグメントごとのBSの作成に関して、負債と株主資本の割合を推計する方法については様々な方法が存在しますが、主な3つの方法について紹介します。

本ガイドラインに沿って事業セグメントごとの資本コスト(WACC)を把握するためには有利子負債と株主資本の割合が必要となるため、負債と株主資本の割付けを行った後、別途、負債の内訳として有利子負債を特定する必要があります。

 

① 資産レバレッジ方法

 

「各資産に一定の掛け目をかけて負債と株主資本の割合を決定する方法」です。

 

この方法は、事業セグメントごとに事業が持つ資産が割り付けられていることを前提に、資産ごとの現金化の容易性等を勘案し、各資産に一定の掛け目をかけて負債と株主資本の割合を推計する考え方です。

 

具体的な掛け目については、明確に決まった一律の数字は存在しないため、専門家のアドバイスを得る等して具体的な掛け目の数値を決める必要があります。

 

具体的な計算例では、A部門の保有する資産の内訳が以下のような資産の割合となっている場合、A部門の負債と株主資本の割合は1:1となります。

 

 

② ベンチマーク方法

 

「同業他社や競合企業と類似の資本構成をとることで負債と株主資本の割合を決定する方法」です。

 

この方法は、同業他社や競合企業は同程度の財務リスクを抱えているとみなして、その数値を参考にして負債と株主資本の割合を推計する考え方です。

 

具体的には、ある企業のA部門と競合関係にある同業のa~f社の株主資本と負債の割合が以下のような場合には、A部門の負債と株主資本の割合は1:1と推計することになります。

 

 

③ 実績配賦方法

 

「事業セグメントごとの損益計算書(以下、「PL」)を基に過去の一定期間における純利益額の合計値を算出し、その割合に応じて株主資本を割り付ける方法」です。

 

この方法 は、PL上の「純利益」の一部がBS上の「純資産」の形成に寄与したと考え、各部門が生み出した「純利益」の割合に応じて「純資産」を割り当てる考え方です。

 

具体的には、ある企業にA部門、B部門、C部門の3部門が存在し、過去10年間における各部門の純利益額の合計がA部門:20億円、B部門:70億円、C部門:10億円であった場合、当該企業の保有する純資産を2:7:1の割合で各部門に割り当てることになります。

 

(2)上記の各方法に関する考察

 

本ガイドラインの趣旨との整合性等の観点から、上記(1)で紹介した3つの方法について、考察してみます。

 

①資産レバレッジ方法及び②ベンチマーク方法については、資産の掛け目やベンチマークとする対象企業の設定次第では恣意的な結果を招くおそれがありますが、事業の実態に即した資本構成に近づけることが可能となります。

 

本ガイドラインに記載のとおり、事業セグメントごとの資本コストを適切に把握し、事業ポートフォリオの機動的な組換えを通じた収益性の向上や成長事業に対する投資を促進するためには、成熟・衰退事業に対して株主資本が厚く配分され、新規•成長事業に対して負債が厚く配分される可能性の高い③実績配賦方法は必ずしも望ましい方法とはいえません。

 

ただし、事業セグメントごとのBSの作成には、社内の膨大な調整を伴うため、現場の納得感が得られやすい③実績配賦方法を補充的に利用することは考えられます。

 

 

(3)会社全体のBSとの整合性

 

①、②の方法で事業セグメントごとのBSを作成した場合、事業セグメントごとのBSの合計値が会社全体のBSの数値と不一致を起こす場合があります。

 

このような場合の処理としては、一般的には「本社部門」という事業セグメントを設けて、遊休資産等を吸収する方法が考えられます。

 

これにより、事業セグメントごとのBSを修正する必要がなくなるとともに、どの事業セグメントにも紐づかないで活用されていない資産を把握するという点でも有意義です。

 

ただし、事業セグメントごとのBSの合計値と会社全体のBSの数値との乖離が大きい場合には、事業セグメントごとのBSが会社全体の財務状況と大きく乖離している可能性があるため、差分について当該科目の加重平均割合に応じてそれぞれの事業セグメントへ配分することも考えられます。

 

(4)事業セグメントごとのBSを作成する際のポイント

 

事業セグメントごとのBSの作成は、会社が保有する経営資源の配分を伴うため、本社の管理部門と事業セグメント部門との調整には相当の時間とマンパワーが発生することが想定されます。

事業ポートフォリオ管理を適切に行うために、トップ主導の下、必要に応じて外部リソースを活用しながら、短期間で集中して行うことが望ましいと考えられます。

 

① 管理会計のため「ざっくり」と作成することを心掛ける

 

事業セグメントごとのBSの作成は、あくまで事業ポートフォリオ管理を適切に行うことが目的であるため、制度会計のような精緻さは求められておらず、まずは短期間で集中的に「ざっくり」と作成することが効果的です。

 

② 必要に応じて外部リソース(コンサルタント等)を活用する

 

事業セグメントごとのBSの作成は、社内リソースだけで行うことが難しい場合も想定されるため、社内での検討が行き詰った場合には、コンサルタント等の外部リソースを必要に応じて活用することも効果的です。

 

③ 各事業セグメントとの調整はトップ主導で理解を求める

 

事業セグメントごとのBSの作成は、本社主導の下、トップダウンで行うことが不可欠です。

 

BSの作成は単なる数字作成作業ではなく、会社が保有する経営資源の配分決定であり、社内から様々な反論や批判がでることも覚悟した上で、最終的には経営トップが自ら判断する覚悟を持って行うべきです。

 

2.資本コスト(WACCの算定方法

 

(1)事業セグメントごとの資本コスト

 

事業セグメントごとの資本コスト(WACC)を算定するためには、BSを作成し、株主資本コストを算定する必要があります。

 

株主資本コストの算定方法で一般的とされるCAPM理論に基づいて株主資本コストの算定を行う場合、上場企業の場合であれば株価の動きからβ値を直接推測することができますが、企業の一部である事業セグメントごとのβ値については市場情報から直接算定することは困難です。

 

このため、事業セグメントごとのβ値については、当該事業セグメントと同様の事業を主要事業とする他の上場企業(以下「類似企業」という。)のβ値を基に推計する必要があります。

 

(2)アンレバードβ

 

類似企業のβ値を基に対象事業セグメントのβ値を推計する場合に問題となるのは、通常、β値には株主から見たあらゆる評価が反映されるため、市場価格に基づいて作成されたβ値には事業リスクのみならず、財務リスクに対する評価が含まれているという点です。

 

例えば、株主は負債割合が高いほど、倒産時に自らの手元に戻ってくる金額が少なくなる可能性が高くなるというリスクを背負っているため、資本構成によるリスクがβ値に反映されています。

 

このため、類似企業のβ値を基に対象事業セグメントのβ値を推計するためには、類似企業の市場データに基づくβ値から、当該企業の負債が0であると仮定して財務リスクを取り除き、事業リスクのみを抽出した「アンレバードβ」を求めた上で、対象企業の財務リスクを加味して当該事業セグメントのβ値を算出する必要があります。

 

(3)事業セグメントごとのβ値の算定手順

 

事業セグメントごとのβ値については、以下の手順で算定を行うこととなります。

 

① 類似企業を特定する(複数選択することを想定)

 

② 市場データを用いて類似企業のβ値を算定する

 

③ ②で算定したβ値をアンレバードβ値へ変換する

 

④ ③で算定したβ値を基に、対象となる事業セグメントのアンレバードβ値を推計する

 

⑤ 対象となる事業セグメントのBSに基づく負債資本構成を踏まえ、④で算出したアンレバードβ値を通常のβ値へ変換する

コングロマリット・ディスカウント~コングロマリット型企業の特徴、メリット・デメリット

コングロマリットとは「巨大な複合企業」のことです。

コングロマリット型企業の特長とメリット・デメリットについて考えてみましょう。

また、株式市場では、コングロマリット・ディスカウントが取りざたされることがあります。コングロマリット・ディスカウントについても考察します。

 

1.コングロマリット型企業とは

 

(1)コングロマリット企業の経緯

 

コングロマリットは、日本語で「複合企業」とも呼ばれ、相互に関連性の薄い異業種を多数兼営する企業形態をいいます。

 

元々は、歴史の浅い無名の小企業が、大規模であるのに経営内容が悪いため、株価が低くて含み資産の大きい企業の株式を市場で買い占め、経営権を取得するといった行動を次々に行い、異業種の複合企業を形成したことが「コングロマリット」の始まりとされています。

 

その後、1970年代にGEのような巨大企業の一部もこの戦略を採用し、コングロマリット型M&Aに資本を投入するようになりました。GMやAT&T、エクソン、IBMなども多業種への展開を追随し、「多角化企業」というカテゴリーができました。

 

そして、時代が進み、規制緩和や独占禁止法適用除外などが認められるようになると、「通信メディアコングロマリット」や「金融コングロマリット」などの新業態ができる一方で、多角化から選択・集中へと業態を変える企業も増え、今日では、コングロマリットの業態も変化しています。

 

(2)経営のスピード

 

コングロマリット型経営は、M&Aや資本提携などを行うことにより事業をゼロの状態で立ち上げるよりもスピーディーで効率良く事業を進めることができます。

このような拡大戦略を実行するためには、ヒト・モノ・カネ・情報などの豊富な経営資源が必要となります。

 

2.コングロマリット型企業経営のメリット

 

コングロマリット型企業経営は、以下の点がメリットとして挙げられます。

 

・相乗効果(シナジー効果)

・事業再編やM&A

・リスクの分散

 

(1)相乗効果(シナジー効果)

 

コングロマリット型企業経営は迅速に多業種の事業を獲得できるため、早期の企業価値の向上や事業間の相乗効果(シナジー効果)を目指す企業に有効な手段とされています。

 

常に激しい動きを見せるグローバル経済下では、新市場開拓や新規参入において、事業同士の相乗効果が生まれ企業価値の向上につなげることができるコングロマリット型M&Aは、非常に有効な手段となりえます。

 

コングロマリット型企業では、異なる商品・サービス事業の取得により、新しい技術やノウハウを得ることが期待でき、その新技術の知識やノウハウなどを、グループ企業内で共有することができます。

顧客の各事業間の回遊がある場合は、事業間で相乗効果が生まれて企業価値も向上することになります。

 

(2)事業再編やM&A

 

コングロマリット型企業経営では多業種に事業展開しているため、持株会社(経営管理会社)を設立してグループ経営を行う手法が一般的です。

これにより経営環境が変化した場合でも、迅速な事業再編やM&Aが実施しやすくなります。

 

ほかにも、コングロマリット型企業経営により、間接部門の統合などがしやすくなるというメリットもあります。

 

(3)リスクの分散

 

経営のリスクを分散できることも、コングロマリット型企業経営のメリットです。

 

企業経営においては、途中で外部環境が変化することがあります。

外部環境が変化していっても、社内での経営リソースが多いコングロマリット型企業は迅速にM&Aや事業再編を実施して、経営成績や財政の悪化を防ぐことが可能です。

特定の事業に頼るよりも、複数の事業を展開していった方がリスクは分散できます。

 

3.コングロマリット型企業経営のデメリット

 

コングロマリット型企業経営にはメリットがある一方、デメリットも存在します。

 

・企業価値の低下の

・コーポレートガバナンスの低下

・企業内でのコミュニケーションの不具合

 

(1)企業価値の低下(コングロマリット・ディスカウント)

 

コングロマリット型企業経営では多業種事業が主となりますが、それにより投資家からの評価を受けづらいといったデメリットが生じます。

 

投資家からの低い企業価値評価は株価にマイナスの影響をおよぼします。

株式時価総額が低下することにより、企業の信頼性が低下し、資金調達に悪影響をおよぼす場合もあります。

 

コングロマリット・ディスカウントについては、後述します。

 

(2)コーポレートガバナンスの低下

 

コングロマリット型企業経営では複数の事業が存在することになります。

コングロマリット型企業経営におけるM&Aは、専門性の高い技術や経験を軸とした事業の取得が目的となっている場合が多く、それぞれの事業は独立性が高いといえます。

事業それぞれの独立性が高い場合、当該事業について専門知識を持たない企業が異業種の企業を買収してしまうと、適切に経営を監視できないケースが出てきます。

 

その結果として懸念される点がコーポレートガバナンスの低下です。

コーポレートガバナンスが低下しますと、子会社や関連会社に対してグループとしての経営戦略を徹底することができずグループ経営戦略に齟齬をきたす恐れや、不正会計・不祥事といった事態を招きやすくなる恐れがあります。

 

(3)企業内でのコミュニケーションの課題

 

事業それぞれの独立性が高い場合、専門外である他事業会社との連携や接触の機会をなかなか持てず、「相乗効果に必要な事業内部の情報が伝わらない」「コミュニケーションが取れない」という環境になってしまう危険性もはらんでいます。

 

特にM&A直後は、それぞれの企業風土の違いや評価制度の統合などによって従業員の不満、不安が高まりやすくなっています。

M&Aを行う場合には、適切なPMI( Post Merger Integration:新しい組織体制の構築を目指したプロセス)の実行が求められます。

 

4.コングロマリット・ディスカウント~サム・オブ・ザ・パーツ分析

 

(1)コングロマリット・ディスカウントとは

 

コングロマリット・ディスカウントとは、M&A などを通じて事業を多角化している企業において、単体でそれぞれの事業を営む場合と比較したとき、市場からの評価が低下し、株価が下落している状況をいいます。

 

一般にコングロマリット・ディスカウントが起こる要因として、投資家側の視点からみますと以下の点が挙げられます。

 

①企業側では、事業の多角化が業績の安定化などの利点があると説明しますが、事業の全体像や相乗効果が見えにくいこと

 

②経営資源が分散して経営効率が落ちると想定されること

 

③複合企業の価値を精緻に評価することが難しいこと

 

④投資家は、リスク分散に際して、コングロマリット型企業に投資するよりも複数の有望企業に分散して投資することを好むこと

 

(2)サム・オブ・ザ・パーツ(Sum-of-the-Parts:SOTP)分析とは

 

サム・オブ・ザ・パーツ(Sum-of-the-Parts:SOTP)分析とは、複数の事業や資産を有する企業体の企業価値評価を行う手法です。

各事業や資産毎に事業価値評価額を算出し、それらを積み上げて全体の企業価値評価を行います。

 

①評価例

 

以下のようなAからDまでの4つの事業や資産がある企業があるとします。このとき、各事業を次のように個別評価し、積み上げて企業価値を算出します。

 

A事業:同事業の業界マルチプルベースでの評価

B事業:同事業の業界マルチプルベースでの評価

C上場子会社:所有株式の時価又はマルチプルベースでの評価

D不動産:不動産鑑定評価額、売却可能金額など

 

②株式価値は、企業価値からネットデットを控除することで算出できます。

 

(3)上記で算定された株式価値と市場における株式時価総額との差額が、コングロマリット・ディスカウントとなります。

 

 

 

(4)コングロマリット・ディスカウントの解消策

 

経営者と投資家では、それぞれの立場が異なるため、コングロマリット・ディスカウントを解消することは容易ではありません。

 

事業の多角化によって経営が中長期的に安定するという説明は、投資家には響きません。

経営に対するスパンの考え方が異なることもその一因です。

長期投資を行う投資家もいますが、一般的には3年以内の短期投資を行う投資家が多いと思います。この場合、事業の選択と集中により、より短い期間での株価上昇を期待します。

一方、会社は、場合によっては、10年から30年先の長期にわたるコアコンピタンスを設定して活動します。企業経営の長期的な安定と持続的成長を目指す場合が多いと思います。

 

投資家との対話を行い、コングロマリット経営を行うことが長期にわたるコアコンピタンスを実現するための最善の方策であることを理解してもらう努力が必要になります。

持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート

「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」(以下、本報告書)が2020年9月30日に公表されました。

 

1.背景問題意識

 

(1) 議論の対象

 

本報告書は、企業の競争力の源泉は人材であるとして、人材の「材」は「財」であるという認識の下、持続的な企業価値の向上と「人的資本(Human Capital)」について議論したものです。

 

(2) 持続的な企業価値向上の課題

 

持続的な企業価値の向上を実現するためには、ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠であるとしています。

 

企業や個人を取り巻く変革のスピードが増す中で、目指すべきビジネスモデルや経営戦略と、足下の人材及び人材戦略のギャップが大きくなってきています。

このギャップをどのような時間軸でいかに適合させていくかが、大きな経営課題となっています。

 

新型コロナウイルス感染症の感染拡大及びこの対応により、こうした課題が一層、明確になってきています。

 

(3) 企業の人材戦略

 

企業の人材戦略は、経営戦略とのギャップを適合させ、新たなビジネスモデルや経営戦略の展開による持続的な企業価値の向上につなげていくことが求められます。

 

このためには、経営陣、特にCHRO (最高人事責任者:Chief Human Resource Officer)のイニシアティブで人材戦略を策定し、経営陣のコアメンバーが連携して戦略を実行することが必要になります。

 

経営陣のコアメンバーとは、下記の経営陣になります。

 

① CEO (最高経営責任者:Chief Executive Officer)

② CSO (最高経営戦略責任者:Chief Strategy Officer)

③ CHRO (最高人事責任者:Chief Human Resource Officer)

④ CFO (最高財務責任者:Chief Financial Officer)

⑤ CDO (最高デジタル責任者:Chief Digital Officer)

 

加えて、CHROは人材戦略を従業員や投資家に積極的に発信・対話する役割が重要となります。

また、こうした経営陣の取組を監督・モニタリングする取締役会の役割や経営陣と経営戦略や人材戦略について対話する投資家の役割も重要となります。

 

(4) 3P・5Fモデル

 

人材戦略は、産業や企業により異なりますが、俯瞰してみますと、共通する視点や要素を抽出することができます。

 

本報告書では、企業を越えて人材戦略に求められる3つの視点(Perspectives)と5つの共通要素 (Common Factors)を3P・5Fモデルとして整理しています。

 

(5) 報告書の使用目的

 

本報告書は、人材戦略を策定し実行する経営陣及び経営陣を監督・モニタリングする取締役会にとっての羅針盤になるとともに、機関投資家のエンゲージメント活動の際にも参照されることが期待されます。

 

2.持続的な企業価値の向上と人的資本

 

足下の新型コロナウイルス感染症も含め、企業・個人を取り巻く環境が大きな変化に直面していることを踏まえ、今後のアクションの羅針盤となる変革の方向性を提示しています。

 

(1) 問題意識

 

① 新型コロナウイルス感染症への対応の中、働き方を含めた人材戦略の在り方が改めて問われています。

これは、第4次産業革命等による産業構造の急激な変化、少子高齢化、人生100年時代の到来等による個人のキャリア観の変化などの企業や個人を取り巻く環境への対応と本質的には同じ方向性です。

 

② こうした変化の中で、企業は様々な経営上の課題に直面しています。これらの課題は、人材面での課題と表裏一体であり、スピーディーな対応が不可欠とされています。

 

③ このため、各社がそれぞれ企業理念や存在意義 (パーパス)にまで立ち戻り、持続的な企業価値の向上に向け、人材戦略を変革させる必要があります。

 

(2) 変革の方向性

 

① 国内外の機関投資家も、持続的な企業価値向上のためにはESG要因を重視する流れとなっています。

その中でも、S (ソ-シャル)の重要性が再認識されています。

 

② 変化が激しい時代には、これまでの成功体験に囚われることなく、企業も個人も、変化に柔軟に対応し、想定外のショックへの強靱性(レジリエンス)を高めていく変革力が求められます。

 

「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」より抜粋

 

3.経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割

 

変革をリードする経営陣、経営陣を監督・モニタリングする取締役会や経営陣と対話を行う投資家について、それぞれが果たすことが期待される役割やアクションを整理しています。

 

(1) 経営陣が果たすべき役割・アクション

 

① 人材戦略の変革にあたっては、経営陣によるイニシアティブ、取締役会によるガバナンス、企業と投資家との対話の強化が重要です。

 

経営陣においては、企業理念や存在意義(パーパス)、経営戦略を明確化した上で、経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行すべきです。

 

② 人材戦略の実行にあたっては、CHROの役割が重要であると同時に、経営トップ5C (CEO、CSO、CHRO、CFO、CDO)の連携が重要となります。

 

また、従業員・投資家に対し、人材戦略を積極的に発信し、対話することが求められます。

 

(2) 取締役会が果たすべき役割・アクション

 

① 取締役会においては、経営戦略の実現可能性という観点から経営戦略と連動した人材及び人材戦略が重要であること等を踏まえ、人材に関する議論を行うことが求められます。

 

② 取締役会においては、自社の人材戦略の方向性が経営戦略の方向性と連動しているかについて監督・モニタリングを行い、適切な方向に導くことが求められます。

 

(3) 投資家が果たすべき役割・アクション

 

投資家においては、中長期的な企業価値の向上につながる人材戦略について、企業からの発信・見える化を踏まえた対話や投資先の選定を行うことが求められます。

 

「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」より抜粋

 

 

(4)(参考)経営陣、取締役会、投資家の役割・アクション

 

経営陣が果たすべき役割アクション

 

<企業理念、企業の存在意義(パーパス)や経営戦略の明確化>

01.企業理念、企業の存在意義(パーパス)や経営戦略の明確化

02.経営戦略における達成すべき目標の明確化

<経営戦略と連動した人材戦略の策定•実行>

03.経営戦略上重要な人材アジェンダの特定

04.目指すべき将来の姿(To be)に関する定量的なKPIの設定

05.現在の姿(As is)の把握、”As is – To beギャップ”の定量化

06.ギャップを埋め、企業価値の向上につながる人材戦略の策定•実行

< CHROの設置•選任、経営トップ5Cの密接な連携>

07.CEOとともに主導するCHROの設置・選任

08.経営トップ5Cの密接な連携

<従業員•投資家への積極的な発信•対話>

09.従業員への積極的な発信・対話

10.投資家への積極的な発信・対話

 

取締役会が果たすべき役割・アクション

 

<人材戦略に関する取締役会の役割の明確化

01.人材戦略に関する取締役会の役割の明確化

<人材戦略に関する監督•モニタリング>

02.経営陣が策定した人材戦略の承認、適切な実行の監督・モニタリング

  1. CxOサクセッション、経営戦略に不可欠な人材パイプラインの監督・モニタリング

04.人材戦略の実行プロセスで醸成される企業文化の監督・モニタリング

 

投資家が果たすべき役割・アクション

 

01.中長期視点からの建設的対話

02.企業価値向上につながる人材戦略の「見える化」を踏まえた対話、投資先の選定

 

 

4.人材戦略に求められるつの視点とつの共通要素

 

経営陣が主導して策定・実行する人材戦略について、3つの視点(Perspectives)及び5つの共通要素(Common Factors)を、3P・5Fモデルとして整理しています。

 

(1) 3つの視点

 

人材戦略は経営戦略やビジネスモデルに応じて個社性がある一方で、下記の3つの視点から俯瞰することが可能です。

 

① 経営戦略と人材戦略の連動

② As is-To beギヤップの定量把握

③ 人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着

 

(2) 5つの共通要素

 

また、人材戦略については、下記の5つの共通要素も存在します。

 

① 動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化

② 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

③ リスキル・学び直し

④ 従業員エンゲージメント

⑤ 時間や場所にとらわれない働き方

 

企業においては、こうした共通の要素に加え、自社の経営戦略上重要な人材アジェンダについて、経営戦略とのつながりを意識しながら、具体的な戦略・アクション・KPIを考えることが有効です。

 

「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」より抜粋

 

サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実現における課題と解決の方向性

経済産業省では、2019年11月に「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」(以下「本検討会」という。)を設置し、2020年8月28日に中間とりまとめを公表しました。

 

1.本検討会の目的

 

「伊藤レポート」公表以降の5年間の一連の取組の成果を振り返り、対話を巡る現状を概観した上で、企業や投資家が様々な環境変化に直面する中で対話を通じて価値を協創していくに当たっての課題や対応策を検討しています。

 

(1) 企業側が価値創造に取り組む際に具体的に投資家とどのような対話を行っているか、課題があるか。

 

(2) 投資家側が企業との中長期の価値実現のためにどのような対話を行っているか、課題があるか。

 

(1)、(2) について、具体的な実例を交えながら対話形式で課題を浮き彫りにしています。

 

さらには、アナリストや評価機関などの具体的な取組や事例も交えながら、資本市場やそれを支える環境整備についての課題についても整理を行っています。

 

2.「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」において抽出された課題

 

(1)対話の「中身」における課題

 

① 投資家の理解を得にくい、以下のテーマに関して、どのように対話をすべきか

 

・多角化経営、事業ポ-トフォリオ・マネジメント

 

・新規事業創出・イノベーションに向けた種植え

 

・社会的価値(ESG)と経済的価値(稼ぐ力・競争優位性)の両立

 

② 前提となる経営環境の変化

 

コロナ危機、第4次産業革命・DX、気候変動やグローバルサプライチェーンの寸断など「不確実性」が高まっていること

 

③ 解決の方向性

 

・対話における長期の時間軸の必要性

 

・サステナビリティ・トランスフォーメーシヨン(SX)の実現=企業のサステナビリティ(稼ぐ力)と社会のサステナビリティ(社会課題、将来マーケット)の同期化

 

(2)対話の「手法」における課題

 

① 日本企業が対話に関して三層化しており、大部分の企業が投資家と有効な対話の手法を模索中

 

・質の高い対話の実現に資する対話の手法等が共有されていない

 

・企業の状況に応じて、段階ごとに対話において中心的に取り組むべき事項の整理への要望

 

② 解決の方向性

 

「実質的な対話の要素」を以下の4つの観点から整理しています。

 

ⅰ:対話の原則

ⅱ:対話の内容

ⅲ:対話の手法

ⅳ:対話後のアクション

 

3.対話の「中身」における課題への対応

 

(1)多角化経営、事業のポートフォリオ・マネジメント

 

「統合的なビジネスモデル」として把握し、語ることが重要です。

 

① 中長期的な環境変化の不確実性が高まっており、特定の事業に経営資源を集中することのリスクが高いことを理由とするだけでは、投資家から多角化経営に対して肯定的な評価を得ることには不十分です。

 

② ビジネスモデルについては、自社の競争優位の源泉・参入障壁・「強み」といったいわゆる「コアコンピタンス」が重要な要素となります。

 

③ 多角化経営においても、「コアコンピタンス」について企業が投資家に対し、具体的かつ積極的に説明していくことが必要です。

 

④ 複数事業の関連性やシナジーが生じる仕組みが分かりづらい多角化経営の場合、中長期という時間軸での企業の稼ぐ力、競争優位性が持続・強化され、中長期的な企業価値向上につながるという一つのビジネスモデルであることの説明が必要となります。

 

「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ」より抜粋

 

(2)イノベーション等に向けた種植え

 

種植えの仕組み等について、企業と投資家が、これまで以上に踏み込んだ対話を行うことの必要性が認識されています。

種植えの見通し、生み出す企業の仕組みやガバナンス、新規事業を「塊」として語ることが必要です。

 

① 種植えの仕組み等について、企業から投資家に対し、具体的に、どの時点で、どの程度の経営資源を投入して種植えを行うのか、そして将来的に、どの程度の確度で、どの時点で芽を出し、どの程度の市場に成長し、どの程度のリターンがあると想定しているのかを投資家の疑問点も踏まえながら丁寧に説明することが必要です。

 

② 数々の失敗の中から成功が生まれるというイノベーションの特質を踏まえて、個々の取組それ自体は未実現の利益であって評価できないとしても、それらを束ねた新規事業群の「塊」として捉え、その「塊」を評価することの必要性も指摘されています。

 

(3)ESG/SDGsなどの社会的価値と企業の稼ぐ力•競争優位性に基づく経済的価値の両立

 

ESG/SDGsにおける中長期のリスクとオポチユニティの両面を把握し、具体的なアクションに反映させることが必要です。

 

① 現在のESG投資は、ネガティブ・スクリ—ンとして、社会のサステナビリティに対応できていない企業を投資対象から外す方向で考慮している例が多くなっています。

これだけでは、中長期的な新市場創出・獲得につながるオポチュニティを十分に捉えることができません。

 

② 時間軸を長期にした上で、リスクの側面のみならず新市場創出・獲得による企業の成長性の側面との両面を捉えることで社会的価値を経済的価値と同期化させ、それを経営や具体的なアクションに落とし込むことで、社会的価値を経済的価値と同期化させ、企業価値向上に繋げでいくことが重要となります。

 

4.問題解決の方向性~サステナビリティ・トランスフォーメーシヨン(SX)~

 

(1)対話の「中身」における課題

 

① 投資家の理解を得にくい、以下のテーマに関して、どのように対話をすべきか

 

ⅰ 多角化経営、事業ポートフォリオ・マネジメント

ⅱ 新規事業創出・イノベーションに向けた種植え

ⅲ 社会的価値(ESG)と経済的価値(稼ぐ力・競争優位性)の両立

 

② 前提となる経営環境の変化

 

コロナ危機、第4次産業革命・DX、気候変動やグローバルサプライチェーンの寸断など「不確実性」が高まっています。

 

③ 従来の経営・対話のイメージ

 

これまでの中期経営計画を中心とした時間軸においてリスク・成長機会を想定するだけでは、必ずしも長期の時間軸において企業価値を向上させることができなくなっています。

 

(2)解決の方向性:サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは

 

①対話における長期の時間軸の必要性

 

投資家の理解を得にくい3つのテーマは、いずれも、不確実性の高まりや社会のサステナビリティの要請の高まりを踏まえた、中長期的に企業価値を向上させていくための企業の取組です。

 

このような取組について、企業と投資家の認識のギャップを解消し、中長期的な企業価値向上に向けた質の高い対話を実現するためには、企業と投資家が、中期経営計画の想定する時間軸を超えて、意識的に5年、10年という長期の時間軸に引き延ばした上で、「企業のサステナビリティ」(企業の稼ぐ力の持続性)と「社会のサステナビリティ」(将来的な社会の姿や持続可能性)を同期化させる対話やエンゲージメントを行っていくことが必要です。

 

②サステナビリティ・トランスフォーメーション

 

こうした経営の在り方、対話の在り方を、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ぶこととしています。

 

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の必要性=企業のサステナビリティ(稼ぐ力)と社会のサステナビリティ(社会課題、将来マーケッ卜)の同期化

 

「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ」より抜粋

社外取締役の5つの心得~社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)より

「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン) (以下、本ガイドライン)」が2020年7月31日に経済産業省から公表されました。

本ガイドラインから「社外取締役の5つの心得」を見てみましょう。

 

Ⅰ 本ガイドラインの位置づけ

 

本ガイドラインは、会社法及び東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」(2015年6月1日適用開始、2018年6月1日改訂。以下、「コーポレートガバナンス・コード」)の趣旨を踏まえつつ、社外取締役の在り方(役割と具体的な取組等)について実務的な視点から整理するものです。

 

本ガイドラインは、基本的に、コーポレートガバナンス・コード及びCGSガイドラインにおける考え方を踏襲し、機関設計を問わず、監督機能の強化を図っていくことが重要であるという考え方に基づいて、社外取締役の在り方を整理しています。

 

Ⅱ 本ガイドラインの目的と主な対象

 

1.本ガイドラインの目的

 

以下の項目を目的としてあげています。

 

① 社外取締役に対して期待される基本的な役割を明確にすること

 

② そのような役割を果たすための取組について、社外取締役として経験豊富な方々の経験知に基づくベストプラクティスを紹介すること

 

③ 会社の持続的な成長に向けた実質的な機能の発揮を促すこと

 

2.主な対象者

 

我が国の上場企業の社外取締役を広く対象としています。

 

3.本ガイドラインの内容

 

① 社外取締役に求められる具体的な役割や重点は、会社の経営の実態、企業規模や機関設計、委員会の設置状況等のコーポレートガバナンスへの取組状況等により多様であることを踏まえています。

 

② 本ガイドラインは、基本的な事項も含めて各社に共通すると考えられるものを中心に一般的な提言をまとめたものです。

 

③ 各社が置かれている状況に応じて、適宜参照されることを想定しています。

 

④ 上場企業の中でも、「市場や資金調達の面でグローバル化を図り、グローバル競争の中で持続的な成長を目指す企業」においては、グローバル水準のガバナンス体制を構築する必要性が高いと考えられることから、特に、こうした企業の社外取締役においては、本ガイドラインの提言を踏まえ、更なるガバナンス強化を目指し、より積極的な取組を行うことが期待されています。

 

Ⅲ 取締役の5つの心得

 

1. 心得1

 

(1)基本的考え方

 

① 取締役の役割

 

取締役の最も重要な役割は、株主の付託を受けて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る観点から経営を監督することです。

 

その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことです。

 

必要な場合には、社長・CEOの交代を主導することも含まれます。

 

② 社外取締役の役割

 

会社の経営を一義的に担っているのは経営陣であり、日々の業務執行は自律的になされるべきものです。

 

社外取締役の役割は、こうした経営陣による会社の経営について、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の観点から適切に行われているか評価・確認し、必要に応じて軌道修正を促すことです。

 

(2)基本的任務

 

① 資本コストを踏まえた会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の実現という観点から、経営陣の評価が適切に反映されるような報酬制度の設計を行います。

 

② 少なくとも年に1回、こうした評価に基づいて現在の経営者に引き続き経営を委ねるべきか否かの判断を行い、必要な場合には、適時適切に社長・CEOの交代を促します。

 

(3)平時における経営陣の評価

 

① 平時における経営陣の評価については、取締役会や指名委員会・報酬委員会において、中期経営計画等に掲げた経営目標・KPIやインセンティブ報酬におけるKPI 等を踏まえた業績評価を行います。

 

② 取締役会等における経営戦略に関する議論を通じて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の観点から、経営陣の立案能力や方向性の判断、実行状況やスピード感について評価します。

 

2. 心得2

 

(1)基本的考え方

 

① 会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上をさせるために会社の経営戦略を検討し、決定することは取締役会の主要な役割・責務の一つです。

 

② 社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛けるべきです。

 

(2)基本的任務

 

① 会社の経営戦略を決定する際に、社外取締役は、経営陣の説明をよく聴く必要があります。

 

② その上で、社内のしがらみにとらわれない立場から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、中長期的で幅広い多様な視点を提供することが重要です。

 

③ 上記の点は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るという役割を果たす上で極めて重要です。

 

④ 会社の経営戦略を検討し決定する取締役会のメンバーとして、事業に精通した経営陣と社外の幅広い視点を提供する社外取締役が協働することで、よりよい経営戦略の策定につながると考えられます。

 

3. 心得3

 

(1)基本的考え方

 

① 社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきです。

 

② 経営陣を監督するという役割を果たし、必要な場合には社長・CEOの交代を主導することも期待されるため、社外取締役には、会社及び経営陣からの独立性が求められます。

精神的な独立性のためには、会社に対して経済的に過度に依存しすぎないことが重要となります。

 

4. 心得4

 

社外取締役は、経営を監督するという役割を果たすため、経営陣と適度な緊張感・距離感を保つことが求められます。

 

実効的な監督を行うためには、率直な意思疎通により社内の状況をよく知ることが重要であり、そのためには、経営陣との間でそれぞれの役割について相互に尊重し合う信頼関係を構築することが不可欠です。

 

5. 心得5

 

(1)基本的考え方

 

会社と経営陣・支配株主等との利益相反が生じ得る場面においては、利害関係者がその判断に関与することは適切ではないため、独立的な立場から社外取締役が積極的に関与し、その妥当性を判断することが期待されます。

 

(2)利益相反の例

 

会社と経営陣や支配株主等との利益相反が生じ得る場面の例として、以下のような場面が考えられます。

 

①MBO (マネジメント・バイアウト)や支配株主による従属会社の買収への対応

②支配株主等との取引

③敵対的買収への対応(買収防衛策の導入や実行等)

④第三者割当増資

 

上記のうち、「MBO (マネジメント・バイアウト)や支配株主による従属会社の買収への対応」については、取締役や支配株主の利益と一般株主の利益との間の利益相反リスクが特に深刻となり得る場面です。

企業価値の向上と一般株主の利益の確保を図るという社外取締役の役割を果たすため、平時よりも踏み込んだ対応が求められます。

 

また、「敵対的買収への対応」や「第三者割当増資」等の場面においても、MBO等に近い利益相反リスクが存在し得るため、これに準じた対応が求められると考えられます。

 

(3)支配株主等が存在する企業

 

支配株主等が存在する企業においては、支配株主等とそれ以外の一般株主との間に利益相反リスクが存在するため、上記のような取引においては、社外取締役は、すべての株主に対して中立的な立場ということではなく、支配株主等以外の一般株主の利益を確保する観点から判断・行動することが求められます。

デジタルトランスフォーメーション政策の方向性と今後の方向性の検討

2020年12月28日に、経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」が「DXレポート2 中間取りまとめ」を公表しました。

企業のDXを加速するための課題やその対応策を中心に議論されています。「政府の政策の方向性」と「今後の方向性の検討」についてみてみましょう。

 

Ⅰ 政府の政策の方向性

 

1.共通理解の形成のためのポイント集の策定

 

DX推進に向けた関係者間の共通理解の形成に向け、関係者間での対話の中身をとりまとめた「ポイント集」を整理しています。

 

(1) 必要性

 

① DXの推進に向けては、経営層、事業部門、IT部門が対話を通じて同じ視点を共有し、協働してビジネス変革に向けたコンセプトを描いていく必要があります。

そのために、まずは経営者が、将来のビジネスを見据えた上で取組の方向性となるビジョンについて、関係者間の対話を通じて示すことが重要です。

 

② DXとは何か、会社のビジネスにどう役に立つのか、という基本的な事項についての共通理解が企業内で形成されておらず、DXという言葉を用いた場合に思い描くビジョン、コンセプトが様々な状況にあるため、具体的なアクションにつながらないという問題が見られます。

 

(2) 対応策

 

関係者間での対話の中身の勘所を示すにあたり、企業が抱える課題(Why、What、How)それぞれの「分からない」を「分かる」にするための意識向上施策として、経営層向けに対話の中身をとりまとめた「ポイント集」を整理していきます。

 

2.CIO/CDXOの役割再定義

 

DX推進を経営レベルで推進できるようにするためには、CDOやCIOの役割を明確にする必要があります。

 

CxOが担うべき役割や、ガバナンスの対象事項について再定義を行っています。

 

(1) 必要性

 

① 国内においてCIOとCDXOの役割に関する共通の認識が確立されていません。

企業によってはCIOがDXを推進するCDXOを兼務している例もあります。

DX推進を経営レベルで推進できるようにするためには、CDOやCIOの役割を明確にする必要があります。

 

② 経営層にDXをけん引する役員がいない企業においては、経営層における対話の不足はもとより、DXの推進が阻害されていることを経営層が認識できていない可能性があります。

 

(2) 対応策

 

DXをけん引する経営層の機能として、こうしたCxOが担うべき役割や、ガバナンスの対象事項について再定義を行います。

 

3.DX成功パターンの策定

 

経営者は経営とITが表裏一休であるとの認識をもち、DXに向けた戦略を立案する必要があります。

その際にDXの取組領域や具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる「DX成功パターン」を策定します。

 

「DXレポート2 中間取りまとめ」より抜粋。

 

(1) DX成功パターンの策定:DXに向けた戦略の立案・展開

 

DX成功パターンには、DXに向けた戦略の立案・展開にあたって前提となる、「組織戦略」、「事業戦略」、「推進戦略」が含まれます。

 

 

「DXレポート2 中間取りまとめ」より抜粋。

 

(2) DX成功パターンの策定:DXの構造

 

企業がDXの具体的なアクションを設計できるように、DXを3つの異なる段階に分解します。

これらは必ずしも下から順に実施を検討するものではありません。

「DXレポート2 中間取りまとめ」より抜粋。

 

(3) DX成功パターンの策定:DXフレー厶ワーク

 

DXフレームワークは、以下のようになっています。

「DXレポート2 中間取りまとめ」より抜粋。

 

4.デジタルプラットフォームの形成

 

(1) 共通プラットフォーム推進

 

① 企業が経営資源を競争領域に集中するためには、個社が別々にITシステ厶を開発するのではなく業界内の他社と協調領域を台意形成して共通プラットフォームを構築し、協調領域に対するリソースの投入を最小限にすべきです。

 

② 幅広い業界へ共通プラットフォー厶の横展開が可能となるように、共通プラットフォー厶の形成を阻害している要因の除去や、一層の加速のための施策について検討します。

 

(2) デジタルアーキテクチャ推進

 

① デジタル社会の実現を見据えて、個社のみでは対応しきれない顧客や社会の課題を迅速に解決するために、デジタル企業同士が横連携してエコシステムを形成できるデジタルプラットフォー厶を形成することが重要です。

 

② 情報処理推進機構のデジタルアーキテクチャ•デザインセンターにおいて、産学官の連携の下、全体の見取り図である「アーキテクチャ」を設計するとともに、その設計を主導できる専門家の育成を進めます。

 

5.ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進

 

① 企業がラン・ザ・ビジネスからバリューアップへ軸足を移し、アジャイル型の開発等によって事業環境の変化への即応を追求することで、ユーザー企業・ベンダー企業の垣根はなくなっていくと考えられます。

 

② ベンダー企業は、受託開発型のビジネスとは決別し、ユーザー企業のDXを支援・伴走してけん引するようなパートナーに転換していきます。

 

③ レガシー企業文化から脱却して変化に迅速に適応できる「優れた」ベンダー企業が有する機能・能力を明確にし、ベンダー企業の競争力を定量的または定性的に計測できる指標を策定します。

 

6. DX人材の確保

 

(1) 各企業において社内のDX活動をけん引するDX人材の存在が不可欠

 

自社のビジネスを深く理解した上で、データとデジタル技術を活用してそれをどう改革していくかについての構想力を持ち、実現に向けた明確なビジョンを描くことができる人材が必要になります。

 

(2) 個々人が変化に対して自ら学べるように、社会全体として学び直し(リカレント教育) の仕組みを整備していくことが重要

 

継続的かつ頻繁にスキルをアップデート(リスキリング)する場をいかに提供していくかが重要です。

 

(3) 企業における人材の活用が能力の成長につながり、優れた専門性が市場において評価され、能力開発が推進される環境が重要

 

① デジタル人材市場の課題と人材確保の在り方を再検討します。

 

② デジタル時代の人材評価•育成の在り方を再検討します。

 

③ 人材の流動性をどう高めていけるかも論点となっています。

 

(4) デジタル人材市場における必要な人材の確保に向け、人材のスキルを見える化しマッチ ングを可能とする仕組みについての検討

 

Ⅱ 今後の検討の方向性

 

今後の検討の進め方を以下のように取りまとめています。

「DXレポート2 中間取りまとめ」より抜粋。

経営者に求められる企業価値向上に向け実践すべき事柄~「デジタルガバナンス・コード」の制定

2020年11月9日に、経済産業省から「デジタルガバナンス・コード」が公表されました。

 

Ⅰ.デジタルガバナンス・コードの概要

 

1.現在の状況

 

あらゆる要素がデジタル化されていく Society5.0に向けて、ビジネスモデルを抜本的に変革(DX :デジタルトランスフォーメーション)し、新たな成長を実現する企業が現れています。

 

一方、グローバルな競争の中で、競合する新たなビジネスモデルにより既存ビジネスが破壊される事例(デジタルディスラプション)も現れています。

 

2.持続的な企業価値向上

 

こうした時代変化の中で、持続的な企業価値の向上を図っていくためには、企業全体の組織構造や文化の改革、中長期的な投資等の観点から、経営者の関与が不可欠となっています。

 

① ITシステムとビジネスを一体的に捉え、新たな価値創造に向けた戦略を描いていくこと

 

② ビジネスの持続性確保のため、ITシステムについて技術的負債となることを防ぎ、計画的なパフォーマンス向上を図っていくこと

 

③ 必要な変革を行うため、IT部門、DX部門、事業部門、経営企画部門など組織横断的に取り組むこと

 

3.デジタルガバナンス・コードの制定

 

(1)制定の背景

 

我が国企業で本格的なDXの取組は遅れており、レガシーシステムがいまだ足かせとなっている企業や、ビジネスモデルの変革に取り組むものの、変革の入り口で足踏みしている企業も多く存在します。

 

また、企業のDXを進める能力を無形資産と捉えた、経営者とステークホルダーの対話も十分に行われていません。

 

(2)「デジタルガバナンス・コード」の内容

 

上記の背景の中で、経営者に求められる企業価値向上に向け実践すべき事柄を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめています。

企業がDXの取組を自主的・自発的に進めることを促すものです。

 

特に、経営者の主要な役割であるステークホルダーとの対話に積極的に取り組んでいる企業に対して、資金や人材、ビジネス機会が集まる環境を整備していくとしています。

 

(3)「デジタルガバナンス・コード」の対象

 

対象は、上場・非上場、大企業・中小企業といった企業規模、法人・個人事業を問わず広く一般の事業者としています。

 

ステークホルダーという用語は、顧客、投資家、金融機関、エンジニア等の人材、取引先、システム・データ連携により価値協創するパートナー、地域社会等を含みます。

 

(4)「デジタルガバナンス・コード」の柱立て

 

「デジタルガバナンス・コードの柱立て」は以下のようになっています。

 

1. ビジョン・ビジネスモデル
2. 戦略
2-1.組織づくり・人材・企業文化に関する方策
2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
3. 成果と重要な成果指標
4. ガバナンスシステ厶

 

デジタルガバナンス・コードの全体構造の基本的事項は、情報処理促進法と対応しています。

 

 

 

Ⅱ 各項目の説明

 

1. ビジョン・ビジネスモデル

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

ⅰ) ビジネスモデルとステークホルダー

 

企業は、ビジネスとITシステムを一体的に捉え、デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた、経営ビジョンの策定及び経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきです。

 

ステークホルダーの理解あるいはステークホルダーとの協力・協業を得るための対話を行っていく上で、必要な情報を整理し、発信していくことが求められます。

 

企業は、幅広いステークホルダーあるいは社会全体との関係を想定し、対話のきっかけとなる情報については、広く公表を行うことが望まれます。

 

ⅱ) ビジネスモデルの開示

 

ビジネスモデルとは、企業が事業を行うことで、顧客や社会に価値を提供し、それを持続的な企業価値向上につなげていく仕組みです。

有形・無形の経営資源を投入して製品やサービスをつくり、その付加価値に見合った価格で顧客に提供する一連の流れを指します。

 

自社のビジネスモデルにとって重要な要素を「価値創造ストーリー」として示していくことが重要です。

特に、デジタル技術による社会変化が進む中で、未来に向けて「価値創造ストーリー」をどのように変化あるいは強化させていくかといった方向性を示していくことが望まれます。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術による社会及び競争環境の変化の影響を踏まえた経営ビジョン及びビジネスモデルの方向性を公表していること」です。

 

認定にあたっての判断は、機関承認を得た公開文書に記載されている事項、もしくは、機関承認された方針に基づき作成された内容であって公開文書に記載されている事項をもとに行います。

 

(2) 望ましい方向性

 

① 経営者として世の中のデジタル化が自社の事業に及ぼす影響(機会と脅威)について明確なシナリオを描いていること。

 

② 経営ビジョンの柱の一つにIT/デジタル戦略を掲げていること。

 

③ 既存ビジネスモデルの強みと弱みが明確化されており、その強化・改善にIT/デジタル戦略・施策が大きく寄与していること。

 

④ 事業リスク・シナリオに則った新しいビジネスモデルの創出をIT/デジタル戦略が支援していること。

 

⑤ IT/デジタルにより、他社と比較して持続的な強みを発揮していること。

 

⑥ 多様な主体がデジタル技術でつながり、データや知恵などを共有することによって、さまざまな形で協創(単なる企業提携・業務提携を超えた生活者視点での価値提供や社会課題の解決に立脚した、今までとは異次元の提携)し、革新的な価値を創造していること。

 

(3) 取組例

 

① デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえ、経営方針および経営計画(中期経営計画・統合報告書等)において、DXの推進に向けたビジョンを掲げている。

 

② DXの推進に向けたビジョンを実現するため、適切なビジネスモデルを設計している。

 

③ ビジネスモデルを実現するために、DX推進においてエコシステム等、企業間連携を主導している。

 

2. 戦略

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

企業は、社会及び競争環境の変化を踏まえて目指すビジネスモデルを実現するための方策としてデジタル技術を活用する戦略を策定し、ステークホルダーに示していくべきです。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術による社会及び競争環境の変化の影響を踏まえて設計したビジネスモデルを実現するための方策として、デジタル技術を活用する戦略を公表していること」です。

 

認定にあたっての判断は、機関承認を得た公開文書に記載されている事項、もしくは、機関承認された方針に基づき作成された内容であって公開文書に記載されている事項をもとに行います。

 

(2) 望ましい方向性

 

① 経営ビジョンを実現できる変革シナリオとして、戦略が構築できていること。

 

② IT/デジタル戦略•施策のポートフォリオにおいて、合理的かつ合目的な予算配分がなされていること。

 

③ データを重要経営資産の一つとして活用していること。

 

(3) 取組例

 

① DXを推進するための戦略が具体化されている。

 

② 経営戦略において、データとデジタル技術を活用して既存ビジネスの変革を目指す取組(顧客関係やマーケティング、既存の製品やサービス、オペレーション等の変革による満足度向上等)が明示されており、その取組が実施され、効果が出ている。

 

③ 経営戦略において、データとデジタル技術を活用した新規ビジネス創出について明示されており、その取組が実施され、効果が出ている。

 

④ 経営状況や事業の運営状況を把握できる仕組み(システム)があり、そこから得られるデータをふまえて経営・事業の意思決定が実施されている。

 

2-1.組織づくり・人材・企業文化に関する方策

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要な体制を構築するとともに、組織設計・運営の在り方について、ステークホルダーに示していくべきです。

その際、人材の確保・育成や外部組織との関係構築・協業も、重要な要素として捉えるべきです。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術を活用する戦略において、特に、戦略の推進に必要な体制•組織に関する事項を示していること」です。

 

認定にあたっての判断は、機関承認を得た公開文書に記載されている事項、もしくは、機関承認された方針に基づき作成された内容であって公開文書に記載されている事項を元に行います。

 

(2) 望ましい方向性

 

① IT/デジタル戦略推進のために経営層から現場までが主体的に動けるような役割と権限が規定されている。

 

② 社外リソースを含め知見・経験・スキル・アイデアを獲得するケイパビリティ(組織能力)を有しており、ケイパビリティを活かしながら、事業化に向かった動きができている。

 

③ 必要とすべきIT/デジタル人材の定義と、その獲得・育成/評価の人事的仕組みが確立されている。

 

④ 人材獲得・育成について、現状のギャップとそれを埋める方策が明確化されている。

 

⑤ 全社員のIT/デジタル・リテラシ向上の施策が打たれている。

 

⑥ 雇用の流動性、人材の多様性、意思決定の民主化、失敗を許容する文化等の組織カルチャーの変革への取組みが行われている。

 

(3) 取組例

 

① DXの推進をミッションとする責任者(Chief Digital Officerとしての役割)、CTO (科学技術や研究開発などの統括責任者、Chief Technology Officer )、CIO (ITに関する統括責任者、Chief Information Officer)、データに関する責任者(Chief Data Officer)が、組織上位置付けられ、ミッション・役割を含め明確に定義され任命されている。

 

② スキルマトリックス等により、経営層(経営者及び取締役・執行役員等)のデジタルに関係したスキルの項目を作成し、ステークホルダーに向け公表している。

 

③ 経営トップが最新のデジタル技術や新たな活用事例を得ている。

 

④ DXを推進する、組織上位置付けられた専任組織がある。

 

⑤ DX推進を支える人材として、「どのような人材が必要か」が明確になっており、計画的な育成、中途採用、外部からの出向、事業部門・IT担当部門間の人事異動等により人材確保のための取組を実施している。

 

⑥ DXの推進にあたり、オープンイノベーション、社外アドバイザー•パートナーの活用、スタートアップ企業との協業など、これまでのIT分野での受発注関係と異なる外部リソースの活用を実施している。

 

⑦ DX推進のための予算が一定の金額または一定の比率確保されている。予算は他のIT予算と別枠で管理されており、IT予算の増減による影響を受けないようになっている。

 

⑧ 全社員が、デジタル技術を抵抗なく活用し、自らの業務を変革していくことを支援する仕組み(教育・人事評価制度等)がある。

 

⑨ DXの推進にあたり、新しい挑戦を促すとともに、継続的に挑戦し、積極的に挑戦していこうとするマインドセット醸成を目指した、活動を支援する制度、仕組みがある。

 

2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要なITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けたプロジェクトやマネジメント方策、利用する技術・標準・アーキテクチャ、運用、投資計画等を明確化し、ステークホルダーに示していくべきです。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術を活用する戦略において、特に、ITシステム•デジタル技術活用環境の整備に向けた方策を示していること」です。

 

認定にあたっての判断は、機関承認を得た公開文書に記載されている事項、もしくは、機関承認された方針に基づき作成された内容であって公開文書に記載されている事項を元に行います。

 

(2) 望ましい方向性

 

① レガシーシステム(技術的負債)の最適化(IT負債に限らず、包括的な負債の最適化)が実現できている。

 

② 先進テクノロジの導入と独自の検証を行う仕組みが確立されている。

 

③ 担当者の属人的な努力だけではなく、デベロッパー・エクスペリエンス (開発者体験)の向上やガバナンスの結果としてITシステム、デジタル技術活用環境が実現できている。

 

(3) 取組例

 

① ビジネス環境の変化に迅速に対応できるよう、既存の情報システムおよびデータが、新たに導入する最新デジタル技術とスムーズかつ短期間に連携できるとともに、既存データを活用できるようになっている。

 

② 全社の情報システムが戦略実現の足かせとならないように、定期的にビジネス環境や利用状況をふまえ、情報資産の現状を分析・評価し、課題を把握できている。

 

③ 上記で実施した分析・評価の結果を受け、技術的負債(レガシーシステム)が発生しないよう、必要な対策を実施できている。またそれを実施するための体制(組織や役割分担)を整えている。

 

④ 情報システムの全社最適を目指し、全社のデータ整合性を確保するとともに、事業部単位での個別最適による複雑化・ブラックボックス化を回避するための仕組みがある。

 

3. 成果と重要な成果指標

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

企業は、デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標を定め、ステークホルダーに対し、指標に基づく成果についての自己評価を示すベきです。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標について公表していること」です。

 

認定にあたっての判断は、公開文書に記載されている事項をもとに行います。

 

指標としては、

 

ⅰ) 企業価値創造に係る指標(企業が目標設定に用いるあるいは戦略的なモニタリング対象とする財務指標)、

ⅱ) 戦略実施により生じた効果を評価する指標、

ⅲ) 戦略に定められた計画の進埗を評価する指標

 

が考えられます。

 

認定に際しては、ⅱ)指標又はⅲ)指標が公表されているか、もしくは、ⅰ)指標が公表されており、戦略上の取組がどのようにⅰ)指標にどのように紐づいているかが明確となっていることが求めてられています。

 

指標については、定量指標の他、達成したか否かが判断できる定性指標も含まれます。

指標については、目標値やベンチマークの設定がなされていることが望ましいのですが、認定に際しては必須要件とはしていません。

 

(2) 望ましい方向性

 

① IT/デジタル戦略•施策の達成度がビジネスのKPIをもって評価されている。またそのKPIには目標値設定がされている。

 

② 上記KPIが最終的に財務成果(KGI)へ帰着するストーリーが明快である。

 

③ 実際に、財務成果をあげている。

 

④ IT/デジタル戦略等により、ESG/SDGsに関する取組を行うとともに、成果を上げている。

 

(3) 取組例

 

① 実施している取組について、すべての取組にKPIを設定し、KGI (最終財務成果指標)と連携させている。

 

② 企業価値向上に関係するKPIについて、ステークホルダーに開示している。

 

③ デジタル時代に適応した企業変革が実現できているかについて、指標(定量・定性)を定め、評価している。

 

4. ガバナンスシステム

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

ⅰ) 経営者は、デジタル技術を活用する戦略の実施に当たり、ステークホルダーへの情報発信を含め、リーダーシップを発揮するべきです。

 

ⅱ) 経営者は、事業部門やITシステム部門等とも協力し、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映していくべきです。また、経営者は、事業実施の前提となるサイバーセキュリティリスク等に対しても適切に対応を行うべきです。

 

[取締役会設置会社の場合]

取締役会は、経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略の方向性等を示すにあたり、その役割・責務を適切に果たし、また、これらの実現に向けた経営者の取組を適切に監督するべきです。

 

② 認定基準

 

以下の3つの基準をあげています。

 

ⅰ) 経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略について、経営者が自ら対外的にメッセージの発信を行っていること。

 

経営者名でメッセージが発信されている公開文書等によって確認します。

 

ⅱ) 経営者のリーダーシップの下で、デジタル技術に係る動向や自社のIT システムの現状を踏まえた課題の把握を行っていること。

 

DX推進指標等により自己診断を実施していることの説明文書等が提出されることをもって確認します。

 

ⅲ) 戦略の実施の前提となるサイバーセキュリティ対策を推進していること。

 

サイバーセキュリティ経営ガイドライン等に基づき対策を行い、セキュリティ監査 (内部監査を含む)を行っていることの説明文書等が提出されることをもって確認します。

 

(2) 望ましい方向性

 

① 経営者が自身の言葉でそのビジョンの実現を社内外のステークホルダーに発信し、コミットしている。

 

② 経営・事業レベルの戦略の進捗・成果把握が即座に行える。

 

③ 戦略変更・調整が生じた際、必要に応じて、IT/デジタル戦略・施策の軌道修正が即座に実行されている。

 

④ 企業レベルのリスク管理と整合したIT/デジタル•セキュリティ対策、個人情報保護対策やシステム障害対策を組織・規範・技術など全方位的に打っている。

 

(3) 取組例

 

① 企業価値向上のためのDX推進について、経営トップが経営方針・経営計画やメディア等でメッセージを発信している。

 

② 経営トップとDX推進部署の責任者(CDO・CTO・CIO・CDXO等)が定期的にコミュニケーションを取っている。

 

③ 経営トップが事業部門やITシステム部門等と協力しながら、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映している。

 

④ 企業価値向上のためのDX推進に関して、取締役会・経営会議で報告・議論されている。

 

⑤ 経営者がサイバーセキュリティリスクを経営リスクの1つとして認識し、CISO等の責任者を任命するなど管理体制を構築するとともに、サイバーセキュリティ対策のためのリソース(予算、人材)を確保している。

 

⑥ サイバーセキュリティリスクとして守るべき情報を特定し、リスクに対応するための計画(システム的・人的)を策定するとともに、防御のための仕組み・体制を構築している。

 

⑦ サイバーセキュリティリスクに対応できる体制の構築に向けた取組として、情報処理安全確保支援士(登録セキスペ、登録情報セキュリティスペシャリスト)の取得を会社として奨励している。

 

⑧ サイバーセキュリティを経営リスクの一つと捉え、その取組を前提としたリスクの性質・度合いに応じて、サイバーセキュリティ報告書、CSR 報告書、サステナビリティレポート、有価証券報告書等への記載を通じて開示を行っている。

「気候関連財務情報開示タスクフォース」提言より「リスク管理」、「指標と目標」の記載について

「気候関連財務情報開示に関するガイダンス~TCFDガイダンス 2.0(以下、「ガイダンス」)」がTCFDコンソーシアムより2020年7月に公表されました。

「リスク管理」、「指標と目標」に関する開示についての記載を見てみましょう。

 

Ⅰ リスク管理

 

1.TCFD提言

 

TCFD提言では「リスク管理」について、以下のとおり推奨しています。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)より抜粋

 

2.解説

 

(1)リスク管理

 

TCFD提言における「リスク管理」は、気候関連リスクの識別、評価、管理に関するプロセスに関する開示です。

 

(2)リスク管理の結果

 

「リスク管理」の結果として抽出されたリスクの財務インパクトは「戦略」で、また組織の経営におけるリスク管理の監督/実施体制は「ガバナンス」で開示される項目と整理されます。

 

(3)重要性・順位付け

 

気候関連リスクの相対的重要性の把握や優先順位付けの方法としては、マテリアリティ・マトリックスによる重要度の判定などを挙げています。

 

また、自社における気候関連リスクの管理プロセスを図や文章を用いて具体的に説明することも有効であるとしています。

 

Ⅱ 指標と目標

 

1.TCFD提言

 

TCFD 提言では「指標と目標」について以下のとおり推奨しています。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』 (2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)より抜粋

 

2.解説

 

(1)ストーリー性

 

指標と目標は、単に開示が推奨されている項目について開示するだけではなく、当該指標と目標がどのように企業としての価値創造に結びつくのか、また戦略に合致した指標であるかが分かるよう、ストーリー性を持たせて開示することが求められています。

 

(2)前提条件

 

その際、開示を行う企業は、指標の算出や目標の設定に用いた前提条件を明らかにすることで、投資家等に対してより効果的に情報を伝えることが可能となります。

また、指標の算出方法に変更が加えられた場合には、それについても開示することが望まれます。

 

(3)GHG排出量の開示

 

TCFD提言は、当てはまる場合は「Scope3」までのGHG 排出量の開示を求めていますが、「Scope3」排出量の算定にあたっては各企業において評価のバウンダリーが厳密には異なるため、企業間の単純比較はできないことに留意する必要があります。

 

また、TCFD 提言では、指標として例示されている項目の一つに、製品の全ライフサイクルを通じて回避されたGHG 排出量(avoided GHG emissions)についての記載があります。

 

企業単体のGHG排出量ではなく、製品やサービスの利用時におけるGHG排出削減量を開示することで、企業がそれらの製品・サービスを通じてどの程度世界全体のGHG削減に貢献したかを示すことが可能となります。

 

このようなバリューチェーン全体にわたる削減貢献量の評価・開示については、いくつかのガイダンスが作成されています。

 

「気候関連財務情報開示タスクフォース」提言の「戦略」に関する開示について

「気候関連財務情報開示に関するガイダンス~TCFDガイダンス 2.0(以下、「ガイダンス」)」がTCFDコンソーシアムより2020年7月に公表されました。

「戦略」に関する開示についての記載を見てみましょう。

 

Ⅰ.TCFD提言

 

TCFD 提言では「戦略」に関する開示については、以下のとおり推奨しています。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)より抜粋

 

Ⅱ.戦略a)、b)、c)の関係

 

上記のガイダンスにおける a)、b)、c)の 3つのカテゴリーの関係については、以下のとおりと解されます。

 

まず、a) と b) との関係については、a) で(シナリオ分析を行うか否かにかかわらず)短期、中期、長期のリスクと機会を特定し、b) でそのリスクと機会に基づき気候関連問題の事業、戦略、財務計画への影響を説明することを求めています。

 

また、c) については、ここでの「シナリオ分析」にはa)、b)の要素も含まれますので、c) を行えばa)、b) も満たされることになります。

 

1.a)の解説

 

(1)参考文献

 

具体的な短期・中期・長期の考え方については、TCFD 提言の「E. 重要な検討事項とさらなる作業が必要な分野」の「8.短期・中期・長期の時間枠」の記載が参考となります。

 

  1. 短期・中期・長期の時間枠

タスクフォースの第 2 回コンサルテーションの中で、一部の組織がタスクフォースに対し、短期・中期・長期の具体的な幅を定義するよう求めた。組織に対する気候関連の影響のタイミングは多様であるため、セクター全体で短期・中期・長期の時間枠を特定すると自らのビジネスに固有な気候関連のリスク及び機会に関する組織の検討を妨げてしまいかねないとタスクフォースは考えている。従って、タスクフォースは時間枠を特定せず、開示情報作成者に対して、自らの資産の寿命、直面する気候関連リスクの特徴、彼らが操業するセクターと地理的位置などにより独自の時間枠の規定の仕方を決めるよう奨励する。

気候関連問題の評価にあたり、組織はその評価を行う際に利用する時間枠に対して慎重であるべきである。多くの組織は操業・財務計画を1~2年の時間枠で、戦略・資本計画を2~5年の時間枠で実施しているが、気候関連リスクは組織に対してより長期間にわたり影響を与える可能性がある。したがって、組織にとっては、気候関連リスクを評価する際に適切な時間枠を検討することが重要である。

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)P.33 より抜粋

 

(2)時間枠について

 

上記提言の第2パラグラフにおいては、気候関連リスクは「より長期間にわたり影響を与える可能性がある」ため、「適切な時間枠を検討することが重要である」と述べられています。

 

「何が適切な時間枠であるか」については、影響を与えることが想定される気候関連リスク及び機会に依存します。

気候変動がもたらす物理的リスクへの対応や、低炭素技術のようなイノベーションの中には操業・財務計画や戦略・資本計画で想定する年数よりはるかに長い時間をかけて取組が進められるべきものが存在します。

 

また、IPCC の報告書において大幅な削減が想定され、また多くの国の長期計画の目標年次ともなっている等、長期的な気候変動対策のマイルストーンとして「2050年」という年次が注目されています。

 

このような長期的な時間枠の設定にあたって参照することが考えられる既存のレポートとして、移行リスクについては例えば IEA(国際エネルギー機関)等のシナリオの情報が、また物理的リスクについては、国際機関等が業種別・地域別の影響を考察したレポート等の情報が考えられます。

 

2.b)の解説

 

(1)「研究開発に対する投資」

 

上記のとおり、気候変動のリスク及び機会が組織のビジネスと戦略に対する影響が及ぶ分野としては、「製品とサービス」、「サプライチェーン及び/またはバリューチェーン」、「適応活動と緩和活動」「研究開発に対する投資」、「操業(操業のタイプと設備の設置場所など)」があげられています。

 

上記のうち「研究開発に対する投資」は、TCFD 研究会を通じて質問の多かった項目としています。

 

また、近年のガイダンスにおいて、気候関連情報としてリスクだけではなく機会が重要であることが示されています。

 

「グリーン投資ガイダンス」においては、事業会社が気候関連の機会を獲得するための重要な取組として研究開発を含むイノベーションを挙げ、イノベーションに対する投資家等の理解、評価の重要性について記載しています。

 

(2)「研究開発に対する投資」についての解説

 

① 開示の概要

 

研究開発については、なぜその研究開発が必要かを、自社が特定した将来のリスクや機会と関連づけて説明することが望まれます。

 

特に省エネルギーに向けた取組や排出されたCO2 の有効利用等、GHG 削減に大きく貢献する取組に関する研究開発を行う場合は積極的に記載することが望まれます。

 

② トランジション・ファイナンス

 

パリ協定の目標実現に向けた着実な移行(トランジション)に資する取組へのファイナンスに関する議論が国際的にも高まっています。

 

トランジション・ファイナンスにおいては事業実施主体が移行への取組に関する戦略等を説明することが重要となるため、この点において TCFD を通じた情報開示を活用することが可能であり、こうした資金を獲得する観点からも積極的な情報開示は有用となります。

 

③ 物理的リスク

 

物理的リスクへの対応の観点からは、異常気象等に対する事業継続性(サプライチェーンの維持、エネルギーの安定供給等)や水の安定調達、食糧の安定供給等に資する研究開発も重要となります。

 

④ 具体的な研究開発の説明

 

具体的な研究開発の説明に当たっては、研究開発費の総額のみならず、テーマ別の予算配分や、当該技術の実用化によるアウトカム(収益への貢献、CO2 削減量等)及び研究開発とアウトカムの関係性について説明することが望まれます。

 

これらについて開示することは企業における研究開発の意義を明らかにすることにつながり、結果として投資家は企業の長期戦略とイノベーションの取組の方向性について確認することが可能となります。

 

特に基礎研究開発については、その背景にある課題意識や当該研究開発が影響を及ぼす技術分野について説明することで、その意義を明確にすることが可能になると考えられます。

 

⑤ 情報発信

 

企業として気候変動関連のイノベーションに積極的に取り組んでいることを示すための方法として、政府や業界団体等によるイノベーション関連のイニシアティブに参画し、積極的な情報発信を行うことも有効となります。

 

3.c)の解説~シナリオ分析の手順

 

具体的なシナリオ分析の手順に沿って(1)~(3)の順に説明を行っています。

 

(1)シナリオに基づく戦略の検討手法について

 

① シナリオの設定

 

(TCFD提言)

 

D.シナリオ分析及び気候関連問題

4.シナリオ分析の適用

タスクフォースは、シナリオ分析の複雑さや、それを実施するのにリソースが必要となるであろうことを認識しつつも、気候関連リスク及び機会の評価にシナリオ分析を用いることを組織に奨励する。シナリオ分析の使用を始めたばかりの組織には、時とともに進化し深みを増す定性的アプローチが適切であろう。シナリオ分析の実施により幅広い経験を有する組織は、データや定量モデル及び分析の活用が厳密でより洗練されたものになることは確実であろう。組織は既存の外部シナリオやモデル(第三者ベンダーが提供するものなど)を使うと決めてもよいし、独自に社内でモデリング能力を開発してもよい。どのアプローチを選ぶかは、組織のニーズ、リソース、能力によって決まる。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年 6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)P.24 より抜粋

 

② 解説

 

いずれの方法においても、単一のシナリオではなく複数のシナリオを想定することが、不確実な将来に対する企業のレジリエンスを示すことに繋がるため、重要となります。

 

また、シナリオ分析結果の解釈に当たっては、結論のみならず、そこに至る検討のプロセスについて投資家等が納得できるようなストーリーや論理性をもって開示することが投資家等の理解を深める上では重要となります。

 

(2)シナリオ分析に求められる定量性について

 

① TCFD提言では、シナリオ分析に求められる定量化について以下のように求めています。

 

(TCFD提言)

 

タスクフォースは、気候関連リスクに晒される全ての組織が、(1)その戦略・財務計画立案プロセスへの情報提供に役立てるようシナリオ分析を利用し、(2)実現性の高いさまざまな気候関連シナリオに対して組織の戦略がどのように強靭であるかについて、開示することを検討すべきであると考えている。タスクフォースは、多くの組織にとってシナリオ分析は概して定性的な実務である、あるいはそうなるであろうと認識している。しかし、移行リスクや物理的リスクに対する影響がより甚大となる組織は、さらに厳密な定性的シナリオ分析を、また適宜、組織の運営に悪影響を与える重要な決定要因と傾向について定量的なシナリオ分析を実施すべきである。

(中略)

シナリオ分析実施において初歩的ないし初期段階にある組織や、気候関連問題にあまり影響を受けない組織については、タスクフォースは、関連する気候変動シナリオの範囲において、組織の戦略や財務計画がどのように強靭であるかについて、定性的ないし方向感をもって開示するよう奨励する。このような情報は、起こり得るさまざまな将来の状況において、組織の先々の戦略や財務計画がどのくらい堅牢であるかを、投資家、貸付業者、保険会社、その他のステークホルダーが理解するのに役立つ。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)P.23-24 より抜粋

 

② 解説

 

金融機関からは「精緻なシナリオ分析を求めているわけではなく、気候変動のリスク・機会についてどのように考え、経営しているかのチェックポイントとして見ている」とする意見が得られているとのことです。

 

そのため、シナリオ分析の開示にあたっては、前提条件やシナリオ選定の理由を説明することが重要になります。

 

なお、定性的なシナリオ分析を行う場合には、その影響度合いを絶対値ではなく大・中・小といった相対的な表現で説明することが考えられます。

 

(3)レジリエンスの表現方法について

 

① TCFD提言では、レジリエンスについて以下の記載を求めています。

 

(TCFD提言)

 

D.シナリオ分析及び気候関連問題

4.シナリオ分析の適用

(略)

図8 非金融組織のための開示における検討事項

気候関連問題の影響を大きく受ける組織は、シナリオ分析における以下のような重要な側面について、開示することを検討する必要がある。

(略)

4.組織の戦略の強靭さに関する情報(以下を含む:検討された多様なシナリオの下での戦略的パフォーマンスのインプリケーション、組織のバリューチェーンに対する潜在的な定量的・方向性的なインプリケーション、資本配分の決定、研究開発への重点、組織の運営業績及び/または財務ポジションに対する重大な財務的インプリケーション)

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年 6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)P.24 より抜粋

 

② 解説

 

レジリエンスとは、シナリオ分析によって示唆された複数の未来に対して、自社が存続可能であることを示すものです。

 

レジリエンスの開示の例としては、中長期のリスク(移行リスクや物理的リスク)や機会を抽出し、それぞれに対する管理・取組状況等を記載する方法が考えられます。