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TCFD を活用した経営戦略立案~気候関連リスク・機会のシナリオ分析の位置付け

環境省は、2019 年 3 月に「TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド~」を発表し、2020 年 3 月に、①シナリオ分析を進める上でポイントとなるステップごとの解説、②2019年度支援企業 12 社の事例、及び③参考となる外部データ、ツール集を追加し、実践ガイドver2.0(以下、「実践ガイド」)として改定し発表しました。

 

実践ガイド第1章では、TCFD 提言におけるシナリオ分析の位置づけについて解説しています。

 

1.気候変動と企業経営

 

気候変動は企業経営にとって明確なリスクと機会になりえます。

 

TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer2.0~より抜粋

 

2.TCFDの目指す姿

 

TCFDは企業の段階的な対応を期待しています。

 

TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer2.0~より抜粋

 

3.TCFD提言の求めているもの

 

TCFDは、全ての企業に対し、

 

①2℃目標等の気候シナリオを用いて、

②自社の気候関連リスク・機会を評価し、

③経営戦略・リスク管理へ反映、

④その財務上の影響を把握、開示すること

 

を求めています。

 

4.財務上の影響

 

(1)TCFDでは、気候関連リスク・機会と財務上の影響の開示対象を例示しています。

 

気候関連リスクと機会が与える財務影響(全体像)

TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer2.0~より抜粋

 

(2)気候関連リスク

 

TCFDでは気候関連リスクを、低炭素経済への「移行」に関するリスクと気候変動による「物理的」変化に関するリスクに大別しています。

 

種類        定 義           種 類        主な側面・切り口の例

出所:気候関連財務情報開示タスクフォース,気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(最終版),2017,10ページを基に環境省作成 1-12

 

(3)気候関連機会

 

TCFDでは気候変動緩和策・適応策による経営改革の機会を5つに分類し例示しています。

 

① 資源の効率性

② エネルギー源

③ 製品・サービス

④ 市場

⑤ 強靭性(レジリエンス)

 

5.TCFDの要求項目

 

TCFDの要素は、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4つです。

 

(1)ガバナンス=経営陣の関与

 

気候関連リスクと機会を経営戦略に反映するためには、経営陣を巻き込んだ体制が必要であり、TCFDでは監督体制や経営者の役割の開示を求めています。

 

① リスクと機会に対する取締役会の監督体制

② リスクと機会を評価・管理する上での経営者の役割

 

(2)戦略

 

短期・中期・長期のリスクと機会、事業・戦略・財務に及ぼす影響、2℃目標等の気候シナリオを考慮した組織戦略の強靭性の開示を求めています。

 

① 短期・中期・長期のリスクと機会

② 事業・戦略・財務に及ぼす影響

③ 2℃目標等の気候シナリオを考慮した組織戦略の強靭性

 

(3)リスク管理

 

リスク識別・評価のプロセス、リスク管理のプロセス、組織全体のリスク管理への統合状況について、開示を求めています。

 

① リスク識別・評価のプロセス

② リスク管理のプロセス

③ 組織全体のリスク管理への統合状況

 

(4)指標と目標

 

組織が戦略・リスク管理に則して用いる指標、GHG排出量、リスクと機会の管理上の目標と実績について、開示を求めています。

 

① 組織が戦略・リスク管理に則して用いる指標

② GHG 排出量(Scope 1、2、3)

③ リスクと機会の管理上の目標と実績

 

6.シナリオ分析の意義

 

気候関連リスクと機会が与える影響を評価するため、シナリオ分析による情報開示を推奨しています。シナリオ分折に係る技術的補足書も策定しています。

 

(1)シナリオ分析の有用性

 

シナリオ分析は、長期的で不確実性の高い課題に対し、組織が戦略的に取り組むための手法として有益です。

 

気候関連リスクが懸念される業種にとって重要シナリオの前提条件も含めて開示すべきです。シナリオ分析には能力・労力が必要となりますが、組織にもメリットがあります。

 

(2)シナリオ分析は、将来の不確実性に対応し戦略立案と内外対話を可能にします。

 

① 相応の蓋然性をもって予見可能な未来の場合・・・

 

TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer2.0~より抜粋

 

  • 将来の変化に経営戦略が即応できない
  • 将来の見立てについての水掛け論が続く
  • 事業のレジリエンスを疑われる

 

② 不確実であり、それゆえ可能性もある未来の場合・・・

 

 

TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer2.0~より抜粋

 

  • 将来の変化に柔軟に対応する経営が可能
  • 将来について、主観を排除した議論ができる
  • 事業のレジリエンスを主張できる

パリ協定の目標実現に向けて~「クライメート・トランジション・ファイナンスの考え方」

経済産業省は「環境イノベーションに向けたファイナンスのあり方研究会」を設置し、2020 年 3 月に「クライメート・トランジション・ファイナンスの考え方」をとりまとめました。

 

1.背景

 

(1)令和2年から実行フェーズに入るパリ協定に基づき気候変動対策を着実に実施していくための環境整備が重要である。

 

(2)世界的に、アジア等の新興国を中心としてパリ協定の目指す長期目標の実現に向けて莫大な規模の投資が必要となる。

 

(3)これらの投資の促進が急務である。

 

(4)グリーン・ボンド等を促進していく従来の取り組みに加え、以下の点を踏まえることが重要である。

 

① 低炭素化に資するより幅広い分野に投資を促進する

 

② 真に世界全体で温室効果ガスの排出を削減していくために、グローバルで各産業部門における低炭素化を図っていく必要がある

 

③ 低排出に向けた適切な取り組みや改善の行われている分野に資金を促す

 

④ 対炭素化・脱炭素化に向けた長期的な研究開発等を促す

 

⑤ グローバル・バリューチェーン全体、ライフサイクル全体で温室効果ガスの排出削減を促す

 

(5)パリ協定の目標の実現に向けた着実な以降に関する基準を策定することで、こうした分野へのファイナンスの流れを促進していくことが必要である。

 

2.基本的な考え方

 

(1)再生可能エネルギー等の既に脱炭素化・低炭素化の水準にある活動へのファイナンスを促進していくこととあわせて、温室効果ガス排出産業部門が脱炭素化・低炭素化を進めていく移行の取組(トランジション)へのファイナンスについても、促進していくことが重要である。

 

(2)トランジションへのファイナンスは、パリ協定の目標及び各国のパリ協定に基づく削減目標に向けて移行を進めている事業へのファイナンスと位置づける。

 

(3)具体的にどのような事業が該当するかは、各国・地域ごとに異なりうる。

 

(4)「トランジションへのファイナンス」の考え方を整理するにあたっては、以下を提案する。

 

① 国際的な原則は、特定の産業や技術を排除することなく、多様な国々・地域に適用しうる包摂的で柔軟なアプローチを採用しつつ、

 

② 詳細については各国・地域毎に実情に応じた考え方が深められていくべき

 

3.国際的な原則を検討するにあたっての提案

 

一般的な形での原則を提案した内容。実際の運用にあたっては、各国・地域において詳細を検討していく。

 

(1)パリ協定との整合性に関する基準

 

パリ協定及び各国の削減目標の達成に向けた移行へのファイナンスであること。

 

(2)事業実施主体に関する基準

 

① 中長期的なビジョンや行動計画等を示すなど、移行への取組に積極的に取り組んでいる事業主体へのファイナンスであること。

 

② 温室効果ガス削減目標を実際に達成しているか今後の達成目標に向けて取り組みを実施している事業主体へのファイナンスであること。

 

(3)対象事業に関する基準

 

① 温室効果ガス排出産業部門において国際的または当該地域で、温室効果ガス低排出の観点でベストパフォーマンスとされる水準の実現・実施のための事業に対するファイナンスであること。

 

② 温室効果ガス排出産業部門において国際的または当該地域で、温室効果ガス低排出の観点でベストパフォーマンスとされる水準の実現・実施のための製品に関連・貢献するファイナンスであること。

 

4.その他、考慮することが望ましい観点

 

  • グローバル・バリューチェーンを有する産業の国際的な温室効果ガス排出削減への貢献の観点

 

  • ライフサイクル全体での排出削減の観点

 

  • 環境以外のSDGs等の環境目的への貢献、影響の観点

気候関連事項のIFRS基準財務諸表の開示に関する教育目的文書の概要について

国際会計基準審議会(以下、IASB)は 2020 年 11月 20 日に、IFRS 基準のうち気候関連事項の財務諸表開示に関連する規定をまとめた教育目的で作成された文書(以下、「本文書」)を公表しました。

 

Ⅰ 本文書の意義

 

本文書により IFRS 基準の規定が変更、削除又は追加されることはありません。

作成意図は確実な気候関連の開示を下支えすることにあります。

 

IFRS 基準は気候関連事項に関する明確な言及をしていませんが、企業はIFRS 基準を適用する際にその影響が重要となる場合には気候変動事項を考慮しなければなりません。

 

本文書に例として取り上げられているIFRS 基準はすべてを網羅するものではなく、例示以外でも気候関連事項が企業の財務諸表に影響を与える場合もあることに留意が必要です。

 

Ⅱ 本文書の要点

 

本文書では重要な要点を、IFRSの基準ごとにとりまとめています。

「財務諸表の開示」、「資産の減損」、「公正価値測定」についての記載をみてみましょう。

 

1.IAS 第1号「財務諸表の表示」

 

本文書では、気候関連事項のように IFRS 基準書に特に規定されておらず、他に表示されることがなくても、企業の財務諸表を適切に理解するための情報の開示が IAS 第1号で求められていることを強調しています。

 

(1)重要な情報

 

気候関連事項に関する情報は、企業に重要な影響を与え、投資決定に影響を及ぼすと投資家が合理的に見込む場合には目的適合となります。

 

さらに、IAS 第 1号は、重要な情報が財務諸表から欠落していないかどうかも検討しなければならないと定めています。

 

(2)将来に関する仮定

 

IAS 第 1号では、翌事業年度に帳簿価額の重要な修正が生じる著しいリスクが存在する場合、企業が将来について行う仮定に関する情報の開示が求められています。

 

また、IAS 第1号では、認識する金額に最も著しい影響を与える判断についても開示しなければならないと定められています。

 

気候関連事項は、企業が行う多くの判断に影響を与えますので、企業はそれらの判断を開示することを検討しなければなりません。

 

(3)継続企業

 

IAS 第 1号では、企業の継続企業として存続する能力に著しい疑義を生じさせる重要な不確実性の開示が求められています。

 

気候関連事項によって、企業の継続企業として存続する能力に著しい疑義を生じさせる事象又は状況に関する重要な不確実性が生じることがあります。

 

継続企業の前提で財務諸表を作成することが適切かどうかを評価するにあたり、気候関連事項に関する情報は他の不確実性と併せて検討しなければなりません。

 

2.IAS 第36号「資産の減損」

 

(1)減損テスト

 

資産又は資金生成単位(CGU)(のれんを含む)の帳簿価額は、減損テストに気候関連事項の影響を考慮に入れないとしたら過大に表示される可能性があります。

 

企業は各報告期間に減損の兆候が存在するかどうかを評価しなければなりません。

気候関連事項に対するエクスポージャーは、資産(又は資産のグループ)が減損している兆候になり得ます。

 

たとえば、温室効果ガスを排出する製品の需要が低下する場合、それは製造工場が減損していることを示唆する可能性があります。

 

気候関連事項に関する規制の変更も考慮しなければなりません。

 

のれんの年次減損テストを行う場合にも同じように、これらの要因について考慮する必要があります。

 

(2)将来の仮定

 

IAS 第 36 号では、回収可能価額が使用価値を用いて見積もられる場合、将来の経済状況の予測に基づく一定のレンジを定め、経営者の最良の見積りを表す合理的かつ裏付け可能な仮定を基に決定しなければならないと定められています。

 

したがって、企業は、気候関連事項がこれらの仮定に影響を与えるかどうかを検討しなければなりません。

 

(3)将来キャッシュ・フローの見積もり

 

IAS 第 36 号ではまた、使用価値の計算にあたり、将来キャッシュ・フローを資産の現在の状態に基づいて見積もらなければならないと定められており、企業は資産の性能を向上させることで生じると見込まれるキャッシュ・フローの見積りを除外する必要があります。

 

気候関連事項に関する要求事項に準拠するように資産をメンテナンスするための関連費用を除外すべきかどうかについては判断が必要となります。

 

(4)公正価値

 

回収可能価額が処分費用控除後の公正価値を基に見積られる場合、企業は、それぞれの資産及びCGUの公正価値測定に影響を及ぼす可能性がある潜在的な気候関連の法律に関する市場参加者の見通しを考慮する必要があります。

 

製造コストの増加につながる排出削減法案の導入など、気候リスクが企業に重要な影響を与える場合、そうしたリスクが回収可能価額の計算にどのように織り込まれているかについての情報も財務諸表の利用者にとって目的適合性があると言えます。

 

(5)回収可能価額

 

回収可能価額を測定するのに用いた重要な仮定及びこれらの仮定の合理的に考え得る変更に関する情報の開示も状況によっては求められます。

 

気候関連事項は、合理的に変更され得るものに影響を与える可能性があります。

 

3.IFRS 第13号「公正価値測定」

 

法律をはじめとする潜在的な気候関連事項に関する市場参加者の期待は、財務諸表上の資産及び負債の公正価値測定に影響を及ぼす可能性があります。

 

また、気候関連事項は、公正価値測定、特に公正価値ヒエラルキーの「レベル3」に区分される公正価値測定の開示にも影響を及ぼす可能性があります。

 

IFRS 第13号では公正価値測定に使用される観察不能なインプットの開示が求められています。

 

それらのインプットは、気候関連リスクに関する仮定をはじめ、市場参加者が用いる仮定を反映するものでなければなりません。

IFRS財団評議員会~サステナビリティ報告に関する協議文書を公表

IFRS財団評議員会(以下、評議員会)は2020年9月、「サステナビリティ報告に関する協議ペーパー(以下、協議文書)」を公表しました。

2020年12月31日を本協議文書に関するコメントの募集期限としています。

寄せられたコメントを分析し、これらのコメントをIFRS財団の潜在的な役割に関しての議論の基礎とするとしています。

協議文書の中で「サステナビリティ基準審議会(以下、SSB)」の創設が提案されています。

 

1.新しいSSB

 

(1)提案

 

報告における一体性及び比較可能性な情報は必要なものであり、それを達成するために、タスクフォースが提案し評議員会が支持したアプローチは、以下のものです。

 

「IFRS財団のガバナンス構造の下で国際的なサステナビリティ基準を開発するための新しいサステナビリティ基準審議会(SSB)を創設する」

 

(2)承認の要件

 

評議員会は、以下の成功のための要件が満たされることを条件に、SSBという選択肢をさらに展開することを暫定的に選択しました。

 

①主要な市場における、公的機関、国際的な規制機関及び市場関係者(投資者及び作成者を含む)からの十分なレベルの国際的な支持の獲得

 

②サステナビリティ報告における国際的な一貫性の達成と複雑性の低減を目的とした地域的な取組みとの協力

 

③ガバナンス構造の適切性の確保

 

④評議員会、SSB メンバー及びスタッフについての適切な技術的専門性の達成

 

⑤必要となる独立した資金調達のレベル及び財政支援を得る能力の達成

 

⑥財務報告との効果的なシナジーの構築を図るための組織及び文化の開発

 

⑦ IFRS財団の現在の使命及びリソースが損なわれないことの確保

 

(3)SSBの目的

 

SSBの目的は、最初は気候関連リスクに焦点を当てたサステナビリティ報告基準の国際的なセットを開発し維持管理するというものとなると見込まれます。

 

また、このような基準設定は、既存のサステナビリティのフレームワーク及び基準を活用することになると見込まれます。

 

IFRS財団の制度上のガバナンス構造の下でSSBを設置するという提案は、財務報告と一体性があり関連付けられたサステナビリティ報告のフレームワークを開発するという目的と、投資者及び財務諸表の他の主要な利用者に役立つというIASB自身の使命を達成することができるとしています。

 

2.SSBIFRS財団が設立するとした場合

 

(1)「気候第一」アプローチ

 

①気候関連情報

 

タスクフォースのリサーチ及び非公式の協議で、気候に関連した情報についての国際的なサステナビリティ報告基準の開発が最も切迫した懸念事項であることが示されています。

 

気候リスクは、投資者及び健全性規制当局にとって重要度が増大している財務リスクです。

これは大半が、世界中での主要な法域による公共政策上の取組みによるものです。

これらの取組みの緊急性を踏まえて、SSBが行うべき最初の作業は気候関連情報に焦点を当てることが提案されています。

 

②以後の段階

 

タスクフォースの非公式な協議の間に、多くの利害関係者が、以後の段階において、SSBがサステナビリティ報告のより幅広い範囲(環境・社会・ガバナンス要因の相互関係を含む)を採用する可能性があると主張しました。

 

例えば、現在の世界経済フォーラムの国際ビジネス評議会の取組みの任務も、ガバナンス、地球、人々及び繁栄という原則に言及しており、当初は気候に焦点を当てるがやがては範囲を拡大できるようにするという柔軟な構造を提案しています。

 

(2)重要性に対するアプローチ

 

①サステナビリティ報告の目的

 

重要性の概念を検討する際には、サステナビリティ報告の目的、当該目的を達成するためにどのような情報が必要か、及びどの利害関係者が企業の報告する情報を利用するのかを決定することが重要になります。

 

有用なサステナビリティ情報の質的特性を、既存のフレームワーク(TCFD、SASB、国際統合報告フレームワーク及び持続可能な開発目標開示の提言(SDGD))に示された原則に依拠して開発することが必要となります。

 

②重要性に関してのSSBのためのアプローチ案

 

SSBがダブル•マテリアリティ・アプローチを開始することは、作業の複雑性を大きく増大させることになり、基準の採用に影響を与えたり遅延させたりする可能性があるため、漸進主義的なアプローチを推奨しています。

 

設立することとなった場合、SSBは、最初は、投資者及び他の市場参加者にとって最も目的適合性のあるサステナビリティ情報に注力することになると見込まれます。

 

SSBは、報告企業にとってのリスク及び機会のより包括的な評価を提供するために、 他の取組みと共同で作業しつつ、作業を進めるにつれて範囲をどのように拡大すべきかを検討することができます。

 

この包括的な評価は、より多くの法域が基準の国際的な及び法域別の分断のリスクを最小限にするためにダブル•マテリアリティの概念を受け入れる場合には、特に重要となるとしています。

 

③保証の達成

 

国際的に一貫したサステナビリティ報告の実務を達成するためには、企業が報告するサステナビリティ情報は、最終的には外部の保証の対象となる必要があるとしています。

 

しかし、そのような保証を達成するには、一貫した国際的フレームワークの必要性や、サステナビリティに関連した定性的な開示要求事項を示すことの困難性などの概念上及び実務上の課題があるとしています。

 

主要な利害関係者が共通のサステナビリティ開示を開発する目的は、企業が外部から保証された情報を開示することです。

 

サステナビリティ情報についての保証の枠組みが究極的には財務諸表についての保証の枠組みと同様となることが望ましいとしています。

 

IFRS財団は、監査上の課題に関連する財務報告基準の作成における専門性を有しており、これを達成するのに役立てるために、国際監査•保証基準審議会(IAASB) 及び監査の専門家との協力関係を構築してきました。

「記述情報の開示に関する原則」の内容と有用性~改正開示府令を受けて

2020年3月期以降の有価証券報告書において開示される記述情報及び「コーポレートガバナンス等の状況」に記載される「監査の状況」のうちの一部の項目については、2019年1月に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、改正開示府令)が原則適用となり、改正後の規定に基づく開示が行われています。

改正開示府令の適用に合わせて、金融庁は2019年3月19日に、「記述情報の開示に関する原則」を公表しました。

また、「記述情報の開示に関する原則」に加えて「記述情報の開示の好事例集」が金融庁より公表されています。

「記述情報の開示の好事例集」も確認することで、有価証券報告書における記述情報やガバナンス情報の記載内容についての理解がさらに促進されると考えられます。

Ⅰ.「記述情報の開示に関する原則」について

 

1.内容

 

この原則は、企業情報の開示に関する金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」の提言を踏まえ、財務情報以外の開示情報である、いわゆる「記述情報」について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方をまとめています。

 

2.目的

 

この原則は、記述情報の中でも、投資家による適切な投資判断を可能とし、投資家と企業との深度ある建設的な対話につながる項目である、経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報を中心に、有価証券報告書における開示の考え方等を整理することを目的としています。

 

3.性格

 

この原則は、企業情報の開示について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方を示すものであり、新たな開示事項を加えるものではありません。

 

4.有用な点

 

・開示書類の作成・公表に関与する者の自主的な点検

・投資家が企業との対話を行う際の利用

・開示に関するルールやプリンシプルベースのガイダンスの整備

・適切な開示の実務の積み上げ

・企業開示の好事例(ベストプラクティス)を全体に拡大

・ベストプラクティスを、必要に応じ、この原則にも反映

・開示内容の全体のレベルの向上

 

Ⅱ.「総論」についての説明

 

  1. 企業情報の開示における記述情報の役割

 

(1)財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断に資する

 

(2)投資家と企業との建設的な対話を促進する

 

(3)企業の持続的な企業価値の向上を図る

 

  1. 記述情報の開示に共通する事項

 

(1)取締役会や経営会議の議論の適切な反映

 

記述情報は、投資家が経営者の目線で企業を理解することが可能となるように、取締役会や経営会議における議論を反映することが求められます。

 

① 考え方

 

①-1 経営に係る決定が行われる取締役会や経営会議における議論の適切な反映

 

ア) 経営方針・経営戦略等

 

イ) 経営成績等の分析(Management Discussion and Analysis)

 

ウ) リスク情報

 

①-2 投資家は、企業の現況の認識や、企業の経営方針・経営戦略等の内容の理解に必要な情報を得る

 

①-3 投資家は、財務情報だけでは判別できない、経営の方向性を理解し、将来の経営成績等の予想の確度をより高めることが可能となる

 

①-4 取締役会や経営会議における議論の適切な開示

 

ア) 企業の経営資源の最大限の活用に向け、成長投資・手許資金・株主還元や資本コストに関した議論

 

イ) 今後の経営の方向性

 

①-5 投資家による適切な投資判断が可能となり、投資家と企業との建設的な対話経て、よりよい経営方針・経営戦略等を確立しうる

 

② 望ましい開示に向けた取組み

 

②-1 経営者は、開示書類作成の早期から、開示内容の検討に積極的に関与し、開示についての方針を社内に示す

 

②-2 担当役員が各部署を統括するなどして、関係部署が適切に連携し得る体制を構築する

 

(2)重要な情報の開示

 

記述情報の開示については、各企業において、重要性(マテリアリティ)という評価軸を持つことが求められます。

 

① 考え方

 

①-1 投資家の投資判断にとって重要か否か、経営者の視点による経営上の重要性も考慮する

 

①-2 企業価値や業績等に与える重要性(マテリアリティ)に応じた説明の順序、濃淡等を考慮する

 

② 望ましい開示に向けた取組み

 

②-1 企業価値や業績等に与える影響度を考慮した記述情報の重要性

 

②-2  読み手が当該情報の重要性を理解できる記述情報の記載

 

②-3 提出日時点における記述情報の重要性の評価

 

(3)セグメントごとの情報の開示

 

記述情報は、投資家に対して企業全体を経営者の目線で理解し得る情報を提供するために、適切な区分で開示することが求められます。

 

① 考え方

 

①-1 それぞれのセグメントにおける事業の状況の適切な把握

 

①-2 多角化によるシナジー効果の創出

 

①-3 経営資源の適切で効率的な配分

 

①-4 企業の事業選択の適切性の理解

 

② 望ましい開示に向けた取組み

 

②-1 財務情報におけるセグメント(報告セグメント)ごとの開示

 

②-2 必要に応じて、経営方針・経営戦略等の説明に適した区分(例えば、事業セグメントや地域セグメント)ごとの情報を開示

 

(4)分かりやすい開示ましい~開示に向けた取組み

 

記述情報の開示に当たっては、その意味内容を容易に、より深く理解することができるよう、分かりやすく記載することが期待されます。

 

① 投資家の分かりやすさを意識した記載

 

内容の理解を促進するために、図表・グラフ・写真等の補足的なツールの利用、前年からの変化の明確な表示等

 

② 適切な見出しや表題、関連する情報を整理

 

③ 継続性が重要な事項について変更が生じた場合

 

変更内容を記載した上で、変更の影響についての説明を記載

 

④ 関連性のある記述情報

 

「経営方針・経営戦略等」と「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」などについては、記載を相互に関連付け

 

⑤ 他の箇所の参照

 

記載内容が同様である又は重複する項目の参照

 

有価証券報告書において開示される「事業等のリスク」~改正開示府令

1.「事業等のリスク」に関する改正開示府令の内容

 

(1)金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」での指摘

 

① リスク情報の開示について、全体としてみると、一般的なリスクの羅列になっている記載が多い

 

② 外部環境の変化にかかわらず数年間記載に変化がない開示例が多い

 

③ 経営戦略やMD&Aとリスクの関係が明確でなく、投資判断に影響を与えるリスクが読み取りにくいなど

 

(2)「事業等のリスク」に関する開示府令の改正

 

① 経営者が経営成績等の状況に重要な影響を与えると認識している主要なリスク

 

・当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期

・当該リスクが顕在化した場合に経営成績等の状況に与える影響の内容

・当該リスクへの対応策

・上記について具体的に記載することが求められました。

 

② 分かりやすい記載

 

記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮することが求められています。

 

2. 「事業等のリスク」に関する「記述情報の開示に関する原則」の内容

 

(1)考え方

 

事業等のリスクは、翌期以降の事業運営に影響を及ぼし得るリスクのうち、経営者の視点から重要と考えるものをその重要度に応じて説明するものです。

 

(2)望ましい開示に向けた取組み

 

① 事業等のリスクの開示においては、一般的なリスクの羅列ではなく、具体的に記載することが求められます。

 

・財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動

・特定の取引先・製品・技術等への依存

・特有の法的規制・取引慣行・経営方針

・重要な訴訟事件等の発生

・役員・大株主・関係会社等に関する重要事項

・その他、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項

 

② リスクの重要性(マテリアリティ)

 

取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性(マテリアリティ)をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが期待されます。

③ リスクの記載の順序

 

時々の経営環境に応じ、経営方針・経営戦略等との関連性の程度等を踏まえ、取締役会や経営会議における重要度の判断を反映することが望まれます。

④ リスクの区分

 

リスク管理上用いている区分に応じた記載をすることも考えられます。

例えば、市場リスク、品質リスク、コンプライアンスリスクなどになります。

 

有価証券報告書において開示される「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」~改正開示府令

  1. 「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に関する改正開示府令の内容

 

(1)金融庁ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告(以下、DWG報告)の指摘

 

① 経営方針及び経営戦略に関する開示は、全体としてみると、企業の中長期的なビジョンに関する具体的な記載が乏しい

 

② MD&Aやリスク情報との関連付けがない等の企業が相当程度みられる

 

(2)改正開示府令での対応

 

有価証券報告書の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」で記載が求められる経営方針・経営戦略等の記載に当たっては、経営環境についての経営者の認識の説明を含めた上で、事業の内容と関連付けた記載を求めることとされました。

 

(経営環境)

企業構造

事業を行う市場の状況

競合他社との競争優位性

主要製品・サービスの内容

顧客基盤

販売網等

 

2. 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等に関する「記述情報の開示に関する原則」の内容

 

(1)経営方針・経営戦略等

 

① 法令上記載が求められている事項

 

経営方針・経営戦略等の記載においては、経営環境(例えば、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等)についての経営者の認識の説明を含め、企業の事業の内容と関連付けて記載することが求められています。

 

② 考え方

ア) 経営方針・経営戦略等は、企業がその事業目的をどのように実現していくか、どのように中長期的に企業価値を向上するかを説明するものです。

 

イ) 経営方針・経営戦略等については、投資家がその妥当性や実現可能性を判断できるようにするため、企業活動の中長期的な方向性のほか、その遂行のために行う具体的な方策についても説明することが求められます。

 

ウ) また、経営方針・経営戦略等については、背景となる経営環境についての経営者の認識が併せて説明される必要があります。

これにより、投資家は、以下の点を評価することが可能となります。

 

・当該認識の妥当性

・経営方針・経営戦略等の実現可能性

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) 経営方針・経営戦略等

記述情報の中でも特に経営判断の根幹となるものであり、開示に当たっては、以下の点が期待されます。

 

・経営者が作成の早期の段階から適切に関与すること

・取締役会や経営会議における議論を適切に反映すること

 

イ) 経営方針・経営戦略等におけるセグメントごとの記載

事業全体の経営方針・経営戦略等と併せて、それらを踏まえた各セグメントの経営方針・経営戦略等を開示することが期待されます。

セグメントの記載に当たっては、各セグメントにおける具体的な方策の遂行に向け、資金を含めた経営資源がどのように配分・投入されるかを明らかにすることが望まれます。

 

ウ) 経営環境についての経営者の認識の説明

投資家がセグメントごとの経営方針・経営戦略等を適切に理解できるようにするため、各セグメントに固有の経営環境についての経営者の認識も併せて説明されることが望まれます。

例えば、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等。

 

(2)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 

① 法令上記載が求められている事項

 

優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題の開示においては、その内容・対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載することが求められています。

 

② 考え方

 

ア) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は、事業を行う市場の構造的変化や、事業に与える影響が大きい法令・制度の改変など、経営成績等に重要な影響を与える可能性があると経営者が認識している事柄を説明するものです。

 

イ) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題の開示により、投資家は、経営者による課題認識の適切性や十分性、経営方針・経営戦略等の実現可能性を評価することが可能となります。

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題の説明は、その課題の重要性を明らかにするため、経営方針・経営戦略等との関連性の程度や、重要性の判断等を踏まえて記載することが考えられます。

 

イ) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題については、当該課題決定の背景となる経営環境についての経営者の認識を説明することも考えられます。

 

(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 

① 法令上記載が求められている事項

 

経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等(いわゆるKPI)がある場合には、その内容を開示することが求められています。

 

② 考え方

 

ア) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等(KPI)

ROE、ROICなどの財務上の指標(いわゆる財務KPI)のほか、契約率等の非財務指標(いわゆる非財務KPI)も含まれます。

 

イ) 開示に当たっては、企業は経営方針・経営戦略等に応じて設定しているKPIを開示に適切に反映することが求められます。

 

ウ) KPIの開示は、投資家が企業の経営方針・経営戦略等を理解する上で重要であり、これが開示されることにより、経営方針・経営戦略等の進捗状況や、実現可能性の評価等を行うことが可能となります。

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) KPIを設定している場合には、その内容として、目標の達成度合いを測定する指標、算出方法、なぜその指標を利用するのかについて説明することが考えられます。

 

イ) また、合理的な検討を踏まえて設定された経営計画等の具体的な目標数値を記載することも考えられます。

 

ウ) セグメント別のKPIがある場合には、その内容も開示することが望まれます。

 

有価証券報告書における「MD&A」の開示~改正開示府令、記述情報の開示

1.「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に関する改正開示府令の内容

 

(1)金融庁ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告における指摘

 

① 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(以下、MD&A)に関する開示は、経営者の視点による分析が不十分である。

 

② 事業セグメントの分析・開示については、コーポレートガバナンス改革の観点から求められている事業ポートフォリオの効率化、ひいては資本効率の向上の観点から重要である。

 

(2)改正開示府令における対応

 

① 有価証券報告書のMD&A

 

経営方針・経営戦略の記載内容等と関連付けた経営成績等の分析内容を記載する。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 

資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向の経営者の認識を含めた記載をする。

 

③ 上記は、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること

 

④ 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 

重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「第5 経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載すること。

 

2. 「MD&A」に関する「記述情報の開示に関する原則」の内容

 

(1) MD&Aに共通する事項

 

① 法令上記載が求められている事項

 

ア) 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(経営成績等)の状況の分析の開示においては、経営者の視点による当該経営成績等の状況に関する分析・検討内容を具体的に、かつ、分かりやすく記載することが求められています。

 

イ) その際、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者の視点による認識及び分析・検討内容(例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析) を、経営方針・経営戦略等の内容のほか、有価証券報告書に記載した他の項目の内容と関連付けて記載することが求められています。

 

② 考え方

 

ア)  MD&A

経営方針・経営戦略等に従って事業を営んだ結果である当期の経営成績等の状況について、経営者の視点による振り返りを行い、経営成績等の増減要因等についての分析・検討内容を説明するものです。

 

イ) MD&Aの開示

投資家は、企業が策定した経営方針・経営戦略等の適切性を確認することや、経営者が認識している足許の傾向を踏まえ、将来の経営成績等の予想の確度をより高めることが可能となります。

 

ウ) 重要な事業再編や減損の影響や、工場等の収益性の低下が財務諸表に表れている場合

MD&Aにおいて、例えば、想定していた規模の経済が実現できなかったこと、主要な顧客との契約を維持できなかったこと、設備の老朽化により稼働率が落ちたことなど、背景にある理由を分析すべきです。

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) MD&Aにおいては、単に財務情報の数値の増減を説明するにとどまらず、事業全体とセグメント情報のそれぞれについて、認識している足許の傾向も含めて、経営者の評価を提供することが期待されます。

 

・ 当期における主な取組み

・ 当期の実績

・ 増減の背景や原因についての深度ある分析

・ その他、当期の業績に特に影響を与えた事象

 

イ) MD&Aにおいて、当期における主な取組みやそれを踏まえた実績の評価を開示するに当たっては、企業が設定したKPIと関連付けた開示を行うことが望まれます。

 

(2)キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 

① 法令上記載が求められている事項

 

キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容、資本の財源及び資金の流動性に係る情報の開示においては、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載することが求められています。

 

② 考え方

 

ア) 企業経営においては、経営方針・経営戦略等を遂行するため、その資産の最大限の活用が期待されています。

 

イ) 「キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容、資本の財源及び資金の流動性に係る情報」については、経営方針・経営戦略等を遂行するに当たって必要な資金需要や、それを賄う資金調達方法、さらには株主還元を含め、経営者としての認識を適切に説明することが重要です。

 

ウ) このような説明により、投資家は、以下の点を判断することが可能となります。

 

・ 企業が経営方針・経営戦略等を遂行するに当たっての財源の十分性

・ 企業の経営方針・経営戦略等の実現可能性

 

エ) また、上記の情報の開示により、投資家は、以下の点を理解することも可能となると考えられます。

 

・ 成長投資、手許資金、株主還元のバランスに関する経営者の考え方

・ 企業の資本コストに関する経営者の考え方

 

③ 望ましい開示に向けた取組み

 

ア) 資金需要の動向に関する経営者の認識の説明

企業が得資金をどのように成長投資、手許資金、株主還元に振り分けるかについて、経営者の考え方を記載することが有用です。

 

イ) 成長投資への支出

経営方針・経営戦略等と関連付けて、設備投資や研究開発費を含めて、説明することが望まれます。

 

ウ) 株主還元への支出

目標とする水準が設定されている場合にはそれも含め、考え方を説明することが望まれます。

その際、配当政策など、他の関連する開示項目と関連付けて説明することが望まれます。

 

エ) 緊急の資金需要のために保有する金額

金額の水準とその考え方を明示するなど、現金及び現金同等物の保有の必要性について投資家が理解できる適切な説明をすることが望まれます。

 

オ) 資金調達の方法

資金需要を充たすための資金が営業活動によって得られるのか、銀行借入、社債発行や株式発行等による調達が必要なのかを具体的に記載することが考えられます。

また、資金調達についての方針を定めている場合には、併せて記載することが有用です。

 

カ) 資本コストに関する企業の定義や考え方

上記の内容とともに説明することも有用です。

 

(3)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 

① 法令上記載が求められている事項

 

財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、会計方針を補足する情報を記載することが求められています。

 

② 考え方

 

ア) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

仮定と実績との差異などにより、企業の業績に予期せぬ影響を与えるリスクがあります。

会計基準における見積り要素の増大が指摘される中、企業の業績に予期せぬ影響が発生することを減らすため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定について、充実した開示が行われることが求められます。

 

イ) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定に関する経営者の前提

どの様な前提を置いているかということは、経営判断に直結する事柄と考えられるため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、経営者が関与して開示することが重要と考えられます。

収益認識基準における「ポイント制度」の取扱~会計処理と事例

日本公認会計士協会は、収益認識の基本論点(Q&A)を公表しています。

その中から、「追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(ポイント制度)」についてみてみましょう。

 

1.会計基準等の定め

 

(1)はじめに

 

顧客の囲い込みや販売促進策として、商品の販売やサービスの提供の際に、将来新たな商品やサービスの購入時に値引きを受けられるポイントを付与することがあります。

このようなポイント付与がある場合、ポイントに関して企業が負う義務の性質に応じて会計処理を行うことになります。

 

(2)収益基準

 

収益基準では、顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得できるオプションが付与された場合の取扱いを図表1(適用指針第48項から第51項を基に作成)のように定めています。

「Q&A収益認識の基本論点」日本公認会計士協会より抜粋

 

(3)自社ポイントの会計処理

 

自社ポイントの付与が、契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利に該当する場合、当該ポイントを別個の履行義務として会計処理します。

「追加の財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションとしての履行義務」となります。

この場合、取引価格の一部がポイントに配分され、このようなポイントに配分された取引価格は、ポイント利用時において将来の財又はサービスが移転する時、又は当該ポイントが失効する時に、収益を認識します。

 

(4)他社ポイント

 

他社が運営するポイント制度に参加し、商品の販売時に顧客に他社ポイントを付与するとともに、他社に所定の金額を支払う場合があります。

 

他社ポイントの付与に伴う企業の義務が当該支払義務のみである場合、別個の履行義務とはならず、他社への支払額を第三者のために回収した金額として取引価格から除外します。

 

2.事例:ポイント制度 (自社ポイント)

 

(1)前提条件

 

①ポイント制度

 

  • A社は、A社の商品を顧客が100円購入するごとに1ポイントを顧客に付与するポイント制度を採用しています。

 

  • 顧客は、ポイントを使用して、A社の商品を購入する際に1ポイント当たり1円の値引きを受けることができます。

 

②商品販売時

 

  • X1年度中に、顧客はA社の商品10,000円を購入し、将来のA社の商品購入に利用できる100ポイント(=10,000円÷100円×1ポイント)を獲得しました。

 

  • 対価は固定であり、顧客が購入したA社の商品の独立販売価格は10,000 円でした。

 

 

③ポイント使用見込みと独立販売価格

 

  • A社は商品の販売時点で、将来95ポイントが使用されると見込みました。

 

  • A社は、顧客により使用される可能性を考慮して、1ポイント当たりの独立販売価格を95円(合計額は95円 (=0.95円×100ポイント))と見積りました。

 

④履行義務

 

  • 当該ポイントは、契約を締結しなければ顧客が受け取ることのできない重要な権利を顧客に提供するものであるため、A社は、顧客へのポイントの付与により履行義務が生じると結論付けました。

 

⑤X2年度末

 

  • A社はX2年度末において、使用されると見込むポイント総数の見積りを97ポイントに更新しました。
  • 各年度に使用されたポイント、決算日までに使用されたポイント累計及び使用されると見込むポイント総数は次のとおりです。

 

X1年度 X2年度
各年度に使用されたポイント 45 40
各決算日までに使用されたポイント累計 45 85
使用されると見込むポイント総数 95 97

 

 

 

(2)会計処理

 

①商品販売時

 

現金預金 10,000円 / 売上高 9,906円

契約負債  94円

 

商品販売:10,000×独立販売価格10,000÷10,095=9,906円

ポイント:10,000×独立販売価格95÷1,095=94円

 

②X1年度末

 

契約負債 45円 / 売上高 45円

 

X1年度末までに使用されたポイント45ポイント÷使用されると見込むポイント総数95ポイント×94円=45円

 

③X2年度末

 

契約負債 37円 / 売上高 37円

 

(X2年度末までに使用されたポイント累計85ポイント÷使用されると見込むポイント総数97ポイント×94円)-X1年度末に収益を認識した45円=37円

 

収益認識基準における「知的財産のライセンス(フランチャイズ料)」の取り扱い

日本公認会計士協会は、収益認識の基本論点(Q&A)を公表しています。

その中から、知的財産のライセンス・フランチャイズ料の取扱を見てみましょう。

 

1.会計基準等の定め

 

(1)ライセンスの対象となる知的財産

 

以下の知的財産が例示されています。

 

①ソフトウェアや技術

 

②動画、音楽等

 

③フランチャイズ

 

④特許権、 商標権、著作権

 

(2)会計処理

 

収益基準では、上記の知的財産のライセンスに関する会計処理を図表1(適用指針第61項から第64項を基に作成)のように定めています。

 

「Q&A収益認識の基本論点」日本公認会計士協会より抜粋

 

(3)「知的財産にアクセスする権利」に該当するための要件

 

①知的財産に著しく影響を与える活動であること

 

「知的財産に著しく影響を与える活動」とは、次のいずれかに該当する活動を言います。

 

(ⅰ)知的財産の形態又は機能性を著しく変化させる活動

 

例:デザイン、コンテンツ、機能を実行する能力を著しく変化させる活動

 

(ⅱ)顧客が知的財産からの便益を享受する能力に影響を与える活動

 

例:ブランドからの便益は、知的財産の価値を補強する、

又は維持する企業の継続的活動から得られるかあるいは当該活動に依存していることが多い。

 

②顧客により合理的に期待されていること

 

「顧客により合理的に期待されていること」を示す可能性のある要因としては、次が挙げられます。

 

(ⅰ)企業の取引慣行や公表した方針等

 

(ⅱ)顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での経済的利益の共有の存在

 

例えば、売上高に基づくロイヤルティ

 

2.事例:フランチャイズ料

 

【一般的なフランチャイズ契約】

 

フランチャイズ運営者は、フランチャイズ契約に基づき、フランチャイズ加盟者(以下「加盟者」)から毎月の売上高の一定割合等のロイヤルティを受領します。

フランチャイズ運営者は、取引慣行として、フランチャイズの評判を高めるため、一般顧客の嗜好の分析や、製品の改善、価格戦略、販促キャンペーン及び運営面の効率化の実施などの活動を行います。

 

(1)会計処理

 

フランチャイズ運営会社は、フランチャイズのライセンス供与により加盟者が有する権利が、「企業の知的財産にアクセスする権利」に該当するために満たす必要のある要件の全てを満たすかどうかを検討し、「企業の知的財産にアクセスする権利」なのか「企業の知的財産を使用する権利」なのかを判断することになります。

 

「企業の知的財産にアクセスする権利」を提供する場合は、「一定の期間にわたって収益を認識する」ことになります。

 

(2)「企業の知的財産にアクセスする権利」の要件に該当するかどうかの検討

 

①要件1:著しく影響を与える活動が顧客に期待されているか。

 

次の点を考慮し、加盟者が権利を有している知的財産であるフランチャイズに著しく影響を与える活動をフランチャイズ運営会社が行うことを、加盟者は合理的に期待しています。

 

ア)フランチャイズの評判を高めるために、一般顧客の嗜好の分析などの活動をフランチャイズ運営会社が行う取引慣行があるため、加盟者が権利を有している知的財産であるフランチャイズから便益を享受する能力は、実質的に運営者の活動により得られるか、又は当該活動に依存します。

 

イ)フランチャイズ運営会社が得られる報酬が加盟者の売上高に基づくロイヤルティである場合、当該報酬は加盟者の売上高等に左右されるため、自らの利益を最大化するように活動することを加盟者は期待し、加盟者と共通の経済的な利害があります。

 

②要件2:願客は直接的に影響を受けるか。

 

フランチャイズ加盟者は、製品の改善、価格戦略、販促キャンペーン及び運営面の効率化などフランチャイズ運営会社が行う活動から生じる変化に対応することとなるため、当該活動の影響を受けます。

 

③要件3:財又はサービスが顧客に移転しないか。

 

フランチャイズ加盟者は、一般顧客の嗜好の分析などのフランチャイズ運営会社の活動からの便益を享受する可能性はあるが、当該活動が生じたとしても、財又はサービスはフランチャイズ加盟者に移転しません。

 

(3)検討結果

 

要件1、2、3ともに該当するので、「企業の知的財産にアクセスする権利」の提供として、 一定の期間にわたって収益を認識することになります。