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会社分割の税務の概要と課税関係

. 会社分割の課税の概要

 

法人が分割により資産及び負債の移転をしたときは、原則として分割法人が時価により資産及び負債を分割承継法人に譲渡したものとして取扱われます。

当該分割が税制適格要件を充足する分割(以下、適格分割)に該当する場合には、特例として資産及び負債の移転にかかる譲渡損益が繰延べられます。

 

また、分割には分割型分割と分社型分割があります

(1)分割型分割

分割対価が最終的に分割法人株主に交付されるもの

 

(2)分社型分割

分割対価が分割法人に交付されるもの

 

分割対価が交付される法人が異なることから、分割の形態に応じて課税関係も異なることとなります。

 

 

(EY新日本有限責任監査法人HPより)

 

2. 分割法人の課税関係

 

(1)原則的取扱い(非適格分割)

 

法人が分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、分割承継法人に移転をした資産及び負債の分割の時の価額による譲渡をしたものとして、分割法人の各事業年度の所得の金額を計算します。

 

(2)特例的取扱い(適格分割)

 

法人が適格分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、原則的取扱いにかかわらず、分割承継法人に移転をした資産及び負債の適格分割の直前の帳簿価額による引継ぎをしたものとして、分割法人の各事業年度の所得の金額を計算します。

 

3. 分割承継法人の課税関係

 

(1)原則的取扱い(非適格分割)

 

分割承継法人は、分割により移転を受けた資産及び負債を、分割の時の価額により受け入れます。
また、税務上の時価純資産と交付株式等の時価とに乖離があるなど一定の場合には、分割承継法人において資産(差額負債)調整勘定が認識されます。

 

(2)特例的取扱い(適格分割)

 

分割承継法人は、適格分割により移転を受けた資産及び負債を、適格分割の直前の帳簿簿価額により引継ぎます。
また、一定の要件を充足しない場合には、分割承継法人の欠損金額及び含み損資産につき損金算入制限を受ける可能性があります。

 

4. 分割法人株主の課税関係

 

(1)分割型分割

 

(ア)みなし配当及び株式の譲渡損益

分割型分割における分割法人の株主は、分割対価のうち利益積立金額から成る部分をみなし配当として認識し、分割資本金等の額から成る部分と分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額との差額を株式の譲渡損益として認識することとなります。

なお、適格分割の場合には、みなし配当は発生しません。

 

(イ)株式の譲渡損益の繰り延べ(分割承継法人株式等のみが交付される場合)

 

分割型分割における分割法人の株主は、分割の対価として分割承継法人株式のみが交付される場合、分割法人株式を分割純資産対応帳簿価額(譲渡対価=譲渡原価)により譲渡したものとして、分割法人株式の譲渡損益を繰り延べることとなります。

 

(2)分社型分割

 

分社型分割においては、分割法人の株主に課税関係は生じません。

 

5. 税制適格要件

 

分割の税制適格要件は、パターンごとにそれぞれ下表の「〇」の要件を全て充足する必要があります。

 

(EY新日本有限責任監査法人HPより)

 

(1)分割対価要件

分割の対価として分割承継法人株式等以外の資産が交付されないこと(分割型分割にあっては、分割法人の株主の分割法人株式保有割合に応じて交付されるものに限る)

 

(2)主要資産等引継要件

分割法人の分割直前の分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転するものであること

 

(3)事業関連要件

分割法人の分割事業と分割承継法人の分割前のいずれかの事業とが相互に関連するものであること

 

(4)事業規模要件

分割法人の分割事業と分割事業に関連する分割承継法人の事業のそれぞれの売上金額、従業者の数若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと

 

(5)経営参画要件

分割前の分割法人の役員等(スピンオフの場合には、重要な使用人を含む)のいずれかと分割承継法人の特定役員(スピンオフの場合を除く)のいずれかが分割後に分割承継法人の特定役員となることが見込まれていること

 

(6)従業者引継要件

分割法人の分割直前の分割事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が分割後に分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること

 

(7)移転事業継続要件

分割法人の分割直前の分割事業が分割後に分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること

 

(8)株式継続保有要件(共同事業)

分割型分割により交付される分割承継法人株式等のうち支配株主(分割直前に分割法人との間に支配関係がある株主)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていること、

又は、

分社型分割により交付される分割承継法人株式等の全部が分割法人により継続して保有されることが見込まれていること

 

(9)非支配関係継続要件

分割直前に分割法人と株主との間に支配関係がなく、分割後に継続して分割承継法人と株主との間に支配関係がないことが見込まれていること

 

. 分割の課税関係のまとめ

 

分割の課税関係をまとめると下表のとおりとなります。

 

(EY新日本有限責任監査法人HPより)

記述情報の開示の充実の必要性とその目的

1.企業情報開示の充実に向けた動き

 

2018年6月のディスクロージャーワーキンググループ報告の提言を踏まえて有価証券報告書の記載内容の充実に向けた取り組みが行われています。

2019年1月には、有価証券報告書の記述情報の見直しを目的とした開示府令の改正が行われており、2019年3月期の有価証券報告書から、コーポレート・ガバナンス情報(役員報酬、政策保有株式等)の記載が拡充され、2020年3月期の有価証券報告書から、経営戦略、リスク情報等に関する記載及び監査関係の情報に関する記載の充実が求められます。

また、金融庁より2019年3月に「記述情報の開示に関する原則」が公表されました。

当原則は、開示ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促し、開示の充実を図ることを目的として作成されたものです。

2020年3月期の有価証券報告書における記述情報の作成の際には、同時に公表されている「記述情報の開示の好事例集」も参考にして、当原則に即した開示を行うことになります。

 

2. 記述情報の開示の充実の必要性

 

わが国企業の企業価値の向上を目的として、機関投資家の行動原則を定めたスチュワードシップ・コード、上場企業の行動原則を定めたコーポレートガバンナンス・コードが策定されていますが、投資家による適切な投資判断が行われ、中長期的な視点に立った投資家と企業との建設的な対話が促進されるためには、企業情報の開示を充実することが重要となります。

こうした取組みにより、わが国企業の企業価値が中長期的に向上し、企業収益向上の果実が家計に及び、資本市場に再投資されるという好循環が実現することが期待されています。

 

3.記述情報開示の目的

 

記述情報には、以下の役割や目的があります。

 

(1)投資家が経営者の視点から企業の状況を理解するための情報を提供すること

 

(2)主に過去情報から作成される財務情報全体を分析・理解するための文脈を提供すること

 

(3)企業収益やキャッシュ・フローの性質やそれらを生み出す基盤についての情報を提供すること

 

財務情報だけでなく、それを補完する役割を担う記述情報が充実することにより、投資家による適正な投資判断を可能とするだけでなく、投資家と企業との建設的な対話の促進が図られることにより、企業価値の向上に寄与していくことが求められています。

 

4.「記述情報の開示に関する原則」について

 

「記述情報の開示に関する原則」は、企業情報の開示について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取組み方を示すものであり、新たな開示事項を加えるものではないとされています。

経営者や開示書類の作成に関与する、作成事務担当者、IR担当者等においては、本原則に即した開示が行われているか自主的な点検を実施し、継続することが求められています。

また、投資家が企業との対話を行う際に利用することも有用とされています。

「記述情報の開示に関する原則 -総論-」に関する留意点

1. 企業情報開示における記述情報の役割

 

「記述情報の開示に関する原則 Ⅰ. 総論」では、記述情報は財務情報を補完し、投資家による適正な投資判断を可能とすることだけではなく、投資家と企業との建設的な対話を促進し、企業の経営の質を高めるためのツールとして利用されることが期待されるとしています。

従って、経営者は、企業情報開示ないし記述情報のこのような機能を念頭に置きながら、開示書類の作成に当たっては、主体的に関与していくことが必要と考えられます。

 

2. 経営方針・経営戦略等の適切な記載

 

有価証券報告書における記述情報のうち、特に、経営方針・経営戦略等、リスク情報、MD&Aに関しては、経営判断と密接に関する事項です。

投資家は企業の経営方針・経営戦略等の内容や企業の現状分析の理解に必要な情報を入手することができ、投資家は財務情報のみからでは判別できない経営の方向性を理解し、将来の経営成績等の予想の精度を高めることが可能となります。

このような開示を実現するためには、経営者は開示についての方針を社内に示して、開示書類作成の体制を構築する必要があります。

複数の部署が開示書類の作成に関与している企業においては、開示担当の役員が各部署を統括する体制を構築し、取締役会や経営会議での議論に基づく開示書類を作成することが期待されます。

 

3. 重要性

 

有価証券報告書においては、開示府令の定めに従って、投資家の投資判断に重要な情報が過不足なく提供される必要があります。

記述情報の開示に当たっては、経営者は開示事項について、個々の課題、事象等が自社の企業価値や業績等に与える重要性を判断し、それに応じて説明の順序や記載内容等を示すことにより、読み手が当該情報の重要性を理解できるように工夫することが期待されます。

例えば、事業等のリスクについては、リスクが顕在化した場合に経営に与える重要性の順に記載する、前年度からリスクの程度が変化した場合には、それが理解できるような開示を行うなどの検討が必要と考えられます。

 

4. セグメント情報

 

企業経営の多角化が進む中、適切な投資判断を行うためには、企業全体の情報だけでなく、経営管理の実態などに応じて区分された事業セグメントにおける情報が開示されることも重要です。

必要に応じて、財務諸表におけるセグメント情報の注記に加えて、経営方針および経営戦略等の説明に合わせた区分ごとの情報を開示することが考えられます。

 

5. 分かりやすい開示

 

記述情報の開示に当たっては、読者がその内容を容易に、より深く理解することができるよう、図表、グラフ、写真等の補足的なツールを用いることや、前年からの変化を明確に表示することなど、分かりやすさを意識した記載が行われることが期待されます。

有価証券報告書では、EDINETにおける提出書類ファイルの容量上可能な範囲で、このようなツールを用いることも可能とされており、企業が決算説明資料や統合報告書などの任意開示において使用している図表やグラフなどを有価証券報告書にも取り入れていくことも考えられます。

 

「記述情報の開示に関する原則 -各論-」に関する留意点

1. 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等

 

(1) 経営方針・経営戦略等

 

開示府令は、「経営方針・経営戦略等」の記載については、経営環境に関する経営者の認識の説明を含めて、企業の事業の内容と関連付けて記載することを求めています。

 

経営環境とは、例えば、以下のものになります。

①企業構造

②事業を行う市場の状況

③競合他社との競争優位性

④主要製品・サービスの内容

⑤顧客基盤

⑥販売網

 

この記載は、企業がその事業目的をどのように実現していくか、どのように中長期的に企業価値を向上させるかを説明するものであり、投資家がその妥当性や実現可能性を判断できるようにするため、企業活動の中長期的な方向性のほか、その遂行のために行う具体的な方策についても説明することに留意が必要です。

 

(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 

開示府令は、「優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」の記載については、その内容、対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載することを求めています。

この記載は、経営成績等に重要な影響を与える可能性があると経営者が認識している事項を説明するものです。

 

例えば、以下の事項があります。

①事業を行う市場の構造的変化

②事業に与える影響が大きい法令及び制度の改変

 

投資家が経営者による課題認識の適切性や十分性、経営方針・経営戦略等の実現可能性を評価することができるように、経営方針・経営戦略等との関連性の程度や、重要性の判断等を踏まえて説明することに留意が必要です。

 

(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 

開示府令は、「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等(以下、KPI)」がある場合には、その内容を開示することを求めています。

 

KPIには、以下の情報が含まれます。

①ROE、ROICなどの財務上の指標

②契約件数や市場シェア等の非財務指標

 

KPIが開示されることにより、投資家は経営方針・経営戦略等の進捗状況や、実現可能性の評価等を行うことが可能となります。

 

KPIの内容の説明には、以下の項目が含まれます。

①目標の達成度合いを測定する指標

②算出方法

③その指標を利用する理由

④具体的な目標数値の記載

 

セグメント別のKPIを設定している場合には、その内容も開示することに留意が必要です。

 

2. 事業等のリスク

 

(1)記載内容

 

開示府令は、「事業等のリスク」の記載について、以下の記載を求めています。

 

①有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、経営成績等)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて記載

②当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に企業の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策の記載

 

また、記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載することが求められています。

 

(2)記載する際の留意事項

 

事業等のリスクは、翌期以降の事業運営に影響を及ぼし得るリスクのうち、経営者の視点から重要と考えるものをその重要度に応じて説明するものとされています。

 

(ア)記載する事項

一般的なリスクを羅列するのではなく、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に記載することが求められます。

 

例えば、

 

①経営成績等の状況の異常な変動

②特定の取引先・製品・技術等への依存

③特有の法的規制・取引慣行・経営方針

④重要な訴訟事件等の発生

⑤役員・大株主・関係会社等に関する重要事項

 

(イ)説明内容

 

①取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明を行うことに留意が必要です。

②リスクの記載の順序については、時々の経営環境に応じ、経営方針・経営戦略等との関連性の程度等を踏まえ、取締役会や経営会議における重要度の判断を反映することが考えられます。

③社内の組織としてリスク管理部門が設置されている場合には、その体制や枠組みについても記載することが考えられます。

④リスクの区分については、リスク管理上用いている区分に応じた記載を行うことが考えられます。

 

3. 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)

 

(1) MD&Aに共通する事項

 

(ア)記載内容

開示府令は、「経営者による経営成績等の状況の分析」については、以下の記載を求めています。

 

①事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに

②経営者の視点による認識及び分析・検討内容(例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析)を

③経営方針・経営戦略等のほか、有価証券報告書に記載した他の項目の内容と関連付ける

 

(イ)MD&Aの意義

 

MD&Aは、経営方針・経営戦略等に従って、事業を営んだ結果である当期の経営成績等の状況について、経営者の視点による振り返りを行い、経営成績等の増減要因等についての分析・検討内容を説明するものとされています。

この開示により、投資家は、企業が策定した経営方針・経営戦略等の適切性を確認することや、経営者が認識している足許の傾向を踏まえ、将来の経営成績等の予想の確度を高めることが可能となります。

 

(ウ)開示上の留意事項

 

MD&Aの記載に当たっては、以下の点に留意が必要です。

 

①単に財務数値の前年対比の増減を説明するだけではない

②事業全体とセグメント情報のそれぞれについて、当期における主な取組み、当期の実績、増減の背景や原因についての深度ある分析を行う

③その他、当期の業績に特に影響を与えた事象について、経営者が認識している足許の傾向も含めて経営者の評価を提供する

 

記載に当たっては、企業が設定したKPIと関連付けて目標数値の達成状況を記載することも考えられます。

 

(2) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 

(ア)記載内容

 

開示府令は、「キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容、資本の財源及び資金の流動性に係る情報」について、具体的に、かつ、分かりやすく記載することを求めています。

 

①資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載する

②経営方針・経営戦略等を遂行するに当たって必要な資金需要や、それを賄う資金調達方法、さらには株主還元を含めて、経営者の認識を適切に説明する

 

こうした開示により、投資家は、企業が経営方針・経営戦略等を遂行するに当たっての財源の十分性や、経営方針・経営戦略等の実現可能性を判断することが可能となり、成長投資、手許資金、株主還元のバランスや、企業の資本コストに関する経営者の考え方を理解することが可能となると考えられます。

 

(イ)開示に当たっての留意点

 

開示に当たっては、以下の点を踏まえて記載することが有用とされています。

 

・資金需要の動向
企業が得た資金をどのように成長投資、手許資金、株主還元に振り分けるかについて、経営者の考え方を記載する

 

・成長投資への支出
経営方針・経営戦略等と関連付けて、設備投資や研究開発費を含めて、説明する

 

・株主還元への支出
目標とする水準が設定されている場合には、配当政策など、他の関連する開示項目と関連付けて説明する

 

・緊急の資金需要のために保有する金額
その金額の水準とその考え方を明示し、現金及び現金同等物の保有の必要性について投資家が理解できる適切な説明をする

 

・資金調達の方法
資金需要を充たすための資金が営業活動によって得られるのか、銀行借入、社債発行や株式発行等による調達が必要なのかを具体的に記載し、資金調達についての方針を定めている場合には、併せて記載する

 

・資本コスト
企業における定義や考え方について、上記の内容とともに説明する

 

(3) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 

開示府令は、「財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」のうち重要なものについて、以下の事項を記載することを求めています。

 

①当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容

②その変動により経営成績等に生じる影響

③その他、会計方針を補足する情報

 

会計基準における見積り要素が増大している中、投資家の投資判断に影響を及ぼすと考えられる会計上の見積りに関する情報を提供することで、投資家が企業の財務情報を正しく理解することを容易にし、投資家が誤った投資判断を行うリスクを減少させることが可能となると考えられます。

 

継続的監査(Continuous Auditing)の意義、有効性、限界について

1.継続的監査~Continuous Auditingとは

 

(1)Continuous Auditing定義

 

Continuous Auditingの定義自体はさまざまですが、カナダ勅許会計士協会(CICA)と米国公認会計士協会(AICPA)のスタディグループによる研究報告では、以下のように定義しています。

「経営者が責任を有する主題に対し、独立監査人がその基礎となる事象の発生と実質的に同時もしくは短期間のうちに監査報告書の形で書面による保証を提供する方法論」

 

保証のための検証を、データ分析などにより自動的、継続的に行うことで、監査人は異常の発見ではなく、発見された異常の調査に時間を割くというのが基本的な発想です。

 

(2)Continuous Auditing最近の状況

Continuous Auditingの概念は以前からありましたが、これまでは内部監査の観点からが多く、監査法人や公認会計士による外部監査において将来の監査の在り方として注目されるようになったのは最近になってからです。

 

注目されるようになった背景としては、以下の点が挙げられます。

 

①継続的に大量のデータを受領し、統計処理や異常検知などを行うためのサーバーなどのシステムインフラの整備

 

②一連の処理を自動化し、データを分析する手法の開発

 

③近年のテクノロジーの進展による技術的な課題の解決

 

2.内部監査におけるContinuous Auditingのプロセス

 

内部監査において何を検証するのか、どこまで検証するのかという点については、会社によって様々ですが、Continuous Auditingのプロセスの大きな流れについては、以下の四つのステージにプロセスを分けることができます。

 

① 手続きの自動化(Automated Audit Procedures)

 

② データモデリングとベンチマークの構築(Data Modeling/Benchmarks)

 

③ データ分析(Data Analytics)

 

④ 報告(Audit Report)

 

3.外部監査におけるContinuous Auditingの導入

 

外部監査でどこまでContinuous Auditingが実現可能なのかについて、ある大手監査法人の現在の状況について、事例をご紹介します。

 

(1)Continuous Auditingの前提

 

Continuous Auditingのプロセスの手続きの自動化については、あくまで被監査会社から日次やそれよりも短いサイクルで自動的、継続的にデータが監査人のデータベースに転送可能であることを前提としています。

その上でデータのモデリング、データの分析について、仕訳データを対象に監査ツールを用いて仕訳の異常検知を日次で行うことが可能となっています。

 

(2)Continuous Auditingの方法

 

監査法人は開発したツールを用いて、特許を取得したアルゴリズムにより仕訳の異常検知を行います。

具体的には、機械学習を用い、勘定科目の変動パターンを学習し、パターンから外れる科目の動きから、そのような動きを引き起こす異常な会計仕訳を自動的に検知するもので、収益の過大計上や費用の過少計上などの異常な仕訳を自動的に検知します。

 

一度、勘定科目の変動パターンを学習させたアルゴリズムに日次で仕訳を投入することで、毎日の仕訳の中で異常検知されたものを抽出することが可能となります。

海外子会社であっても仕訳データを日次で転送することができれば、どの子会社のどの仕訳という単位で異常を特定することができます。

 

Continuous Auditingによる異常検知の有効性と限界

 

(1)Continuous Auditing有効性

 

Continuous Auditingは、日次やリアルタイムに取引レベルで異常が検知されることで、より適時にリスクを把握でき、また人間の行う業務をよりリスクの高い領域に集中させることができるようになります。

 

しかし、Continuous Auditingにおける異常検知手法やその有効性に関する実際の不正事例による実証分析は学術研究においてもあまりなく、検証に利用できるようなデータが一般に公開されていないことがその原因として挙げられています。

不正会計のあった会社の仕訳や補助元帳を含む詳細データの共有をどのように行うかは、今後の検討課題となるでしょう。

 

(2)Continuous Auditing限界

 

継続的・リアルタイムに監査を行うという目標を考えた際、異常検知までを自動で行ったにしても、そこから先の検証を監査人が行う際に、必ず、不正を見抜けるということにはなりません。

 

①外部証憑

 

外部証憑自体が記帳内容と齟齬がない場合、それだけを見ても取引の経済的実態を把握することができないことも多いため、外部証憑に当たって異常を検証するという方法論自体に限界があります。

 

②経営者の見積もり

 

事業計画における将来キャッシュ・フロー、工事の進捗率、滞留在庫の評価などの見積もりに関連する不正のケースでは、主観的な見積もりや判断に基づくものであるため、仮に異常が検知されたとしても、監査人が判断根拠として提示された情報に隠された不正を探り当てることは、難易度が高いものになります。

 

③内部統制の無効化

 

工事原価の案件間での付け替えなど、通常であれば内部統制により不正を検知されるものでも、組織ぐるみの不正の場合には、チェック機能が働かないため、不正を防ぐことができません。

このような組織ぐるみの不正で内部統制が無効化されてしまう状況では、仮に異常が検知されても不正を特定することは難しいものになります。

 

(3)Continuous Auditingの今後

 

現在のContinuous Auditingが想定する異常検知のアプローチは、検知された異常から不正の発見につなげることに高いハードルがあると考えられますが、今後、データの利用可能性が高まり、システムインフラの整備や、AIや機械学習を用いたデータ分析手法の発展によりContinuous Auditingがさらに発展し、監査人の人的リソースはリアルタイムに識別したリスクの検討や、判断を要する業務に集中できる環境が整うと考えられます。

 

被監査会社にとっても、海外子会社の不自然な取引や会計記録がリアルタイムに把握ができるようになり、ガバナンスの強化に役立ちます。

 

Continuous Auditingは、種々の課題を含んでいますが、財務報告の質の向上のための有効な手段となっていくと考えられます。

カーブアウト案件~バイサイドの財務デューデリジェンスの観点より

1.カーブアウト案件とは

 

(1)カーブアウト案件の意義

 

カーブアウト案件とは、会社全体の取得(株式取得・合併等)ではなく、会社の一部を取得(会社分割・事業譲渡等)するM&A案件を指します。

バイサイドの立場において、カーブアウト案件は、買収対象を既存会社の一部に限定する方が相対的に偶発債務等のリスクは低くなるので、潜在的リスクの回避や買収対象を必要な事業に限定し、自社の経営資源と組み合わせることでシナジーを創出するといった統合効果を最大化できる利点があります。

 

(2)カーブアウト案件の留意事項

 

分離元企業グループからの独立に伴う購買・物流・間接業務部門等の共通機能の不足や分離元企業グループとのシナジー喪失等への対応が必要となるため、カーブアウト案件は、スタンドアロン項目に係る検討が必要であり、会社全体を取得するM&Aより難易度の高い手法と言えます。

そのため、カーブアウト案件の経験豊富な専門家を起用することが、案件成功に向けての重要なポイントの一つとなります。

 

2.主要な検討事項

 

(1)スタンドアロン項目

 

通常、分離元企業はカーブアウト対象事業(事業部門等)に係るスタンドアロンベースの財務諸表を作成していないため、カーブアウト対象事業に係る財務諸表(以下、カーブアウト財務諸表)および事業計画は一定の仮定に基づいて作成されています。

 

このため、カーブアウト財務諸表には、カーブアウト対象事業が独立した会社となった場合に、自前で機能を保持するために必要な一時的に発生するコストおよび計画期間において継続的な費用水準の変動として発生するスタンドアロンコストが反映されていないか、簡便的な前提によってコストを計上しているため、実態を反映していないことが多くなっています。

 

このようなことから、カーブアウト案件においては、スタンドアロン項目を把握し、カーブアウト財務諸表および事業計画を補正することが重要となります。

主なスタンドアロン項目としては、以下が挙げられます。

 

間接業務機能

人事・総務・経理などの間接業務機能が承継対象とされていない場合、自前で当該機能を保持するか、TSA(Transaction Service Agreement)に基づく売り手のサポートが必要となります。

 

他方、買い手がこれらの間接業務機能をすでに保持している場合、重複するためコスト面からは当該機能等を承継しない方が望ましいケースもあります。

そのため、買い手は、これらの間接業務機能の取り扱いを検討しておく必要があります。

 

ITシステム

カーブアウト対象事業が利用しているITシステムが承継対象とされていない場合、関連するソフトウェアのライセンス契約の新規締結、買い手の保持するITシステムの利用、TSAに基づく売り手のサポート等の対応が必要となります。

 

退職給付

分離元企業の企業年金基金に加入している場合、カーブアウト対象事業が独立した会社となった時点で、企業年金基金から脱退することが想定され、その場合は独自の企業年金基金を設立する等の対応が必要となり、退職給付費用が変動する可能性があります。

また、企業年金基金からの脱退方法および企業年金基金における年金財政上の積立状況等によっては、退職給付引当金の変動や脱退時に掛金の一括拠出が発生する可能性があります。

 

不動産

工場・営業所・支店など分離元企業とカーブアウト対象事業とで共通利用しているスペースは、自前で移転先を確保するか、TSAに基づく売り手のサポートが必要となります。

なお、分離元企業が共通利用しているスペースから退去する場合でも、デッドスペースが増えるため賃料等の負担が一時的に増加するケースもあります。

 

グループ共同取引

原材料等の共同購買やグループ金融取引等、対象事業が分離元企業グループと共同して行っている取引については、ボリュームディスカウントや信用力の向上等に伴い取引条件が優遇されていることがあります。

そのため、カーブアウト対象事業が分離元企業グループから離脱した場合に、当該優遇措置を享受できなくなる可能性があります。

 

(2)事業計画へのスタンドアロン項目の反映

 

①事業計画の補正

カーブアウト案件においては、事業価値算定の観点から、通常の財務デューデリジェンス等による検出事項に加え、スタンドアロン項目を定量化し、それを事業計画モデルに整合させる形で事業計画を補正することに留意が必要となります。

 

②スタンドアロン項目の定量化

財務デューデリジェンスにおいては、例えば、人事・総務・経理などの間接業務機能やITシステム等が承継対象とされていないにもかかわらず、代替手段に係る費用や設備投資額がカーブアウト財務諸表に反映されていない場合に、分離元企業やベンチマークとなる企業における過去の類似取引に係る費用や設備投資額等に基づく試算により、スタンドアロン項目を定量化することが考えられます。

 

ただし、財務デューデリジェンスにおいては、分離元企業における情報管理や時間的な制約等からスタンドアロン項目の定量化が困難なことが多く、定性的な情報の把握に留まることも多くなっています。

 

③定量化の留意事項

スタンドアロン項目の重要性が高いと想定される場合には、各分野のアドバイザー(人事・IT・ビジネス等)を利用し、それぞれの専門分野におけるスタンドアロン項目を定量化し、事業計画を補正する場合もあります。

 

なお、スタンドアロン項目を定量化する場合、間接業務機能等に関連する費用は、簡便的に配賦計算によりすでにカーブアウト財務諸表に反映されている部分もあるため、配賦計算のロジック(配賦基準等)を把握し、その影響を考慮する必要があります。

カーブアウトと事業ポートフォリオ~成長戦略と企業価値最大化に向けて

1.カーブアウトの意義

 

(1)カーブアウトの定義

 

カーブアウトとは、「企業が経営戦略の一環として自社の特定の事業を分離し、新会社として独立させること」です。

 

カーブアウトした会社は、元の企業との親子関係を維持しつつ、第三者からも資金面や経営面の援助を得ることができるので、「独立性を維持しながら必要な経営サポートが得られる」というメリットがあり、成長のスピードが速く、早期に株式公開を果たすことが可能となります。

 

大企業が、自社の中で埋もれている技術や事業を、ファンドなどの出資を得てベンチャー企業として独立させる場合に使われることが多くなっています。

 

(2)カーブアウトが注目される背景

 

カーブアウトは不採算事業を切り出すための経営戦略として用いられています。注目されている背景には、「物言う株主」と呼ばれる投資ファンドや個人投資家が増加していることがあるといわれています。

 

一方で、マーケットイン(消費者ニーズに基づいた商品の企画開発・生産手法)の考え方の浸透や海外赴任を経験した経営トップの就任などにより、カーブアウトを自社の事業成長戦略として活用する動きがみられます。

 

これらの動きは、カーブアウトと事業ポートフォリオの再編を通常の経営戦略とする欧米企業の経営手法の影響があるためと考えられます。

 

日本の経済規模の伸び悩みやプロダクトライフサイクルの短期化が進む中で、カーブアウトは、次世代の成長産業/事業の成長を早めるための資金調達や権限譲渡を可能とした、大手企業の新たなベンチャー企業設立手法として注目されています。

 

また、中小企業においても、特定分野で高いシェアを持つ、付加価値の高い技術力を持つ中小企業の事業再編のニーズが高まっていることも、事業譲渡をしやすいカーブアウトに注目が集まっている理由と考えられます。

 

今後も日本企業によるカーブアウト型M&Aやカーブアウトを活用したベンチャー企業設立が増えていくと予想されます。

 

2.カーブアウトの目的

 

企業がカーブアウトを行う目的としては、以下の点があげられます。

 

(1)有望とは思われるものの、主力事業ではないため十分な経営資源が投下できず事業化できない社内の技術やビジネスモデルに対して、カーブアウトにより事業の育成をはかる。

 

(2)コングロマリット・ディスカウント状態を解消するため、ノンコア事業を分離して事業ポートフォリオの再構築をはかる。

 

また、その他のメリットとして、企業内で現状十分に活用できていないシーズや人材が有効活用できるといった点もあげられます。

 

3.カーブアウトと経営戦略

 

(1)カーブアウトの対象

 

カーブアウトとは、企業が事業部門の一部や子会社を切り離し、ベンチャー企業として独立させ、収益の改善や事業の成長を図る経営戦略のひとつです。

カーブアウトの対象は事業や子会社だけでなく、特許などの知的財産や特殊技術も含まれ、さまざまな事業分野での活用が可能です。

 

(2)事業の移転

 

カーブアウトを実施する際は、管理会計情報の調整と実態把握、そして当該事業部門の経営実態の把握が欠かせません。

事業譲渡や会社分割を行なう場合、全社を対象とした財務諸表から対象事業の財務諸表を切り出す作業を行います。

管理会計情報においては、作成している部門別損益計算書、貸借対照表を基に調整・把握を図ることが一般的です。

 

現在、組織のフラット化・全体最適を進める企業が増えている中、単一業務を行なっている事業部は少なくなりつつあります。

そのため、「当該事業部門の経営資源(ヒト・モノ・カネ)や業務が移転可能かどうか」を精査することが必要になります。

 

4.カーブアウトとスピンオフ・スピンアウトとの違い

 

企業から新会社が独立するときには、「スピンオフ」や「スピンアウト」という言葉も使われます。

カーブアウトと「スピンオフ」や「スピンアウト」は異なる概念です。

 

(1)スピンオフとは

 

①スピンオフの意義

 

スピンオフとは、完全分配方式で企業の一事業部を分離独立させ、意思決定プロセスの短縮化により、事業を迅速に成長させる経営手法のひとつです。

 

日本においては、親会社が事業の選択と集中を進めるために、不採算事業等を子会社として切り離す場合に主に用いられています。

 

②カーブアウトとの違い

 

スピンオフにより分社化した企業は、親会社の現物出資による運営が実施されるため、「外部からの融資を受けられない」という点でカーブアウトとの違いがみられます。

主に「収益化が見込めないが、将来性を持つビジネスモデル」と判断された事業に適用される経営戦略でもあり、カンパニー制や社内ベンチャー制度にも活用されます。

あくまでも親会社の中で活動しているため、スピンオフした独立企業は親会社との関係が継続します。

また、資金の利用や決済に関して、親会社の承認が必要となるため、かえってスピード感のある意思決定や事業展開が難しい場合がある、と指摘されています。

 

(2)スピンアウトとは

 

①スピンアウトの意義

 

スピンアウトとは、独自の技術を持つ者が会社を退職して、親会社から資金的支援を受けずに、独立する単独企業として事業運営を行う経営手法です。

情報システムや間接部門などの専門性の高い事業部門が対象になることが多く、企業のや全体最適が進む中で、今後も実施されやすい経営戦略といえます。

また、親会社から不採算事業と認定されたために、独立という体裁をとって売却されるケースも見受けられます。

 

②カーブアウト・スピンオフとの違い

 

新会社として独立する者が主体となって行われるところがカーブアウトやスピンオフとの違いであり、例えば、社内ベンチャー制度によって設立された会社などが該当します。

スピンアウトは事業部の売却による自社の企業価値の向上や、主力事業への「選択と集中」のために実施されることもあります。

取締役会の活性化と監査役の役割~取締役会評価の視点から

1.取締役の業務執行の監査

 

監査役の権限と責務は、取締役の職務執行を監査することです(会社法381条1項)。

従って、監査役としては、個別に事業部門の業務監査を行うことにとどまらず、取締役会における業務執行の意思決定の適正性や取締役が他の取締役の職務執行を監督する善管注意義務を果たしているかについても、業務監査の一環として監視・確認する必要があります。

このために、監査役は取締役会に出席し意見陳述する義務が規定されています(会社法383条1項)。

また、取締役の不正の行為や法令・定款違反等の事実を認めるときには、取締役に対して、取締役会の招集請求や自ら取締役会を招集する権利も付与されています(会社法383条2項・3項)。

このように、監査役は取締役会とは深い関わりがあることから、自社の取締役会がガバナンスの視点から有効に機能しているか否か、その評価の観点からも関わりを持つことが大切です。

 

2.取締役会評価と監査役の関わり

 

(1)コーポレートガバナンス・コードの原則

 

コーポレートガバナンス・コードでは、「取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである」(原則4-11)とした上で、「取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである」(補充原則4-11③)と記載しています。

 

(2) 取締役会評価のポイント

 

取締役会の活性化は、ガバナンスの観点から重要なことであり、監査役の視点から自社の取締役会の評価に積極的に関わっていく姿勢が必要です。

評価に当たって考慮すべきポイントとしては、以下の点が考えられます。

 

①取締役会において、質疑が活発に行われているか否か。

 

特に、社外役員が積極的に発言するための体制整備が出来ているかが評価のポイントとなります。

取締役会における社外役員の有益な発言による取締役会の活性化のためには、重要な議題・議案について社外役員に対する事前説明が行われていることが重要となります。

また、資料そのものについても、社内特有の表現や業界用語を多用するのではなく、社外役員が理解できるような工夫がされていることにも留意する必要があります。

さらに、取締役会の場において、社外役員が必ず発言する機会を確保するために、取締役会議長から社外役員に対して、議題ごとに発言の有無を確認するなど、必要に応じて発言を促すような取締役会運営が行われているかも評価のポイントとなります。

 

②議題の選択と審議状況。

 

取締役会において、ガバナンス関係や重要な経営方針についての審議が十分に時間をかけて行われているかということになります。

報告事項に時間を取られて、本来十分に審議すべき議題・議案が表面的な説明と承認・決議とならないことが大切です。

このためにも、取締役会で十分な意見交換や審議を行うべき事項について、社外役員を含めて役員間で共有化されていることが重要です。

取締役会で時間をかけて審議すべき重要項目を、あらかじめ取締役会で確認している会社もあります。

 

③報酬諮問委員会や指名諮問委員会等の任意の委員会の答申に対して、取締役会が尊重する体制となっているか。

 

近頃は、任意の諮問委員会を設置する会社数が増加していますが、委員会での答申を踏まえて取締役会で十分に議論し活用するということが重要になります。

 

(3)取締役会評価

 

取締役会評価の方法については、アンケート方式(質問形式)、役員への個別ヒアリング方式、第三者委員会に評価を委ねる方式が考えられます。

どの方式を採用するにしても、あらかじめ取締役会の評価基準を取締役会で十分に審議し、その評価基準に基づいて毎年確認するという手順が確立し、最終的にはその概要を開示する実務が定着すれば、取締役会の活性化に向けて前進するものと思われます。

 

3.取締役会の活性化

 

監査役(会)と取締役会は、会社のガバナンス機関として両輪となるものです。

監査役は取締役会が適切に運用されているかを再確認し、監査役としてガバナンスの視点から、取締役会の活性化に向けた評価に積極的に関わっていくことが期待されています。

 

事業ポートフォリオマネジメント~企業グループの企業価値向上に向けて

事業ポートフォリオマネジメントは、事業価値の向上に向けた積極的なビジネスのポートフォリオ経営のことです。

事業ポートフォリオマネジメントに取り組むに当たり重要なことは、今後のビジネスの向かうべき道筋を明確にして、事業ポートフォリオの積極的な改革や入れ替えを通じて、事業価値の向上のための最適なアクションに結びつけるということです。

 

1.事業ポートフォリオマネジメントの概要

 

効果的な事業ポートフォリオを構成するために、ビジネスユニットの積極的な買収や土台となるプラットフォーム事業に相乗効果のある事業の付け足しに加えて、積極的なカーブアウトやスピンアウトを実行していきます。

 

事業ポートフォリオの入れ替えの際は、必ずしも業績の良し悪しだけでポートフォリオをみるのではなく、その企業グループの将来のありたい姿を見据えてポートフォリオの入れ替えを行います。

 

事業ポートフォリオマネジメントは、その企業の目的と戦略に関わる事項であり、経営者が行うべき役割になります。

 

 

2.事業ポートフォリオマネジメントの方法

 

(1)事業の分類

 

「事業ポートフォリオの最適化」とは、「選択と集中」であり、作成した事業ポートフォリオをもとに事業ポートフォリオマネジメントを行い、どの事業に投資し、またどの事業から撤退するかなどを決めていく作業のことをいいます。

事業ポートフォリオマネジメントにおいて選択と集中を考える場合、事業を下記の4つに分類することが多いようです。

 

①現状維持

 

②追加投資

 

③オペレーションの改善

 

④撤退の検討及び実行

 

(2)事業ポートフォリオ最適化のポイント

 

企業グループ内の事業を上記の4つのうちのどの分類に置くかは、その事業業績の良し悪しだけで判断するわけではありません。

企業グループ全体での将来のあるべき姿の中での当該事業の位置付け、同業他社の状況、市場のオポチュニティ、ビジネス環境、リソース、といった点が考慮されます。

 

事業ポートフォリオは、事業単体の状態だけでなく、それぞれの事業の組み合わせによって発生するシナジーやリスク分散も考慮する必要があります。

 

事業ポートフォリオから導き出される事業の組み合わせがどのように会社の業績を向上させ、資本コストを減らしていくかを考えることが事業ポートフォリオの最適化における重要なポイントだといえます。

 

(3)事業ポートフォリオマネジメント成功のポイント

 

戦略的な事業ポートフォリオマネジメントを成功させるために、重要なことはマーケットインテリジェンス(市場のプレイヤーから集積される情報および分析結果)とタイミングになります。

 

撤退を検討する際にも同様にスピードとコミットメントが必須であり、最適な撤退のタイミングを計るためにはマーケットインテリジェンスのアンテナを常に立てておくことが必要不可欠です。

 

「業績が良く、業種テーマがマーケットパーセプションとして通常より『より』高い評価を得ており、撤退をするなら一番価値が高い時に」という積極的なExit戦略というものもあります。

 

「最善の売り時を見定め、スピード感を持って実行する」ということになります。

 

3.事業ポートフォリオの作成

 

事業ポートフォリオを作成する際は様々な視点を用いる必要がありますが、基本的には3つの視点が使われます。

3つの視点は、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネージメント)、事業ドメイン、コア・コンピタンス になります。

 

(1)PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネージメント)

 

PPMとは「プロダクト・ポートフォリオ・マネージメント」と呼ばれるものであり、プロダクトに対する投資コストを適切に管理して、投資を行うためのものです。

各プロダクトのライフサイクルを把握し、成長期・売上期・撤退期などのフェーズを管理することで投資すべきプロダクトを明確にしていくというものです。

PPMは相対シェアと市場成長率の2点を軸に会社を分析し、それを「問題児」「花形製品」「金のなる木」「負け犬」という4つの項目に分類します。

 

①問題児

「問題児」は、製品ライフサイクルの導入期~成長期を示しており、市場成長率は高く、激化する競争を勝ち抜けば花形製品へと成長します。市場シェアを拡大する必要があるため、投資しても利益が上がらないという一面があります。

そのため「問題児」への投資は未来への投資ということになりますので、将来的な成長を見通して効率的に投資を行う必要があります。

シェアを確保できなければ、「負け犬」になってしまいます。

 

②花形製品

「花形製品」は、市場シェアが大きいために売り上げが大きくなりますが、市場シェアが大きい分、成長を続けなければならないため利益が上がりにくくなります。

そのため「花形製品」は市場シェアを維持して「金のなる木」へと育てていく必要があります。

 

③金のなる木

「金のなる木」は、製品ライフサイクルの成熟期~衰退期を示しており、市場シェアでNo.1を取っている状態です。

「金のなる木」になれば、多額の投資が必要でなくなるため利益が最大化されます。

もちろん、投資は継続しますが、それも利益の最大化を維持するためだけに行う程度に留めることになります。

衰退期にはいることを見越して、「問題児」や「花形製品」に投資しておくことが重要になります。

 

④負け犬

「負け犬」は、「問題児」が成長期に入れなかったり、製品ライフサイクルの成熟期~衰退期に入ったりした場合の収益を生み出さないプロダクトを言います。

負け犬は設備投資や販売促進を徹底すれば利益が上がる可能性はありますが、市場が縮小傾向にあるなら潔く撤退した方がいいでしょう。

 

 

(2)事業ドメイン

 

事業ドメインとは会社の事業領域や主力となる事業を指します。

事業ドメインは顧客・技術・機能の3つで分析するCTMフレームワーク分析を用いてその会社にとって最適な事業領域を設定することによって決められます。

 

事業ドメインの設定にあたっては、自社の企業の現状や役割を適切に認識し、様々な知識や情報を用いて行います。

事業ドメインは現在行っている事業にただこだわるだけでなく、時には異業種や新しい分野に渡って設定することによって会社の成長につながることがあります。

 

(3)コア・コンピタンス

 

コア・コンピタンスは事業ドメインの設定においても用いられるものであり、その会社の中核となる特徴を意味しています。

コア・コンピタンスは「顧客に利益をもたらす」「競合している他の会社に真似されにくい」「複数の商品や市場に推進できる」という3つの条件を含んでいます。

 

また、コア・コンピタンスを見極めるためには、その会社の事業を「模倣可能性」、「移動可能性」、「代替可能性」、「希少性」、「耐久性」という5つの特徴から評価し、さらにSWOT分析などを用いて見出していきます。

 

 

4.事業ポートフォリオの評価と分析

 

作成した事業ポートフォリオは入念に分析し、適切な評価をおこなう必要があります。

評価の際に重視するポイントとして代表的なものとして、「成長性」「収益性」「リスク」「シナジー」「リスク分散」があります。

作成した事業ポートフォリオから読み取れるこれらのファクターを細かく分析することで、より効率的な経営資源の投入をどうやって行うかを決定し、最終的には会社の企業価値の向上を目指していきます。

 

この一連の作業は、「事業ポートフォリオマネジメント」と呼ばれています。

 

限られた経営資源を効率的に分散し、資本コストを低減していくうえにおいて事業ポートフォリオをどのような組み合わせで行うかは経営者がその都度考慮しておく必要があります。

さらに事業ポートフォリオマネジメントを徹底的に行うことにより、クロスボーダーM&Aやベンチャー企業への投資など、新たな経営戦略を行う際にも、その影響を統計的に評価できるようになります。

 

 

5.事業ポートフォリオマネジメントにおける留意事項

 

事業ポートフォリオマネジメントにおいて意識しておきたい留意事項がいくつかあります。

 

(1)優先的投資

 

事業ポートフォリオマネジメントを行うことは、ただ効率的な経営資源の投入方法を意識するばかりではなく、「対象の会社のどの事業に対して優先的に投資を行っていくか」について考慮しておく必要があります。

資本コストを重視して経営資源の投入をより効率化し、無駄なコストの発生を抑えることは重要ですが、PPMで分類する項目にあったように、事業の製品ライフサイクルがどの段階にいるかによっては、積極的な投資が必要となる場面があります。

そのため、投資すべき事業にどれだけ投資を行えるかも同時に考えておく必要があります。

 

(2)ガバナンス、経営管理システム

 

事業ポートフォリオマネジメントの際にはトップマネジメントへのガバナンスやインセンティブ、さらに経営管理システムの設計も重要になります。

事業ポートフォリオマネジメントを通じて投資や多角化の戦略を考え、実際にリスクを覚悟したうえで実行するには、トップマネジメントの手腕が問われることになります。

トップマネジメントが重要な経営戦略の場面で円滑な意思決定ができるように、ガバナンスやインセンティブといった制度を整えておく必要があります。

 

監査役スタッフの役割と留意点~監査役監査の実効性確保のために

監査役は、取締役の職務執行を監査する会社機関です(会社法381条1項)。

監査役の職責として、取締役の職務執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったときは、各事業年度の監査報告においてその事実を記載する必要があります(会社法施行規則129条1項3号)。

監査役が取締役の職務執行を監査するために、執行役員以下の使用人からヒアリングを行ったり、事業の現場に往査したりする実務が定着しています。

監査役は、全ての事業部門を監査の対象とすることになりますから、一定規模以上の会社においては、監査役がその職責を十分に果たすために、それ相応の人的資源が必要となります。

監査役監査の実効性を確保する観点から、監査役スタッフを活用することが必要になります。

 

1.監査役監査を支える体制:平成27年会社法施行規則の改正

 

平成27年の会社法施行規則の改正では、内部統制システムの整備に関する規定に関して、一連の改正があり、監査役設置会社である取締役会設置会社について、監査を支える体制や監査役による使用人からの情報収集に関する体制に係る規定の充実・具体化等を図るための改正が行われました。

内部統制システムが適切に構築され、適切に運用されるためには、コーポレート・ガバナンスの一翼を担う監査役監査の実効性確保も重要であるからです。

この改正の中で、監査役スタッフに関しては、監査役からの監査役スタッフに対する指示の実効性確保に関する規定が追加されました(会社法施行規則100条3項3号)。

この追加規定に関連する検討事項例として、

①監査役スタッフを専属とするか他部署との兼務とするか

②監査役スタッフの異動についての監査役の同意の要否

③取締役の監査役スタッフに対する指揮命令権の有無

④監査役スタッフの懲戒についての監査役の関与の決定

等があげられます。

 

2.監査役スタッフの役割と留意点

 

(1)監査役スタッフの役割

 

監査役スタッフとして期待される役割として、以下の項目が挙げられます。

 

① 監査関連業務のサポート

監査に関連する業務としては、年間スケジュールの作成、監査計画の策定、業務監査スケジュール、監査役会議事録、監査報告の作成など行わなければならない業務が多数あります。

監査役が本来の職責である取締役の職務執行を監査する役割に注力できるようにするためには、監査役スタッフには上記の業務をサポートする役割が期待されます。

 

② 社内調整

特に、業務監査を行う上で、対象部門の監査受け入れ体制の確認や往査スケジュールの調整など社内調整を行わなければならない項目は多岐にわたります。

円滑に業務監査を実施するうえで、監査役スタッフのサポートは必須になります。

 

③ 情報収集

企業不祥事を未然に防止するためには、社内の事件・事故から消費者をはじめとした第三者からのクレームに至るまで、適時適切に監査役に情報が入ることが必要です。

取締役や会計監査人が監査役に対して報告義務があるのは、「著しい損害」や「重大な事実」に関してで、かなり大きな問題となってからとなります。

重大な不祥事や事件・事故が表面化する前には、その兆候があるのが通例であり、その兆候を見逃さないためには、監査役に社内の情報がタイムリーに入ることが必要です。

監査役スタッフには、情報収集のサポートの役割が期待されます。

 

(2)監査役スタッフとしての留意点

 

①監査役スタッフが専属の場合

専属の監査役スタッフが配属されている場合は、スタッフの人事は監査役も直接関わるべきですし、スタッフの評価も普段接している監査役が行うことが原則と考えられます。

また、専属の監査役スタッフとしても、執行部門と協力関係を保ちつつ、監査役は法的に執行部門から独立している点を意識した行動が求められます。

 

②監査役スタッフが兼務の場合
監査役スタッフの専属が理想であると考えたとしても、企業規模や業種・業態によっては、兼任配属とせざるを得ない会社もあると思われます。

兼任スタッフと監査役とで定期的な連絡会を行うなど、両者の間で日常的なコミュニケーションを意識的に高めることが必要であり、とりわけ、監査役としての特有な実務が集中する期初・期末時期には、監査役スタッフは監査役のサポートのために一定の業務時間の確保を予定しておくことが大切です。

また、執行部門としての業務と監査役スタッフとしての業務を分離しておくために、監査役スタッフのための職務規程を策定しておくことが望ましいといえます。

 

3.監査役スタッフの現状と課題

 

(1)監査役スタッフの配属

 

日本監査役協会が2019年に実施したアンケートによると、監査役スタッフを配属していない会社の割合は57.3%(母数3,530社)と過半数を超え、上場会社に限っても48.5%(母数1,490社)と過半数近くとなっています。

監査役スタッフを配属している会社でも、兼務スタッフのみの会社の割合は69.8%(母数1,509社)であり、上場会社でも62.4%(母数768社)となっています。

 

(2)監査役スタッフの課題

 

内部統制システムの一環として、監査役スタッフについての規定があることは、監査役監査の実効性確保のためには、監査役スタッフが重要な役割を担っているということです。

社内において、監査役スタッフの業務がキャリアパスの一環として位置付けられ、かつ監査役監査に必要とされる高い能力と意欲を持つ監査役スタッフが監査役の要請によって適切に配属されることは、監査役監査の実効性の向上にもつながることになります。