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デジタルガバナンス・コードの策定~位置付け、考え方、5つの行動原則

2019年9月に、「デジタルガバナンスに関する有識者検討会」は、「デジタルガバナンス・コードの策定に向けた検討」を公表しました。

 

1.検討会の目的

 

現状の課題を脱却し、DXを本格展開するために、基準となる行動原則に基づいて企業がDXの取り組みをステークホルダーに開示し、ステークホルダーから適切な評価を受けられるよう、DXを推進している企業を後押しする制度の必要性を検討しています。

本報告書では、DXの取組における行動原則となるデジタルガバナンス・コードを示すこととしています。

 

2.デジタルガバナンス・コードの策定

 

(1)デジタルガバナンス・コードの位置付け

 

顧客や投資家等の視点にも留意しつつ、各企業が目指すべきデジタルガバナンスのあるべき姿を示し、それに向けた達成状況を可視化し、各企業の状況を客観的に評価することによって、DXの推進を図ることを目的としています。

 

 

(2)デジタルガバナンス・コード設計の考え方

 

「DXレポート」「DX推進指標」などで取りまとめられたガバナンスの評価項目等を基礎として、5つの行動原則からなるデジタルガバナンス・コードを整理しています。

 

 

(3)デジタルガバナンス・コードの活用

 

デジタルガバナンス・コードに基づいて企業におけるDXの取組を説明し、投資家等の市場関係者から評価されることが、企業にとって必要でありメリットとして感じられる仕組みとなることが重要としています。

 

3.デジタルガバナンス・コード~デジタルガバナンスの客観的評価軸となる行動原則~

 

(1)原則1 成長に向けたビジョンの構築と共有

 

経営者は、ビジネスのデジタル化やデータ活用といった世界的潮流と「2025年の崖」に対応するために、DXに取り組むべきであるとしています。

さらに、DXを通じた企業価値を継続的に向上・創出し成長していくことを経営ビジョンに盛り込み、社内外に共有すべきとしています。

 

① 経営者のリーダーシップと説明責任

 

② 変化への迅速な対応

 

(2)原則2 ビジョンの実現に向けたデジタル戦略の策定

 

経営者は、DXによってビジネスモデルや業務プロセスを変革していくために、デジタル戦略を明確化すべきとしています。

 

① 経営戦略と一体的なデジタル戦略の策定

 

② データ活用のための戦略の策定

 

③ 新たなデジタル技術獲得の戦略の策定

 

④ 技術的負債削減のための戦略策定

 

(3)原則3 体制構築と関係者との協業

 

経営者は、DXを継続的に推進する企業文化を醸成し、推進のための体制を構築すべきであるとしています。

 

① 企業文化の変革

 

② 体制の変革と人材育成・確保

 

③ 外部組織等の活用

 

(4)原則4 デジタル経営資源の適正な配分

 

経営者は、ビジョン実現のために、デジタル経営資源を適正に配分すべきとしています。

 

① 守りのIT予算から攻めのIT予算へのシフト

 

② 業務の仕組みやITシステム・データの適正化

 

(5)原則5 デジタル戦略の実行と評価

 

経営者は、経営ビジョンやデジタル戦略の実行により生じたセキュリティ等のリスクや成果をモニタリング・評価・フィードバックするためのプロセスを行うべきとしています。

 

① リスクのコントロール

 

② 評価・改善

 

4.デジタルガバナンスの客観的な評価について

 

ガバナンスの実行状況を把握するには、その具体的施策としてのマネジメントについても評価することが必要です。

客観的な評価基準の策定にあたってはガバナンスに対応するマネジメントの評価基準も合わせて策定する必要があるとしています。

 

客観的かつ継続的な評価を容易とするためには、デジタルガバナンス・コードの取組状況について、定性・定量双方の指標を設定する必要があるとしています。

 

また、ビジネスの高度化・創出・変革の成果に関しても定量的な指標の設定が望まれるとしています。

 

(1)客観的な評価基準の考え方

 

以下の項目に留意する必要があるとしています。

 

① 「2025年の崖」の克服の観点

 

② 「ビジネスの高度化・創出・変革」の観点

 

③ デジタル化するうえで事業上対処すべきリスクのコントロールの観点

 

 

(2)成熟度水準の考え方

 

以下の、考え方に基づいて設定されています。

 

① 達成度を可視化するマイルストーンの設定

 

② 達成度を複数段階に分けて設定

 

③ トップクラスの成熟度水準は、組織として定着している状態として設定

 

 

(3)成熟度水準の判定の考え方

 

① 成熟度水準を客観的に判定するために、具体的な活動を一つまたは複数設定する。

 

② 「Comply or Explain」の考え方を採用する。

 

「DX推進における取締役会の実効性評価項目」~策定の経緯、9つの実効性評価項目

1. 策定の経緯

 

あらゆる企業がデジタル化への対応を求められる中、経営の監督を担うべき取締役ないし取締役会が果たすべき役割も極めて重要になっています。

 

「DX推進指標」の内容を踏まえつつ、取締役会での議論の活性化に資する観点から、取締役会の実効性評価にも活用できるものとして、「DX推進における取締役会の実効性評価項目」が策定されました。

 

「コーポレートガバナンス・コード」においても、取締役会の実効性評価について以下のように記載されています。

 

【原則4-11  取締役会 ・ 監査役会の実効性確保のための前提条件】

(略)~取締役会は、 取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

 

(補充原則)

4-11③ 

取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

 

2.DX推進における取締役会の実効性評価項目

 

(1)DXの定義

 

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネス・モデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。

 

(2)評価項目

 

① 取締役の選任

 

取締役会は、以下の資質を持つ取締役を(少なくとも一名)選任しているか。

 

  ・データとデジタル技術を活用したビジネス・モデルの変革に関する十分な知見や問題意識を有する

 

② ビジョン

 

ア)  ビジョンの共有

取締役会では、以下の点について十分な議論が尽くされ明確な合意が形成されているか。

 

  ・データとデジタル技術を使って、変化に迅速に対応しつつ、顧客視点でどのような価値を創出するのかといったビジョン

 

イ) 危機感とビジョン実現の必要性の共有

取締役会では、以下について、十分な議論が尽くされ明確な合意が形成されているか。

 

  ・将来におけるIT技術の発展に伴う非連続的イノベーション(ディスラプション)がもたらす経営環境の変化と、自社の事業への影響

 

③ 経営トップのコミットメント

 

取締役会は、ビジョンの実現に向けた経営陣の取組として以下の項目などを適切に監督しているか。

 

  ・ビジネス・モデル

  ・業務プロセス、

  ・企業文化を変革するために必要となる組織整備

  ・人材・予算の配分、

  ・プロジェク ト管理

  ・人事評価の見直し

 

④ 仕組み

 

ア)  DXに求められるマインドセット、企業文化

取締役会は、挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続できる仕組みが構築されているかどうか適切に監督しているか。

 

  ・体制

  ・KPI

  ・プロジェクト評価

  ・人事評価  など

 

イ)  投資意思決定、予算配分

取締役会は、データやデジタル技術の活用への取組を推進するための投資について、以下を総合的に勘案して判断しているか。

 

   a) コストのみでなくビジネスに与えるプラスのインパクトを勘案しているか

   b) 他方、定量的なリターンやその確度を求めすぎて挑戦を阻害していないか

   c) 投資をせず、DXが実現できないことにより、デジタル化するマーケットから排除されるリスクを勘案しているか

 

ウ)  推進・サポート体制

  a)取締役会は、以下の点を適切に監督しているか。

 

   ・DX推進がミッションとなっている部署や人員と、その役割が明確になっているか

   ・必要な権限は与えられているかどうか

 

  b)監督の際に、以下の観点を含んでいるか。

 

   ・該当部署に人員の適切な配置

   ・部署・人員の役割の明確化

   ・必要な権限の付与

   ・経営・事業部門・IT部門の連携の確保

   ・外部との連携の推進

 

エ)  人材育成・確保

取締役会は、DX推進に必要な人材の育成・確保に向けた取組が行われているかどうか適切に監督しているか。

 

⑤ 事業への落とし込み(戦略とロードマップ)

 

取締役会では、DXを通じた価値創出に向け、以下の項目について、十分な議論が尽くされ明確な合意が形成されているか。

 

  ・ビジネス・モデルや業務プロセス、働き方などをどのように変革するか

  ・戦略とロードマップ

  ・すぐに成果が出ないことや既存業務の売上を奪うリスクなどをどう克服するか

 

⑥ ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築

 

ア)  ITシステムに求められる要素

取締役会は、以下のようなDXの推進に求められる要素を実現できるITシステムとなっているかどうか適切に監督しているか。

 

   a) データをリアルタイム等使いたい形で使えるか

   b) 環境変化に対応し、迅速に新規サービスを提供できるか

   c) 部門を超えてデータを活用できるなど、全社最適を踏まえたものとなっているか

 

イ)  ITシステムの技術的負債

取締役会は、既存のITシステムが技術的負債になってしまっていないかどうか適切に監督しているか、あるいは客観的な評価を行っているか。

 

 技術的負債: 既存のITシステムが老朽化、複雑化、ブラックボックス化して、維持、保守コストが高騰した状態

 

ウ)  IT資産の仕分けとロードマップ

取締役会では、以下のようなIT資産の仕分けに基づくITシステムの刷新に向けたロードマップについて、十分な議論が尽くされ明確な合意が形成されているか。

 

   a) 価値創出への貢献の少ないものの廃棄

   b) 他社と差別化する必要がない領域(非競争領域)について、カスタ マイズをやめて標準化したシステムに業務を合わせるなどの標準化・共通化

   c) 他社と差別化すべき領域(競争領域)について、変化に迅速に対応できるシステム環境の構築

 

⑦ ITシステム構築におけるガバナンス・体制

 

ア)  ガバナンス・体制

取締役会は、DXの推進に向けて、新規に投資すべきもの、削減すべきものなどについて、適切に監督しているか。

 

  ・全社最適の視点

  ・部門を超えて横断的に判断・決定できる体制の整備

  ・価値の創出につながる領域へ資金・人材の重点配分

  ・顧客視点となっているか

  ・サイロ化していないか

 

イ)  IT投資の評価

取締役会は、IT投資について、ITシステムができたかどうかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組みとなっているかどうか適切に監督しているか。

 

⑧ 経営陣の評価

 

取締役会(または指名・報酬委員会)は、経営陣の評価や役員報酬の決定、経営陣の指名にあたり、DXへの取組を重要な評価項目として考慮しているか。

 

⑨ ステークホルダーへの情報開示

 

取締役会は、DXへの取組について、株主等のステークホルダーへの情報開示のあり方についての議論を行っているか。

 

 

デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)

経済産業省は、DXの実現やその基盤となるITシステムの構築を行っていくうえで経営者が押さえるべき事項を明確にすること、取締役会や株主がDXの取り組みをチェックするうえで活用できるものとすることを目的として、DX推進ガイドラインを策定し、2018年12月に公表しました。

 

1.DX推進のための経営のあり方、仕組み

 

(1)経営戦略・ビジョンの提示

 

・想定されるディスラプション(「非連続的(破壊的)イノベーション」を念頭

・データとデジタルン技術の活用

・どの事業分野でどのような新たな価値(新ビジネス創出、即時性、コスト削減等)を生み出すことを目指すか

・そのために、どのようなビジネス・モデルを構築すべきかについての経営戦略やビジョンを提示

 

(2)経営トップのコミットメント

 

・ビジネスや仕事の仕方、組織・人事の仕組み、企業文化・風土そのものの変革が不可欠

・経営トップ自らがこれらの変革に強いコミットメントを持って取り組み

 

(3)DX推進のための体制整備

 

・経営戦略やビジョンの実現との紐づけ

・経営層が各事業部門に対してデータやデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを構築する取り組み

・新しい挑戦を促し、かつ挑戦を継続できる環境整備

 

(4)投資等の意思決定のあり方

 

・DX推進のための投資等の意思決定

・コストのみでなくビジネスに与えるプラスのインパクトを勘案

・定量的なリターンや確度を求めて成長阻害

・投資をせず、デジタル化するマーケットから排除されるリスクを勘案

 

(5)DXにより実現すべきもの

 

・経営方針転換やグローバル展開等へのスピーディーな対応

 

2.DXを推進するうえで基盤となるITシステムの構築

 

(1)体制・仕組み

 

①全社的なITシステムの構築のための体制

 

・各事業部門におけるデータやデジタル技術の戦略的な活用を可能とする基盤

・これらを相互に連携できる全社的なITシステムを構築するための体制整備

 

②全社的なITシステム構築に向けたガバナンス

 

・ITシステムが全社最適となるよう、複雑化・ブラックボックス化しないために必要なガバナンス

・ユーザー企業自らがシステム連携基盤の企画・要件定義を実施

 

③事業部門のオーナーシップと要件定義能力

 

・実現したい事業企画・業務企画を自ら明確化

・ベンダー企業からの提案を自ら取捨選択

・各事業部門自らが要件定義し、完成責任を担う

 

(2)実行プロセス

 

①IT資産の分析・評価

 

・IT資産の現状分析と評価

 

②IT資産の仕分けとプランニング

 

・IT資産の仕分けやどのようなITシステムに移行するかのプランニング

・データやデジタル技術の活用でビジネス環境の変化に対応したシステム環境の構築

・全社最適となるシステム構成

・競争領域と協調領域を特定し、競争領域へのリソースの重点配分

・経営環境の変化に応じて、ITシステムの廃棄

・技術負債の低減

 

③刷新後のITシステム:変化への追従力

 

・新たなデジタル技術を導入し、ビジネス・モデルの変化に迅速に追従

・ITシステムができたかでなく、ビジネスがうまくいったかで評価する仕組み

 

取締役の報酬に関する会社法の規定、報酬決定における監査役監査

1.はじめに

 

取締役の報酬については、その決定の過程も含めて取締役の善管注意義務を構成することが裁判例や学説において定着しつつあります。

取締役の職務執行の対価に見合う報酬額が決定されているか否かは、取締役の職務執行を監査するという監査役の職務からしますと、重要な事項になると考えられます。

 

2. 取締役の報酬に関する会社法の規定と実務

 

(1)会社法

 

① 規定の内容

会社法361条1項において、取締役の報酬は、定款の定めがなければ株主総会の決議によると規定しています。

会社法361条1項1号は、金銭報酬については、額が確定している報酬はその額を定め、額が確定していない場合は、同項2号でその算定方法を定めるものとしています。

 

② 金額未確定の場合

額が確定していない場合とは、例えば会社の経常利益の一定割合を報酬額とするといった業績連動や株価連動とする場合などがあり、それらを定めた上で株主総会において説明する義務があります。

金銭額が確定している報酬と比較して、株主が算定方法の合理性や必要性が判断しにくいことから、会社に説明義務を課しているのがその立法趣旨です。

なお、金銭ではない報酬については、額に関する事項のみならず、その具体的内容も定めることになります。

 

(2)企業実務

 

取締役の報酬については、法令上は定款で定めることが原則となっていますが、企業実務では、定款で報酬を定めずに、取締役の報酬総額を株主総会で決議する実務が定着しています。

これは、取締役個々の具体的金額を都度決めるとなると毎回株主総会での決議が必要となることや、取締役の個人別の報酬額が明らかになることを回避するため、と考えられます。


一度報酬総額枠を決議しておけば、毎年の株主総会に議案として提出する必要はありません。また、報酬総額を決めておくことは、取締役の報酬が高額化するお手盛り防止にもなり、株主に対して報酬の一定の目安を提示することになるからです。

 

3.報酬決定を巡る取締役会の法的責任の近時の考え方

 

(1)報酬決定と善管注意義務

 

代表取締役による報酬決定については、報酬の決定に際して再一任された代表取締役に一定の裁量が認められる中で、その決定が不当であれば、会社に対して善管注意義務違反となります。

また、取締役会の構成員としての取締役は、代表取締役が妥当な報酬決定を行っているか、代表取締役に再一任させることの是非も含めて監視・監督義務があるというのが近時の考え方となっています。

 

(2)取締役報酬の決定

 

個々の取締役に適切な報酬を支払うことは、報酬が取締役の職務執行の対価である性格を考えると、会社の収益力の最大化にとって重要な要素となります。

 

一方、取締役の職務執行を適切に反映した報酬となっているか否かを厳密に評価することは、株主のみならず会社内でも困難であることも事実です。

今後の企業実務において、取締役報酬の決定は、重要なテーマであることは間違いないと思われます。

 

4.取締役の報酬決定と監査役監査

 

(1)監査役監査における留意点

 

取締役の報酬に関して、その決定に至る過程や内容が合理的であるか否かが取締役の会社に対する善管注意義務に関係する以上、監査役としては、取締役の職務執行を監査する立場からも注意を払う必要があることになります。

 

具体的には、以下の点が重要な観点となると考えられます。

 

① 報酬の決定が特定の取締役の一存で恣意的に行われていることはないか

② 報酬額そのものについても、特定の取締役に対して不合理な報酬を支払うことになっていないか

③ 会社の収益状況などを考慮した報酬となっているか

④ 不祥事の発生や行政罰等の状況によって、取締役としての報酬返納等、経営責任の取り方の一つとしての考慮もなされているか

 

(2)インセンティブ報酬と監査役監査

 

インセンティブ報酬に対する監査役の視点としては、制度設計としての妥当性を見る必要があります。

業績連動方式やストックオプション方式を採用する場合には、制度設計として取締役の職務執行における会社への貢献を適切に反映したものとなっているかの視点が必要です。

さらに、制度設計を検討する際にも、報酬制度が社内において適切なルールに基づいて審議された結果としての制度となっているかを見極めるべきです。

 

判断過程に関しては、例えば報酬(諮問)委員会で透明性のある審議が行われていることが重要となります。

こうした取締役の報酬決定を巡る社内での審議に関しても、監査役としては、妥当性の観点から積極的に意見を述べることが必要と考えます。

(3)報酬決定の妥当性

 

株主総会で決議された報酬総額の枠内で、経営トップが自らの報酬を合理的な理由もなく一任され、高額報酬の受取りを決定することは妥当ではありません。

業績や株価連動方式のウェイトを高めることや、ストックオプションの付与など、代表取締役による恣意的な決定を排除していく制度設計とすることで、ある程度解決は図られるものと考えます。

 

5.令和元年改正会社法と取締役の報酬

 

令和元年12月4日に、「会社法の一部を改正する法律案」(以下、改正会社法)が国会で承認・可決され、取締役の報酬に関連する項目が改正されました。

 

(1)取締役報酬の決定方針

公開会社であり、かつ、大会社である監査役会設置会社のうち有価証券報告書の提出義務会社と監査等委員会設置会社においては、取締役の個人別の報酬の内容を定款や株主総会決議で定めていない場合には、その決定方針を取締役会で決定することが義務付けられます。

 

指名委員会等設置会社の報酬委員会ではすでに義務付けられていますので、その考え方が一定範囲の監査役会設置会社や監査等委員会設置会社に拡張されたことになります。

 

報酬の決定方針は、具体的には、取締役の個人別の報酬内容の方針(代表取締役に決定を一任するか否かなども含む)、報酬の種類ごとの比率に係る決定方針などが、別途会社法施行規則で規定されることになります。

 

(2)株主総会における議案説明

 

改正会社法361条4項により、不確定額報酬や非金銭報酬の議案内容だけでなく、確定額報酬についても、株主総会において、報酬議案を相当とする理由の説明が必要となります。

 

(3)株式報酬等


会社株式や新株予約権を取締役の報酬とする場合は、定款に定めていない限り、株主総会の決議により一定事項を定めることが必要となります。具体的な内容は、会社法施行規則で規定されることになります。

 

(4)無償割当

 

上場会社の取締役・執行役への報酬として株式等を利用する場合に限り、株式の発行や新株予約権の行使に際して払込みを不要とする無償割当が可能となります。

ただし、無償割当としての募集株式や新株予約権を発行するときは、その旨や割当日を定める必要があります。
なお、公開会社は事業報告で取締役の報酬に関する追加の記述が求められる予定です。

「DX推進指標」の狙いと使い方、構成、指標の考え方、回答の評価

経済産業省は、2019年7月に、『「DX推進指標」とそのガイダンス』を公表しました。

 

「DXレポート」、「DX推進ガイドライン」を踏まえ、「DX推進のための経営のあり方、仕組み」と「DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築」について、、経営者や社内の関係者が、DXの推進に向けたアクションを取っていくための気づきの機会を提供するものとして、「DX推進指標」が策定されました。

 

1.「DX推進指標」の狙いと使い方

 

(1)「DX推進指標」策定の背景と狙い

 

① 多くの企業の課題

・どんな価値を創出するのかでなく、ITを使って何かできないかの発想

・危機感が共有されていない

・経営としての仕組みの構築が伴っていない

 

② 策定の狙い

・DXをめぐる課題を指標項目

・とるべきアクションの後押し

・気づきの機会を提供するツール

 

(2)「DX推進指標」の使い方

① 自己診断を基本

② 経営層以下関係者がDXを推進するにあたっての課題に対する気付きの機会

③ 以下の使い方を想定

 

ア) 認識共有・啓発

イ) アクションにつなげる

ウ) 進捗管理

 

(3)「DX推進指標」策定にあたっての視点

 

本指標の策定にあたっては、以下のような視点に留意しています。

 

① 良い点数を取ることが目的ではない

② ビジネス・モデルそのものを評価するのではなく、企業の変化への対応力を可視化するもの

③ 本指標は、経営指標を達成するための手段

④ 経営者がITシステムをめぐる問題を、DXには欠かせない課題として理解し、アクションにつなげる

⑤ デジタル競争に舵を切り、競争領域に資金・人材をシフトし競争上の優位を確保

⑥ 自己診断結果は、中立的な組織が収集し、ベンチマーキングを行い、その情報を提供する

⑦ 取引先等の関連企業とのコミュニケーション、課題解決支援ツールとしての活用

 

3.「DX推進指標」の概要

 

(1)「DX推進指標」の構成

 

DXの推進に際し、現在の日本企業が直面している課題やそれを解決するために押さえるべき事項を中心として、以下のように構成されています。

 

① DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標

② DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築に関する指標

 

(2)定性指標における成熟度の考え方

 

定性指標については、成熟度をレベル0からレベル5までの6段階で評価します。

「レベル0」は未着手、「レベル5」は、「グローバル市場におけるデジタル企業」となっています。

 

(3)定量指標の考え方

 

① 自社がDXによって伸ばそうとしている定量指標を自ら選択して算出します。

② 達成を目指す指標に関する数値目標を立て、進捗管理を行っていくといった活用方法を想定しています。

③ ITシステム構築の取組状況は、企業単位での評価を想定しています。

 

(4)評価の仕方

 

① 成熟度の回答にあたっては、なぜその成熟度と判断したかの根拠とそのエビデンスを合わせて回答することが望ましいとしています。

② 基本的には、企業単位の回答を想定していますが、多岐にわたる事業を展開している企業においては、事業部門ごとに回答することを可能にしています。

 

(5)回答方法

 

DX関連政策サイト上に掲載されている回答フォーマットを活用して評価し、サイト上に記載された宛先に提出することをお願いしています。

 

自己診断の結果については、ベンチマーキングや先行事例の提供に活かしていくこととしています。

なお、個々の企業の診断結果を外部に公表することは想定していません。

 

DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート~DXの定義と重要性、現状と課題

経済産業省「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」は、2018年9月に「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」を公表しました。

DXレポートの重要と思われるところをまとめてみました。

 

1.DXの定義と重要性

 

(1)DXの定義

 

企業が外部エコシステム(顧客・市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面で顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位を確立すること(IDC Japan株式会社)としています。

 

(2)DXの重要性

 

あらゆる産業において、新たなデジタル技術を利用してこれまでにないビジネス・モデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起きつつあります。

こうした中で、各企業は、競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーションをスピーディーに進めていくことが求められています。

 

2.現状と課題

 

まず、「DXを実行するうえでの経営戦略における現状と課題」を取り上げています。

 

DXを実行するにあたっては、新たなデジタル技術を活用して、どのようにビジネスを変革していくかの経営戦略が不可欠です。

 

DXの必要性に対する認識は高まり、そのための組織を立ち上げる等の動きはあるものの、ビジネスをどのように変革していくか、そのためにどのようなデータをどのように活用するか、どのようなデジタル技術をどう活用すべきかについて、具体的な方向性を模索している企業が多いのが現状であるとしています。

 

以下、「既存システムの現状と課題」、「ユーザー企業における経営層・各部門・人材等の課題」、「ユーザー企業とベンダー企業との関係」、「情報サービス業の抱える課題」、「DXを推進しない場合の影響」について記載しています。

 

3.対応策

 

(1)「DX推進システムガイドライン」の策定

 

DXを加速していくために、DXを実現すべくITシステムを構築していくうえでのアプローチや必要なアクションあるいは失敗に陥らないために失敗の典型パターンを示した「DXを推進するための新たなデジタル技術の活用とレガシーシステム刷新に関するガイドライン(DX推進システムガイドライン)」 (以下、ガイドライン)を策定します。

 

①必要性

 

DXを実行していくにあたっては、データの利活用がカギとなります。そのため、データを蓄積・処理するITシステムが、環境変化、経営・事業の変化の対し、柔軟に、かつスピーディーに対応できることが必要です。

 

②対応策

 

ガイドラインは、以下の目的を想定しています。

 

ア) 経営者が、DXを実現するうえで、基盤となるITシステムに関する意思決定に関して押さえるべき事項を明確化すること

 

イ) 取締役会メンバーや株主がDXの仕組みをチェックするうえで活用できること

 

(2)「見える化」指標、診断スキームの構築

 

ユーザー自身がITシステムの全体像を把握できるように、「見える化」指標と診断スキームを構築します。

 

①必要性

 

ア) 老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システムの刷新に多くの企業が踏み出せていない現状

 

イ) 自社の情報資産を正確に把握できていないため、どこに課題がありどのように構築していけばよいかの判断がつかない

 

ウ) 経営上の重要な問題点について、経営者が適切に認識できているとは言えない状況

 

エ) このため、企業のDXの足かせになっている既存システムのアセスメント(情報資産の「見える化」)は、経営者がシステム刷新を決断するうえで非常に重要である。

 

②対応策

 

評価指標を以下の方針に沿って策定・構築していきます。

 

ア) 評価指標の策定

・策定対象を、ITシステムの現状、ITシステム構築に係る体制・仕組みの状況、ITシステム構築に係る実行プロセスの状況とする。

・簡易な形で統一的に情報資産を「見える化」する指標とする。

・経営トップが経営上の課題として問題点を認識できる指標とする。

・項目ごとの到達度合いに応じたレベル付けを行う設計とする。

 

イ) 指標を用いた診断スキームの構築

 

ウ) 診断によるインセンティブ

 

(3)その他、以下の項目を検討しています。

 

① DX実現に向けたITシステム構築におけるコスト・リスク低減のための対応策

② ユーザー企業・ベンダー企業の目指すべき姿と双方の新たな関係

③ DX人材の育成・確保

④ ITシステム刷新の見通し明確化

 

4.おわりに

 

DXを実行できるかが、あらゆる産業において、各企業の競争力ひいては存続の可否を決する最重要課題となっています。

官民一体となって諸課題への対応を進めていき、各企業がDXを着実に進め、新たなデジタル技術を用いてデータをフルに活用できる状態になり、新たなビジネス・モデルを生み出し続けるようになることで国際的な競争力を強化し、「Connected Industries」の実現、さらには課題解決型社会である「Society 5.0」を実現していくことが期待されています。

監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A

1.はじめに

 

日本監査役協会は、2019年6月11日と12月4日に KAMに関するQ&A集(以下、本Q&A)を公表しました。

 

KAMの選定は監査人が行いますが、監査役等と協議した事項の中から選定されるため、監査役等はKAMの取り扱いにおいて重要な役割を果たすことが期待されています。

 

KAMの円滑導入に向けた監査役等の実務支援ツールとして本Q&Aが作成されました。

 

内容は、以下のようになっています。

 

1.KAMの概要

2.導入に向けて

3.実務上のポイント(前編・後編)

4.制度と実務対応の今後

5.その他

 

この中から、実務上のポイントについて解説します。

 

2.実務上のポイント

 

構成は、前編が、概ね6月ころまでに対応が必要となる事項、後編が、期中の対応・株主総会に向けた対応等となっています。

 

(1)監査契約

 

KAMは従来の監査手続きを大幅に変えるものではありませんが、監査計画から始まる監査の過程で監査役等とのコミュニケーションは一定程度増加し、全体としての監査時間は増加すると考えられます。

 

監査役等は、KAMが導入されることにより監査見積時間数及び監査報酬等が影響を受ける理由について監査人から説明を受け、このような影響が適正に反映されていることを確認する必要があります。

 

(2)監査計画

 

①監査人とのコミュニケーション

 

監査人とのコミュニケーションの在り方については、本質的な変化はありません。

監査計画の説明の中で、監査上の重要な論点についての説明がありますので、KAMの候補についても説明があると考えられます。

 

②執行側とのコミュニケーション

 

執行側は、株価や事業活動に与える影響を心配して、監査人や監査役等と見解が分かれる場合も考えられますので、監査役等は、KAM候補とされた事項の内容を理解し、監査役等、監査人、執行側の各者間で見解の相違がないように、各者間でコミュニケーションを取る必要があります。

 

(3)期中

 

監査人がKAMを最終的に決定するのは監査報告書の内容を決定する時点となりますが、期初の監査計画策定の段階でKAMの候補を選定し、期中の監査活動の進捗状況を反映して適宜見直し(追加、絞り込み、入れ替え)が検討されます。

 

KAM候補の見直しは、監査の過程で随時行われる重要なプロセスですが、期中も監査人の監査に影響を及ぼす事象が発生した場合には監査役等との監査人の間で随時協議を行いますので、監査人とのコミュニケーションに本質的変化はありません。

 

KAM候補の見直しに際しては、執行側とのコミュニケーションが必要なことも変更はありません。

 

(4)期末(監査報告書作成時)

 

監査役等は監査人から提示されるKAMのドラフトについて、以下のポイントを確認することが考えられます。

 

① KAMとして選定される項目の中に、監査役等と協議されていないものが含まれていないか。

 

② KAMの記載内容に事実と異なる内容が含まれていないか。また、誤解を与える表現になっていないか。

 

③ KAMとして選定される趣旨が利用者にとって、会社固有の情報が記載されているか。

 

④ KAMの記載に会社の未公開情報が含まれている場合、監査人の守秘義務が解除される正当な理由の範囲か。

 

(5)監査人と監査役等・執行側との間の見解の相違

 

KAMの項目や記載内容について、見解の相違が顕在化しないように、監査役等、監査人、執行側の間で綿密に協議を行っておく必要があります。

 

仮に、監査人と執行側との間で重大な見解の相違が解消せずに監査報告書が公表された場合には、監査役等は、見解の相違にどのように対応してきたのか(善管注意義務を果たしているのか)について、株主総会等で問われる場合も考えられますので、自身の見解と対応について説明できるよう整理しておく必要があります。

 

(6)会社法上の取り扱い

 

会社法上の会計監査人の監査報告書にKAMの記載を義務付けることは見送りとなり、記載は任意となりました。

任意で記載するか否かは、監査人、監査役等、執行側の間で協議することになります。

 

なお、会社法に基づく会計監査人の監査報告書へのKAMの記載の有無により、監査役等の監査報告書における取り扱いは、以下のようになると考えられます。

 

① 会社法に基づく会計監査人の監査報告書にKAMが記載されていない場合

 

監査役等の監査報告書の作成や定時株主総会の開催時点では、金融商品取引法に基づく監査人の監査報告書は、ほとんどの会社では発行されておらず、KAMの表現等については未公表の状況にあることが想定されます。

監査役等が会計監査人の監査の方法の相当性を判断するにあたり、監査人とのKAMの議論を考慮することになると考えられます。

また、定時株主総会の開催時点では、KAMの内容が確定しているはずですので、監査役等の見解と対応について、整理しておく必要があります。

 

② 会社法に基づく会計監査人の監査報告書にKAMが記載されている場合

 

会社法上の会計監査人の監査報告書にKAMが記載されていて、監査役等が会計監査人の監査報告書におけるKAMの記載内容に否定的な見解をとる場合には、その旨を記載することが必要になります。

 

監査役等の監査報告書に「会計監査人の監査の方法及び結果は相当である」と記載すれば、KAMの選定及び記載内容も相当であると判断したと解釈されると考えられます。

したがって、監査役等が会計監査人の監査報告書におけるKAMの記載内容に否定的な見解で、かつ、監査の方法の相当性の判断に影響がある場合には、その内容を会計監査人の監査の方法または結果が相当でない理由として記載することになると考えられます。

 

(6)株主総会に向けた対応

 

多くの会社では、有価証券報告書は株主総会終了後に提出されるため、株主は1年前に開示された有価証券報告書に含まれる監査報告書に記載されたKAMしか知りえないことになります。

多くの株主の関心は、株主総会終了後に提出される有価証券報告書に含まれる監査報告書に記載されるKAMの内容になると思われますので、KAMに関する質問は、提出予定の当年度の有価証券報告書に含まれる監査報告書におけるKAMの項目がどのように変化しているのか、監査期間中にどのような議論が行われたかなどになると思われます。

 

これらの質問に対する答弁内容は、株主総会当日では有価証券報告書は未提出のため、限定的にならざるを得ない面があると思われますが、答弁内容や誰が回答するかなどは、執行側、監査役等、会計監査人の間で協議の上、決めておく必要があると考えられます。

「ESG情報開示実践ハンドブック」~作成の背景、作成の趣旨、ハンドブックの特徴

日本取引所グループは、2020年3月31日に、「ESG情報開示実践ハンドブック」(以下、本ガイドブック)を公表しました。

 

1.本ガイドブック作成の背景

 

中長期的な視点で企業価値を評価する際に、ESG(環境、社会、ガバナンス)要素を含む事業活動の持続可能性(サステナビリティ)を考慮することが重要であるとの認識尾が幅広い投資家の間で広まってきています。

 

ESG情報の開示に関するスタンダード・基準、フレームワーク、ガイダンス(以下、総称して、枠組み)が政府や国際機関等から提供されています。

 

日本取引所グループ(以下、JPX)は、上場会社の自主的なESG情報開示に関する取り組みを支援し、上場会社と投資家との対話を促進するための取組を進めています。

 

2.本ハンドブック作成の趣旨

 

JPXは、従前より、コーポレートガバナンス・コードの策定やサステナブル・ストックエクスチェンジ(SSE)イニシアティブ作成の「ESG情報の報告に関する企業向けガイドライン」の翻訳などを行ってきました。

 

JPXは、ESG情報の開示を検討する上場会社が、第一歩を踏み出すために役立つ参考情報を提供することを目的として、本ハンドブックを作成しました。

 

3.本ハンドブックの特徴

 

(1)上場会社がESG課題に取り組み情報開示を行うための検討ポイントを紹介

 

一律の細かい開示項目を示すのではなく、上場会社が自社の状況に合わせて必要な部分を参照できるように、関係する考え方や手順を「4つのステップ」にまとめています。

 

(2)投資判断に有用な情報の開示を促す観点から、「投資家の視点」(マテリアリティ(重要課題)の特定と企業戦略との結びつき等)を盛り込んでいます。

 

(3)上場会社がESG情報開示を実践するにあたり参考となる「既存の情報開示の枠組み」(SSEイニシアティブのガイダンス、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言、SASB(サステナビリティ会計基準審議会)スタンダード、価値協創ガイダンス等)や、それを使った開示例を紹介しています。

 

4.4つのステップとその趣旨

 

4つのステップの作成にあたっては、以下の考え方の下で、ESG開示に至るまでのプロセスを4つのステップとして整理しています。

 

① 中長期的な企業価値向上の観点

② 投資家が必要とするESG情報開示を効果的に行う

③ 開示に至るまでに、ESG課題と企業価値を結び付けるためのプロセスを経ているかが重要

 

こうしたステップは、絶対的な方法というわけではありませんが、上場会社が自社の状況を踏まえて可能なところから着手し、ESG情報開示を始めることで投資家との対話が始まり、さらなる取り組みを進めていく際に、本ハンドブックが手掛かりになることを期待して作成しています。

 

(1)ステップ1:ESG課題とESG投資

 

ESG課題とESG投資の現状を理解します。

 

(2)ステップ2:企業の戦略とESG課題の関係

 

自社の戦略との関係で重要なESG課題(マテリアリティ)を特定します。

 

(3)ステップ3:監督と執行

 

ESGに関する取り組みを着実に進めていくために、監督と執行に関する社内体制を構築し、

指標・目標値を設定します。

 

(4)ステップ4:情報開示とエンゲージメント

 

ESG課題と企業価値の結びつきを踏まえて、ESG情報を投資判断に有用な形で開示します。

投資家等のステークホルダーとの対話を積極的に行うことで、中長期的な企業価値向上を目指します。

 

5.ESG課題

 

ESG課題とは一般的に、環境、社会、ガバナンスに関する幅広い課題を意味します。

ESG課題に明確な定義はありませんが、「責任投資原則」では、以下の項目を一例として挙げています。

 

(1)環境

 

気候変動、資源枯渇、廃棄、汚染、森林破壊

 

(2)社会

 

人権、強制労働・児童労働、労働条件、雇用関係

 

(3)ガバナンス

 

贈収賄・汚職、役員報酬、役員構成・多様性、ロビー活動・政治献金、税務戦略

 

6.企業戦略への影響

 

ESG課題は、リスクまたは機会として、企業のビジネスモデルや戦略に影響を及ぼすと考えられています。

そのため、自社の戦略に影響を与える可能性があるESG課題を検討する際には、リスクと機会の観点から自社への影響を分析することが第一歩になります。

 

企業の戦略は、規模・セクター・地域等によって異なるため、ESG課題の戦略への影響を考える際に考慮すべき点も企業により異なりますが、開示例を基にしますと以下のポイントが挙げられます。

 

・企業の価値観

・ビジネスモデル

・事業・資産ポートフォリオ

・オペレーション・サプライチェーン

・研究開発

・製品・サービス

・市場・顧客

 

7.ESG情報におけるマテリアリティ

 

ESGに関する情報開示のマテリアリティは、既存の枠組みでもそれぞれのポリシーに基づいて異なった定義や考え方が述べられています。

マテリアリティの定義の違いを踏まえて、自社の情報開示の目的や対象に合った考え方を採用する必要があります。

自社の企業価値と関係が深いマテリアリティを特定し、それに焦点を当てて取り組みを進めることが重要となります。

 

8.ESG課題の重要度の評価

 

ESG課題の重要度の評価や課題の絞り込みに関して一定の方法があるわけではありませんが、企業の開示例からいくつかのポイントを見ることができます。

 

・評価軸の設定

・評価方法の検討

・時間軸

・重要度の決定

 

9.指標と目標値の設定

 

(1)指標の設定

 

将来ありたい姿への道筋を明確にし、取り組みの進捗を管理するためには、課題に応じた指標の設定を行うことになります。

 

(2)目標値の設定方法

 

自社の長期ビジョン・目標を実現するためには、中期・短期で何を目指し、実現させるのかの視点が重要となります。

 

具体的な目標値設定方法としては、2つの方法があります。

 

① 実現可能性の観点から、過去の実績を積み上げて将来の予測値を算出し、目標値とする方法

 

② 環境や社会課題に関する国内外の目標値等を参考にして、自社の目標値を定める方法(バックキャスティング)

 

(3)PDCAの実施

 

PDCAにおいては、取り組みの進捗状況や、設定した指標・目標値の達成度を評価し、課題がある場合には、取り組みの改善、指標・目標値の見直しを行っていくことになります。

 

マテリアリティの場合は、進捗の評価にあたって外部環境等の変化を踏まえて、併せて、マテリアリティの項目・内容や重要性評価の見直しなどのマテリアリティの再検討が行われることも多くなっています。

 

令和元年会社法の一部を改正する法律~改正の経緯、改正の概要

1.改正検討の経緯

 

令和元年12月4日に会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)が成立し、同月11日に公布されました。

平成26年の会社法改正時に設けられた附則においては、「平成26年改正法の施行後2年を経過した場合において、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする」されていました。

 

また、平成26年の改正後にも、会社法の更なる見直しについて、法制審議会での調査・審議やパブリックコメントの聴取などを行い、その中で様々な指摘がされていました。
今回の改正は、これらの指摘等を踏まえ、会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図るため、会社法の一部を改正するものです。

 

2.会社法の一部を改正する法律の概要

 

(1)株主総会に関する規律の見直し

 

① 株主総会資料の電子提供制度の創設


株主総会資料をウェッブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知する方法により、株主総会資料を株主に提供できる制度が新たに設けられます。

 

② 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備


株主提案権の濫用的な行使を制限するため、株主が同一の株主総会において提案することができる議案の数を10までとする上限を新たに設けることとしています。

 

(2)取締役に関する規律の見直し

 

① 取締役の報酬に関する規律の見直し


報酬は、取締役に適切な職務執行のインセンティブを付与する手段となりうるものであり、これを適切に機能させ、その手続きを透明化する必要があるとして、以下の改正を行っています。

 

ア)上場会社等において、取締役の個人別の報酬の内容が株主総会で決定されない場合、取締役会は、その決定方針を定め、その概要等を開示しなければなりません。

 

イ)取締役の報酬として株式等を付与する場合の株主総会の決議事項に、株式等の数の上限を加えます。

 

ウ)上場会社が取締役の報酬として株式を発行する場合には、出資の履行を要しないことになります。

 

エ)事業報告における情報開示が充実されます。

 

② 会社補償に関する規律の整備

役員等の責任を追及する訴えが提起された場合に、 会社補償(株式会社が費用や賠償金を補償すること)をするために必要な手続き規定や保証をすることができる費用等の範囲に関する規定が新たに設けられます。

 

③ 役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備

 

株式会社が役員等を被保険者とする会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入するために必要な手続規定等が新たに設けられます。

 

④ 業務執行の社外取締役への委託

 

株式会社と取締役との利益相反状況がある場合等において取締役会が社外取締役に委託した業務については、社外取締役がこれを執行したとしても、社外性を失わないものとなります。

 

⑤ 社外取締役を置くことの義務付け

上場会社等は社外取締役を置かなければならなくなります。

 

(3)社債の管理等に関する規律の見直し

 

① 社債の管理に関する規律の見直し


社債権者が自ら社債を管理することができる場合を対象として、社債管理補助者に社債の管理の補助を委託することができる制度を新設することとしています。

 

② 株式交付制度の創設

完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度が新設されます。

 

3.会社法の一部を改正する法律の施行日 

 

今回の改正は、公布の日(令和元年12月11日)から1年6月以内の政令で定める日から施行されることが予定されています。

ただし,株主総会資料の電子提供制度の創設等の一部の改正については、公布の日から3年6月以内の政令で定める日から施行されることが予定されています。

会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

2020年3月31日に企業会計審議会より改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、本会計基準)が公表されました。

 

1.本会計基準の公表の経緯

 

本会計基準は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実のために、所要の改正を行ったものです。

 

我が国の会計基準等では、取引その他の事象または状況に具体的に当てはまる会計基準が存在しない場合の開示に関する会計基準上の定めが明らかではなく、開示の実態も様々であるとの違いが、ディスクロージャー専門委員会の検討で明らかになりました。

 

ディスクロージャー専門委員会は、「会計処理の対象となる会計事象等に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続の開示上の取り扱いを明らかにして、財務諸表利用者にとって不可欠な情報が提供されるようにすることは、有用であると考えられる」とした報告を基準諮問委員会に行い、企業会計審議会は、審議の結果、会計基準として公表されることになりました。

 

2.開示目的

 

(1)重要な会計方針に関する注記の開示目的

 

「財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すこと」です。

 

この開示目的は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、会計処理の原則及び手続を採用するときも同じであるとしています。

本会計基準は、重要な会計方針の開示における従来の考え方を変更するものではなく、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合いにおける取り扱いに関するこれまでの実務を変更することを意図するものではないとしています。

 

(2)会計基準等の定義

 

会計基準等とは、以下に掲げるもの及びその他の一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたものをいいます。

 

① 企業会計基準委員会が公表した企業会計基準

② 企業会計審議会が公表した会計基準(企業会計原則等を含む)

③ 企業会計基準委員会が公表した企業会計基準適用指針

④ 企業会計基準委員会が公表した実務対応報告

⑤ 日本公認会計士協会が公表した会計制度委員会報告、監査・保証実務委員会報告及び業種別監査委員会報告のうち会計処理の原則及び手続を定めたもの

 

3.関連する会計基準等の定めが明らかでない場合

 

(1)「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」の定義

 

「特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合」と定義しています。

 

(2)「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の例として以下のものを挙げています。

 

① 関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合に適用する会計処理の原則及び手続で重要性のあるもの

 

②適用される会計基準等については明らかでないが、参考となる既存の会計基準等がある場合に当該既存の会計基準等で定める会計処理の原則及び手続きを採用したとき

 

4.重要な会計方針に関する注記

 

重要な会計方針に関する注記については、企業会計原則の定めを引き継いで、以下のように取り扱うとしています。

 

(1)財務諸表には、重要な会計方針を注記します。

 

(2)会計方針の例として、以下のものがあります。ただし、重要性の乏しいものについては注記を省略できます。

 

① 有価証券の評価基準及び評価方法

② 棚卸資産の評価基準及び評価方法

③ 固定資産の減価償却の方法

④ 繰延資産の処理方法

⑤ 外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準

⑥ 引当金の計上基準

⑦ 収益及び費用の計上基準

 

(3)会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することができます。

 

5.未適用の会計基準等に関する注記

 

未適用の会計基準等に関する注記に関する定めの記載箇所が変更になることにより、未だに適用されていない新しい会計基準等全般に当該注記が適用されることが明確化されました。

 

6.適用時期及び経過措置

 

(1)適用時期

 

2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されます。

ただし、公表日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用することができます。

 

(2)経過措置

 

本会計基準を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更には該当しません。

本会計基準を新たに適用したことにより、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記します。