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産業競争力強化法における事業適応と政策税制~DX投資促進税制に係る令和3年度税制改正の概要

Ⅰ.DX投資促進税制の創設

 

1.令和3年度(2021年度)税制改正及び産業競争力強化法等の改正

 

令和3年度(2021年度)税制改正法は令和3年3月26日に参議院で可決され成立しました。特段の定めのあるものを除いて令和3年4月1日から施行されています。

産業競争力強化法等の改正は、令和3年6月9日に参議院で可決され成立しました。

 

(1) 産業競争力強化法等の改正

 

産業競争力強化法等の改正は、「新たな日常」に向けた取組を先取りし、長期視点に立った企業の変革を後押しするため、ポストコロナにおける成長の源泉となる以下の措置を講じる必要がある、との認識の下で内容の見直しが行われたものです。

 

①「グリーン社会」への転換

②「デジタル化」への対応

③「新たな日常」に向けた事業再構築

④中小企業の足腰強化

⑤「新たな日常」に向けた事業環境の整備等

 

(2) 産業競争力強化法等の改正に係る税制措置

 

産業競争力強化法等の改正に係る税制措置として、以下の項目が令和3年度税制改正に盛り込まれました。

 

①DX (デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制の創設

②カーボンニュートラル投資促進税制の創設

③繰越欠損金の控除上限の特例の創設

④中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設

⑤事前認定不要の株式対価M&Aの株式譲渡益の課税繰延制度の創設(現行の産業競争力強化法に規定する「事業再編計画」による特例の廃止)等

 

2.産業競争力強化法改正における「事業適応」と税制措置

 

(1) 産業競争力強化法の目的と「事業適応」の定義

 

産業競争力強化法の目的は、産業競争力の強化の基本理念を定め、規制改革の推進と産業活動における新陳代謝の活性化の促進等をその目的としています。

今般の改正にあたり、新たに「事業適応の円滑化」が「産業活動における新陳代謝」に追加され、「事業適応」の定義が設けられました。

 

【定義】

事業者が、産業構造又は国際的な競争条件の変化その他の経済社会情勢の変化に対応して、その事業の生産性を相当程度向上させること又はその生産し、若しくは販売する商品若しくは提供する役務に係る新たな需要を相当程度開拓することを目指して行うその事業の全部又は一部の変更。

 

(2) 事業適応計画認定制度の創設

 

「事業適応」の内容により、以下の3つに区別され、それぞれについて事業適応の実施に関する指針と事業適応計画の認定が規定されています。

 

①成長発展事業適応

②情報技術事業適応

③エネルギー利用環境負荷事業適応

 

(3)「事業適応」による「産業活動における新陳代謝」

 

「事業適応」による「産業活動における新陳代謝」は、産業競争力強化法等の改正の理由の一つである、「新型コロナウイルス感染症の影響、急激な人口の減少等の短期及び中長期の経済社会情勢の変化に適切に対応して、我が国産業の持続的な発展を図るため、情報技術の進展、エネルギーの利用による環境への負荷の低減等に対応する事業変更を行おうとする者についての計画認定制度の創設」に対応するものです。

 

(4)事業適応の課税の特例

 

それぞれの事業適応の課税の特例として、①DX投資促進税制、②カーボンニュートラル投資促進税制、③繰越欠損金の控除上限の特例が、改正租税特別措置法において措置されました。

事業適応計画と課税の特例の関係は、以下のようになっています。

 

 

3. 「事業適応計画」の作成と認定

 

事業適応の課税の特例を受けるには、「事業適応計画」を経済産業大臣に提出してその認定を受ける必要があります。

 

(1)記載内容

 

事業適応計画には、①事業適応の目標、②事業適応の内容及び実施時期、③事業適応に係る経営の方針の決議又は決定の過程、を記載します。

より具体的な記載内容は、政省令にて明らかにされる予定です。

 

(2)認定事業適応事業者

 

申請された「事業適応計画」が、以下の要件をすべて満たす場合には認定が行われ、認定事業適応事業者 (経済産業大臣により「事業適応計画」の認定を受けた事業者)の認定に係る事業適応計画の内容が公表されます。

 

①実施指針に照らし適切なものであること。

②当該事業適応計画に係る事業適応が円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること。

③当該事業適応計画に係る事業適応による生産性の向上又は需要の開拓が、当該事業分野における市場構造に照らして、持続的なものと見込まれるものであること。

 

Ⅱ.各税制の解説

 

1.デジタルトランスフォーメーシヨン(DX)投資促進税制の創設:令和5年(2023年)3月31日までの時限措置

 

デジタル技術を活用した企業変革を進める観点から、クラウド型システム導入等による「つながる」デジタル環境の構築に向けた投資について、税額控除(5%・3%)又は特別償却(30%)ができる措置が創設されます。

 

(1) 事業適応計画

 

事業適応計画の認定要件を満たした上、次の要件について 主務大臣から確認を受ける必要があります。

 

①デジタル(D)要件(データ連携・共有、レガシー回避、サイバーセキュリティ)

 

・他の法人等が有するデータ又は事業者がセンサー等を利用して新たに取得するデータと既存内部データとを合わせて連携すること

・クラウド技術を活用すること

・情報処理推進機構が審査を行う認定(DX認定)を取得すること

 

②企業変革(X)要件(ビジネスモデルの変革、アウトプット、全社戦略)

 

・商品の製造原価が8.8%以上削減されること等

・生産性向上や売上高の上昇の目標を定めること

・計画期間内で、ROAが2014年〜2018年平均を基準値として1.5%ポイント向上すること

・計画期間内で、売上高伸び率≧過去5年度の業種売上高伸び率+5%ポイントであること

・投資総額が売上高比0.1%以上であること

 

(2) 課税の特例の内容

 

認定された事業適応計画に基づいて行う設備投資について、設備投資総額の上限を300億円として、以下の措置を講じています。

 

対象設備:

ソフトウェア

繰延資産

機械装置

器具備品

 

税額控除:3%、他社とのデータ連携に係るもの5% 又は 特別償却30%

 

(注1)繰延資産:クラウド技術を活用したシステムへの移行に係る初期費用になります。

(注2)機械装置及び器具備品:ソフトウェア又は繰延資産と連携して使用するものに限ります。

(注3)税額控除の控除上限は、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制と合わせて当期の法人税額の20%を上限としています。

 

2.カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設:令和6年(2024年)3月31日までの時限措置

 

2050年カーボンニュートラルに向け、化合物パワー半導体等の生産設備への投資、生産プロセスの脱炭素化を進める投資など脱炭素化効果の高い先進的な投資について、税額控除(10%・5%)又は特別償却(50%)ができる措置が創設されます。

 

1) 事業適応計画の経済産業大臣の認定

 

①脱炭素化を加速する製品を生産する設備(需要開拓商品生産設備)

(ⅰ)需要開拓商品(*)の生産を行うために不可欠な機械装置であること

(ⅱ)専ら需要開拓商品の生産に使用されること

(*)燃料電池・化合物パワー半導体等のうち、特に優れた性能を有するもの

 

②生産プロセスを大幅に省エネ化・脱炭素化するための最新の設備(生産工程効率化等設備)

事業所等の単位で炭素排出量1単位当たりの付加価値額(炭素生産性)の目標が、「3年以内に7 %又は10%以上向上」を満たす計画であること

 

(2) 課税の特例の内容

 

認定された事業適応計画に基づく脱炭素化効果の大きい設備投資について、設備投資総額の上限を500億円として、以下の措置が講じられます。

税額控除の控除上限は、デジタルトランスフォーメーシヨン投資促進税制と合わせて当期の法人税額の20%を上限としています。

 

①需要開拓商品生産設備

 

対象設備:機械装置

 

税額控除:10% 又は 特別償却:50%

 

②生産工程効率化等設備

 

対象設備:導入される設備が事業所の炭素生産性を1%向上させることを満たす必要があります。

機械装置

器具備品

建物附属設備

構築物

 

税額控除:5% 目標が10%以上向上の場合10% 又は 特別償却:50%

 

3.繰越欠損金の控除上限の特例の創設

 

コロナ禍の厳しい経営環境の中、赤字であってもカーボンニュートラル、DX、事業再構築・再編等へ果敢に前向きな投資を行う企業に対し、コロナ禍の影響を受けた2年間に生じた欠損金額について、その投資額の範囲内で、最大5年間、繰越欠損金の控除限度額を最大100%とする特例が創設されます。

 

(1) 事業適応計画

 

事業適応計画の認定要件を満たした上で、次の要件を満たす必要があります。

主務大臣が計画を認定するとともに投資実績を毎年確認します。

 

①将来の成長に向けた投資内容を記載した計画を提出すること

②計画期間内に達成を見込む業績目標(ROAが計画認定時の直近事業年度比5%ポイント向上など)を定めること

③投資計画が企業の成長に資する内容であること(単純な維持・更新投資は対象外)

 

(2) 課税の特例の概要

 

認定された事業適応計画に基づく果敢な投資を行う企業の繰越欠損金について以下の措置を講じます。

この特例における欠損金の控除限度額の引上げは、対象欠損事業年度において生じた欠損金額のうち事業適応計画に従って行った投資の額に達するまでの金額を上限とします。

 

対象欠損事業年度:令和2年2月1日から令和3年4月1日までの期間内の日を含む事業年度の2年間

 

欠損金の控除限度額:最大5年間 100%控除可能

 

 

4.中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設

 

(1) 中小企業事業再編投資損失準備金

 

M&A実施後に発生する中小企業の特有のリスク(簿外債務、偶発債務等)に備える観点から、M&Aに関する経営力向上計画の認定を受けた中小企業者が、株式譲渡によってM&Aを実施する場合(取得価額が10億円以下の場合に限る。) において、株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積立金額を損金算入できることとなります。

 

経営力向上計画の認定期限は、令和6年(2024年)3月31日となっています。

 

この準備金は、据置期間終了後、原則として、5年間で均等額を取り崩して益金算入することとなります。

 

(2) 経営力向上計画

 

また、当該認定計画の中で、中小企業経営強化税制の新たな類型の適用ができることとするとともに、所得拡大促進税制の上乗せ要件に必要な計画の認定が不要とされます。

 

 

5.株式対価M & Aを促進するための措置の創設

 

企業の機動的な事業再構築を促し、競争力の維持・強化を図る観点から、自社株式を対価として、対象会社株主から対象会社株式を取得するM&Aについて、対象会社株主の譲渡損益に対する課税を繰り延べる措置が講じられます。

 

自社株式にあわせて金銭等を交付するいわゆる混合対価については、金銭等が20%以下であるものに限ります。

 

 

 

事業セグメントごとの貸借対照表の作成方法と資本コストの算定方法

2020年7月31日に事業再編研究会は、公表した「事業再編ガイドライン」の「2.2.4事業評価の仕組みの構築と運用」を踏まえ、事業セグメントごとの貸借対照表(以下、「BS」)の作成方法及び資本コストの算定方法について、本ガイドラインの趣旨との整合性や実務的な利便性を考慮して、一般に採用しやすいと思われる方法を、別紙としてその概要を説明しています。

 

なお、企業の状況や抱える課題に応じて最適な方法は異なりうるため、各社において最適な方法を検討する必要があるとしています。

 

1.事業セグメントごとの貸借対照表(BSの作成方法

 

(1)事業セグメントごとのBSの作成方法

 

事業セグメントごとのBSの作成に関して、負債と株主資本の割合を推計する方法については様々な方法が存在しますが、主な3つの方法について紹介します。

本ガイドラインに沿って事業セグメントごとの資本コスト(WACC)を把握するためには有利子負債と株主資本の割合が必要となるため、負債と株主資本の割付けを行った後、別途、負債の内訳として有利子負債を特定する必要があります。

 

① 資産レバレッジ方法

 

「各資産に一定の掛け目をかけて負債と株主資本の割合を決定する方法」です。

 

この方法は、事業セグメントごとに事業が持つ資産が割り付けられていることを前提に、資産ごとの現金化の容易性等を勘案し、各資産に一定の掛け目をかけて負債と株主資本の割合を推計する考え方です。

 

具体的な掛け目については、明確に決まった一律の数字は存在しないため、専門家のアドバイスを得る等して具体的な掛け目の数値を決める必要があります。

 

具体的な計算例では、A部門の保有する資産の内訳が以下のような資産の割合となっている場合、A部門の負債と株主資本の割合は1:1となります。

 

 

② ベンチマーク方法

 

「同業他社や競合企業と類似の資本構成をとることで負債と株主資本の割合を決定する方法」です。

 

この方法は、同業他社や競合企業は同程度の財務リスクを抱えているとみなして、その数値を参考にして負債と株主資本の割合を推計する考え方です。

 

具体的には、ある企業のA部門と競合関係にある同業のa~f社の株主資本と負債の割合が以下のような場合には、A部門の負債と株主資本の割合は1:1と推計することになります。

 

 

③ 実績配賦方法

 

「事業セグメントごとの損益計算書(以下、「PL」)を基に過去の一定期間における純利益額の合計値を算出し、その割合に応じて株主資本を割り付ける方法」です。

 

この方法 は、PL上の「純利益」の一部がBS上の「純資産」の形成に寄与したと考え、各部門が生み出した「純利益」の割合に応じて「純資産」を割り当てる考え方です。

 

具体的には、ある企業にA部門、B部門、C部門の3部門が存在し、過去10年間における各部門の純利益額の合計がA部門:20億円、B部門:70億円、C部門:10億円であった場合、当該企業の保有する純資産を2:7:1の割合で各部門に割り当てることになります。

 

(2)上記の各方法に関する考察

 

本ガイドラインの趣旨との整合性等の観点から、上記(1)で紹介した3つの方法について、考察してみます。

 

①資産レバレッジ方法及び②ベンチマーク方法については、資産の掛け目やベンチマークとする対象企業の設定次第では恣意的な結果を招くおそれがありますが、事業の実態に即した資本構成に近づけることが可能となります。

 

本ガイドラインに記載のとおり、事業セグメントごとの資本コストを適切に把握し、事業ポートフォリオの機動的な組換えを通じた収益性の向上や成長事業に対する投資を促進するためには、成熟・衰退事業に対して株主資本が厚く配分され、新規•成長事業に対して負債が厚く配分される可能性の高い③実績配賦方法は必ずしも望ましい方法とはいえません。

 

ただし、事業セグメントごとのBSの作成には、社内の膨大な調整を伴うため、現場の納得感が得られやすい③実績配賦方法を補充的に利用することは考えられます。

 

 

(3)会社全体のBSとの整合性

 

①、②の方法で事業セグメントごとのBSを作成した場合、事業セグメントごとのBSの合計値が会社全体のBSの数値と不一致を起こす場合があります。

 

このような場合の処理としては、一般的には「本社部門」という事業セグメントを設けて、遊休資産等を吸収する方法が考えられます。

 

これにより、事業セグメントごとのBSを修正する必要がなくなるとともに、どの事業セグメントにも紐づかないで活用されていない資産を把握するという点でも有意義です。

 

ただし、事業セグメントごとのBSの合計値と会社全体のBSの数値との乖離が大きい場合には、事業セグメントごとのBSが会社全体の財務状況と大きく乖離している可能性があるため、差分について当該科目の加重平均割合に応じてそれぞれの事業セグメントへ配分することも考えられます。

 

(4)事業セグメントごとのBSを作成する際のポイント

 

事業セグメントごとのBSの作成は、会社が保有する経営資源の配分を伴うため、本社の管理部門と事業セグメント部門との調整には相当の時間とマンパワーが発生することが想定されます。

事業ポートフォリオ管理を適切に行うために、トップ主導の下、必要に応じて外部リソースを活用しながら、短期間で集中して行うことが望ましいと考えられます。

 

① 管理会計のため「ざっくり」と作成することを心掛ける

 

事業セグメントごとのBSの作成は、あくまで事業ポートフォリオ管理を適切に行うことが目的であるため、制度会計のような精緻さは求められておらず、まずは短期間で集中的に「ざっくり」と作成することが効果的です。

 

② 必要に応じて外部リソース(コンサルタント等)を活用する

 

事業セグメントごとのBSの作成は、社内リソースだけで行うことが難しい場合も想定されるため、社内での検討が行き詰った場合には、コンサルタント等の外部リソースを必要に応じて活用することも効果的です。

 

③ 各事業セグメントとの調整はトップ主導で理解を求める

 

事業セグメントごとのBSの作成は、本社主導の下、トップダウンで行うことが不可欠です。

 

BSの作成は単なる数字作成作業ではなく、会社が保有する経営資源の配分決定であり、社内から様々な反論や批判がでることも覚悟した上で、最終的には経営トップが自ら判断する覚悟を持って行うべきです。

 

2.資本コスト(WACCの算定方法

 

(1)事業セグメントごとの資本コスト

 

事業セグメントごとの資本コスト(WACC)を算定するためには、BSを作成し、株主資本コストを算定する必要があります。

 

株主資本コストの算定方法で一般的とされるCAPM理論に基づいて株主資本コストの算定を行う場合、上場企業の場合であれば株価の動きからβ値を直接推測することができますが、企業の一部である事業セグメントごとのβ値については市場情報から直接算定することは困難です。

 

このため、事業セグメントごとのβ値については、当該事業セグメントと同様の事業を主要事業とする他の上場企業(以下「類似企業」という。)のβ値を基に推計する必要があります。

 

(2)アンレバードβ

 

類似企業のβ値を基に対象事業セグメントのβ値を推計する場合に問題となるのは、通常、β値には株主から見たあらゆる評価が反映されるため、市場価格に基づいて作成されたβ値には事業リスクのみならず、財務リスクに対する評価が含まれているという点です。

 

例えば、株主は負債割合が高いほど、倒産時に自らの手元に戻ってくる金額が少なくなる可能性が高くなるというリスクを背負っているため、資本構成によるリスクがβ値に反映されています。

 

このため、類似企業のβ値を基に対象事業セグメントのβ値を推計するためには、類似企業の市場データに基づくβ値から、当該企業の負債が0であると仮定して財務リスクを取り除き、事業リスクのみを抽出した「アンレバードβ」を求めた上で、対象企業の財務リスクを加味して当該事業セグメントのβ値を算出する必要があります。

 

(3)事業セグメントごとのβ値の算定手順

 

事業セグメントごとのβ値については、以下の手順で算定を行うこととなります。

 

① 類似企業を特定する(複数選択することを想定)

 

② 市場データを用いて類似企業のβ値を算定する

 

③ ②で算定したβ値をアンレバードβ値へ変換する

 

④ ③で算定したβ値を基に、対象となる事業セグメントのアンレバードβ値を推計する

 

⑤ 対象となる事業セグメントのBSに基づく負債資本構成を踏まえ、④で算出したアンレバードβ値を通常のβ値へ変換する

会計上の見積もりを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方

企業会計基準委員会は、会計上の見積もりを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方を2021年2月10日に更新し、該当する議事概要を公表しました。

 

Ⅰ 公表の経緯

 

2020年4月に第429回企業会計基準委員会の議事概要を公表してから約10か月経過していますが、現状においても、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を予測することが困難である状況に変化はありません。

 

会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況であることに変わりはありません。

 

これまでに公表した議事概要の考え方の周知を引き続き行っています。

 

また、現状における論点を審議し、これまでに公表した議事概要を更新する形で第451回企業会計基準委員会(2021年2月9日開催)の議事概要が公表されました。

 

Ⅱ 第429回企業会計基準委員会議事概要

 

企業会計基準委員会(以下、当委員会)は、2020年4月10日に第429回企業会計基準委員会の議事概要として、「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表しています。

 

1.状況

 

(1)会計上の見積りの定義

 

財務諸表を作成する上では、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な会計上の見積りを行うことが必要となります。

 

会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義しています。

 

(2)コロナ禍の影響

 

新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況となっているものと考えられます。

 

2.留意点

 

このような状況において、会計上の見積りを行う上では、以下の点に留意する必要があります。

 

(1) 一定の仮定

 

「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられます。

 

(2) 外部情報源の入手が困難な場合

 

一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望まれます。

 

しかし、新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる前例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられます。

 

この場合、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになります。

 

(3) 「誤謬」との関係

 

企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられます。

 

(4) 追加情報としての開示

 

最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられます。

 

このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられます。

 

Ⅲ 第432回企業会計基準委員会議事概要

 

当委員会は、2020年5月11日に第432回企業会計基準委員会の議事概要として、第429回企業会計基準委員会の議事概要に以下を追加しています。

 

上記の(4)の「重要性がある場合」については、当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれます。

 

Ⅳ 第436回企業会計基準委員会議事概要

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した上記の考え方について四半期決算における考え方を明らかにして欲しいとの意見が聞かれたため、2020年6月26日に第436回企業会計基準委員会の議事概要において、以下を確認しています。

 

(1) 前年度の財務諸表で追加情報の開示を行っていて、四半期決算で重要な家庭の変更を行った場合

 

前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載する必要があるものと考えられます。

 

(2) 前年度の財務諸表で追加情報を開示していないが、四半期決算で仮定を開示している場合

 

前年度の財務諸表において仮定を開示していないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載する必要があるものと考えられます。

 

 (3) 前年度の財務諸表で追加情報を開示し、四半期決算で仮定に重要な変更を行っていない場合

 

前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行っていないときも、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望まれます。

 

Ⅴ 第451回企業会計基準委員会議事概要(2021年2月10日更新)

 

 

1.企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を適用する前の取扱い

 

企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「企業会計基準第31号」という。)を適用する前の年度決算に関する取扱い及び四半期決算の取扱いについては、審議の上、第429回企業会計基準委員会の議事概要、第432回企業会計基準委員会の議事概要及び第436回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方が変わらないことを確認しています。

 

2.企業会計基準第31号を適用した後の取扱い

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方について、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用が開始される企業会計基準第31号との関係を明らかにして欲しい等の意見が聞かれており、審議の上、以下を確認しています。

 

(1) 考え方の継続

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、(1)(2)及び(3)については、企業会計基準第31号の適用後も、会計上の見積りを行う上で新型コロナウイルス感染症の影響を考えるにあたり変わりません。

(1):一定の仮定

(2):外部情報源の入手が困難な場合

(3):「誤謬」との関係

 

(2) 企業会計基準第31号における開示

 

企業会計基準第31号は、重要な会計上の見積りとして識別した項目について、当年度の財務諸表に計上した金額、及び会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を開示することとしています。

 

その他の情報には、例えば、当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法、当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定、及び翌年度の財務諸表に与える影響が含まれます。

 

(3) 企業会計基準第31号に基づく開示と重要性がある場合の追加情報としての開示の関係

 

したがって、第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、(4)において重要性がある場合に追加情報としての開示が求められる新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定については、企業会計基準第31号で求められる開示に含まれることが多いと想定されます。

 

前段に記載した他の開示と合わせ、新型コロナウイルス感染症の影響について、より充実した開示になることが想定されます。

 

なお、企業会計基準第31号に基づく開示において、第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した開示がなされる場合、改めて追加情報として開示する必要はないものと考えられます。

 

(4) 企業会計基準第31号に基づく開示以外の追加情報としての開示

 

新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断について開示することが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断し、追加情報として開示しているケースが見られます。

 

企業会計基準第31号に基づく開示は、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について求められるものであるため、このような開示は、企業会計基準第31号により求められる開示には含まれませんが、引き続き、追加情報を開示する趣旨に沿ったものになると考えられます。

 

「株式報酬等取扱い」~適用範囲、会計処理の考え方、具体的会計処理、開示

改正会社法において、取締役又は執行役(以下「取締役等」という。)の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととされました。

これを受けて、ASBJでは、これらの会計処理及び開示を明らかにすることを目的として、2021年1月28日に「株式報酬等取扱い」を公表しました。

 

1.適用範囲

 

(1)株式の無償交付

 

「会社法202条の2」に基づいて、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引を対象としています。

 

(2)現物出資構成の取り扱い

 

① 現行実務において行われている(いわゆる)現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引には適用されません。

 

② 株式報酬等取扱いが対象とする取引は、会社法上、株式の無償発行ですが、(いわゆる)現物出資構成による取引は株式の有償発行であるなど、法的な性質が異なる点があるため、(いわゆる)現物出資構成による取引の会計処理のうち払込資本の認識時点など、法的な性質に起因する会計処理については異なる会計処理になるものと考えられるとされています。

 

2.会計処理の基本的な考え方

 

(1)基本的考え方

 

株式報酬は、インセンティブ効果を期待して自社の株式が付与されるものであり、ストック・オプションとその目的が同一であると考えられますので、費用の認識や測定については、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」という。)の定めに準じることとされています。

 

(2)適用対象取引

 

株式報酬等取扱いの適用対象となる取引には、いわゆる事前交付型と事後交付型が想定されています。

株式が交付される時点が異なる点や、事前交付型においては株式の交付の後に株式を無償で取得することがあるなど、取引の形態ごとに異なる取扱いが定められています。

 

3.事前交付型

 

(1) 定義

 

・取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引のうち

・対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い

・権利確定条件を達成した場合に譲渡制限が解除され

・権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する(以下、当該無償取得を「没収」という。)取引。

 

(2) 会計処理

 

新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合が想定されるため、それぞれ下記のとおりの会計処理が定められています。

 

割当日における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

当初の割当日において新株を発行し発行済株式総数が増加しますが、その時点では資本を増加させる財産等の増加は生じていないことから、割当日には払込資本を増加させません。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

当初の割当日において自己株式を処分するため、その時点で自己株式の帳簿価額を減額するとともに、同額のその他資本剰余金を減額します。

 

対象勤務期間における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

ア) ストック・オプション会計基準と同様に、企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上します。

各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額とします。

なお、権利確定条件の不達成による失効等の見積数に重要な変動が生じた場合、また、権利が確定した場合に株式数を見直します。

 

イ) ア)の処理により年度通算で費用が計上される場合は、対応する金額を資本金又は資本準備金に計上し、年度通算で過年度に計上した費用を戻し入れる場合はその他資本剰余金から減額します。

なお、四半期会計期間においては、計上する損益に対応する金額はその他資本剰余金の計上又は減額として処理し、年度の財務諸表においては、イ)の処理に置き換えます。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

新株発行の場合と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額をその他資本剰余金として計上します。

 

没収時における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

没収により、企業が無償で株式を取得したときは、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)14項の定めによる自己株式の無償取得として、自己株式の数のみの増加として処理します。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

没収により、企業が無償で株式を取得したときは、自己株式等会計適用指針14項の定めによらず、当初の割当日において減額した自己株式の帳簿価額のうち、没収により取得した自己株式に相当する額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額します。

 

4.事後交付型

 

(1) 定義

 

・取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち

・契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており

・権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引。

 

(2)会計処理

 

新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合について、それぞれ下記のとおり定めています。

また、「株式報酬等取扱い」における以下の定めにより、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目として、新たに「株式引受権」を計上するとしたことから、改正純資産会計基準及び改正純資産適用指針において、「株式引受権」という科目が追加されています。

 

対象勤務期間における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、新株の発行が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上します。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、自己株式の処分が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上します。

 

②割当日における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

権利確定条件を達成した後の割当日に、株式引受権として計上した額を資本金又は資本準備金に振り替えます。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

権利確定条件を達成した後の割当日に、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額として、その他資本剰余金を増減させます。

 

5.その他の会計処理

 

取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、株式報酬等取扱いの開発段階においては改正会社法の施行前であり、取引の詳細は定かではないことから、基本となる会計処理のみを定めることとしています。

 

株式報酬等取扱いに定めのないその他の会計処理については、類似する取引又は事象に関する会計処理が、ストック・オプション会計基準や企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下、「ストック・オプション適用指針」といい、ストック・オプション会計基準とあわせて「ストック・オプション会計基準等」という。)に定められている場合には、これに準じて会計処理を行うとすることとされています。

 

6.開示

 

(1)注記

 

「株式報酬等取扱い」では、費用の認識や測定はストック・オプション会計基準の定めに準じることとしていることから、ストック・オプション会計基準等における注記事項を基礎としています。

 

ストック・オプションと事前交付型および事後交付型とのプロセスの違いを考慮して、以下の注記項目が定められています。

以下の注記事項の具体的な内容や記載方法については、ストック・オプション適用指針の定めに準じて行うこととされています。

 

① 事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る)

 

② 事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る、ただし、権利確定後の未発行株式数を除く)

 

③ 付与日における公正な評価単価の見積方法

 

④ 権利確定数の見積方法

 

⑤ 条件変更の状況

 

(2) 1株当たり情報

 

1株当たり情報については、以下のとおり定められています。

 

① 事後交付型におけるすべての権利確定条件を達成した場合に交付されることとなる株式

 

企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」9項の「潜在株式」として取り扱い、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において、ストック・オプションと同様に取り扱います。

 

② 株式引受権

 

1株当たり純資産額の算定上、企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」35項の期末の純資産額の算定にあたっては、貸借対照表の純資産の部の合計額から控除します。

 

7.適用時期等

 

改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用することとし、その適用については、会計方針の変更には該当しないとされています。

 

2021年3月期有価証券報告書における収益認識会計基準の適用

収益認識会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用が原則となります。早期適用も認められています。

 

1.2021年3月期における収益認識会計基準の早期適用

 

(1)原則適用

 

収益認識会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用が原則となります。

 

(2)早期適用

 

① 2018年収益認識会計基準等

 

2019年4月1日以後開始事業年度からの早期適用が認められています。

 

② 2020年収益認識会計基準等

 

2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することが認められています。

 

(3)早期適用の類型

 

このため、2021年3月期における早期適用の類型には、以下の3つがあることになります。

 

① 2021年3月期の期首から2020年収益認識会計基準等を早期適用

 

② 2021年3月期の期首から2018年収益認識会計基準等のみを早期適用

 

③ 2018年収益認識会計基準等のみを過年度に早期適用済で、2021年3月期の期首から2020年収益認識会計基準等を早期適用

 

2. 2021年3月期から2020年収益認識会計基準を早期適用する場合の留意事項

 

1)会計処理に関する経過措置

 

① 適用初年度の取扱い

 

A) 原則的な取扱い

 

収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされています。

 

B) 経過措置

 

ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています。

 

C) 取り扱いのまとめ

 

適用初年度の取扱いをまとめたものが、以下の図です。

 

 

② 原則的な取扱いに従って遡及適用する場合

 

原則的な取扱いに従って遡及適用する場合であっても、以下A)、B)、C)の方法の1つ又は複数を適用することができるとされています。

遡及適用する企業においては、以下のいずれの方法で遡及適用するのか、早めの検討と対応が必要になると考えられます。

 

A) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の比較情報を遡及的に修正しないこと

 

B) 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること

 

C) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること

 

・履行義務の充足分及び未充足分の区分

・取引価格の算定

・履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分

 

③ 適用初年度に経過措置を選択する場合

 

A) 適用初年度に2020年収益認識会計基準84項ただし書きの経過措置を選択する場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しないことができるとされています。

 

B) 経過措置を選択する場合、契約変更について、次のいずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することができることとされています。

 

ア)適用初年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、上記②Cの3つの項目の処理を行うこと

 

イ)適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、上記②Cの3つの項目の処理を行うこと

 

(2)表示及び注記

 

① 科目については、2020年収益認識会計基準の適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。

 

② また、2020年収益認識会計基準等の適用初年度においては、2020年収益認識会計基準等において定める以下の注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。

 

A) 顧客との契約から生じる収益とそれ以外の収益とを区分して損益計算書に表示しない場合における顧客との契約から生じる収益の額の注記

 

B) 契約資産と顧客との契約から生じた債権とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、それぞれの残高の注記(また、契約負債と他の負債とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、契約負債の残高の注記)

 

C) 重要な会計方針の注記と収益認識に関する注記

 

3.2018年収益認識会計基準等を早期適用済の会社が、2021年3月期から2020年収益認識会計基準を早期適用する場合の留意事項

 

(1)会計処理

 

① 2018年収益認識会計基準等を早期適用済の会社が、2021年3月期から2020年収益認識会計基準を早期適用する場合には、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することになります。

 

② ただし、2020年収益認識会計基準等では、主に表示及び開示に関する定めが追加されていることから、2018年収益認識会計基準を早期適用している場合には、2020年収益認識会計基準の適用による会計処理への影響は、契約資産の性質の見直しや適用範囲の見直しに限られており、限定的であるものと考えられます。

 

③ さらに、経過措置として、将来にわたり新たな会計方針を適用することができるとされています。

 

2)表示及び注記

 

① 2020年収益認識会計基準の適用初年度においては、2020年収益認識会計基準の適用により表示方法(注記による開示も含む。)の変更が生じる場合には、遡及会計基準14項の定めにかかわらず、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。

 

② また、以下に記載した内容を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。

 

A) 顧客との契約から生じる収益とそれ以外の収益とを区分して損益計算書に表示しない場合における顧客との契約から生じる収益の額の注記

 

B) 契約資産と顧客との契約から生じた債権とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、それぞれの残高の注記(また、契約負債と他の負債とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、契約負債の残高の注記)

 

C) 重要な会計方針の注記と収益認識に関する注記

 

4.2020年収益認識会計基準の概要

 

2018年3月30日に2018年収益認識会計基準等が公表され、2020年3月31日に、主に、表示及び注記事項を改正する2020年収益認識会計基準等が公表されています。

 

(1)適用時期及び経過措置

 

① 原則適用

 

2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用(2018年収益認識会計基準等と同じ)されます。

 

② 早期適用

 

A) 2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが認められています。

 

B) 2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することが認められています。

 

③ 経過措置

 

A) 適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表(注記事項を含む。)及び前事業年度の個別財務諸表(注記事項を含む。)について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができます。

 

B) 2020年収益認識会計基準等の適用初年度においては、2020年収益認識会計基準等において定める注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができます。

 

2)基本的な方針

 

2020年収益認識会計基準では、開示目的を定めた上で企業の実態に応じて、企業自身が当該開示目的に照らして注記事項の内容を決定することとした方が、より有用な情報を提供できるとして、注記事項の開発にあたっての基本的な方針として、次の対応が行われています。

 

① 包括的な定めとして、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを含めています

また、原則として、IFRS第15号の注記事項のすべての項目を含めています

 

② 企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することを明確にし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にしています

 

(3)2020年収益認識会計基準の改正の概要

 

① 表示に関する定めの追加

 

以下の項目が追加されています。

 

A) 損益計算書の表示科目

B) 重要な金融要素が含まれる場合の取扱い

C) 貸借対照表の表示科目

D) 契約資産の性質に関する取扱いの見直し等

E) 適用初年度の取扱い

 

② 注記に関する定めの追加

 

以下の項目が追加されています。

 

A) 重要な会計方針の注記

B) 収益認識に関する注記

ア)収益の分解情報

イ)収益を理解するための基礎となる情報

ウ)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

C) 工事契約等から損失が見込まれる場合

 

③ その他

 

以下の取り扱いが定められています。

 

A) 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表の取扱い

B) 四半期財務諸表における取扱い

C) 追加された設例

 

2021年3月期より適用になる見積開示会計基準~適用時期、経過措置、開示項目、注記事項

2018年11月に、公益財団法人財務会計基準機構(以下「FASF」という。)内に設けられている基準諮問会議より、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実について検討することが提言されました。

 

これを受けて企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)で検討が行われ、2020年3月31日に見積開示会計基準が公表されました。

 

1.適用時期及び経過措置

 

(1)適用時期

 

適用時期は、下記のとおりとなっています。

 

①原則適用

 

2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から適用

 

②早期適用

 

2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から適用

 

(2)経過措置

 

見積開示会計基準の適用初年度においては、表示方法の変更として取り扱われますが、改正遡及会計基準14項の定めにかかわらず、見積開示会計基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される比較情報に記載しないことができるものとされています。

 

2.開示の基本的な方針

 

会計上の見積りの開示について原則(開示目的)を示した上で、具体的な開示内容は企業が当該原則(開示目的)に照らして判断することとされています。

 

見積開示会計基準の開発において、国際会計基準(IAS)第1号「財務諸表の表示」125項の定めを参考にしたとされています。

 

3.会計上の見積りの開示目的

 

・当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち

 

・翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(有利となる場合及び不利となる場合の双方を含む(以下同じ)。)における会計上の見積りの内容について

 

・財務諸表利用者の理解に資する情報を開示すること

 

4.開示項目の識別

 

(1)識別される項目

 

通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債が識別される項目になります。

 

開示する項目の識別の判断については、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りにより行われている項目のうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別することとされています。

 

(2)識別される項目の留意事項

 

①減損損失

 

固定資産の減損損失の認識は行わないとした場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討した上で、当該固定資産が開示項目として識別される可能性があります。

 

②市場価格の変動

 

直近の市場価額により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動は、会計上の見積りに起因しないことから、項目の識別において考慮しないこととされています。

 

(3)開示項目の例外

 

以下の項目については、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、開示を妨げないとされています。

 

・当年度の財務諸表に計上した収益及び費用

・会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債

・注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったもの

 

5.注記事項

 

(1)記載方法

 

見積開示会計基準では、会計上の見積りの開示は独立の注記項目とされ、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載することとされています。

 

(2)注記内容

 

開示する項目として識別した項目については、会計上の見積りの内容を表す項目名を注記し、併せて以下の注記が求められています。

 

・当年度の財務諸表に計上した金額

・会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

 

(3)理解に資するその他の情報

 

①項目の例示

 

「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」については、以下の項目が例示されています。

 

チェックリストとして用いられるものではなく、企業の置かれている状況を勘案し、開示目的に照らして判断することが求められています。

 

A)当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法

B)当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定

C)翌年度の財務諸表に与える影響

 

②項目の記載方法等

 

例示項目(B)の主要な仮定については、(A)の算出方法に対するインプットとして想定される定量的情報若しくは定性的な情報又はこれらの組み合わせである場合も考えられます。

 

また、(C)について、定量的に示す場合には、単一の金額の方法のほか、合理的に想定される金額の範囲を示すことも考えられます。

 

(4)留意事項

 

「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」については、単に会計基準等における取扱いを算出方法として記載したり、会計基準等における取扱いに基づく結果としての影響を記載したりするのではなく、企業の置かれている状況が理解できるような開示が求められていると考えられる点には留意が必要です。

 

6.個別財務諸表上の取扱い

 

見積開示会計基準に基づく会計上の見積りの開示は、連結財務諸表と個別財務諸表で同様の取扱いとすることを原則としています。

 

ただし、連結財務諸表と個別財務諸表の注記の重複を避けるという趣旨で、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法の記載をもって「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」に代えることができるとされています。

この場合、連結財務諸表における記載を参照することができるとされています。

 

7.適用初年度の取扱い

 

(1)見積開示会計基準の適用初年度の取扱いは、以下のとおりです。

 

①本会計基準の適用は、表示方法の変更として取り扱う

 

②改正遡及会計基準 14 項の定めにかかわらず、見積開示会計基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表および個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度における連結財務諸表に関する注記及び前事業年度における個別財務諸表に関する注記(比較情報)に記載しないことができる

 

(2)改正遡及会計基準と見積開示会計基準との関係

 

①改正遡及会計基準の取り扱い

 

財務諸表の表示方法を変更した場合には、原則として表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行うこととされています。

 

②見積開示会計基準の取り扱い

 

適用初年度においては、見積開示会計基準に定める注記事項について比較情報に記載しないことができるとされています。

 

この取り扱いとした理由を以下に挙げています。

 

A) 適用初年度の比較情報を開示するために過去の時点における判断に見積開示会計基準を遡及的に適用した場合、当該時点に入手可能であった情報と事後的に入手した情報を客観的に区別することが困難であると考えられること。

 

B) また、多数の子会社を有している企業において、見積開示会計基準の適用初年度の比較情報として、すべての子会社から、見積開示会計基準に基づく開示に必要な過去の情報を入手し集計することは、実務上煩雑であること。

 

C) 特に、会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資するその他の情報に関して、翌年度の財務諸表に与える影響を定量的に記載する場合には、これを過去に遡って示すことが煩雑であると考えられること。

会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方

2020年4月に第429回企業会計基準委員会の議事概要を公表してから約10か月経過していますが、現状においても、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を予測することが困難である状況に変わりはなく、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況であることに変わりはありません。

これまでに企業会計基準委員会が公表した議事概要の考え方を引き続き周知するとともに、現状における論点を審議し、これまでに公表した議事概要を更新する形で第451回企業会計基準委員会(2021年2月9日開催)の議事概要が公表されました。

 

Ⅰ 第429回企業会計基準委員会議事概要

 

企業会計基準委員会は、2020年4月10日に第429回企業会計基準委員会の議事概要として、会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方について以下を公表しています。

 

1.会計上の見積もり

 

会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義しています。

 

2.新型コロナウイルス感染症

 

財務諸表を作成する上では、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な会計上の見積りを行うことが必要となります。

新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況となっているものと考えられます。

このような状況において、会計上の見積りを行う上では、以下の点に留意する必要があるとしています。

 

3.留意事項

 

(1)一定の仮定

 

「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があること。

 

(2)客観性のある情報

 

一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましいこと。

 

ただし、新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる前例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられます。

この場合、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自らが一定の仮定を置くことになります。

 

(3)「誤謬」との関係

 

企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられます。

 

「企業会計基準第24号第4項(8)」では、「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいう。」として、「事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り」を掲げています。

 

(4) 追加情報としての開示

 

最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられています。

このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられます。

 

Ⅱ.第432回企業会計基準委員会議事概要

 

企業会計基準委員会は、2020年5月11日に第432回企業会計基準委員会の議事概要として、第429回企業会計基準委員会の議事概要に以下を追加しています。

 

1.追加情報の開示の必要性

 

これまでに公表された2020年3月期の開示情報を踏まえると、新型コロナウイルス感染症の影響が大きいと考えられる業種においても、今後の法定開示書類において追加情報の開示が十分に行われないのではないかとの意見が聞かれています。

 

2.「重要性がある場合」の財務諸表利用者への有用な情報の提供

 

追加情報として開示する場合の「重要性がある場合」については、

 

(1)当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても

 

(2)翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には

 

(3)新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われるので

 

(4)開示を行うことが強く望まれています。

 

Ⅲ.第436回企業会計基準委員会議事概要

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した上記の考え方について四半期決算における考え方を明らかにして欲しいとの意見が聞かれたため、2020年6月26日に第436回企業会計基準委員会の議事概要において、以下を確認しています。

 

(1) 前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載する必要があるものと考えられること。

 

(2) 前年度の財務諸表において仮定を開示していないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載する必要があるものと考えられること。

 

(3) 前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行っていないときも、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望ましいこと。

 

Ⅳ.第451回企業会計基準委員会議事概要

 

冒頭で述べていますように、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を予測することが困難である状況に変わりはなく、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況であることに変わりはありません。

これまでに公表した議事概要の考え方を引き続き周知するとともに、現状における論点を審議し、これまでに公表した議事概要を更新する形で第451回企業会計基準委員会の議事概要が公表されました。

 

1.企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を適用する前の取扱い

 

企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「企業会計基準第31号」という。)を適用する前の年度決算に関する取扱い及び四半期決算の取扱いについては、審議の上、第429回企業会計基準委員会の議事概要、第432回企業会計基準委員会の議事概要及び第436回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方が変わらないことが確認されています。

 

2.企業会計基準第31号を適用した後の取扱い

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方について、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用が開始される企業会計基準第31号との関係を明らかにして欲しい等の意見が聞かれており、審議の上、以下を確認しています。

 

(1)過去の議事概要の考え方

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、(1)(2)及び(3)については、企業会計基準第31号の適用後も、会計上の見積りを行う上で新型コロナウイルス感染症の影響を考えるにあたり変わらないこと。

 

(2)重要性がある場合の追加情報の開示

 

①企業会計基準第31号の開示

 

企業会計基準第31号は、重要な会計上の見積りとして識別した項目について、当年度の財務諸表に計上した金額、及び会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を開示することとしています。

 

②会計上の見積りの内容

 

例えば、当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法、当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定、及び翌年度の財務諸表に与える影響が会計上の見積りの内容に含まれるとしています。

 

③新型コロナウイルス感染症に関する一定の仮定の開示

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、(4)において重要性がある場合に追加情報としての開示が求められる新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定については、企業会計基準第31号で求められる開示に含まれることが多いと想定され、前段に記載した他の開示と合わせ、新型コロナウイルス感染症の影響について、より充実した開示になることが想定されています。

 

なお、企業会計基準第31号に基づく開示において、第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した開示がなされる場合、改めて追加情報として開示する必要はないものと考えられています。

 

(3)新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合の開示

 

新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断について開示することが財務諸表の利用者にとって有用な情報になると判断し、追加情報として開示しているケースが見られます。

企業会計基準第31号に基づく開示は、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について求められるものであるため、このような開示は、企業会計基準第31号により求められる開示には含まれませんが、引き続き、追加情報を開示する趣旨に沿ったものになると考えられています。

2019年12月の改正会社法に基づく会社法施行規則等及び開示府令の概要について

1.改正会社法の施行日

 

2019年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」という。)が成立し、同月11日に公布されました。

 

また、改正会社法の施行に伴い、2020年11月27日に、「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正」が公布され、会社法施行令、会社法施行規則及び会社計算規則などが改正されました。

 

改正会社法及び関連する政令等の改正については、下記を除き、2021年3月1日に施行されています。

①株主総会資料の電子提供制度の創設

②会社の支店の所在地における登記の廃止

①、②は、改正会社法の公布日(2019年12月11日)から起算して3年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。

 

2.主な改正内容

 

会社法の主な改正内容は以下のとおりです。

 

① 取締役等の報酬に関する規律の見直し

② 株式交付制度の新設

③ 株主総会資料の電子提供制度の新設及び整備

④ 事業報告に関する規定の改正

 

以下では、①、②、④について解説します。

 

3.取締役等の報酬に関する規律の見直し

 

(1)取締役等の報酬に関する規律の見直しの内容

 

① 上場会社等において、取締役の個人別の報酬の内容が株主総会で決定されない場合には、取締役会は、その決定方針を定め、その概要等を開示しなければならないこととされました

 

② 取締役の報酬として株式等を付与する場合の株主総会の決議事項に、株式等の数の上限等を加えることとされました

 

③ 上場会社が取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととされました

 

④ 事業報告による情報開示を充実することとされました

 

(2)「株式報酬等取扱い」の公表

 

① 公表の経緯

改正会社法において、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととされました。

これを受けて、ASBJでは、これらの会計処理及び開示を明らかにすることを目的として、2021年1月28日に「株式報酬等取扱い」を公表しました。

 

② 適用開始日

「株式報酬等取扱い」は、2021年3月1日施行であり、「株式報酬等取扱い」はその日以後に生じた取引から適用されます。

 

上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する制度を用いる場合には株主総会の決議が必要となるため、2021年3月期決算に直接影響を与えることは限定的であると考えられます。

 

なお、2021年3月期定時株主総会で導入される会社もあると考えられますが、この場合は、2021年3月期決算においても、重要な後発事象の注記などに記載することも考えられます。

 

4.株式交付制度の新設

 

(1)株式交付制度の概要

 

① 新設の趣旨

完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度として、株式交付制度が新設されました。

 

② 現行制度の問題点

現行法上、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度がありますが、完全子会社とする場合でなければ利用することができない点、また、自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資という構成をとる場合には、手続が複雑でコストが掛かるという点が指摘されていました。

当該制度はこれらの指摘に対応するために新設されたものです。

 

③ 当該制度のイメージ

 

 

(出所:法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」(3/3)より一部抜粋 )

 

(2)会計処理の概要

 

① 会計基準

株式交付制度が新設されましたが、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」等の改正はされておらず、当該制度に関する会計処理は、現行の会計基準に従って整理していくことになると考えられます。

 

② 会計処理の考え方

株式交付は、株式交換と同じ組織法上の行為として位置付けられており、現物出資ではなく、株式交換に準じて処理されるものと考えられます。

 

したがって、株式交付が取得とされる場合、株式交付親会社が取得する株式交付子会社株式の取得の対価は、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」38項に基づいて、時価により算定することが考えられます。

 

③ 株式交付制度と株式の取得

株式交付制度は子会社化を目的とするものであり、基本的に取得に該当するものと考えられます。

 

ただし、株式交付制度では、その範囲を客観的かつ形式的な基準により判断するために、子会社化の要件として、議決権の50%超を保有することにより子会社化する場合に限られています。

 

議決権の40%以上を保有しており、会社法施行規則第3条3項2号イからホまでのいずれかの要件に該当することとして既に子会社としているケースで、株式交付制度を用いて50%超を保有することとなる場合には、共通支配下の取引に該当することになります。

 

④ 株式交付親会社の株主資本変動額

株式交換と同様に、株式交付制度においても、支配取得の場合、共通支配下関係にある場合及びそれ以外の場合(逆取得や共同支配企業の形成等が該当)といった企業結合の類型に応じて、株主資本変動額を算定することになります。

 

具体的には、株式交付に際し、株式交付親会社において変動する株主資本等の総額は、それぞれ下表の方法に従い定まる額となります。

 

また、その内訳である株式交付親会社の資本金及び資本剰余金の増加額についても規定されています。

 

A)支配取得の場合:吸収型再編対価時価又は株式交付子会社の株式及び新株予約権等の時価を基礎として算定する方法

 

B)共通支配下関係にある場合:株式交付子会社の財産の株式交付の直前の帳簿価額を基礎として算定する方法

 

C)左記以外の場合:株式交付子会社の財産の株式交付の直前の帳簿価額を基礎として算定する方法

 

5.事業報告に関する規定の改正

 

株式会社の事業報告について下記の項目などの見直しをするとともに、所要の規定の整備が行われました。なお、公開会社が対象で、2021年3月期から適用になります。

 

(1)株式会社の現況に関する事項

 

親会社との間に当該株式会社の重要な財務及び事業の方針に関する契約等が存在するときは、その内容の概要に関する記載事項の追加

 

(2)株式会社の会社役員に関する事項

 

取締役、会計参与、監査役又は執行役の報酬等に関する記載事項の拡充

 

(3)株式会社の役員等賠償責任保険契約に関する事項

 

役員等賠償責任保険契約に関する事項や取締役、会計参与、監査役又は会計監査人と締結している補償契約に関する記載事項の追加

 

なお、役員等賠償責任保険契約及び補償契約に係る記載事項については、附則の中で、施行日以後に締結されたこれらの契約に係る事項に限るとされています。

 

(4)株式会社の株式に関する事項

 

報酬等として付与された株式や新株予約権等に関する記載事項の追加

 

(5)社外役員等に関する特則

 

社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要の記載

 

6.改正会社法に伴う金融庁関係政府令等の改正~2021年3月期の有価証券報告書の記載の変更

 

(1)改正会社法に伴う金融庁関係政府令等の改正

 

① 改正会社法の施行等に伴い、2021年2月3日に「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部の施行に伴う金融庁関係政令の整備等に関する政令」(以下「改正金融庁関係政府令等」という。)が公布されており、一部を除き、改正会社法の施行の日(2021年3月1日)から施行、適用されています。

 

② 開示府令においては、株式交付制度に係る所要の規定の整備がされたほか、改正会社法において補償契約及び役員等賠償責任保険契約に関する規定が新設されたことを踏まえ、「コーポレート・ガバナンスの概要」の開示項目の拡充がされています。

 

③ また、改正会社法において取締役の個人別の報酬等に係る決定方針の規定が新設されたことを受け、「役員の報酬等」においても、開示拡充のための改正がされています。

 

(2)改正金融庁関係政府令等の主な内容

 

改正金融庁関係政府令等のうち、財務諸表規則、連結財務委諸表規則等の財務諸表規則等及び開示府令に関する改正の主な内容は以下のとおりです。

なお、これらは改正会社法の施行の日(2021年3月1日)から施行、適用されるため、2021年3月期の有価証券報告書から適用されることになります。

また、投資者の理解が容易になる観点から、記載内容が同様である又は重複する箇所があれば、適宜、当該他方を参照、引用するなどして記載することになると考えられます。

 

①財務諸表規則等

財務諸表規則等の改正内容と改正会社法との関連は以下のようになっています。

 

ア) 取締役等の報酬等として株式を無償交付する規定の新設関連

株式引受権の表示に関する規定の新設(純資産の部に「株式引受権」が新設)(連結財務諸表規則42条、43条の2の2等)

2021年3月1日施行であり、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する制度を用いる場合には株主総会の決議が必要となります。

 

イ) 株式交付制度の新設関連

株式交付制度に関する定義の新設(財務諸表規則8条36項4号等)

 

②開示府令

 

開示府令の改正内容と改正会社法との関連は以下のようになっています。

 

ア) 取締役等の報酬等として株式を無償交付する規定の新設関連

自己資本比率及び自己資本利益率の算定において、純資産額から株式引受権を控除(開示府令第二号様式(記載上の注意)(25)a(j),(k)、b(m),(n))

2021年3月1日施行であり、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する制度を用いる場合には株主総会の決議が必要となります。

 

イ) 補償契約及び役員等賠償責任保険契約に関する規定の新設関連

「コーポレート・ガバナンスの概要」において、補償契約及び役員等賠償責任保険契約を締結した場合には、締結した契約の内容(開示府令第二号様式(記載上の注意)(54)a、b)

補償契約及び役員等賠償責任保険契約に係る記載事項については、附則の中で、施行日以後に締結されたこれらの契約に係る事項に限るとされています。

 

ウ) 取締役の個人別の報酬等についての決定方針に関する規定の新設関連

  • 「役員等の報酬」において、取締役の個人別の報酬等についての決定方針に関する記載の拡充(開示府令第二号様式(記載上の注意)(57)a)
  • 報酬等の種類別の開示に、非金銭報酬等を追加(開示府令第二号様式(記載上の注意)(57)b)
  • 取締役会から一任された取締役による、取締役の個人別の報酬等の内容を決定した場合の委任権限の内容等(開示府令第二号様式(記載上の注意)(57)c)

 

 

 

会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の概要について

2009年12月4日に「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号、以下、遡及会計基準)と同適用指針(企業会計基準適用指針第24号、以下、適用指針)が公表され、2011年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています。

 

また、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱いを明らかにした改正遡及会計基準が2020年3月31日に公表されました。

 

1.遡及会計基準の概要

 

(1)会計方針の変更と表示方法の変更

 

原則として遡及処理します。

 

(2)過去の誤謬の訂正

 

遡及会計基準上は原則として遡及処理することとされています。

金融商品取引法上は訂正報告書の制度が存在するため、遡及処理に係る規定は通常は適用されないと考えられます。

 

(3)会計上の見積りの変更(例えば有形固定資産の耐用年数の変更など)

 

遡及処理せず、その影響は将来に向けて認識します。

 

(4)減価償却方法の変更

 

会計上の見積りの変更と同様に、遡及修正は行いません。

 

(5)すでに公表されているものの、まだ適用されていない新しい会計基準等がある場合

 

「未適用の会計基準等に関する注記」が求められます。

 

(6)個別財務諸表における適用

 

特段の取扱いは設けず、連結財務諸表と同様の取扱いとなりますが、注記については一部簡略化が図られています。

 

(7)「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱い

 

重要な会計方針としての注記が必要となります。

 

2.会計方針の変更

 

(1)会計上の原則的な取扱い

 

① 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合

 

会計基準等の改正には、既存の会計基準等の改正又は廃止のほか、新たな会計基準等の設定が含まれます。また、会計基準等を早期適用する場合も含まれます。

 

ア)会計基準等に特定の経過的な取扱いが定められていない場合には、新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用します。

遡及適用する期間は、必要な場合には、会社設立時までさかのぼることになるものと考えます。

 

イ)経過措置が定められている場合には、その定めに従います。

 

② 上記以外の正当な理由による会計方針の変更の場合(自発的な会計方針の変更)

 

新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用します。

 

③ 遡及適用の場合の表示上の取扱い

 

遡及適用する場合には、遡及適用の影響額を、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映するとともに、各期間の財務諸表には、各期間の影響額を反映させます。

 

ア)有価証券報告書では、遡及処理後の前期財務諸表と当期財務諸表を開示することになります。

 

イ)会社法計算書類では遡及処理後の当期財務諸表のみ開示されるため、遡及適用の影響額は、当期の株主資本等変動計算書の期首残高に反映させます。

 

3.過去の誤謬の訂正

 

(1)会計上の取扱い

 

遡及会計基準においては「修正再表示」を行うこととし、遡及処理することとされています。

 

(2)例外

 

なお、過去の誤謬については、修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いは、遡及会計基準上は明示されていませんが、まれに実務において誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じる可能性を否定するものではないとされています。

また、過去の誤謬に関して、重要性の判断に基づいて、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識するものと考えられます。

 

4.会計上の見積りの変更

 

会計上の見積りの変更に関しては、その影響を当期以降の財務諸表において認識することとされています。

 

会計上の見積りの変更が行われた場合、以下の会計処理を行います。

 

① 当該変更が変更期間のみに影響する場合 ⇒ 当該変更期間に会計処理

 

② 当該変更が将来の期間にも影響する場合 ⇒ 将来にわたり会計処理

 

5.「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱い

 

2018年11月に、FASFに設置されている基準諮問会議より、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に係る注記情報の充実について検討することが提言されました。

 

ASBJのディスクロージャー専門委員会から、我が国の会計基準等においては、取引その他の事象又は状況に具体的に当てはまる会計基準等が存在しない場合の開示に関する会計基準上の定めが明らかでなく、開示の実態も様々であったと考えられることから、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱いを明らかにすることが有用であるとの報告がなされました。

 

これを受けてASBJで検討が行われ、改正遡及会計基準が2020年3月31日に公表されました。

 

(1)関連する会計基準等の定めが明らかでない場合

 

① 「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」の定義

 

特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合をいうとされています。

 

例えば、関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が発生した場合で重要性がある場合が含まれるとされています。

 

② 「会計基準等」の定義

 

A)会計基準等には、対象とする会計事象等自体に関して適用される会計基準等については明らかではないものの、参考となる既存の会計基準等があり、当該会計基準で定められている会計処理の原則及び手続を採用したときも含まれるとされています。

 

B)会計基準等には、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたもの(法令等)も含まれるとされています。

 

C)法令等によらず、業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続のみが存在する場合で、当該会計処理の原則及び手続に重要性があると考えられる場合も、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当するものと考えられます。

 

(2)重要な会計方針の開示目的

 

① 重要な会計方針に関する注記の開示目的

財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにあり、当該開示目的は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同様であるとされています。

 

② 重要な会計方針の考え方

改正遡及会計基準は、重要な会計方針に関する従来の考え方を変更するものではなく、関連する会計基準等の定めが明らかな場合における取扱いに関する従来の実務の変更を意図しているものとではないとされている点には留意が必要です。

 

(3)企業会計原則注解(注1-2)の定めの引継ぎ

 

① 企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継ぎ、重要な会計方針について、採用した会計処理の原則及び手続の概要を注記することとされています。

 

② 会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することができるとされています。

 

③ 会計方針の例として、以下のようなものが例示されており、また、重要性の乏しいものについては注記を省略することができるとされています。

 

・有価証券の評価基準及び評価方法

・棚卸資産の評価基準及び評価方法

・固定資産の減価償却の方法

・繰延資産の処理方法

・外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準

・引当金の計上基準

・収益及び費用の計上基準

 

(4)適用時期及び経過措置

 

2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用することとすることとし、公表日以降終了する事業年度の年度末から早期適用できるとされています。

 

また、改正遡及会計基準を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更には該当しないものの、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記することとされています。

TCFD を活用した経営戦略立案~気候関連リスク・機会のシナリオ分析実践ポイント

環境省は、2019 年 3 月に「TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド~」を発表し、2020 年 3 月に、①シナリオ分析を進める上でポイントとなるステップごとの解説、②2019年度支援企業 12 社の事例、及び③参考となる外部データ、ツール集を追加し、実践ガイドver2.0(以下、「実践ガイド」)として改定し発表しました。

 

実践ガイドでは、第2章においてシナリオ分析のステップを説明しています。

 

1.シナリオ作成のプロセス

 

シナリオ作成のプロセスについては、

 

①ガバナンス整備、

②リスク重要度の評価、

③シナリオ群の定義、

④事業インパクト評価、

⑤対応策の定義、

⑥文書化と情報開示

 

という6ステップに分け、それぞれのステップについて ToDo を図解しています。

 

(出所)環境省「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer2.0

 

2.シナリオ分析を始めるにあたって

 

シナリオ分析を始めるにあたり、経営陣にTCFDの意義を理解してもらうことが重要です。 また、分析実施体制の構築、分析対象の設定、分析時間軸の設定が必要となります。

 

3.リスク重要度の評価

 

(1)リスク重要度の定義

 

現在及び将来に想定される、組織が直面する気候変動リスクと機会は何か?

それらは将来に重要となる可能性があるか?

組織のステークホルダーは関心を抱いているか?

 

(2)概要

 

リスク項目の列挙、起こりうる事業インパクトの定性化、リスク重要度の評価を実施します。

 

① 第一段階:リスク項目の列挙

 

対象となる事業に関するリスク・機会項目を列挙します。

 

② 第二段階:起こりうる事業インパクトの定性化

 

列挙されたリスク・機会項目について、 起こりうる事業インパクトを定性的に表現していきます。

 

③ 第三段階:リスク重要度の決定

 

リスク・機会が起こった場合の事業インパクトの大きさを軸に、重要度を決定します。

 

3.シナリオ群の定義

 

(1)シナリオ群の定義

 

いかなるシナリオ(と物語)が 組織にとって適切か?

入力変数と仮定、分析手法を検討する。

いかなるシナリオを参照すべきか?

 

(2)概要

 

シナリオの選択、パラメータ(変数)に関する将来情報の入手、世界観の整理を実施します。

 

① 第一段階:シナリオの選択

 

・2℃未満シナリオを含む、複数の温度帯のシナリオを選択していきます。

 

・どのようなシナリオを選ぶか

可能な限り温度帯や世界観が異なるシナリオを選択することが、「想定外を無くす」ことに繋がります。

各シナリオの特徴やパラメータを踏まえ、自社の業種や状況に合わせたシナリオの選択が重要です。

 

② 第二段階:関連パラメータの将来情報の入手

 

・リスク、機会項目に関するパラメータの客観的な将来情報を入手し、自社に対する影響をより具体化します。

 

・外部情報より、パラメータの客観的な将来情報を入手することが重要です。

 

③ 第三段階:ステークホルダーを意識した世界観の整理

 

・(必要であれば)将来情報を元に、将来のステークホルダーの行動など自社を取り巻く世界観を鮮明化し、社外の視点も取り入れ社内で合意形成を図ります。

 

・事業部を含む関連部署が納得感のある世界観を「対話を通じて構築」することが重要となります。

 

・ナラティブな文章やポンチ絵による視覚化によってディスカッションを行いやすい環境をつくり、関連部署に気候変動を自分事と感じてもらい、シナリオの意味、世界観を共有していくことが重要です。

 

4.事業インパクト評価

 

(1)事業インパクト評価の定義

 

それぞれのシナリオが組織の戦略的・財務的ポジションに対して与えうる影響を評価します。

 

(2)概要

 

P/LやB/Sへのインパクトの整理、試算、成行の財務指標とのギャップの把握を実施します。

 

① 第一段階:リスク・機会が影響を及ぼす財務指標を把握

 

・気候変動がもたらす事業インパクトが自社のP/LやB/Sのうち、どの財務指標に影響を及ぼすかを整理します。

 

・どのような内部データが試算に使用可能か

「事業別/製品別売上情報」「操業コスト」「原価構成」「GHG排出量情報」等、事業部等が通常使用しているデータを用いることで、より企業の実態と近い試算が可能となります。

 

② 第二段階:算定式の検討と財務的影響の試算

 

・試算可能な財務指標に関して算定式を検討し、内部情報を踏まえて財務的影響を試算します。

 

・定量的に試算できないものはどう取り扱うか

 

・定性的もしくは科学的根拠が乏しい情報に関しては、継続的なモニタリングや外部有識者へのヒアリング等を実施します。検討済み/未検討リスクを整理し次のアクションを明確化することが重要です。

 

③ 第三段階:成行の財務指標とのギャップを把握

 

・試算結果を基に、将来の事業展望にどの程度のインパクトをもたらすかを把握します。

 

・成行の事業展望(将来の経営目標・計画)に気候変動がどの程度の影響をもたすかを把握します。

 

・事業インパクトが大きいリスク、機会は何か、気候変動により将来の経営標の事業展望はどの程度脅かされるか等が把握可能となります。

 

5.対応策の定義

 

(1)対応策の定義

 

① 特定されたリスクと機会を扱うために、適用可能で現実的な選択肢を特定します

 

② 「STEP5対応策の定義 本実践ガイドの対象」

 

対応策がビジネスモデルの変革等に至るには、「経営との統合(中期経営計画への気候変動の組込)」が重要であり、本ガイドでは、統合への流れを記載しています。

 

(2)概要

 

自社の対応状況の把握、対応策の検討、具体的アクション・社内体制の構築を実施します。

 

① 第一段階:自社のリスク•機会に関する対応状況の把握

 

・事業インパクトの大きいリスク・機会について、自社の対応状況を把握します。

 

・必要であれば競合他社の対応状況も確認します。

 

② 第二段階:リスク対応・機会獲得のための今後の対応策の検討

 

・事業インパクトの大きいリスク、機会について、具体的な対応策を検討します。

 

・どのような状況下でも、レジリエント(強靭)な対応策を検討しておくことが重要となります。

 

③ 第三段階:社内体制の構築と具体的アクション、シナリオ分析の進め方の検討

 

・対応策を推進するために必要となる社内体制を構築し、関係部署とともに具体的アクションに着手します。

 

・またシナリオ分析の今後の進め方を検討します。

 

・社内体制の構築と関連部署の巻き込み、シナリオ分析の進め方を検討します。

 

・並行して中期経営計画等への気候変動の組込を進めます。

 

6.シナリオ分析結果を経営にどのように活かしていくか

 

気候変動を経営戦略検討のプロセスに入れ込むことが重要です。

まずは直近の中期経営計画へ気候変動を組み入れることも一案です。

 

TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer2.0~より抜粋

 

7.シナリオ分析後の社内体制はどのようなものがあるか

 

シナリオ分析結果の実効性を持たせるべく、経営企画の直下に気候変動等に関する横断的な組織を作ることも考えられます。

TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer2.0~より抜粋

 

8.どのようなステップで今後進めればよいのか

 

気候変動と経営との統合・企業価値向上がゴールとなります。

シナリオ分析を契機に、開示・体制の再構築(経営戦略との統合)のサイクルを継続的に実施していきます。

TCFD を活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer2.0~より抜粋