「ESG情報開示実践ハンドブック」について | 社外財務部長 原 一浩
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「ESG情報開示実践ハンドブック」について

「ESG情報開示実践ハンドブック」について

日本取引所グループは、2020年3月31日に、「ESG情報開示実践ハンドブック」(以下、本ガイドブック)を公表しました。

 

1.本ガイドブック作成の背景

 

中長期的な視点で企業価値を評価する際に、ESG(環境、社会、ガバナンス)要素を含む事業活動の持続可能性(サステナビリティ)を考慮することが重要であるとの認識尾が幅広い投資家の間で広まってきています。

 

ESG情報の開示に関するスタンダード・基準、フレームワーク、ガイダンス(以下、総称して、枠組み)が政府や国際機関等から提供されています。

 

日本取引所グループ(以下、JPX)は、上場会社の自主的なESG情報開示に関する取り組みを支援し、上場会社と投資家との対話を促進するための取組を進めています。

 

2.本ハンドブック作成の趣旨

 

JPXは、従前より、コーポレートガバナンス・コードの策定やサステナブル・ストックエクスチェンジ(SSE)イニシアティブ作成の「ESG情報の報告に関する企業向けガイドライン」の翻訳などを行ってきました。

 

JPXは、ESG情報の開示を検討する上場会社が、第一歩を踏み出すために役立つ参考情報を提供することを目的として、本ハンドブックを作成しました。

 

3.本ハンドブックの特徴

 

(1)上場会社がESG課題に取り組み情報開示を行うための検討ポイントを紹介

 

一律の細かい開示項目を示すのではなく、上場会社が自社の状況に合わせて必要な部分を参照できるように、関係する考え方や手順を「4つのステップ」にまとめています。

 

(2)投資判断に有用な情報の開示を促す観点から、「投資家の視点」(マテリアリティ(重要課題)の特定と企業戦略との結びつき等)を盛り込んでいます。

 

(3)上場会社がESG情報開示を実践するにあたり参考となる「既存の情報開示の枠組み」(SSEイニシアティブのガイダンス、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言、SASB(サステナビリティ会計基準審議会)スタンダード、価値協創ガイダンス等)や、それを使った開示例を紹介しています。

 

4.4つのステップとその趣旨

 

4つのステップの作成にあたっては、以下の考え方の下で、ESG開示に至るまでのプロセスを4つのステップとして整理しています。

 

① 中長期的な企業価値向上の観点

② 投資家が必要とするESG情報開示を効果的に行う

③ 開示に至るまでに、ESG課題と企業価値を結び付けるためのプロセスを経ているかが重要

 

こうしたステップは、絶対的な方法というわけではありませんが、上場会社が自社の状況を踏まえて可能なところから着手し、ESG情報開示を始めることで投資家との対話が始まり、さらなる取り組みを進めていく際に、本ハンドブックが手掛かりになることを期待して作成しています。

 

(1)ステップ1:ESG課題とESG投資

 

ESG課題とESG投資の現状を理解します。

 

(2)ステップ2:企業の戦略とESG課題の関係

 

自社の戦略との関係で重要なESG課題(マテリアリティ)を特定します。

 

(3)ステップ3:監督と執行

 

ESGに関する取り組みを着実に進めていくために、監督と執行に関する社内体制を構築し、

指標・目標値を設定します。

 

(4)ステップ4:情報開示とエンゲージメント

 

ESG課題と企業価値の結びつきを踏まえて、ESG情報を投資判断に有用な形で開示します。

投資家等のステークホルダーとの対話を積極的に行うことで、中長期的な企業価値向上を目指します。

 

5.ESG課題

 

ESG課題とは一般的に、環境、社会、ガバナンスに関する幅広い課題を意味します。

ESG課題に明確な定義はありませんが、「責任投資原則」では、以下の項目を一例として挙げています。

 

(1)環境

 

気候変動、資源枯渇、廃棄、汚染、森林破壊

 

(2)社会

 

人権、強制労働・児童労働、労働条件、雇用関係

 

(3)ガバナンス

 

贈収賄・汚職、役員報酬、役員構成・多様性、ロビー活動・政治献金、税務戦略

 

6.企業戦略への影響

 

ESG課題は、リスクまたは機会として、企業のビジネスモデルや戦略に影響を及ぼすと考えられています。

そのため、自社の戦略に影響を与える可能性があるESG課題を検討する際には、リスクと機会の観点から自社への影響を分析することが第一歩になります。

 

企業の戦略は、規模・セクター・地域等によって異なるため、ESG課題の戦略への影響を考える際に考慮すべき点も企業により異なりますが、開示例を基にしますと以下のポイントが挙げられます。

 

・企業の価値観

・ビジネスモデル

・事業・資産ポートフォリオ

・オペレーション・サプライチェーン

・研究開発

・製品・サービス

・市場・顧客

 

7.ESG情報におけるマテリアリティ

 

ESGに関する情報開示のマテリアリティは、既存の枠組みでもそれぞれのポリシーに基づいて異なった定義や考え方が述べられています。

マテリアリティの定義の違いを踏まえて、自社の情報開示の目的や対象に合った考え方を採用する必要があります。

自社の企業価値と関係が深いマテリアリティを特定し、それに焦点を当てて取り組みを進めることが重要となります。

 

8.ESG課題の重要度の評価

 

ESG課題の重要度の評価や課題の絞り込みに関して一定の方法があるわけではありませんが、企業の開示例からいくつかのポイントを見ることができます。

 

・評価軸の設定

・評価方法の検討

・時間軸

・重要度の決定

 

9.指標と目標値の設定

 

(1)指標の設定

 

将来ありたい姿への道筋を明確にし、取り組みの進捗を管理するためには、課題に応じた指標の設定を行うことになります。

 

(2)目標値の設定方法

 

自社の長期ビジョン・目標を実現するためには、中期・短期で何を目指し、実現させるのかの視点が重要となります。

 

具体的な目標値設定方法としては、2つの方法があります。

 

① 実現可能性の観点から、過去の実績を積み上げて将来の予測値を算出し、目標値とする方法

 

② 環境や社会課題に関する国内外の目標値等を参考にして、自社の目標値を定める方法(バックキャスティング)

 

(3)PDCAの実施

 

PDCAにおいては、取り組みの進捗状況や、設定した指標・目標値の達成度を評価し、課題がある場合には、取り組みの改善、指標・目標値の見直しを行っていくことになります。

 

マテリアリティの場合は、進捗の評価にあたって外部環境等の変化を踏まえて、併せて、マテリアリティの項目・内容や重要性評価の見直しなどのマテリアリティの再検討が行われることも多くなっています。

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