経済産業省では、2019年11月に「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」(以下「本検討会」という。)を設置し、2020年8月28日に中間とりまとめを公表しました。
1.本検討会の目的
「伊藤レポート」公表以降の5年間の一連の取組の成果を振り返り、対話を巡る現状を概観した上で、企業や投資家が様々な環境変化に直面する中で対話を通じて価値を協創していくに当たっての課題や対応策を検討しています。
(1) 企業側が価値創造に取り組む際に具体的に投資家とどのような対話を行っているか、課題があるか。
(2) 投資家側が企業との中長期の価値実現のためにどのような対話を行っているか、課題があるか。
(1)、(2) について、具体的な実例を交えながら対話形式で課題を浮き彫りにしています。
さらには、アナリストや評価機関などの具体的な取組や事例も交えながら、資本市場やそれを支える環境整備についての課題についても整理を行っています。
2.「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」において抽出された課題
(1)対話の「中身」における課題
① 投資家の理解を得にくい、以下のテーマに関して、どのように対話をすべきか
・多角化経営、事業ポ-トフォリオ・マネジメント
・新規事業創出・イノベーションに向けた種植え
・社会的価値(ESG)と経済的価値(稼ぐ力・競争優位性)の両立
② 前提となる経営環境の変化
コロナ危機、第4次産業革命・DX、気候変動やグローバルサプライチェーンの寸断など「不確実性」が高まっていること
③ 解決の方向性
・対話における長期の時間軸の必要性
・サステナビリティ・トランスフォーメーシヨン(SX)の実現=企業のサステナビリティ(稼ぐ力)と社会のサステナビリティ(社会課題、将来マーケット)の同期化
(2)対話の「手法」における課題
① 日本企業が対話に関して三層化しており、大部分の企業が投資家と有効な対話の手法を模索中
・質の高い対話の実現に資する対話の手法等が共有されていない
・企業の状況に応じて、段階ごとに対話において中心的に取り組むべき事項の整理への要望
② 解決の方向性
「実質的な対話の要素」を以下の4つの観点から整理しています。
ⅰ:対話の原則
ⅱ:対話の内容
ⅲ:対話の手法
ⅳ:対話後のアクション
3.対話の「中身」における課題への対応
(1)多角化経営、事業のポートフォリオ・マネジメント
「統合的なビジネスモデル」として把握し、語ることが重要です。
① 中長期的な環境変化の不確実性が高まっており、特定の事業に経営資源を集中することのリスクが高いことを理由とするだけでは、投資家から多角化経営に対して肯定的な評価を得ることには不十分です。
② ビジネスモデルについては、自社の競争優位の源泉・参入障壁・「強み」といったいわゆる「コアコンピタンス」が重要な要素となります。
③ 多角化経営においても、「コアコンピタンス」について企業が投資家に対し、具体的かつ積極的に説明していくことが必要です。
④ 複数事業の関連性やシナジーが生じる仕組みが分かりづらい多角化経営の場合、中長期という時間軸での企業の稼ぐ力、競争優位性が持続・強化され、中長期的な企業価値向上につながるという一つのビジネスモデルであることの説明が必要となります。
「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ」より抜粋
(2)イノベーション等に向けた種植え
種植えの仕組み等について、企業と投資家が、これまで以上に踏み込んだ対話を行うことの必要性が認識されています。
種植えの見通し、生み出す企業の仕組みやガバナンス、新規事業を「塊」として語ることが必要です。
① 種植えの仕組み等について、企業から投資家に対し、具体的に、どの時点で、どの程度の経営資源を投入して種植えを行うのか、そして将来的に、どの程度の確度で、どの時点で芽を出し、どの程度の市場に成長し、どの程度のリターンがあると想定しているのかを投資家の疑問点も踏まえながら丁寧に説明することが必要です。
② 数々の失敗の中から成功が生まれるというイノベーションの特質を踏まえて、個々の取組それ自体は未実現の利益であって評価できないとしても、それらを束ねた新規事業群の「塊」として捉え、その「塊」を評価することの必要性も指摘されています。
(3)ESG/SDGsなどの社会的価値と企業の稼ぐ力•競争優位性に基づく経済的価値の両立
ESG/SDGsにおける中長期のリスクとオポチユニティの両面を把握し、具体的なアクションに反映させることが必要です。
① 現在のESG投資は、ネガティブ・スクリ—ンとして、社会のサステナビリティに対応できていない企業を投資対象から外す方向で考慮している例が多くなっています。
これだけでは、中長期的な新市場創出・獲得につながるオポチュニティを十分に捉えることができません。
② 時間軸を長期にした上で、リスクの側面のみならず新市場創出・獲得による企業の成長性の側面との両面を捉えることで社会的価値を経済的価値と同期化させ、それを経営や具体的なアクションに落とし込むことで、社会的価値を経済的価値と同期化させ、企業価値向上に繋げでいくことが重要となります。
4.問題解決の方向性~サステナビリティ・トランスフォーメーシヨン(SX)~
(1)対話の「中身」における課題
① 投資家の理解を得にくい、以下のテーマに関して、どのように対話をすべきか
ⅰ 多角化経営、事業ポートフォリオ・マネジメント
ⅱ 新規事業創出・イノベーションに向けた種植え
ⅲ 社会的価値(ESG)と経済的価値(稼ぐ力・競争優位性)の両立
② 前提となる経営環境の変化
コロナ危機、第4次産業革命・DX、気候変動やグローバルサプライチェーンの寸断など「不確実性」が高まっています。
③ 従来の経営・対話のイメージ
これまでの中期経営計画を中心とした時間軸においてリスク・成長機会を想定するだけでは、必ずしも長期の時間軸において企業価値を向上させることができなくなっています。
(2)解決の方向性:サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは
①対話における長期の時間軸の必要性
投資家の理解を得にくい3つのテーマは、いずれも、不確実性の高まりや社会のサステナビリティの要請の高まりを踏まえた、中長期的に企業価値を向上させていくための企業の取組です。
このような取組について、企業と投資家の認識のギャップを解消し、中長期的な企業価値向上に向けた質の高い対話を実現するためには、企業と投資家が、中期経営計画の想定する時間軸を超えて、意識的に5年、10年という長期の時間軸に引き延ばした上で、「企業のサステナビリティ」(企業の稼ぐ力の持続性)と「社会のサステナビリティ」(将来的な社会の姿や持続可能性)を同期化させる対話やエンゲージメントを行っていくことが必要です。
②サステナビリティ・トランスフォーメーション
こうした経営の在り方、対話の在り方を、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ぶこととしています。
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の必要性=企業のサステナビリティ(稼ぐ力)と社会のサステナビリティ(社会課題、将来マーケッ卜)の同期化
「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ」より抜粋