株式会社は、各事業年度の事業報告及びその附属明細書を作成しなければなりません。
公開会社、かつ、会計監査人設置会社を、前提として、記載事項を見てみましょう。
会社法は、まず、すべての会社に共通して記載すべき事項を規定したうえで、公開会社(株式に譲渡制限を定めていない会社)における記載事項、会計監査人設置会社における記載事項を規定しています。
1.すべての会社に共通して事業報告に記載すべき事項
(1)株式会社の状況に関する重要な事項のうち、計算書類およびその附属明細書ならびに連結計算書類の内容となる事項以外のもの
(2)業務の適正を確保するための体制の整備についての決定または決議があるときは、その決定または決議の内容の概要及び当該体制の運用状況の概要
(3)株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針を定めているときは、その基本方針の概要、取り組みの具体的な内容の概要、取締役または取締役会の判断および理由等
(4)株式会社に特定完全子会社がある場合には、その名称、帳簿価額、当該子会社の資産額等
(5)株式会社とその親会社等との間の取引であり、当該株式会社の事業年度に係る個別注記表において関連当事者注記を要する取引がある場合には、当該取引に関する事項
1-(2). 株式会社の業務の適正を確保するための体制
大会社である取締役設置会社は、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するための体制を決定しなければなりません。
その決定内容及び当該体制の運用状況の概要を事業報告に記載する必要があります。
なお、大会社以外でも当該事項について決定した会社であれば、事業報告への記載が必要となります。
取締役会設置会社において決定すべき体制の内容は、以下のとおりです。
1.取締役の職務の執行に係る情報の保存および管理に関する体制
2.損失の危険の管理に関する規程その他の体制
3.取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
4.使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制
5.当該株式会社ならびにその親会社および子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
ア | 子会社の取締役等の業務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制 |
イ | 子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制 |
ウ | 子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 |
エ | 子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制 |
1-(2)-(2)さらに、監査役設置会社である場合には、以下の体制が必要です。
1.監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
2.1. の使用人の取締役からの独立性に関する事項
3.使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
4.監査役への報告に関する体制
ア | 取締役及び会計参与並びに使用人が監査役に報告するための体制 |
イ | 子会社の取締役等または取締役等から報告を受けた者が監査役に報告するための体制 |
5.監査役に報告した者が不利な扱いを受けないことを確保するための体制
6.監査に要する費用の処理に係る方針に関する事項
7.その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
1-(3). 支配に関する基本方針
基本方針について開示すべき事項は以下のとおりです。いわゆる買収防衛策に関する開示もここに含まれます。
(1)基本方針の内容の概要
(2)基本方針の実現のための具体的取り組み
(ア)会社財産の有効な活用、適切な企業集団の形成その他の基本方針の実現に資する特別な取り組み
(イ)基本方針に照らして不適切なものによって会社の支配を獲得することを防止するための取り組み(いわゆる買収防衛策)
(3)具体的な取り組みに対する取締役等の判断およびその理由
(ア)具体的な取り組みが基本方針に沿うものであること
(イ)株主の共同利益を損なうものではないこと
(ウ)会社役員の地位の維持を目的とするものではないこと
1-(4). 特定完全子会社に関する事項
特定完全子会社とは、事業年度の末日において、当該子会社等の株式の帳簿価額が、当該株式会社の当該事業年度に係る貸借対照表の資産の部の合計額の5分の1を超え、かつ、その株式等の全部を保有する子会社等をいいます。
いわゆる多重代表訴訟において、責任追及の対象となる子会社を明確にするために、特定完全子会社がある場合には、事業報告において以下を記載します。
①特定完全子会社の名称及び住所
②株式会社及びその完全子会社等における当該特定完全子会社の株式の当該事業年度の末日における帳簿価額の合計額
③株式会社の当該事業年度に係る貸借対照表上の総資産額
1-(5). 株式会社とその親会社等との取引
当該株式会社とその親会社等との一定の利益相反取引のうち、当該事業年度に係る個別注記表において関連当事者取引注記を要するものについて、事業報告において以下を記載します。
①当該取引をするに当たり当該株式会社の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨)
②当該取引が当該株式会社の利益を害さないかどうかについての当該株式会社の取締役会の判断及びその理由
③社外取締役を置く株式会社において②の取締役会の判断が社外取締役の意見と異なる場合には、その意見
2.公開会社における事業報告の記載事項
公開会社の事業報告には、(1)株式会社の現況に関する事項、(2)会社役員に関する事項、(3)株式に関する事項、(4)新株予約権等に関する事項を記載しなければなりません。
(1) 株式会社の現況に関する事項
①当該事業年度の末日における主要な事業内容
②当該事業年度の末日における主要な営業所、工場並びに使用人の状況
③当該事業年度の末日における主要な借入先、借入額
④当該事業年度の事業の経過及び成果
⑤当該事業年度の末日における重要な資金調達、設備投資の状況、及び合併、会社分割、事業譲渡等の状況
⑥直前3事業年度の財産及び損益の状況
⑦重要な親会社及び子会社の状況
⑧対処すべき課題
⑨その他会社の現況に関する重要な事項
※連結計算書類を作成している会社は、これらの事項を、当該会社及び子会社からなる企業集団ベースで記載することができます。
(2) 会社役員に関する事項
①役員の氏名、地位及び担当、重要な兼職の状況
②役員と責任限定契約を締結しているときは、当該契約の内容の概要
③役員の報酬等に関する事項
④辞任した又は解任された役員に関する事項
⑤監査役等の財務及び会計に関する知見の記載
⑥常勤の監査等委員、監査委員の選定の有無及びその理由
⑦その他役員に関する重要な事項
(2)-(2)社外役員がいる場合には、次の事項を記載する必要があります。
・重要な兼職
・社外役員の主な活動状況
・社外役員の報酬等
・社外取締役を置いていない場合、置くことが相当でない理由
(3) 株式に関する事項
①保有株式数上位10名の株主
②その他株式に関する重要な事項
(4) 新株予約権等に関する事項
①役員が有する職務執行の対価として交付された新株予約権等の概要
②事業年度中に使用人等に対して職務執行の対価として交付された新株予約権等の概要
③その他新株予約権等に関する重要な事項
3. 会計監査人設置会社が記載すべき事項
会計監査人設置会社の事業報告には、以下の事項を記載なければなりません。
①会計監査人の氏名または名称
②会計監査人の報酬等の額及び報酬等について監査役等の同意理由
③非監査業務の対価を支払っている場合には、非監査業務の内容
④会計監査人の解任又は不再任の決定の方針
⑤会計監査人が現に業務の停止の処分を受け、その停止期間を経過しない者であるときは、当該処分に係る事項
⑥会計監査人が過去2年間に業務の停止の処分を受けた者である場合における当該処分に係る事項のうち、当該株式会社が事業報告の内容とすることが適切であると判断した事項
⑦会計監査人と責任限定契約を締結している場合は、その概要
⑧会社が有価証券報告書提出の大会社である場合には、当該株式会社および子会社が支払う金銭その他財産上の利益の合計額、及び当該株式会社の会計監査人以外の公認会計士または監査法人が子会社の計算関係書類の監査を実施しているときは、その事実
⑨会計監査人が辞任又は解任された場合には、当該会計監査人の氏名又は名称、解任の理由、会計監査人の意見等
⑩剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがあるときは、取締役会に与えられた権限の行使に関する方針
4. 事業報告の附属明細書
事業報告の附属明細書には、事業報告の内容を補足する重要な事項を記載するものとされています。
公開会社においては、役員の他の会社の業務執行取締役など重要な兼職の状況を記載します。
なお、会計監査人設置会社以外の公開会社において、親会社等との一定の関連当事者取引について個別注記表での注記を省略する場合、事業報告の附属明細書において、一定事項の記載を行うことになります。
5.事業報告等の監査
監査役が事業報告及びその附属明細書を受け取った場合には、以下の事項を内容とする監査報告を作成しなければなりません。
・監査役の監査の方法及び内容
・法令定款に従い会社の状況を正しく示しているか
・取締役の職務遂行に関し、不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実
・監査のために必要な調査ができなかったとき
・会社の業務の適正を確保するための体制が相当でないとき
・その他
監査役会は、監査役が作成した監査報告をもとに監査役会監査報告を作成しなければなりません。
内容は、上記監査役監査報告と同じになります。
監査役は、監査役会報告と当該監査役の監査役報告の内容が異なる場合には、監査役会監査報告に、当該監査役報告の内容を付記することができます。