子会社における不祥事は、不祥事事例の中でも比較的多いのではないでしょうか。後述のように、親会社は企業集団の内部統制システムについて整備する必要がありますので、親会社監査役として留意しておくべき法律と実務について考えてみましょう。
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業務の適正性とは
会社法では「企業集団」という言葉が使われ、「当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」と規定されています。
「業務の適正を確保するため」とは、いわゆるリスク管理を意味する内部統制システムの整備を表すことから、会社法は、企業集団としてリスク管理を要請しています。
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企業集団における内部統制システムの整備
企業集団の内部統制システムに関しては、平成27年改正会社法施行規則によって内容が定められました。
親会社として企業集団の内部統制システムを整備することが明示的に示されました。親会社は、子会社の業種・業容・業態等を勘案しながら、実効的な体制整備を行う必要があります。
企業集団の内部統制システムの整備すべき内容として、以下の3点が示されました。
①子会社取締役・執行役・使用人(以下、取締役等)から親会社への報告体制
②子会社の損失危険管理体制
③子会社の取締役等の職務執行の効率確保体制④子会社の取締役等の法令・定款遵守体制
この中で、①の子会社取締役等からの親会社への報告体制については、親会社自身も子会社からの報告を受け入れる体制整備が必要となります。
執行部門から独立している親会社監査役に報告されれば、監査役として担当取締役に報告したり、執行部門に第三者委員会の設置・調査を要請したりすることも可能になります。
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親会社監査役と子会社との関係
親会社監査役は、子会社取締役等に対して業務報告請求権や調査権があります。
親会社監査役による子会社業務報告請求権・調査権は、あくまで親会社の取締役の職務執行を監査するという監査役としての職責を果たす一環であり、親会社監査役が子会社の不祥事を直接監査する役割が法的に求められているわけではありません。
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親会社監査役の役割
企業集団の内部統制システムを整備するのは親会社取締役が率いる執行部門の役割ですので、親会社の監査役は、業務監査を通じて、取締役がその役割を適切に果たしているか否かについて確認し、必要に応じて指摘することが職責となります。
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親会社監査役の監査における留意点
企業集団の内部統制システムに関する親会社監査役の留意点として、以下の4点があげられます。
(1) 親会社への報告体制
親会社への報告体制については、複数ルートが整備されていることを確認します。親子会社間の属人的な関係に依存せずに、何らかの問題が生じたときに、親会社に適宜・適切に報告が行われる体制に基づいていることが重要です。
突発的な事件・事故が発生した際に、子会社から親会社への緊急連絡体制が整備されているかについても確認する必要があります。
企業集団としての内部通報制度が整備されている場合には、内部通報制度の親会社窓口部門の業務監査の際に、子会社から通報があった件数や内容についても確認する必要があります。
子会社から内部通報制度を利用した情報が親会社に寄せられた場合にも、年度でまとめて報告が行われるということではなく、毎月または四半期に一度は監査役にその情報が伝達される体制になっているかを確認します。
(2) 子会社の損失危険管理体制
子会社の損失危険管理体制とは、子会社における損失リスクに対する予防としての平時と、リスクが発生した場合の有事の際に必要な体制整備が行われていることです。
この体制を構築するためには、親会社の子会社管掌部門は、子会社のリスクが何かを把握していなければなりません。
リスクについては、単にその内容のみならずリスクの大きさの程度の認識が重要となります。
執行部門が子会社のリスクを子会社と共有し、そのための注意喚起を定期的に行っていること、内部監査部門が必要に応じて子会社モニタリングを実施し、その監査結果が活用されていることの確認が親会社監査役として業務監査を行う上でのポイントとなります。
(3) 子会社の取締役等の職務執行の効率確保体制
子会社の取締役等の職務執行の効率確保体制とは、経営戦略の策定・経営資源の配分・経営管理体制が適切ではない場合に、過度の非効率が生じ、企業集団として著しい損害が生じるリスクを回避する体制のことです。
親会社監査役の業務監査としては、親会社管理部門が、子会社との間で共通の経営戦略や経営資源の配分等の意見交換をする場を持ち、かつ定期的に検証した上で評価・改善する体制となっているかを確認することになります。
(4) 子会社の取締役等の法令・定款遵守体制
子会社取締役等の法令・定款遵守体制とは、子会社役職員への教育・研修です。
親会社監査役は、子会社の教育体制を企画・立案する人事教育担当部門の業務監査の際に、その企画内容のみならず実施状況についても確認することになります。