2009年12月4日に「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号、以下、遡及会計基準)と同適用指針(企業会計基準適用指針第24号、以下、適用指針)が公表され、2011年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています。
また、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱いを明らかにした改正遡及会計基準が2020年3月31日に公表されました。
1.遡及会計基準の概要
(1)会計方針の変更と表示方法の変更
原則として遡及処理します。
(2)過去の誤謬の訂正
遡及会計基準上は原則として遡及処理することとされています。
金融商品取引法上は訂正報告書の制度が存在するため、遡及処理に係る規定は通常は適用されないと考えられます。
(3)会計上の見積りの変更(例えば有形固定資産の耐用年数の変更など)
遡及処理せず、その影響は将来に向けて認識します。
(4)減価償却方法の変更
会計上の見積りの変更と同様に、遡及修正は行いません。
(5)すでに公表されているものの、まだ適用されていない新しい会計基準等がある場合
「未適用の会計基準等に関する注記」が求められます。
(6)個別財務諸表における適用
特段の取扱いは設けず、連結財務諸表と同様の取扱いとなりますが、注記については一部簡略化が図られています。
(7)「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱い
重要な会計方針としての注記が必要となります。
2.会計方針の変更
(1)会計上の原則的な取扱い
① 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合
会計基準等の改正には、既存の会計基準等の改正又は廃止のほか、新たな会計基準等の設定が含まれます。また、会計基準等を早期適用する場合も含まれます。
ア)会計基準等に特定の経過的な取扱いが定められていない場合には、新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用します。
遡及適用する期間は、必要な場合には、会社設立時までさかのぼることになるものと考えます。
イ)経過措置が定められている場合には、その定めに従います。
② 上記以外の正当な理由による会計方針の変更の場合(自発的な会計方針の変更)
新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用します。
③ 遡及適用の場合の表示上の取扱い
遡及適用する場合には、遡及適用の影響額を、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映するとともに、各期間の財務諸表には、各期間の影響額を反映させます。
ア)有価証券報告書では、遡及処理後の前期財務諸表と当期財務諸表を開示することになります。
イ)会社法計算書類では遡及処理後の当期財務諸表のみ開示されるため、遡及適用の影響額は、当期の株主資本等変動計算書の期首残高に反映させます。
3.過去の誤謬の訂正
(1)会計上の取扱い
遡及会計基準においては「修正再表示」を行うこととし、遡及処理することとされています。
(2)例外
なお、過去の誤謬については、修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いは、遡及会計基準上は明示されていませんが、まれに実務において誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じる可能性を否定するものではないとされています。
また、過去の誤謬に関して、重要性の判断に基づいて、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識するものと考えられます。
4.会計上の見積りの変更
会計上の見積りの変更に関しては、その影響を当期以降の財務諸表において認識することとされています。
会計上の見積りの変更が行われた場合、以下の会計処理を行います。
① 当該変更が変更期間のみに影響する場合 ⇒ 当該変更期間に会計処理
② 当該変更が将来の期間にも影響する場合 ⇒ 将来にわたり会計処理
5.「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱い
2018年11月に、FASFに設置されている基準諮問会議より、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に係る注記情報の充実について検討することが提言されました。
ASBJのディスクロージャー専門委員会から、我が国の会計基準等においては、取引その他の事象又は状況に具体的に当てはまる会計基準等が存在しない場合の開示に関する会計基準上の定めが明らかでなく、開示の実態も様々であったと考えられることから、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱いを明らかにすることが有用であるとの報告がなされました。
これを受けてASBJで検討が行われ、改正遡及会計基準が2020年3月31日に公表されました。
(1)関連する会計基準等の定めが明らかでない場合
① 「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」の定義
特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合をいうとされています。
例えば、関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が発生した場合で重要性がある場合が含まれるとされています。
② 「会計基準等」の定義
A)会計基準等には、対象とする会計事象等自体に関して適用される会計基準等については明らかではないものの、参考となる既存の会計基準等があり、当該会計基準で定められている会計処理の原則及び手続を採用したときも含まれるとされています。
B)会計基準等には、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたもの(法令等)も含まれるとされています。
C)法令等によらず、業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続のみが存在する場合で、当該会計処理の原則及び手続に重要性があると考えられる場合も、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当するものと考えられます。
(2)重要な会計方針の開示目的
① 重要な会計方針に関する注記の開示目的
財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにあり、当該開示目的は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同様であるとされています。
② 重要な会計方針の考え方
改正遡及会計基準は、重要な会計方針に関する従来の考え方を変更するものではなく、関連する会計基準等の定めが明らかな場合における取扱いに関する従来の実務の変更を意図しているものとではないとされている点には留意が必要です。
(3)企業会計原則注解(注1-2)の定めの引継ぎ
① 企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継ぎ、重要な会計方針について、採用した会計処理の原則及び手続の概要を注記することとされています。
② 会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することができるとされています。
③ 会計方針の例として、以下のようなものが例示されており、また、重要性の乏しいものについては注記を省略することができるとされています。
・有価証券の評価基準及び評価方法
・棚卸資産の評価基準及び評価方法
・固定資産の減価償却の方法
・繰延資産の処理方法
・外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準
・引当金の計上基準
・収益及び費用の計上基準
(4)適用時期及び経過措置
2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用することとすることとし、公表日以降終了する事業年度の年度末から早期適用できるとされています。
また、改正遡及会計基準を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更には該当しないものの、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記することとされています。