2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。
その中から「内部統制とリスク管理の評価の視点」を見てみましょう。
1.会社のガバナンス体制の全体像の把握
(1)コーポレートガバナンスと内部統制及びリスクマネジメントとの関係の整理
社外監査役等が会社の内部統制やリスクマネジメントを評価する際に、まず、「コーポレートガバナンス」とガバナンスを支える重要な機能である「内部統制及びリスクマネジメント」との関係をどのように考えるかを整理する必要があります。
(2)内部統制の総合的フレームワーク(2013)で示された COSO の考え方
COSO は、ガバナンス、リスクマネジメント、内部統制を一つのつながりとして捉え、最上部にガバナンス、次にリスクマネジメント、そしてその基盤として内部統制を位置付けています。
(3)3つのディフェンスライン
COSO の考え方と整合するフレームワークである「3つのディフェンスライン」も社外監査役等の実務指針として有用です。
「3つのディフェンスライン」は、
第1 現業部門の管理
第2 間接部門による管理
第3 内部監査
の3つのディフェンスラインの組合せによって経営者とガバナンス機関を支える内部統制とリスクマネジメントを構築するフレームワークです。
社外監査役等は、「3つのディフェンスライン」の各機能をモニターすることによって内部統制とリスクマネジメントを評価することができます。
2.会社法における内部統制システム
(1)会社法の規定
①会社法は、業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)について次のように規定しています。
「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(会社法第 362 条4項6号)
②さらに、会社法は、内部統制システムについての決議及び運用の概況について事業報告に記載することを規定しています。事業報告は監査役等の監査対象です。
③したがって、監査役等は、取締役・執行役の職務執行の監査の一環として、取締役執行役よる内部統制システムの整備・運用状況の監査を行い、事業報告の監査を行うことになります。
(2)金融商品取引法の内部統制との関係
①監査役等は、並行して、監査人の監査報告書に記載される「財務報告プロセスの監視責任」を果たす役割を負うことになります。
②内部統制基準の内部統制の基本的要素の「リスクの評価と対応」と会社法内部統制システムの「損失危険の管理」はリスクマネジメントに通じるものと捉えることができます。
③社外監査役等は、金融商品取引法と会社法の両方を充足する内部統制・及びリスクマネジメントが整備・運用されているかどうかを評価することが実務的と考えられます。
3. 非常勤である社外監査役等の監査手続
(1)常勤監査役と非常勤監査役
監査役会設置会社には常勤監査役選任が法定されています。
指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社においても、常勤委員選任は任意ですが、多くの会社で常勤監査委員や常勤監査等委員が選任されています。
これらの常勤役員に社内役員が就任するケースが多くなっています。
監査役等の日常的な監査業務を担うのは常勤の監査役等であり、非常勤の社外監査役等は、常勤の監査役等に相当程度依存して自身の監査業務を行うことになります。
(2)監査手続き
内部統制・リスクマネジメントについて非常勤である社外監査役等が行う監査手続には次のような項目があります。
①常勤監査役等の活動報告の聴取
②内部監査部門、リスク管理部門等の報告の聴取
③社内会議への参加・傍聴
④社外取締役、会計監査人等との意見交換会への参加
⑤内部通報についての報告の聴取
⑥内部統制・リスクマネジメント関連の報告書の閲覧
⑦事業所視察
⑧内部監査部門・会計監査人の往査への同行
⑨監査役等往査への参加(分担)
監査役等は、会社の実情に応じて上記の手続を適宜選択することとなります。
4.専門的な事項への対応
公認会計士である社外役員には、コーポレートガバナンスコードが求める財務・会計の専門家としての知識・経験が期待されます。
期待に応えるために、公認会計士である監査役等は、財務・会計に関わる制度改正などの最新動向を常にフォローしていなければなりません。
その上で監査役等の役割である会計監査人の評価、会計監査の相当性判断などの専門的な事項に率先して対応することが望まれます。