2020年7月に日本公認会計士協会社外役員会計士協議会から「公認会計士社外監査役等の手引き」が公表されました。
その中から「取締役会評価への対応」を見てみましょう。
上場会社は コーポレートガバナンス・コードにおいて取締役会の実効性評価の実施が求められており、コーポレートガバナンス報告書等において実施した結果を開示する事例が増えてきています。
1.監査役等の対応
(1)取締役会の実効性評価が行われている場合
監査役等は評価に関する分析、検討結果が取締役会において適切に報告されていること、及びコーポレートガバナンス報告書等の記載内容が適切であるか否かについて、検討を行い、必要に応じて執行側に改善を提言することが業務監査の一環として考えられます。
(2)取締役会の実効性評価を実施していない場合
その旨がコーポレートガバナンス報告書において記載されているか、実施しない理由が合理的か、実施予定が立てられているか等について執行側と協議し、提言を行い取締役会の機能向上を求めるべきと考えられます。
2.コーポレートガバナンス・コードにおける取扱い
(1)原則4-11「取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件」
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有するものが選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する知見を有している者が1名以上選任されるべきである。
取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。
(2)補充原則4-11③
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価などを参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。
3.実効性評価の実施方法に関する留意点
実施方法に関して以下の観点から確認することが考えられます。
(1)取締役等による自己評価の方法は、アンケート方式若しくはインタビュー方式又は併用方式か。
アンケート方式の場合、質問項目が同じであれば年度比較することで趨勢、傾向把握することが可能となります。
取締役会の役割が業務執行の意思決定機関か業務執行に対する監督機関かのいずれを重視しているかによって、アンケート項目、質問項目が異なってきます。
監督機関重視であれば社外取締役の割合が多くなり、決議項目数、開催頻度も相対的に少なくなることが想定され、回答に対する姿勢も異なることが考えられます。
(2)監査役も評定者になっているか。
評定者になっていない場合には、その理由に合理性があるかを検討することになりますが、一般的に監査役を評定者から外す理由は考えにくいと思われます。
(3)質問項目の修正見直しは必要ないか。重要項目は含められているか。
(4)評価結果は適切に分析され、取締役会で報告され、検討が行われているか。
(5)評価結果はどのように開示されているか。
コーポレートガバナンス報告書において、「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」の項目で取締役会全体の実効性評価を実施した旨、実施内容を記載しているか。
4.実効性評価のアンケート項目例
実効性評価に関して、標準的な質問項目は特にありませんが、「コーポレートガバナンス・コード」や「価値協創ガイダンス」における記載内容を参考にして設定している例が見受けられます。
(1)取締役会の構成
・ 取締役の多様性確保(ジェンダー、国際性など)
・ 諮問委員会が設置されている場合の構成
(2)取締役会の運用
・ 取締役会開催の頻度、日程、時間、配布資料の分量、配布のタイミング
・ 議題設定の見直しの要否
・ 取締役会における提供資料、説明内容・方法、時間配分
(3)取締役会の監督
・ 執行側との適時、適切な経営情報の共有
・ 社外役員に対する情報提供の充実、支援強化
(事前説明、経営会議等の審議内容報告など)
・重要案件の取締役会への報告のスピード
・代表取締役等への重要な業務執行の決定に関する委任範囲
・内部統制システムの実効性強化・モニタリング
(内部監査、コンプライアンス、リスク管理に関する報告を含む)
・中長期経営計画、年度計画に対する業務執行状況のモニタリング
(情報の信頼性含む。)
・事業戦略の検討に当たって情報の提供、事業目標の設定
・事業リスク等を反映した資本コストを把握し、収益力、資本効率の目標設定
・ 監視・監督機能強化のために任意の諮問委員会を設置、体制の構築
・ 報酬スキームと事業戦略との整合性、短期目標と長期目標とのバランス
・ 企業倫理を重視する姿勢、企業風土
(4)経営戦略に関する議論
・ 長期的なビジョン、事業戦略
・ 人材育成方針
・ 技術戦略に対する取組
・ 全社的な事業リスクに関する正確な情報報告、適切な対処
・ CEO サクセッションプラン
(5)投資家・株主との対話
・ 株主総会、IRなどにおけるステークホルダーとの対話の促進、十分なコミュニケーション
・ 非財務情報を含むステークホルダーにとって有用な情報の開示、提供への関与