2020年3月31日に企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、本改正会計基準)及び改正企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、本改正適用指針)等が公表されました。
1.表示
(1)損益計算書の表示
①顧客との契約から生じる収益の表示科目
次のいずれかの方法により、損益計算書に表示します。
ア) 顧客との契約から生じる収益とそれ以外の収益と区分して損益計算書に表示する方法
イ) 顧客との契約から生じる収益とそれ以外に収益を合算して損益計算書に表示したうえで、顧客との契約から生じる収益の額を注記する方法
②顧客との契約から生じる収益の適切な科目例
売上高、売上収益、営業収益など
③顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合の取扱い
顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)を損益計算書において区分して表示します。
(2)貸借対照表の表示
①契約資産及び顧客との契約から生じた債権
適切な科目をもって、次のいずれかの方法により貸借対照表に表示します。
ア)契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表について区分表示する方法
イ)上記以外の場合、契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれの残高を注記する方法
②契約資産の適切な科目例
契約資産、工事未収入金など
③顧客との契約から生じた債権の適切な科目例
売掛金、営業債権など
④契約負債
適切な科目をもって次のいずれかの方法により、貸借対照表に表示します。
ア)貸借対照表において他の負債と区分して表示する方法
イ)上記以外の場合、契約負債の残高を注記する方法
⑤契約負債の適切な科目例
契約負債、前受金など
2. 注記事項の概要
(1) 重要な会計方針
顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、次の項目を注記します。
①企業の主要な事業における主な履行義務の内容
②企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
③上記の項目以外に重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記
(2) 収益認識に関する注記
① 開示目的及び重要性の定め
ア)開示目的
顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することとしています。
イ)重要性の定め
どの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、また、どの程度詳細に記載するのかを開示目的に照らして判断します。
②注記の分類
開示目的を達成するため、収益認識に関する注記として、次の3区分に分類しています。
ア)収益の分解情報
イ)収益を理解するための基礎となる情報
ウ)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
③重要性
各注記事項のうち、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことができます。
④他の注記事項の参照
収益認識に関する注記として記載する内容について、例えばセグメント情報の注記に含めて収益の分解情報を示す等、財務諸表上の他の注記事項に含めて記載している場合には、当該他の注記事項を参照することができます。
3.注記事項の詳細
(1)収益の分解情報
当期に認識した顧客との契約から生じる収益は、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報を注記します。
【区分例】
・財またはサービスの種類(主要な生産ライン)
・地理的区分(国または地域)
・市場または顧客の種類(政府と政府以外)
・契約の種類(固定価格と実費精算契約)
・契約期間(短期契約と長期契約)
・財またはサービスの移転の時期(一時点で移転と一定期間にわたり移転)
・販売経路(消費者への直接販売と仲介業者を通じて販売)
(2)収益を理解するための基礎となる情報
収益認識の5つのステップに合わせ、以下の事項を注記します。
・契約及び履行義務に関する情報(ステップ1及びステップ2)
・取引価格の算定に関する情報(ステップ3)
・履行義務への配分額の算定に関する情報(ステップ4)
・履行義務の充足時点に関する情報(ステップ5)
・本会計基準の適用における重要な判断
(3)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、次の事項を注記します。
・契約資産および契約負債の残高等
・残存履行義務に配分した取引価格
①契約資産および契約負債の残高等
履行義務の充足とキャッシュ・フローの関係を理解できるよう、次の事項を注記します。
ア)顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債のクシュ残高及び期末残高
イ)当期に認識した収益の額のうち期首現在の契約負債残高に含まれていた額
ウ)当期中の契約資産及び契約負債の残高の重要な変動がある場合のその内容
エ)履行義務の充足の時期が通常の支払時期にどのように関連するのか並びにそれらの要因が契約資産及び契約負債の残高に与える影響の説明
②残存履行義務に配分した取引価格
既存の契約から容器以降に認識することが見込まれる収益の金額及び時期について理解できるよう、残存履行義務に関して次の事項を注記します。
ア)当期末時点で未充足の履行義務に配分した取引価格の総額
イ)上記の金額を、企業がいつ収益として認識すると見込んでいるのかについて、次にいずれかの方法により注記します。
・残存履行義務の残存期間に最も適した期間による定量的情報を使用した方法
・定性的情報を使用した方法
4. 個別財務諸表及び四半期財務諸表における取扱い
(1)個別財務諸表
連結財務諸表を作成している場合
ア) 表示及び関連する注記の定めを適用しないことができます
イ)「収益の分解情報」及び「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」について注記しないことができます
(2)四半期連結財務諸表
収益の分解情報を注記します。
5. 適用時期
(1)原則的な適用
2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用します。
(2)早期適用
①2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができます。
②2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができます。
(3)2018年会計基準等の取り扱い
引き続き、2021年3月31日以前に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができます。
ただし、2020年改正会計基準等を適用している場合を除きます。
6.経過措置
(1)2018年会計基準等を適用していない場合の経過措置
①遡及適用に係る経過措置の定め
ア)適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱います。
原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します。
イ)ただし、初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができます。
②以下に条件に適合する企業は、別途経過措置が定められています。
・IFRSまたは米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業が個別財務諸表に本会計基準を適用する場合
・IFRSを連結財務諸表に初めて適用する企業が個別財務諸表に本会計基準を適用する場合
③表示及び注記に係る経過措置の定め
ア)適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができます。
イ)適用初年度においては、本会計基準等に定める注記事項として記載した内容を適用初年度の比較情報に注記しないことができます。
(2)2018年会計基準等を適用している場合の経過措置
①遡及適用に係る経過措置の定め
将来にわたり新たな会計方針を適用することができます。
②表示及び注記に係る経過措置の定め
ア)表示方法に変更が生じる場合には、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができます。
イ)適用初年度においては、本会計基準等に定める注記事項として記載した内容を適用初年度の比較情報に注記しないことができます。