1.「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に関する改正開示府令の内容
(1)金融庁ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告における指摘
① 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(以下、MD&A)に関する開示は、経営者の視点による分析が不十分である。
② 事業セグメントの分析・開示については、コーポレートガバナンス改革の観点から求められている事業ポートフォリオの効率化、ひいては資本効率の向上の観点から重要である。
(2)改正開示府令における対応
① 有価証券報告書のMD&A
経営方針・経営戦略の記載内容等と関連付けた経営成績等の分析内容を記載する。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向の経営者の認識を含めた記載をする。
③ 上記は、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること
④ 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「第5 経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載すること。
2. 「MD&A」に関する「記述情報の開示に関する原則」の内容
(1) MD&Aに共通する事項
① 法令上記載が求められている事項
ア) 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(経営成績等)の状況の分析の開示においては、経営者の視点による当該経営成績等の状況に関する分析・検討内容を具体的に、かつ、分かりやすく記載することが求められています。
イ) その際、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者の視点による認識及び分析・検討内容(例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析) を、経営方針・経営戦略等の内容のほか、有価証券報告書に記載した他の項目の内容と関連付けて記載することが求められています。
② 考え方
ア) MD&A
経営方針・経営戦略等に従って事業を営んだ結果である当期の経営成績等の状況について、経営者の視点による振り返りを行い、経営成績等の増減要因等についての分析・検討内容を説明するものです。
イ) MD&Aの開示
投資家は、企業が策定した経営方針・経営戦略等の適切性を確認することや、経営者が認識している足許の傾向を踏まえ、将来の経営成績等の予想の確度をより高めることが可能となります。
ウ) 重要な事業再編や減損の影響や、工場等の収益性の低下が財務諸表に表れている場合
MD&Aにおいて、例えば、想定していた規模の経済が実現できなかったこと、主要な顧客との契約を維持できなかったこと、設備の老朽化により稼働率が落ちたことなど、背景にある理由を分析すべきです。
③ 望ましい開示に向けた取組み
ア) MD&Aにおいては、単に財務情報の数値の増減を説明するにとどまらず、事業全体とセグメント情報のそれぞれについて、認識している足許の傾向も含めて、経営者の評価を提供することが期待されます。
・ 当期における主な取組み
・ 当期の実績
・ 増減の背景や原因についての深度ある分析
・ その他、当期の業績に特に影響を与えた事象
イ) MD&Aにおいて、当期における主な取組みやそれを踏まえた実績の評価を開示するに当たっては、企業が設定したKPIと関連付けた開示を行うことが望まれます。
(2)キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
① 法令上記載が求められている事項
キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容、資本の財源及び資金の流動性に係る情報の開示においては、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載することが求められています。
② 考え方
ア) 企業経営においては、経営方針・経営戦略等を遂行するため、その資産の最大限の活用が期待されています。
イ) 「キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容、資本の財源及び資金の流動性に係る情報」については、経営方針・経営戦略等を遂行するに当たって必要な資金需要や、それを賄う資金調達方法、さらには株主還元を含め、経営者としての認識を適切に説明することが重要です。
ウ) このような説明により、投資家は、以下の点を判断することが可能となります。
・ 企業が経営方針・経営戦略等を遂行するに当たっての財源の十分性
・ 企業の経営方針・経営戦略等の実現可能性
エ) また、上記の情報の開示により、投資家は、以下の点を理解することも可能となると考えられます。
・ 成長投資、手許資金、株主還元のバランスに関する経営者の考え方
・ 企業の資本コストに関する経営者の考え方
③ 望ましい開示に向けた取組み
ア) 資金需要の動向に関する経営者の認識の説明
企業が得資金をどのように成長投資、手許資金、株主還元に振り分けるかについて、経営者の考え方を記載することが有用です。
イ) 成長投資への支出
経営方針・経営戦略等と関連付けて、設備投資や研究開発費を含めて、説明することが望まれます。
ウ) 株主還元への支出
目標とする水準が設定されている場合にはそれも含め、考え方を説明することが望まれます。
その際、配当政策など、他の関連する開示項目と関連付けて説明することが望まれます。
エ) 緊急の資金需要のために保有する金額
金額の水準とその考え方を明示するなど、現金及び現金同等物の保有の必要性について投資家が理解できる適切な説明をすることが望まれます。
オ) 資金調達の方法
資金需要を充たすための資金が営業活動によって得られるのか、銀行借入、社債発行や株式発行等による調達が必要なのかを具体的に記載することが考えられます。
また、資金調達についての方針を定めている場合には、併せて記載することが有用です。
カ) 資本コストに関する企業の定義や考え方
上記の内容とともに説明することも有用です。
(3)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
① 法令上記載が求められている事項
財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、会計方針を補足する情報を記載することが求められています。
② 考え方
ア) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
仮定と実績との差異などにより、企業の業績に予期せぬ影響を与えるリスクがあります。
会計基準における見積り要素の増大が指摘される中、企業の業績に予期せぬ影響が発生することを減らすため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定について、充実した開示が行われることが求められます。
イ) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定に関する経営者の前提
どの様な前提を置いているかということは、経営判断に直結する事柄と考えられるため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、経営者が関与して開示することが重要と考えられます。