経済産業省は、「我が国企業による海外M&A研究会」等における議論の成果として、(1)日本企業が今後、海外M&Aを有効に活用していく上で留意すべきポイントと参考事例をまとめた報告書及び(2)特に経営者目線で重要なポイントを事例とともにまとめた「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」をとりまとめ、2018年3月に公表しました。
1.「報告書」と「9つの行動」
日本企業が今後、海外M&Aを有効に活用していく上で留意すべきポイントと参考事例をまとめた(1)「我が国企業による海外M&A研究会報告書」をとりまとめています。
さらに、研究会等において、海外M&Aに取り組む上では経営者の果たすべき役割やコミットメントが重要であるとの指摘が多くなされたことを踏まえ、今後の海外M&Aの取組に役立つよう、特に経営者目線からみて特に重要なポイントについて事例とともに、(2)「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」として、簡潔で読みやすい形でとりまとめています。
海外M&Aの裾野が一層拡大している中、今後、「報告書」や「9つの行動」の浸透を目指すこととしています。
2.「9つの行動」のポイント
海外M&Aにおいては、経営トップが果たすべき役割が極めて大きくなっています。
海外M&Aを自社の成長に活用している企業の多くは、経営トップ自らが海外M&Aの本質を理解し、統合後の経営イメージを明確に持ちつつゴールから逆算した先手を打ったリーダーシップを発揮するとともに、自ら相当なリソースを投入し、前面に出て関与しています。
特に、買収の実行局面のみならず、その「前」(戦略立案と周到な準備)と「後」(買収を契機としたグローバル成長の実現)に重要性を認識し、統合後の経営まで中長期にわたりコミットしています。
そこで、報告書の内容から、特に経営トップ等が留意すべき点を抽出し事例とともに以下の9つの行動にとりまとめています。
「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」より
(1)はじめに具体的・明確な「成長戦略・ストーリー」はあるか。
海外M&Aありきではなく、まず、中長期の時間軸の中で「目指すべき姿」を明確化する。
そこから逆算して「成長戦略・ストーリー」を策定し、これに沿って海外M&Aを有機的に関連付けて展開する。
(2)「成長戦略・ストーリー」を、経営トップが自ら語り、」社内に浸透させているか。
「ストーリー」実現に向け、海外M&Aの目的を具体化。
プロジェクト・オーナーの責任と権限を明確化し、実行部隊が自分事として一貫して実施していく体制を構築。
(3)ディールに着手する前から、買収企業を「誰が」「どう」経営するか、統合後まで見据えた入念な準備はできているか。
平時から目的に合致する案件を能動的に探索し検討を行う。
統合後の経営まで、時間軸も含めた具体的なイメージをもって、常に先手を打った周到な準備を行う。
(4)買収プロセスの重要ポイントやリスク、その対処方策について、担当者やアドバイザー任せではなく、自ら掌握できているか。
初期の海外M&Aの目的を見失わず、撤退条件を明確化。
「スケジュールありき」や「ディール成立の自己目的化」を回避する。
(5)「ディールの成立」を「M&Aの成功」と混同していないか。
統合により双方の強みを生かす成長を実現して初めて成功。
経営トップの役割はむしろディール成立後に増大。
統合プロセスは、初動が重要。
契約書名で安堵せず、その後の統合に向け、先手を打った行動に直ちに着手。
(6)買収先の経営実態や異変をしっかり把握できているか。
買収先の経営を放任しては、十分な統合効果を実現できず、危機への対処も後手に回る。
買収先の経営の自主性を尊重しつつも、何が起きているのか常にモニタリングし、フォローできる体制を確保。
(7)自社の強み・経営哲学は買収先に共有・浸透できているか。
言語・文化の異なる相手に伝わるように、シンプル・明快なメッセージにまとめ、互いにリスペクトできる関係を構築。
「買う」「買われる」から同じ方向を向いた“We”へ「主語の転換」を図り、双方の強みを生かした成長を実現。
(8)自社の経営・システム・人材は、グローバルに通用するか。
海外M&Aを契機に、グローバルに通用する経営に向け人材育成・社内ルールの見直し等、自己変革に取り組む。
グローバルな視点から自社の強み・弱みを把握し、買収した海外企業の優れたシステムや人材を積極的に取り入れる。
(9)過去の経験・苦労を次に生かす仕組みができているか。
失敗も含め過去の経験・苦労は最良の教科書。
組織として率直に振り返り、教訓・ノウハウを経営トップ以下で共有する。
自社なりの「型」を確立し、平時からの備えをもって次なる海外M&Aにつなげていく。