「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン) (以下、本ガイドライン)」が2020年7月31日に経済産業省から公表されました。
本ガイドラインから「社外取締役の5つの心得」を見てみましょう。
Ⅰ 本ガイドラインの位置づけ
本ガイドラインは、会社法及び東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」(2015年6月1日適用開始、2018年6月1日改訂。以下、「コーポレートガバナンス・コード」)の趣旨を踏まえつつ、社外取締役の在り方(役割と具体的な取組等)について実務的な視点から整理するものです。
本ガイドラインは、基本的に、コーポレートガバナンス・コード及びCGSガイドラインにおける考え方を踏襲し、機関設計を問わず、監督機能の強化を図っていくことが重要であるという考え方に基づいて、社外取締役の在り方を整理しています。
Ⅱ 本ガイドラインの目的と主な対象
1.本ガイドラインの目的
以下の項目を目的としてあげています。
① 社外取締役に対して期待される基本的な役割を明確にすること
② そのような役割を果たすための取組について、社外取締役として経験豊富な方々の経験知に基づくベストプラクティスを紹介すること
③ 会社の持続的な成長に向けた実質的な機能の発揮を促すこと
2.主な対象者
我が国の上場企業の社外取締役を広く対象としています。
3.本ガイドラインの内容
① 社外取締役に求められる具体的な役割や重点は、会社の経営の実態、企業規模や機関設計、委員会の設置状況等のコーポレートガバナンスへの取組状況等により多様であることを踏まえています。
② 本ガイドラインは、基本的な事項も含めて各社に共通すると考えられるものを中心に一般的な提言をまとめたものです。
③ 各社が置かれている状況に応じて、適宜参照されることを想定しています。
④ 上場企業の中でも、「市場や資金調達の面でグローバル化を図り、グローバル競争の中で持続的な成長を目指す企業」においては、グローバル水準のガバナンス体制を構築する必要性が高いと考えられることから、特に、こうした企業の社外取締役においては、本ガイドラインの提言を踏まえ、更なるガバナンス強化を目指し、より積極的な取組を行うことが期待されています。
Ⅲ 取締役の5つの心得
1. 心得1
(1)基本的考え方
① 取締役の役割
取締役の最も重要な役割は、株主の付託を受けて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る観点から経営を監督することです。
その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことです。
必要な場合には、社長・CEOの交代を主導することも含まれます。
② 社外取締役の役割
会社の経営を一義的に担っているのは経営陣であり、日々の業務執行は自律的になされるべきものです。
社外取締役の役割は、こうした経営陣による会社の経営について、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の観点から適切に行われているか評価・確認し、必要に応じて軌道修正を促すことです。
(2)基本的任務
① 資本コストを踏まえた会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の実現という観点から、経営陣の評価が適切に反映されるような報酬制度の設計を行います。
② 少なくとも年に1回、こうした評価に基づいて現在の経営者に引き続き経営を委ねるべきか否かの判断を行い、必要な場合には、適時適切に社長・CEOの交代を促します。
(3)平時における経営陣の評価
① 平時における経営陣の評価については、取締役会や指名委員会・報酬委員会において、中期経営計画等に掲げた経営目標・KPIやインセンティブ報酬におけるKPI 等を踏まえた業績評価を行います。
② 取締役会等における経営戦略に関する議論を通じて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の観点から、経営陣の立案能力や方向性の判断、実行状況やスピード感について評価します。
2. 心得2
(1)基本的考え方
① 会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上をさせるために会社の経営戦略を検討し、決定することは取締役会の主要な役割・責務の一つです。
② 社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛けるべきです。
(2)基本的任務
① 会社の経営戦略を決定する際に、社外取締役は、経営陣の説明をよく聴く必要があります。
② その上で、社内のしがらみにとらわれない立場から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、中長期的で幅広い多様な視点を提供することが重要です。
③ 上記の点は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るという役割を果たす上で極めて重要です。
④ 会社の経営戦略を検討し決定する取締役会のメンバーとして、事業に精通した経営陣と社外の幅広い視点を提供する社外取締役が協働することで、よりよい経営戦略の策定につながると考えられます。
3. 心得3
(1)基本的考え方
① 社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきです。
② 経営陣を監督するという役割を果たし、必要な場合には社長・CEOの交代を主導することも期待されるため、社外取締役には、会社及び経営陣からの独立性が求められます。
精神的な独立性のためには、会社に対して経済的に過度に依存しすぎないことが重要となります。
4. 心得4
社外取締役は、経営を監督するという役割を果たすため、経営陣と適度な緊張感・距離感を保つことが求められます。
実効的な監督を行うためには、率直な意思疎通により社内の状況をよく知ることが重要であり、そのためには、経営陣との間でそれぞれの役割について相互に尊重し合う信頼関係を構築することが不可欠です。
5. 心得5
(1)基本的考え方
会社と経営陣・支配株主等との利益相反が生じ得る場面においては、利害関係者がその判断に関与することは適切ではないため、独立的な立場から社外取締役が積極的に関与し、その妥当性を判断することが期待されます。
(2)利益相反の例
会社と経営陣や支配株主等との利益相反が生じ得る場面の例として、以下のような場面が考えられます。
①MBO (マネジメント・バイアウト)や支配株主による従属会社の買収への対応
②支配株主等との取引
③敵対的買収への対応(買収防衛策の導入や実行等)
④第三者割当増資
上記のうち、「MBO (マネジメント・バイアウト)や支配株主による従属会社の買収への対応」については、取締役や支配株主の利益と一般株主の利益との間の利益相反リスクが特に深刻となり得る場面です。
企業価値の向上と一般株主の利益の確保を図るという社外取締役の役割を果たすため、平時よりも踏み込んだ対応が求められます。
また、「敵対的買収への対応」や「第三者割当増資」等の場面においても、MBO等に近い利益相反リスクが存在し得るため、これに準じた対応が求められると考えられます。
(3)支配株主等が存在する企業
支配株主等が存在する企業においては、支配株主等とそれ以外の一般株主との間に利益相反リスクが存在するため、上記のような取引においては、社外取締役は、すべての株主に対して中立的な立場ということではなく、支配株主等以外の一般株主の利益を確保する観点から判断・行動することが求められます。