経営陣への委任の範囲の分析~「コーポレート・ガバナンス白書2019」より | 社外財務部長 原 一浩
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経営陣への委任の範囲の分析~「コーポレート・ガバナンス白書2019」より

経営陣への委任の範囲の分析~「コーポレート・ガバナンス白書2019」より

「コーポレート・ガバナンス白書2019」(以下、本白書)が東京証券取引所から2019年5月に公表されました。本白書は、我が国企業を巡る近年のコーポレート・ガバナンス改革の進展も踏まえ、分析を行っています。本白書は、関係者が、変貌している我が国の上場会社のコーポレート・ガバナンスの取組状況を概観するための助けとなることを意図して作成されています。

 

「経営陣への委任の範囲」に関する分析結果を見てみましょう。

 

1.経営陣に対する委任の範囲(補充原則4-1①)の概要

 

コーポレート・ガバナンス・コード原則4-1においては、取締役会は、「会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべき」としています。

 

そのうえで、補充原則4-1①は、取締役会自身として何を判断・決定するのかに関連して、経営陣に対する委任の範囲を開示することを求めています。

 

(1)記載内容の分析

 

補充原則4-1①の実施率は99.6%(2,610社)となっています。

 

ほとんどの会社においては、取締役会規則や決裁権限規程等の社内規則において、取締役会自身での決議事項等を定めていて、同補充原則を実施しない会社はごく少数にとどまっています。

 

しかしながら、これまで我が国の会社の取締役会では、基本的な経営戦略や経営計画に関 する事項、監督機能に関する事項を十分に議論してこなかったとの指摘もあります。

 

同補充原則においては、会社の意思決定システムにおける取締役会の役割・責務を明確化することが求められています。

 

多くの会社が社外取締役の複数名選任を進めており、取締役会の経営陣に対する監督機能を今まで以上に強化していく中で、取締役会が果たすべき役割を明確化し、実行していくことの重要性が増しています。

 

(2)キーワード分析

 

同補充原則に基づく一般的な開示例としては、「当社は、取締役会規則を制定し、法令並び に定款に規定された事項のほか、業務執行上の重要な事項について、取締役会の決議により決定しています。」という旨のものが多くなっています。

 

実際にキーワード分析を行うと、「規則・規程等」については80.9%(2,112社)、「法令等」については66.4%(1,734社)、「定款」については51.7% (1,349社)の会社が記載しています。

 

その他にも、「職務権限」については31.9%(832社)、「決裁(決裁権限・決裁基準)」については21.4%(558社)、「付議基準」については5.9%(153社) で記載がみられました。

 

多くの会社が、法令や定款、各種規則、決定権限等に基づいて取締役会の役割・責務を明確化していることが伺えます。

 

また、執行役員制度や経営会議を設置している等として、取締役会と経営陣の役割分担を 明記している会社も一部でみられました。

 

「執行役員」というキーワードを含む会社は30.4%(793 社)、「会議(経営会議・執行役員会議等)」を含む会社は25.1%(655社)でした。

 

コーポレート・ガバナンス・コード上、取締役会において判断・決定すべき項目とされる「経営戦略」「経営計画」等をキーワードとして含めている会社数は、「戦略(経営戦略等)」が11.4%(297社)、「計画(経営計画・ 事業計画)」が18.2%(474社)でした。

 

法令や定款、各種規則等をキーワードとして含めている会社数に比べると少なく、取締役会の具体的な決定事項まで踏み込んだ記載を行っている会社は一部であることが伺えます。

 

2.個別の開示事例の分析

 

個別の開示事例をみていきますと、まず<事例1>は執行役員制度の導入による、監督と執行の分離について言及すると共に、取締役会が決定する事項について具体的に記載することで、取締役会の役割・責務が会社の全体的な考え方を含めて明確化されています。

 

<事例2>のように、経営会議について、設置の狙いや出席者の役職等について開示を行っている会社もあります。

 

<事例3>は具体的な社内規程を明記している事例です。

取締役会の決議事項、代表取締役等への委任事項について、金額基準を含めて詳細な基準を公表しています。

具体的な数字基準を明らかにすることで、株主・投資家等に対して取締役会と経営陣の役割分担を明確に示しているといえます。

 

<事例4>は取締役会において、経営戦略や長期ビジョン、あるいは経営全般に関わるテーマについて自由な意見交換を行う「戦略・ビジョン討議」を行っている旨を記載している事例です。

「ビジョン」に言及している会社は17社(0.7%)にとどまっていますが、そのなかでも、同社は積極的に経営戦略や長期ビジョン等について取締役会が関与していこうとする姿勢がみえる開示です。

 

<事例1>

当社は、執行役員制度を導入して監督と執行を分離することにより、取締役会は独立した客観的な立場から、実効性の高い監督を行います。

取締役会は、当社グループの持続的な成長と中長期の企業価値向上を達成するために、経営の基本方針、経営戦略、中期経営計画、年度経営計画、資本政策等の経営重要事項を決定し、経営陣に具体的な業務執行を委任します。

取締役会は、法令で定める事項および重要な業務執行の決定を除き、経営会議に対し、個別の業務執行についての決定を委任します。その区分については、社内規程によって明確にします。 (水産・農林業)

 

<事例2>

当社は、経営の意思決定・監督機関として株主から付託を受けた「取締役会」、取締役会の決定に基づき業務執行の意思決定を行なう「経営会議」、業務執行を行なう「執行役員制度」を設け、経営の意思決定・監督と業務執行の分離を行なっています。

当社取締役会は、取締役会の迅速かつ機動的な意思決定と企業経営の実現、取締役会による取締役等経営陣への監督強化を目的として、法令上取締役会による専決事項とされている事項以外の業務執行の決定の一部を取締役会から経営会議に委任しています。

当社経営会議は、業務執行上の機関として設置され、取締役会から委任を受けた上記事項につき、組織的かつ迅速な意思決定を行います。

経営会議は、取締役社長、在京の業務執行取締役、国際事業部長、工事統括部長、企画ユニット長、管理ユニット長により構成されます。 (建設業)

 

<事例3>

(中略)社内規程(稟議規程)においては、例えば、2億円超の建物設備の改築等、什器備品・車両の購入等、重要かつ多量の営業資産の購入・廃棄等、LPガス営業権の買収等については取締役会の決議事項、2億円以下のそれらの事項については金額に応じて代表取締役その他機関の決定事項としております。

また、3000万円以上の不良債権の償却整理・債務免除、補償及び損害賠償、債務保証・担保差入等については、取締役会の決議事項、3000万円以下のそれらの事項については、金額に応じて代表取締役その他機関の決定事項としております。 (卸売業)

 

<事例4>

取締役会は、当社の中枢的な意思決定機関として、当社グループの経営に係る基本方針と最重要案件の審議・決議を行っています。

取締役会は定例としては年10回程度適切な間隔を置き開催し、例えば、経営計画の策定や大型投資の決定、各事業年度の予算承認、四半期決算承認について決議を行っています。

また、経営戦略や長期ビジョン、あるいは経営全般に関わるテーマについて社外取締役・社外監査役を交えて自由な意見交換を行う「戦略・ビジョン討議」を行っています。

また、取締役会規程にて付議基準を定め、取締役会にて決議する範囲を定めています。(中略) (海運業)

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