1.OKRの基本的な考え方と特長
(1)基本的な考え方
OKRは「Objectives and Key Results」の略で、「達成すべき目標と目標達成のための主要な成果」とされています。
OKRという考え方は、「MBO(目標管理:Management by Objectives and Self Control)」という管理方法をより効果的にするために、「目標(Objective)」と、その目標の達成度を測る「求められる主要な成果(Key Result)」を取り入れようという考えからはじまったとされています。
目標と測定可能な結果をリンクさせ、達成度を測ろうとするOKRは、「目標の数値」を達成するためにはどのようなプランが必要か、達成できなかった場合の問題は何かなど、より論理的な思考に基づくことでビジネスを行いやすくすることができるとされています。
(2)3つの特長
OKRには、従来の目標管理方法と異なる、3つの大きな特長があります。
① 目標設定の方法
OKRでは、まず組織全体やチームの大きな目標を掲げ、その目標に紐づいた複数の中規模・小規模な成果を「個人(またはチームなどの下位組織)の指標」として設定します。
こうすることで、企業・チーム・個人の方向性を統一し、具体的に取り組むべきタスクの優先順位を明確にすることができます。
② 評価のスパンとレビュー頻度
従来の方法に比べて評価のスパンが短くレビュー頻度が多くなっています。
③ 求める達成度と評価
求める達成度が100%ではなく、また、個人の評価(報酬)と切り離して考えます。
(3)階層イメージ
下記の図はOKRの目標設定方法を表した図です。
まず会社組織全体として達成すべきゴールが掲げられ、その下に部署・チーム単位、個人単位の目標と成果がぶら下がります。
このようにOKRは、ひとつのO(目標)に対し、複数のKR(主要な成果)が紐づく形で成り立っています。
2.OKRの目標設定・評価方法
(1)目標設定の方法
OKRのObjective (目標)とKey Results(目標達成ための主要な成果)は、下記のように設定します。
① Objective (目標)
・定性的な目標であること
・組織全体の意識を高め、社員全員が高揚するような高い目標であること
・簡単すぎる目標は避け、達成度が60~70%程度となること
・1カ月~四半期で達成できる目標であること
② Key Results(目標達成ための主要な成果)
・定量的な指標であること
・1つのObjectiveに対し、2~5個程度のKey Resultsを設定すること
・「ベストをつくせば達成できる」くらいの負荷がかかる、達成可能性50%程度の難易度である目標であること
(2)評価の方法と頻度
①OKRは、1カ月~四半期ほどの短期間でレビューを繰り返し、目標の見直しや評価を行うことが推奨されています。
②評価の方法は、会社・組織によって異なりますが、達成度をスコアリングする方法が一般的です。
ひとつひとつのKR(Key Results)に対して、達成度を0~1.0の点数や、%で採点し、その平均点をO(Objective)のスコアとします。
③運用のなかで、決定した目標や評価を社内で共有し、各々の役割や進捗状況を明確化することもOKRの特長です。
これらの特長から、OKRは組織内のコミュニケーションを活発化させ、同じ目標を皆で達成することによる一体感を高める効果もあるとされています。
(3)達成度の期待水準
OKRが他の目標管理方法ともっとも大きく異なる点が、目標に対し、60~70%の達成度を成功とみなすことです。
OKRは、OKRの達成度と個人評価(報酬)と切り離して考えることが基本のため、社員一人ひとりの目を組織全体の「高い目標」に向けさせることができます。
3.OKRの運用方法
OKRを活用すると、組織の目標や達成すべきゴールが明確になり、個人のモチベーションアップにも役立つとされています。
(1)OKRの目標設定方法
OKRを作成する際は、まず「目標(Objective)」を決め、それに付随するいくつかの「求められる主な成果(Key Results)」を考えていくと、比較的スムーズに作成できます。
OKRは、1ヵ月や3ヵ月などと期限を決めて、目標とその達成度を測る指標を決めるという形で導入されることが多いようです。
「目標」を決める際には、定性的な「業績をアップさせる」といった目標でも構いませんが、OKRとして運用する場合は、数値で測れる定量的な指標=Key Resultsを設けなくてはなりません。
まず、会社全体としてのOKR、そして部署ごとのOKRを決めていくといったように、トップダウン式に決めていくと効率よく決めることができます。
各部署のOKRを決めるときには、会社全体の「Key Results」とリンクするよう、決めていく必要があります。
重要な点は、各部署のOKR達成が、会社のOKR達成に直結しているかどうかです。
会社全体が一つの目標に向かって進めるような体制を整えることで、一体感が生まれてゆきます。
(2)OKR作成の5原則
OKRを決定する際に重要なのは、目標の具体性や達成可能性などです。
その目標設定に必要な要素を簡単に説明したものが、「SMART」です。
「SMART」は、1980年代にジョージ・T・ドラン氏が発表したもので、以下の要素の頭文字をとって命名されています。
・明瞭であること(Specific)
・測定可能であること(Measurable)
・達成可能であること(Attainable)
・関連性があること(Relevant)
・期限があること(Time-bound)
(3)OKRの導入・運用方法
OKRの導入・運用の手順の例になります。
①企業(組織全体)OKRの設定
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②チーム(部署)OKRの設定
⇓
③個人OKRの設定
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④週に1度、短いミーティングを行い、進捗を確認
今週の優先事項、達成の自信度、阻害要因などを確認し、1週間のKRをコミットします。
「チェックイン・ミーティング」といわれる場合もあります。
⇓
⑤週に1度、チームで成果を報告
小さな進捗でもよいので、1週間の成果を発表しあいます。
「ウィン(Win)・セッション」といわれる場合もあります。
⇓
⑥全体レビューを行う
わかりやすい成果を設定していることが特長のため、評価に時間をかけすぎないこともポイントです。
⇓
⑦次の四半期に向けて①にもどります
4.OKRのメリット・デメリット
下記のようなメリット・デメリットがあるとされています。
(1)メリット
①企業全体の目標と、個人の行動がリンクする
②従業員の組織に対するエンゲージメントが向上できる
③やるべきことの優先順位が明らかになる
④人事評価と切り離すことで、大きな目標に挑戦しやすくなる
(2)デメリット
①従業員数が少なく、1人がマルチタスクを求められる環境では機能しにくい
②短期間でのレビュー・見直しなどの運用が重要な手法のため、その時間がとれない企業では機能しない
③高い目標を設定するぶん、未達成のストレスがかかる可能性も高まる
短いサイクルで目標を更新・管理していくことを考えると、マネジメント部門の体制に余力があることが重要と考えられます。
5.OKRの課題
OKRのよくある課題です。
①週ごとのフィードバック、四半期ごとの設定が運用しきれない。
②最初からフレームワークの整合性を気にしすぎ、現実ばなれした設定をしてしまったり、設定に時間をかけすぎたりしてしまう。
③マネージャーや管理部門の理解が追い付かない。
④部署や職種によっては、定量的なKRが設定しにくい。
OKRは、はじめて導入する企業は「たいてい失敗する」というほど、最初から完璧な運用はむずかしいといわれています。
理想のフレームワークにとらわれすぎず、自社の事情に合わせてカスタマイズやブラッシュアップを繰り返しながら、柔軟に取り組むことが導入成功につながります。。
6.OKRが失敗する理由・原因
OKRが失敗する主な理由・原因を3つ紹介します。
(1)大もとの会社の目標がずれている
チーム目標や個人目標の大もととなるのは、会社の目標です。
目標を立てた時点では時流やビジネス環境にマッチしたものであっても、業界によっては変化のスピードが速く、すぐに陳腐化してしまう場合があります。
ずれてしまった目標を達成するために、紐づく目標を立てても意味がありませんし、モチベーション低下にもつながりかねません。
会社の目標を、最低1年から数年間以上の期間、変えない企業もあるかと思いますが、現実との間でズレが生じた場合は、すみやかに修正する必要があります。
(2)KR(定量的な目標)を感覚値で設定してしまう
定性的なO(Objective)に対し、KR(Key Results)では、具体的な数値で目標を定めます。
KRを設定するとき、仮説検証を行わずに、なんとなくの感覚値で決めてしまうと、目標が高過ぎる・低過ぎるといったことが起こってきます。
高過ぎる・低過ぎる目標設定も、やはりモチベーション低下につながってしまいます。
KR設定に当たっては、現状の分析や仮説検証を行い、合理的な根拠のある数値に設定する必要があります。
(3)OKRを人事評価・報酬と連動させてしまう
OKRの達成率を、直接的に人事評価や報酬と連動させてしまうと、個人目標を立てる際に評価の低下を恐れて保守的な目標設定しかできなくなる従業員が増えてしまいます。
OKRでは、KRは達成可能性50%程度の難易度で立てることが一つのポイントとなります。
高い目標を立てて、達成のために意欲高く行動するためにも、人事評価や報酬との連動は一部分のみにとどめる必要があります。